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 あ、アラン様、咳き込んだ。セレッサさん、今居ないけど呼んだ方が良いのかな? 泡倉に連れて行きたい……。なんとか泡倉の物を渡せないかな。
「支援だが、金は要らんからもうちょっとやらせてくれ。このまま出し惜しみしてたら体が持たねぇ。こほっ」
「し、しかしアラン師。そのお体で術を使うのは大変なのでは?」
「そこはそれ、俺の弟子が、自重無くやってくれるはずだ」
「え? ぼ、僕ですか?」
 聞いてないよ、と、アラン様を見ると、僕にぐっと親指を立てた。いい顔してる。嬉しそうだなぁ。控えるように言ってたのに。後で訳を聞こうっと。
「え? いいんですか? その子は……」
 僕とセリオ様、アラン様の顔をキョロキョロ見るロージーさん。
「アラン様の命とあれば、不肖、コミエ村のサウル。全力を尽くします」
 と、僕は答えた。
【タイトル】
032 道行きとスカウト2
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2018-04-28 18:12:55(+09:00)
【公開日時】
2018-04-28 18:12:55(+09:00)
【更新日時】
2018-04-28 18:12:55(+09:00)
【文字数】
3,235文字
【本文(76行)】
 翌朝、5月20日。気温5度。天候雨。風有り。
 馬車の中は、外に比べれば寒くない。でも臭い。慣れてきたけど、ふとした瞬間に、うっとなっちゃう。だってお風呂に入る習慣、普通はないんだってさ。確かに僕も実家で入った覚えない。神殿、というよりセリオ様が変わってるらしい。マリ様がいてお湯を沸かすのが楽というのもあるんだろうなぁ。ここの所は僕が毎日沸かしてたし。
 とりあえず、夜のうちに用意は済ませてあるので僕には余裕がある。
 全員が一所に集まるのは難しいので、荷馬車に主だった人だけ集めて説明することになった。泡倉から荷物を取り出していると、馬車の外から馬丁さんの叫び声が聞こえ、続けて入ってきた。
「お、おい、車輪と車軸がえらい事になってるぞ! あ、いや、なってます」
 身分が上の人、セリオ様は貴族だし、アラン様も教授様。普段僕は養い子だからと言うことでとがめられないけど、商隊に雇われた人達からすれば、えらい人。自然と口調も改まる。
「どうなってるんだ?」
 アラン様が素っ気なく返す。
「車輪ががっつりぶっとくなってまして、表面に模様の付いた鉄が嵌まってまして。んでんで、えーと。車軸と軸受けが新品になってまして、あ、油もなんか見たこと無いのが」
「けほっ。あぁ、なら問題ない。スポークも良く見ろ。材質が変わってるはずだぞ」
 アラン様が何事も無かったかのように応えると、馬丁さんが雨の中に飛び出していった。勿論僕の仕業だ。見張りに気づかれず、中で眠ってた人に気づかれずに作業をしたのは、泡倉のセニオさんの部下3人だ。こっそりトイレと偽って泡倉に入り、顔合わせ。そのまま挨拶もそこそこ打ち合わせをして作業開始。
 出力は僕より低いと思うけど、静粛性、精密性は上。作業場所に山を張って見てなかったら気づかないと思う。実際気づいた人は居なかったみたい。あ、僕は見てるだけ。
 やって貰ったのは、馬車の改造。
 車軸と軸受けを新品にして素材を変える。軸受けのベアリングも工作精度を上げた物を。見本は幾つか用意したので後で進呈する予定。サスペンションは変えなかった。知識は有るし、制作も出来るけど。代わりに車輪を環境に合わせて変更。幅を広げ、表面に履かせた鉄板に模様を刻む。立体的に刻んだそれは、グリップ力を増してくれるはず。悪路も進みやすくなった筈なんだ。スポークも木製から合金に。
 後、車体には重量軽減の術を刻んでみたんだ。御者席当たりにエーテルバッテリーを置くように導線を仕込み、いざとなれば人力でブーストできるように。
 馬丁さんが大騒ぎしてたので、僕とアラン様で落ち着かせる。サンプルも補修機材もあるし、マニュアルもある。え? 字が読めない? ま、まぁ何とかなるでしょ? 街に着くまでにイラストだけのマニュアル作ってみる。
 ついでということで、馬丁さんに馬用の雨具と装具を渡す。これらは全部術理具。馬が見慣れぬ物で警戒しないように、元の装具の匂い等も付けてあるんだ。交換を頼むけど、馬丁さんはイヤイヤだ。馬はデリケートだから気持ちは分かる。そこを何とかと頼み込んで作業をしてもらう。人足さんの助けも借りるとするりと着てくれた。一安心だ。
「あ、え、えーとなんか術理具みたいですけど。あ、あの?」
「うん。あれは雨具は中を自然に乾燥してくれるんだ。保温もしてくれる。気持ち悪そうにしてたら教えてください。調整します。それと足元の装具は、不安定な足元が来た時にほんのちょっと助けてくれます。足のマッサージも自動でしてますから、多分楽に歩けるはずです」
「へ? そ、そりゃすげーですね」
「けほっけほっ。クソガキ、ほんと自重してねぇな!」
「ええ。これなら《《お眼鏡に適います》》?」
「お、気づいたか」
「ロージーさん達にもっとアピールしようってことですよね?」
「まぁそういうこった」
「大丈夫。まだありますよ」
 朝食はやはり各馬車でバラバラ。メニューが貧弱……。せめてお湯だけは欲しいので、僕が四大術で出す。取りに来て貰うのも悪いので、ちゃっちゃと各所を渡り歩いたよ。
 朝食後に主だった人に集まって貰い、説明開始。馬と馬車にやったことを軽く説明する。どっちも彼らの商売道具で財産なので、まずは勝手に触ったことを謝罪する。でも、やれっていったのは僕じゃないので、そこは責任転嫁。
 馬車を術理具にしたところで皆さんびっくり。渡したエーテルバッテリーで二度びっくり。ちょっと良い物だったみたい。ちょっと価値観が分からない。ロージーさんに教えて貰おうっと。アラン様もセリオ様も今一世間と違うみたいだし。
 後は、と。残りのものの説明をしなきゃね。
「おお、こりゃ楽だ」
 人足さん達は大喜び。ブーツ一体型倍力の術理具への感想。足場が悪い時の足首アシスト、姿勢制御補助を中心に行うことで、乱れた足場でもすいすい歩ける。あ、水虫対策で蒸れないのも受けてます。結構面倒な術式だったんだけど。なんかね。コウタロウさんの記憶が絶対やってくれって訴えるから。
「おいおい、これすげーな! 売ってくれ!」
 馬車の前方で叫びながら棒を振ってるのは、冒険者のリーダー。
 馬上から空色の木の棒を進路上に指し示している。すると、指された場所の草木がざっくり折れていく。空色はヴァーユ、大気の象徴色だ。
「余り多用するとエーテル不足で倒れますよ! あ、あそこに大きな水たまり。……えいっ!」
 《《冒険者のフラムさん》》がリーダーに声をかけながら、僕の渡した黄色の棒を水たまりに向ける。すると、水たまりに乾燥した土が出現して埋め立てる。そして、表面が大ざっぱながら平らに。普通なら土と水が落ち着くまで時間が掛かるはずだけど、一瞬で作業は終わった。術理具すごいね。あ、黄色は地のプリティヴィの象徴色ね。
「サウル君だっけ? 凄いね!」
「ありがとうございます。試作品なんで色々不具合も有ると思いますけどよろしくです!」
「農村の子とは思えないねぇ。やっぱりアラン様がお父さんなの?」
「い、いえ、違いますよ!」
 フラムさんの視線に何か値踏みをする物を感じてちょっと怖くなる。
 ふと視線を幌の中に向けると、丸くなって寝ているハンナの姿。ハンナは湿気が嫌みたいで幌の中でも雨具を被って丸くなっている。時々、顔をくしくしするのが小動物みたいで可愛い。