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「ったく、しゃーねーな」 |
誓言、便利な言い訳で助かるよ、ほんと。 |
その後、お昼の手伝いをして、お昼を食べて、昼寝もせずに作業開始。明日も雨とは限らないんだから、今日中にどうにかしたいんだ。 |
まずは素材の初期化。普通の《《モノ》》から術理具に使う素材へと存在の位相を変える処理。この処理の出来で、後の加工の難易度は大きく変わる。 |
マリ様から見せていただいた教本の処理方法は、ちと手順が多すぎたし、装飾も多かった。手順を複雑にすることで、術者の思い入れは強くなるけど、それも程度問題だと思う。僕はコウタロウさんの知識で無駄な部分や足りてない部分が分かってしまうので、そのまま使うのは嫌だった。だから、今やってる初期化処理は僕のオリジナル、かな。コウタロウさんの知識に僕の思い入れを混ぜたもの、か。 |
「お、また変わった初期化処理だな」 |
僕が初期化処理に使う術理円は単純な円形と三角形の組み合わせ。教本には神々への賛辞や幻魔払い、昔の王様を讃える文句なんかも混ざってたけど、僕は全部パス。この辺、飾り立てた難解な古代文字で書かれてて、無駄に初期化処理の難易度を上げていた。 |
僕が使うのは、四大元素と光と闇の元素記号。それに対応する神々のシジルだけ。あ、シジルというのは神様や王様が持っている特別なサインのこと。それ自体がちょっとした術の力を持っているんだ。 |
沢山の《《モノ》》を素材に変えるので、中央に術理円を描いて《《モノ》》を置き。周辺に元素記号やシジルを描いていく。 |
「随分シンプルだな。没薬や捧げ物は使わないのか?」 |
「そうですね。今回は僕のエーテルを捧げます。慣れない触媒を使っても無駄でしょうし、それに手持ちが無いですよ。僕、何を隠そう一文無しですからね! 銅貨1枚もってないのに触媒なんて無理です!」 |
「そりゃそうか、無い袖は振れないわな。んじゃ、ちょっくら俺とハンナは海行ってくるぜ! さぼんなよ、クソガキ!」 |
初期化の儀式を行っていく。 |
儀式自体は単純だ。術理円を含む場を清浄にして、失敗の要因になるものを取り除く。清浄な場を確保したら、全体に四拍呼吸で作り出した僕のエーテルを馴染ませる。捧げ物、象徴としての生け贄のとなる元素に関するものを作りだして適正な場所に設置する。 |
そして元素や神々の諸力の召喚。 |
召喚された力ある存在は、僕の体を通して素材を祝福する。 |
後は後始末だ。力ある存在に丁寧にお帰り頂き、場の終了を宣言する。残った力を悪用されないように丁寧に始末する。 |
初期化が終わった古代樹は、黒から白銀に色を変えていた。日の光を反射するのは中々きれいだと思う。 |
アラン様もハンナもいないし、管理人二人を呼んで作業を手伝ってもらうことにする。 |
15時を過ぎる辺りで作業終了。湿度は高くないが、温度は30度近い。うっすら汗が出ちゃう。 |
出来上がったのは、草かきが10個と、棒の先に丸い円盤が付いたものが10個。古代樹の棒と蔦や紐が複雑に絡まったものが5つ。 |
僕も頑張ったんだけど、やっぱり5才の体だと色々無理。セニオさんには「もっと鍛えて頂かないと困ります」とか言われちゃった。ロジャーさんもセニオさんも、手先が見えないほど作業が早くてびっくりする。 |
海にアラン様とハンナを迎えに行くと、岩場で貝を拾ってるところだった。今日は美味しい物、食べられそう……。 |
僕が思わずニコニコしてると、アラン様がやってきて何か渡してきた。 |
見ると、珊瑚と真珠? |
「クソガキ。お前、金持ってないんだろ? この先、お前が何をするにしても金が要るんじゃねぇか? 特に術理具なんて、材料代がすげーしよ。全部、ここに有るモノって訳にもいかねぇだろ?」 |
「確かにそうですね……」 |
「これをよ、マリのババアに売って貰え。こんな高価なもん売りさばくには信用が必要だが、マリのババアなら大丈夫だ。あれでも薬の研究なんかじゃ名が通ってたババアだからよ」 |
「でも、ここのもの売って大丈夫なんでしょうか?」 |
「一応、俺様とハンナで確認してみたんだけどよ。多分大丈夫じゃねぇかな」 |
「ハンナも頑張ってみたよ! だいじょぶだよ!」 |
『セニオさん、海岸にあった珊瑚と真珠を外で売りたいのだけど、良い?』 |
『はい。ここはサウル様のものですから問題ありません。勿論、以前お話しした注意事項は守って頂きたいところですが』 |
『ええ、大丈夫です。必ず守ります!』 |
「じゃぁマリ様に処分をお頼みしてみます」 |
「おう。明日晴れたら行商人が来るはずだからよ、その時に間に合うようにしなきゃな。じゃ、帰ろうぜ」 |
その場に入り口を作って帰る。コミエ村は肌寒く、雨はまだ降っていた。 |
【タイトル】 |
026 墓標 |
【公開状態】 |
公開済 |
【作成日時】 |
2017-10-08 10:50:08(+09:00) |
【公開日時】 |
2017-10-08 10:50:08(+09:00) |
【更新日時】 |
2017-10-08 10:50:08(+09:00) |
【文字数】 |
3,334文字 |
【本文(90行)】 |
泡倉から戻った僕は、すぐにお手伝い。朝と同じ、いやそれ以上に忙しい。 |
あ、術理具は、セニオさんに預けてきたよ。僕の部屋に置いておくと、持ち歩くのが面倒なので。セニオさんはちょっと嫌な顔してたけどね。 |
今日はちょっと涼しすぎるので、温かいものが中心。貝が入った汁にとろみが付いてすごく美味しかった。もう実家のご飯には戻れない気がする。 |
それと、今日はお代わりを5回しちゃった。お腹いっぱい食べなさいというご命令だったので仕方ないんだけど。アラン様より食べちゃったので、皆さんびっくりしてた。 |
明日からは大人用の食器を使うことになっちゃったよ。僕の食器は実家から持ってきた物だけだったから、神殿にある予備の物になるみたい。僕のような立場の子に食器を分けるというのは通常無い事のようで、普段しきたりに五月蠅くないアラン様もかなり気にしてた。 |
夕食の後、僕はマリ様の作業部屋に向かい、アラン様から勧められた事を相談してみた。確かにお金は必要だと思う。僕は神殿預かりの孤児。三食と寝る場所以上に必要な事は自力で何とかした方が良いはず。ご飯も大人以上に食べるようになってしまったし。 |
するとマリ様は、僕を連れて夫であり神官のセリオ様のお部屋へと向かう。時刻は19時、外はうっすら物が見えるけど、廊下は真っ暗。でも、僕らの周りは白々と明るい。四大術士であるマリ様が手のひらに灯りを灯しているから。 |
「ふむ。自分でもお金を出したい、というのだね。大人の好意に甘えなさい、と言いたいところだけど、正直助かるね。この神殿は、半分私の私費で運営してるようなものですしね」 |
セリオ様は、口の片方だけをつり上げて苦笑いされた。上品に整った顔でする苦笑いはすごくカッコイイ。 |
目の前には、僕がマリ様にお渡しした珊瑚と真珠。 |
珊瑚は、真っ赤な色で大きさは30cmほど。綺麗に3つに枝分かれしているんだけど、どれくらいの値段になるのかは分からない。真珠の大きさは直径1cmくらい。乳白色でちょっと光ってる。 |
「ねぇ、マリ。私はあまりこういう物の値段には詳しくないんだけど、これどれくらいすると思う?」 |
「そうだね。珊瑚は根こそぎ指輪と触媒に変えたとして金貨1、2枚かねぇ。でも、この珊瑚はかなり品が良いからね。うまくすりゃ金貨5枚になるんじゃないかね」 |
金貨5枚。50万クレ。凄い金額だなぁ、と、思った。 |
僕が実家で食べてたご飯は1食50クレだった。つまり1万倍。1万食と考えると、ええと。 |
『大体28年、ってところですぜ、坊っちゃん』 |
と、ロジャーさんが助けてくれる。後、1、2個適当なものを売ったら、一生ゆっくりできそう……。ちょっとだけそう思った。 |
「足りないね、マリ」 |
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