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「そういう事だ。芽が出ちまった。希望が生まれちまった。だから」
「今がある」
「そういうこったな」
 ……となると……
「ねぇアラン様。アレハンドロはどうなります?」
「多分大丈夫だ。日和見気味だが。コミエ村建設を受け入れたのも領主一族がセリオ達の心情的な味方だからだ。今回も敵対には至るまいよ」
「とは言え、ちょっと不安要素に心当たりがあるんです。僕にできる手は打っておきます」
「あぁ、良く分からねぇが分かった」
 そこでアラン様が周りの様子を見た。
 薄明かりの中の木々のざわめき、蝉の声虫の声。たき火の音、炊事と食事の声。
 キャンプだなぁ、とライブラリ該当する記憶を寄越した。夏の風物詩。
「しかし、あれハイエルフだろ? なんで復活歴が始まる前、幻魔大戦には消えたと言われる幻の種族がお前の部下なんだ?」
「僕にも色々あるらしいです。僕の前世の人よほど偉かったらしいんですよ。それで、らしいです」
「大恩があるが契約があるか、か」
「えぇ、そんな感じで」
 その後、食事と準備を終えると、人目の付かないところに馬車と皆を出したんだ。返り血や色々な汚れも綺麗にして、食料も積み替えて。お風呂は入ってしまうとおかしな事になるから我慢したけど。
 僕とハンナはこっそり付いていくことに。
 昨日の戦いの後、僕の諸元はこっそり増えてたらしい。セニオが教えてくれた。
 肉体精神霊性が五元素に別れた十五個の諸元。骨格体格を司る土の肉体は日に日に増えていて凄いことになってるし、術関連の精神霊性も凄い。
 普通の人が40から60。以前、コミエ村で鑑定したときにもすでに80台なんかが有って中には100越えで凄かったのに。今、一部150越えがある。
 アラン様に教えたら散々罵られた挙げ句に呆れてた。アラン様だって90越えが幾つかに100越え一つなんだそう。
 周辺国で一番の大学で、第一の天才と言われるアラン様がそれ。
 絶対に他人に言うなよ、と言われちゃったよ。
 契約を結んだ人は勝手に言えないし、下手をすると契約の効果で死んでしまう。けど、僕がバラしちゃうのは問題ないんだそうだ。なんともおっきな穴のある制度だね……。
【タイトル】
057 転換
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2019-05-11 03:33:48(+09:00)
【公開日時】
2019-05-11 07:00:25(+09:00)
【更新日時】
2019-05-11 07:00:25(+09:00)
【文字数】
2,835文字
【本文(95行)】
 時刻は10時過ぎ。8月ならではのうるさい蝉の声が鳴り響く。日差しは強いし風は吹いていないから蒸し暑いくらい。おかげで汗が服に張り付いて気持ち悪い。こんな日は水風呂か、川で水遊びがしたいなぁ。果物を井戸で冷やして食べるのも良いよね。僕とハンナはそんな事を話ながらアラン様達と一緒にアレハンドロの門に並んでいた。一応護衛と言うことで、荷馬車の外。
 最初は荷馬車とは離れていたけど、結局襲撃は無かったので一緒に行動することにしたんだ。この暑い中衛兵の皆さんはテキパキと荷と人相を調べて税を取り、人々の列をアレハンドロの中に入れている。
 いよいよ僕たちの番。アラン様と職人の親方さんが人数と積み荷の報告をし、税を払って中に入ろうとする。すると門番が決まり悪そうに
「すまんが、あんたらを通すわけには行かない」
と税の受け取りを拒否した。親方が理由を尋ねると
「実はあんたらに犯罪の容疑が掛かっていると報告があったんだ」
「殺人だって? 確かにここに来るまでに盗賊を駆除したのは確かだが、それは罪にはならんだろ?」
「それはそうだが、しかし我々の所に……」
 と、押し問答……。暑いし、段々双方の声が大きくなってくるし蝉もうるさいしで、僕たちより後ろに並んでる人達がうんざりした顔をしている。
 僕はあんまり暑いので微風を吐き出すチューブを作り、顔や背中に当ててみた。結構涼しい。これはホバーの魔法の応用だ。
 しばらくすると、昨日見た色黒の兄さんと糸目の人が衛兵数人と一緒にやってきた。様子からすると二人が衛兵達を引き連れているようだけど……。チンピラ風の色黒が衛兵達を引き連れている様子を街の人達は遠巻きに見ている。
 その一団が、門番とやりあってるアラン様達の間に割って入ってきた。
「おう、マサース教授さんよ。あんたらには首都で犯罪の容疑が掛かってる、アレハンドロに入れるわけにはいかんのよ」
「あ? お前誰だ?」
「あーーん? 俺か? 俺はビダルだ。首都のとある方から依頼されて犯罪者が街に入り込むのを防ぎに来たって訳よ」
「お前の顔の方がよっぽど悪党じゃねぇか。大体犯罪ってなんだよ」
「んだと、こら! この殺人鬼共! お前らにはとある貴族の子弟を殺した容疑が掛かっているんだよ!」
「そんなわけあるか! 証拠を出せ証拠を!」
「お前ら相手に証拠なんか見せるかよ。馬鹿じゃねぇのか? 司祭様が言ってたとおりだ」
「司祭様?! ひょっとしてそいつの名前は」
「おっといけねぇ口が滑った。まぁいい、そういう事だ」
「昨日の襲撃だけじゃ飽き足らず、こんなせこいことまでしてくるとはな」
「ふん。何とでも言えば良い。どちらにしてお前らは街には入れないぜ」
「そんな馬鹿な」
「おっと、先に言って置くがな」
 色黒改めビダルがニヤニヤと笑いながら
「今日、領主のマカリオ様はご気分が悪いそうでな。例え親友のマサース教授が呼んだとしても来ない、と聞いてるぜ」
「用意周到なことだな。まさか分かった。そういう事なら別の所にでも行くさ」
「おっとそいつも駄目だ」
「あ?」
「近隣の町や村にはお触れが回ってる。もしお前らを村に入れれば犯罪者の仲間と見なすってな」
「つまり王都に戻れってことか?」
「それを決めるのは俺たちじゃないぜ。さぁ、そうと分かったらさっさとどっか行っちまえ。コミエ村なら匿ってくれるかも知れないぜ? まぁそん時はコミエ村も犯罪者の仲間入りってわけだがよ! ギャハハ!」
 どうやら、昨日の襲撃との二段構えになってたみたいだね。今回の職人さん達は、コミエ村の特産物を作る大事な人だ。どうにかしないと……。
 もし王都まで戻っても無事に済むとは思えないし、大体王都に居づらくなったらこっちに来た人達だ。きっと帰りたがらない。
「くそったれ、こうなったら……」