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 鑑定結果が詰まった小さな黒いタブレットが鑑定機からべっと吐き出されて、僕はそれを受け取った。何かの際に本人証明に使えるってことで。
 タブレットには簡易な情報しか無いので、問題がばれることは無いらしい。
 折角貰ったタブレットだけど、僕の服はポケットも付いてない。どこに仕舞おうかと困っていると、奥様が黒いリボンを付けてくれた。タブレットの二カ所にちょうど良い穴が付いてて、そこにささっと通してくれた。リボンが上質なものだったので断ったんだけど、押し切られちゃった。
 しかし、泡倉のインパクトで宙に浮いたけど、隅っこに管理人二人って書いてあったんだよね。あれってどういう事なんだろう。一人はロジャーおじさんのことだろうけど。
 夕ご飯をご一緒させて貰い、そのまま神殿に泊まることになった。明日、泡倉について調べて、それからおうちに帰ることになりそう。
 最初に起きた部屋は客室だったみたい。薔薇の香りがしていたのは、来客を予定していたからなんだそうだ。予定では数日前に来るはずだったそうなんだけど。
 そんな事を話していたら、急に眠くなってきた。ずっと気絶していたのにもう眠いなんて変なの。
 客室に通されて、寝床に入った。やっぱりフワフワ。灯りは無いけど、目が慣れると月光でぼんやり部屋の中が見えてきた。窓に透明な何かが嵌まっている。うちは、夜になって窓を閉じると真っ暗。
 うーん、ガラスっぽいけど良く分からないな。
 眠い。
 凄く眠い。
「坊っちゃん、お疲れ様で」
 ロジャーおじさんが寝床の脇に立っていた。
「何? 僕眠い」
「すいやせん。ちと周辺の偵察をしておきたいので、許可を」
「うん、いいよ。いってらっしゃい」
 ロジャーおじさんの姿が見えなくなって、後のことは覚えてない。
【タイトル】
006 切り取られた空
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-06-07 17:45:09(+09:00)
【公開日時】
2017-06-07 17:45:09(+09:00)
【更新日時】
2017-06-07 17:45:09(+09:00)
【文字数】
4,239文字
【本文(129行)】
 目を覚ますと部屋の中はほぼ真っ暗。二つある月の明かりも無くて、星明かりだけ。
 僕はちょっと不安になる。朝までどれくらいだろう? と寝床にくるまりながら独り言。
『日の出まで、後2時間くらいでさ、坊っちゃん』
 ロジャーおじさんの声にも慣れちゃったな。
『いつ戻ったの?』
『2時間ほど前ですかね。あんまり見所が無いんで、村の周りも見てきやした。平和そのものでさぁ』
 身を起こしてみる。名付けの儀の服のままの僕には、今の気温はちょっと寒い。温かい白湯が欲しい所。
 体を起こして、まわりを見ると、ゆうべ気づかなかった事も見えてきた。
 木造の壁はかんなで削られただけで磨かれてもいない。辛うじて家具にはニスが塗られているけど。それに、室内だというのにちょっと空気が動いてる。どこか隙間があるんだろうね。
 窓に嵌まっている《《何か》》は、微妙に歪んでいる。手延べの板ガラスとも質感が違う。もっと軽いなー。生物由来かも?
『へぃ。その窓の材料は、大きな芋虫の目玉でさ。大きく育つと、家より大きくなるらしいですぜ。それを術で柔らかくして、叩いて伸ばして窓に嵌めるそうで』
『うわ……、想像したら鳥肌立ったよ……。ええと、ちょっと僕の状態について聞きたいんだけど。鑑定機の内容、ロジャーおじさんは把握してるよね?』
『そりゃまあ、管理人の名を頂いてやすから』
『僕の前世が、鑑定機の内容に違和感あるみたいなんだ。諸元だと、数字の桁や成長限界という項目。技能だと、取得制限。必要なエネルギー量も違うんじゃ無いかって思ってる。その辺り、どうなの?』
『坊っちゃんの前世の頃とは大分違うとは聞いてやす。数年ごとに技能の数も変わっているとか。闘気法なんてのも、今の暦が始まってから生まれた物だそうですぜ。諸元や技能を上げるための必要エネルギーなんかも、地上と神界の関わりが変化する中で何度か手が入ってるそうで』
 しばらくロジャーおじさんと話し合った。《《システム》》について話していると、唐突に前世の知識が入り込んでくるのが面白い。面白いけど、なんか慣れない。
 ロジャーおじさんに頼むと、鑑定機で出る情報を目玉に出せると分かった。過去のデータの移り変わりも分かるそうで、かなり便利だと思う。肖像画は赤ん坊の頃から載っていた。しかし、この肖像、誰が撮ったんだろう。多分念写だと思うけど。
 必要なエネルギー量の表を見て将来の計画を立てようと思ったんだけど、どうすればいいのか全然分からない。まだ《《目覚めたばかり》》で、何をしたいか決めるための情報がまるで足りない。
 それに、計算するにしたって、紙とペンが無いと大変すぎる。
『とりあえず、まだ体もできてないし、肉体戦闘系は後回しにして、術系統から攻めてみるよ。とはいっても、誰にどうやって教わるか、だけどね』
『ここの神官と奥方ではいかんので?』
『多分それしか無いと思うけど、うちの両親がどう思うかなぁ』
『いい顔しそうにないのは確かですな。特に親父殿は面倒そうでさぁね』
『うーん。まぁいいや。それより、鑑定結果に管理人二名ってあったけど、あれは?』
『あっしも顔を合わせた事が無いんですがね。恐らく泡倉に管理人がいるはずでさぁ』
『……あぁ。縦横高さ500kmだもんね。管理人くらい居た方が良いよね』
 後は、《《目覚めて》》からなんか見る物全てがはっきり見えたり、見慣れた物が色あせて見えたりする事や、名付けの儀の前と後の意識の変わり方。ロジャーおじさんが数ヶ月前から目を覚ましていたけど、僕が目覚めてなかったから声をかける事が出来なかったこと。そして外に出ることもできなかったこと、などなど話してた。
 夜明けまで後一時間。午前四時頃。(時間はロジャーおじさんに聞くと正確な時間を教えて貰える事が分かった)うっすら外が白みはじめて、僕がそれを眺めて居ると、控えめに扉が叩かれた。
 寝床から返事をすると、扉が開いて。法衣を着た神官様が立っていた。
「起きてたようだね。では早速おつとめをしようか、サウル君。朝食を摂ったら泡倉の調査にしようと思う」
 神官様が僕の名前を初めて呼んでくれた。
 昨日まで見えなかった神官様の顔もはっきり認識できる。神官様は身長160cm位。体格は普通。綺麗な金髪で、短めの髪を整髪料でなで付けている。ひげは無い。優しげな顔をしているけど、目元は渋い雰囲気がある。五十代だけど全身引き締まっていて、無駄な肉はどこにも無い、という感じ。多分、モテる。
 神官様は別に背が低いわけじゃ無い。この辺りの人と比べると、高い方だと思う。父は多分150cm前後。身長180cmの戦士様が大きすぎるだけだ。ちなみに僕は100cm切っている。
 しかしまぁ。目覚める前の僕は、何を見ていたんだろう。あんなぼんやりした世界には戻りたくないな。
 神官様に生活区から本殿に連れて行ってもらう。薄明かりの中だけど、これで中の様子は大体分かった。生活区も本殿も木造だった。余り凝った作りではないみたい。基礎もあまり上等じゃ無いから、長くは持たないと思う。
 開拓村の神殿だものね。村が大きくなったら、建て替えるんだと思う。
 水くみや掃除はすでに終わってたので、僕はお祈りをするだけ。
 お祈りの文句なんて知らないので、神像の前にひざまずいて目をつぶっただけなんだけどね。お祈りしている間、ずっと視線を感じてむずむずしてた。どこからか分かる?
 神像。
 この辺りを管轄する地の女神様の像から視線をはっきり感じてた。
 神様に見てもらえるなんて光栄な筈なんだけど。すごく居心地悪かったな。