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「で、これを地面に押しつけます」
 三角形の板の部分が、固い地面にずるっと入り込む。板が入ると、周囲の地面が柔らかくなって盛り上がる。羽音も消えた。
 地面に触っただけで潜ると事故が起きそうだったので、力が必要にしてみたんだ。
 そして。
「これを引っ張ります。もちろん、僕の素の力です」
 木製草かきを引っ張る。
 と、僕でも大した力も必要とせず、引きずることができた。固い地面に潜った草かきを5才の僕が闘気法も使わずに引きずるなんて、普通は出来ない。規模は小さいけど、普通はこれは大人数人がかりか、牛を使ってする作業だものね。
「あ、なんで子供があんなことできるんだ?」
 とはイノセンシオさん。
「闘気法は使ってないな」
「草かきのところの地面がおかしいぞ」
「おかしいね、アタシは術理具の作り方は教えた覚えはないよ?」
 しかも、この草かきだと、柔らかく粒状にした土を上に持ち上げているし、上手く角度を付けているから、草が根ごと浮き上がるようになっているんだ。
 周囲10m程を草かきでひっかく。勿論、あのでっかい草もターゲットに入れる。これができないと売りにならない。
 直径30cmにもなろうかという大物の草。さすがに一発では抜けないので、周囲を軽くひっかき、最期に下をすくうように引っ張る。さすがにここはちょっと力が必要だった。でも、普通は大人が時間を掛けてする作業。5才の僕が1分もかけずにやる事じゃ無い。
 大体草かきをした後、作ってきた竹と木でできたクマデで軽く草を集める。これは普通の道具。
 3分もしないうちに、付近の雑草は完全に無くなった。目覚める前の僕なら、この範囲の作業は2時間くらい掛かったと思う。
「こんな感じなんですけど、どうでしょう? 畑の手入れ、楽になると思うんです」
「こ、これがあれば作業が凄く楽になるな……」
「神殿の草抜きが楽に!」
「まーた、地味なもん作りやがって。畑ごと爆発させるとかよー、面白いもん作れや」
「どかーん!」
「ちょっと待ちな、サウル」
 一部聞き捨てならない過激な意見が有ったけど、マリ様の鞭のような一言で静まった。
「なんでしょう、マリ様?」
「この術理具。幾らすると思う?」
「もしこれが普通の術理具でしたら、金貨2、3枚」
 つまり、20万から30万クレ、ということになる。ちなみに実家の一食の食費は四人で20クレ、一人は5クレ。村の食堂でちゃんとした物を食べると、一人20クレ。僕が前受けた本鑑定は銀貨10枚の1万クレ。実家貧乏……。
「村には術理具を買うような金は無いよ」
「ですがこれ、銀貨5枚でできます」
「いくら木製だからって、それはないよ」
「まず、この草かきは、魔物などの魂倉を使いません。使う人のエーテルを使いますので、そこで安くできます。もちろん、使う人はちょっと疲れやすくなりますけど、訓練でどうにかできると思います。
 材料の木材の初期化と回路の焼き付けにも楽にできるコツがあります。秘伝がありますが、誓言を受けてもらえば提供出来ます。
 術の回路は高価な金属ではなく、焼き印と青銅、ニカワを使ってます。板の部分は始めから壊れたら交換する前提で簡単に作っています。回路の焼き付け以外は、普通の職人でも作る事が出来るはずです」
「実際作るところを見ないと、分からないけどさ。なんとなく行けそうだね」
「それと、僕、これは売りません。村に無償でお貸しします。いつか改良して色んな所に売りたいので、皆さんに意見を聞きたいんです」
「サウルは感想が欲しい。村は便利な道具が欲しい。それで交換ってことかい?」
「そんな感じです」
 最初から欲張ると良くないしね。
 そこで村長さんが口を開く。
「しかし、どうせなら普通に耕すのも欲しいもんだが」
「それも用意してます。こちらのでっかい奴です」
 背後にある大きなものを指す。見よう見まねで作った|牛《ぎゆう》|鋤《すき》だ。牛で引っ張ると畑を耕すことができる道具。これも全部木でできている。普通なら、牛の力で引っ張れば簡単に壊れる様な作りだけど。一応、地の四大術で強化しているから大丈夫だと思う。
「ほう? これは|牛《ぎゆう》|鋤《すき》か?」
「はい! 見よう見まねの作りなので、ちょっと出来が悪いかも知れませんが。これは牛と作業をする人のエーテルで動きます。畑で上手く行ったら、開墾にも役立つんじゃ無いかと思ってます」
「なるほど、ドミンゴの所も儲かるだろうな」
 村長さんがニコニコと笑う。他の皆さんも笑顔だ。実家が牛を使った労役で稼いでるのは皆知ってる。
「まぁいいんじゃないか。考えてたのとはちょっと違ったが」
 イノセンシオさんが腕を組んだままにやりと笑う。どうしても山賊の親分にしか見えない。
「ありがとうございます。では、これで?」
「まぁ実際には草を取ってないが、こんだけ良い物貸してもらえればできたも同然だろう」
「よしっ!」
 思わず万歳すると、他の皆さんも、なんか大喜びしてくれた。
「よーし、食堂行くぞ! クソガキ、今日はお前のおごりな」
「おごりおごりー!」
「な、なんで僕がおごるんです! 僕お金なんて持ってないですよ!」
「ったく、しょうがねぇガキだな。今日は俺が食わせてやるから、しっかり食えよ! 主に肉食え肉! 痩せすぎなんだよ、お前」
 ぶらぶらと皆で村へ歩く。ハンナが軽業師のようにアラン様の肩に上ってた。
 道具は神殿戦士団の人達が持ってくれている。
 確かに、僕は村の他の子供と比べて痩せすぎみたい。目覚めの日から更に痩せて来た気がする。でも、背は伸びてる感じなんだよね。あれからたった半月しか経ってないはずなのに、前の服がきつくなってしまってるんだ。
「そういえば、確かにサウルは背が伸びた気がしますね。そう思いませんか、マリ?」
「あぁ。アタシもちょっと気になってたところさ。飯はちゃんと食わせてる筈なんだけどね。サウル、隠れて犬でも飼ってないよね?」
「いや、何も飼ってませんよ。でも、なんか最近やたらとお腹が減るんです」
「馬鹿だね。そういうことはちゃんと言わないと。神殿が飯食わせてないとか噂が立ったらどうするんだい」
 怒られちゃった。
「あ、すいません」
「サウルのことは分かってないことも多いんだ。私やマリ、他の皆も協力するから遠慮せずに相談するんだよ」
「……はい」
 でも話せない事も有るけど。神様関連とか。
「しかしよ、これ雨だよな。収穫どうなるかなぁ。普通に6月入ってからになるかね?」
「気候神様でも土地神様でも良いから、天気予報の神託くれないかね」