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「サウル! 泣かしちゃ駄目でしょ!」
 皆に怒られちゃったよ。おかしい! ハンナが先に仕掛けてきたんじゃないか! 不公平だ! だけど、ハンナがぐすぐすしてると、なんか僕も悲しくなって来ちゃった。ハンナみたいに泣いたりしないけど、ちょっとだけ鼻がむずむずした。ずずっと鼻をすすると、皆がニヤニヤして腹が立ったよ。ほんと。僕はハンナみたいな泣き虫じゃないもん!
【タイトル】
017 泡倉と修行2 四大術と神術の検証
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-07-18 22:27:36(+09:00)
【公開日時】
2017-07-18 22:27:36(+09:00)
【更新日時】
2017-07-18 22:27:36(+09:00)
【文字数】
3,980文字
【本文(127行)】
 しばらく休憩してもハンナの機嫌が直らなかったので、とりあえず四大術の練習をしようと言うことになったんだ。
「よーっし、この天才アラン様がしっかり教えてやるから、ありがたーーく聞けよ! 四大術の場合はよぅ! 参照、変化、創成、削除に術の機能を分類できんだよ。参照つーのは、相手の情報を読み取ること。これは基本中の基本な。まぁこれも奥深いんだけどよ。可愛い子とお話しするにも、相手の観察が重要だろ? そういうことだ」
 セレッサ様がアラン様の後ろで笑ってる。なんでだろ?
「んで、変化は、対象の属性に変化を与える事だ。例えば、炎に更なる火属性や風を追加することででっかい炎にするってな具合よ。んで創成は物質や現象を生み出すことな。で、削除は対象を消す。まー、物質の削除ってのは基本的にできねぇからよー、霊的な構造をぶち抜いて結界壊すとかそういう感じで使うわけよ」
 神官様が不思議そうに
「アラン? 私はそっちのほうは良く分からないんだけど、呪文の使い方とか霊的センターの使い方とかそういう話はしないのかい?」
「それも大事なんだけどな。まずは実例を、と思ってよ。そもそも、呪文なんざ象徴とイメージのリンクができてねぇとクソほど役に立たねぇからよ。霊的センターの話は今からだ」
 アラン様は赤と黄色の派手派手マントを翻してこっちに向き直る。わざとバサーっと音を立ててるなぁ。どんな意味があるのか……。無駄に自慢げだし。
「おい、サウル。泡倉は把握できてると思うけどよー、霊的センターは幾つか分かるか?」
「えっと。仙骨の下に地が、泡倉のちょっと上に水、胃の背中側にある神経の塊の辺りに火。喉に風で、つむじの辺りに空、ですよね?」
 僕が答えると、アラン様は一瞬目を見張り、上を見上げて笑い始めた。
「ギャハハ! おいおい、ホントかよ?! やるじゃねぇか! おいサウル、場所はともかく、属性までなんで分かった?」
 あ、そういえば、何でかな? 四拍呼吸してエーテルを回してたら自然と……。《《誰か》》が教えてくれた感じ?
 あ、四大術の出し方、《《思い出した》》気がする。
 途端、体が? いや、心が勝手に動き出す。止まらない。止められない。目は見えているが見えず、音は聞こえているけど聞こえない……。
 体内のエーテルを魂倉に。次はそれを引っ張り出して霊的センターを巡らせて《《属性の色で染める》》……。染めるために霊的センターの背後にある、膨大な観念の世界から諸力を降ろす。属性混合は後。《《こっちでは》》初めてだから簡単に。単純な創成にしよう。何を作る? ……そう、水にしよう。桶から台所の水瓶に注ぐイメージ。《《属性に染めた》》エーテルを僕のイメージで方向性を付ける。膨大な水のイメージに満たされたエーテルを僕のイメージに絞りきる。
 《《僕の外》》では、体から溢れたエーテルが、周囲を透明な青く染める。28度ほどだった気温が25度に。視界の隅に表示されたのは、ロジャーおじさんが気を利かせてくれたのかな?
 右腕を前に差し出して手のひらを下に向ける。ざばっと水がこぼれて、僕の足元に水たまりを作った。丁度、桶一つ分の水。成功だ。
 そこで正気に返った僕は周りを見渡した。なんかやっちゃった気がする。
「す、すいません。なんかできるような気がして……」
「……おいおいおい、マジか、サウル!」
「ご、ごめんなさい!」
「ばっか、逆だ逆! お前すげーよ、マジすげー。きれーな発動だったわ。マジ。概念や象徴の事も知らねぇはずなのに、きれーにエーテルをイメージで制御しやがった。これが前世持ちってことなんかな? いや、マジスゲー」
 神官様が言葉を挟む。
「アラン、次はどうする?」
「いやセリオ、もう説明すべき事はサウルの魂が《《分かってる》》みたいだからよ。後は簡単な術のバリエーションを見せてどれくらい再現できるか、現状を把握するくらいだわな。まぁ後は、漏れが無いかどうか、後で《《マリ婆さん》》に確認して貰えば良いさ」
「おい、アラン。死んでも知らんぞ」
「けっ、あんなロートルにこの天才が負けるかよ」
 アラン様が、基礎的な術を見せてくれた。
 火や水、土、風を出す術。火を変化させて矢にし、打ち込む術。土と水で泥沼を作る術。泥沼から、きれいな水だけを取り出す術。その水をお湯にして投げつける術。軽く投げたナイフをおそろしい速さで突き立てる術。
「よし、サウルやってみろ」
「え? いきなりですか?」
「けっけっけ、大丈夫だ。これくらいなら失敗してもヤベェことになんねぇからよ」
「で、できるだけやってみます」
「わーい、サウルがんばれー!」
 あ、ハンナ機嫌直ったんだ。
 よし、やってみよう。
 魂倉はロジャーおじさんに任せて、エーテル管理に集中する。
 それぞれの物質を出すのは、余り難しくない。火は竈で知ってる。水は井戸。土は畑で、風は……。風は……。《《台風?》》 家も壊れるなんてね。これは凄い。これを使おう。
 ちょっと風が強すぎて、広場周辺の大木が何本か折れたけど、続けてみよう。大丈夫、みんなには被害はないようにしたから。
 火を作って……。変化。矢、……を5本! と念じると、エーテルが多めに減ったけど、気にせずに! 《《雷のように》》早く飛べ! 本物の雷のような音がドカドカドカン!! として、目標にした岩は粉々に。岩の欠片がいくつも真っ赤になってるから、火の効果がちゃんとあったみたいだね。良かった良かった。
 次は、泥。よし!
 良い事思いついた!
 ええっと、水を多めに出して、土をかき混ぜて泥沼に。ここまでは見本と同じで。ここからは僕のオリジナル!
 泥沼に火を加えるよ。火を泥沼全体に加える。強烈に。全力で!
 次の瞬間、凄い蒸気が泥沼から上がった! やったね! 昨日のお風呂みたい! よーし、もっと行くぞ! ハンナも大騒ぎだし!
 ガンガン火を活性化していくと、沼が赤くなってきて、しばらくすると沼がボコボコ音を立て始めた。すんごい暑いよ。前、鍛冶屋のアニタの工房を見せて貰った時みたい!で、これをちょっと取り出して、投げれば……。
「お、おい、サウル! ちょっと待て! 止めるんだ! 周りを良く見ろ。火事になるぞ」
「え?」
 ……。
 確かにちょっとあぶないですね。火の沼は戻します。ごめんなさい。
「お、ちゃんと戻せたか。やるじゃねぇか! こういうのは出すより戻す方が難しいんだけどよ。ったく、このガキと来たら……。四大術の初歩教室はこれくらいにしとくぜ。まぁ……」
 アラン様が僕の顔をじっと見て
「いやなんでもねぇよ。ガキはガキらしく精進しな。魂倉の消耗はどうよ?」
「え、えーと、大丈夫そうです」