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【更新日時】
2018-08-23 18:56:34(+09:00)
【文字数】
2,388文字
【本文(95行)】
 ブレンダンさん達と別れて、外に出る。向かうのは冒険者組合。
 日も高く、気温も上がってきたね。28度を超えて湿度もそこそこ。
 露店で果物とチーズと焼き串10本。水は飲み放題だから果物を半分食べて半分水袋に。チーズは保存食を兼ねて。焼き串は3本がお腹に収まり、残りは泡倉に。泡倉も暑いから悪くならないように気をつけないと……。
 何度かコウタロウさんの記憶にある術理具を真似しようとしたんだけど、まだ上手く行かないんだよ。今は二重にした箱の間に氷を詰めて冷やしたい物を入れているんだ。
 中身の管理は、手の空いたハイエルフさんに頼んでるんだ。今は術理具じゃなくて単に氷を詰めてるだけなので調整が出来ないのが悔しいなぁ。
 ……おっとっと。今研究始めるわけにはいかないね。
 しかし、僕の金銭感覚も変わってしまったよ。都会で僕、汚れちゃった……。果物もチーズも焼き串も、そこそこする。以前の僕の食費の基準は5クレ。今買ったのは120クレ。
 歩きながら泡倉管理人のセニオとお話。木をそこそこの大きさのものを1本、術理具に利用しやすい石と水晶を一抱え。枝珊瑚を一本。渡したときに、新品に見えないようにお願いしておく。
 そこは僕じゃ無くてセニオに指摘されてなんだけどね。また配慮が足りないってお説教されちゃった。ほんとセニオは口が悪い。わーっと罵倒するんじゃなくて、蛇が巻き付くようにチクチク言ってくる。セニオが僕に反対することは滅多に無い。無いんだけど、やっぱりちょっと苦手だな……。
 セニオとのお話は時間が圧縮されるんだ。僕はずいぶん長く話してた様に感じてたけど、実際にはほんのちょっとしかかかってないよ。その証拠に、ほら。右下を見ればバスカヴィル商会の建物が見えるからね。
 冒険者組合の近くに行くと、明るい茶色のマントを着けた人が建物の壁際に立っていた。フードを付けているのではっきりしないけど、多分女性だと思う。裾からのぞくブーツは女性物。
 マントは、猪でも剥いで作ったのかすごく地味な色合いでアグーチ、いわゆる野生色というやつ。女性が身につけるには地味だと思うのだけど、とても丁寧に扱ってるんだろうね、ツヤツヤしてた。その色合いが何か僕の心の扉を開ける気がする。何か見覚えがあるような。
 僕が話しかけようと一歩足を踏み出す前に、女性に声をかける人達がいた。
「おうおう、そこの地味マントねーちゃんよぉ、マブイ顔してんじゃんかよ。ちょっと俺たちと茶でもしばかんか? あ? お?」
「アニキ、マドモアゼルはフードを被ってるから顔見えないようですが?」
「うっせーぞ、俺様の心の目が見せてんのよ。こいつぁハクい! ってな!」
 頭悪そうな色黒の兄ちゃんと、糸目ハンサムのお兄さん。冒険者かな? ならず者かな。どっちにしてもこの辺りじゃ見かけない人、だね。色黒さんはコミエ村の重戦士パストルさんと同じ、南の大陸から来た人だと思う。
 僕もアレハンドロに来てからおおよそ2ヶ月。それなりには出歩いたんだ。だから自分のテリトリーでどんな人が居るかは見ておいたつもり。厄介そうな人は特に、ね。
 さて、組合の中に誰か居たら、追っ払って貰おうかな。
 
 野生色のフードを女性が取ると、中から現れたのは夕べ見た少女だった。少女は僕を見て輝くような笑顔をして、僕の方に走ってきた。
 お兄さん達を居ないかのようにして。
「お久しぶり」
「え? ええと、夕べ会った人?」
「そう! 私のこと思い出した?」
「あ、いや、それは……」
 ええ、どうしよう? 僕を助けてくれたのは、置いてけぼりになっていたお兄さん達だった。
「おうおうおう! そこの兄ちゃんよ。その姉ちゃんは今俺たちと楽しくお話ししてたんだ。ちっと引っ込んでてくれるか? お?」
「話し、ですか? あなたが一方的にまくし立てるのは会話じゃ無いですし、私は全く楽しくなかったですけど?」
 あー、お兄さん方怒ってる! 怒ってるよ! ええと、どうしよう。四大術を市街地で使うのはまずかったよね。ええと。
「あぁ? 姉ちゃん、ちっと下手に出てりゃ調子に乗ってんじゃねぇぞ? あ?」
 気がつけば、糸目のお兄さんは僕たちの後ろに回り込もうとしてる。
 色黒兄さんが彼女に手を伸ばし……
 彼女の肩を掴もうとしてる手を僕は掴んだ。彼の腕は僕より二回りは太い。もちろん腕力も全く違う。
 が、僕は色黒兄さんの腕をしっかり握りしめ、止める。
「あーー?」
「や、やめてください。か、彼女嫌がってます」
 威圧感たっぷりの大きな声に、思わずどもってしまう。
 しかし、僕の周囲には黄金のエーテルがうっすらと漂う。加減無しの闘気法は《《色黒》》の腕を逃がさない。
 怖い。
 ゴブリンとは全く違った怖さ。
 だけど、僕は引かない。
 戦いの空気が鼻の奥をつんと刺す。
 《《やるしかない》》。
 僕が《《覚悟》》を決めたとき。
「おい、そこまでにしとけ」
 黒剣団のゴードンさんが居た。その後ろには他のメンバーもいる。
「んだー? 田舎冒険者が俺たちにたてつくってーのかよ? あ? 俺たちはな!」
「アニキ、《《それ以上はいけない》》」
「ちっ」
 糸目のお兄さんに引っ張られるようにして、二人は領主の館の方に去って行った。
 途端に手足がブルブルと震え始める。息も荒く、エーテルは消し飛んだ。
「ふーーーふーーーー、ゴ、ゴードンさん、皆さん有り難うございました。助かりました」
「……ありがとうございました」
 僕と少女が黒剣団の皆さんに礼を述べると、野次馬の人達も解散していく。
「組合にでも駆け込むかどうかすべきだったと思うぞ」
「す、すいません。気が動転してて」
「マスターがあんな奴らに負けるはず有りません!」
 え?
 僕は、彼女の強い勢いより、《《マスター》》という単語に驚く。
 僕は思わず少女の顔を見つめる。
 この顔は、ひょっとして?
「……事情があるようだな。新人、彼女を連れて組合の休憩所に行け。俺たちもすぐ行く」