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 朝食は、家で食べる物と比べると良いものだった。汁は具だくさんだし、肉も入ってた。家だとパンはたまのご馳走。家はかまどのお金が滞ってるから割り当てがこないんだってさ。牛が五頭も居るのになんでなんだろう。
 朝食を終え、片付けを手伝い。いよいよ泡倉の調査。本殿か、中庭でするのかなと思ったら、昨夜鑑定した書斎に移動した。人に見られるのを防ぐためだそうだ。
 泡倉は馬鹿げた大きさなので、どう調べて良いか分からない。とりあえず何があっても良いように、神官様も奥様も戦士様も冒険に向かう格好で、背嚢も背負っている。
 準備が整った神官様が僕に呼びかける。
「では、サウル君開けてみて。泡倉に開いて欲しいと願いながら、手を突き出すと開くはずだよ」
「は、はい」
『泡倉、開いて』
 念じながら、手を伸ばすと、手首から先が不意に消えた! びっくりして手を引くと、そこに何か白いぼやっとしたものが浮かんでた。大きさは直径30cm程。
 しばらく神官様達は、色々話してた。大きいとか、入り口がはっきりしている、とか。僕は初めて見るので、じっくり観察。でも全然わからない。何か懐かしい感じがするけど。
 それから、色々確認した。大きさを変えること、出したり消したりすること。物を突っ込んでも大丈夫か、などなど。
 結局入り口は、本殿の大きな扉くらい広げる事が出来たんだけど、どこまで広がるか沸かないので、一回止める事になった。そのうち再調査すると思う。んで、物を突っ込んでも問題なかった。
 30分以上調査が続いて、僕はすっかり面倒になってきて。
 扉ほどに広げた入り口に飛び込んだ。
 明るい。
 息もできる。
 外は七時前。中も同じような明るさだ。
 森林の香りがする。腐葉土の匂い。
 ざっと見渡す。
 ここは広場だ。直径100mほどの円形で、土が硬く踏みしめられている。周りには背の高いがっしりした大木がうっそうと茂っていて、遠くは見えない。
 あ、後ろの方に、高い塀に囲まれた大きな館があった。村の神殿が幾つか入りそう。僕の背だと塀と館のてっぺんしか見えないな。
 なんとなく危険はない気がする。
 よし! 館の探索でもして見よう! 管理人がいるかも知れないし。
「こらっ!!」
 唐突に頭にガツンと衝撃がしてびっくりした。
 あ、戦士様だ。後を追ってきたんだ? ひょっとして、入り口って開きっぱなしなんだ?
 だんだん痛くなってきた! すんごく痛い!
「中の様子も分からないのに、何を考えてる!」
「だって、僕の泡倉だし! 安全に決まってる! うー、痛い」
「まったく……。呼吸も問題ないからいいが。しかし、泡倉の中に森とはな。昔話にも聞いたことが無い。このマルコ、生きているうちにこんな面妖な経験ができるとは、思いもせんかった」
 戦士様が、手に持っていたロープを引っ張ると、それを辿るように神官様と奥様もやってきた。
「二人とも生きてるようで何より」
 神官様がとぼけた顔でやってきた。奥様もおっかなびっくり入ってくる。
『坊っちゃん。残念なお知らせでさ』
『なんだい?』
『泡倉の管理人が、坊っちゃん以外の人間にはしばらく顔を見せたくないと』
『んーー、事情があるのかな?』
『そのようで。それと併せて、館には立ち入りできないそうで』
『仕方ないね』
 その後僕を放っておいたまま、神官様達は調査を開始した。
 土も木も、凄くエーテルが濃いのだそうだ。
 エーテルは、様々な生き物が利用するエネルギーの元。人間はそれを魂倉に貯めて生体エーテルとして用いている。エーテルの使い方を変えることで、四大術、神術、精霊術、闘気法の元となる、のだそうだ。僕はまだ使えないから感覚が分からないけど。それに、エーテルの濃い場に居る事で、体の弱い人間が復調することも多いんだそうだ。
 なんか聞いた話ばかりだなぁ。
 どんな生き物が居るのか、生態調査をするべきだ! って神官様がだだをこねてた。神官様は、初めての事例なんだから是非調べるべきだと強調したけど、戦士様も奥様も絶対反対で、結局また今度、となったみたい。
 僕は暇だったので、ぼーっと空を見ていた。
 調査の役には立たないし、泡倉の管理人と会えないし、館にも入れないんだから。
 この空は《《僕のための空》》なのかな、とか考えながら、ぼーっとしてみた。
 空は何故か普通に青かった。
 どんな仕組みか分からないけど、雲も流れてる。
 小鳥が鳴く声が聞こえる。
 広場から見える空は、広場の形に合わせて丸く切り取られている。
 切り取られた空の外にも空がある。
 500km四方の空。四角い空が。
 空の外、泡倉の外には何があるんだろう。
 結構長く調査してたと思う。
 僕は凄く退屈して、地面に絵を描いて遊んでた。亀の上に世界が載っている図を描いたら奥様が爆笑していた。そんなに笑わなくても良いと思うんだけど。
 最期まで神官様は調査を続けるとだだをこねてたけど、奥様に怒られて諦めてた。やっと神殿に戻ったときには八時を過ぎてて、僕は父が怒らないか不安になってきた。
【タイトル】
007 きしむ日常
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-06-09 17:56:34(+09:00)
【公開日時】
2017-06-09 17:56:34(+09:00)
【更新日時】
2017-06-09 17:56:34(+09:00)
【文字数】
4,710文字
【本文(161行)】
 僕は村を囲う柵を出て、畑から川に向かっていた。
 あの後、戦士様が家に送ってくれた。
 家の近くまで来てびっくりした。昨日まであんなに大きく頼りがいのある場所に見えていた家が、酷くみすぼらしく見えたんだ。
 掘っ立て小屋、というのはさすがに酷いけど、オンボロの木造の家。柱も屋根も歪んでる。大きな嵐が来たら倒れると思う。多分、横に建っている牛小屋の方が頑丈だと思う。
 中には母が待っていた。