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 ここには、そんな本が軽く1000冊以上おいてある。勿論ここは魂倉の中で、物理的な世界じゃない。だから多生乱暴に積み重ねられて居ても、湿度や温度、光に気をつけて無くても大丈夫。でも、何となく落ち着かない。
 ここにある本は、コウタロウさんの知識と経験なんだって、ロジャーさんが言ってた。それを上手に使うために用意されたのが、応接セットとディスプレイ。
 僕は応接セットのソファに座りつぶやく。
「スタートアップ」
 途端、「ブォン」と《《懐かしい音》》と共にディスプレイに光が灯る。
 《《僕が》》これを使うのは初めてなんだけど、全く戸惑うこともなく使うことが出来る。これもコウタロウさんのお陰、かな?
「……検索。キーワードは重量操作。四大術の属性は非限定。実行」
 書棚や床に積まれた本が淡い光を放ち、次の瞬間には僕の目の前に本と書類が置かれていた。事典のような大きな革装丁の本が一冊。表紙のない簡易閉じのメモのようなものが幾つか。
 事典にはしおりが付いている。この辺りを見ろと言うことだと思う。
 しばらくメモと事典を見て考えをまとめると、僕は応接セットの引き出しから紙と筆記用具を取り出し、メモを取る。
 メモは持ち出せないけど、ここに来ればいつでも見直せるし、一度書いた物は記憶に定着しやすい、らしい。
 魂倉の部屋から浮かび上がり、泡倉に帰った。魂倉と他は時間の流れが違うみたいなんだよね。魂倉の中では相当長い時間を過ごしたつもりなんだけど、泡倉の森は変わった様子無かったし。確認しようと思って視界の右下に情報を呼び出すけど、分からなかった。
 だって、こっちに来た時間覚えてなかったし。
 そう思ったらなんか力が抜けてきた。でも、折角思いついた企み、実行しないと面白くないよね。
 魂倉の中で思いついた術理具を作り始める。材料は木と土と石。後若干の金属。エーテルバッテリーも幾つか。
 二種類、いや、三種類かな。
 大きいから皆びっくりすると思う。牛より大きいし。コウタロウさんの知識使いまくったし。多分皆見たこと無いはず。
「おい、クソガキ。ちょっといいか?」
「わわっ!」
 僕は思わず声を上げて飛び上がってしまった。そういう反応があるというのは前世知識にあったけど、僕がそうなるとは思わなかった。
 声はアラン様。朝から泡倉に入り込んで何やら調べ物とのこと。何か見つけたのかな?
「くはは! クソガキがそういう反応するとホントのガキみたいで笑えるな! ギャハハハ!」
 アラン様がひとしきり笑った後、僕は続ける。
「何言ってるんですか、僕は本当に5才ですよ。タブレットにも書いてあるじゃないですか」
「あぁ、その必死な様子が笑えるけど、ちょっと頼みがあってな」
 アラン様が僕に頼み? 
「なんでしょう? 術理具かなにかですか?」
「いや、この泡倉の岩や土、水や木、色んな物のサンプルが欲しい」
「何に使うのです?」
 聞かないといけない気がして、聞いてみた。
 アラン様はちょっとひるんだような顔をした。アラン様のこういう表情を見るのは初めてかも。いつも笑うか馬鹿なことしてると思ってたんだけど。
「……俺はアラン様だぞ? クソガキに言う必要があるのか?」
「はい。アラン様にはこの短い間に色々学ばせていただきましたが。でも、僕はこの泡倉の、小世界の主です。皆さんには会わせることが出来ませんが住人もいます。きちんと聞かないといけません」
 アラン様がすごく怖い顔をした。実家の父が怒鳴った時より怖い顔。
 しばらく前に野良犬と出会ったときは、びびって尻餅付いてしまった僕だけど、今はアラン様の顔を、目をきちんと見ている。
 今のアラン様の顔の方がよっぽど怖いのだけど。
「ちっ。これだからクソガキなんだよテメーは。可愛くねぇな。ここはこのアラン様の鋭い眼光にびびって、『わー、なんでも言うこと聞くからゆるしてくださーい』とか言うところじゃねぇか?」
「わー、なんでも言うこと聞くからゆるしてくださーい」
「じゃ! そういうことでな!」
「……そういえば、最近咳き込まれませんね」
「……」
「セレッサ様とマリ様はこの泡倉から持ち出された品で、何やら作られているようですが、思った様な成果が出ていない様子」
 一応ね。僕もロジャーさん達からある程度のことは聞いてるから。どういうことか推測くらいはできるけど。やっぱり本人から聞きたいよね。
 神殿のマリ様は有名な薬師で四大術士。アラン様お付きのセレッサ様もマリ様と薬品の話で盛り上がっていた様子だから、かなりお詳しいんだろう。
 そしてアラン様の咳。最初は風邪か何かかと思ってたけど……。
 アラン様は、赤地に黄色のローブをバサッとさせて、ため息をついた。
「……分かった分かった。正直に言う。経緯は省くが、俺様はエーテルがダダ漏れになってる。呼吸器にも異常がある。術の行使などは問題が無いんだが。徐々に体力も無くなりつつあってな。恐らくこのままじゃ半年持たんだろうと見ている。
 勿論色々試してみたんだが、はかばかしくなくてな。俺自身は内心諦めていた。実際もうハンナとセレッサの引取先は内々に決めてたくらいでな……。
 セレッサがあんなに一生懸命じゃ無かったら、どこかで野垂れ死んでたかも知れねぇ」
 いつもの強気で陽気なアラン様は影を潜め、影のある表情をしていた。
 僕は、軽い気持ちで触れては成らないところに触れてしまった気がして何も言えない。なんだか泣きたくなってしまったけど、ここで泣くといけないと思って我慢する。
「……おいおい、何涙目になってんだよ、クソガキ。てめーで振っといて。所が、この泡倉に来てから急に調子が良くなって来やがった。こないだ、海で魚や貝を取って食ったろ? あれがまたクソたけー回復薬並みに効きやがる。しかもエーテルの抜けも弱くなった。今まで頑張って薬開発したのは何だったんだ、ってセレッサが嘆いてたな。
 しかし、そうなると現金なもんだが、俺様ももうちーっとだけ生きてみたくなってな。そう言ってみたらセレッサがすげー喜んでな。その夜はもう……。っといけね。子供に話すこっちゃねぇな。
 そういう訳でここの素材を色々譲って欲しいと頼むことにした訳よ。わりーが、色々分けてくんねーか?
 っておい、クソガキ、おめーヒデー面だぞ! ギャハハハハ!」
 最期にアラン様はいつものように馬鹿笑いしてしんみりした空気を壊してくれた。
 あ、あれ? なんか鼻水が。今の話そんな泣ける要素有った? でもなんか嬉しいような悲しいような。
「……わ、ばがりまじだ(わかりました)。ゐるだげもっでっでぐだざい(要るだけもってってください)。っぐ。えっぐ」
 あーもー! なんで涙も鼻水も止まらないの?! うわー恥ずかしい! でも停まらない!
「……あ、あー。ありがとな? ところで、お前、これ何してたんだ?」
 アラン様は僕の周りにあるオブジェ群を指さした。
 直径150cm、幅200cmの金属と石材の円柱が10個、黒光りしながら転がっている。円の中央には貫通する穴が開いていて、穴の周辺には術式が刻める様になっている。結構な重量のため、若干地面にめり込んでいた。
 他にも前世知識が無いと意味が分からないパーツが転がっている。
「……っぐ。え、えっと、目玉商品作ってみようと思って」
「……ほほう。よーし、クソガキ。このアラン様にちょっと説明してみろ」
 アラン様の目が輝いた。
【タイトル】