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そしてハンナは僕の右手を取って、人差し指の先をカリッと甘噛みした。それは凄く懐かしい、そう、懐かしい記憶。 |
細い灰色の金属の棒でできた檻。 |
そこに居るのは茶色、いやアグーチカラーのネズミのような動物。等身が低くて丸い顔が可愛らしい。 |
檻に指を入れると、その動物が寄ってきて、あごの下を掻けと催促する。小さな小さな小枝より細いその指で、生意気にも僕の指を掴んで誘導する。 |
その動きに逆らわず、僕があごの下を掻いてやると、いーーーーっとオレンジ色の前歯を見せ、片手を上げて、目をつぶり、気持ち良さそう。 |
しばらく掻くとお返しに僕の指を甘噛みして…… |
……ハンナが僕をじっと見ている。唐突に映像が切り替わったことに気づく。 |
ハンナは僕の右手を持ったまま。 |
あぁ、あれは、《《前世》》《《の記憶》》? |
僕は、一瞬《《前世の記憶》》に飲み込まれた? |
ならば。 |
あぁ。 |
ハンナは……。 |
僕の前世と関係がある人なのだろうか? |
右手を持ったまま上目遣いに僕を見るハンナ。思わず右手であごの下を掻いてしまう。すると、ハンナは《《記憶》》と同じような顔をした。気持ちよさそうな顔。 |
口は半開きで、眉根を寄せて、目を閉じて、まぁ女の子としてはどうかと思う顔だけど。 |
状況を思い出して周りを見ると、皆さんがじっと僕らを見ていて。アラン様は「預言かよ、やべぇ」とつぶやいてる。ハンナに何か他に秘密が? |
「アラン様。サウル様も皆様も困惑されています。状況の説明をお願い致します」 |
アラン様の後ろに立っているセレッサ様が、前屈みになってアラン様に呼びかけられた。 |
何故か偵察の人が目を見開いてアラン様の方を見ている。ん? セレッサ様の方かな? |
「……あぁ。だけどよ、お前らにはわりーが、今は言えねーんだわ。すまんが確証がない。サウルに秘密があるようにハンナにも秘密があるんだわ。サウルのを教えて貰っておいてハンナのを言わんのは、ほんとわりーんだが、ちと勘弁してくれ。そのうち言えるようにするからよ」 |
神官様は、良く分からない、という顔をして首を振る。しかし神官様は50を超えてる筈なのに、一つ一つの振る舞いが若いなぁ。 |
「アランがそう言うなら構わないよ。私にも言えないと言うことは、それなりの訳があるのだろうし。それはそれとして、サウル。少しは雰囲気もほぐれたようだが、これで納得いったかな?」 |
「はい、神官様。なんとなくですけど。でも多分、大丈夫です」 |
一度、周りを見渡してみた。皆さん、嫌な感じはしない。多分。大丈夫。 |
ハンナが僕を必死に見ていた。多分、勇気づけているんだと思う。僕より力が入っていてちょっとおかしい。 |
「僕は皆さんを信じますし、僕も皆さんから信じてもらえるように頑張ります。正直、納得のいかない部分もあります。前世のこととか。でも、今はどうにもならないんでしょうね。きっと」 |
「そうだね。前世持ちは大きな力を持つことも多いが、その前世故に様々な運命の渦を巻き起こす。前世持ち故に身を持ち崩すことも多いらしい。参考になるか分からないけど、前世持ちの話が載った説話集でも取り寄せて見ようと思ってる」 |
「ありがとうございます。頑張って御恩を返せるように努力します」 |
「んー、私はサウルの泡倉を研究させてもらえば十分だけどね。まぁそれはそれとして。サウルは一端神殿預かりの孤児ということにしようと思う。そして手の空いた人間で育成をしていこう。体が出来上がってないから、まずは術系からになると思うけど」 |
「へぇ、戦士団預かりじゃねーのか? あ、貧弱すぎて無理ってか?」 |
と、アラン様。確かに、将来的に神殿に仕えるならその方が良いよね。しかし神官様は首を振る。 |
「戦士団預かりも考えたんだけどね、試しの結果を見て、まずは神殿預かりが良いかな、と思ってね」 |
「なるほどな。てーことは、3年後が楽しみだなー?」 |
「そういうことになるね」 |
僕には良く分からなかったけど、僕とハンナ以外は意味が分かったみたいでニコニコしていた。ちょっと怖い。 |
「そういうわけで、サウルは明日から忙しくなるよ。コミエ村神殿の総力を挙げて訓練するからね」 |
「おいおい、子供だって事忘れるなよ。頭でっかちな奴は大人になってから苦労するぜ?」 |
「はっはっは、アランが言うと説得力があるね。分かった、ちゃんと気をつけるよ。ところで聞くのを忘れてたけどアランの予定は?」 |
「そうだな、しばらく厄介になるぜ。サウルを借りるかもしれん。あ、安心しろよ、ちゃんと返すからよ!」 |
アラン様、最期はまた大笑いして咳き込む。 |
僕の居場所はしばらくこの神殿。皆さん良い人達ばかり何だと思う。だから皆さんを失望させないようにしなきゃ。頑張る。 |
それに。 |
ハンナ。 |
……、うん、頑張ろう。 |
【タイトル】 |
015 修行開始 |
【公開状態】 |
公開済 |
【作成日時】 |
2017-07-06 17:12:21(+09:00) |
【公開日時】 |
2017-07-06 17:12:21(+09:00) |
【更新日時】 |
2017-07-06 17:12:21(+09:00) |
【文字数】 |
3,947文字 |
【本文(94行)】 |
その後の話は僕の試しの様子になって、アラン様が実際に見て見たいとおっしゃって。その場で腰掛けたまま、四拍呼吸を少し行ってみた。さっきより、金の霧が明るくなってる気がする。探索の人は、試しの時には村の外に行ってたからびっくりしてた。 |
神官様と奥様は顔を見合わせていたから気づいているかも知れない。 |
「サウルのエーテル、明るさが増しているね。それと、目を開けてできている」 |
「セリオ、そりゃ術者なら当たり前だろ?」 |
「アラン、君、忘れてる。サウルが四拍呼吸をするのは今日が初めて」 |
「ギャハハ! さっきの今でもう進歩してるってか? たまらんな、おい」 |
その後、明日手空きの人で僕の泡倉に行こうという話になったんだ。泡倉の中はエーテルが濃かったので、修行が捗るとか何とかで。 |
そうこうしているうちに良い時間になったので、夕食とお風呂の準備にかかることに。今日は気温が28度だそうで。真夏に近い温度だってロジャーおじさんが言ってた。確かに戦士様は暑そうで、汗を拭いたりしていたよ。 |
水を汲むために井戸に向かうと、戦士様や見張りの人もついてきた。試しに闘気法使いながら作業しなさいと。体に負荷を与えるから成長にも役立つはず、と。これも修行の一環と言われたらやるしないよね。 |
四拍呼吸を一度回して魂倉からエーテルを回す。体の中に充填して……、とやっていると止められちゃった。もっと弱めで良いんだってさ。余りエーテルが濃いと長く続けられなかったり、体に悪い影響があるから、と。 |
となると、試しの時に使ったのは、1分で1%だったんだから、もうちょっと絞れば良いのかな? 1分で1%以下というのは実感がわきにくいから、3分で1%に刻んでみよう。その感覚が何故分かるのか。また嫌な気分が湧いてきそうになったけど、押さえた。 |
四拍呼吸すら回さずに、深呼吸一つ。呼吸をしながらほんの少しだけエーテルを取り込むようにしてみる。そしたら長く動いても魂倉が息切れしなくて済むんじゃない? |
最初は息をするだけでエーテルを取り込むのが上手く行かなかったけど。しばらくすると上手く行くように。次に桶を持っての動作と魂倉管理とエーテルの循環と呼吸と行おうとしたらバランスが崩れて、エーテルの霧が全身から吹き出してしまった。 |
見張りの人が |
「初日で呼吸法に気づくのは凄いな。でもさすがに使いこなせないようだから、最初はもっと組み合わせを減らしてご覧?」 |
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