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 ブラス兄が僕を上から殴ろうとすると母が叫んだ。
「もう止めて! 兄弟の最期なんだから! もう止めて……」
 ブラス兄が拳を振り上げたまま泣いてた。気がついたら三人でワンワン泣いてた。
 でもなんだか、久しぶりにスッキリした気がした。
 しばらくして、ブラス兄が僕の上から降りると、涙と鼻水でぐずぐずの顔をした母が、皮の小袋を持ってきた。
「何かの時に役立てなさい」
 渡された皮の小袋を開けてみると、銅貨が3枚入っていた。家族4人で一食20Cだからおおよそ15食分だ。うちにとっては大金。
「母さん、これは?」
「いざって時のために、父さんにも内緒で貯めてたお金よ」
「でも……」
「いいから」
 結局受け取ったよ。これは断れない。そろそろ行くかと荷物をとると、ブラス兄がふくれっ面でやってきて、僕の肩に手を置いた。どうでもいいけど、ブラス兄、鼻水垂れてるよ。
「俺は何も上げられない。だから、何か有ったら俺を頼れ。兄としての命令だぞ」
「……分かったよ」
 いつもの腕組みポーズで威張ってたが、その顔じゃしまらないね。と僕が言うと、お前の顔も酷い。と言い返された。
 見かねた母が布を水で濡らして持ってきて、僕の顔をゴシゴシと拭いてくれる。
「じゃぁ……。そろそろ行くね」
「またな、サウル」
「サウル、良い子にしてるんですよ」
 二人の視線を振り払うように、僕は家を出た。
 丁度夜の鐘が鳴る頃で、空は綺麗な夕日。
 大きな荷物を持った僕は村の中を通る。村の人達が僕を見るけど、声をかけてこない。
 この村では皆知り合いだ。だから何となく皆何が起こったか分かってるんだろう。
 神殿に着くと、見張りの人が僕を迎えてくれた。まるでお客様を迎えるように敬礼してくれたんだ。
「ようこそサウル君。神殿と戦士団は君を歓迎する」
 そうして僕は、新しい生活を送ることになったんだ。
【タイトル】
009 新しい家
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-06-18 13:12:26(+09:00)
【公開日時】
2017-06-18 13:12:26(+09:00)
【更新日時】
2017-06-18 13:47:40(+09:00)
【文字数】
4,290文字
【本文(122行)】
 見張りの人と一緒に居住区に入る。見張りの人に、持ち場離れて良いのですか? と聞くと、今日は良いんだよ、と返された。
 抱えてきた荷物は見張りの人が預かって、食堂に通される。両開きの扉を入るときは見張りの人がドアを開けてくれてなんかくすぐったかった。
 割と大きな部屋。大きなテーブルが幾つかあって20人くらい一緒に食事が取れそう。今は目の前に4人いる。神官様と奥様と戦士様と見張りの人、偵察の人だ。テーブルの上には料理がたくさんある。美味しそうだなぁ。
 壁にはタペストリーが掛けられてて華やかだ。それに、明るい。これ、四大術の灯りかな? 家の蝋燭は煙も多いし暗い。この光は太陽より白くて、太陽のように明るい。天井に近いところに何個か灯りを放つものがあった。
 さすが神官様だなぁ。
 でも、なんだかさっきまでの悲しくてやるせない気持ちが強制的に切り替えられたようで、ちょっと嫌だった。
 でも、ここに居る事になったんだ。頑張らなきゃ。
 と、突っ立っているように見えた僕に神官様が声をかけて下さる。
 見張りの人もテーブルにつくように促してくれる。
 でも、僕はその場から挨拶した。
 最初が肝心。
「コミエ村のサウル、5歳です。この度はお助けいただき有り難うございました。まだ子供なので至らないところも多いと思いますが、よろしくご指導のほどお願いいたします」
 そして頭を下げた。数秒、頭を下げ続けてみる。周囲に広がる戸惑いの気配。
 頭を上げると、神官様も皆さんも苦笑いに近い笑顔。怒ってる人、蔑んでいる人はいない、かな?
 すると神官様が
「参ったな。誰が仕込んだんだろうね?」
 と苦笑していた。勘で言ってみました、とは言いづらいのでニコニコしてみる。
 奥様が、「まぁいいじゃないか、さっさとお座り」と促してくれたのだけど、急に恥ずかしくなってきておどおどしてしまう。やっと前に進み席に着いた。
 神々に祈りを捧げてから、夕食を食べる。僕はちゃんとしたお祈りは初めてなので、もごもご口の中で言って、最期に祈りの形を取るだけなんだけど。
 パンはうちで食べるより美味しい気がした。一緒のかまどのはずなのに不思議。スープも肉も具もあって美味しいし。僕が食べたことの無い味がしたよ。それに魚。「海の魚」なんだって。塩辛かったけど美味しかった。塩漬け肉より好きかも。
 すると神官様が
「食事中ではあるけど、ちょっと自己紹介してみようか。まずは私ね。私はセリオ・ロエラ。このコミエ村の神殿長をしている。と言っても神官は私一人なんだけどね。ここに来る前は王都エスパに居たんだ。その前は冒険者が長かったね。なのであまり堅苦しい事は嫌いなのさ。あー、後は王都に息子が二人。妻は一人、ここにいるマリーだ」
 言いたい事だけつらつらと言っていくと、ワインを飲んだ。これでおしまい、次どうぞ、と言うわけだ。
 奥様が立ち上がって肩をすくめる。奥様は今日もくすんだ赤い髪を頭上にまとめていた。焦げ茶色のローブもいつもの通り。身長は、155cmくらい。痩せ形でちょっときつい顔をされている。怒ると、とても怖い。でも、ときどきオヤツを下さるので、子供達には大人気だ。
「それじゃあたしだね。あたしはマリ・ロエラ。セリオの妻で四大術士だよ。家事はそれなりなんだが、手が足りなくてね。あんたがどういう扱いになるか分からないけど、手伝いをしてくれると助かるよ。あ、あたしも元冒険者さ」
 軽い調子。多分家事のお手伝いなら《《最近急に上手になった》》し、大丈夫だと思う。なので僕は黙って頷いた。
 次に戦士様だ。立ち上がると迫力がある。180cm100kg超、だと思う。さすがに今は鎧も剣も付けてないけど、肉の圧力みたいなものを感じる。太ってるという感じじゃ無いけどね。この村では戦士様より大きな人は居ない。次に大きいのは見張りの人かな。髪は黒に近い茶髪で髪型は短い。耳より短く刈っている。30代中盤だと思うけどお幾つだろう?
「……マルコだ。神殿付戦士団の長をしている。と言ってもたったの三人だがね。普段は神官様や奥様のお手伝いをしている。戦いの技なら教える事が出来るだろう」