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 コウタロウさんは、ちょっとだけ縮んだお腹を撫でながら言った。
「私が、君と変わる事は無い。安心しなさい」
「じゃぁ、なんで?」
「今日、君が大きな魔法、いや、術を使っただろう?
 あれで休眠状態だった私が目覚めたんだ。そして確認してみれば、本来私の仮面に過ぎないはずだった君が自我を持ち、既に私の魂のほとんどは君の物。私という人格は風前の灯火になっていた、というわけさ。
 だったら消えてしまう前に一度くらいは顔を見て、アドバイスの一つでも、と思ったわけなんだ」
「どういう事なんです? 順序立てて教えてください」
 何か、深い理由が有りそう。全部聞けるとは思わないけど。
「何故かは言えないが、私はこの世界の偉い神様と知り合いでね。死んだ時に力を与え、転生させる代わりにとある頼まれごとをされた。『世界を巡り、歪みがあれば正して欲しい』とね。
 私は剣も術も縁が無い暮らしをしてたから、そんな事は無理だと思ったんだが、色々力をくれると言うし、時の果ての森で修行もさせてくれた。転生の時には色々条件も付けさせてくれるというし。
 だから、受け入れたんだ。
 もう死んじゃってたんだからね。今更失う物も無かった」
 そのコウタロウさんの顔はうつむいていて見えなかった。
「今思えば、ちょっと条件を付けすぎたのかも知れない。メ、いや彼には『失敗はピンゾロのみだから安心して』とは言われたんだけどね。あれがフラグだったかもしれんが。
 後はまぁ、私と君の生きる事への執着の差と、家族、だろう。言われるがままに頼みを聞いた私はあまり生きることに執着していない。そして君は家族に支えられてきた。君は覚えてないだろうが、君が2歳の時、風邪で死にかけている。その時、君の姉は同じ風邪で死んでいる」
 隅っこにある土まんじゅうのことかな。たまに父と母が、残ったスープを供えていたりするんだ。
「貧しい中、体の弱い君を名付けの儀まで育てたのはなかなかの苦労だったはずだ。その家族の思いが、君の魂を確立したのかも知れない」
「放り出された身としては、あまり実感がわかないですけど」
 コウタロウさんは、人の良さそうな顔を苦笑の形にゆがめた。
「まぁそれならそれでもいい。
 とにかく、君は残り、私は去る。今回目覚めたのはたまたまだ。恐らく今後は、余程強く外部から干渉を受けなければ私が目覚めることは無いだろうし、君に完全に吸収される可能性も割とある。
 君が私の使命を継ぐかどうかは、君の意思次第だ。もし決意したなら、神殿で神に告げなさい。
 後、君は神々から注目されている。何かしらの干渉はあるだろう。それにどう対処するかも君が決めなさい。神は気まぐれだ。君に好意的とばかりは言えない。私のことは気にしないで良い。
 それと、私のために用意された様々なギフト。これも不要と思えば退けたり譲ったりして良い。技能の封印などは魂倉の管理人が詳しいだろう。
 私由来の知識。勝手ながら私と近しい神々で選別した。だから残ったものは気にせず使ってくれ。
 最期に」
 コウタロウさんは、僕の方に真剣な様子で顔を寄せた。いつの間にか、顔が透けて向こう側が見えている。
「好きに生きなさい。誰に遠慮も要らない。貴族にも、王にも、神々にも。全力で思い切りやりなさい。そして、精々この世界を引っかき回してやると良い」
 気がつけば朝。
 いつもの時間、いつもの部屋。視界の隅には時間と気温が映ってる。今の僕にはこれが強化現実を模したものだと分かってる。そしてそれに紐付いているコウタロウさんの感情が、人ごとのように流れていく。
 ロジャーさんに呼びかけると、応えてくれた。セニオさんも。なので三者間の念話を開始する。
 管理人の二人に対する感覚も変わったな。コウタロウさんが《《消えて》》、本格的な人格の統合になったんだと思う。二人とも、何かしら不審に思っているみたいだったので、簡単に告げる。二人は神々の命令? 依頼? で今の立場に居る。ある程度は事情を知っている。知らせないのも不自然だと思う。
 ロジャーさんは思案顔。セニオさんは『コウタロウ殿が……』と落胆を隠そうとしない。で、そのセニオさんの様子にロジャーさんが腹を立て、口喧嘩するので、念話を切断する。
 二人の気持ちは分からなくは無いけど、僕の見てないところでやって欲しいよ。ほんと。
 さて、四拍呼吸を行って、瞑想するよ。僕がどうなってるかを詳しく見て見よう。
 ……。
 長い間潜っていたので、ちょっとフラフラする。盛大にエーテルが漏れてたみたいで、部屋の中は金色の霧でキラキラしてた。
 僕は、僕、コミエ村のサウルで間違いないみたい。コウタロウさんがどこの生まれでどんな人なのか、神様と何故知り合いなのか。僕に分かるようなヒントは残っていない。
 様々な知識の断片と、それにまつわるコウタロウさんの記憶が僕の中に《《色付き》》で大量に混ざっていたんだ。コウタロウさんの知識は面白い物も多かったけど、単体では使え無い物が多い。透明なガラスや安くて白い紙なんて、凄い財産になりそうな話は有るんだけど、それに必要な薬剤の調達法がさっぱり分からなかったりする。
 術についても、コウタロウさんは凄く沢山知ってたけど。どういう術の構成になってるかなんて話は付いてない。削除されたのか、元から知らなかったのか僕には分からないけど。映像付きだったし、コウタロウさんの憧れのような物もくっついてたから、知らないのじゃ無くて、多分、今の僕には不要な知識なんだろうと思う。
 ほんと、たくさんあって面白かった。活かせるかどうかは微妙だけどね。
 異質な知識だから、僕とは混ざらないとは思うけど、色が付いてるから混同しないと思う。だから気がつけばコウタロウさんになっている、なんて事は無いはず。
 まぁ僕も一生懸命、僕を確固たる者にしないといけないだろうね。
 お手伝いの時間にちょっと遅れてしまい、叱られてしまったけど。その分頑張ってみた。闘気法もいつもより調子が良かったし。
 アラン様が、目を細めてこっちを見ていたので、挨拶すると、
「おう、クソガキ。なんか有ったか?」
 と聞いてくる。意外と鋭い! と思いながら
「夢枕に前世の人が出てきて。僕に頑張れって励ましてくれました」
 と告げると、まぁなんか首をひねりながら食堂の方に行ってた。なんか有ったかな?
【タイトル】
023 村人になる4 名も無き草
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-08-13 21:47:25(+09:00)
【公開日時】
2017-08-13 21:47:25(+09:00)
【更新日時】
2017-08-13 21:47:25(+09:00)
【文字数】
4,686文字
【本文(159行)】
 朝食を終えて、他の手伝いを終えると、僕はイノセンシオ団長の畑に向かう。昨日イノセンシオさんに頼まれたから。
 昨日までは不安ばかりだったけど、今はそうでもない。自警団でなんとかなったんだからなんとかなる。それに、僕は5才だよ? そんな多くを望むわけが無いよね。
「「ぷぷぷっ」」
 僕に付いてきたアラン様とハンナのわざとらしい笑い声。この人達暇なのかな?
「ハンナはサウルが心配なの」
「そうそう、俺も俺も。スゲー心配。次何やらかすか。見逃したらもったい、いや、いざという時には助け合いだろ?」
「ハンナはサウル助けるよ!」