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|---|---|---|---|---|
JCRRAG_001701
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地理
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荒木(2015)では明治以降今日までの地理学における食料研究を紐解き,1940年代までの食料に関する地理学的な関心の高さと,その後の急速な食料研究の衰退を描き出した。本稿は,その転換点となった1940年代に焦点を当て,当時の地理学,特に経済地理学における食料研究を検討し,1940年代までと1950年代以降の食料研究の大きな断絶の背景を探ろうとするものである。1940年代は上記の学史的な転換点というだけでなく,1930年代後半からの日中戦争とこれに続く太平洋戦争の開戦と敗戦,戦後の混乱から復興へという時期であり,日本の社会,政治,経済が大きく変化した時期であることは言うまでもない。同時に日本の食料供給Lの大きな画期であったことも明白で,この間に日本の食料供給は根本的ともいえる再構築を経験した(荒木,2015)。すなわち,戦争までは朝鮮や台湾Dなどの植民地からの移入米が国内需要を支えたのに対し,戦後はこれらの食料供給基地であった植民地を失い,主としてアメリカ合衆国などからの食料援助や輸入によって需要をまかなわざるを得なくなったからである。本稿の取り組みは,地理学における食料研究の動向という学史の検討と同時に,この大きな転換期を地理学はどのように把握しようとしたのかに光を当てようとするものでもある。ここで研究対象とする時期を1940年代と設定したのは,戦中と戦後を連続した枠組みのなかで把握するためでもある。確かに,敗戦は大きな転換点であることは間違いがないが,その前後を分けるのではなく,その前後を連続させて把握することの意義に着目したい。すなわち,食料供給は戦前,戦中あるいは戦後で分断されるべきものではなく,連続してそれに備えなければならないものである。状況がどのように変化しようと食料の確保は継続されねばならないからであり,食料需給が逼迫する中で,国の食料供給に対する思想や計画はどのように変遷したのかを連続した時間のなかでとらえるべきであると考える。
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食料に関する地理学的な関心が高かったのは、何年代までですか。
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食料に関する地理学的な関心が高かったのは、1940年代までです。
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JCRRAG_001702
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地理
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2011年3月11日に東北地方太平洋沖で発生した大地震と大津波は、東日本の太平洋沿岸域に未曾有の攪乱をもたらした(国立国会図書館 http://kn.ndl.go.jp/static/about/、最終確認日2014年9月5日;環境省自然環境局生物多様性センター http://www.shiokaze.biodic.go.jp/24sokuhou.html/、最終確認日2014年9月11日)。砂浜海岸と沖積平野が並列する宮城県中・南部の仙台湾岸地域では、マグニチュード9.0の激しく長い揺れと地盤の液状化、最大80cmに及ぶ地盤沈降、高さ10mに達する大津波によって、「壊滅的」と表現されるまでに攪乱された景観が南北およそ60kmにわたって広がる事態となった(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html/、最終確認日2014年9月11日)。そして、福島第一原子力発電所から漏れ出した放射能が、さらに深刻な破壊と混沌を被災地にもたらした。
「生態学を学んだ者として、どんな支援ができるのだろう?」、「生態学の視点で、広域かつ甚大な生態系攪乱・災害から、どんなことを学びとる必要があるのだろうか?」・・・・・・日頃から、自然に親しみ、その本質や原理を探求し、保全や利活用に心を砕いてきた者であれば誰もが、こうした自問を反芻したに違いない。本特集はまさに、先行きの見えない状況下、2011年6月から手探りで進めてきた南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリング(以降、「南蒲生モニタリング」と略記)にかかわって、活動の一端を紹介するものである。
南蒲生モニタリングを実施している地域あるいはサイトの状況、その実施体制に関しては、インターネット上のホームページ(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)や平吹ほか(2011、2012)、平吹(2012)、富田ほか(2013)、五十嵐ほか(2013)を参照されたい。その主要な特徴を2、3あげるとすれば、(1)当該地域のステークホルダーである行政機関や住民の方々の理解の下、モニタリングサイトが、砂浜海岸エコトーンの本質的構造である「浅海から前浜、後浜、砂丘を経て、後背湿地に至る領域」をカバーすべく設定されたこと、(2)当該地域の生物・自然環境に精通した地元専門家の方々から、自主的な参加・支援をいただいていること、(3)東日本大震災によって攪乱された海岸陸域では他に事例を見ない、「多様な生物種を対象とした継続調査」であること、に言及できよう。
一方、私たちは当初から、インターネットや海岸エコトーンフォーラム、さまざまな学会講演・シンポジウムといった機会をとらえて、研究者や専門家に対しては南蒲生モニタリングへの参画を、学術・行政機関に対しては学際的で、公的に認証されたプロジェクトへの衣替えを要請してきたが、実状は依然として15名ほどのコアメンバーによる自主的活動にとどまっている(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)。攪乱直後の予想を大きく上回るスピードと規模で進行する生態系の自律的再生、そして復旧・復興事業がもたらすそれを凌ぐ改変と破壊の挾間にあって、私たちは力不足と無念さを噛みしめざるを得ない状況にあることも申し添えておきたい。数百年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は長大で、しかも多様なエコトーンから構成される生態領域である。精査と追跡を通じて、学び、活かしてゆくべき課題はたくさんある。
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2011年3月11日の大地震で、仙台湾岸地域のマグニチュードはいくつでしたか。
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2011年3月11日の大地震で、仙台湾岸地域のマグニチュードは9.0でした。
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JCRRAG_001703
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地理
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2005年に外来生物法が施行され、国内における外来生物対策が本格化して10年以上が経過した(曽宮 2016)。外来生物法において何らかの指定を受けた外来生物に関する研究論文の数、新聞等への取り上げ回数、駆除活動の数はそれぞれ大きく増加し(Ohsawa and Osawa 2014)、外来生物に対する一般社会における認識は著しく向上したと言えるだろう。外来生物法に基づいた防除の確認・認定も全国で1,000件を超え(環境省 https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、特定外来生物の防除活動は環境保全活動における一つの主流になったと言っても過言ではない。外来生物の管理を効果的に行う上で、実際の対応を行う前に、面的な分布状況を把握し、空間的な管理計画を立案すること、すなわち地図を作成することは極めて重要である(Foxcroft et al. 2009;Jimenez-Valverde et al. 2011;三橋 2010;大澤・赤坂 2013;宮崎ほか 2015)。管理計画を地図化することで、管理の優先度や進捗状況を視覚化し、関係者で共有することも容易となる。しかし、管理計画を地図化する際、空間的なスケールの扱い方には注意する必要がある。なぜなら、対象とする空間的な広がりと、扱う空間の解像度は、地図が持つ意味を大きく変えるからである(Foxcroft et al. 2009;大澤・赤坂 2013)。例えば流域全体の分布傾向を掴もうと考えた場合には、全国レベルの統計等で用いられる10kmや5kmの方形区(メッシュ)を単位とした低解像度で十分な場合があるし、逆に実際に現場で駆除管理活動を行う単位としては、10kmや5kmメッシュは粗い場合が多いだろう。計画地図を実務における有意義な指針にするためには、スケールごとに目的を明確にする必要がある(Foxcroft et al. 2009)。そして実際の管理計画を立案する際には、それぞれの強みを生かすため、複数の空間スケールを組み合わせることが有効である(Barnett et al. 2007;Foxcroft et al. 2009;黒川 2016;大澤・赤坂 2013; Shea et al. 2002)。オオハンゴンソウ(Rudbeckia laciniata L.)は外来生物法において特定外来生物に指定されている多年生草本で、自然公園等、比較的自然度が高い場所に繁茂することから、多くの地域において駆除が進められている(大澤・赤坂 2007, 2009, 2012;近藤ほか 2014;永井ほか 2010)。外来生物法に基づく計画防除についても認定、確認件数が2018年10月現在で50件を超えており(https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、現在国内において最も問題視され、積極的に駆除が進められている外来生物の一つである。大分県玖珠郡九重町は、町域の多くが阿蘇くじゅう国立公園に指定され、恵まれた自然環境を利用した観光業が重要な産業となっている。しかし、2006年頃から町内各地でオオハンゴンソウが目立つようになったことを受け、地域の重要な資源である自然環境を保全することを目的に、地域住民、学生、行政ら関係者が一体となって本種の駆除活動に取り組むようになった(九重の自然を守る会 2015)。現在では環境省より外来生物法に基づく計画防除としての確認を受け、関係者が一丸となって本種の駆除を実施している(九重の自然を守る会2015, 2017)。九重では多くの立場が異なる方々が駆除活動に関わるようになったことから、関係者間での情報共有と、統一した駆除方針をわかりやすく提示し、対策についての共通認識を持つことが求められている。そこで、九重町におけるオオハンゴンソウの駆除を効率的、効果的に進めるため、町全体という広域から駆除を優先する地域を選定し、その地域内では駆除地点の優先付けを行うというマルチスケールの管理計画を立案した。本稿は、他地域における計画立案の参考になることを期待し、九重町におけるマルチスケールの管理計画の内容、それぞれのスケールにおける作成方法、それに至る考え方を論じる。
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10kmや5kmの方形区は、どのような用途では粗い場合が多いですか。
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10kmや5kmの方形区は、現場で駆除管理活動を行うには粗い場合が多いです。
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JCRRAG_001704
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地理
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2005年に外来生物法が施行され、国内における外来生物対策が本格化して10年以上が経過した(曽宮 2016)。外来生物法において何らかの指定を受けた外来生物に関する研究論文の数、新聞等への取り上げ回数、駆除活動の数はそれぞれ大きく増加し(Ohsawa and Osawa 2014)、外来生物に対する一般社会における認識は著しく向上したと言えるだろう。外来生物法に基づいた防除の確認・認定も全国で1,000件を超え(環境省 https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、特定外来生物の防除活動は環境保全活動における一つの主流になったと言っても過言ではない。外来生物の管理を効果的に行う上で、実際の対応を行う前に、面的な分布状況を把握し、空間的な管理計画を立案すること、すなわち地図を作成することは極めて重要である(Foxcroft et al. 2009;Jimenez-Valverde et al. 2011;三橋 2010;大澤・赤坂 2013;宮崎ほか 2015)。管理計画を地図化することで、管理の優先度や進捗状況を視覚化し、関係者で共有することも容易となる。しかし、管理計画を地図化する際、空間的なスケールの扱い方には注意する必要がある。なぜなら、対象とする空間的な広がりと、扱う空間の解像度は、地図が持つ意味を大きく変えるからである(Foxcroft et al. 2009;大澤・赤坂 2013)。例えば流域全体の分布傾向を掴もうと考えた場合には、全国レベルの統計等で用いられる10kmや5kmの方形区(メッシュ)を単位とした低解像度で十分な場合があるし、逆に実際に現場で駆除管理活動を行う単位としては、10kmや5kmメッシュは粗い場合が多いだろう。計画地図を実務における有意義な指針にするためには、スケールごとに目的を明確にする必要がある(Foxcroft et al. 2009)。そして実際の管理計画を立案する際には、それぞれの強みを生かすため、複数の空間スケールを組み合わせることが有効である(Barnett et al. 2007;Foxcroft et al. 2009;黒川 2016;大澤・赤坂 2013; Shea et al. 2002)。オオハンゴンソウ(Rudbeckia laciniata L.)は外来生物法において特定外来生物に指定されている多年生草本で、自然公園等、比較的自然度が高い場所に繁茂することから、多くの地域において駆除が進められている(大澤・赤坂 2007, 2009, 2012;近藤ほか 2014;永井ほか 2010)。外来生物法に基づく計画防除についても認定、確認件数が2018年10月現在で50件を超えており(https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、現在国内において最も問題視され、積極的に駆除が進められている外来生物の一つである。大分県玖珠郡九重町は、町域の多くが阿蘇くじゅう国立公園に指定され、恵まれた自然環境を利用した観光業が重要な産業となっている。しかし、2006年頃から町内各地でオオハンゴンソウが目立つようになったことを受け、地域の重要な資源である自然環境を保全することを目的に、地域住民、学生、行政ら関係者が一体となって本種の駆除活動に取り組むようになった(九重の自然を守る会 2015)。現在では環境省より外来生物法に基づく計画防除としての確認を受け、関係者が一丸となって本種の駆除を実施している(九重の自然を守る会2015, 2017)。九重では多くの立場が異なる方々が駆除活動に関わるようになったことから、関係者間での情報共有と、統一した駆除方針をわかりやすく提示し、対策についての共通認識を持つことが求められている。そこで、九重町におけるオオハンゴンソウの駆除を効率的、効果的に進めるため、町全体という広域から駆除を優先する地域を選定し、その地域内では駆除地点の優先付けを行うというマルチスケールの管理計画を立案した。本稿は、他地域における計画立案の参考になることを期待し、九重町におけるマルチスケールの管理計画の内容、それぞれのスケールにおける作成方法、それに至る考え方を論じる。
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大分県玖珠郡九重町は、どのような産業が重要となっていますか。
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大分県玖珠郡九重町は、恵まれた自然環境を利用した観光業が重要な産業となっています。
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JCRRAG_001705
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地理
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これまでのわが国の津波防災対策は, 主として津波防潮堤, 津波防波堤, 津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきた(土木学会, 2000).近年,環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されている.わが国では,釜石・大船渡などで湾口部に津波防波堤が建設されてきたが,こうした津波対策は,平常時の海への眺望やアクセスを阻害し,港内外の水質交換を妨げ,さらには巨大な建設費を要するために,最近の環境問題・財政問題の観点から魅力ある対策とは言えなくなってきた.沿岸部に位置する海岸林は, その地域の自然・景観・文化の大きな構成要素となっている.海岸林が地域の景観・環境に貢献するとともに,その存在が津波防災効果を持てばたいへん望ましいことである.このような観点から,仙台湾沿岸における海岸林の津波減災力の試算(原田ら, 2000)などの研究が行われるようになった.一方,東南アジア諸国では一般に多大な建設費を要する構造物による対策が現実的ではなく,造成コストの面からも,海岸林による津波対策がきわめて有力となっている.2500名を超える死者が発生した1998年パプアニューギニア津波の復興会議では,密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとする試みが提案されており(Hiraishi,2000),その後の2000年スラウェシ島津波(Amri, 2002)や,死者・行方不明者25万人を超えるインド洋大津波(Danielsen et al., 2005, 田中ら, 2005)においても,沿岸のマングローブ林が津波の流体力を減衰させ,背後の集落の被害を軽減したことが報告されている.アジア・太平洋経済協力会議(APEC)の関連活動として地震・津波災害軽減技術の開発プロジェクト(APEC-EqTAP)が,1999年から2003年度に実施されたが,その中で海岸林の活用による津波軽減技術の開発が,わが国とインドネシアをはじめとするアジア諸国の間で議論され,国際技術協力として大いなる成果を挙げている(Subandono, 2005, Widjo, 2005).このように海岸林の活用は,国の内外を問わず今日的で魅力的な津波対策と言える.国土保全・防災を主題とする土木工学の研究者も, 海岸林に大きな関心を抱くようになってきた.土木工学の津波防災の分野では, 以前から海岸林による津波エネルギーの軽減効果が研究されてきた(たとえば首藤, 1985).これまでの研究では,樹木に作用する津波流の特性など流体力学に主眼を置いた研究がほとんどであったが (例えば原田・今村,2003,今井ら 2004),最近では枝や樹冠部の流体抵抗を評価する上で樹木形態の特性を考察に取り入れたり(今井・鈴木,2005,浅野ら,2007), 樹木の生長や立木密度の年代的な変化を考慮して防潮林の津波機能を評価する研究(浅野・岩塚,2006)など,林学の知見を組み込んだ研究が発表されるようになってきた.一方,林学の分野においても古くから海岸林の持つ津波災害に対する防潮機能が研究されており,たとえば石川(1992)に歴史的な研究が紹介されている.近年,林野庁は, 津波に対する防災機能の高い海岸林の造成・育成・保全管理について研究を開始している(林野庁, 2005).その報告書では, わが国の津波危険地帯にある海岸林の管理・施業・住民による利用状況や, 林分内容, 保全管理の状況などが示されている.しかし, 海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし, 津波防災を目的に造成されたものではない.よって, この課題の本格的な研究はきわめて少なく, 現状の理解は不十分な状況と言える.海岸林の林帯幅, 海岸線からの距離, 地盤標高, 立木密度などが与えられたとき, 定量的にどの程度の津波被害の軽減効果が見込まれるのか, こうした見地に立った信頼できる研究が十分には蓄積されていない.そのために, 現状では海岸林を適切に育成・管理すれば津波防災施設として大きく貢献するものであるのに, その活用が図れていない場合や,逆に,現状の規模・状態の海岸林に対して過度の津波防災効果を期待してしまう場合など,合理的な海岸林の津波防災能力の評価がなされていない.
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スラウェシ島津波や、インド洋大津波の際に、津波の流体力を減衰させ、背後の集落の被害を軽減したことが報告されているものはなんですか。
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スラウェシ島津波や、インド洋大津波の際に、津波の流体力を減衰させ、背後の集落の被害を軽減したことが報告されているものは、沿岸のマングローブ林です。
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JCRRAG_001706
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地理
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これまでのわが国の津波防災対策は, 主として津波防潮堤, 津波防波堤, 津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきた(土木学会, 2000).近年,環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されている.わが国では,釜石・大船渡などで湾口部に津波防波堤が建設されてきたが,こうした津波対策は,平常時の海への眺望やアクセスを阻害し,港内外の水質交換を妨げ,さらには巨大な建設費を要するために,最近の環境問題・財政問題の観点から魅力ある対策とは言えなくなってきた.沿岸部に位置する海岸林は, その地域の自然・景観・文化の大きな構成要素となっている.海岸林が地域の景観・環境に貢献するとともに,その存在が津波防災効果を持てばたいへん望ましいことである.このような観点から,仙台湾沿岸における海岸林の津波減災力の試算(原田ら, 2000)などの研究が行われるようになった.一方,東南アジア諸国では一般に多大な建設費を要する構造物による対策が現実的ではなく,造成コストの面からも,海岸林による津波対策がきわめて有力となっている.2500名を超える死者が発生した1998年パプアニューギニア津波の復興会議では,密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとする試みが提案されており(Hiraishi,2000),その後の2000年スラウェシ島津波(Amri, 2002)や,死者・行方不明者25万人を超えるインド洋大津波(Danielsen et al., 2005, 田中ら, 2005)においても,沿岸のマングローブ林が津波の流体力を減衰させ,背後の集落の被害を軽減したことが報告されている.アジア・太平洋経済協力会議(APEC)の関連活動として地震・津波災害軽減技術の開発プロジェクト(APEC-EqTAP)が,1999年から2003年度に実施されたが,その中で海岸林の活用による津波軽減技術の開発が,わが国とインドネシアをはじめとするアジア諸国の間で議論され,国際技術協力として大いなる成果を挙げている(Subandono, 2005, Widjo, 2005).このように海岸林の活用は,国の内外を問わず今日的で魅力的な津波対策と言える.国土保全・防災を主題とする土木工学の研究者も, 海岸林に大きな関心を抱くようになってきた.土木工学の津波防災の分野では, 以前から海岸林による津波エネルギーの軽減効果が研究されてきた(たとえば首藤, 1985).これまでの研究では,樹木に作用する津波流の特性など流体力学に主眼を置いた研究がほとんどであったが (例えば原田・今村,2003,今井ら 2004),最近では枝や樹冠部の流体抵抗を評価する上で樹木形態の特性を考察に取り入れたり(今井・鈴木,2005,浅野ら,2007), 樹木の生長や立木密度の年代的な変化を考慮して防潮林の津波機能を評価する研究(浅野・岩塚,2006)など,林学の知見を組み込んだ研究が発表されるようになってきた.一方,林学の分野においても古くから海岸林の持つ津波災害に対する防潮機能が研究されており,たとえば石川(1992)に歴史的な研究が紹介されている.近年,林野庁は, 津波に対する防災機能の高い海岸林の造成・育成・保全管理について研究を開始している(林野庁, 2005).その報告書では, わが国の津波危険地帯にある海岸林の管理・施業・住民による利用状況や, 林分内容, 保全管理の状況などが示されている.しかし, 海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし, 津波防災を目的に造成されたものではない.よって, この課題の本格的な研究はきわめて少なく, 現状の理解は不十分な状況と言える.海岸林の林帯幅, 海岸線からの距離, 地盤標高, 立木密度などが与えられたとき, 定量的にどの程度の津波被害の軽減効果が見込まれるのか, こうした見地に立った信頼できる研究が十分には蓄積されていない.そのために, 現状では海岸林を適切に育成・管理すれば津波防災施設として大きく貢献するものであるのに, その活用が図れていない場合や,逆に,現状の規模・状態の海岸林に対して過度の津波防災効果を期待してしまう場合など,合理的な海岸林の津波防災能力の評価がなされていない.
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これまでのわが国の津波防災対策はどのようなものに頼ってきましたか。
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これまでのわが国の津波防災対策は、主として津波防潮堤、津波防波堤、津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきました。
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JCRRAG_001707
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地理
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2005年に外来生物法が施行され、国内における外来生物対策が本格化して10年以上が経過した(曽宮 2016)。外来生物法において何らかの指定を受けた外来生物に関する研究論文の数、新聞等への取り上げ回数、駆除活動の数はそれぞれ大きく増加し(Ohsawa and Osawa 2014)、外来生物に対する一般社会における認識は著しく向上したと言えるだろう。外来生物法に基づいた防除の確認・認定も全国で1,000件を超え(環境省 https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、特定外来生物の防除活動は環境保全活動における一つの主流になったと言っても過言ではない。外来生物の管理を効果的に行う上で、実際の対応を行う前に、面的な分布状況を把握し、空間的な管理計画を立案すること、すなわち地図を作成することは極めて重要である(Foxcroft et al. 2009;Jimenez-Valverde et al. 2011;三橋 2010;大澤・赤坂 2013;宮崎ほか 2015)。管理計画を地図化することで、管理の優先度や進捗状況を視覚化し、関係者で共有することも容易となる。しかし、管理計画を地図化する際、空間的なスケールの扱い方には注意する必要がある。なぜなら、対象とする空間的な広がりと、扱う空間の解像度は、地図が持つ意味を大きく変えるからである(Foxcroft et al. 2009;大澤・赤坂 2013)。例えば流域全体の分布傾向を掴もうと考えた場合には、全国レベルの統計等で用いられる10kmや5kmの方形区(メッシュ)を単位とした低解像度で十分な場合があるし、逆に実際に現場で駆除管理活動を行う単位としては、10kmや5kmメッシュは粗い場合が多いだろう。計画地図を実務における有意義な指針にするためには、スケールごとに目的を明確にする必要がある(Foxcroft et al. 2009)。そして実際の管理計画を立案する際には、それぞれの強みを生かすため、複数の空間スケールを組み合わせることが有効である(Barnett et al. 2007;Foxcroft et al. 2009;黒川 2016;大澤・赤坂 2013; Shea et al. 2002)。オオハンゴンソウ(Rudbeckia laciniata L.)は外来生物法において特定外来生物に指定されている多年生草本で、自然公園等、比較的自然度が高い場所に繁茂することから、多くの地域において駆除が進められている(大澤・赤坂 2007, 2009, 2012;近藤ほか 2014;永井ほか 2010)。外来生物法に基づく計画防除についても認定、確認件数が2018年10月現在で50件を超えており(https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/kakunin.html 2018年10月10日確認)、現在国内において最も問題視され、積極的に駆除が進められている外来生物の一つである。大分県玖珠郡九重町は、町域の多くが阿蘇くじゅう国立公園に指定され、恵まれた自然環境を利用した観光業が重要な産業となっている。しかし、2006年頃から町内各地でオオハンゴンソウが目立つようになったことを受け、地域の重要な資源である自然環境を保全することを目的に、地域住民、学生、行政ら関係者が一体となって本種の駆除活動に取り組むようになった(九重の自然を守る会 2015)。現在では環境省より外来生物法に基づく計画防除としての確認を受け、関係者が一丸となって本種の駆除を実施している(九重の自然を守る会2015, 2017)。九重では多くの立場が異なる方々が駆除活動に関わるようになったことから、関係者間での情報共有と、統一した駆除方針をわかりやすく提示し、対策についての共通認識を持つことが求められている。そこで、九重町におけるオオハンゴンソウの駆除を効率的、効果的に進めるため、町全体という広域から駆除を優先する地域を選定し、その地域内では駆除地点の優先付けを行うというマルチスケールの管理計画を立案した。本稿は、他地域における計画立案の参考になることを期待し、九重町におけるマルチスケールの管理計画の内容、それぞれのスケールにおける作成方法、それに至る考え方を論じる。
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管理計画が地図化されるとどのようなことが可能になりますか。
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管理計画が地図化されると、管理の優先度や進捗状況が視覚化され、関係者で共有することも容易となります。
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JCRRAG_001708
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地理
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お茶は日本の近代化を支えた主要な輸出品ゆえに地図記号に採用された。茶畑(茶園.葉園)の地図記号は,明治6年の『行軍測絵』,明治11年の「測絵図譜』,明治16年の迅速図式を経て,明治17年の仮製二万分一以降(∴)である。茶畑の∴印は,国土地理院によれば茶の実の横断面形に由来するという。しかし国土地理院には,地図記号の由来を記した公文書はなく,閲係者の口伝によっている。茶の実は三つ種が基本であるが,一つ種,二つ種のものもあり一定でない。ところで将軍家御用老舗の宇治茶師,上林三入氏は.商標が三ッ星で,これが茶畑の地図記号になったとしている。茶畑と同種の地図記号に史跡・名勝・天然記念物がある。これは昭和40年に採用された。この記号は,明治11年の『測絵図譜』に「名勝古跡」としてすでに存在している。この記号はフランスをはじめヨーロッパで使用されてきたもので,∴記号の由来には考えてみるべき背景がいろいろとありそうである。
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将軍家御用老舗の宇治茶師、上林三入氏は、何が茶畑の地図記号になったとしていますか。
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将軍家御用老舗の宇治茶師、上林三入氏は、三ッ星が茶畑の地図記号になったとしています。
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JCRRAG_001709
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地理
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お茶は日本の近代化を支えた主要な輸出品ゆえに地図記号に採用された。茶畑(茶園.葉園)の地図記号は,明治6年の『行軍測絵』,明治11年の「測絵図譜』,明治16年の迅速図式を経て,明治17年の仮製二万分一以降(∴)である。茶畑の∴印は,国土地理院によれば茶の実の横断面形に由来するという。しかし国土地理院には,地図記号の由来を記した公文書はなく,閲係者の口伝によっている。茶の実は三つ種が基本であるが,一つ種,二つ種のものもあり一定でない。ところで将軍家御用老舗の宇治茶師,上林三入氏は.商標が三ッ星で,これが茶畑の地図記号になったとしている。茶畑と同種の地図記号に史跡・名勝・天然記念物がある。これは昭和40年に採用された。この記号は,明治11年の『測絵図譜』に「名勝古跡」としてすでに存在している。この記号はフランスをはじめヨーロッパで使用されてきたもので,∴記号の由来には考えてみるべき背景がいろいろとありそうである。
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国土地理院によると、茶畑の地図記号は何に由来していますか。
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国土地理院によると、茶畑の地図記号は茶の実の横断面形に由来しています。
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JCRRAG_001710
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地理
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2011年3月11日に東北地方太平洋沖で発生した大地震と大津波は、東日本の太平洋沿岸域に未曾有の攪乱をもたらした(国立国会図書館 http://kn.ndl.go.jp/static/about/、最終確認日2014年9月5日;環境省自然環境局生物多様性センター http://www.shiokaze.biodic.go.jp/24sokuhou.html/、最終確認日2014年9月11日)。砂浜海岸と沖積平野が並列する宮城県中・南部の仙台湾岸地域では、マグニチュード9.0の激しく長い揺れと地盤の液状化、最大80cmに及ぶ地盤沈降、高さ10mに達する大津波によって、「壊滅的」と表現されるまでに攪乱された景観が南北およそ60kmにわたって広がる事態となった(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html/、最終確認日2014年9月11日)。そして、福島第一原子力発電所から漏れ出した放射能が、さらに深刻な破壊と混沌を被災地にもたらした。
「生態学を学んだ者として、どんな支援ができるのだろう?」、「生態学の視点で、広域かつ甚大な生態系攪乱・災害から、どんなことを学びとる必要があるのだろうか?」・・・・・・日頃から、自然に親しみ、その本質や原理を探求し、保全や利活用に心を砕いてきた者であれば誰もが、こうした自問を反芻したに違いない。本特集はまさに、先行きの見えない状況下、2011年6月から手探りで進めてきた南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリング(以降、「南蒲生モニタリング」と略記)にかかわって、活動の一端を紹介するものである。
南蒲生モニタリングを実施している地域あるいはサイトの状況、その実施体制に関しては、インターネット上のホームページ(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)や平吹ほか(2011、2012)、平吹(2012)、富田ほか(2013)、五十嵐ほか(2013)を参照されたい。その主要な特徴を2、3あげるとすれば、(1)当該地域のステークホルダーである行政機関や住民の方々の理解の下、モニタリングサイトが、砂浜海岸エコトーンの本質的構造である「浅海から前浜、後浜、砂丘を経て、後背湿地に至る領域」をカバーすべく設定されたこと、(2)当該地域の生物・自然環境に精通した地元専門家の方々から、自主的な参加・支援をいただいていること、(3)東日本大震災によって攪乱された海岸陸域では他に事例を見ない、「多様な生物種を対象とした継続調査」であること、に言及できよう。
一方、私たちは当初から、インターネットや海岸エコトーンフォーラム、さまざまな学会講演・シンポジウムといった機会をとらえて、研究者や専門家に対しては南蒲生モニタリングへの参画を、学術・行政機関に対しては学際的で、公的に認証されたプロジェクトへの衣替えを要請してきたが、実状は依然として15名ほどのコアメンバーによる自主的活動にとどまっている(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)。攪乱直後の予想を大きく上回るスピードと規模で進行する生態系の自律的再生、そして復旧・復興事業がもたらすそれを凌ぐ改変と破壊の挾間にあって、私たちは力不足と無念さを噛みしめざるを得ない状況にあることも申し添えておきたい。数百年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は長大で、しかも多様なエコトーンから構成される生態領域である。精査と追跡を通じて、学び、活かしてゆくべき課題はたくさんある。
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東北地方太平洋沖で大地震と大津波が発生したのはいつですか。
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東北地方太平洋沖で大地震と大津波が発生したのは、2011年3月11日です。
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JCRRAG_001711
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地理
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これまでのわが国の津波防災対策は, 主として津波防潮堤, 津波防波堤, 津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきた(土木学会, 2000).近年,環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されている.わが国では,釜石・大船渡などで湾口部に津波防波堤が建設されてきたが,こうした津波対策は,平常時の海への眺望やアクセスを阻害し,港内外の水質交換を妨げ,さらには巨大な建設費を要するために,最近の環境問題・財政問題の観点から魅力ある対策とは言えなくなってきた.沿岸部に位置する海岸林は, その地域の自然・景観・文化の大きな構成要素となっている.海岸林が地域の景観・環境に貢献するとともに,その存在が津波防災効果を持てばたいへん望ましいことである.このような観点から,仙台湾沿岸における海岸林の津波減災力の試算(原田ら, 2000)などの研究が行われるようになった.一方,東南アジア諸国では一般に多大な建設費を要する構造物による対策が現実的ではなく,造成コストの面からも,海岸林による津波対策がきわめて有力となっている.2500名を超える死者が発生した1998年パプアニューギニア津波の復興会議では,密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとする試みが提案されており(Hiraishi,2000),その後の2000年スラウェシ島津波(Amri, 2002)や,死者・行方不明者25万人を超えるインド洋大津波(Danielsen et al., 2005, 田中ら, 2005)においても,沿岸のマングローブ林が津波の流体力を減衰させ,背後の集落の被害を軽減したことが報告されている.アジア・太平洋経済協力会議(APEC)の関連活動として地震・津波災害軽減技術の開発プロジェクト(APEC-EqTAP)が,1999年から2003年度に実施されたが,その中で海岸林の活用による津波軽減技術の開発が,わが国とインドネシアをはじめとするアジア諸国の間で議論され,国際技術協力として大いなる成果を挙げている(Subandono, 2005, Widjo, 2005).このように海岸林の活用は,国の内外を問わず今日的で魅力的な津波対策と言える.国土保全・防災を主題とする土木工学の研究者も, 海岸林に大きな関心を抱くようになってきた.土木工学の津波防災の分野では, 以前から海岸林による津波エネルギーの軽減効果が研究されてきた(たとえば首藤, 1985).これまでの研究では,樹木に作用する津波流の特性など流体力学に主眼を置いた研究がほとんどであったが (例えば原田・今村,2003,今井ら 2004),最近では枝や樹冠部の流体抵抗を評価する上で樹木形態の特性を考察に取り入れたり(今井・鈴木,2005,浅野ら,2007), 樹木の生長や立木密度の年代的な変化を考慮して防潮林の津波機能を評価する研究(浅野・岩塚,2006)など,林学の知見を組み込んだ研究が発表されるようになってきた.一方,林学の分野においても古くから海岸林の持つ津波災害に対する防潮機能が研究されており,たとえば石川(1992)に歴史的な研究が紹介されている.近年,林野庁は, 津波に対する防災機能の高い海岸林の造成・育成・保全管理について研究を開始している(林野庁, 2005).その報告書では, わが国の津波危険地帯にある海岸林の管理・施業・住民による利用状況や, 林分内容, 保全管理の状況などが示されている.しかし, 海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし, 津波防災を目的に造成されたものではない.よって, この課題の本格的な研究はきわめて少なく, 現状の理解は不十分な状況と言える.海岸林の林帯幅, 海岸線からの距離, 地盤標高, 立木密度などが与えられたとき, 定量的にどの程度の津波被害の軽減効果が見込まれるのか, こうした見地に立った信頼できる研究が十分には蓄積されていない.そのために, 現状では海岸林を適切に育成・管理すれば津波防災施設として大きく貢献するものであるのに, その活用が図れていない場合や,逆に,現状の規模・状態の海岸林に対して過度の津波防災効果を期待してしまう場合など,合理的な海岸林の津波防災能力の評価がなされていない.
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近年、環境保全と防災を両立させる津波対策として何の活用が注目されていますか。
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近年、環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されています。
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JCRRAG_001712
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地理
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これまでのわが国の津波防災対策は, 主として津波防潮堤, 津波防波堤, 津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきた(土木学会, 2000).近年,環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されている.わが国では,釜石・大船渡などで湾口部に津波防波堤が建設されてきたが,こうした津波対策は,平常時の海への眺望やアクセスを阻害し,港内外の水質交換を妨げ,さらには巨大な建設費を要するために,最近の環境問題・財政問題の観点から魅力ある対策とは言えなくなってきた.沿岸部に位置する海岸林は, その地域の自然・景観・文化の大きな構成要素となっている.海岸林が地域の景観・環境に貢献するとともに,その存在が津波防災効果を持てばたいへん望ましいことである.このような観点から,仙台湾沿岸における海岸林の津波減災力の試算(原田ら, 2000)などの研究が行われるようになった.一方,東南アジア諸国では一般に多大な建設費を要する構造物による対策が現実的ではなく,造成コストの面からも,海岸林による津波対策がきわめて有力となっている.2500名を超える死者が発生した1998年パプアニューギニア津波の復興会議では,密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとする試みが提案されており(Hiraishi,2000),その後の2000年スラウェシ島津波(Amri, 2002)や,死者・行方不明者25万人を超えるインド洋大津波(Danielsen et al., 2005, 田中ら, 2005)においても,沿岸のマングローブ林が津波の流体力を減衰させ,背後の集落の被害を軽減したことが報告されている.アジア・太平洋経済協力会議(APEC)の関連活動として地震・津波災害軽減技術の開発プロジェクト(APEC-EqTAP)が,1999年から2003年度に実施されたが,その中で海岸林の活用による津波軽減技術の開発が,わが国とインドネシアをはじめとするアジア諸国の間で議論され,国際技術協力として大いなる成果を挙げている(Subandono, 2005, Widjo, 2005).このように海岸林の活用は,国の内外を問わず今日的で魅力的な津波対策と言える.国土保全・防災を主題とする土木工学の研究者も, 海岸林に大きな関心を抱くようになってきた.土木工学の津波防災の分野では, 以前から海岸林による津波エネルギーの軽減効果が研究されてきた(たとえば首藤, 1985).これまでの研究では,樹木に作用する津波流の特性など流体力学に主眼を置いた研究がほとんどであったが (例えば原田・今村,2003,今井ら 2004),最近では枝や樹冠部の流体抵抗を評価する上で樹木形態の特性を考察に取り入れたり(今井・鈴木,2005,浅野ら,2007), 樹木の生長や立木密度の年代的な変化を考慮して防潮林の津波機能を評価する研究(浅野・岩塚,2006)など,林学の知見を組み込んだ研究が発表されるようになってきた.一方,林学の分野においても古くから海岸林の持つ津波災害に対する防潮機能が研究されており,たとえば石川(1992)に歴史的な研究が紹介されている.近年,林野庁は, 津波に対する防災機能の高い海岸林の造成・育成・保全管理について研究を開始している(林野庁, 2005).その報告書では, わが国の津波危険地帯にある海岸林の管理・施業・住民による利用状況や, 林分内容, 保全管理の状況などが示されている.しかし, 海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし, 津波防災を目的に造成されたものではない.よって, この課題の本格的な研究はきわめて少なく, 現状の理解は不十分な状況と言える.海岸林の林帯幅, 海岸線からの距離, 地盤標高, 立木密度などが与えられたとき, 定量的にどの程度の津波被害の軽減効果が見込まれるのか, こうした見地に立った信頼できる研究が十分には蓄積されていない.そのために, 現状では海岸林を適切に育成・管理すれば津波防災施設として大きく貢献するものであるのに, その活用が図れていない場合や,逆に,現状の規模・状態の海岸林に対して過度の津波防災効果を期待してしまう場合など,合理的な海岸林の津波防災能力の評価がなされていない.
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1998年パプアニューギニア津波の復興会議で提案された津波被害を軽減しようとする試みとはどんな内容ですか。
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1998年パプアニューギニア津波の復興会議で提案された津波被害を軽減しようとする試みは、密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとするものです。
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JCRRAG_001713
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地理
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これまでのわが国の津波防災対策は, 主として津波防潮堤, 津波防波堤, 津波水門などコンクリート等の構造物建設によるハードな対策に頼ってきた(土木学会, 2000).近年,環境保全と防災を両立させる津波対策として海岸林の活用が注目されている.わが国では,釜石・大船渡などで湾口部に津波防波堤が建設されてきたが,こうした津波対策は,平常時の海への眺望やアクセスを阻害し,港内外の水質交換を妨げ,さらには巨大な建設費を要するために,最近の環境問題・財政問題の観点から魅力ある対策とは言えなくなってきた.沿岸部に位置する海岸林は, その地域の自然・景観・文化の大きな構成要素となっている.海岸林が地域の景観・環境に貢献するとともに,その存在が津波防災効果を持てばたいへん望ましいことである.このような観点から,仙台湾沿岸における海岸林の津波減災力の試算(原田ら, 2000)などの研究が行われるようになった.一方,東南アジア諸国では一般に多大な建設費を要する構造物による対策が現実的ではなく,造成コストの面からも,海岸林による津波対策がきわめて有力となっている.2500名を超える死者が発生した1998年パプアニューギニア津波の復興会議では,密生したマングローブや常緑樹によって津波被害を軽減しようとする試みが提案されており(Hiraishi,2000),その後の2000年スラウェシ島津波(Amri, 2002)や,死者・行方不明者25万人を超えるインド洋大津波(Danielsen et al., 2005, 田中ら, 2005)においても,沿岸のマングローブ林が津波の流体力を減衰させ,背後の集落の被害を軽減したことが報告されている.アジア・太平洋経済協力会議(APEC)の関連活動として地震・津波災害軽減技術の開発プロジェクト(APEC-EqTAP)が,1999年から2003年度に実施されたが,その中で海岸林の活用による津波軽減技術の開発が,わが国とインドネシアをはじめとするアジア諸国の間で議論され,国際技術協力として大いなる成果を挙げている(Subandono, 2005, Widjo, 2005).このように海岸林の活用は,国の内外を問わず今日的で魅力的な津波対策と言える.国土保全・防災を主題とする土木工学の研究者も, 海岸林に大きな関心を抱くようになってきた.土木工学の津波防災の分野では, 以前から海岸林による津波エネルギーの軽減効果が研究されてきた(たとえば首藤, 1985).これまでの研究では,樹木に作用する津波流の特性など流体力学に主眼を置いた研究がほとんどであったが (例えば原田・今村,2003,今井ら 2004),最近では枝や樹冠部の流体抵抗を評価する上で樹木形態の特性を考察に取り入れたり(今井・鈴木,2005,浅野ら,2007), 樹木の生長や立木密度の年代的な変化を考慮して防潮林の津波機能を評価する研究(浅野・岩塚,2006)など,林学の知見を組み込んだ研究が発表されるようになってきた.一方,林学の分野においても古くから海岸林の持つ津波災害に対する防潮機能が研究されており,たとえば石川(1992)に歴史的な研究が紹介されている.近年,林野庁は, 津波に対する防災機能の高い海岸林の造成・育成・保全管理について研究を開始している(林野庁, 2005).その報告書では, わが国の津波危険地帯にある海岸林の管理・施業・住民による利用状況や, 林分内容, 保全管理の状況などが示されている.しかし, 海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし, 津波防災を目的に造成されたものではない.よって, この課題の本格的な研究はきわめて少なく, 現状の理解は不十分な状況と言える.海岸林の林帯幅, 海岸線からの距離, 地盤標高, 立木密度などが与えられたとき, 定量的にどの程度の津波被害の軽減効果が見込まれるのか, こうした見地に立った信頼できる研究が十分には蓄積されていない.そのために, 現状では海岸林を適切に育成・管理すれば津波防災施設として大きく貢献するものであるのに, その活用が図れていない場合や,逆に,現状の規模・状態の海岸林に対して過度の津波防災効果を期待してしまう場合など,合理的な海岸林の津波防災能力の評価がなされていない.
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海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし、津波防災を目的に造成されたものですか。
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いいえ、海岸林はもともと防風・潮害防備・飛砂防備を目的とし、津波防災を目的に造成されたものではありません。
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JCRRAG_001714
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地理
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4. 海岸の地形
海岸の地形には以下のようなものがあります。
(1)海岸平野
海岸平野とは、隆起または海面低下(沈降)によって、遠浅の海底の堆積面が上昇し、海岸線と平行に形成された平野のことです。
代表的なのは、新潟県にある新潟平野(越後平野ともいう)、千葉県にある九十九里浜、宮崎県にある宮崎平野、そしてアメリカ西海岸です。
(2)リアス海岸
リアス海岸とは、壮年期の山地が沈降または海面上昇してできた岬と入り江が鋸状に配列した海岸のことです。
代表的なのは、岩手県にある三陸海岸、福井県にある若狭湾、スペインにあるリアスです。
(3)フィヨルド(峡湾)
フィヨルドは氷河で形成された氷食谷のU字谷に海水が進入してできた入江で、別名は峡湾です。
フィヨルドはノルウェー北西岸、グリーンランド、アラスカ、チリ南部、ニュージーランド南島などに存在し、なかでもノルウェーのソグネフィヨルドは世界最大のフィヨルドとして知られています。
(4)三角江(エスチュアリー)
三角江とは、河川の河口が沈水したことによって生じるラッパ型の入江のことです。エスチュアリーと呼ばれることもあります。
代表的なのは、ロンドンにあるテムズ川、ハンブルクにあるエルベ川、ブエノスアイレスにあるラプラタ川、フランスにあるジロンド川とセーヌ川、カナダにあるセントローレンス川です。
なお、リアス海岸、フィヨルド(峡湾)、三角江(エスチュアリー)の3つは沈水海岸(沈降海岸)に分類されます。
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海岸平野とは何ですか。
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海岸平野とは、遠浅の海底の堆積面が隆起または海面低下(沈降)によって上昇し、海岸線と平行に形成された平野のことです。
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JCRRAG_001715
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地理
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琵琶湖は,1993年に釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議において条約に登録された。その前年に滋賀県琵琶湖研究所でアジア湿地シンポジウム(1)が開催されているが,これを契機に知事が記者会見で登録の意思表示をしたのが発端である。登録までの準備期間が半年ほどしかなかったため,関係者もラムサール条約を十分に咀嚼する余裕がなく,登録後も条約湿地として何をしなければならないのかについての啓発は不十分な状態が続いていた(安藤,2000)。これに変化が生じるのは,世紀が変わる前後からである。
いかなる場所を条約湿地とするかは,締約国の自主的な判断に任されていた。そのため,審査に当たって幅広い考えをもつ国と,厳密かつ慎重に考える国が生じてくる。日本の立場は,国設の鳥獣保護区の中の特別保護区という厳しい規制が課されている湿地の中から条約湿地を選ぶというものであった。琵琶湖の場合,湖全域が1971年に県設の鳥獣保護区になっているが,国が直接厳しく管理できる体制にはなっていなかった。これに対して須川恒は,琵琶湖が条約湿地となった背景には,1992年に成立したヨシ群落保全条例が重要な役割を果たしたのではないかと推測している(須川,1994a)。
釧路市での第5回締約国会議の開催に関わった辻井達一は,この会議のひとつの意義そして期待は,アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすこと,そして加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べている(辻井,1993)。また,当時旧環境庁でこの会議を担当していた名執芳博は,この会議を誘致した目的は,湿地の重要性およびラムサール条約に関する人々の関心を日本およびアジア地域で高めることにあったとし,これと並行してそれまで4ヵ所だった日本のラムサール条約湿地を2桁にすることにも取り組んだと述べている(名執,2017)。したがって琵琶湖の登録は,偶然とはいえラムサール条約の運用が大きく転換する分岐点でなされたことになる。
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ラムサール条約第5回締約国会議は何年に開催されましたか。
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ラムサール条約第5回締約国会議は1993年に開催されました。
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JCRRAG_001716
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地理
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本稿の目的は,インド国勢調査のデータを分析することを通じて,インドの空間構造を把握するための材料を提示することにある。具体的には,主に経済的属性を集計した2011年国勢調査Bシリーズのデータについて主成分析を行い,就業機会の基本的な次元と地理的な分布を明らかにする。その上で,クラスター分析を行い就業機会の地区類型を提示する。2011年の一時点に過ぎないものの,等質地域として量的に把握される地区類型を手がかりに,インドを全体とした空間構造の解明につなげたい(1)。
発展途上国では農業を中心とした自給制の強い自然経済システムを色濃く残す地域がみられるものの,経済成長にともなって個々の地域は市場メカニズムの下に位置づけられていく。こうしたことを前提に岡橋(2015a)は,現代インドの空間構造を明らかにするためには「地理,自然,社会,文化などの初期条件を基礎として歴史的に形成されてきた地域的再生産構造(地帯構成)」だけでなく,「経済発展にともない急速に影響力を増大させた経済的空間構造(新経済空間)」も把握する必要があるとする。そして,特に後者との関連において,「新経済地理学の重視する「産業の集中・集積」,地域構造論の重視する「産業配置(産業立地,地域循環)」と「地域経済(産業地域,経済圏)」が重要な意味をもつ」(p.11)ことを指摘する。
インドにおいて経済自由化以降に大きな成長を遂げた産業の立地や集積については,例えば工業化を主導する自動車産業(友澤,2015)や,世界的な競争力を有するICTサービス産業(鍬塚,2015)といった成長産業が取り上げられ,分業システムの構築や労働力の確保を狙った企業の立地戦略といった観点から検討が重ねられている。また,そこに及ぼす外国資本の影響も無視できないものであり,インドにおける日本企業の立地行動からのアプローチもある(宇根,2018)。
加えて,全国的な視点からChakravorty and Somik(2007)が製造業の地理的な分布の変化を空間統計学の手法を用いて明らかにし,政策のもつ外部性と産業立地との関連について論じたように,政策の及ぼす影響も「新経済空間」を把握するためには無視できない。なかでも地域政策は,「政治過程を通じた政府の介入,すなわち産業立地を誘導(規制)し,地域格差や地域問題の解決を図り,インフラなどの建造環境形成に大きな影響を与える」(岡橋,2015a,p.12)。いくつかの事例(例えば,友澤,2014;鍬塚,2014)からも示されるように,経済自由化以降のインドでは,外資も含めた民間企業の立地行動の活発化とともに,その誘致を梃子に雇用を生み出し経済的な成長を遂げようとする州政府や中央政府の行動も重要である。こうした動きは,州政府が期待を寄せる大規模なSEZ開発(佐藤,2017)だけでなく,小規模な事業所が多くを占めるアパレル産業のクラスター形成(宇根,2011)を目指す中央政府の政策からも捉えることができよう。
以上のように,個別産業の立地や集積に焦点を当てる一連の研究を通じて,産業立地を誘導しようとする政府の行動と,それを秤量する企業の立地行動が明らかにされつつあり,その間に立ち上がる「新経済空間」の姿を垣間見ることができるようになってきた。
一方で,歴史的な貫通性をもつ「地帯構成」も視野に入れた検討は,まだまだこれからの課題であろう(2)。もちろん,「緑の革命」を経ても一様には進まない農村社会や農業生産構造の変容が,開発行政や労働力移動,農村市場とのかかわりから明らかにされている(柳澤・水島編,2014)。また,農業発展の様態の違いや農業を取り巻く非農業部門の成長の有無は,農業の担い手の変化を通じて地域の農村社会経済に大きく影響を及ぼしており,宇佐美ほか(2015)では,パンジャーブ,タミル・ナードゥ,ビハールについてそれらの特徴を比較し整理する。しかし,「新経済空間」との関係において「地域的再生産構造」が,いかなる編成替えを受けつつあるのかについて,踏み込んだ検討はこれからの課題となっている。
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外資も含めた民間企業の誘致を梃子に雇用を生み出し経済的な成長を遂げようとする動きは、中央政府のどのような政策から捉えることができますか。
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外資も含めた民間企業の誘致を梃子に雇用を生み出し経済的な成長を遂げようとする動きは、中央政府の、アパレル産業のクラスター政策を目指す政策から捉えることができます。
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JCRRAG_001717
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地理
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本稿の目的は,インド国勢調査のデータを分析することを通じて,インドの空間構造を把握するための材料を提示することにある。具体的には,主に経済的属性を集計した2011年国勢調査Bシリーズのデータについて主成分析を行い,就業機会の基本的な次元と地理的な分布を明らかにする。その上で,クラスター分析を行い就業機会の地区類型を提示する。2011年の一時点に過ぎないものの,等質地域として量的に把握される地区類型を手がかりに,インドを全体とした空間構造の解明につなげたい(1)。
発展途上国では農業を中心とした自給制の強い自然経済システムを色濃く残す地域がみられるものの,経済成長にともなって個々の地域は市場メカニズムの下に位置づけられていく。こうしたことを前提に岡橋(2015a)は,現代インドの空間構造を明らかにするためには「地理,自然,社会,文化などの初期条件を基礎として歴史的に形成されてきた地域的再生産構造(地帯構成)」だけでなく,「経済発展にともない急速に影響力を増大させた経済的空間構造(新経済空間)」も把握する必要があるとする。そして,特に後者との関連において,「新経済地理学の重視する「産業の集中・集積」,地域構造論の重視する「産業配置(産業立地,地域循環)」と「地域経済(産業地域,経済圏)」が重要な意味をもつ」(p.11)ことを指摘する。
インドにおいて経済自由化以降に大きな成長を遂げた産業の立地や集積については,例えば工業化を主導する自動車産業(友澤,2015)や,世界的な競争力を有するICTサービス産業(鍬塚,2015)といった成長産業が取り上げられ,分業システムの構築や労働力の確保を狙った企業の立地戦略といった観点から検討が重ねられている。また,そこに及ぼす外国資本の影響も無視できないものであり,インドにおける日本企業の立地行動からのアプローチもある(宇根,2018)。
加えて,全国的な視点からChakravorty and Somik(2007)が製造業の地理的な分布の変化を空間統計学の手法を用いて明らかにし,政策のもつ外部性と産業立地との関連について論じたように,政策の及ぼす影響も「新経済空間」を把握するためには無視できない。なかでも地域政策は,「政治過程を通じた政府の介入,すなわち産業立地を誘導(規制)し,地域格差や地域問題の解決を図り,インフラなどの建造環境形成に大きな影響を与える」(岡橋,2015a,p.12)。いくつかの事例(例えば,友澤,2014;鍬塚,2014)からも示されるように,経済自由化以降のインドでは,外資も含めた民間企業の立地行動の活発化とともに,その誘致を梃子に雇用を生み出し経済的な成長を遂げようとする州政府や中央政府の行動も重要である。こうした動きは,州政府が期待を寄せる大規模なSEZ開発(佐藤,2017)だけでなく,小規模な事業所が多くを占めるアパレル産業のクラスター形成(宇根,2011)を目指す中央政府の政策からも捉えることができよう。
以上のように,個別産業の立地や集積に焦点を当てる一連の研究を通じて,産業立地を誘導しようとする政府の行動と,それを秤量する企業の立地行動が明らかにされつつあり,その間に立ち上がる「新経済空間」の姿を垣間見ることができるようになってきた。
一方で,歴史的な貫通性をもつ「地帯構成」も視野に入れた検討は,まだまだこれからの課題であろう(2)。もちろん,「緑の革命」を経ても一様には進まない農村社会や農業生産構造の変容が,開発行政や労働力移動,農村市場とのかかわりから明らかにされている(柳澤・水島編,2014)。また,農業発展の様態の違いや農業を取り巻く非農業部門の成長の有無は,農業の担い手の変化を通じて地域の農村社会経済に大きく影響を及ぼしており,宇佐美ほか(2015)では,パンジャーブ,タミル・ナードゥ,ビハールについてそれらの特徴を比較し整理する。しかし,「新経済空間」との関係において「地域的再生産構造」が,いかなる編成替えを受けつつあるのかについて,踏み込んだ検討はこれからの課題となっている。
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Chakravorty and Somikは製造業の地理的な分布の変化を何学の手法を用いて明らかにしましたか。
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Chakravorty and Somikは製造業の地理的な分布の変化を空間統計学の手法を用いて明らかにしました。
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JCRRAG_001718
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地理
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北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカ Cervus Nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネ Vulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月~2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3~5月、夏:6~8月、秋:9~11月、冬:12~2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100~800mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
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北海道十勝地域の森林は何に伴って大きく減少していますか。
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北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しています。
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JCRRAG_001719
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地理
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本稿の目的は,重要文化的景観に選定されている熊本県天草市崎津地区崎津を事例に,「カケ」と「トウヤ」と呼ばれる構造物を特徴とする「漁村景観」が維持されてきた背景を,景観保全活動や生業活動とくに漁業の歴史的変遷や個別漁家の経営形態がカケとトウヤの利用・維持とどのように関わってきたのかを考察することから,明らかにすることである。
近年,重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区(以下,重伝建)等の国内制度は,世界遺産やジオパーク等のより大きなスケールで展開する制度の下部に存在するものとされる傾向にある(1)。例えば,金沢市は最終的に「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録することを目指しているが,そのステップとして重要文化的景観や重伝建等の国内の制度で保全対象となることを目標に,様々な取り組みを展開してきた(石川県・金沢市,2007;金沢市,2009)。
このうち重伝建については,1976年に妻籠宿が選定されて以降,様々な地域で歴史的景観の保全が地域清性化への期待も込めて取り組まれてきた(荒山,1999)。こうしたなかで,地理学分野においても重伝建の保全に関する様々な取り組み事例が報告されてきた(小堀,1999;溝尾・菅原,2000;大島,2005など)。
他方,重要文化的景観については制度の発足が2004年と新しく,研究蓄積は重伝建に比べて少ない。文化的景観とは「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」(文化財保護法第二条第1項第五号)とされ,2004年の文化財保護法の改正で文化財の種別に加えられた。生活スタイルの近代化や産業構造,経済状況が変化し,文化的景観の基盤にあった生活や生業が失われたり,一部が欠落したりするなかで,その保全は急務とされている(金田,2012)。
このうち重要文化的景観とは,「都道府県又は市町村の申出に基づき,当該都道府県又は市町村が定める景観法(第八条第二項第一号)に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって,文部科学省令で定める基準に照らして当該都道府県又は市町村がその保存のため必要な措置を講じているもののうち特に重要なものを重要文化的景観として選定することができる」(文化財保護法第百三十四条)とされている。そして重要文化的景観には,必然的劣化を許容しつつ現実の生活のなかで動態的に維持していくために政策的支援の必要なものが選定されている(金田,2012)。
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熊本県天草市崎津地区崎津では、何と呼ばれる構造物を特徴とする漁村景観が維持されてきましたか。
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熊本県天草市崎津地区崎津では、カケとトウヤと呼ばれる構造物を特徴とする漁村景観が維持されてきましたか。
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JCRRAG_001720
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地理
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お茶は日本の近代化を支えた主要な輸出品ゆえに地図記号に採用された。茶畑(茶園.葉園)の地図記号は,明治6年の『行軍測絵』,明治11年の「測絵図譜』,明治16年の迅速図式を経て,明治17年の仮製二万分一以降(∴)である。茶畑の∴印は,国土地理院によれば茶の実の横断面形に由来するという。しかし国土地理院には,地図記号の由来を記した公文書はなく,閲係者の口伝によっている。茶の実は三つ種が基本であるが,一つ種,二つ種のものもあり一定でない。ところで将軍家御用老舗の宇治茶師,上林三入氏は.商標が三ッ星で,これが茶畑の地図記号になったとしている。茶畑と同種の地図記号に史跡・名勝・天然記念物がある。これは昭和40年に採用された。この記号は,明治11年の『測絵図譜』に「名勝古跡」としてすでに存在している。この記号はフランスをはじめヨーロッパで使用されてきたもので,∴記号の由来には考えてみるべき背景がいろいろとありそうである。
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お茶が地図記号に採用されたのはなぜですか。
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お茶が地図記号に採用されたのは、日本の近代化を支えた主要な輸出品だったからです。
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JCRRAG_001721
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地理
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琵琶湖は,1993年に釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議において条約に登録された。その前年に滋賀県琵琶湖研究所でアジア湿地シンポジウム(1)が開催されているが,これを契機に知事が記者会見で登録の意思表示をしたのが発端である。登録までの準備期間が半年ほどしかなかったため,関係者もラムサール条約を十分に咀嚼する余裕がなく,登録後も条約湿地として何をしなければならないのかについての啓発は不十分な状態が続いていた(安藤,2000)。これに変化が生じるのは,世紀が変わる前後からである。
いかなる場所を条約湿地とするかは,締約国の自主的な判断に任されていた。そのため,審査に当たって幅広い考えをもつ国と,厳密かつ慎重に考える国が生じてくる。日本の立場は,国設の鳥獣保護区の中の特別保護区という厳しい規制が課されている湿地の中から条約湿地を選ぶというものであった。琵琶湖の場合,湖全域が1971年に県設の鳥獣保護区になっているが,国が直接厳しく管理できる体制にはなっていなかった。これに対して須川恒は,琵琶湖が条約湿地となった背景には,1992年に成立したヨシ群落保全条例が重要な役割を果たしたのではないかと推測している(須川,1994a)。
釧路市での第5回締約国会議の開催に関わった辻井達一は,この会議のひとつの意義そして期待は,アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすこと,そして加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べている(辻井,1993)。また,当時旧環境庁でこの会議を担当していた名執芳博は,この会議を誘致した目的は,湿地の重要性およびラムサール条約に関する人々の関心を日本およびアジア地域で高めることにあったとし,これと並行してそれまで4ヵ所だった日本のラムサール条約湿地を2桁にすることにも取り組んだと述べている(名執,2017)。したがって琵琶湖の登録は,偶然とはいえラムサール条約の運用が大きく転換する分岐点でなされたことになる。
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ラムサール条約第5回締約国会議の前年に滋賀県琵琶湖研究所で開催されたのは何ですか。
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ラムサール条約第5回締約国会議の前年に滋賀県琵琶湖研究所で開催されたのは、アジア湿地シンポジウムです。
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JCRRAG_001722
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地理
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北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカ Cervus Nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネ Vulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月~2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3~5月、夏:6~8月、秋:9~11月、冬:12~2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100~800mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
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エキノコックス症を媒介する動物はなんですか。
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エキノコックス症を媒介する動物はアカギツネです。
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JCRRAG_001723
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地理
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谷津環境は特に関東地方における特徴的な里山の風景の一部であり、森林と水田がセットとなってモザイク状に分布する生物多様性の高い空間として認識されている(守山1992,1997;長谷川1995;東・武内1998;山田2011など)。一方、関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境は急激に減少しており、その保全の重要性は様々な研究において指摘されている(大澤・勝野1998;高橋ほか2006など)。カエル類やトンボ類は、湧き水や水路・水田が多いこの谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されており(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003;長谷川2003)、ニホンアカガエル Rana japonicaもその中の1種である。ニホンアカガエルは、1~3月の早春に水田や水路、放棄水田の中の水たまりなどの浅く開けた水域に産卵し、5~6月にオタマジャクシから変態し上陸する(長谷川1995;門脇2002)。成体は主に林縁に多く出現し、草地や森林内も利用するとされているため(長谷川1995;片野ほか2001)、森林と水田の接点が多い谷津田の環境は本種の生息によく適している(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003)。全国的には普通種であるが、地域によっては絶滅の恐れのある種としてレッドリストに掲載されており、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されているほか、千葉県や和歌山県などでは最も絶滅リスクの高い種としてランク付けされている(長谷川2011;玉井2012)。
主な絶滅リスクとしては、水田の乾田化による繁殖環境の減少や、都市化による水田の減少、生息地の分断による孤立化などが挙げられている(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;長谷川2011)。都市近郊において谷津環境は既に保全地区として保全活動がなされている場合が多く、乾田化や都市化は食い止められているものの、すでに孤立化が進んでいる状態であると考えられ、生息地間のネットワークの回復に向けた取り組みが重要となる(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;大澤ほか2003;Beebee2005;Rubbo and Kiesecker2005)。ニホンアカガエルの生息地の連続性については、夏原・神原(2001)が大阪府南部を対象として、比較的大きなスケールである500mメッシュでの解析から、森林や水田などの景観要素の連続性の維持が個体群の回復や存続に重要である事を報告している。また、大澤・勝野(1998)も柏尾川流域を対象にしたカエル類の生息確認調査から、個体群の維持には水田などの生息環境の連続性が重要である事を報告している。
しかし、生息環境の空間的な連続性のみでなく、集団間における実際の個体の交流を知ることが重要であるため(Rubbo and Kiesecker2005)、遺伝的な手法により個別地点間の個体群の連続性や孤立の度合を評価する必要があると考えられる。Lesbarréres et al.(2006)はダルマチアアカガエル Rana dalmatinaにおいて、酵素多型の多様度の違いによって、高速道路による生息地の分断化を検出し、Safner et al.(2011)はヨーロッパアカガエル Rana temporariaの個体群に対して、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的構造の解析によって、一般道も含めた道路の交通量等による分断化の影響の度合いを詳細に報告している。これらの報告はいずれも遺伝的多様性を表す各指標や近交係数、繁殖グループを反映していると考えられる遺伝的構造を把握する事で、個体群の健全性や分断化を評価している。また、著者らも印旛沼西岸地域でミトコンドリアDNAの多型解析から、10m幅の道路や3m×3mのコンクリート張りの水路が、個体群の遺伝的構造に影響を与え、生息地間の連続性を制限する要因となっている事を報告している(Kobayashi et al.2013)。このように実際の保全の現場で遺伝的多様性の各指標や遺伝的構造を把握し、生息地の連続性を評価していく事で、周辺の生息地との連続性を維持・回復させるなどの保全対策を科学的な根拠を持って選択する事が可能となると考えられる。
本研究では千葉市の中心部に程近い都市近郊において、地元のNPO法人等の活動によりビオトープとして谷津環境が保全されてきた坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里を中心とした千葉市若葉区北部のニホンアカガエル個体群を調査対象として選定した。本調査地のような都市近郊においては、ニホンアカガエルの遺伝的構造および遺伝的多様性に影響を及ぼす可能性のある事柄は多岐にわたる。例えば高度経済成長期における開発の影響として、河川の護岸工事などによる繁殖環境の減少やそれに伴う連続性の喪失、住宅地の拡大により成体の活動環境が縮小した事による個体数の漸減やそれに伴う遺伝的浮動による遺伝的多様性の低下等が上げられる。また、都市近郊の繁殖地では、他地点からの幼生や卵塊の人為的な導入などの活動がかつて実施されていた可能性も否定できない。加えて、本調査地域では北東側と南西側で水系が異なっているため、水系の違いによる影響も考慮する必要がある。本研究では、とくに住宅地に囲まれたビオトープである坂月川ビオトープに焦点を当てて現状の遺伝的構造や遺伝的多様性を解析し、どの程度周辺個体群との遺伝的交流が保たれているのか、またその要因について過去の開発の背景なども踏まえて考察する事で、都市近郊における谷津環境の保全に向けた対応策を検討した。
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関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、何が急激に減少していますか。
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関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境が急激に減少しています。
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JCRRAG_001724
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地理
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本稿の目的は,重要文化的景観に選定されている熊本県天草市崎津地区崎津を事例に,「カケ」と「トウヤ」と呼ばれる構造物を特徴とする「漁村景観」が維持されてきた背景を,景観保全活動や生業活動とくに漁業の歴史的変遷や個別漁家の経営形態がカケとトウヤの利用・維持とどのように関わってきたのかを考察することから,明らかにすることである。
近年,重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区(以下,重伝建)等の国内制度は,世界遺産やジオパーク等のより大きなスケールで展開する制度の下部に存在するものとされる傾向にある(1)。例えば,金沢市は最終的に「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録することを目指しているが,そのステップとして重要文化的景観や重伝建等の国内の制度で保全対象となることを目標に,様々な取り組みを展開してきた(石川県・金沢市,2007;金沢市,2009)。
このうち重伝建については,1976年に妻籠宿が選定されて以降,様々な地域で歴史的景観の保全が地域清性化への期待も込めて取り組まれてきた(荒山,1999)。こうしたなかで,地理学分野においても重伝建の保全に関する様々な取り組み事例が報告されてきた(小堀,1999;溝尾・菅原,2000;大島,2005など)。
他方,重要文化的景観については制度の発足が2004年と新しく,研究蓄積は重伝建に比べて少ない。文化的景観とは「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」(文化財保護法第二条第1項第五号)とされ,2004年の文化財保護法の改正で文化財の種別に加えられた。生活スタイルの近代化や産業構造,経済状況が変化し,文化的景観の基盤にあった生活や生業が失われたり,一部が欠落したりするなかで,その保全は急務とされている(金田,2012)。
このうち重要文化的景観とは,「都道府県又は市町村の申出に基づき,当該都道府県又は市町村が定める景観法(第八条第二項第一号)に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって,文部科学省令で定める基準に照らして当該都道府県又は市町村がその保存のため必要な措置を講じているもののうち特に重要なものを重要文化的景観として選定することができる」(文化財保護法第百三十四条)とされている。そして重要文化的景観には,必然的劣化を許容しつつ現実の生活のなかで動態的に維持していくために政策的支援の必要なものが選定されている(金田,2012)。
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近年、重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区等の国内制度は、どのような制度の下部に存在するものとされる傾向にありますか。
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近年、重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区等の国内制度は、世界遺産やジオパーク等のより大きなスケールで展開する制度の下部に存在するものとされる傾向にあります。
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JCRRAG_001725
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地理
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北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカ Cervus Nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネ Vulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月~2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3~5月、夏:6~8月、秋:9~11月、冬:12~2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100~800mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
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キツネの春の河畔林利用頻度は周辺200mに森林が多いほど低くなりましたか。
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はい、キツネの春の河畔林利用頻度は周辺200mに森林が多いほど低くなりました。
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JCRRAG_001726
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地理
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谷津環境は特に関東地方における特徴的な里山の風景の一部であり、森林と水田がセットとなってモザイク状に分布する生物多様性の高い空間として認識されている(守山1992,1997;長谷川1995;東・武内1998;山田2011など)。一方、関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境は急激に減少しており、その保全の重要性は様々な研究において指摘されている(大澤・勝野1998;高橋ほか2006など)。カエル類やトンボ類は、湧き水や水路・水田が多いこの谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されており(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003;長谷川2003)、ニホンアカガエル Rana japonicaもその中の1種である。ニホンアカガエルは、1~3月の早春に水田や水路、放棄水田の中の水たまりなどの浅く開けた水域に産卵し、5~6月にオタマジャクシから変態し上陸する(長谷川1995;門脇2002)。成体は主に林縁に多く出現し、草地や森林内も利用するとされているため(長谷川1995;片野ほか2001)、森林と水田の接点が多い谷津田の環境は本種の生息によく適している(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003)。全国的には普通種であるが、地域によっては絶滅の恐れのある種としてレッドリストに掲載されており、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されているほか、千葉県や和歌山県などでは最も絶滅リスクの高い種としてランク付けされている(長谷川2011;玉井2012)。
主な絶滅リスクとしては、水田の乾田化による繁殖環境の減少や、都市化による水田の減少、生息地の分断による孤立化などが挙げられている(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;長谷川2011)。都市近郊において谷津環境は既に保全地区として保全活動がなされている場合が多く、乾田化や都市化は食い止められているものの、すでに孤立化が進んでいる状態であると考えられ、生息地間のネットワークの回復に向けた取り組みが重要となる(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;大澤ほか2003;Beebee2005;Rubbo and Kiesecker2005)。ニホンアカガエルの生息地の連続性については、夏原・神原(2001)が大阪府南部を対象として、比較的大きなスケールである500mメッシュでの解析から、森林や水田などの景観要素の連続性の維持が個体群の回復や存続に重要である事を報告している。また、大澤・勝野(1998)も柏尾川流域を対象にしたカエル類の生息確認調査から、個体群の維持には水田などの生息環境の連続性が重要である事を報告している。
しかし、生息環境の空間的な連続性のみでなく、集団間における実際の個体の交流を知ることが重要であるため(Rubbo and Kiesecker2005)、遺伝的な手法により個別地点間の個体群の連続性や孤立の度合を評価する必要があると考えられる。Lesbarréres et al.(2006)はダルマチアアカガエル Rana dalmatinaにおいて、酵素多型の多様度の違いによって、高速道路による生息地の分断化を検出し、Safner et al.(2011)はヨーロッパアカガエル Rana temporariaの個体群に対して、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的構造の解析によって、一般道も含めた道路の交通量等による分断化の影響の度合いを詳細に報告している。これらの報告はいずれも遺伝的多様性を表す各指標や近交係数、繁殖グループを反映していると考えられる遺伝的構造を把握する事で、個体群の健全性や分断化を評価している。また、著者らも印旛沼西岸地域でミトコンドリアDNAの多型解析から、10m幅の道路や3m×3mのコンクリート張りの水路が、個体群の遺伝的構造に影響を与え、生息地間の連続性を制限する要因となっている事を報告している(Kobayashi et al.2013)。このように実際の保全の現場で遺伝的多様性の各指標や遺伝的構造を把握し、生息地の連続性を評価していく事で、周辺の生息地との連続性を維持・回復させるなどの保全対策を科学的な根拠を持って選択する事が可能となると考えられる。
本研究では千葉市の中心部に程近い都市近郊において、地元のNPO法人等の活動によりビオトープとして谷津環境が保全されてきた坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里を中心とした千葉市若葉区北部のニホンアカガエル個体群を調査対象として選定した。本調査地のような都市近郊においては、ニホンアカガエルの遺伝的構造および遺伝的多様性に影響を及ぼす可能性のある事柄は多岐にわたる。例えば高度経済成長期における開発の影響として、河川の護岸工事などによる繁殖環境の減少やそれに伴う連続性の喪失、住宅地の拡大により成体の活動環境が縮小した事による個体数の漸減やそれに伴う遺伝的浮動による遺伝的多様性の低下等が上げられる。また、都市近郊の繁殖地では、他地点からの幼生や卵塊の人為的な導入などの活動がかつて実施されていた可能性も否定できない。加えて、本調査地域では北東側と南西側で水系が異なっているため、水系の違いによる影響も考慮する必要がある。本研究では、とくに住宅地に囲まれたビオトープである坂月川ビオトープに焦点を当てて現状の遺伝的構造や遺伝的多様性を解析し、どの程度周辺個体群との遺伝的交流が保たれているのか、またその要因について過去の開発の背景なども踏まえて考察する事で、都市近郊における谷津環境の保全に向けた対応策を検討した。
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谷津環境は何の多様性が高い空間として認識されていますか。
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谷津環境は生物多様性が高い空間として認識されています。
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JCRRAG_001727
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地理
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、「さとやま」(鷲谷2011))は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境にかかわる重要な課題の一つとして認識されている(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010;Kadoya and Washitani2011)。そのための政策の立案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやまの特性を抽出できる指標の開発が求められている(Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。
また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の社会的な動きとして、2010年に名古屋において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案が採択された(Jリポート2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の生物多様性国家戦略(環境省2012)では、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国立公園の拡充(佐々木2012)や、日本政府が奄美群島を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに環境省によって具体的な計画が検討されている(「世界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環境省・林野庁)」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21450&hou_id=16268、2013年2月13日確認)。
平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定された既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境庁自然保護局1997)。したがって、国立・国定公園が原生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことがない。
さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系のモザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland2002;楠本ほか2006;Hendrickx et al.2007;Billeter et al.2008;Firbank et al.2008;Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。そのような分析・評価に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によって「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映させた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の占有率が低いほど高い値をとる。
Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′×3′(約6km)四方を単位空間として、そこに含まれる30″(約1km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群(サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示した。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および解像度(セル)の検討をそれぞれ2km四方~10km四方、50m~1000m四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物種分布の説明モデルとしては、6km四方の空間単位と解像度50m四方のセルを用いた場合が最も種の分布をよく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らかにした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010)を反映していることによっており、この解像度での分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化においても有効であると考えられる。
生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくられた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば村井・樋口1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」として、「農業-さとやま的土地利用」とは別の土地利用類型を設けることが望ましい。
本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013)によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するように調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとやま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地図化を試みた。すなわち、50m×50mの区画セルに分けた国土を「原生的土地利用」、「農業-さとやま的土地利用」「人工林」「都市的土地利用」の4類型に分類し、農業-さとやま的土地利用に分類された区域については、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山は、何にとって重要な空間ですか。
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山は、生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間です。
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JCRRAG_001728
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地理
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、「さとやま」(鷲谷2011))は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境にかかわる重要な課題の一つとして認識されている(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010;Kadoya and Washitani2011)。そのための政策の立案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやまの特性を抽出できる指標の開発が求められている(Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。
また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の社会的な動きとして、2010年に名古屋において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案が採択された(Jリポート2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の生物多様性国家戦略(環境省2012)では、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国立公園の拡充(佐々木2012)や、日本政府が奄美群島を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに環境省によって具体的な計画が検討されている(「世界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環境省・林野庁)」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21450&hou_id=16268、2013年2月13日確認)。
平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定された既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境庁自然保護局1997)。したがって、国立・国定公園が原生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことがない。
さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系のモザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland2002;楠本ほか2006;Hendrickx et al.2007;Billeter et al.2008;Firbank et al.2008;Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。そのような分析・評価に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によって「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映させた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の占有率が低いほど高い値をとる。
Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′×3′(約6km)四方を単位空間として、そこに含まれる30″(約1km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群(サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示した。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および解像度(セル)の検討をそれぞれ2km四方~10km四方、50m~1000m四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物種分布の説明モデルとしては、6km四方の空間単位と解像度50m四方のセルを用いた場合が最も種の分布をよく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らかにした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010)を反映していることによっており、この解像度での分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化においても有効であると考えられる。
生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくられた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば村井・樋口1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」として、「農業-さとやま的土地利用」とは別の土地利用類型を設けることが望ましい。
本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013)によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するように調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとやま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地図化を試みた。すなわち、50m×50mの区画セルに分けた国土を「原生的土地利用」、「農業-さとやま的土地利用」「人工林」「都市的土地利用」の4類型に分類し、農業-さとやま的土地利用に分類された区域については、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。
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平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園にどのような役割がその設置や管理の目的に含められましたか。
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平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園の設置や管理の目的に含められたのは、生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割です。
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JCRRAG_001729
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地理
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琵琶湖は,1993年に釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議において条約に登録された。その前年に滋賀県琵琶湖研究所でアジア湿地シンポジウム(1)が開催されているが,これを契機に知事が記者会見で登録の意思表示をしたのが発端である。登録までの準備期間が半年ほどしかなかったため,関係者もラムサール条約を十分に咀嚼する余裕がなく,登録後も条約湿地として何をしなければならないのかについての啓発は不十分な状態が続いていた(安藤,2000)。これに変化が生じるのは,世紀が変わる前後からである。
いかなる場所を条約湿地とするかは,締約国の自主的な判断に任されていた。そのため,審査に当たって幅広い考えをもつ国と,厳密かつ慎重に考える国が生じてくる。日本の立場は,国設の鳥獣保護区の中の特別保護区という厳しい規制が課されている湿地の中から条約湿地を選ぶというものであった。琵琶湖の場合,湖全域が1971年に県設の鳥獣保護区になっているが,国が直接厳しく管理できる体制にはなっていなかった。これに対して須川恒は,琵琶湖が条約湿地となった背景には,1992年に成立したヨシ群落保全条例が重要な役割を果たしたのではないかと推測している(須川,1994a)。
釧路市での第5回締約国会議の開催に関わった辻井達一は,この会議のひとつの意義そして期待は,アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすこと,そして加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べている(辻井,1993)。また,当時旧環境庁でこの会議を担当していた名執芳博は,この会議を誘致した目的は,湿地の重要性およびラムサール条約に関する人々の関心を日本およびアジア地域で高めることにあったとし,これと並行してそれまで4ヵ所だった日本のラムサール条約湿地を2桁にすることにも取り組んだと述べている(名執,2017)。したがって琵琶湖の登録は,偶然とはいえラムサール条約の運用が大きく転換する分岐点でなされたことになる。
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琵琶湖全域が県設の鳥獣保護区になったのは何年ですか。
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琵琶湖全域が県設の鳥獣保護区になったのは1971年です。
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JCRRAG_001730
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地理
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平成30年7月豪雨により,広島県南部の広範囲で多数の斜面崩壊が発生した。広域的に発生した斜面崩壊について,微地形分類を基に斜面崩壊地形を系統的に検討した研究はこれまで行われていない。そこで本稿では,平成30年7月豪雨による斜面崩壊が多発した広島県南部を対象に斜面崩壊の微地形分類を行い,地理情報システム(GIS)を用いて斜面崩壊の地域差とその要因について考察した。対象地域の東部では規模の小さい斜面崩壊が多く,西部では大小様々な規模の斜面崩壊が混在しており,50万m2以上の大規模なものもみられた。また,斜面崩壊が高密度に分布する場所が数カ所で認められ,場所により微地形の違いが観察された。それらの要因を検討するために,地形や岩質が異なる3つの地域(広島市南東部周辺,野呂山北東麓周辺,三原市本郷町西部)を取り上げ,崩壊の流下長,幅について検討した。微地形の違いは主に岩質によって説明でき,花崗岩類では斜面崩壊の幅が狭く,流下長のばらつきが大きい一方で,流紋岩類は斜面崩壊の幅が広く,ばらつきが小さいことが解った。また,緩斜面で多数の小規模な崩壊が分布する三原市本郷町西部では,風化物質の有無が崩壊の分布と微地形に影響している可能性がある。
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風化物質の有無が崩壊の分布と微地形に影響している可能性があるのは、どこですか。
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風化物質の有無が崩壊の分布と微地形に影響している可能性があるのは、緩斜面で多数の小規模な崩壊が分布する三原市本郷町西部です。
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JCRRAG_001731
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地理
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4. 海岸の地形
海岸の地形には以下のようなものがあります。
(1)海岸平野
海岸平野とは、隆起または海面低下(沈降)によって、遠浅の海底の堆積面が上昇し、海岸線と平行に形成された平野のことです。
代表的なのは、新潟県にある新潟平野(越後平野ともいう)、千葉県にある九十九里浜、宮崎県にある宮崎平野、そしてアメリカ西海岸です。
(2)リアス海岸
リアス海岸とは、壮年期の山地が沈降または海面上昇してできた岬と入り江が鋸状に配列した海岸のことです。
代表的なのは、岩手県にある三陸海岸、福井県にある若狭湾、スペインにあるリアスです。
(3)フィヨルド(峡湾)
フィヨルドは氷河で形成された氷食谷のU字谷に海水が進入してできた入江で、別名は峡湾です。
フィヨルドはノルウェー北西岸、グリーンランド、アラスカ、チリ南部、ニュージーランド南島などに存在し、なかでもノルウェーのソグネフィヨルドは世界最大のフィヨルドとして知られています。
(4)三角江(エスチュアリー)
三角江とは、河川の河口が沈水したことによって生じるラッパ型の入江のことです。エスチュアリーと呼ばれることもあります。
代表的なのは、ロンドンにあるテムズ川、ハンブルクにあるエルベ川、ブエノスアイレスにあるラプラタ川、フランスにあるジロンド川とセーヌ川、カナダにあるセントローレンス川です。
なお、リアス海岸、フィヨルド(峡湾)、三角江(エスチュアリー)の3つは沈水海岸(沈降海岸)に分類されます。
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九十九里浜は何県にありますか。
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九十九里浜は千葉県にあります。
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JCRRAG_001732
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地理
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北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカ Cervus Nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネ Vulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月~2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3~5月、夏:6~8月、秋:9~11月、冬:12~2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100~800mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
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河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど、シカの夏の河畔林利用頻度は高くなりましたか。
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はい、河畔林地点の周辺400mに農地、森林および河川が多く分布するほど、シカの夏の河畔林利用頻度は高くなりました。
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JCRRAG_001733
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地理
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、「さとやま」(鷲谷2011))は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境にかかわる重要な課題の一つとして認識されている(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010;Kadoya and Washitani2011)。そのための政策の立案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやまの特性を抽出できる指標の開発が求められている(Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。
また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の社会的な動きとして、2010年に名古屋において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案が採択された(Jリポート2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の生物多様性国家戦略(環境省2012)では、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国立公園の拡充(佐々木2012)や、日本政府が奄美群島を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに環境省によって具体的な計画が検討されている(「世界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環境省・林野庁)」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21450&hou_id=16268、2013年2月13日確認)。
平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定された既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境庁自然保護局1997)。したがって、国立・国定公園が原生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことがない。
さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系のモザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland2002;楠本ほか2006;Hendrickx et al.2007;Billeter et al.2008;Firbank et al.2008;Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。そのような分析・評価に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によって「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映させた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の占有率が低いほど高い値をとる。
Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′×3′(約6km)四方を単位空間として、そこに含まれる30″(約1km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群(サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示した。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および解像度(セル)の検討をそれぞれ2km四方~10km四方、50m~1000m四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物種分布の説明モデルとしては、6km四方の空間単位と解像度50m四方のセルを用いた場合が最も種の分布をよく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らかにした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010)を反映していることによっており、この解像度での分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化においても有効であると考えられる。
生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくられた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば村井・樋口1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」として、「農業-さとやま的土地利用」とは別の土地利用類型を設けることが望ましい。
本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013)によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するように調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとやま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地図化を試みた。すなわち、50m×50mの区画セルに分けた国土を「原生的土地利用」、「農業-さとやま的土地利用」「人工林」「都市的土地利用」の4類型に分類し、農業-さとやま的土地利用に分類された区域については、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。
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生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、なにが採択されましたか。
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生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択されたのは、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案です。
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JCRRAG_001734
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地理
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本稿の目的は,重要文化的景観に選定されている熊本県天草市崎津地区崎津を事例に,「カケ」と「トウヤ」と呼ばれる構造物を特徴とする「漁村景観」が維持されてきた背景を,景観保全活動や生業活動とくに漁業の歴史的変遷や個別漁家の経営形態がカケとトウヤの利用・維持とどのように関わってきたのかを考察することから,明らかにすることである。
近年,重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区(以下,重伝建)等の国内制度は,世界遺産やジオパーク等のより大きなスケールで展開する制度の下部に存在するものとされる傾向にある(1)。例えば,金沢市は最終的に「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録することを目指しているが,そのステップとして重要文化的景観や重伝建等の国内の制度で保全対象となることを目標に,様々な取り組みを展開してきた(石川県・金沢市,2007;金沢市,2009)。
このうち重伝建については,1976年に妻籠宿が選定されて以降,様々な地域で歴史的景観の保全が地域清性化への期待も込めて取り組まれてきた(荒山,1999)。こうしたなかで,地理学分野においても重伝建の保全に関する様々な取り組み事例が報告されてきた(小堀,1999;溝尾・菅原,2000;大島,2005など)。
他方,重要文化的景観については制度の発足が2004年と新しく,研究蓄積は重伝建に比べて少ない。文化的景観とは「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」(文化財保護法第二条第1項第五号)とされ,2004年の文化財保護法の改正で文化財の種別に加えられた。生活スタイルの近代化や産業構造,経済状況が変化し,文化的景観の基盤にあった生活や生業が失われたり,一部が欠落したりするなかで,その保全は急務とされている(金田,2012)。
このうち重要文化的景観とは,「都道府県又は市町村の申出に基づき,当該都道府県又は市町村が定める景観法(第八条第二項第一号)に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって,文部科学省令で定める基準に照らして当該都道府県又は市町村がその保存のため必要な措置を講じているもののうち特に重要なものを重要文化的景観として選定することができる」(文化財保護法第百三十四条)とされている。そして重要文化的景観には,必然的劣化を許容しつつ現実の生活のなかで動態的に維持していくために政策的支援の必要なものが選定されている(金田,2012)。
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金沢市は、「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録するためのステップとして、どのようなことを目標にしてきましたか。
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金沢市は、「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録するためのステップとして、重要文化的景観や重伝建等の国内の制度で保全対象となることを目標にしてきました。
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JCRRAG_001735
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地理
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谷津環境は特に関東地方における特徴的な里山の風景の一部であり、森林と水田がセットとなってモザイク状に分布する生物多様性の高い空間として認識されている(守山1992,1997;長谷川1995;東・武内1998;山田2011など)。一方、関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境は急激に減少しており、その保全の重要性は様々な研究において指摘されている(大澤・勝野1998;高橋ほか2006など)。カエル類やトンボ類は、湧き水や水路・水田が多いこの谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されており(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003;長谷川2003)、ニホンアカガエル Rana japonicaもその中の1種である。ニホンアカガエルは、1~3月の早春に水田や水路、放棄水田の中の水たまりなどの浅く開けた水域に産卵し、5~6月にオタマジャクシから変態し上陸する(長谷川1995;門脇2002)。成体は主に林縁に多く出現し、草地や森林内も利用するとされているため(長谷川1995;片野ほか2001)、森林と水田の接点が多い谷津田の環境は本種の生息によく適している(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003)。全国的には普通種であるが、地域によっては絶滅の恐れのある種としてレッドリストに掲載されており、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されているほか、千葉県や和歌山県などでは最も絶滅リスクの高い種としてランク付けされている(長谷川2011;玉井2012)。
主な絶滅リスクとしては、水田の乾田化による繁殖環境の減少や、都市化による水田の減少、生息地の分断による孤立化などが挙げられている(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;長谷川2011)。都市近郊において谷津環境は既に保全地区として保全活動がなされている場合が多く、乾田化や都市化は食い止められているものの、すでに孤立化が進んでいる状態であると考えられ、生息地間のネットワークの回復に向けた取り組みが重要となる(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;大澤ほか2003;Beebee2005;Rubbo and Kiesecker2005)。ニホンアカガエルの生息地の連続性については、夏原・神原(2001)が大阪府南部を対象として、比較的大きなスケールである500mメッシュでの解析から、森林や水田などの景観要素の連続性の維持が個体群の回復や存続に重要である事を報告している。また、大澤・勝野(1998)も柏尾川流域を対象にしたカエル類の生息確認調査から、個体群の維持には水田などの生息環境の連続性が重要である事を報告している。
しかし、生息環境の空間的な連続性のみでなく、集団間における実際の個体の交流を知ることが重要であるため(Rubbo and Kiesecker2005)、遺伝的な手法により個別地点間の個体群の連続性や孤立の度合を評価する必要があると考えられる。Lesbarréres et al.(2006)はダルマチアアカガエル Rana dalmatinaにおいて、酵素多型の多様度の違いによって、高速道路による生息地の分断化を検出し、Safner et al.(2011)はヨーロッパアカガエル Rana temporariaの個体群に対して、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的構造の解析によって、一般道も含めた道路の交通量等による分断化の影響の度合いを詳細に報告している。これらの報告はいずれも遺伝的多様性を表す各指標や近交係数、繁殖グループを反映していると考えられる遺伝的構造を把握する事で、個体群の健全性や分断化を評価している。また、著者らも印旛沼西岸地域でミトコンドリアDNAの多型解析から、10m幅の道路や3m×3mのコンクリート張りの水路が、個体群の遺伝的構造に影響を与え、生息地間の連続性を制限する要因となっている事を報告している(Kobayashi et al.2013)。このように実際の保全の現場で遺伝的多様性の各指標や遺伝的構造を把握し、生息地の連続性を評価していく事で、周辺の生息地との連続性を維持・回復させるなどの保全対策を科学的な根拠を持って選択する事が可能となると考えられる。
本研究では千葉市の中心部に程近い都市近郊において、地元のNPO法人等の活動によりビオトープとして谷津環境が保全されてきた坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里を中心とした千葉市若葉区北部のニホンアカガエル個体群を調査対象として選定した。本調査地のような都市近郊においては、ニホンアカガエルの遺伝的構造および遺伝的多様性に影響を及ぼす可能性のある事柄は多岐にわたる。例えば高度経済成長期における開発の影響として、河川の護岸工事などによる繁殖環境の減少やそれに伴う連続性の喪失、住宅地の拡大により成体の活動環境が縮小した事による個体数の漸減やそれに伴う遺伝的浮動による遺伝的多様性の低下等が上げられる。また、都市近郊の繁殖地では、他地点からの幼生や卵塊の人為的な導入などの活動がかつて実施されていた可能性も否定できない。加えて、本調査地域では北東側と南西側で水系が異なっているため、水系の違いによる影響も考慮する必要がある。本研究では、とくに住宅地に囲まれたビオトープである坂月川ビオトープに焦点を当てて現状の遺伝的構造や遺伝的多様性を解析し、どの程度周辺個体群との遺伝的交流が保たれているのか、またその要因について過去の開発の背景なども踏まえて考察する事で、都市近郊における谷津環境の保全に向けた対応策を検討した。
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谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されているのは、どのような種ですか。
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カエル類やトンボ類は、谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されています。
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JCRRAG_001736
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地理
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、「さとやま」(鷲谷2011))は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境にかかわる重要な課題の一つとして認識されている(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010;Kadoya and Washitani2011)。そのための政策の立案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやまの特性を抽出できる指標の開発が求められている(Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。
また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の社会的な動きとして、2010年に名古屋において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案が採択された(Jリポート2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の生物多様性国家戦略(環境省2012)では、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国立公園の拡充(佐々木2012)や、日本政府が奄美群島を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに環境省によって具体的な計画が検討されている(「世界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環境省・林野庁)」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21450&hou_id=16268、2013年2月13日確認)。
平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定された既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境庁自然保護局1997)。したがって、国立・国定公園が原生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことがない。
さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系のモザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland2002;楠本ほか2006;Hendrickx et al.2007;Billeter et al.2008;Firbank et al.2008;Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。そのような分析・評価に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によって「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映させた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の占有率が低いほど高い値をとる。
Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′×3′(約6km)四方を単位空間として、そこに含まれる30″(約1km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群(サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示した。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および解像度(セル)の検討をそれぞれ2km四方~10km四方、50m~1000m四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物種分布の説明モデルとしては、6km四方の空間単位と解像度50m四方のセルを用いた場合が最も種の分布をよく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らかにした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010)を反映していることによっており、この解像度での分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化においても有効であると考えられる。
生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくられた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば村井・樋口1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」として、「農業-さとやま的土地利用」とは別の土地利用類型を設けることが望ましい。
本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013)によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するように調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとやま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地図化を試みた。すなわち、50m×50mの区画セルに分けた国土を「原生的土地利用」、「農業-さとやま的土地利用」「人工林」「都市的土地利用」の4類型に分類し、農業-さとやま的土地利用に分類された区域については、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。
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人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえませんか。
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はい、人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえません。
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JCRRAG_001737
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地理
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里地里山は奥山と都市の中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成され(環境省2004)、ひとの営みに依存した多くの生物が生育・生息している(守山1988;大窪・前中1995;日鷹ほか2006;石井2005)。しかし産業化の進展により管理放棄され開発の対象となったり遷移が進行し、地域的な生物多様性の劣化が深刻化しており(小柳ほか2007;山田ほか2007)、環境省も、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして里山における人間活動の縮小をあげている(環境省2002)。
高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域を特定したり、また地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上でも重要である。ひとつの市町村の中で保全すべき重要な谷戸を特定する場合には、小さな空間スケールの中で高い空間解像度の情報が必要であるが(浜口ほか2010)、国や県などの広い地域を見渡して重点的に保全すべき地方を見いだす場合には日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールの情報が必要となる。しかし、このように大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていない。
これまで数キロメートル以内程度の小さな空間スケールにおいては、全域を踏査して種をマッピングすることによる自然の評価がおこなわれてきたが(小栗ほか2005;浜口ほか2010)、数百キロメートルにおよぶ大きな空間スケールの評価は労力の制限もあるため空中写真などによる地被や地形などの既存のデータから里山の分布を推定することが多かった(篠沢ほか1993;高橋ほか2006)。また標本庫に収蔵された標本(Global Biodiversity Information Facility 日本ノード、http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/、2011年8月30日確認)やコドラートによる植生調査のデータベース(山本・楠本2008)をもとに評価地図を作成することも原理的には可能だが、採集や調査の密度は研究者の地理分布を強くうけ、調査努力量の地理分布が偏ると誤った結果が得られるため、大きな空間スケールでの現地調査によって検証する必要がある。
そこで本研究では関東地方周辺を対象とする広域的なスケールにおいて、実現可能な労力での指標植物の地上調査に基づいて多様性の評価マップを作成するための調査手法を開発し、関東地方周辺の里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンを明らかにした。また里地里山の植物の豊かさの違いに影響する自然的・人為的要因を明らかにした。またこのような要因をもとにして空間解像度の高い里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンの推定を試みた。
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里地里山はどこに位置していますか。
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里地里山は奥山と都市の中間に位置しています。
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JCRRAG_001738
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地理
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本稿の目的は,重要文化的景観に選定されている熊本県天草市崎津地区崎津を事例に,「カケ」と「トウヤ」と呼ばれる構造物を特徴とする「漁村景観」が維持されてきた背景を,景観保全活動や生業活動とくに漁業の歴史的変遷や個別漁家の経営形態がカケとトウヤの利用・維持とどのように関わってきたのかを考察することから,明らかにすることである。
近年,重要文化的景観や重要伝統的建造物群保存地区(以下,重伝建)等の国内制度は,世界遺産やジオパーク等のより大きなスケールで展開する制度の下部に存在するものとされる傾向にある(1)。例えば,金沢市は最終的に「城下町由来の文化遺産群」を世界遺産等へ登録することを目指しているが,そのステップとして重要文化的景観や重伝建等の国内の制度で保全対象となることを目標に,様々な取り組みを展開してきた(石川県・金沢市,2007;金沢市,2009)。
このうち重伝建については,1976年に妻籠宿が選定されて以降,様々な地域で歴史的景観の保全が地域清性化への期待も込めて取り組まれてきた(荒山,1999)。こうしたなかで,地理学分野においても重伝建の保全に関する様々な取り組み事例が報告されてきた(小堀,1999;溝尾・菅原,2000;大島,2005など)。
他方,重要文化的景観については制度の発足が2004年と新しく,研究蓄積は重伝建に比べて少ない。文化的景観とは「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」(文化財保護法第二条第1項第五号)とされ,2004年の文化財保護法の改正で文化財の種別に加えられた。生活スタイルの近代化や産業構造,経済状況が変化し,文化的景観の基盤にあった生活や生業が失われたり,一部が欠落したりするなかで,その保全は急務とされている(金田,2012)。
このうち重要文化的景観とは,「都道府県又は市町村の申出に基づき,当該都道府県又は市町村が定める景観法(第八条第二項第一号)に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって,文部科学省令で定める基準に照らして当該都道府県又は市町村がその保存のため必要な措置を講じているもののうち特に重要なものを重要文化的景観として選定することができる」(文化財保護法第百三十四条)とされている。そして重要文化的景観には,必然的劣化を許容しつつ現実の生活のなかで動態的に維持していくために政策的支援の必要なものが選定されている(金田,2012)。
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重要文化的景観の制度は何年に発足しましたか。
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重要文化的景観の制度は2004年に発足しました。
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JCRRAG_001739
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地理
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里地里山は奥山と都市の中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成され(環境省2004)、ひとの営みに依存した多くの生物が生育・生息している(守山1988;大窪・前中1995;日鷹ほか2006;石井2005)。しかし産業化の進展により管理放棄され開発の対象となったり遷移が進行し、地域的な生物多様性の劣化が深刻化しており(小柳ほか2007;山田ほか2007)、環境省も、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして里山における人間活動の縮小をあげている(環境省2002)。
高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域を特定したり、また地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上でも重要である。ひとつの市町村の中で保全すべき重要な谷戸を特定する場合には、小さな空間スケールの中で高い空間解像度の情報が必要であるが(浜口ほか2010)、国や県などの広い地域を見渡して重点的に保全すべき地方を見いだす場合には日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールの情報が必要となる。しかし、このように大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていない。
これまで数キロメートル以内程度の小さな空間スケールにおいては、全域を踏査して種をマッピングすることによる自然の評価がおこなわれてきたが(小栗ほか2005;浜口ほか2010)、数百キロメートルにおよぶ大きな空間スケールの評価は労力の制限もあるため空中写真などによる地被や地形などの既存のデータから里山の分布を推定することが多かった(篠沢ほか1993;高橋ほか2006)。また標本庫に収蔵された標本(Global Biodiversity Information Facility 日本ノード、http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/、2011年8月30日確認)やコドラートによる植生調査のデータベース(山本・楠本2008)をもとに評価地図を作成することも原理的には可能だが、採集や調査の密度は研究者の地理分布を強くうけ、調査努力量の地理分布が偏ると誤った結果が得られるため、大きな空間スケールでの現地調査によって検証する必要がある。
そこで本研究では関東地方周辺を対象とする広域的なスケールにおいて、実現可能な労力での指標植物の地上調査に基づいて多様性の評価マップを作成するための調査手法を開発し、関東地方周辺の里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンを明らかにした。また里地里山の植物の豊かさの違いに影響する自然的・人為的要因を明らかにした。またこのような要因をもとにして空間解像度の高い里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンの推定を試みた。
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里地里山では何の劣化が深刻化していますか。
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里地里山では地域的な生物多様性の劣化が深刻化しています。
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JCRRAG_001740
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地理
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里地里山は奥山と都市の中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成され(環境省2004)、ひとの営みに依存した多くの生物が生育・生息している(守山1988;大窪・前中1995;日鷹ほか2006;石井2005)。しかし産業化の進展により管理放棄され開発の対象となったり遷移が進行し、地域的な生物多様性の劣化が深刻化しており(小柳ほか2007;山田ほか2007)、環境省も、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして里山における人間活動の縮小をあげている(環境省2002)。
高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域を特定したり、また地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上でも重要である。ひとつの市町村の中で保全すべき重要な谷戸を特定する場合には、小さな空間スケールの中で高い空間解像度の情報が必要であるが(浜口ほか2010)、国や県などの広い地域を見渡して重点的に保全すべき地方を見いだす場合には日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールの情報が必要となる。しかし、このように大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていない。
これまで数キロメートル以内程度の小さな空間スケールにおいては、全域を踏査して種をマッピングすることによる自然の評価がおこなわれてきたが(小栗ほか2005;浜口ほか2010)、数百キロメートルにおよぶ大きな空間スケールの評価は労力の制限もあるため空中写真などによる地被や地形などの既存のデータから里山の分布を推定することが多かった(篠沢ほか1993;高橋ほか2006)。また標本庫に収蔵された標本(Global Biodiversity Information Facility 日本ノード、http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/、2011年8月30日確認)やコドラートによる植生調査のデータベース(山本・楠本2008)をもとに評価地図を作成することも原理的には可能だが、採集や調査の密度は研究者の地理分布を強くうけ、調査努力量の地理分布が偏ると誤った結果が得られるため、大きな空間スケールでの現地調査によって検証する必要がある。
そこで本研究では関東地方周辺を対象とする広域的なスケールにおいて、実現可能な労力での指標植物の地上調査に基づいて多様性の評価マップを作成するための調査手法を開発し、関東地方周辺の里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンを明らかにした。また里地里山の植物の豊かさの違いに影響する自然的・人為的要因を明らかにした。またこのような要因をもとにして空間解像度の高い里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンの推定を試みた。
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環境省が、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして、どこにおける人間活動の縮小をあげていますか。
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環境省は、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして、里山における人間活動の縮小をあげています。
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JCRRAG_001741
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地理
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしている(Keddy2000)。たとえば、生物のハビタットの提供、自然景観の形成や水質浄化など多様な機能を持つことが知られている(鈴木ほか1989;浅野ほか2004)。しかし近年、湖沼や河川、ため池などに成立する湿原・湿地植生の多くが干拓や埋立て、排水溝の設置による乾燥化などによって失われ、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されている(平井1993;角野1994a,2002)。たとえば、印旛沼の築堤工事が水質汚濁や光環境の悪化を引き起こし、沈水植物をほぼ全滅させた例や(笠井2001)、霞ケ浦沿岸域がコンクリート製直立護岸で囲われたことによりアサザ Nymphoides peltata (Gmel.) O.Kuntzeが衰退した例(西廣ほか2001)などがあげられる。
本研究の対象地である手賀沼流域においても、1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、水生植物が最も繁茂していた沼の半分弱にもおよぶ529haの浅瀬が陸化し、多くの水生植物が絶滅・減少した(沼田・大野1985)。また、流域における1960年代からの住宅団地や工業団地の造成に伴う生活・工業排水の増加や、農業排水に含まれる除草剤などが影響し、約30種近く生育していた水生植物のほとんどが消失した(浅間2001)。浅間(2001)は、レッドデータブック掲載種のガシャモク Potamogeton dentatus Hagstr.やトリゲモ Najas minor All.などを含む、かつて手賀沼に生育していた22種すべての沈水植物が1970年前後で絶滅したとしている。
近年、生態系に及ぼす外来植物の影響が懸念されている(中坪1997;日本生態学会2002)。たとえば、河川敷の保護区内に要注意外来生物のオオブタクサ Ambrosia trifida L.が侵入し、種の多様性を低下させたことや(宮脇・鷲谷1996)、要注意外来生物のシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (Schrad.) Neesが河川氾濫原において分布を拡大し、在来種を駆逐したこと(村中・鷲谷2003)などが知られている。手賀沼流域も例外ではなく、土地開発や河川改修の影響によって在来の水生植物の多くが姿を消し、レッドデータブック掲載種としてリスト化される種が増加した一方、近年はオオカナダモ Egeria densa Planch.やオオフサモ Myriophyllum brasiliense Cambess.などの外来水生植物がその分布を広げつつある(林ほか2008;千葉県レッドデータブック改訂委員会2009)。また、環境省が特定外来生物に指定するナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides (Mart.) Griseb.が流域内で急速に分布拡大していることも確認されており(林ほか2008)、在来種の保全や外来種の駆除の計画策定のために、流域内における在来種および外来種の分布を把握することは喫緊の課題である。
生態系の保全や復元を計画するうえで、流域を空間単位として、地形や植生などの特性を把握することは重要である(李ほか1989;中村1999;谷内2005;王尾2008)。流域は、いくつかの小流域によって構成され、小流域はさらに詳細な集水域によって構成される入れ子状の構造をもつ。流域や小流域、集水域などの様々な空間単位で在来の水生植物の種組成や分布の傾向を明らかにすることは、その種の分布地点のみならず、その種の生育場所の保全につながるため重要である(中村・小池2005)。また、外来種の分布拡大を防ぐには、流域において分布拡大のソースとなり得る現在の分布地点を明らかにする必要がある(小池2010など)。手賀沼流域では、1940年代以降の土地改良や河川改修の影響によって、水生植物の種組成や分布が小流域・集水域間で大きく異なると考えられる(たとえば、沼田・大野1985;浅間2001)。一般に、土地開発が進むと森林などの植生域は減少することから(田畑2000)、小流域および集水域などの空間単位に流域を区分して植生域を明らかにすることで、様々な空間単位で土地開発程度の差異を把握できる。すなわち、6つの小流域から構成される手賀沼流域は小流域ごとに土地開発の過程や程度に差があるため(田畑・金1986;田畑ほか1987)、流域ごとに生育する水生植物の衰退要因が異なり、その結果として種組成も異なると考えられる。
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐ何として、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしていますか。
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしています。
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JCRRAG_001742
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地理
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日本の主要な農地環境である水田は、近代科学技術が発展する以前、すなわち1900年代前半まで、人力による適度な耕作圧と湿地的環境に依存した多くの水湿生植物のハビタットとして機能していた(中村1925;鷲谷2007)。しかし、1950年代以降に推進されてきた圃場整備と、重機・除草剤を使用する近代慣行農法の導入によって、水田の湿地としての機能は大幅に低下した(鷲谷2007)。また、1970年代以降は、減反政策の導入と農家の高齢化によって、各地で休耕田や耕作放棄田の増加が目立つようになった(農林水産省平成23年耕地及び作付面積統計:2012年7月公表、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001087149、最終確認日2014年8月13日)。圃場整備が実施された水田では、休耕または耕作放棄されたとしても、暗渠や落水口などの排水施設が残置されている場合には、かつての湿地的環境は回復しにくい(池上ほか2011)。そのような休耕田や耕作放棄田では、路傍植物が侵入して優占する乾性遷移が進む場合が多い(箱山ほか1976;千葉1989)。水田地帯におけるこうした環境の変化によって、かつて普通に見られた水湿生植物の多くが減少することとなった(藤井1999;環境省2000)。
1990年代以降、水田地帯における生物多様性保全の気運が高まってきている(下田2003;鷲谷2007;日鷹ほか2008)。水田地帯における水湿生植物の保全に関するこれまでの研究は、耕作放棄田に注目したものが多かった。中山間地や谷津における水田地帯では、地形上の制約で圃場整備が実施されていない水田が存在するが、そのような水田が放棄されると、水湿生植物の良好なハビタットとして機能する場合がある(大黒ほか1996,2003;河野1998;角野1998;下田・中本2003;池上ほか2011)。これらの研究成果は、水湿生植物の保全に配慮した農地計画の方向性を検討する上で有用であるが、耕作放棄田という場だけを以てこれらの植物を持続的に保全していくことは難しい。耕作放棄田では通常、農家の収入に結びつかない管理(耕起・草刈り)が継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行する。すなわち、耕作圧からの解放によって多種の水湿生植物が出現したとしても、間もなくヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.やガマ Typha latifolia L.などの高茎多年草が優占する群落に遷移し、再び消えてしまう可能性が高い(角野1998;下田・中本2003)。圃場整備が実施されていない地域において復田と休耕を1~数年おきに繰り返すことで、種多様性が高い水湿生植物群落を持続的に維持できる可能性を指摘する研究は多い(中本ほか2002;有田ほか2006;Yamada et al.2007)。しかし、農家人口とコメ需要両面の減少に歯止めが掛からない現状を考慮すると、労働条件の悪い水田で上記のような管理を継続することは困難であると予想される。
ごく最近まで、水田地帯で行われる植物に関する研究は、水田雑草の防除に関するものが主流であった(例えば、笠原1949;荒井1962;八柳1962;伊藤1989;劉ほか1998;浅野2001)。このため、耕作水田については、「地域全体で、どんな植物種がどの程度の頻度で出現しているのか」という、植生学的な知見が不足している。Yamada et al.(2011)は、常総台地の谷津及び近接する低地において、立地と土地改良の強度が稲収穫後の水田に成立する植生に対して与える影響を解析し、水湿生植物の良好なハビタットとなり得る耕作水田の条件が「谷津及び低地(旧河道)に位置し、土地改良がほとんど実施されていないこと」であることを明らかにした。これは、低地の水田地帯においても水湿生植物を保全できる可能性があることを示す重要な成果である。このことから、水湿生植物の保全の観点からは、一般的な「圃場整備が行き届き、慣行農法が導入されている低地の水田地帯」において水湿生植物が生育できる環境が維持されるような農地計画について、検討を行う価値があると考えられる。
水田地帯における環境改変は、圃場だけではなく、農業用水路においても進められてきた。農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、管理の効率化と雑草の出現抑制を目的に推進された水路のコンクリート化である。従来の素掘り土水路とは物理的・水理的特性が大きく異なるコンクリート水路の普及によって、水湿生植物が生育する農業用水路は大きく減少した(内山2013)。しかし、その後に農業用水路の植生を評価した研究は少なく、土水路とコンクリート水路とで成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのかについて、詳しく調査した事例はない。また、同じ水田地帯に存在する水田と農業用水路とで、成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのか(または類似するのか)を評価した研究は皆無である。
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耕作放棄田ではどうして植生遷移が速やかに進行しますか。
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耕作放棄田では、通常は農家の収入に結びつかない耕起や草刈りが継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行します。
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JCRRAG_001743
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地理
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプで、これを平地の植生帯に名称を当てはめて、亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林と呼んでいる(Ohsawa1990)。この亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林は、日本本土の上で世界的な北限に達するもので、冷温帯落葉広葉樹林との移行部には、いわゆる温帯性針葉樹と呼ばれるスギ Cryptomeria japonica (L.f.) D. Don、トウヒ Picea jezoensis (Siebold et Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr) Rehder、ヒノキ Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) End l.、モミ Abies firma Siebold et Zucc.などの針葉樹や、原始的な被子植物であるフサザクラ Euptelea polyandra Siebold et Zucc.、カツラ Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.、サワグルミ Pterocarya rhoifolia Siebold et Zucc.などの第三紀遺存種が多く分布している。この照葉樹林は世界的にみても大陸東岸の湿った地域にしか見られない特異な生態系であるが、特に東アジアでは熱帯から大陸に沿って連続的に分布することから、種の多様性が高い地域となっている(大澤2005)。また、十分に発達した原生的な照葉樹林においては、川沿いや雲霧帯など周辺の湿度の高いエリアにおいて、フウラン Neofinetia falcata (Thunb.) Hu、ナゴラン Sedirea japonica Garay et Sweetなどの絶滅危惧種の着生植物が多く見られる。
しかし、日本の照葉樹林は、その多くがスギやヒノキなどの人工林に転換、分断化され、小規模な林分がかろうじて残っている状態にある。そのような状況の中で、照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進める宮崎県綾町における取り組みは注目される。綾町での取り組みの特徴は、(1)特定の種の保全ではなく、照葉樹林という生態系全体の保全を目標としていること、(2)保全活動が地域主体で進められており、地元自治体、国有林、自然保護団体、市民といった異なる立場の関係者が協働で活動を進めていること、の2点である。
本稿では、まず絶滅危惧生態系としての照葉樹林の危機的現状を概説し、次に、照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクト、正式名称「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」を紹介する。さらに、2012年に決定した綾町のユネスコエコパークへの登録を取り上げ、照葉樹林生態系を地域とともに守るための枠組みについて議論する。
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプですか。
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はい、日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプです。
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JCRRAG_001744
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地理
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプで、これを平地の植生帯に名称を当てはめて、亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林と呼んでいる(Ohsawa1990)。この亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林は、日本本土の上で世界的な北限に達するもので、冷温帯落葉広葉樹林との移行部には、いわゆる温帯性針葉樹と呼ばれるスギ Cryptomeria japonica (L.f.) D. Don、トウヒ Picea jezoensis (Siebold et Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr) Rehder、ヒノキ Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) End l.、モミ Abies firma Siebold et Zucc.などの針葉樹や、原始的な被子植物であるフサザクラ Euptelea polyandra Siebold et Zucc.、カツラ Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.、サワグルミ Pterocarya rhoifolia Siebold et Zucc.などの第三紀遺存種が多く分布している。この照葉樹林は世界的にみても大陸東岸の湿った地域にしか見られない特異な生態系であるが、特に東アジアでは熱帯から大陸に沿って連続的に分布することから、種の多様性が高い地域となっている(大澤2005)。また、十分に発達した原生的な照葉樹林においては、川沿いや雲霧帯など周辺の湿度の高いエリアにおいて、フウラン Neofinetia falcata (Thunb.) Hu、ナゴラン Sedirea japonica Garay et Sweetなどの絶滅危惧種の着生植物が多く見られる。
しかし、日本の照葉樹林は、その多くがスギやヒノキなどの人工林に転換、分断化され、小規模な林分がかろうじて残っている状態にある。そのような状況の中で、照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進める宮崎県綾町における取り組みは注目される。綾町での取り組みの特徴は、(1)特定の種の保全ではなく、照葉樹林という生態系全体の保全を目標としていること、(2)保全活動が地域主体で進められており、地元自治体、国有林、自然保護団体、市民といった異なる立場の関係者が協働で活動を進めていること、の2点である。
本稿では、まず絶滅危惧生態系としての照葉樹林の危機的現状を概説し、次に、照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクト、正式名称「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」を紹介する。さらに、2012年に決定した綾町のユネスコエコパークへの登録を取り上げ、照葉樹林生態系を地域とともに守るための枠組みについて議論する。
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綾町のユネスコエコパークへの登録が決定したのは何年ですか。
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綾町のユネスコエコパークへの登録が決定したのは2012年です。
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JCRRAG_001745
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地理
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里地里山は奥山と都市の中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成され(環境省2004)、ひとの営みに依存した多くの生物が生育・生息している(守山1988;大窪・前中1995;日鷹ほか2006;石井2005)。しかし産業化の進展により管理放棄され開発の対象となったり遷移が進行し、地域的な生物多様性の劣化が深刻化しており(小柳ほか2007;山田ほか2007)、環境省も、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして里山における人間活動の縮小をあげている(環境省2002)。
高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域を特定したり、また地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上でも重要である。ひとつの市町村の中で保全すべき重要な谷戸を特定する場合には、小さな空間スケールの中で高い空間解像度の情報が必要であるが(浜口ほか2010)、国や県などの広い地域を見渡して重点的に保全すべき地方を見いだす場合には日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールの情報が必要となる。しかし、このように大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていない。
これまで数キロメートル以内程度の小さな空間スケールにおいては、全域を踏査して種をマッピングすることによる自然の評価がおこなわれてきたが(小栗ほか2005;浜口ほか2010)、数百キロメートルにおよぶ大きな空間スケールの評価は労力の制限もあるため空中写真などによる地被や地形などの既存のデータから里山の分布を推定することが多かった(篠沢ほか1993;高橋ほか2006)。また標本庫に収蔵された標本(Global Biodiversity Information Facility 日本ノード、http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/、2011年8月30日確認)やコドラートによる植生調査のデータベース(山本・楠本2008)をもとに評価地図を作成することも原理的には可能だが、採集や調査の密度は研究者の地理分布を強くうけ、調査努力量の地理分布が偏ると誤った結果が得られるため、大きな空間スケールでの現地調査によって検証する必要がある。
そこで本研究では関東地方周辺を対象とする広域的なスケールにおいて、実現可能な労力での指標植物の地上調査に基づいて多様性の評価マップを作成するための調査手法を開発し、関東地方周辺の里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンを明らかにした。また里地里山の植物の豊かさの違いに影響する自然的・人為的要因を明らかにした。またこのような要因をもとにして空間解像度の高い里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンの推定を試みた。
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高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、どのようなことを特定する上でも重要ですか。
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高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域や、地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上で重要です。
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地理
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプで、これを平地の植生帯に名称を当てはめて、亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林と呼んでいる(Ohsawa1990)。この亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林は、日本本土の上で世界的な北限に達するもので、冷温帯落葉広葉樹林との移行部には、いわゆる温帯性針葉樹と呼ばれるスギ Cryptomeria japonica (L.f.) D. Don、トウヒ Picea jezoensis (Siebold et Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr) Rehder、ヒノキ Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) End l.、モミ Abies firma Siebold et Zucc.などの針葉樹や、原始的な被子植物であるフサザクラ Euptelea polyandra Siebold et Zucc.、カツラ Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.、サワグルミ Pterocarya rhoifolia Siebold et Zucc.などの第三紀遺存種が多く分布している。この照葉樹林は世界的にみても大陸東岸の湿った地域にしか見られない特異な生態系であるが、特に東アジアでは熱帯から大陸に沿って連続的に分布することから、種の多様性が高い地域となっている(大澤2005)。また、十分に発達した原生的な照葉樹林においては、川沿いや雲霧帯など周辺の湿度の高いエリアにおいて、フウラン Neofinetia falcata (Thunb.) Hu、ナゴラン Sedirea japonica Garay et Sweetなどの絶滅危惧種の着生植物が多く見られる。
しかし、日本の照葉樹林は、その多くがスギやヒノキなどの人工林に転換、分断化され、小規模な林分がかろうじて残っている状態にある。そのような状況の中で、照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進める宮崎県綾町における取り組みは注目される。綾町での取り組みの特徴は、(1)特定の種の保全ではなく、照葉樹林という生態系全体の保全を目標としていること、(2)保全活動が地域主体で進められており、地元自治体、国有林、自然保護団体、市民といった異なる立場の関係者が協働で活動を進めていること、の2点である。
本稿では、まず絶滅危惧生態系としての照葉樹林の危機的現状を概説し、次に、照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクト、正式名称「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」を紹介する。さらに、2012年に決定した綾町のユネスコエコパークへの登録を取り上げ、照葉樹林生態系を地域とともに守るための枠組みについて議論する。
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スギは、温帯性針葉樹と呼ばれますか。
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はい、スギは、温帯性針葉樹と呼ばれます。
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JCRRAG_001747
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地理
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谷津環境は特に関東地方における特徴的な里山の風景の一部であり、森林と水田がセットとなってモザイク状に分布する生物多様性の高い空間として認識されている(守山1992,1997;長谷川1995;東・武内1998;山田2011など)。一方、関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境は急激に減少しており、その保全の重要性は様々な研究において指摘されている(大澤・勝野1998;高橋ほか2006など)。カエル類やトンボ類は、湧き水や水路・水田が多いこの谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されており(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003;長谷川2003)、ニホンアカガエル Rana japonicaもその中の1種である。ニホンアカガエルは、1~3月の早春に水田や水路、放棄水田の中の水たまりなどの浅く開けた水域に産卵し、5~6月にオタマジャクシから変態し上陸する(長谷川1995;門脇2002)。成体は主に林縁に多く出現し、草地や森林内も利用するとされているため(長谷川1995;片野ほか2001)、森林と水田の接点が多い谷津田の環境は本種の生息によく適している(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003)。全国的には普通種であるが、地域によっては絶滅の恐れのある種としてレッドリストに掲載されており、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されているほか、千葉県や和歌山県などでは最も絶滅リスクの高い種としてランク付けされている(長谷川2011;玉井2012)。
主な絶滅リスクとしては、水田の乾田化による繁殖環境の減少や、都市化による水田の減少、生息地の分断による孤立化などが挙げられている(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;長谷川2011)。都市近郊において谷津環境は既に保全地区として保全活動がなされている場合が多く、乾田化や都市化は食い止められているものの、すでに孤立化が進んでいる状態であると考えられ、生息地間のネットワークの回復に向けた取り組みが重要となる(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;大澤ほか2003;Beebee2005;Rubbo and Kiesecker2005)。ニホンアカガエルの生息地の連続性については、夏原・神原(2001)が大阪府南部を対象として、比較的大きなスケールである500mメッシュでの解析から、森林や水田などの景観要素の連続性の維持が個体群の回復や存続に重要である事を報告している。また、大澤・勝野(1998)も柏尾川流域を対象にしたカエル類の生息確認調査から、個体群の維持には水田などの生息環境の連続性が重要である事を報告している。
しかし、生息環境の空間的な連続性のみでなく、集団間における実際の個体の交流を知ることが重要であるため(Rubbo and Kiesecker2005)、遺伝的な手法により個別地点間の個体群の連続性や孤立の度合を評価する必要があると考えられる。Lesbarréres et al.(2006)はダルマチアアカガエル Rana dalmatinaにおいて、酵素多型の多様度の違いによって、高速道路による生息地の分断化を検出し、Safner et al.(2011)はヨーロッパアカガエル Rana temporariaの個体群に対して、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的構造の解析によって、一般道も含めた道路の交通量等による分断化の影響の度合いを詳細に報告している。これらの報告はいずれも遺伝的多様性を表す各指標や近交係数、繁殖グループを反映していると考えられる遺伝的構造を把握する事で、個体群の健全性や分断化を評価している。また、著者らも印旛沼西岸地域でミトコンドリアDNAの多型解析から、10m幅の道路や3m×3mのコンクリート張りの水路が、個体群の遺伝的構造に影響を与え、生息地間の連続性を制限する要因となっている事を報告している(Kobayashi et al.2013)。このように実際の保全の現場で遺伝的多様性の各指標や遺伝的構造を把握し、生息地の連続性を評価していく事で、周辺の生息地との連続性を維持・回復させるなどの保全対策を科学的な根拠を持って選択する事が可能となると考えられる。
本研究では千葉市の中心部に程近い都市近郊において、地元のNPO法人等の活動によりビオトープとして谷津環境が保全されてきた坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里を中心とした千葉市若葉区北部のニホンアカガエル個体群を調査対象として選定した。本調査地のような都市近郊においては、ニホンアカガエルの遺伝的構造および遺伝的多様性に影響を及ぼす可能性のある事柄は多岐にわたる。例えば高度経済成長期における開発の影響として、河川の護岸工事などによる繁殖環境の減少やそれに伴う連続性の喪失、住宅地の拡大により成体の活動環境が縮小した事による個体数の漸減やそれに伴う遺伝的浮動による遺伝的多様性の低下等が上げられる。また、都市近郊の繁殖地では、他地点からの幼生や卵塊の人為的な導入などの活動がかつて実施されていた可能性も否定できない。加えて、本調査地域では北東側と南西側で水系が異なっているため、水系の違いによる影響も考慮する必要がある。本研究では、とくに住宅地に囲まれたビオトープである坂月川ビオトープに焦点を当てて現状の遺伝的構造や遺伝的多様性を解析し、どの程度周辺個体群との遺伝的交流が保たれているのか、またその要因について過去の開発の背景なども踏まえて考察する事で、都市近郊における谷津環境の保全に向けた対応策を検討した。
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坂月川ビオトープは、何の活動によってビオトープとして谷津環境が保全されてきましたか。
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坂月川ビオトープは、地元のNPO法人等の活動によってビオトープとして谷津環境が保全されてきました。
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JCRRAG_001748
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地理
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしている(Keddy2000)。たとえば、生物のハビタットの提供、自然景観の形成や水質浄化など多様な機能を持つことが知られている(鈴木ほか1989;浅野ほか2004)。しかし近年、湖沼や河川、ため池などに成立する湿原・湿地植生の多くが干拓や埋立て、排水溝の設置による乾燥化などによって失われ、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されている(平井1993;角野1994a,2002)。たとえば、印旛沼の築堤工事が水質汚濁や光環境の悪化を引き起こし、沈水植物をほぼ全滅させた例や(笠井2001)、霞ケ浦沿岸域がコンクリート製直立護岸で囲われたことによりアサザ Nymphoides peltata (Gmel.) O.Kuntzeが衰退した例(西廣ほか2001)などがあげられる。
本研究の対象地である手賀沼流域においても、1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、水生植物が最も繁茂していた沼の半分弱にもおよぶ529haの浅瀬が陸化し、多くの水生植物が絶滅・減少した(沼田・大野1985)。また、流域における1960年代からの住宅団地や工業団地の造成に伴う生活・工業排水の増加や、農業排水に含まれる除草剤などが影響し、約30種近く生育していた水生植物のほとんどが消失した(浅間2001)。浅間(2001)は、レッドデータブック掲載種のガシャモク Potamogeton dentatus Hagstr.やトリゲモ Najas minor All.などを含む、かつて手賀沼に生育していた22種すべての沈水植物が1970年前後で絶滅したとしている。
近年、生態系に及ぼす外来植物の影響が懸念されている(中坪1997;日本生態学会2002)。たとえば、河川敷の保護区内に要注意外来生物のオオブタクサ Ambrosia trifida L.が侵入し、種の多様性を低下させたことや(宮脇・鷲谷1996)、要注意外来生物のシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (Schrad.) Neesが河川氾濫原において分布を拡大し、在来種を駆逐したこと(村中・鷲谷2003)などが知られている。手賀沼流域も例外ではなく、土地開発や河川改修の影響によって在来の水生植物の多くが姿を消し、レッドデータブック掲載種としてリスト化される種が増加した一方、近年はオオカナダモ Egeria densa Planch.やオオフサモ Myriophyllum brasiliense Cambess.などの外来水生植物がその分布を広げつつある(林ほか2008;千葉県レッドデータブック改訂委員会2009)。また、環境省が特定外来生物に指定するナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides (Mart.) Griseb.が流域内で急速に分布拡大していることも確認されており(林ほか2008)、在来種の保全や外来種の駆除の計画策定のために、流域内における在来種および外来種の分布を把握することは喫緊の課題である。
生態系の保全や復元を計画するうえで、流域を空間単位として、地形や植生などの特性を把握することは重要である(李ほか1989;中村1999;谷内2005;王尾2008)。流域は、いくつかの小流域によって構成され、小流域はさらに詳細な集水域によって構成される入れ子状の構造をもつ。流域や小流域、集水域などの様々な空間単位で在来の水生植物の種組成や分布の傾向を明らかにすることは、その種の分布地点のみならず、その種の生育場所の保全につながるため重要である(中村・小池2005)。また、外来種の分布拡大を防ぐには、流域において分布拡大のソースとなり得る現在の分布地点を明らかにする必要がある(小池2010など)。手賀沼流域では、1940年代以降の土地改良や河川改修の影響によって、水生植物の種組成や分布が小流域・集水域間で大きく異なると考えられる(たとえば、沼田・大野1985;浅間2001)。一般に、土地開発が進むと森林などの植生域は減少することから(田畑2000)、小流域および集水域などの空間単位に流域を区分して植生域を明らかにすることで、様々な空間単位で土地開発程度の差異を把握できる。すなわち、6つの小流域から構成される手賀沼流域は小流域ごとに土地開発の過程や程度に差があるため(田畑・金1986;田畑ほか1987)、流域ごとに生育する水生植物の衰退要因が異なり、その結果として種組成も異なると考えられる。
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湿原・湿地植生の多くが失われることで、何の多くが絶滅の危機に曝されていますか。
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湿原・湿地植生の多くが失われることで、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されています。
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JCRRAG_001749
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地理
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谷津環境は特に関東地方における特徴的な里山の風景の一部であり、森林と水田がセットとなってモザイク状に分布する生物多様性の高い空間として認識されている(守山1992,1997;長谷川1995;東・武内1998;山田2011など)。一方、関東地方では都市化の進行や乾田化、埋め立て畑地化などの農法の変化の影響によって、谷津環境は急激に減少しており、その保全の重要性は様々な研究において指摘されている(大澤・勝野1998;高橋ほか2006など)。カエル類やトンボ類は、湧き水や水路・水田が多いこの谷津環境の質をモニタリングするための指標種として認知されており(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003;長谷川2003)、ニホンアカガエル Rana japonicaもその中の1種である。ニホンアカガエルは、1~3月の早春に水田や水路、放棄水田の中の水たまりなどの浅く開けた水域に産卵し、5~6月にオタマジャクシから変態し上陸する(長谷川1995;門脇2002)。成体は主に林縁に多く出現し、草地や森林内も利用するとされているため(長谷川1995;片野ほか2001)、森林と水田の接点が多い谷津田の環境は本種の生息によく適している(守山1992;小河原・有田1996;大澤ほか2003)。全国的には普通種であるが、地域によっては絶滅の恐れのある種としてレッドリストに掲載されており、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されているほか、千葉県や和歌山県などでは最も絶滅リスクの高い種としてランク付けされている(長谷川2011;玉井2012)。
主な絶滅リスクとしては、水田の乾田化による繁殖環境の減少や、都市化による水田の減少、生息地の分断による孤立化などが挙げられている(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;長谷川2011)。都市近郊において谷津環境は既に保全地区として保全活動がなされている場合が多く、乾田化や都市化は食い止められているものの、すでに孤立化が進んでいる状態であると考えられ、生息地間のネットワークの回復に向けた取り組みが重要となる(大澤・勝野1998;夏原・神原2001;大澤ほか2003;Beebee2005;Rubbo and Kiesecker2005)。ニホンアカガエルの生息地の連続性については、夏原・神原(2001)が大阪府南部を対象として、比較的大きなスケールである500mメッシュでの解析から、森林や水田などの景観要素の連続性の維持が個体群の回復や存続に重要である事を報告している。また、大澤・勝野(1998)も柏尾川流域を対象にしたカエル類の生息確認調査から、個体群の維持には水田などの生息環境の連続性が重要である事を報告している。
しかし、生息環境の空間的な連続性のみでなく、集団間における実際の個体の交流を知ることが重要であるため(Rubbo and Kiesecker2005)、遺伝的な手法により個別地点間の個体群の連続性や孤立の度合を評価する必要があると考えられる。Lesbarréres et al.(2006)はダルマチアアカガエル Rana dalmatinaにおいて、酵素多型の多様度の違いによって、高速道路による生息地の分断化を検出し、Safner et al.(2011)はヨーロッパアカガエル Rana temporariaの個体群に対して、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的構造の解析によって、一般道も含めた道路の交通量等による分断化の影響の度合いを詳細に報告している。これらの報告はいずれも遺伝的多様性を表す各指標や近交係数、繁殖グループを反映していると考えられる遺伝的構造を把握する事で、個体群の健全性や分断化を評価している。また、著者らも印旛沼西岸地域でミトコンドリアDNAの多型解析から、10m幅の道路や3m×3mのコンクリート張りの水路が、個体群の遺伝的構造に影響を与え、生息地間の連続性を制限する要因となっている事を報告している(Kobayashi et al.2013)。このように実際の保全の現場で遺伝的多様性の各指標や遺伝的構造を把握し、生息地の連続性を評価していく事で、周辺の生息地との連続性を維持・回復させるなどの保全対策を科学的な根拠を持って選択する事が可能となると考えられる。
本研究では千葉市の中心部に程近い都市近郊において、地元のNPO法人等の活動によりビオトープとして谷津環境が保全されてきた坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里を中心とした千葉市若葉区北部のニホンアカガエル個体群を調査対象として選定した。本調査地のような都市近郊においては、ニホンアカガエルの遺伝的構造および遺伝的多様性に影響を及ぼす可能性のある事柄は多岐にわたる。例えば高度経済成長期における開発の影響として、河川の護岸工事などによる繁殖環境の減少やそれに伴う連続性の喪失、住宅地の拡大により成体の活動環境が縮小した事による個体数の漸減やそれに伴う遺伝的浮動による遺伝的多様性の低下等が上げられる。また、都市近郊の繁殖地では、他地点からの幼生や卵塊の人為的な導入などの活動がかつて実施されていた可能性も否定できない。加えて、本調査地域では北東側と南西側で水系が異なっているため、水系の違いによる影響も考慮する必要がある。本研究では、とくに住宅地に囲まれたビオトープである坂月川ビオトープに焦点を当てて現状の遺伝的構造や遺伝的多様性を解析し、どの程度周辺個体群との遺伝的交流が保たれているのか、またその要因について過去の開発の背景なども踏まえて考察する事で、都市近郊における谷津環境の保全に向けた対応策を検討した。
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ニホンアカガエルは、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されていますか。
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はい、ニホンアカガエルは、関東地方では茨城県を除くすべての県でレッドリストに掲載されています。
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JCRRAG_001750
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地理
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伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、「さとやま」(鷲谷2011))は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境にかかわる重要な課題の一つとして認識されている(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010;Kadoya and Washitani2011)。そのための政策の立案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやまの特性を抽出できる指標の開発が求められている(Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。
また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の社会的な動きとして、2010年に名古屋において開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イニシアチブに関する提案が採択された(Jリポート2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の生物多様性国家戦略(環境省2012)では、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国立公園の拡充(佐々木2012)や、日本政府が奄美群島を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに環境省によって具体的な計画が検討されている(「世界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環境省・林野庁)」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21450&hou_id=16268、2013年2月13日確認)。
平成14年の自然公園法の改正において、国立・国定公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定された既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境庁自然保護局1997)。したがって、国立・国定公園が原生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことがない。
さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系のモザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland2002;楠本ほか2006;Hendrickx et al.2007;Billeter et al.2008;Firbank et al.2008;Kadoya and Washitani2011;今井ほか2013)。そのような分析・評価に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によって「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映させた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の占有率が低いほど高い値をとる。
Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′×3′(約6km)四方を単位空間として、そこに含まれる30″(約1km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群(サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示した。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および解像度(セル)の検討をそれぞれ2km四方~10km四方、50m~1000m四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物種分布の説明モデルとしては、6km四方の空間単位と解像度50m四方のセルを用いた場合が最も種の分布をよく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らかにした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用(Washitani2001;環境省自然環境局生物多様性センター2010)を反映していることによっており、この解像度での分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化においても有効であると考えられる。
生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくられた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば村井・樋口1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」として、「農業-さとやま的土地利用」とは別の土地利用類型を設けることが望ましい。
本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013)によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するように調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとやま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地図化を試みた。すなわち、50m×50mの区画セルに分けた国土を「原生的土地利用」、「農業-さとやま的土地利用」「人工林」「都市的土地利用」の4類型に分類し、農業-さとやま的土地利用に分類された区域については、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。
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日本の生物多様性国家戦略で課題としてあげられたものはなんですか。
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日本の生物多様性国家戦略で課題としてあげられたものは、生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充です。
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JCRRAG_001751
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地理
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしている(Keddy2000)。たとえば、生物のハビタットの提供、自然景観の形成や水質浄化など多様な機能を持つことが知られている(鈴木ほか1989;浅野ほか2004)。しかし近年、湖沼や河川、ため池などに成立する湿原・湿地植生の多くが干拓や埋立て、排水溝の設置による乾燥化などによって失われ、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されている(平井1993;角野1994a,2002)。たとえば、印旛沼の築堤工事が水質汚濁や光環境の悪化を引き起こし、沈水植物をほぼ全滅させた例や(笠井2001)、霞ケ浦沿岸域がコンクリート製直立護岸で囲われたことによりアサザ Nymphoides peltata (Gmel.) O.Kuntzeが衰退した例(西廣ほか2001)などがあげられる。
本研究の対象地である手賀沼流域においても、1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、水生植物が最も繁茂していた沼の半分弱にもおよぶ529haの浅瀬が陸化し、多くの水生植物が絶滅・減少した(沼田・大野1985)。また、流域における1960年代からの住宅団地や工業団地の造成に伴う生活・工業排水の増加や、農業排水に含まれる除草剤などが影響し、約30種近く生育していた水生植物のほとんどが消失した(浅間2001)。浅間(2001)は、レッドデータブック掲載種のガシャモク Potamogeton dentatus Hagstr.やトリゲモ Najas minor All.などを含む、かつて手賀沼に生育していた22種すべての沈水植物が1970年前後で絶滅したとしている。
近年、生態系に及ぼす外来植物の影響が懸念されている(中坪1997;日本生態学会2002)。たとえば、河川敷の保護区内に要注意外来生物のオオブタクサ Ambrosia trifida L.が侵入し、種の多様性を低下させたことや(宮脇・鷲谷1996)、要注意外来生物のシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (Schrad.) Neesが河川氾濫原において分布を拡大し、在来種を駆逐したこと(村中・鷲谷2003)などが知られている。手賀沼流域も例外ではなく、土地開発や河川改修の影響によって在来の水生植物の多くが姿を消し、レッドデータブック掲載種としてリスト化される種が増加した一方、近年はオオカナダモ Egeria densa Planch.やオオフサモ Myriophyllum brasiliense Cambess.などの外来水生植物がその分布を広げつつある(林ほか2008;千葉県レッドデータブック改訂委員会2009)。また、環境省が特定外来生物に指定するナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides (Mart.) Griseb.が流域内で急速に分布拡大していることも確認されており(林ほか2008)、在来種の保全や外来種の駆除の計画策定のために、流域内における在来種および外来種の分布を把握することは喫緊の課題である。
生態系の保全や復元を計画するうえで、流域を空間単位として、地形や植生などの特性を把握することは重要である(李ほか1989;中村1999;谷内2005;王尾2008)。流域は、いくつかの小流域によって構成され、小流域はさらに詳細な集水域によって構成される入れ子状の構造をもつ。流域や小流域、集水域などの様々な空間単位で在来の水生植物の種組成や分布の傾向を明らかにすることは、その種の分布地点のみならず、その種の生育場所の保全につながるため重要である(中村・小池2005)。また、外来種の分布拡大を防ぐには、流域において分布拡大のソースとなり得る現在の分布地点を明らかにする必要がある(小池2010など)。手賀沼流域では、1940年代以降の土地改良や河川改修の影響によって、水生植物の種組成や分布が小流域・集水域間で大きく異なると考えられる(たとえば、沼田・大野1985;浅間2001)。一般に、土地開発が進むと森林などの植生域は減少することから(田畑2000)、小流域および集水域などの空間単位に流域を区分して植生域を明らかにすることで、様々な空間単位で土地開発程度の差異を把握できる。すなわち、6つの小流域から構成される手賀沼流域は小流域ごとに土地開発の過程や程度に差があるため(田畑・金1986;田畑ほか1987)、流域ごとに生育する水生植物の衰退要因が異なり、その結果として種組成も異なると考えられる。
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印旛沼の築堤工事は何をほぼ全滅させましたか。
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印旛沼の築堤工事がほぼ絶滅させたのは、沈水植物です。
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JCRRAG_001752
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地理
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプで、これを平地の植生帯に名称を当てはめて、亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林と呼んでいる(Ohsawa1990)。この亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林は、日本本土の上で世界的な北限に達するもので、冷温帯落葉広葉樹林との移行部には、いわゆる温帯性針葉樹と呼ばれるスギ Cryptomeria japonica (L.f.) D. Don、トウヒ Picea jezoensis (Siebold et Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr) Rehder、ヒノキ Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) End l.、モミ Abies firma Siebold et Zucc.などの針葉樹や、原始的な被子植物であるフサザクラ Euptelea polyandra Siebold et Zucc.、カツラ Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.、サワグルミ Pterocarya rhoifolia Siebold et Zucc.などの第三紀遺存種が多く分布している。この照葉樹林は世界的にみても大陸東岸の湿った地域にしか見られない特異な生態系であるが、特に東アジアでは熱帯から大陸に沿って連続的に分布することから、種の多様性が高い地域となっている(大澤2005)。また、十分に発達した原生的な照葉樹林においては、川沿いや雲霧帯など周辺の湿度の高いエリアにおいて、フウラン Neofinetia falcata (Thunb.) Hu、ナゴラン Sedirea japonica Garay et Sweetなどの絶滅危惧種の着生植物が多く見られる。
しかし、日本の照葉樹林は、その多くがスギやヒノキなどの人工林に転換、分断化され、小規模な林分がかろうじて残っている状態にある。そのような状況の中で、照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進める宮崎県綾町における取り組みは注目される。綾町での取り組みの特徴は、(1)特定の種の保全ではなく、照葉樹林という生態系全体の保全を目標としていること、(2)保全活動が地域主体で進められており、地元自治体、国有林、自然保護団体、市民といった異なる立場の関係者が協働で活動を進めていること、の2点である。
本稿では、まず絶滅危惧生態系としての照葉樹林の危機的現状を概説し、次に、照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクト、正式名称「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」を紹介する。さらに、2012年に決定した綾町のユネスコエコパークへの登録を取り上げ、照葉樹林生態系を地域とともに守るための枠組みについて議論する。
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照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクトの正式名称はなんですか。
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照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクトの正式名称は「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」です。
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JCRRAG_001753
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地理
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琵琶湖は,1993年に釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議において条約に登録された。その前年に滋賀県琵琶湖研究所でアジア湿地シンポジウム(1)が開催されているが,これを契機に知事が記者会見で登録の意思表示をしたのが発端である。登録までの準備期間が半年ほどしかなかったため,関係者もラムサール条約を十分に咀嚼する余裕がなく,登録後も条約湿地として何をしなければならないのかについての啓発は不十分な状態が続いていた(安藤,2000)。これに変化が生じるのは,世紀が変わる前後からである。
いかなる場所を条約湿地とするかは,締約国の自主的な判断に任されていた。そのため,審査に当たって幅広い考えをもつ国と,厳密かつ慎重に考える国が生じてくる。日本の立場は,国設の鳥獣保護区の中の特別保護区という厳しい規制が課されている湿地の中から条約湿地を選ぶというものであった。琵琶湖の場合,湖全域が1971年に県設の鳥獣保護区になっているが,国が直接厳しく管理できる体制にはなっていなかった。これに対して須川恒は,琵琶湖が条約湿地となった背景には,1992年に成立したヨシ群落保全条例が重要な役割を果たしたのではないかと推測している(須川,1994a)。
釧路市での第5回締約国会議の開催に関わった辻井達一は,この会議のひとつの意義そして期待は,アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすこと,そして加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べている(辻井,1993)。また,当時旧環境庁でこの会議を担当していた名執芳博は,この会議を誘致した目的は,湿地の重要性およびラムサール条約に関する人々の関心を日本およびアジア地域で高めることにあったとし,これと並行してそれまで4ヵ所だった日本のラムサール条約湿地を2桁にすることにも取り組んだと述べている(名執,2017)。したがって琵琶湖の登録は,偶然とはいえラムサール条約の運用が大きく転換する分岐点でなされたことになる。
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ヨシ群落保全条例が成立したのは何年ですか。
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ヨシ群落保全条例が成立したのは1992年です。
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JCRRAG_001754
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地理
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現在、全国的にニホンジカ(Cervus Nippon)が増加しており(環境省自然環境局生物多様性センター2004)、それに伴い各地で農業被害が深刻化している。こうした被害を防除するため、多くの地域でシカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われている。このような被害防除努力を効率的に活かすためには、シカの生息密度や被害の程度を継続してモニタリングし、管理計画の評価や見直しを行っていく必要がある(三浦1999)。個体数管理の目標密度は、同地域内で一律もしくはかなり広い範囲を単位に設定されることが多い(宇野ほか2007)。しかし最近の研究により、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されている(坂田ほか2001,2002;Agetsuma2007)。このことは、管理目標とすべき生息密度が局所的な景観構造により変化する可能性を示唆している。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば、限られた被害防除努力をより効率的に配分することが可能となるだろう。そのためには、シカ密度と被害の程度との関係を解明することに加えて、被害の程度に影響を与える景観要素やその効果が及ぶ空間スケールを明らかにする必要がある。こうした結果と対象地域の景観構造データから、許容できる被害限界の生息密度を推定し地図化することで、シカによる農業被害のリスクマップを作成することができるだろう。
千葉県房総半島南部には孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じている(千葉県2004)。特に被害が深刻な農作物は水稲である。千葉県は稲作農家を対象とした郵送アンケート調査を行い、その結果をもとに水稲被害の許容密度を3頭/km2以下と設定した(千葉県2004)。しかし本地域は森林や田畑、人家などのさまざまな景観要素が狭い空間スケールでモザイク状に分布することから、水田周辺の環境は著しくばらつくと考えられる。このことは、農作物への被害のレベルはシカの密度が一定であっても局所的に異なる可能性があることを意味する。そこで本研究では、まずシカによる水稲被害のレベルを水田農家へのアンケート調査により定量的に評価し、それをシカの生息密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築することで、被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにする。本研究で注目する景観要素は、水田周辺の森林と林縁である。森林はシカの主な棲み場所であるため、森林に囲まれた農地ほど被害が大きくなることが示されている(坂田ほか2001,2002;Stewart et al.2007)。また林縁は、シカの栄養状態を改善し(Miyashita et al.2007)、妊娠率を増加させることから(Miyashita et al.2008)、好適な採餌場所であると考えられている。こうした採餌場所付近の水田では被害のレベルが変化すると予想される。次に得られた統計モデルと本地域の景観データを用いて、被害が軽度に維持されるシカの生息密度を局所スケールで推定・地図化することで、シカによる水稲被害リスクマップを作成する。最後に被害予測モデルやリスクマップの有効性や今後の課題について検討する。
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ニホンジカによる農業被害を防除するために、どのようなことが行われていますか。
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ニホンジカによる農業被害を防除するために、シカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われています。
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JCRRAG_001755
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地理
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現在、全国的にニホンジカ(Cervus Nippon)が増加しており(環境省自然環境局生物多様性センター2004)、それに伴い各地で農業被害が深刻化している。こうした被害を防除するため、多くの地域でシカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われている。このような被害防除努力を効率的に活かすためには、シカの生息密度や被害の程度を継続してモニタリングし、管理計画の評価や見直しを行っていく必要がある(三浦1999)。個体数管理の目標密度は、同地域内で一律もしくはかなり広い範囲を単位に設定されることが多い(宇野ほか2007)。しかし最近の研究により、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されている(坂田ほか2001,2002;Agetsuma2007)。このことは、管理目標とすべき生息密度が局所的な景観構造により変化する可能性を示唆している。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば、限られた被害防除努力をより効率的に配分することが可能となるだろう。そのためには、シカ密度と被害の程度との関係を解明することに加えて、被害の程度に影響を与える景観要素やその効果が及ぶ空間スケールを明らかにする必要がある。こうした結果と対象地域の景観構造データから、許容できる被害限界の生息密度を推定し地図化することで、シカによる農業被害のリスクマップを作成することができるだろう。
千葉県房総半島南部には孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じている(千葉県2004)。特に被害が深刻な農作物は水稲である。千葉県は稲作農家を対象とした郵送アンケート調査を行い、その結果をもとに水稲被害の許容密度を3頭/km2以下と設定した(千葉県2004)。しかし本地域は森林や田畑、人家などのさまざまな景観要素が狭い空間スケールでモザイク状に分布することから、水田周辺の環境は著しくばらつくと考えられる。このことは、農作物への被害のレベルはシカの密度が一定であっても局所的に異なる可能性があることを意味する。そこで本研究では、まずシカによる水稲被害のレベルを水田農家へのアンケート調査により定量的に評価し、それをシカの生息密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築することで、被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにする。本研究で注目する景観要素は、水田周辺の森林と林縁である。森林はシカの主な棲み場所であるため、森林に囲まれた農地ほど被害が大きくなることが示されている(坂田ほか2001,2002;Stewart et al.2007)。また林縁は、シカの栄養状態を改善し(Miyashita et al.2007)、妊娠率を増加させることから(Miyashita et al.2008)、好適な採餌場所であると考えられている。こうした採餌場所付近の水田では被害のレベルが変化すると予想される。次に得られた統計モデルと本地域の景観データを用いて、被害が軽度に維持されるシカの生息密度を局所スケールで推定・地図化することで、シカによる水稲被害リスクマップを作成する。最後に被害予測モデルやリスクマップの有効性や今後の課題について検討する。
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シカの主な棲み場所はどこですか。
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シカの主な棲み場所は森林です。
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JCRRAG_001756
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地理
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現在、全国的にニホンジカ(Cervus Nippon)が増加しており(環境省自然環境局生物多様性センター2004)、それに伴い各地で農業被害が深刻化している。こうした被害を防除するため、多くの地域でシカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われている。このような被害防除努力を効率的に活かすためには、シカの生息密度や被害の程度を継続してモニタリングし、管理計画の評価や見直しを行っていく必要がある(三浦1999)。個体数管理の目標密度は、同地域内で一律もしくはかなり広い範囲を単位に設定されることが多い(宇野ほか2007)。しかし最近の研究により、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されている(坂田ほか2001,2002;Agetsuma2007)。このことは、管理目標とすべき生息密度が局所的な景観構造により変化する可能性を示唆している。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば、限られた被害防除努力をより効率的に配分することが可能となるだろう。そのためには、シカ密度と被害の程度との関係を解明することに加えて、被害の程度に影響を与える景観要素やその効果が及ぶ空間スケールを明らかにする必要がある。こうした結果と対象地域の景観構造データから、許容できる被害限界の生息密度を推定し地図化することで、シカによる農業被害のリスクマップを作成することができるだろう。
千葉県房総半島南部には孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じている(千葉県2004)。特に被害が深刻な農作物は水稲である。千葉県は稲作農家を対象とした郵送アンケート調査を行い、その結果をもとに水稲被害の許容密度を3頭/km2以下と設定した(千葉県2004)。しかし本地域は森林や田畑、人家などのさまざまな景観要素が狭い空間スケールでモザイク状に分布することから、水田周辺の環境は著しくばらつくと考えられる。このことは、農作物への被害のレベルはシカの密度が一定であっても局所的に異なる可能性があることを意味する。そこで本研究では、まずシカによる水稲被害のレベルを水田農家へのアンケート調査により定量的に評価し、それをシカの生息密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築することで、被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにする。本研究で注目する景観要素は、水田周辺の森林と林縁である。森林はシカの主な棲み場所であるため、森林に囲まれた農地ほど被害が大きくなることが示されている(坂田ほか2001,2002;Stewart et al.2007)。また林縁は、シカの栄養状態を改善し(Miyashita et al.2007)、妊娠率を増加させることから(Miyashita et al.2008)、好適な採餌場所であると考えられている。こうした採餌場所付近の水田では被害のレベルが変化すると予想される。次に得られた統計モデルと本地域の景観データを用いて、被害が軽度に維持されるシカの生息密度を局所スケールで推定・地図化することで、シカによる水稲被害リスクマップを作成する。最後に被害予測モデルやリスクマップの有効性や今後の課題について検討する。
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ニホンジカが増加することで、どのような被害が深刻化していますか。
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ニホンジカが増加することで、農業被害が深刻化しています。
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JCRRAG_001757
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地理
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現在、全国的にニホンジカ(Cervus Nippon)が増加しており(環境省自然環境局生物多様性センター2004)、それに伴い各地で農業被害が深刻化している。こうした被害を防除するため、多くの地域でシカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われている。このような被害防除努力を効率的に活かすためには、シカの生息密度や被害の程度を継続してモニタリングし、管理計画の評価や見直しを行っていく必要がある(三浦1999)。個体数管理の目標密度は、同地域内で一律もしくはかなり広い範囲を単位に設定されることが多い(宇野ほか2007)。しかし最近の研究により、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されている(坂田ほか2001,2002;Agetsuma2007)。このことは、管理目標とすべき生息密度が局所的な景観構造により変化する可能性を示唆している。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば、限られた被害防除努力をより効率的に配分することが可能となるだろう。そのためには、シカ密度と被害の程度との関係を解明することに加えて、被害の程度に影響を与える景観要素やその効果が及ぶ空間スケールを明らかにする必要がある。こうした結果と対象地域の景観構造データから、許容できる被害限界の生息密度を推定し地図化することで、シカによる農業被害のリスクマップを作成することができるだろう。
千葉県房総半島南部には孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じている(千葉県2004)。特に被害が深刻な農作物は水稲である。千葉県は稲作農家を対象とした郵送アンケート調査を行い、その結果をもとに水稲被害の許容密度を3頭/km2以下と設定した(千葉県2004)。しかし本地域は森林や田畑、人家などのさまざまな景観要素が狭い空間スケールでモザイク状に分布することから、水田周辺の環境は著しくばらつくと考えられる。このことは、農作物への被害のレベルはシカの密度が一定であっても局所的に異なる可能性があることを意味する。そこで本研究では、まずシカによる水稲被害のレベルを水田農家へのアンケート調査により定量的に評価し、それをシカの生息密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築することで、被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにする。本研究で注目する景観要素は、水田周辺の森林と林縁である。森林はシカの主な棲み場所であるため、森林に囲まれた農地ほど被害が大きくなることが示されている(坂田ほか2001,2002;Stewart et al.2007)。また林縁は、シカの栄養状態を改善し(Miyashita et al.2007)、妊娠率を増加させることから(Miyashita et al.2008)、好適な採餌場所であると考えられている。こうした採餌場所付近の水田では被害のレベルが変化すると予想される。次に得られた統計モデルと本地域の景観データを用いて、被害が軽度に維持されるシカの生息密度を局所スケールで推定・地図化することで、シカによる水稲被害リスクマップを作成する。最後に被害予測モデルやリスクマップの有効性や今後の課題について検討する。
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孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じているのは、千葉県のどのエリアですか。
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孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じているのは、千葉県の房総半島南部です。
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JCRRAG_001758
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地理
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近年の日本では、人口減少や高齢化などの理由により、水田の耕作放棄が急速に進行しており(農林水産省2009a)、1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の1.5%にあたる38,170haにおいて耕作が放棄されている(農林水産省2009b)。耕作放棄水田の増加に対し、食料自給率の向上と生産基盤の維持の観点から、非農業団体の農業参加の促進や飼料作物等への転作の奨励などの対策が実施されている(農林水産省2009a)。
しかし、湿地の生物多様性の保全の観点からは、水田の耕作放棄は必ずしも負の影響のみをもつとは限らない。耕作放棄された水田では、乾田化や農薬の多投入といった生物多様性への圧力が弱まり、水田開発以前の湿地あるいは近代化以前の水田が有していた湿地性動植物のハビタットとしての機能(Washitani2007;鷲谷2007)が回復することも期待される。全国的に湿地が減少し(「日本全国の湿地面積の変化」国土地理院 http://www1.gsi.go.jp/geowww/lake/shicchimenseki2.html、2010年6月18日確認)、多くの湿地性動植物が絶滅危惧種になっている現状を鑑みると、水田耕作放棄地の利活用の検討は、湿地性動植物のハビタットとしての評価を十分に踏まえて行うことが望ましい。
世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加している(Aide and Grau2004;Cramer et al.2008)。それらの研究では、耕作放棄されてからの時間経過や周辺の生物供給源とともに、耕作されていた時代からの「遺産(legacy)」の重要性が指摘されている(Standish et al.2007)。放棄後の生物多様性に負の影響を与える可能性のある遺産としては、農薬の残留、侵略的外来雑草種子の土壌シードバンク、排水施設などの水文学的環境を変える構造物の残置などが指摘されている(Standish et al.2007;Cramer et al.2008)。水田耕作放棄地においても、水文学的環境の改変をはじめとする遺産が、その場所の湿地としての価値に大きく影響することが予測される。
本研究では、関東地方の台地周縁に発達する小規模な谷(=谷津または谷戸)の最奥部の耕作放棄水田を対象とし、その植生を保全生態学的観点から評価するとともに、その特性に影響する環境要因を分析した。谷津の水源部付近にあたる奥部は、水不足や水害が少ない場所として、少なくとも中世以前から水田として利用されてきたことが知られている(高島1997)。しかし面積が狭く、また湿潤すぎることから機械化には適さず、現在では多くの水田で耕作が放棄されている(有田・小林2000;高田2006)。一方、湧水点に近いので湿潤環境が維持されやすいこと、最上流部なので他の水田からの農薬や肥料などの影響を受けにくいと考えられることから、湿地性植物のハビタットとして良好な状態を維持している可能性が期待できる。しかし谷津奥部水田耕作放棄地での植生やフロラの現状分析に関する調査・研究はほとんど行われていない。一方で、ゴルフ場や宅地、廃棄物処分場などへの開発圧も高く(Fujihara et al.2005;Fukushima et al.2007)、保全生態学的観点からの評価が急がれる。
本研究は、茨城県の北浦東岸域を対象地域として谷津奥部の水田耕作放棄地に成立した植生を水生・湿生植物の生育ポテンシャルの面から評価することを目的とし、32箇所の水田耕作放棄地において植生とそれに影響すると考えられる環境要因の調査を実施し、植生の評価と要因分析を行った。
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近年の日本では、どのような理由により、水田の耕作放棄が急速に進行していますか。
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近年の日本では、人口減少や高齢化などの理由により、水田の耕作放棄が急速に進行しています。
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JCRRAG_001759
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地理
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近年の日本では、人口減少や高齢化などの理由により、水田の耕作放棄が急速に進行しており(農林水産省2009a)、1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の1.5%にあたる38,170haにおいて耕作が放棄されている(農林水産省2009b)。耕作放棄水田の増加に対し、食料自給率の向上と生産基盤の維持の観点から、非農業団体の農業参加の促進や飼料作物等への転作の奨励などの対策が実施されている(農林水産省2009a)。
しかし、湿地の生物多様性の保全の観点からは、水田の耕作放棄は必ずしも負の影響のみをもつとは限らない。耕作放棄された水田では、乾田化や農薬の多投入といった生物多様性への圧力が弱まり、水田開発以前の湿地あるいは近代化以前の水田が有していた湿地性動植物のハビタットとしての機能(Washitani2007;鷲谷2007)が回復することも期待される。全国的に湿地が減少し(「日本全国の湿地面積の変化」国土地理院 http://www1.gsi.go.jp/geowww/lake/shicchimenseki2.html、2010年6月18日確認)、多くの湿地性動植物が絶滅危惧種になっている現状を鑑みると、水田耕作放棄地の利活用の検討は、湿地性動植物のハビタットとしての評価を十分に踏まえて行うことが望ましい。
世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加している(Aide and Grau2004;Cramer et al.2008)。それらの研究では、耕作放棄されてからの時間経過や周辺の生物供給源とともに、耕作されていた時代からの「遺産(legacy)」の重要性が指摘されている(Standish et al.2007)。放棄後の生物多様性に負の影響を与える可能性のある遺産としては、農薬の残留、侵略的外来雑草種子の土壌シードバンク、排水施設などの水文学的環境を変える構造物の残置などが指摘されている(Standish et al.2007;Cramer et al.2008)。水田耕作放棄地においても、水文学的環境の改変をはじめとする遺産が、その場所の湿地としての価値に大きく影響することが予測される。
本研究では、関東地方の台地周縁に発達する小規模な谷(=谷津または谷戸)の最奥部の耕作放棄水田を対象とし、その植生を保全生態学的観点から評価するとともに、その特性に影響する環境要因を分析した。谷津の水源部付近にあたる奥部は、水不足や水害が少ない場所として、少なくとも中世以前から水田として利用されてきたことが知られている(高島1997)。しかし面積が狭く、また湿潤すぎることから機械化には適さず、現在では多くの水田で耕作が放棄されている(有田・小林2000;高田2006)。一方、湧水点に近いので湿潤環境が維持されやすいこと、最上流部なので他の水田からの農薬や肥料などの影響を受けにくいと考えられることから、湿地性植物のハビタットとして良好な状態を維持している可能性が期待できる。しかし谷津奥部水田耕作放棄地での植生やフロラの現状分析に関する調査・研究はほとんど行われていない。一方で、ゴルフ場や宅地、廃棄物処分場などへの開発圧も高く(Fujihara et al.2005;Fukushima et al.2007)、保全生態学的観点からの評価が急がれる。
本研究は、茨城県の北浦東岸域を対象地域として谷津奥部の水田耕作放棄地に成立した植生を水生・湿生植物の生育ポテンシャルの面から評価することを目的とし、32箇所の水田耕作放棄地において植生とそれに影響すると考えられる環境要因の調査を実施し、植生の評価と要因分析を行った。
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1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の何%が耕作を放棄されていますか。
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1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の1.5%が耕作を放棄されています。
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JCRRAG_001760
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地理
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近年の日本では、人口減少や高齢化などの理由により、水田の耕作放棄が急速に進行しており(農林水産省2009a)、1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の1.5%にあたる38,170haにおいて耕作が放棄されている(農林水産省2009b)。耕作放棄水田の増加に対し、食料自給率の向上と生産基盤の維持の観点から、非農業団体の農業参加の促進や飼料作物等への転作の奨励などの対策が実施されている(農林水産省2009a)。
しかし、湿地の生物多様性の保全の観点からは、水田の耕作放棄は必ずしも負の影響のみをもつとは限らない。耕作放棄された水田では、乾田化や農薬の多投入といった生物多様性への圧力が弱まり、水田開発以前の湿地あるいは近代化以前の水田が有していた湿地性動植物のハビタットとしての機能(Washitani2007;鷲谷2007)が回復することも期待される。全国的に湿地が減少し(「日本全国の湿地面積の変化」国土地理院 http://www1.gsi.go.jp/geowww/lake/shicchimenseki2.html、2010年6月18日確認)、多くの湿地性動植物が絶滅危惧種になっている現状を鑑みると、水田耕作放棄地の利活用の検討は、湿地性動植物のハビタットとしての評価を十分に踏まえて行うことが望ましい。
世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加している(Aide and Grau2004;Cramer et al.2008)。それらの研究では、耕作放棄されてからの時間経過や周辺の生物供給源とともに、耕作されていた時代からの「遺産(legacy)」の重要性が指摘されている(Standish et al.2007)。放棄後の生物多様性に負の影響を与える可能性のある遺産としては、農薬の残留、侵略的外来雑草種子の土壌シードバンク、排水施設などの水文学的環境を変える構造物の残置などが指摘されている(Standish et al.2007;Cramer et al.2008)。水田耕作放棄地においても、水文学的環境の改変をはじめとする遺産が、その場所の湿地としての価値に大きく影響することが予測される。
本研究では、関東地方の台地周縁に発達する小規模な谷(=谷津または谷戸)の最奥部の耕作放棄水田を対象とし、その植生を保全生態学的観点から評価するとともに、その特性に影響する環境要因を分析した。谷津の水源部付近にあたる奥部は、水不足や水害が少ない場所として、少なくとも中世以前から水田として利用されてきたことが知られている(高島1997)。しかし面積が狭く、また湿潤すぎることから機械化には適さず、現在では多くの水田で耕作が放棄されている(有田・小林2000;高田2006)。一方、湧水点に近いので湿潤環境が維持されやすいこと、最上流部なので他の水田からの農薬や肥料などの影響を受けにくいと考えられることから、湿地性植物のハビタットとして良好な状態を維持している可能性が期待できる。しかし谷津奥部水田耕作放棄地での植生やフロラの現状分析に関する調査・研究はほとんど行われていない。一方で、ゴルフ場や宅地、廃棄物処分場などへの開発圧も高く(Fujihara et al.2005;Fukushima et al.2007)、保全生態学的観点からの評価が急がれる。
本研究は、茨城県の北浦東岸域を対象地域として谷津奥部の水田耕作放棄地に成立した植生を水生・湿生植物の生育ポテンシャルの面から評価することを目的とし、32箇所の水田耕作放棄地において植生とそれに影響すると考えられる環境要因の調査を実施し、植生の評価と要因分析を行った。
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耕作放棄された水田ではどんな機能の回復が期待されていますか。
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耕作放棄された水田では、湿地性動植物のハビタットとしての機能の回復が期待されています。
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JCRRAG_001761
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地理
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現在、全国的にニホンジカ(Cervus Nippon)が増加しており(環境省自然環境局生物多様性センター2004)、それに伴い各地で農業被害が深刻化している。こうした被害を防除するため、多くの地域でシカの個体数管理や侵入防除柵などの設置が行われている。このような被害防除努力を効率的に活かすためには、シカの生息密度や被害の程度を継続してモニタリングし、管理計画の評価や見直しを行っていく必要がある(三浦1999)。個体数管理の目標密度は、同地域内で一律もしくはかなり広い範囲を単位に設定されることが多い(宇野ほか2007)。しかし最近の研究により、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されている(坂田ほか2001,2002;Agetsuma2007)。このことは、管理目標とすべき生息密度が局所的な景観構造により変化する可能性を示唆している。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば、限られた被害防除努力をより効率的に配分することが可能となるだろう。そのためには、シカ密度と被害の程度との関係を解明することに加えて、被害の程度に影響を与える景観要素やその効果が及ぶ空間スケールを明らかにする必要がある。こうした結果と対象地域の景観構造データから、許容できる被害限界の生息密度を推定し地図化することで、シカによる農業被害のリスクマップを作成することができるだろう。
千葉県房総半島南部には孤立したシカ個体群が生息しており、近年の分布拡大や密度増加に伴い深刻な農業被害が生じている(千葉県2004)。特に被害が深刻な農作物は水稲である。千葉県は稲作農家を対象とした郵送アンケート調査を行い、その結果をもとに水稲被害の許容密度を3頭/km2以下と設定した(千葉県2004)。しかし本地域は森林や田畑、人家などのさまざまな景観要素が狭い空間スケールでモザイク状に分布することから、水田周辺の環境は著しくばらつくと考えられる。このことは、農作物への被害のレベルはシカの密度が一定であっても局所的に異なる可能性があることを意味する。そこで本研究では、まずシカによる水稲被害のレベルを水田農家へのアンケート調査により定量的に評価し、それをシカの生息密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築することで、被害が生じやすい景観の特徴と被害レベルの予測に適した空間スケールを明らかにする。本研究で注目する景観要素は、水田周辺の森林と林縁である。森林はシカの主な棲み場所であるため、森林に囲まれた農地ほど被害が大きくなることが示されている(坂田ほか2001,2002;Stewart et al.2007)。また林縁は、シカの栄養状態を改善し(Miyashita et al.2007)、妊娠率を増加させることから(Miyashita et al.2008)、好適な採餌場所であると考えられている。こうした採餌場所付近の水田では被害のレベルが変化すると予想される。次に得られた統計モデルと本地域の景観データを用いて、被害が軽度に維持されるシカの生息密度を局所スケールで推定・地図化することで、シカによる水稲被害リスクマップを作成する。最後に被害予測モデルやリスクマップの有効性や今後の課題について検討する。
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最近の研究では、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の何により変化することが示されていますか。
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最近の研究では、シカ密度と農作物被害の程度との関係性は農地周辺の景観構造により変化することが示されています。
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JCRRAG_001762
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地理
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近年の日本では、人口減少や高齢化などの理由により、水田の耕作放棄が急速に進行しており(農林水産省2009a)、1998年から2007年までの10年間には、全水田面積の1.5%にあたる38,170haにおいて耕作が放棄されている(農林水産省2009b)。耕作放棄水田の増加に対し、食料自給率の向上と生産基盤の維持の観点から、非農業団体の農業参加の促進や飼料作物等への転作の奨励などの対策が実施されている(農林水産省2009a)。
しかし、湿地の生物多様性の保全の観点からは、水田の耕作放棄は必ずしも負の影響のみをもつとは限らない。耕作放棄された水田では、乾田化や農薬の多投入といった生物多様性への圧力が弱まり、水田開発以前の湿地あるいは近代化以前の水田が有していた湿地性動植物のハビタットとしての機能(Washitani2007;鷲谷2007)が回復することも期待される。全国的に湿地が減少し(「日本全国の湿地面積の変化」国土地理院 http://www1.gsi.go.jp/geowww/lake/shicchimenseki2.html、2010年6月18日確認)、多くの湿地性動植物が絶滅危惧種になっている現状を鑑みると、水田耕作放棄地の利活用の検討は、湿地性動植物のハビタットとしての評価を十分に踏まえて行うことが望ましい。
世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加している(Aide and Grau2004;Cramer et al.2008)。それらの研究では、耕作放棄されてからの時間経過や周辺の生物供給源とともに、耕作されていた時代からの「遺産(legacy)」の重要性が指摘されている(Standish et al.2007)。放棄後の生物多様性に負の影響を与える可能性のある遺産としては、農薬の残留、侵略的外来雑草種子の土壌シードバンク、排水施設などの水文学的環境を変える構造物の残置などが指摘されている(Standish et al.2007;Cramer et al.2008)。水田耕作放棄地においても、水文学的環境の改変をはじめとする遺産が、その場所の湿地としての価値に大きく影響することが予測される。
本研究では、関東地方の台地周縁に発達する小規模な谷(=谷津または谷戸)の最奥部の耕作放棄水田を対象とし、その植生を保全生態学的観点から評価するとともに、その特性に影響する環境要因を分析した。谷津の水源部付近にあたる奥部は、水不足や水害が少ない場所として、少なくとも中世以前から水田として利用されてきたことが知られている(高島1997)。しかし面積が狭く、また湿潤すぎることから機械化には適さず、現在では多くの水田で耕作が放棄されている(有田・小林2000;高田2006)。一方、湧水点に近いので湿潤環境が維持されやすいこと、最上流部なので他の水田からの農薬や肥料などの影響を受けにくいと考えられることから、湿地性植物のハビタットとして良好な状態を維持している可能性が期待できる。しかし谷津奥部水田耕作放棄地での植生やフロラの現状分析に関する調査・研究はほとんど行われていない。一方で、ゴルフ場や宅地、廃棄物処分場などへの開発圧も高く(Fujihara et al.2005;Fukushima et al.2007)、保全生態学的観点からの評価が急がれる。
本研究は、茨城県の北浦東岸域を対象地域として谷津奥部の水田耕作放棄地に成立した植生を水生・湿生植物の生育ポテンシャルの面から評価することを目的とし、32箇所の水田耕作放棄地において植生とそれに影響すると考えられる環境要因の調査を実施し、植生の評価と要因分析を行った。
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世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加していますか。
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はい、世界的には、耕作放棄地の生物群集に影響する要因の研究は増加しています。
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JCRRAG_001763
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地理
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2011年3月11日に東北地方太平洋沖で発生した大地震と大津波は、東日本の太平洋沿岸域に未曾有の攪乱をもたらした(国立国会図書館 http://kn.ndl.go.jp/static/about/、最終確認日2014年9月5日;環境省自然環境局生物多様性センター http://www.shiokaze.biodic.go.jp/24sokuhou.html/、最終確認日2014年9月11日)。砂浜海岸と沖積平野が並列する宮城県中・南部の仙台湾岸地域では、マグニチュード9.0の激しく長い揺れと地盤の液状化、最大80cmに及ぶ地盤沈降、高さ10mに達する大津波によって、「壊滅的」と表現されるまでに攪乱された景観が南北およそ60kmにわたって広がる事態となった(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html/、最終確認日2014年9月11日)。そして、福島第一原子力発電所から漏れ出した放射能が、さらに深刻な破壊と混沌を被災地にもたらした。
「生態学を学んだ者として、どんな支援ができるのだろう?」、「生態学の視点で、広域かつ甚大な生態系攪乱・災害から、どんなことを学びとる必要があるのだろうか?」・・・・・・日頃から、自然に親しみ、その本質や原理を探求し、保全や利活用に心を砕いてきた者であれば誰もが、こうした自問を反芻したに違いない。本特集はまさに、先行きの見えない状況下、2011年6月から手探りで進めてきた南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリング(以降、「南蒲生モニタリング」と略記)にかかわって、活動の一端を紹介するものである。
南蒲生モニタリングを実施している地域あるいはサイトの状況、その実施体制に関しては、インターネット上のホームページ(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)や平吹ほか(2011、2012)、平吹(2012)、富田ほか(2013)、五十嵐ほか(2013)を参照されたい。その主要な特徴を2、3あげるとすれば、(1)当該地域のステークホルダーである行政機関や住民の方々の理解の下、モニタリングサイトが、砂浜海岸エコトーンの本質的構造である「浅海から前浜、後浜、砂丘を経て、後背湿地に至る領域」をカバーすべく設定されたこと、(2)当該地域の生物・自然環境に精通した地元専門家の方々から、自主的な参加・支援をいただいていること、(3)東日本大震災によって攪乱された海岸陸域では他に事例を見ない、「多様な生物種を対象とした継続調査」であること、に言及できよう。
一方、私たちは当初から、インターネットや海岸エコトーンフォーラム、さまざまな学会講演・シンポジウムといった機会をとらえて、研究者や専門家に対しては南蒲生モニタリングへの参画を、学術・行政機関に対しては学際的で、公的に認証されたプロジェクトへの衣替えを要請してきたが、実状は依然として15名ほどのコアメンバーによる自主的活動にとどまっている(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)。攪乱直後の予想を大きく上回るスピードと規模で進行する生態系の自律的再生、そして復旧・復興事業がもたらすそれを凌ぐ改変と破壊の挾間にあって、私たちは力不足と無念さを噛みしめざるを得ない状況にあることも申し添えておきたい。数百年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は長大で、しかも多様なエコトーンから構成される生態領域である。精査と追跡を通じて、学び、活かしてゆくべき課題はたくさんある。
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数100年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は、どんな要素から構成される生態領域ですか。
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数100年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は多様なエコトーンから構成される生態領域です。
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JCRRAG_001764
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地理
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我が国では、地球温暖化をはじめとする様々な環境変化への対応が求められており、エネルギーに関しては化石燃料依存からの脱却を目指し、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されている。
風力発電に関しては、日本は山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、諸外国に比べ国内市場は低迷しているが、北海道、北東北、九州の沿岸部あるいは洋上の風況が比較的良いことが指摘されている(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2010)。そのため、風力発電施設は主に沿岸部、特に稚内市の宗谷岬ウインドファームや苫前町の苫前ウィンビラ発電所のように海岸段丘上に多く設置されてきたが、陸上における用地取得が困難になっていることもあり、近年では島根県江津市の江津東ウィンドファームのように海浜上に建設される事例も散見される。また、海岸法に基づき海岸を所管する農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するため、設置基準を明確化した「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」(農林水産省農村振興局ほか2011)を公表した。日本の海岸線は、一部の埋立地等を除けばすべて国有地であり、海浜や海岸砂丘は海岸法に定める海岸保全区域等(海岸保全区域および一般公共海岸区域)として都道府県が管理している。海岸法上、海岸保全区域等において風力発電施設の設置に必要な手続きは占有許可のみであり、保安林に指定された後背地の海岸林の指定解除や、民有地における用地確保と比較すると、前述の運用指針策定の経緯からも、海岸保全区域における風力発電施設の導入に対するハードルは低い。そのため、今後更なる海岸、特に海浜や海岸砂丘への風力発電施設の設置が進むと考えられる。
これまで風力発電施設の建設は環境影響評価法の適用外であったため、法的に環境影響評価は義務づけられておらず、一部の地方公共団体の条例に基づく環境影響評価を除けば、事業者の自主性に委ねられて来た。しかし、風力発電施設の導入による周辺環境への影響が顕在化している実態をふまえ、環境省総合環境政策局(2011)は「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催しその結果をまとめている。この報告書では、風力発電施設の導入による環境への影響を、1)騒音・低周波音による近隣住民への影響、2)動植物の生息・生育環境への影響、3)景観への影響、の3つにまとめている。
このような背景のもと、北海道中部日本海側に位置する石狩湾に面した、砂浜海岸である小樽市の銭函海岸では、4.4kmの海岸砂丘上に出力2000kwの風力発電施設15基(当初は20基を予定)、ならびに大規模な蓄電施設を設置する民間の計画が公表され、小樽市は歓迎を表明した(森畑竜二、銭函に風力発電所計画「イメージ、税収アップ」市歓迎 経済に波及効果も、北海道新聞朝刊小樽・後志版、2009年5月16日)。これに対し、自然保護団体や市民グループ、近隣住民(札幌市民)から自然環境への影響や騒音、特に低周波音による健康被害への懸念が表明され、大きな関心を集めている。
風力発電施設の導入による騒音・低周波音による健康被害や鳥類への影響、および景観への影響については、因果関係が不明確なものも含めて、国内外における知見が報告されているが(環境省総合環境政策局2011)、海岸砂丘および砂丘上に発達する海浜植生への影響についての報告は見あたらない。風況適地が沿岸部に集中し、さらに海岸における風力発電施設導入を推進する動きからも、今後、海浜における風力発電施設建設が増加する可能性は十分考えられる。そのため、風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響について整理しておく必要がある。
風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響としては、建設工事による植物群落の喪失・撹乱、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化、が想定される。
本稿では、銭函海岸を事例として、海浜地における風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響についてこれまでの知見を整理することにより検討することを目的とした。
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日本では、何が風力発電の導入障壁となっていますか。
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日本では、山岳地形や複雑な風況が風力発電の導入障壁となっています。
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JCRRAG_001765
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地理
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草は家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要であり、半自然草地は放牧地や採草地として利用されてきた。しかし、生活様式や農業生産様式が変化し、草の利用価値が消失した。主に平野部の草地は開発され、山地や丘陵地の草地では、管理停止による遷移の進行や植林による樹林化が進んだ(スプレイグほか2000;山戸ほか2001;スプレイグ2003;小椋2012)。1850年頃には、国土の1割以上を占めていた半自然草地は、1980年代前半には2%に満たない程に減少した(氷見山ほか1995;小路2003)。半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育していることが知られている(永松・坂田2008;須賀2010)。半自然草地の減少に伴い、これらの草原生動植物は生息・生育環境を失い、絶滅の危機にさらされている(高橋・内藤1997;藤井1999;山戸ほか2001;大窪2002)。このため、半自然草地は、優先的に保全すべき生育地であることが指摘されている(大窪・土田1998;兼子ほか2009)。
半自然草地は、阿蘇や秋吉台、御殿場などに代表される比較的大面積の草地のほかに、水田畦畔、茶草場、道路沿い林縁部に成立した刈り取り草地など、小面積で分布する草地が知られており、大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も、多様な草原生植物の生育地として機能していることが明らかになっている(大窪・前中1995;小柳ほか2009;松村ほか2014)。小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なり、地域全体における草原生植物相の保全や再生を考える上で、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある(小柳ほか2009;山戸ほか2013)。
小面積の半自然草地として、畦畔、茶草場、道路沿いの草地のほかに、低山地の山頂部があげられる。西中国山地の山々は、1960年代頃まで、放牧地や採草地として利用され、広範囲に半自然草地が分布していた(Itow1962,1963;堀川ほか1966;Itow1974;中越1981;小椋2012)。現在、継続的な草利用により維持されている草地は少ないが、従来の管理が停止した山でも、山頂部には小面積の草地が点在している場所がある(宮脇1982)。また、低山地においても、島の風衝草地が知られている(水野・山縣1992;目代・小泉2007)。これらの草地には草原生の植物が遺存的に生育しており、しばしば絶滅危惧種に選定されている種も含まれることが経験的に知られている。急速に草地が消失しつつある今日では、山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、そこに生育することが可能な種の構成や、草地面積や管理履歴などの環境要因との関係については明らかにされていない。
本研究では、まず山頂部に残る半自然草地における草原生植物の種組成について明らかにする。その上で、山頂部草地の面積による生育状況の違い、および大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての、山頂部草地の位置付けについて考察する。
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家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要とされてきたものはなんですか。
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家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要とされてきたものは草です。
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JCRRAG_001766
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地理
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我が国では、地球温暖化をはじめとする様々な環境変化への対応が求められており、エネルギーに関しては化石燃料依存からの脱却を目指し、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されている。
風力発電に関しては、日本は山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、諸外国に比べ国内市場は低迷しているが、北海道、北東北、九州の沿岸部あるいは洋上の風況が比較的良いことが指摘されている(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2010)。そのため、風力発電施設は主に沿岸部、特に稚内市の宗谷岬ウインドファームや苫前町の苫前ウィンビラ発電所のように海岸段丘上に多く設置されてきたが、陸上における用地取得が困難になっていることもあり、近年では島根県江津市の江津東ウィンドファームのように海浜上に建設される事例も散見される。また、海岸法に基づき海岸を所管する農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するため、設置基準を明確化した「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」(農林水産省農村振興局ほか2011)を公表した。日本の海岸線は、一部の埋立地等を除けばすべて国有地であり、海浜や海岸砂丘は海岸法に定める海岸保全区域等(海岸保全区域および一般公共海岸区域)として都道府県が管理している。海岸法上、海岸保全区域等において風力発電施設の設置に必要な手続きは占有許可のみであり、保安林に指定された後背地の海岸林の指定解除や、民有地における用地確保と比較すると、前述の運用指針策定の経緯からも、海岸保全区域における風力発電施設の導入に対するハードルは低い。そのため、今後更なる海岸、特に海浜や海岸砂丘への風力発電施設の設置が進むと考えられる。
これまで風力発電施設の建設は環境影響評価法の適用外であったため、法的に環境影響評価は義務づけられておらず、一部の地方公共団体の条例に基づく環境影響評価を除けば、事業者の自主性に委ねられて来た。しかし、風力発電施設の導入による周辺環境への影響が顕在化している実態をふまえ、環境省総合環境政策局(2011)は「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催しその結果をまとめている。この報告書では、風力発電施設の導入による環境への影響を、1)騒音・低周波音による近隣住民への影響、2)動植物の生息・生育環境への影響、3)景観への影響、の3つにまとめている。
このような背景のもと、北海道中部日本海側に位置する石狩湾に面した、砂浜海岸である小樽市の銭函海岸では、4.4kmの海岸砂丘上に出力2000kwの風力発電施設15基(当初は20基を予定)、ならびに大規模な蓄電施設を設置する民間の計画が公表され、小樽市は歓迎を表明した(森畑竜二、銭函に風力発電所計画「イメージ、税収アップ」市歓迎 経済に波及効果も、北海道新聞朝刊小樽・後志版、2009年5月16日)。これに対し、自然保護団体や市民グループ、近隣住民(札幌市民)から自然環境への影響や騒音、特に低周波音による健康被害への懸念が表明され、大きな関心を集めている。
風力発電施設の導入による騒音・低周波音による健康被害や鳥類への影響、および景観への影響については、因果関係が不明確なものも含めて、国内外における知見が報告されているが(環境省総合環境政策局2011)、海岸砂丘および砂丘上に発達する海浜植生への影響についての報告は見あたらない。風況適地が沿岸部に集中し、さらに海岸における風力発電施設導入を推進する動きからも、今後、海浜における風力発電施設建設が増加する可能性は十分考えられる。そのため、風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響について整理しておく必要がある。
風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響としては、建設工事による植物群落の喪失・撹乱、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化、が想定される。
本稿では、銭函海岸を事例として、海浜地における風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響についてこれまでの知見を整理することにより検討することを目的とした。
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我が国ではどんなエネルギーが注目されていますか。
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我が国では、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されています。
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地理
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草は家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要であり、半自然草地は放牧地や採草地として利用されてきた。しかし、生活様式や農業生産様式が変化し、草の利用価値が消失した。主に平野部の草地は開発され、山地や丘陵地の草地では、管理停止による遷移の進行や植林による樹林化が進んだ(スプレイグほか2000;山戸ほか2001;スプレイグ2003;小椋2012)。1850年頃には、国土の1割以上を占めていた半自然草地は、1980年代前半には2%に満たない程に減少した(氷見山ほか1995;小路2003)。半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育していることが知られている(永松・坂田2008;須賀2010)。半自然草地の減少に伴い、これらの草原生動植物は生息・生育環境を失い、絶滅の危機にさらされている(高橋・内藤1997;藤井1999;山戸ほか2001;大窪2002)。このため、半自然草地は、優先的に保全すべき生育地であることが指摘されている(大窪・土田1998;兼子ほか2009)。
半自然草地は、阿蘇や秋吉台、御殿場などに代表される比較的大面積の草地のほかに、水田畦畔、茶草場、道路沿い林縁部に成立した刈り取り草地など、小面積で分布する草地が知られており、大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も、多様な草原生植物の生育地として機能していることが明らかになっている(大窪・前中1995;小柳ほか2009;松村ほか2014)。小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なり、地域全体における草原生植物相の保全や再生を考える上で、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある(小柳ほか2009;山戸ほか2013)。
小面積の半自然草地として、畦畔、茶草場、道路沿いの草地のほかに、低山地の山頂部があげられる。西中国山地の山々は、1960年代頃まで、放牧地や採草地として利用され、広範囲に半自然草地が分布していた(Itow1962,1963;堀川ほか1966;Itow1974;中越1981;小椋2012)。現在、継続的な草利用により維持されている草地は少ないが、従来の管理が停止した山でも、山頂部には小面積の草地が点在している場所がある(宮脇1982)。また、低山地においても、島の風衝草地が知られている(水野・山縣1992;目代・小泉2007)。これらの草地には草原生の植物が遺存的に生育しており、しばしば絶滅危惧種に選定されている種も含まれることが経験的に知られている。急速に草地が消失しつつある今日では、山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、そこに生育することが可能な種の構成や、草地面積や管理履歴などの環境要因との関係については明らかにされていない。
本研究では、まず山頂部に残る半自然草地における草原生植物の種組成について明らかにする。その上で、山頂部草地の面積による生育状況の違い、および大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての、山頂部草地の位置付けについて考察する。
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半自然草地は、1980年代前半にどのぐらい減少しましたか。
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半自然草地は、1980年代前半に2%に満たない程に減少しています。
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JCRRAG_001768
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地理
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日本を含む東アジアの照葉樹林は、東南アジア熱帯山地林が高緯度の低標高地域に分布を拡大したタイプで、これを平地の植生帯に名称を当てはめて、亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林と呼んでいる(Ohsawa1990)。この亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林は、日本本土の上で世界的な北限に達するもので、冷温帯落葉広葉樹林との移行部には、いわゆる温帯性針葉樹と呼ばれるスギ Cryptomeria japonica (L.f.) D. Don、トウヒ Picea jezoensis (Siebold et Zucc.) Carrière var. hondoensis (Mayr) Rehder、ヒノキ Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) End l.、モミ Abies firma Siebold et Zucc.などの針葉樹や、原始的な被子植物であるフサザクラ Euptelea polyandra Siebold et Zucc.、カツラ Cercidiphyllum japonicum Siebold et Zucc. ex Hoffm. et Schult.、サワグルミ Pterocarya rhoifolia Siebold et Zucc.などの第三紀遺存種が多く分布している。この照葉樹林は世界的にみても大陸東岸の湿った地域にしか見られない特異な生態系であるが、特に東アジアでは熱帯から大陸に沿って連続的に分布することから、種の多様性が高い地域となっている(大澤2005)。また、十分に発達した原生的な照葉樹林においては、川沿いや雲霧帯など周辺の湿度の高いエリアにおいて、フウラン Neofinetia falcata (Thunb.) Hu、ナゴラン Sedirea japonica Garay et Sweetなどの絶滅危惧種の着生植物が多く見られる。
しかし、日本の照葉樹林は、その多くがスギやヒノキなどの人工林に転換、分断化され、小規模な林分がかろうじて残っている状態にある。そのような状況の中で、照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進める宮崎県綾町における取り組みは注目される。綾町での取り組みの特徴は、(1)特定の種の保全ではなく、照葉樹林という生態系全体の保全を目標としていること、(2)保全活動が地域主体で進められており、地元自治体、国有林、自然保護団体、市民といった異なる立場の関係者が協働で活動を進めていること、の2点である。
本稿では、まず絶滅危惧生態系としての照葉樹林の危機的現状を概説し、次に、照葉樹林を保全するために実施された綾の照葉樹林プロジェクト、正式名称「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」を紹介する。さらに、2012年に決定した綾町のユネスコエコパークへの登録を取り上げ、照葉樹林生態系を地域とともに守るための枠組みについて議論する。
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照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進めているのは宮崎県の何町ですか。
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照葉樹林の復元と周辺の市民を巻き込む地域づくりを含めた照葉樹林の保全活動を進めているのは宮崎県の綾町です。
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JCRRAG_001769
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地理
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草は家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要であり、半自然草地は放牧地や採草地として利用されてきた。しかし、生活様式や農業生産様式が変化し、草の利用価値が消失した。主に平野部の草地は開発され、山地や丘陵地の草地では、管理停止による遷移の進行や植林による樹林化が進んだ(スプレイグほか2000;山戸ほか2001;スプレイグ2003;小椋2012)。1850年頃には、国土の1割以上を占めていた半自然草地は、1980年代前半には2%に満たない程に減少した(氷見山ほか1995;小路2003)。半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育していることが知られている(永松・坂田2008;須賀2010)。半自然草地の減少に伴い、これらの草原生動植物は生息・生育環境を失い、絶滅の危機にさらされている(高橋・内藤1997;藤井1999;山戸ほか2001;大窪2002)。このため、半自然草地は、優先的に保全すべき生育地であることが指摘されている(大窪・土田1998;兼子ほか2009)。
半自然草地は、阿蘇や秋吉台、御殿場などに代表される比較的大面積の草地のほかに、水田畦畔、茶草場、道路沿い林縁部に成立した刈り取り草地など、小面積で分布する草地が知られており、大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も、多様な草原生植物の生育地として機能していることが明らかになっている(大窪・前中1995;小柳ほか2009;松村ほか2014)。小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なり、地域全体における草原生植物相の保全や再生を考える上で、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある(小柳ほか2009;山戸ほか2013)。
小面積の半自然草地として、畦畔、茶草場、道路沿いの草地のほかに、低山地の山頂部があげられる。西中国山地の山々は、1960年代頃まで、放牧地や採草地として利用され、広範囲に半自然草地が分布していた(Itow1962,1963;堀川ほか1966;Itow1974;中越1981;小椋2012)。現在、継続的な草利用により維持されている草地は少ないが、従来の管理が停止した山でも、山頂部には小面積の草地が点在している場所がある(宮脇1982)。また、低山地においても、島の風衝草地が知られている(水野・山縣1992;目代・小泉2007)。これらの草地には草原生の植物が遺存的に生育しており、しばしば絶滅危惧種に選定されている種も含まれることが経験的に知られている。急速に草地が消失しつつある今日では、山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、そこに生育することが可能な種の構成や、草地面積や管理履歴などの環境要因との関係については明らかにされていない。
本研究では、まず山頂部に残る半自然草地における草原生植物の種組成について明らかにする。その上で、山頂部草地の面積による生育状況の違い、および大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての、山頂部草地の位置付けについて考察する。
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半自然草地の中でも、比較的大面積の草地として代表される場所は、阿蘇、秋吉台の他にどこですか。
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半自然草地の中でも、比較的大面積の草地として代表される場所は、阿蘇、秋吉台の他には、御殿場です。
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JCRRAG_001770
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地理
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草は家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要であり、半自然草地は放牧地や採草地として利用されてきた。しかし、生活様式や農業生産様式が変化し、草の利用価値が消失した。主に平野部の草地は開発され、山地や丘陵地の草地では、管理停止による遷移の進行や植林による樹林化が進んだ(スプレイグほか2000;山戸ほか2001;スプレイグ2003;小椋2012)。1850年頃には、国土の1割以上を占めていた半自然草地は、1980年代前半には2%に満たない程に減少した(氷見山ほか1995;小路2003)。半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育していることが知られている(永松・坂田2008;須賀2010)。半自然草地の減少に伴い、これらの草原生動植物は生息・生育環境を失い、絶滅の危機にさらされている(高橋・内藤1997;藤井1999;山戸ほか2001;大窪2002)。このため、半自然草地は、優先的に保全すべき生育地であることが指摘されている(大窪・土田1998;兼子ほか2009)。
半自然草地は、阿蘇や秋吉台、御殿場などに代表される比較的大面積の草地のほかに、水田畦畔、茶草場、道路沿い林縁部に成立した刈り取り草地など、小面積で分布する草地が知られており、大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も、多様な草原生植物の生育地として機能していることが明らかになっている(大窪・前中1995;小柳ほか2009;松村ほか2014)。小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なり、地域全体における草原生植物相の保全や再生を考える上で、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある(小柳ほか2009;山戸ほか2013)。
小面積の半自然草地として、畦畔、茶草場、道路沿いの草地のほかに、低山地の山頂部があげられる。西中国山地の山々は、1960年代頃まで、放牧地や採草地として利用され、広範囲に半自然草地が分布していた(Itow1962,1963;堀川ほか1966;Itow1974;中越1981;小椋2012)。現在、継続的な草利用により維持されている草地は少ないが、従来の管理が停止した山でも、山頂部には小面積の草地が点在している場所がある(宮脇1982)。また、低山地においても、島の風衝草地が知られている(水野・山縣1992;目代・小泉2007)。これらの草地には草原生の植物が遺存的に生育しており、しばしば絶滅危惧種に選定されている種も含まれることが経験的に知られている。急速に草地が消失しつつある今日では、山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、そこに生育することが可能な種の構成や、草地面積や管理履歴などの環境要因との関係については明らかにされていない。
本研究では、まず山頂部に残る半自然草地における草原生植物の種組成について明らかにする。その上で、山頂部草地の面積による生育状況の違い、および大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての、山頂部草地の位置付けについて考察する。
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小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なりますか。
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はい、小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なります。
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JCRRAG_001771
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地理
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里地里山は奥山と都市の中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成され(環境省2004)、ひとの営みに依存した多くの生物が生育・生息している(守山1988;大窪・前中1995;日鷹ほか2006;石井2005)。しかし産業化の進展により管理放棄され開発の対象となったり遷移が進行し、地域的な生物多様性の劣化が深刻化しており(小柳ほか2007;山田ほか2007)、環境省も、わが国の生物多様性が直面している3つの危機の1つとして里山における人間活動の縮小をあげている(環境省2002)。
高い多様性を持った地域がどこに分布しているのかを知ることは、重点的に保全すべき地域を特定したり、また地域的な生物多様性劣化の原因を特定する上でも重要である。ひとつの市町村の中で保全すべき重要な谷戸を特定する場合には、小さな空間スケールの中で高い空間解像度の情報が必要であるが(浜口ほか2010)、国や県などの広い地域を見渡して重点的に保全すべき地方を見いだす場合には日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールの情報が必要となる。しかし、このように大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていない。
これまで数キロメートル以内程度の小さな空間スケールにおいては、全域を踏査して種をマッピングすることによる自然の評価がおこなわれてきたが(小栗ほか2005;浜口ほか2010)、数百キロメートルにおよぶ大きな空間スケールの評価は労力の制限もあるため空中写真などによる地被や地形などの既存のデータから里山の分布を推定することが多かった(篠沢ほか1993;高橋ほか2006)。また標本庫に収蔵された標本(Global Biodiversity Information Facility 日本ノード、http://gbif.ddbj.nig.ac.jp/、2011年8月30日確認)やコドラートによる植生調査のデータベース(山本・楠本2008)をもとに評価地図を作成することも原理的には可能だが、採集や調査の密度は研究者の地理分布を強くうけ、調査努力量の地理分布が偏ると誤った結果が得られるため、大きな空間スケールでの現地調査によって検証する必要がある。
そこで本研究では関東地方周辺を対象とする広域的なスケールにおいて、実現可能な労力での指標植物の地上調査に基づいて多様性の評価マップを作成するための調査手法を開発し、関東地方周辺の里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンを明らかにした。また里地里山の植物の豊かさの違いに影響する自然的・人為的要因を明らかにした。またこのような要因をもとにして空間解像度の高い里地里山の生物多様性の空間的な分布パターンの推定を試みた。
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日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていないのですか。
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はい、日本全体や関東地方全域などの大きな空間スケールにおける里地里山の生物多様性の面的な分布パターンは知られていません。
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JCRRAG_001772
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地理
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草は家畜の飼料や田畑の肥料、屋根の材料として必要であり、半自然草地は放牧地や採草地として利用されてきた。しかし、生活様式や農業生産様式が変化し、草の利用価値が消失した。主に平野部の草地は開発され、山地や丘陵地の草地では、管理停止による遷移の進行や植林による樹林化が進んだ(スプレイグほか2000;山戸ほか2001;スプレイグ2003;小椋2012)。1850年頃には、国土の1割以上を占めていた半自然草地は、1980年代前半には2%に満たない程に減少した(氷見山ほか1995;小路2003)。半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育していることが知られている(永松・坂田2008;須賀2010)。半自然草地の減少に伴い、これらの草原生動植物は生息・生育環境を失い、絶滅の危機にさらされている(高橋・内藤1997;藤井1999;山戸ほか2001;大窪2002)。このため、半自然草地は、優先的に保全すべき生育地であることが指摘されている(大窪・土田1998;兼子ほか2009)。
半自然草地は、阿蘇や秋吉台、御殿場などに代表される比較的大面積の草地のほかに、水田畦畔、茶草場、道路沿い林縁部に成立した刈り取り草地など、小面積で分布する草地が知られており、大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も、多様な草原生植物の生育地として機能していることが明らかになっている(大窪・前中1995;小柳ほか2009;松村ほか2014)。小面積の半自然草地は、大面積の半自然草地とは種組成が異なり、地域全体における草原生植物相の保全や再生を考える上で、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある(小柳ほか2009;山戸ほか2013)。
小面積の半自然草地として、畦畔、茶草場、道路沿いの草地のほかに、低山地の山頂部があげられる。西中国山地の山々は、1960年代頃まで、放牧地や採草地として利用され、広範囲に半自然草地が分布していた(Itow1962,1963;堀川ほか1966;Itow1974;中越1981;小椋2012)。現在、継続的な草利用により維持されている草地は少ないが、従来の管理が停止した山でも、山頂部には小面積の草地が点在している場所がある(宮脇1982)。また、低山地においても、島の風衝草地が知られている(水野・山縣1992;目代・小泉2007)。これらの草地には草原生の植物が遺存的に生育しており、しばしば絶滅危惧種に選定されている種も含まれることが経験的に知られている。急速に草地が消失しつつある今日では、山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、そこに生育することが可能な種の構成や、草地面積や管理履歴などの環境要因との関係については明らかにされていない。
本研究では、まず山頂部に残る半自然草地における草原生植物の種組成について明らかにする。その上で、山頂部草地の面積による生育状況の違い、および大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての、山頂部草地の位置付けについて考察する。
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何が変化したことで、草の利用価値が消失しましたか。
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生活様式や農業生産様式が変化したことで草の利用価値が消失しました。
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JCRRAG_001773
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地理
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我が国では、地球温暖化をはじめとする様々な環境変化への対応が求められており、エネルギーに関しては化石燃料依存からの脱却を目指し、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されている。
風力発電に関しては、日本は山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、諸外国に比べ国内市場は低迷しているが、北海道、北東北、九州の沿岸部あるいは洋上の風況が比較的良いことが指摘されている(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2010)。そのため、風力発電施設は主に沿岸部、特に稚内市の宗谷岬ウインドファームや苫前町の苫前ウィンビラ発電所のように海岸段丘上に多く設置されてきたが、陸上における用地取得が困難になっていることもあり、近年では島根県江津市の江津東ウィンドファームのように海浜上に建設される事例も散見される。また、海岸法に基づき海岸を所管する農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するため、設置基準を明確化した「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」(農林水産省農村振興局ほか2011)を公表した。日本の海岸線は、一部の埋立地等を除けばすべて国有地であり、海浜や海岸砂丘は海岸法に定める海岸保全区域等(海岸保全区域および一般公共海岸区域)として都道府県が管理している。海岸法上、海岸保全区域等において風力発電施設の設置に必要な手続きは占有許可のみであり、保安林に指定された後背地の海岸林の指定解除や、民有地における用地確保と比較すると、前述の運用指針策定の経緯からも、海岸保全区域における風力発電施設の導入に対するハードルは低い。そのため、今後更なる海岸、特に海浜や海岸砂丘への風力発電施設の設置が進むと考えられる。
これまで風力発電施設の建設は環境影響評価法の適用外であったため、法的に環境影響評価は義務づけられておらず、一部の地方公共団体の条例に基づく環境影響評価を除けば、事業者の自主性に委ねられて来た。しかし、風力発電施設の導入による周辺環境への影響が顕在化している実態をふまえ、環境省総合環境政策局(2011)は「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催しその結果をまとめている。この報告書では、風力発電施設の導入による環境への影響を、1)騒音・低周波音による近隣住民への影響、2)動植物の生息・生育環境への影響、3)景観への影響、の3つにまとめている。
このような背景のもと、北海道中部日本海側に位置する石狩湾に面した、砂浜海岸である小樽市の銭函海岸では、4.4kmの海岸砂丘上に出力2000kwの風力発電施設15基(当初は20基を予定)、ならびに大規模な蓄電施設を設置する民間の計画が公表され、小樽市は歓迎を表明した(森畑竜二、銭函に風力発電所計画「イメージ、税収アップ」市歓迎 経済に波及効果も、北海道新聞朝刊小樽・後志版、2009年5月16日)。これに対し、自然保護団体や市民グループ、近隣住民(札幌市民)から自然環境への影響や騒音、特に低周波音による健康被害への懸念が表明され、大きな関心を集めている。
風力発電施設の導入による騒音・低周波音による健康被害や鳥類への影響、および景観への影響については、因果関係が不明確なものも含めて、国内外における知見が報告されているが(環境省総合環境政策局2011)、海岸砂丘および砂丘上に発達する海浜植生への影響についての報告は見あたらない。風況適地が沿岸部に集中し、さらに海岸における風力発電施設導入を推進する動きからも、今後、海浜における風力発電施設建設が増加する可能性は十分考えられる。そのため、風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響について整理しておく必要がある。
風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響としては、建設工事による植物群落の喪失・撹乱、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化、が想定される。
本稿では、銭函海岸を事例として、海浜地における風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響についてこれまでの知見を整理することにより検討することを目的とした。
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苫前町には何という風力発電施設が設置されましたか。
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苫前町には苫前ウィンビラ発電所という風力発電施設が設置されました。
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JCRRAG_001774
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地理
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我が国では、地球温暖化をはじめとする様々な環境変化への対応が求められており、エネルギーに関しては化石燃料依存からの脱却を目指し、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されている。
風力発電に関しては、日本は山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、諸外国に比べ国内市場は低迷しているが、北海道、北東北、九州の沿岸部あるいは洋上の風況が比較的良いことが指摘されている(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2010)。そのため、風力発電施設は主に沿岸部、特に稚内市の宗谷岬ウインドファームや苫前町の苫前ウィンビラ発電所のように海岸段丘上に多く設置されてきたが、陸上における用地取得が困難になっていることもあり、近年では島根県江津市の江津東ウィンドファームのように海浜上に建設される事例も散見される。また、海岸法に基づき海岸を所管する農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するため、設置基準を明確化した「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」(農林水産省農村振興局ほか2011)を公表した。日本の海岸線は、一部の埋立地等を除けばすべて国有地であり、海浜や海岸砂丘は海岸法に定める海岸保全区域等(海岸保全区域および一般公共海岸区域)として都道府県が管理している。海岸法上、海岸保全区域等において風力発電施設の設置に必要な手続きは占有許可のみであり、保安林に指定された後背地の海岸林の指定解除や、民有地における用地確保と比較すると、前述の運用指針策定の経緯からも、海岸保全区域における風力発電施設の導入に対するハードルは低い。そのため、今後更なる海岸、特に海浜や海岸砂丘への風力発電施設の設置が進むと考えられる。
これまで風力発電施設の建設は環境影響評価法の適用外であったため、法的に環境影響評価は義務づけられておらず、一部の地方公共団体の条例に基づく環境影響評価を除けば、事業者の自主性に委ねられて来た。しかし、風力発電施設の導入による周辺環境への影響が顕在化している実態をふまえ、環境省総合環境政策局(2011)は「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催しその結果をまとめている。この報告書では、風力発電施設の導入による環境への影響を、1)騒音・低周波音による近隣住民への影響、2)動植物の生息・生育環境への影響、3)景観への影響、の3つにまとめている。
このような背景のもと、北海道中部日本海側に位置する石狩湾に面した、砂浜海岸である小樽市の銭函海岸では、4.4kmの海岸砂丘上に出力2000kwの風力発電施設15基(当初は20基を予定)、ならびに大規模な蓄電施設を設置する民間の計画が公表され、小樽市は歓迎を表明した(森畑竜二、銭函に風力発電所計画「イメージ、税収アップ」市歓迎 経済に波及効果も、北海道新聞朝刊小樽・後志版、2009年5月16日)。これに対し、自然保護団体や市民グループ、近隣住民(札幌市民)から自然環境への影響や騒音、特に低周波音による健康被害への懸念が表明され、大きな関心を集めている。
風力発電施設の導入による騒音・低周波音による健康被害や鳥類への影響、および景観への影響については、因果関係が不明確なものも含めて、国内外における知見が報告されているが(環境省総合環境政策局2011)、海岸砂丘および砂丘上に発達する海浜植生への影響についての報告は見あたらない。風況適地が沿岸部に集中し、さらに海岸における風力発電施設導入を推進する動きからも、今後、海浜における風力発電施設建設が増加する可能性は十分考えられる。そのため、風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響について整理しておく必要がある。
風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響としては、建設工事による植物群落の喪失・撹乱、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化、が想定される。
本稿では、銭函海岸を事例として、海浜地における風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響についてこれまでの知見を整理することにより検討することを目的とした。
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農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するために、何という指針を公表しましたか。
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農林水産省と国土交通省は、「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」という指針を公表しました。
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JCRRAG_001775
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地理
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含み(Chris2000;Kobori and Primack2003;Bambaradeniya and Amarasinghe2004)、氾濫原の代替的なハビタットとして地域の生物多様性の維持に寄与してきた(鷲谷2007;Washitani2007)。この中で畦畔は、本田や水路といった水域に接するとともに、定期的に草刈りなどの管理が行われることで、明るく湿潤な条件が保たれることから、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されている(河野1984)。
しかし、近年では圃場整備に伴う畦畔のコンクリート化(前中ほか1993;山口ほか1998;松村2002)、外来牧草による緑化(前中ほか1993)などにより、生物多様性保全上の価値の高い畦畔の減少がいちじるしい(大窪・前中1995;Fukamachi et al.2001;飯山ほか2002)。さらに、外来植物の侵入(守山1997;迫田・武田1998;大窪2002;Iiyama et al.2005)による植物相の変化も指摘されている。このような変化が進行する中、現在でも良好な状態が残された地域における畦畔植生の種組成を記録するとともに、全国的に減少が顕著な湿地性植物の生育環境としての役割を評価することは重要である。
本研究では、2009年より里地・里山の生物多様性保全を主目的とした「久保川イーハトーブ自然再生事業」が進められている、北上川水系の久保川・栃倉川流域(岩手県一関市)を対象として、畦畔植生の特徴を保全生態学的観点から評価するとともに、そこに影響する要因を分析した。当流域では、かつて狭小な氾濫原のみが水田として利用されてきたが、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面での水田の開墾が進められた。しかし、複雑な地形のため1枚の水田の面積が小さく、用水は水田に隣接してつくられた小規模な溜池で確保された(須田・鷲谷2010)。その後、河川周辺の平地においては圃場整備による水田の大規模化・乾田化が進んだものの、小さな谷筋などにおいては溜池の多くは今もなお健在であり、それらを水源とした伝統的な水田耕作が広く継続されている。
本論文では、次の個別課題に答える調査・分析を行った。第一に、畦畔が湿地性の維管束植物の生育場所となっていることを確認するため、確認された種について一般的な生育環境のタイプを分類し、集計した。第二に、畦畔の構造や隣接環境の違いが生物多様性の保全の観点からみた畦畔植生の特徴(在来種、湿地性植物種数、絶滅危惧種数および外来種数)におよぼしている影響を、一般化線形混合モデルを主に用いて分析した。これらの結果をもとに、当地域において保全上の重要性が特に高い畦畔がどのような環境要因を満たす傾向にあるのかについて考察した。
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久保川イーハトーブ自然再生事業の対象となっているのは何川流域ですか。
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久保川イーハトーブ自然再生事業の対象となっているのは久保川・栃倉川流域です。
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JCRRAG_001776
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地理
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はじめに
現在、自然の湿地は大幅に減少しており、そこに生育している水生・湿生植物の減少が懸念されている(芹沢1995)。一方、本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としていることが知られており、生物多様性の維持のためにも水田生態系が重要視されている(下田2003;石井ほか2005;嶺田2004;鷲谷ほか2006;日鷹ほか2006)。水田に生育する植物は、水生・湿生植物(以下、水湿植物とする)や水田雑草と呼ばれる水稲随伴種である(嶺田2004;嶺田2007;日鷹ほか2006)。
1970年に減反政策が開始され、さらに農業従事者の高齢化によって(総務省統計局2002)、水田の耕作放棄が全国的に進み(総理府統計局1971;総務省統計局2007)、水田に成立していた水辺植生は生育地を失いつつある(芹沢1995)。さらに水稲栽培下では、除草剤による駆除が水湿植物や水稲随伴種の減少の原因となっている(笠原1974;草薙ほか1986)。その結果、かつては害草とされてきた植物までもが、今や絶滅危惧種としてレッドデータリストにあげられるまでになっている(下田ほか2000;下田2003)。
水田に依存していた水湿植物や水稲随伴種は、耕作放棄後、ススキ Miscanthus sinensis Anderss.が優占するような乾性の遷移、ヨシ Phragmites australis Trin. et Steud.が優占するような湿性遷移の両方の遷移で消失のおそれがある(下田・鈴木1981;大黒ほか1996)。放棄水田の中でも湿性状態の放棄水田や放棄直後の水田には絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む、以下同様)を含む水湿植物の生育地となっている報告はある(下田1996;下田・中本2003;大黒ほか2003)が、ススキが優占する乾性状態の放棄水田では、絶滅危惧種が確認された報告はない。しかし、埋土種子に水湿植物や水稲随伴種が含まれていれば、環境の改善により植生を回復できる可能性がある(Grime1989)。越水ほか(1997)、中本ほか(2000)は、湿性状態の放棄水田の埋土種子が水湿植物の再生の材料となることを示唆している。
本報告では、ススキやクズが優占した乾性の放棄水田において、復田や池の造成を行った成果を解説する。あわせて放棄水田の埋土種子組成の調査結果も報告する。
調査地
調査は長野県松本市内の洞地区(以下、洞地区)および安曇野市の三郷地区(以下、三郷地区)で行った。両市が位置する松本盆地は農村の過疎化が進行し、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加している典型的な地方都市である。一方、こうした放棄水田をビオトープ化あるいは復田して活用している地域も存在している。松本市は1971年から2000年において、年平均降水量が1,018.5mmで、年平均気温は11.5℃である(気象庁2000)。両調査地とも松本盆地に位置し、標高が750mほどで違いがないため、年平均気温や降水量については大きな差がない。
立地区分「放棄水田」とは水田耕作の停止後、乾性の植生遷移の進んだ状態であるもの、「復田前」とは放棄水田を復田する前の状態のもの、「復田」とは「復田前」の立地区分より復田の操作を加えたもの、「池」とは放棄水田から池にした区分である。
「復田前」「復田」の調査地は安曇野市三郷地区の黒沢山(2,000m)の谷(740m)に2段にわたり存在する。ここでは過去20年以上耕作放棄された放棄水田を2006年9月から開墾し、2007年5月に水入れ、代かき、田植えし、9月に収穫が行われた。2006年9月に行った開墾以前は、ススキやクズ Pueraria lobat Ohwiが優占していた乾田状態の放棄水田であった。ススキの株が直径50cm以上、クズの根の直径が10cm以上のものもあり、ススキの株に関しては、小型のショベルカーを用いて除去した。2007年5月に近くの川から入水した。この三郷地区の水田は山のふもとであり、これより上流では耕された水田耕作の形跡はない。復田した後は除草剤や化学肥料を使用していない。また、復田地と同じ三郷地区における放棄後、約30年が経過したススキの優占する放棄水田を、「放棄水田」として調査対象とした。
「池」にした立地は松本市洞地区(780m)にあり、放棄水田をビオトープとして「池」にしたものである。この地域は美ヶ原(1,990m)の西側のふもとに位置している。まわりはアカマツ林であり、25年以上前に放棄されたまま水田であったが、里山復興活動として、2003年9月にこの放棄水田を耕し、水を入れ「池」にした。さらに2006年4月、25年以上放棄された、上下に隣あう下の棚田に、水を引き「池」とした。このとき、水湿植物や水稲随伴種の再生を目指して、耕耘機で土壌を耕したのち注水した。両池とも池にする前は、ガマ Typha latifolia L.やヨシ、カサスゲ Carex dispalata Boottが優占していた湿性状態の放棄水田であった。ここでは優占しているガマやヨシ、あるいはカサスゲを手取りでなるべく地下茎や根部まで抜きとり、放棄水田から除去した。ただし、抜けなかったところあるいは切れてしまったところの根は残っていた可能性がある。その後、耕耘機で開墾し、農業用水路から水を引き、一年中、水を張った状態にしてある。この「池」に水を供給する用水路の上流部はアカマツ林であるため、他の水田からは水は流入しない。また、地元農家の証言から、かつても除草剤を使っておらず、現在は絶滅危惧種1A類であるアズミノヘラオモダカ Alisma canaliculatum A.Braun et C.D. Bouché ex Sam. var. azuminoense Kadono et Hamashima.は害草として刈られていた事がわかっている。水深は最大で25cm程度であり、一年間に2回程度、発生したガマを手取りで除去している。ここでは全国で準絶滅危惧種のゲンゴロウ Cybister japonicas Sharp、同じく全国で準絶滅危惧種のコオイムシ Appasus japonicas Vuillefroyといった昆虫や、長野県で絶滅危惧種2類であるツチガエル Rana rugosa Temminck et Schlegel、といった両生類も確認されている。
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松本盆地は、農業従事者の減少および高齢化によって、何が増加していますか。
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松本盆地は、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加しています。
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JCRRAG_001777
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地理
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしている(Keddy2000)。たとえば、生物のハビタットの提供、自然景観の形成や水質浄化など多様な機能を持つことが知られている(鈴木ほか1989;浅野ほか2004)。しかし近年、湖沼や河川、ため池などに成立する湿原・湿地植生の多くが干拓や埋立て、排水溝の設置による乾燥化などによって失われ、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されている(平井1993;角野1994a,2002)。たとえば、印旛沼の築堤工事が水質汚濁や光環境の悪化を引き起こし、沈水植物をほぼ全滅させた例や(笠井2001)、霞ケ浦沿岸域がコンクリート製直立護岸で囲われたことによりアサザ Nymphoides peltata (Gmel.) O.Kuntzeが衰退した例(西廣ほか2001)などがあげられる。
本研究の対象地である手賀沼流域においても、1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、水生植物が最も繁茂していた沼の半分弱にもおよぶ529haの浅瀬が陸化し、多くの水生植物が絶滅・減少した(沼田・大野1985)。また、流域における1960年代からの住宅団地や工業団地の造成に伴う生活・工業排水の増加や、農業排水に含まれる除草剤などが影響し、約30種近く生育していた水生植物のほとんどが消失した(浅間2001)。浅間(2001)は、レッドデータブック掲載種のガシャモク Potamogeton dentatus Hagstr.やトリゲモ Najas minor All.などを含む、かつて手賀沼に生育していた22種すべての沈水植物が1970年前後で絶滅したとしている。
近年、生態系に及ぼす外来植物の影響が懸念されている(中坪1997;日本生態学会2002)。たとえば、河川敷の保護区内に要注意外来生物のオオブタクサ Ambrosia trifida L.が侵入し、種の多様性を低下させたことや(宮脇・鷲谷1996)、要注意外来生物のシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (Schrad.) Neesが河川氾濫原において分布を拡大し、在来種を駆逐したこと(村中・鷲谷2003)などが知られている。手賀沼流域も例外ではなく、土地開発や河川改修の影響によって在来の水生植物の多くが姿を消し、レッドデータブック掲載種としてリスト化される種が増加した一方、近年はオオカナダモ Egeria densa Planch.やオオフサモ Myriophyllum brasiliense Cambess.などの外来水生植物がその分布を広げつつある(林ほか2008;千葉県レッドデータブック改訂委員会2009)。また、環境省が特定外来生物に指定するナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides (Mart.) Griseb.が流域内で急速に分布拡大していることも確認されており(林ほか2008)、在来種の保全や外来種の駆除の計画策定のために、流域内における在来種および外来種の分布を把握することは喫緊の課題である。
生態系の保全や復元を計画するうえで、流域を空間単位として、地形や植生などの特性を把握することは重要である(李ほか1989;中村1999;谷内2005;王尾2008)。流域は、いくつかの小流域によって構成され、小流域はさらに詳細な集水域によって構成される入れ子状の構造をもつ。流域や小流域、集水域などの様々な空間単位で在来の水生植物の種組成や分布の傾向を明らかにすることは、その種の分布地点のみならず、その種の生育場所の保全につながるため重要である(中村・小池2005)。また、外来種の分布拡大を防ぐには、流域において分布拡大のソースとなり得る現在の分布地点を明らかにする必要がある(小池2010など)。手賀沼流域では、1940年代以降の土地改良や河川改修の影響によって、水生植物の種組成や分布が小流域・集水域間で大きく異なると考えられる(たとえば、沼田・大野1985;浅間2001)。一般に、土地開発が進むと森林などの植生域は減少することから(田畑2000)、小流域および集水域などの空間単位に流域を区分して植生域を明らかにすることで、様々な空間単位で土地開発程度の差異を把握できる。すなわち、6つの小流域から構成される手賀沼流域は小流域ごとに土地開発の過程や程度に差があるため(田畑・金1986;田畑ほか1987)、流域ごとに生育する水生植物の衰退要因が異なり、その結果として種組成も異なると考えられる。
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1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、何haの浅瀬が陸化しましたか。
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1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、529haの浅瀬が陸化しました。
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JCRRAG_001778
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地理
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はじめに
現在、自然の湿地は大幅に減少しており、そこに生育している水生・湿生植物の減少が懸念されている(芹沢1995)。一方、本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としていることが知られており、生物多様性の維持のためにも水田生態系が重要視されている(下田2003;石井ほか2005;嶺田2004;鷲谷ほか2006;日鷹ほか2006)。水田に生育する植物は、水生・湿生植物(以下、水湿植物とする)や水田雑草と呼ばれる水稲随伴種である(嶺田2004;嶺田2007;日鷹ほか2006)。
1970年に減反政策が開始され、さらに農業従事者の高齢化によって(総務省統計局2002)、水田の耕作放棄が全国的に進み(総理府統計局1971;総務省統計局2007)、水田に成立していた水辺植生は生育地を失いつつある(芹沢1995)。さらに水稲栽培下では、除草剤による駆除が水湿植物や水稲随伴種の減少の原因となっている(笠原1974;草薙ほか1986)。その結果、かつては害草とされてきた植物までもが、今や絶滅危惧種としてレッドデータリストにあげられるまでになっている(下田ほか2000;下田2003)。
水田に依存していた水湿植物や水稲随伴種は、耕作放棄後、ススキ Miscanthus sinensis Anderss.が優占するような乾性の遷移、ヨシ Phragmites australis Trin. et Steud.が優占するような湿性遷移の両方の遷移で消失のおそれがある(下田・鈴木1981;大黒ほか1996)。放棄水田の中でも湿性状態の放棄水田や放棄直後の水田には絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む、以下同様)を含む水湿植物の生育地となっている報告はある(下田1996;下田・中本2003;大黒ほか2003)が、ススキが優占する乾性状態の放棄水田では、絶滅危惧種が確認された報告はない。しかし、埋土種子に水湿植物や水稲随伴種が含まれていれば、環境の改善により植生を回復できる可能性がある(Grime1989)。越水ほか(1997)、中本ほか(2000)は、湿性状態の放棄水田の埋土種子が水湿植物の再生の材料となることを示唆している。
本報告では、ススキやクズが優占した乾性の放棄水田において、復田や池の造成を行った成果を解説する。あわせて放棄水田の埋土種子組成の調査結果も報告する。
調査地
調査は長野県松本市内の洞地区(以下、洞地区)および安曇野市の三郷地区(以下、三郷地区)で行った。両市が位置する松本盆地は農村の過疎化が進行し、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加している典型的な地方都市である。一方、こうした放棄水田をビオトープ化あるいは復田して活用している地域も存在している。松本市は1971年から2000年において、年平均降水量が1,018.5mmで、年平均気温は11.5℃である(気象庁2000)。両調査地とも松本盆地に位置し、標高が750mほどで違いがないため、年平均気温や降水量については大きな差がない。
立地区分「放棄水田」とは水田耕作の停止後、乾性の植生遷移の進んだ状態であるもの、「復田前」とは放棄水田を復田する前の状態のもの、「復田」とは「復田前」の立地区分より復田の操作を加えたもの、「池」とは放棄水田から池にした区分である。
「復田前」「復田」の調査地は安曇野市三郷地区の黒沢山(2,000m)の谷(740m)に2段にわたり存在する。ここでは過去20年以上耕作放棄された放棄水田を2006年9月から開墾し、2007年5月に水入れ、代かき、田植えし、9月に収穫が行われた。2006年9月に行った開墾以前は、ススキやクズ Pueraria lobat Ohwiが優占していた乾田状態の放棄水田であった。ススキの株が直径50cm以上、クズの根の直径が10cm以上のものもあり、ススキの株に関しては、小型のショベルカーを用いて除去した。2007年5月に近くの川から入水した。この三郷地区の水田は山のふもとであり、これより上流では耕された水田耕作の形跡はない。復田した後は除草剤や化学肥料を使用していない。また、復田地と同じ三郷地区における放棄後、約30年が経過したススキの優占する放棄水田を、「放棄水田」として調査対象とした。
「池」にした立地は松本市洞地区(780m)にあり、放棄水田をビオトープとして「池」にしたものである。この地域は美ヶ原(1,990m)の西側のふもとに位置している。まわりはアカマツ林であり、25年以上前に放棄されたまま水田であったが、里山復興活動として、2003年9月にこの放棄水田を耕し、水を入れ「池」にした。さらに2006年4月、25年以上放棄された、上下に隣あう下の棚田に、水を引き「池」とした。このとき、水湿植物や水稲随伴種の再生を目指して、耕耘機で土壌を耕したのち注水した。両池とも池にする前は、ガマ Typha latifolia L.やヨシ、カサスゲ Carex dispalata Boottが優占していた湿性状態の放棄水田であった。ここでは優占しているガマやヨシ、あるいはカサスゲを手取りでなるべく地下茎や根部まで抜きとり、放棄水田から除去した。ただし、抜けなかったところあるいは切れてしまったところの根は残っていた可能性がある。その後、耕耘機で開墾し、農業用水路から水を引き、一年中、水を張った状態にしてある。この「池」に水を供給する用水路の上流部はアカマツ林であるため、他の水田からは水は流入しない。また、地元農家の証言から、かつても除草剤を使っておらず、現在は絶滅危惧種1A類であるアズミノヘラオモダカ Alisma canaliculatum A.Braun et C.D. Bouché ex Sam. var. azuminoense Kadono et Hamashima.は害草として刈られていた事がわかっている。水深は最大で25cm程度であり、一年間に2回程度、発生したガマを手取りで除去している。ここでは全国で準絶滅危惧種のゲンゴロウ Cybister japonicas Sharp、同じく全国で準絶滅危惧種のコオイムシ Appasus japonicas Vuillefroyといった昆虫や、長野県で絶滅危惧種2類であるツチガエル Rana rugosa Temminck et Schlegel、といった両生類も確認されている。
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アズミノヘラオモダカは現在、絶滅危惧種1A類ですか。
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はい、アズミノヘラオモダカは現在、絶滅危惧種1A類です。
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JCRRAG_001779
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地理
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2011年3月11日に東北地方太平洋沖で発生した大地震と大津波は、東日本の太平洋沿岸域に未曾有の攪乱をもたらした(国立国会図書館 http://kn.ndl.go.jp/static/about/、最終確認日2014年9月5日;環境省自然環境局生物多様性センター http://www.shiokaze.biodic.go.jp/24sokuhou.html/、最終確認日2014年9月11日)。砂浜海岸と沖積平野が並列する宮城県中・南部の仙台湾岸地域では、マグニチュード9.0の激しく長い揺れと地盤の液状化、最大80cmに及ぶ地盤沈降、高さ10mに達する大津波によって、「壊滅的」と表現されるまでに攪乱された景観が南北およそ60kmにわたって広がる事態となった(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html/、最終確認日2014年9月11日)。そして、福島第一原子力発電所から漏れ出した放射能が、さらに深刻な破壊と混沌を被災地にもたらした。
「生態学を学んだ者として、どんな支援ができるのだろう?」、「生態学の視点で、広域かつ甚大な生態系攪乱・災害から、どんなことを学びとる必要があるのだろうか?」・・・・・・日頃から、自然に親しみ、その本質や原理を探求し、保全や利活用に心を砕いてきた者であれば誰もが、こうした自問を反芻したに違いない。本特集はまさに、先行きの見えない状況下、2011年6月から手探りで進めてきた南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリング(以降、「南蒲生モニタリング」と略記)にかかわって、活動の一端を紹介するものである。
南蒲生モニタリングを実施している地域あるいはサイトの状況、その実施体制に関しては、インターネット上のホームページ(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)や平吹ほか(2011、2012)、平吹(2012)、富田ほか(2013)、五十嵐ほか(2013)を参照されたい。その主要な特徴を2、3あげるとすれば、(1)当該地域のステークホルダーである行政機関や住民の方々の理解の下、モニタリングサイトが、砂浜海岸エコトーンの本質的構造である「浅海から前浜、後浜、砂丘を経て、後背湿地に至る領域」をカバーすべく設定されたこと、(2)当該地域の生物・自然環境に精通した地元専門家の方々から、自主的な参加・支援をいただいていること、(3)東日本大震災によって攪乱された海岸陸域では他に事例を見ない、「多様な生物種を対象とした継続調査」であること、に言及できよう。
一方、私たちは当初から、インターネットや海岸エコトーンフォーラム、さまざまな学会講演・シンポジウムといった機会をとらえて、研究者や専門家に対しては南蒲生モニタリングへの参画を、学術・行政機関に対しては学際的で、公的に認証されたプロジェクトへの衣替えを要請してきたが、実状は依然として15名ほどのコアメンバーによる自主的活動にとどまっている(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)。攪乱直後の予想を大きく上回るスピードと規模で進行する生態系の自律的再生、そして復旧・復興事業がもたらすそれを凌ぐ改変と破壊の挾間にあって、私たちは力不足と無念さを噛みしめざるを得ない状況にあることも申し添えておきたい。数百年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は長大で、しかも多様なエコトーンから構成される生態領域である。精査と追跡を通じて、学び、活かしてゆくべき課題はたくさんある。
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仙台湾岸地域では、津波は高さ何mに達しましたか。
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仙台湾岸地域では、津波は高さ10mに達しました。
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JCRRAG_001780
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地理
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日本の主要な農地環境である水田は、近代科学技術が発展する以前、すなわち1900年代前半まで、人力による適度な耕作圧と湿地的環境に依存した多くの水湿生植物のハビタットとして機能していた(中村1925;鷲谷2007)。しかし、1950年代以降に推進されてきた圃場整備と、重機・除草剤を使用する近代慣行農法の導入によって、水田の湿地としての機能は大幅に低下した(鷲谷2007)。また、1970年代以降は、減反政策の導入と農家の高齢化によって、各地で休耕田や耕作放棄田の増加が目立つようになった(農林水産省平成23年耕地及び作付面積統計:2012年7月公表、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001087149、最終確認日2014年8月13日)。圃場整備が実施された水田では、休耕または耕作放棄されたとしても、暗渠や落水口などの排水施設が残置されている場合には、かつての湿地的環境は回復しにくい(池上ほか2011)。そのような休耕田や耕作放棄田では、路傍植物が侵入して優占する乾性遷移が進む場合が多い(箱山ほか1976;千葉1989)。水田地帯におけるこうした環境の変化によって、かつて普通に見られた水湿生植物の多くが減少することとなった(藤井1999;環境省2000)。
1990年代以降、水田地帯における生物多様性保全の気運が高まってきている(下田2003;鷲谷2007;日鷹ほか2008)。水田地帯における水湿生植物の保全に関するこれまでの研究は、耕作放棄田に注目したものが多かった。中山間地や谷津における水田地帯では、地形上の制約で圃場整備が実施されていない水田が存在するが、そのような水田が放棄されると、水湿生植物の良好なハビタットとして機能する場合がある(大黒ほか1996,2003;河野1998;角野1998;下田・中本2003;池上ほか2011)。これらの研究成果は、水湿生植物の保全に配慮した農地計画の方向性を検討する上で有用であるが、耕作放棄田という場だけを以てこれらの植物を持続的に保全していくことは難しい。耕作放棄田では通常、農家の収入に結びつかない管理(耕起・草刈り)が継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行する。すなわち、耕作圧からの解放によって多種の水湿生植物が出現したとしても、間もなくヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.やガマ Typha latifolia L.などの高茎多年草が優占する群落に遷移し、再び消えてしまう可能性が高い(角野1998;下田・中本2003)。圃場整備が実施されていない地域において復田と休耕を1~数年おきに繰り返すことで、種多様性が高い水湿生植物群落を持続的に維持できる可能性を指摘する研究は多い(中本ほか2002;有田ほか2006;Yamada et al.2007)。しかし、農家人口とコメ需要両面の減少に歯止めが掛からない現状を考慮すると、労働条件の悪い水田で上記のような管理を継続することは困難であると予想される。
ごく最近まで、水田地帯で行われる植物に関する研究は、水田雑草の防除に関するものが主流であった(例えば、笠原1949;荒井1962;八柳1962;伊藤1989;劉ほか1998;浅野2001)。このため、耕作水田については、「地域全体で、どんな植物種がどの程度の頻度で出現しているのか」という、植生学的な知見が不足している。Yamada et al.(2011)は、常総台地の谷津及び近接する低地において、立地と土地改良の強度が稲収穫後の水田に成立する植生に対して与える影響を解析し、水湿生植物の良好なハビタットとなり得る耕作水田の条件が「谷津及び低地(旧河道)に位置し、土地改良がほとんど実施されていないこと」であることを明らかにした。これは、低地の水田地帯においても水湿生植物を保全できる可能性があることを示す重要な成果である。このことから、水湿生植物の保全の観点からは、一般的な「圃場整備が行き届き、慣行農法が導入されている低地の水田地帯」において水湿生植物が生育できる環境が維持されるような農地計画について、検討を行う価値があると考えられる。
水田地帯における環境改変は、圃場だけではなく、農業用水路においても進められてきた。農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、管理の効率化と雑草の出現抑制を目的に推進された水路のコンクリート化である。従来の素掘り土水路とは物理的・水理的特性が大きく異なるコンクリート水路の普及によって、水湿生植物が生育する農業用水路は大きく減少した(内山2013)。しかし、その後に農業用水路の植生を評価した研究は少なく、土水路とコンクリート水路とで成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのかについて、詳しく調査した事例はない。また、同じ水田地帯に存在する水田と農業用水路とで、成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのか(または類似するのか)を評価した研究は皆無である。
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圃場整備が実施された水田では、何が残置されていると、かつての湿地的環境が回復しにくいですか。
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圃場整備が実施された水田では、暗渠や落水口などの排水施設が残置されていると、かつての湿地的環境が回復しにくいです。
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JCRRAG_001781
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地理
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我が国では、地球温暖化をはじめとする様々な環境変化への対応が求められており、エネルギーに関しては化石燃料依存からの脱却を目指し、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーが注目されている。
風力発電に関しては、日本は山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、諸外国に比べ国内市場は低迷しているが、北海道、北東北、九州の沿岸部あるいは洋上の風況が比較的良いことが指摘されている(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2010)。そのため、風力発電施設は主に沿岸部、特に稚内市の宗谷岬ウインドファームや苫前町の苫前ウィンビラ発電所のように海岸段丘上に多く設置されてきたが、陸上における用地取得が困難になっていることもあり、近年では島根県江津市の江津東ウィンドファームのように海浜上に建設される事例も散見される。また、海岸法に基づき海岸を所管する農林水産省と国土交通省は、海岸における風力発電開発を推進するため、設置基準を明確化した「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」(農林水産省農村振興局ほか2011)を公表した。日本の海岸線は、一部の埋立地等を除けばすべて国有地であり、海浜や海岸砂丘は海岸法に定める海岸保全区域等(海岸保全区域および一般公共海岸区域)として都道府県が管理している。海岸法上、海岸保全区域等において風力発電施設の設置に必要な手続きは占有許可のみであり、保安林に指定された後背地の海岸林の指定解除や、民有地における用地確保と比較すると、前述の運用指針策定の経緯からも、海岸保全区域における風力発電施設の導入に対するハードルは低い。そのため、今後更なる海岸、特に海浜や海岸砂丘への風力発電施設の設置が進むと考えられる。
これまで風力発電施設の建設は環境影響評価法の適用外であったため、法的に環境影響評価は義務づけられておらず、一部の地方公共団体の条例に基づく環境影響評価を除けば、事業者の自主性に委ねられて来た。しかし、風力発電施設の導入による周辺環境への影響が顕在化している実態をふまえ、環境省総合環境政策局(2011)は「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」を開催しその結果をまとめている。この報告書では、風力発電施設の導入による環境への影響を、1)騒音・低周波音による近隣住民への影響、2)動植物の生息・生育環境への影響、3)景観への影響、の3つにまとめている。
このような背景のもと、北海道中部日本海側に位置する石狩湾に面した、砂浜海岸である小樽市の銭函海岸では、4.4kmの海岸砂丘上に出力2000kwの風力発電施設15基(当初は20基を予定)、ならびに大規模な蓄電施設を設置する民間の計画が公表され、小樽市は歓迎を表明した(森畑竜二、銭函に風力発電所計画「イメージ、税収アップ」市歓迎 経済に波及効果も、北海道新聞朝刊小樽・後志版、2009年5月16日)。これに対し、自然保護団体や市民グループ、近隣住民(札幌市民)から自然環境への影響や騒音、特に低周波音による健康被害への懸念が表明され、大きな関心を集めている。
風力発電施設の導入による騒音・低周波音による健康被害や鳥類への影響、および景観への影響については、因果関係が不明確なものも含めて、国内外における知見が報告されているが(環境省総合環境政策局2011)、海岸砂丘および砂丘上に発達する海浜植生への影響についての報告は見あたらない。風況適地が沿岸部に集中し、さらに海岸における風力発電施設導入を推進する動きからも、今後、海浜における風力発電施設建設が増加する可能性は十分考えられる。そのため、風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響について整理しておく必要がある。
風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響としては、建設工事による植物群落の喪失・撹乱、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化、が想定される。
本稿では、銭函海岸を事例として、海浜地における風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響についてこれまでの知見を整理することにより検討することを目的とした。
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風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響として、建設工事による植物群落の喪失・撹乱の他にどのようなものが想定されますか。
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風力発電施設の導入が海浜植生に与える影響として、建設工事による植物群落の喪失・撹乱の他に、外来種や生育環境の変化による植生構造の変化が想定されます。
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JCRRAG_001782
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地理
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はじめに
現在、自然の湿地は大幅に減少しており、そこに生育している水生・湿生植物の減少が懸念されている(芹沢1995)。一方、本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としていることが知られており、生物多様性の維持のためにも水田生態系が重要視されている(下田2003;石井ほか2005;嶺田2004;鷲谷ほか2006;日鷹ほか2006)。水田に生育する植物は、水生・湿生植物(以下、水湿植物とする)や水田雑草と呼ばれる水稲随伴種である(嶺田2004;嶺田2007;日鷹ほか2006)。
1970年に減反政策が開始され、さらに農業従事者の高齢化によって(総務省統計局2002)、水田の耕作放棄が全国的に進み(総理府統計局1971;総務省統計局2007)、水田に成立していた水辺植生は生育地を失いつつある(芹沢1995)。さらに水稲栽培下では、除草剤による駆除が水湿植物や水稲随伴種の減少の原因となっている(笠原1974;草薙ほか1986)。その結果、かつては害草とされてきた植物までもが、今や絶滅危惧種としてレッドデータリストにあげられるまでになっている(下田ほか2000;下田2003)。
水田に依存していた水湿植物や水稲随伴種は、耕作放棄後、ススキ Miscanthus sinensis Anderss.が優占するような乾性の遷移、ヨシ Phragmites australis Trin. et Steud.が優占するような湿性遷移の両方の遷移で消失のおそれがある(下田・鈴木1981;大黒ほか1996)。放棄水田の中でも湿性状態の放棄水田や放棄直後の水田には絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む、以下同様)を含む水湿植物の生育地となっている報告はある(下田1996;下田・中本2003;大黒ほか2003)が、ススキが優占する乾性状態の放棄水田では、絶滅危惧種が確認された報告はない。しかし、埋土種子に水湿植物や水稲随伴種が含まれていれば、環境の改善により植生を回復できる可能性がある(Grime1989)。越水ほか(1997)、中本ほか(2000)は、湿性状態の放棄水田の埋土種子が水湿植物の再生の材料となることを示唆している。
本報告では、ススキやクズが優占した乾性の放棄水田において、復田や池の造成を行った成果を解説する。あわせて放棄水田の埋土種子組成の調査結果も報告する。
調査地
調査は長野県松本市内の洞地区(以下、洞地区)および安曇野市の三郷地区(以下、三郷地区)で行った。両市が位置する松本盆地は農村の過疎化が進行し、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加している典型的な地方都市である。一方、こうした放棄水田をビオトープ化あるいは復田して活用している地域も存在している。松本市は1971年から2000年において、年平均降水量が1,018.5mmで、年平均気温は11.5℃である(気象庁2000)。両調査地とも松本盆地に位置し、標高が750mほどで違いがないため、年平均気温や降水量については大きな差がない。
立地区分「放棄水田」とは水田耕作の停止後、乾性の植生遷移の進んだ状態であるもの、「復田前」とは放棄水田を復田する前の状態のもの、「復田」とは「復田前」の立地区分より復田の操作を加えたもの、「池」とは放棄水田から池にした区分である。
「復田前」「復田」の調査地は安曇野市三郷地区の黒沢山(2,000m)の谷(740m)に2段にわたり存在する。ここでは過去20年以上耕作放棄された放棄水田を2006年9月から開墾し、2007年5月に水入れ、代かき、田植えし、9月に収穫が行われた。2006年9月に行った開墾以前は、ススキやクズ Pueraria lobat Ohwiが優占していた乾田状態の放棄水田であった。ススキの株が直径50cm以上、クズの根の直径が10cm以上のものもあり、ススキの株に関しては、小型のショベルカーを用いて除去した。2007年5月に近くの川から入水した。この三郷地区の水田は山のふもとであり、これより上流では耕された水田耕作の形跡はない。復田した後は除草剤や化学肥料を使用していない。また、復田地と同じ三郷地区における放棄後、約30年が経過したススキの優占する放棄水田を、「放棄水田」として調査対象とした。
「池」にした立地は松本市洞地区(780m)にあり、放棄水田をビオトープとして「池」にしたものである。この地域は美ヶ原(1,990m)の西側のふもとに位置している。まわりはアカマツ林であり、25年以上前に放棄されたまま水田であったが、里山復興活動として、2003年9月にこの放棄水田を耕し、水を入れ「池」にした。さらに2006年4月、25年以上放棄された、上下に隣あう下の棚田に、水を引き「池」とした。このとき、水湿植物や水稲随伴種の再生を目指して、耕耘機で土壌を耕したのち注水した。両池とも池にする前は、ガマ Typha latifolia L.やヨシ、カサスゲ Carex dispalata Boottが優占していた湿性状態の放棄水田であった。ここでは優占しているガマやヨシ、あるいはカサスゲを手取りでなるべく地下茎や根部まで抜きとり、放棄水田から除去した。ただし、抜けなかったところあるいは切れてしまったところの根は残っていた可能性がある。その後、耕耘機で開墾し、農業用水路から水を引き、一年中、水を張った状態にしてある。この「池」に水を供給する用水路の上流部はアカマツ林であるため、他の水田からは水は流入しない。また、地元農家の証言から、かつても除草剤を使っておらず、現在は絶滅危惧種1A類であるアズミノヘラオモダカ Alisma canaliculatum A.Braun et C.D. Bouché ex Sam. var. azuminoense Kadono et Hamashima.は害草として刈られていた事がわかっている。水深は最大で25cm程度であり、一年間に2回程度、発生したガマを手取りで除去している。ここでは全国で準絶滅危惧種のゲンゴロウ Cybister japonicas Sharp、同じく全国で準絶滅危惧種のコオイムシ Appasus japonicas Vuillefroyといった昆虫や、長野県で絶滅危惧種2類であるツチガエル Rana rugosa Temminck et Schlegel、といった両生類も確認されている。
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本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的にどこを生育場所としていますか。
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本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としています。
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JCRRAG_001783
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地理
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はじめに
現在、自然の湿地は大幅に減少しており、そこに生育している水生・湿生植物の減少が懸念されている(芹沢1995)。一方、本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としていることが知られており、生物多様性の維持のためにも水田生態系が重要視されている(下田2003;石井ほか2005;嶺田2004;鷲谷ほか2006;日鷹ほか2006)。水田に生育する植物は、水生・湿生植物(以下、水湿植物とする)や水田雑草と呼ばれる水稲随伴種である(嶺田2004;嶺田2007;日鷹ほか2006)。
1970年に減反政策が開始され、さらに農業従事者の高齢化によって(総務省統計局2002)、水田の耕作放棄が全国的に進み(総理府統計局1971;総務省統計局2007)、水田に成立していた水辺植生は生育地を失いつつある(芹沢1995)。さらに水稲栽培下では、除草剤による駆除が水湿植物や水稲随伴種の減少の原因となっている(笠原1974;草薙ほか1986)。その結果、かつては害草とされてきた植物までもが、今や絶滅危惧種としてレッドデータリストにあげられるまでになっている(下田ほか2000;下田2003)。
水田に依存していた水湿植物や水稲随伴種は、耕作放棄後、ススキ Miscanthus sinensis Anderss.が優占するような乾性の遷移、ヨシ Phragmites australis Trin. et Steud.が優占するような湿性遷移の両方の遷移で消失のおそれがある(下田・鈴木1981;大黒ほか1996)。放棄水田の中でも湿性状態の放棄水田や放棄直後の水田には絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む、以下同様)を含む水湿植物の生育地となっている報告はある(下田1996;下田・中本2003;大黒ほか2003)が、ススキが優占する乾性状態の放棄水田では、絶滅危惧種が確認された報告はない。しかし、埋土種子に水湿植物や水稲随伴種が含まれていれば、環境の改善により植生を回復できる可能性がある(Grime1989)。越水ほか(1997)、中本ほか(2000)は、湿性状態の放棄水田の埋土種子が水湿植物の再生の材料となることを示唆している。
本報告では、ススキやクズが優占した乾性の放棄水田において、復田や池の造成を行った成果を解説する。あわせて放棄水田の埋土種子組成の調査結果も報告する。
調査地
調査は長野県松本市内の洞地区(以下、洞地区)および安曇野市の三郷地区(以下、三郷地区)で行った。両市が位置する松本盆地は農村の過疎化が進行し、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加している典型的な地方都市である。一方、こうした放棄水田をビオトープ化あるいは復田して活用している地域も存在している。松本市は1971年から2000年において、年平均降水量が1,018.5mmで、年平均気温は11.5℃である(気象庁2000)。両調査地とも松本盆地に位置し、標高が750mほどで違いがないため、年平均気温や降水量については大きな差がない。
立地区分「放棄水田」とは水田耕作の停止後、乾性の植生遷移の進んだ状態であるもの、「復田前」とは放棄水田を復田する前の状態のもの、「復田」とは「復田前」の立地区分より復田の操作を加えたもの、「池」とは放棄水田から池にした区分である。
「復田前」「復田」の調査地は安曇野市三郷地区の黒沢山(2,000m)の谷(740m)に2段にわたり存在する。ここでは過去20年以上耕作放棄された放棄水田を2006年9月から開墾し、2007年5月に水入れ、代かき、田植えし、9月に収穫が行われた。2006年9月に行った開墾以前は、ススキやクズ Pueraria lobat Ohwiが優占していた乾田状態の放棄水田であった。ススキの株が直径50cm以上、クズの根の直径が10cm以上のものもあり、ススキの株に関しては、小型のショベルカーを用いて除去した。2007年5月に近くの川から入水した。この三郷地区の水田は山のふもとであり、これより上流では耕された水田耕作の形跡はない。復田した後は除草剤や化学肥料を使用していない。また、復田地と同じ三郷地区における放棄後、約30年が経過したススキの優占する放棄水田を、「放棄水田」として調査対象とした。
「池」にした立地は松本市洞地区(780m)にあり、放棄水田をビオトープとして「池」にしたものである。この地域は美ヶ原(1,990m)の西側のふもとに位置している。まわりはアカマツ林であり、25年以上前に放棄されたまま水田であったが、里山復興活動として、2003年9月にこの放棄水田を耕し、水を入れ「池」にした。さらに2006年4月、25年以上放棄された、上下に隣あう下の棚田に、水を引き「池」とした。このとき、水湿植物や水稲随伴種の再生を目指して、耕耘機で土壌を耕したのち注水した。両池とも池にする前は、ガマ Typha latifolia L.やヨシ、カサスゲ Carex dispalata Boottが優占していた湿性状態の放棄水田であった。ここでは優占しているガマやヨシ、あるいはカサスゲを手取りでなるべく地下茎や根部まで抜きとり、放棄水田から除去した。ただし、抜けなかったところあるいは切れてしまったところの根は残っていた可能性がある。その後、耕耘機で開墾し、農業用水路から水を引き、一年中、水を張った状態にしてある。この「池」に水を供給する用水路の上流部はアカマツ林であるため、他の水田からは水は流入しない。また、地元農家の証言から、かつても除草剤を使っておらず、現在は絶滅危惧種1A類であるアズミノヘラオモダカ Alisma canaliculatum A.Braun et C.D. Bouché ex Sam. var. azuminoense Kadono et Hamashima.は害草として刈られていた事がわかっている。水深は最大で25cm程度であり、一年間に2回程度、発生したガマを手取りで除去している。ここでは全国で準絶滅危惧種のゲンゴロウ Cybister japonicas Sharp、同じく全国で準絶滅危惧種のコオイムシ Appasus japonicas Vuillefroyといった昆虫や、長野県で絶滅危惧種2類であるツチガエル Rana rugosa Temminck et Schlegel、といった両生類も確認されている。
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水田に生育する植物は何種ですか。
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水田に生育する植物は水稲随伴種です。
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JCRRAG_001784
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地理
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2011年3月11日に東北地方太平洋沖で発生した大地震と大津波は、東日本の太平洋沿岸域に未曾有の攪乱をもたらした(国立国会図書館 http://kn.ndl.go.jp/static/about/、最終確認日2014年9月5日;環境省自然環境局生物多様性センター http://www.shiokaze.biodic.go.jp/24sokuhou.html/、最終確認日2014年9月11日)。砂浜海岸と沖積平野が並列する宮城県中・南部の仙台湾岸地域では、マグニチュード9.0の激しく長い揺れと地盤の液状化、最大80cmに及ぶ地盤沈降、高さ10mに達する大津波によって、「壊滅的」と表現されるまでに攪乱された景観が南北およそ60kmにわたって広がる事態となった(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html/、最終確認日2014年9月11日)。そして、福島第一原子力発電所から漏れ出した放射能が、さらに深刻な破壊と混沌を被災地にもたらした。
「生態学を学んだ者として、どんな支援ができるのだろう?」、「生態学の視点で、広域かつ甚大な生態系攪乱・災害から、どんなことを学びとる必要があるのだろうか?」・・・・・・日頃から、自然に親しみ、その本質や原理を探求し、保全や利活用に心を砕いてきた者であれば誰もが、こうした自問を反芻したに違いない。本特集はまさに、先行きの見えない状況下、2011年6月から手探りで進めてきた南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリング(以降、「南蒲生モニタリング」と略記)にかかわって、活動の一端を紹介するものである。
南蒲生モニタリングを実施している地域あるいはサイトの状況、その実施体制に関しては、インターネット上のホームページ(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)や平吹ほか(2011、2012)、平吹(2012)、富田ほか(2013)、五十嵐ほか(2013)を参照されたい。その主要な特徴を2、3あげるとすれば、(1)当該地域のステークホルダーである行政機関や住民の方々の理解の下、モニタリングサイトが、砂浜海岸エコトーンの本質的構造である「浅海から前浜、後浜、砂丘を経て、後背湿地に至る領域」をカバーすべく設定されたこと、(2)当該地域の生物・自然環境に精通した地元専門家の方々から、自主的な参加・支援をいただいていること、(3)東日本大震災によって攪乱された海岸陸域では他に事例を見ない、「多様な生物種を対象とした継続調査」であること、に言及できよう。
一方、私たちは当初から、インターネットや海岸エコトーンフォーラム、さまざまな学会講演・シンポジウムといった機会をとらえて、研究者や専門家に対しては南蒲生モニタリングへの参画を、学術・行政機関に対しては学際的で、公的に認証されたプロジェクトへの衣替えを要請してきたが、実状は依然として15名ほどのコアメンバーによる自主的活動にとどまっている(https://sites.google.com/site/ecotonesendai/、最終確認日2014年9月16日)。攪乱直後の予想を大きく上回るスピードと規模で進行する生態系の自律的再生、そして復旧・復興事業がもたらすそれを凌ぐ改変と破壊の挾間にあって、私たちは力不足と無念さを噛みしめざるを得ない状況にあることも申し添えておきたい。数百年に一度という類い希な攪乱を受けた海岸域は長大で、しかも多様なエコトーンから構成される生態領域である。精査と追跡を通じて、学び、活かしてゆくべき課題はたくさんある。
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仙台湾岸地域の地盤沈降は最大何cmに及びましたか。
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仙台湾岸地域の地盤沈降は最大80cmに及びました。
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JCRRAG_001785
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地理
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日本の主要な農地環境である水田は、近代科学技術が発展する以前、すなわち1900年代前半まで、人力による適度な耕作圧と湿地的環境に依存した多くの水湿生植物のハビタットとして機能していた(中村1925;鷲谷2007)。しかし、1950年代以降に推進されてきた圃場整備と、重機・除草剤を使用する近代慣行農法の導入によって、水田の湿地としての機能は大幅に低下した(鷲谷2007)。また、1970年代以降は、減反政策の導入と農家の高齢化によって、各地で休耕田や耕作放棄田の増加が目立つようになった(農林水産省平成23年耕地及び作付面積統計:2012年7月公表、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001087149、最終確認日2014年8月13日)。圃場整備が実施された水田では、休耕または耕作放棄されたとしても、暗渠や落水口などの排水施設が残置されている場合には、かつての湿地的環境は回復しにくい(池上ほか2011)。そのような休耕田や耕作放棄田では、路傍植物が侵入して優占する乾性遷移が進む場合が多い(箱山ほか1976;千葉1989)。水田地帯におけるこうした環境の変化によって、かつて普通に見られた水湿生植物の多くが減少することとなった(藤井1999;環境省2000)。
1990年代以降、水田地帯における生物多様性保全の気運が高まってきている(下田2003;鷲谷2007;日鷹ほか2008)。水田地帯における水湿生植物の保全に関するこれまでの研究は、耕作放棄田に注目したものが多かった。中山間地や谷津における水田地帯では、地形上の制約で圃場整備が実施されていない水田が存在するが、そのような水田が放棄されると、水湿生植物の良好なハビタットとして機能する場合がある(大黒ほか1996,2003;河野1998;角野1998;下田・中本2003;池上ほか2011)。これらの研究成果は、水湿生植物の保全に配慮した農地計画の方向性を検討する上で有用であるが、耕作放棄田という場だけを以てこれらの植物を持続的に保全していくことは難しい。耕作放棄田では通常、農家の収入に結びつかない管理(耕起・草刈り)が継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行する。すなわち、耕作圧からの解放によって多種の水湿生植物が出現したとしても、間もなくヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.やガマ Typha latifolia L.などの高茎多年草が優占する群落に遷移し、再び消えてしまう可能性が高い(角野1998;下田・中本2003)。圃場整備が実施されていない地域において復田と休耕を1~数年おきに繰り返すことで、種多様性が高い水湿生植物群落を持続的に維持できる可能性を指摘する研究は多い(中本ほか2002;有田ほか2006;Yamada et al.2007)。しかし、農家人口とコメ需要両面の減少に歯止めが掛からない現状を考慮すると、労働条件の悪い水田で上記のような管理を継続することは困難であると予想される。
ごく最近まで、水田地帯で行われる植物に関する研究は、水田雑草の防除に関するものが主流であった(例えば、笠原1949;荒井1962;八柳1962;伊藤1989;劉ほか1998;浅野2001)。このため、耕作水田については、「地域全体で、どんな植物種がどの程度の頻度で出現しているのか」という、植生学的な知見が不足している。Yamada et al.(2011)は、常総台地の谷津及び近接する低地において、立地と土地改良の強度が稲収穫後の水田に成立する植生に対して与える影響を解析し、水湿生植物の良好なハビタットとなり得る耕作水田の条件が「谷津及び低地(旧河道)に位置し、土地改良がほとんど実施されていないこと」であることを明らかにした。これは、低地の水田地帯においても水湿生植物を保全できる可能性があることを示す重要な成果である。このことから、水湿生植物の保全の観点からは、一般的な「圃場整備が行き届き、慣行農法が導入されている低地の水田地帯」において水湿生植物が生育できる環境が維持されるような農地計画について、検討を行う価値があると考えられる。
水田地帯における環境改変は、圃場だけではなく、農業用水路においても進められてきた。農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、管理の効率化と雑草の出現抑制を目的に推進された水路のコンクリート化である。従来の素掘り土水路とは物理的・水理的特性が大きく異なるコンクリート水路の普及によって、水湿生植物が生育する農業用水路は大きく減少した(内山2013)。しかし、その後に農業用水路の植生を評価した研究は少なく、土水路とコンクリート水路とで成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのかについて、詳しく調査した事例はない。また、同じ水田地帯に存在する水田と農業用水路とで、成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのか(または類似するのか)を評価した研究は皆無である。
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水田が多くの水湿生植物のハビタットとして機能していたのは何年代前半までですか。
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水田が多くの水湿生植物のハビタットとして機能していたのは1900年代前半までです。
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JCRRAG_001786
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地理
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日本の主要な農地環境である水田は、近代科学技術が発展する以前、すなわち1900年代前半まで、人力による適度な耕作圧と湿地的環境に依存した多くの水湿生植物のハビタットとして機能していた(中村1925;鷲谷2007)。しかし、1950年代以降に推進されてきた圃場整備と、重機・除草剤を使用する近代慣行農法の導入によって、水田の湿地としての機能は大幅に低下した(鷲谷2007)。また、1970年代以降は、減反政策の導入と農家の高齢化によって、各地で休耕田や耕作放棄田の増加が目立つようになった(農林水産省平成23年耕地及び作付面積統計:2012年7月公表、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001087149、最終確認日2014年8月13日)。圃場整備が実施された水田では、休耕または耕作放棄されたとしても、暗渠や落水口などの排水施設が残置されている場合には、かつての湿地的環境は回復しにくい(池上ほか2011)。そのような休耕田や耕作放棄田では、路傍植物が侵入して優占する乾性遷移が進む場合が多い(箱山ほか1976;千葉1989)。水田地帯におけるこうした環境の変化によって、かつて普通に見られた水湿生植物の多くが減少することとなった(藤井1999;環境省2000)。
1990年代以降、水田地帯における生物多様性保全の気運が高まってきている(下田2003;鷲谷2007;日鷹ほか2008)。水田地帯における水湿生植物の保全に関するこれまでの研究は、耕作放棄田に注目したものが多かった。中山間地や谷津における水田地帯では、地形上の制約で圃場整備が実施されていない水田が存在するが、そのような水田が放棄されると、水湿生植物の良好なハビタットとして機能する場合がある(大黒ほか1996,2003;河野1998;角野1998;下田・中本2003;池上ほか2011)。これらの研究成果は、水湿生植物の保全に配慮した農地計画の方向性を検討する上で有用であるが、耕作放棄田という場だけを以てこれらの植物を持続的に保全していくことは難しい。耕作放棄田では通常、農家の収入に結びつかない管理(耕起・草刈り)が継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行する。すなわち、耕作圧からの解放によって多種の水湿生植物が出現したとしても、間もなくヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.やガマ Typha latifolia L.などの高茎多年草が優占する群落に遷移し、再び消えてしまう可能性が高い(角野1998;下田・中本2003)。圃場整備が実施されていない地域において復田と休耕を1~数年おきに繰り返すことで、種多様性が高い水湿生植物群落を持続的に維持できる可能性を指摘する研究は多い(中本ほか2002;有田ほか2006;Yamada et al.2007)。しかし、農家人口とコメ需要両面の減少に歯止めが掛からない現状を考慮すると、労働条件の悪い水田で上記のような管理を継続することは困難であると予想される。
ごく最近まで、水田地帯で行われる植物に関する研究は、水田雑草の防除に関するものが主流であった(例えば、笠原1949;荒井1962;八柳1962;伊藤1989;劉ほか1998;浅野2001)。このため、耕作水田については、「地域全体で、どんな植物種がどの程度の頻度で出現しているのか」という、植生学的な知見が不足している。Yamada et al.(2011)は、常総台地の谷津及び近接する低地において、立地と土地改良の強度が稲収穫後の水田に成立する植生に対して与える影響を解析し、水湿生植物の良好なハビタットとなり得る耕作水田の条件が「谷津及び低地(旧河道)に位置し、土地改良がほとんど実施されていないこと」であることを明らかにした。これは、低地の水田地帯においても水湿生植物を保全できる可能性があることを示す重要な成果である。このことから、水湿生植物の保全の観点からは、一般的な「圃場整備が行き届き、慣行農法が導入されている低地の水田地帯」において水湿生植物が生育できる環境が維持されるような農地計画について、検討を行う価値があると考えられる。
水田地帯における環境改変は、圃場だけではなく、農業用水路においても進められてきた。農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、管理の効率化と雑草の出現抑制を目的に推進された水路のコンクリート化である。従来の素掘り土水路とは物理的・水理的特性が大きく異なるコンクリート水路の普及によって、水湿生植物が生育する農業用水路は大きく減少した(内山2013)。しかし、その後に農業用水路の植生を評価した研究は少なく、土水路とコンクリート水路とで成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのかについて、詳しく調査した事例はない。また、同じ水田地帯に存在する水田と農業用水路とで、成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのか(または類似するのか)を評価した研究は皆無である。
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圃場整備は何年代以降に推進されてきましたか。
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圃場整備は1950年代以降に推進されてきました。
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JCRRAG_001787
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地理
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はじめに
現在、自然の湿地は大幅に減少しており、そこに生育している水生・湿生植物の減少が懸念されている(芹沢1995)。一方、本来は湖沼や湿地といった自然環境に生育していた水生植物や湿生植物の多くは、代替的に水田やため池を生育場所としていることが知られており、生物多様性の維持のためにも水田生態系が重要視されている(下田2003;石井ほか2005;嶺田2004;鷲谷ほか2006;日鷹ほか2006)。水田に生育する植物は、水生・湿生植物(以下、水湿植物とする)や水田雑草と呼ばれる水稲随伴種である(嶺田2004;嶺田2007;日鷹ほか2006)。
1970年に減反政策が開始され、さらに農業従事者の高齢化によって(総務省統計局2002)、水田の耕作放棄が全国的に進み(総理府統計局1971;総務省統計局2007)、水田に成立していた水辺植生は生育地を失いつつある(芹沢1995)。さらに水稲栽培下では、除草剤による駆除が水湿植物や水稲随伴種の減少の原因となっている(笠原1974;草薙ほか1986)。その結果、かつては害草とされてきた植物までもが、今や絶滅危惧種としてレッドデータリストにあげられるまでになっている(下田ほか2000;下田2003)。
水田に依存していた水湿植物や水稲随伴種は、耕作放棄後、ススキ Miscanthus sinensis Anderss.が優占するような乾性の遷移、ヨシ Phragmites australis Trin. et Steud.が優占するような湿性遷移の両方の遷移で消失のおそれがある(下田・鈴木1981;大黒ほか1996)。放棄水田の中でも湿性状態の放棄水田や放棄直後の水田には絶滅危惧種(準絶滅危惧種を含む、以下同様)を含む水湿植物の生育地となっている報告はある(下田1996;下田・中本2003;大黒ほか2003)が、ススキが優占する乾性状態の放棄水田では、絶滅危惧種が確認された報告はない。しかし、埋土種子に水湿植物や水稲随伴種が含まれていれば、環境の改善により植生を回復できる可能性がある(Grime1989)。越水ほか(1997)、中本ほか(2000)は、湿性状態の放棄水田の埋土種子が水湿植物の再生の材料となることを示唆している。
本報告では、ススキやクズが優占した乾性の放棄水田において、復田や池の造成を行った成果を解説する。あわせて放棄水田の埋土種子組成の調査結果も報告する。
調査地
調査は長野県松本市内の洞地区(以下、洞地区)および安曇野市の三郷地区(以下、三郷地区)で行った。両市が位置する松本盆地は農村の過疎化が進行し、農業従事者の減少および高齢化によって、放棄水田が増加している典型的な地方都市である。一方、こうした放棄水田をビオトープ化あるいは復田して活用している地域も存在している。松本市は1971年から2000年において、年平均降水量が1,018.5mmで、年平均気温は11.5℃である(気象庁2000)。両調査地とも松本盆地に位置し、標高が750mほどで違いがないため、年平均気温や降水量については大きな差がない。
立地区分「放棄水田」とは水田耕作の停止後、乾性の植生遷移の進んだ状態であるもの、「復田前」とは放棄水田を復田する前の状態のもの、「復田」とは「復田前」の立地区分より復田の操作を加えたもの、「池」とは放棄水田から池にした区分である。
「復田前」「復田」の調査地は安曇野市三郷地区の黒沢山(2,000m)の谷(740m)に2段にわたり存在する。ここでは過去20年以上耕作放棄された放棄水田を2006年9月から開墾し、2007年5月に水入れ、代かき、田植えし、9月に収穫が行われた。2006年9月に行った開墾以前は、ススキやクズ Pueraria lobat Ohwiが優占していた乾田状態の放棄水田であった。ススキの株が直径50cm以上、クズの根の直径が10cm以上のものもあり、ススキの株に関しては、小型のショベルカーを用いて除去した。2007年5月に近くの川から入水した。この三郷地区の水田は山のふもとであり、これより上流では耕された水田耕作の形跡はない。復田した後は除草剤や化学肥料を使用していない。また、復田地と同じ三郷地区における放棄後、約30年が経過したススキの優占する放棄水田を、「放棄水田」として調査対象とした。
「池」にした立地は松本市洞地区(780m)にあり、放棄水田をビオトープとして「池」にしたものである。この地域は美ヶ原(1,990m)の西側のふもとに位置している。まわりはアカマツ林であり、25年以上前に放棄されたまま水田であったが、里山復興活動として、2003年9月にこの放棄水田を耕し、水を入れ「池」にした。さらに2006年4月、25年以上放棄された、上下に隣あう下の棚田に、水を引き「池」とした。このとき、水湿植物や水稲随伴種の再生を目指して、耕耘機で土壌を耕したのち注水した。両池とも池にする前は、ガマ Typha latifolia L.やヨシ、カサスゲ Carex dispalata Boottが優占していた湿性状態の放棄水田であった。ここでは優占しているガマやヨシ、あるいはカサスゲを手取りでなるべく地下茎や根部まで抜きとり、放棄水田から除去した。ただし、抜けなかったところあるいは切れてしまったところの根は残っていた可能性がある。その後、耕耘機で開墾し、農業用水路から水を引き、一年中、水を張った状態にしてある。この「池」に水を供給する用水路の上流部はアカマツ林であるため、他の水田からは水は流入しない。また、地元農家の証言から、かつても除草剤を使っておらず、現在は絶滅危惧種1A類であるアズミノヘラオモダカ Alisma canaliculatum A.Braun et C.D. Bouché ex Sam. var. azuminoense Kadono et Hamashima.は害草として刈られていた事がわかっている。水深は最大で25cm程度であり、一年間に2回程度、発生したガマを手取りで除去している。ここでは全国で準絶滅危惧種のゲンゴロウ Cybister japonicas Sharp、同じく全国で準絶滅危惧種のコオイムシ Appasus japonicas Vuillefroyといった昆虫や、長野県で絶滅危惧種2類であるツチガエル Rana rugosa Temminck et Schlegel、といった両生類も確認されている。
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松本市の1971年から2000年の年平均気温は何度ですか。
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松本市の1971年から2000年の年平均気温は11.5℃です。
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JCRRAG_001788
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地理
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湖沼や河川沿岸の植生帯は、水域と陸域の生態系を繋ぐエコトーンとして、生物多様性の保持と健全な生態系機能の維持に重要な役割を果たしている(Keddy2000)。たとえば、生物のハビタットの提供、自然景観の形成や水質浄化など多様な機能を持つことが知られている(鈴木ほか1989;浅野ほか2004)。しかし近年、湖沼や河川、ため池などに成立する湿原・湿地植生の多くが干拓や埋立て、排水溝の設置による乾燥化などによって失われ、水生植物の多くが絶滅の危機に曝されている(平井1993;角野1994a,2002)。たとえば、印旛沼の築堤工事が水質汚濁や光環境の悪化を引き起こし、沈水植物をほぼ全滅させた例や(笠井2001)、霞ケ浦沿岸域がコンクリート製直立護岸で囲われたことによりアサザ Nymphoides peltata (Gmel.) O.Kuntzeが衰退した例(西廣ほか2001)などがあげられる。
本研究の対象地である手賀沼流域においても、1946年から1968年にかけて実施された手賀沼本体の排水や干拓、土地改良によって、水生植物が最も繁茂していた沼の半分弱にもおよぶ529haの浅瀬が陸化し、多くの水生植物が絶滅・減少した(沼田・大野1985)。また、流域における1960年代からの住宅団地や工業団地の造成に伴う生活・工業排水の増加や、農業排水に含まれる除草剤などが影響し、約30種近く生育していた水生植物のほとんどが消失した(浅間2001)。浅間(2001)は、レッドデータブック掲載種のガシャモク Potamogeton dentatus Hagstr.やトリゲモ Najas minor All.などを含む、かつて手賀沼に生育していた22種すべての沈水植物が1970年前後で絶滅したとしている。
近年、生態系に及ぼす外来植物の影響が懸念されている(中坪1997;日本生態学会2002)。たとえば、河川敷の保護区内に要注意外来生物のオオブタクサ Ambrosia trifida L.が侵入し、種の多様性を低下させたことや(宮脇・鷲谷1996)、要注意外来生物のシナダレスズメガヤ Eragrostis curvula (Schrad.) Neesが河川氾濫原において分布を拡大し、在来種を駆逐したこと(村中・鷲谷2003)などが知られている。手賀沼流域も例外ではなく、土地開発や河川改修の影響によって在来の水生植物の多くが姿を消し、レッドデータブック掲載種としてリスト化される種が増加した一方、近年はオオカナダモ Egeria densa Planch.やオオフサモ Myriophyllum brasiliense Cambess.などの外来水生植物がその分布を広げつつある(林ほか2008;千葉県レッドデータブック改訂委員会2009)。また、環境省が特定外来生物に指定するナガエツルノゲイトウ Alternanthera philoxeroides (Mart.) Griseb.が流域内で急速に分布拡大していることも確認されており(林ほか2008)、在来種の保全や外来種の駆除の計画策定のために、流域内における在来種および外来種の分布を把握することは喫緊の課題である。
生態系の保全や復元を計画するうえで、流域を空間単位として、地形や植生などの特性を把握することは重要である(李ほか1989;中村1999;谷内2005;王尾2008)。流域は、いくつかの小流域によって構成され、小流域はさらに詳細な集水域によって構成される入れ子状の構造をもつ。流域や小流域、集水域などの様々な空間単位で在来の水生植物の種組成や分布の傾向を明らかにすることは、その種の分布地点のみならず、その種の生育場所の保全につながるため重要である(中村・小池2005)。また、外来種の分布拡大を防ぐには、流域において分布拡大のソースとなり得る現在の分布地点を明らかにする必要がある(小池2010など)。手賀沼流域では、1940年代以降の土地改良や河川改修の影響によって、水生植物の種組成や分布が小流域・集水域間で大きく異なると考えられる(たとえば、沼田・大野1985;浅間2001)。一般に、土地開発が進むと森林などの植生域は減少することから(田畑2000)、小流域および集水域などの空間単位に流域を区分して植生域を明らかにすることで、様々な空間単位で土地開発程度の差異を把握できる。すなわち、6つの小流域から構成される手賀沼流域は小流域ごとに土地開発の過程や程度に差があるため(田畑・金1986;田畑ほか1987)、流域ごとに生育する水生植物の衰退要因が異なり、その結果として種組成も異なると考えられる。
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流域は何状の構造をもっていますか。
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流域は入れ子状の構造をもっています。
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JCRRAG_001789
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地理
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含み(Chris2000;Kobori and Primack2003;Bambaradeniya and Amarasinghe2004)、氾濫原の代替的なハビタットとして地域の生物多様性の維持に寄与してきた(鷲谷2007;Washitani2007)。この中で畦畔は、本田や水路といった水域に接するとともに、定期的に草刈りなどの管理が行われることで、明るく湿潤な条件が保たれることから、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されている(河野1984)。
しかし、近年では圃場整備に伴う畦畔のコンクリート化(前中ほか1993;山口ほか1998;松村2002)、外来牧草による緑化(前中ほか1993)などにより、生物多様性保全上の価値の高い畦畔の減少がいちじるしい(大窪・前中1995;Fukamachi et al.2001;飯山ほか2002)。さらに、外来植物の侵入(守山1997;迫田・武田1998;大窪2002;Iiyama et al.2005)による植物相の変化も指摘されている。このような変化が進行する中、現在でも良好な状態が残された地域における畦畔植生の種組成を記録するとともに、全国的に減少が顕著な湿地性植物の生育環境としての役割を評価することは重要である。
本研究では、2009年より里地・里山の生物多様性保全を主目的とした「久保川イーハトーブ自然再生事業」が進められている、北上川水系の久保川・栃倉川流域(岩手県一関市)を対象として、畦畔植生の特徴を保全生態学的観点から評価するとともに、そこに影響する要因を分析した。当流域では、かつて狭小な氾濫原のみが水田として利用されてきたが、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面での水田の開墾が進められた。しかし、複雑な地形のため1枚の水田の面積が小さく、用水は水田に隣接してつくられた小規模な溜池で確保された(須田・鷲谷2010)。その後、河川周辺の平地においては圃場整備による水田の大規模化・乾田化が進んだものの、小さな谷筋などにおいては溜池の多くは今もなお健在であり、それらを水源とした伝統的な水田耕作が広く継続されている。
本論文では、次の個別課題に答える調査・分析を行った。第一に、畦畔が湿地性の維管束植物の生育場所となっていることを確認するため、確認された種について一般的な生育環境のタイプを分類し、集計した。第二に、畦畔の構造や隣接環境の違いが生物多様性の保全の観点からみた畦畔植生の特徴(在来種、湿地性植物種数、絶滅危惧種数および外来種数)におよぼしている影響を、一般化線形混合モデルを主に用いて分析した。これらの結果をもとに、当地域において保全上の重要性が特に高い畦畔がどのような環境要因を満たす傾向にあるのかについて考察した。
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近年は、畦畔の減少がいちじるしいですか。
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はい、畦畔の減少がいちじるしいです。
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JCRRAG_001790
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地理
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含み(Chris2000;Kobori and Primack2003;Bambaradeniya and Amarasinghe2004)、氾濫原の代替的なハビタットとして地域の生物多様性の維持に寄与してきた(鷲谷2007;Washitani2007)。この中で畦畔は、本田や水路といった水域に接するとともに、定期的に草刈りなどの管理が行われることで、明るく湿潤な条件が保たれることから、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されている(河野1984)。
しかし、近年では圃場整備に伴う畦畔のコンクリート化(前中ほか1993;山口ほか1998;松村2002)、外来牧草による緑化(前中ほか1993)などにより、生物多様性保全上の価値の高い畦畔の減少がいちじるしい(大窪・前中1995;Fukamachi et al.2001;飯山ほか2002)。さらに、外来植物の侵入(守山1997;迫田・武田1998;大窪2002;Iiyama et al.2005)による植物相の変化も指摘されている。このような変化が進行する中、現在でも良好な状態が残された地域における畦畔植生の種組成を記録するとともに、全国的に減少が顕著な湿地性植物の生育環境としての役割を評価することは重要である。
本研究では、2009年より里地・里山の生物多様性保全を主目的とした「久保川イーハトーブ自然再生事業」が進められている、北上川水系の久保川・栃倉川流域(岩手県一関市)を対象として、畦畔植生の特徴を保全生態学的観点から評価するとともに、そこに影響する要因を分析した。当流域では、かつて狭小な氾濫原のみが水田として利用されてきたが、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面での水田の開墾が進められた。しかし、複雑な地形のため1枚の水田の面積が小さく、用水は水田に隣接してつくられた小規模な溜池で確保された(須田・鷲谷2010)。その後、河川周辺の平地においては圃場整備による水田の大規模化・乾田化が進んだものの、小さな谷筋などにおいては溜池の多くは今もなお健在であり、それらを水源とした伝統的な水田耕作が広く継続されている。
本論文では、次の個別課題に答える調査・分析を行った。第一に、畦畔が湿地性の維管束植物の生育場所となっていることを確認するため、確認された種について一般的な生育環境のタイプを分類し、集計した。第二に、畦畔の構造や隣接環境の違いが生物多様性の保全の観点からみた畦畔植生の特徴(在来種、湿地性植物種数、絶滅危惧種数および外来種数)におよぼしている影響を、一般化線形混合モデルを主に用いて分析した。これらの結果をもとに、当地域において保全上の重要性が特に高い畦畔がどのような環境要因を満たす傾向にあるのかについて考察した。
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畦畔は、どんな植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されていますか。
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畦畔は、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されています。
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JCRRAG_001791
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地理
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琵琶湖は,1993年に釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議において条約に登録された。その前年に滋賀県琵琶湖研究所でアジア湿地シンポジウム(1)が開催されているが,これを契機に知事が記者会見で登録の意思表示をしたのが発端である。登録までの準備期間が半年ほどしかなかったため,関係者もラムサール条約を十分に咀嚼する余裕がなく,登録後も条約湿地として何をしなければならないのかについての啓発は不十分な状態が続いていた(安藤,2000)。これに変化が生じるのは,世紀が変わる前後からである。
いかなる場所を条約湿地とするかは,締約国の自主的な判断に任されていた。そのため,審査に当たって幅広い考えをもつ国と,厳密かつ慎重に考える国が生じてくる。日本の立場は,国設の鳥獣保護区の中の特別保護区という厳しい規制が課されている湿地の中から条約湿地を選ぶというものであった。琵琶湖の場合,湖全域が1971年に県設の鳥獣保護区になっているが,国が直接厳しく管理できる体制にはなっていなかった。これに対して須川恒は,琵琶湖が条約湿地となった背景には,1992年に成立したヨシ群落保全条例が重要な役割を果たしたのではないかと推測している(須川,1994a)。
釧路市での第5回締約国会議の開催に関わった辻井達一は,この会議のひとつの意義そして期待は,アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすこと,そして加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べている(辻井,1993)。また,当時旧環境庁でこの会議を担当していた名執芳博は,この会議を誘致した目的は,湿地の重要性およびラムサール条約に関する人々の関心を日本およびアジア地域で高めることにあったとし,これと並行してそれまで4ヵ所だった日本のラムサール条約湿地を2桁にすることにも取り組んだと述べている(名執,2017)。したがって琵琶湖の登録は,偶然とはいえラムサール条約の運用が大きく転換する分岐点でなされたことになる。
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辻井達一は、ラムサール条約第5回締約国会議の意義と期待は何にあったと述べていますか。
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辻井達一は、ラムサール条約第5回締約国会議の意義と期待は、アジアにおけるこの条約の加盟国を増やすことと、加盟国の国際登録湿地を増やすことにあったと述べています。
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JCRRAG_001792
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地理
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日本の主要な農地環境である水田は、近代科学技術が発展する以前、すなわち1900年代前半まで、人力による適度な耕作圧と湿地的環境に依存した多くの水湿生植物のハビタットとして機能していた(中村1925;鷲谷2007)。しかし、1950年代以降に推進されてきた圃場整備と、重機・除草剤を使用する近代慣行農法の導入によって、水田の湿地としての機能は大幅に低下した(鷲谷2007)。また、1970年代以降は、減反政策の導入と農家の高齢化によって、各地で休耕田や耕作放棄田の増加が目立つようになった(農林水産省平成23年耕地及び作付面積統計:2012年7月公表、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001087149、最終確認日2014年8月13日)。圃場整備が実施された水田では、休耕または耕作放棄されたとしても、暗渠や落水口などの排水施設が残置されている場合には、かつての湿地的環境は回復しにくい(池上ほか2011)。そのような休耕田や耕作放棄田では、路傍植物が侵入して優占する乾性遷移が進む場合が多い(箱山ほか1976;千葉1989)。水田地帯におけるこうした環境の変化によって、かつて普通に見られた水湿生植物の多くが減少することとなった(藤井1999;環境省2000)。
1990年代以降、水田地帯における生物多様性保全の気運が高まってきている(下田2003;鷲谷2007;日鷹ほか2008)。水田地帯における水湿生植物の保全に関するこれまでの研究は、耕作放棄田に注目したものが多かった。中山間地や谷津における水田地帯では、地形上の制約で圃場整備が実施されていない水田が存在するが、そのような水田が放棄されると、水湿生植物の良好なハビタットとして機能する場合がある(大黒ほか1996,2003;河野1998;角野1998;下田・中本2003;池上ほか2011)。これらの研究成果は、水湿生植物の保全に配慮した農地計画の方向性を検討する上で有用であるが、耕作放棄田という場だけを以てこれらの植物を持続的に保全していくことは難しい。耕作放棄田では通常、農家の収入に結びつかない管理(耕起・草刈り)が継続されることはないため、植生遷移が速やかに進行する。すなわち、耕作圧からの解放によって多種の水湿生植物が出現したとしても、間もなくヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.やガマ Typha latifolia L.などの高茎多年草が優占する群落に遷移し、再び消えてしまう可能性が高い(角野1998;下田・中本2003)。圃場整備が実施されていない地域において復田と休耕を1~数年おきに繰り返すことで、種多様性が高い水湿生植物群落を持続的に維持できる可能性を指摘する研究は多い(中本ほか2002;有田ほか2006;Yamada et al.2007)。しかし、農家人口とコメ需要両面の減少に歯止めが掛からない現状を考慮すると、労働条件の悪い水田で上記のような管理を継続することは困難であると予想される。
ごく最近まで、水田地帯で行われる植物に関する研究は、水田雑草の防除に関するものが主流であった(例えば、笠原1949;荒井1962;八柳1962;伊藤1989;劉ほか1998;浅野2001)。このため、耕作水田については、「地域全体で、どんな植物種がどの程度の頻度で出現しているのか」という、植生学的な知見が不足している。Yamada et al.(2011)は、常総台地の谷津及び近接する低地において、立地と土地改良の強度が稲収穫後の水田に成立する植生に対して与える影響を解析し、水湿生植物の良好なハビタットとなり得る耕作水田の条件が「谷津及び低地(旧河道)に位置し、土地改良がほとんど実施されていないこと」であることを明らかにした。これは、低地の水田地帯においても水湿生植物を保全できる可能性があることを示す重要な成果である。このことから、水湿生植物の保全の観点からは、一般的な「圃場整備が行き届き、慣行農法が導入されている低地の水田地帯」において水湿生植物が生育できる環境が維持されるような農地計画について、検討を行う価値があると考えられる。
水田地帯における環境改変は、圃場だけではなく、農業用水路においても進められてきた。農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、管理の効率化と雑草の出現抑制を目的に推進された水路のコンクリート化である。従来の素掘り土水路とは物理的・水理的特性が大きく異なるコンクリート水路の普及によって、水湿生植物が生育する農業用水路は大きく減少した(内山2013)。しかし、その後に農業用水路の植生を評価した研究は少なく、土水路とコンクリート水路とで成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのかについて、詳しく調査した事例はない。また、同じ水田地帯に存在する水田と農業用水路とで、成立する植生の種数・種組成がどの程度異なるのか(または類似するのか)を評価した研究は皆無である。
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農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、何ですか。
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農業用水路における最も大きな環境改変のイベントは、水路のコンクリート化です。
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JCRRAG_001793
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地理
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつある(Junk et al.2013;Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson2014)、21世紀になっても世界各地で消失と劣化が続いている(Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。
日本においては、かつて本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や住宅地へと転換された(例えば、高木1970;杉浦1972;五十嵐1996;橋本ほか1997など)。一方、北海道では明治時代に始まった開拓による大規模な農地開発や宅地化(例えば、北海道開発局1972;幸丸1994;宮地・神山1997;冨士田・橘1998など)によって、低地の湿地が急速に失われた。このような湿地の減少に関して、国土地理院が旧版地形図の解析を行い、明治・大正時代に2,110.62km²存在した日本の湿地のうち61.1%にあたる1,289.62km²が1999年までに既に消失し、820.99km²を残すのみであることを明らかにしている(国土地理院2000)。さらに、残存する湿地では、周辺への排水路の敷設による地下水位低下、湿地の乾燥化、道路による分断化、河川の直線化による土砂の流入、集水域の都市化による富栄養化など、人的影響によって様々な問題が起こっており(例えば、粕渕ほか1995;Nakamura et al.1997;Fujimura et al.2012;Lee et al.2017など)、それに伴う湿地の消失や劣化が危惧されている(冨士田1997;環境省自然環境局自然環境計画課2016)。
湿地目録(wetland inventory)は、湿地の現状を把握し保全する上で欠かすことのできない基礎的な情報である。例えば、ある地域の湿地の分布状況と面積を算出し、湿地の劣化状況の情報を収集、保全すべき湿地を抽出、保全策を立案するといった一連の作業において、湿地目録は必要不可欠である。しかし、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されておらず、あっても不正確で、湿地の正確な面積や現状、そして経年変化を把握することができない状況にある(Finlayson and Spiers1999;Zedler and Kercher2005)。一方で、地理情報システム(GIS:以下、GISとする)やリモートセンシングの普及や後述するような高解像度で安価な空中写真が登場したことで、世界各地で新たな湿地目録が作成され正確な湿地情報の把握が進みつつある(例えば、Peregon et al.2009;Rebelo et al.2009;Panigrahy et al.2012;Kloiber et al.2015など)。
日本では、これまでに全国と北海道を対象とした湿地目録がそれぞれ作成されている。全国を対象とした湿地目録は、1993年・1994年に第5回自然環境保全基礎調査の一環として実施された湿地分布調査と湿地概要調査の成果によるリスト(以下、環境庁湿地リスト1995とする)で、2,196箇所の湿地が記録されGISデータも作成された(環境庁自然保護局1995)。しかし、都道府県に委託して実施されたため、調査精度が一定ではなく、データ不足の地点が多く残されていた。さらに、データの類型化が難しく集計が困難なこと、GISデータにはポイント(地点)データとポリゴン(範囲)データが混在し一括した利用が難しいことや、県をまたぐ湿地は県界で分割されズレが生じていることなど、さまざまな課題が残された(環境庁自然保護局1995)。北海道を対象とした湿地目録は、湿地研究者が主体となって作成した現存湿地のリスト(以下、北海道湿地リスト1997とする)である(冨士田ほか1997)。この北海道湿地リスト1997は、既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし作成されたため、記載内容はかなり正確で、面積、標高、湿地植生といった湿地の基礎情報に加え、保護・保全に必要な湿地の保護状況などの情報を含むという特徴がある。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、周辺の土地開発によって面積がかなり減少した湿地があることや、乾燥化によってもはや湿地ではない場所もその面積に含まれていることが作成当初から指摘されており、現実に即した確認作業が必要とされてきた(冨士田ほか1997)。この問題を筆者らが確認したところ、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用し湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。以上のように、日本の2つの湿地目録は記載内容と湿地範囲の判定に課題を抱えており、その改善には湿地に関する知識のある者が目録に掲載する項目のチェックを行い、経験のある作業者が解像度の高い空中写真を用い一定の精度で湿地範囲を判定することが必要である。
2005年に相次いで公開されたGoogle EarthやMicrosoft Virtual Earth(現在、Bing Maps)などの無償の空中写真や2013年に公開された国土地理院の地理院地図、林野庁のカラー空中写真などとGISを組み合わせることで、湿地の確認作業は以前と比較にならないほど正確かつ容易になった。これらを活用することで、広域の湿地を網羅的に把握し、高い精度で湿地目録を作成することが可能になった。
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湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されていますか。
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いいえ、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されていません。
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JCRRAG_001794
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地理
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつある(Junk et al.2013;Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson2014)、21世紀になっても世界各地で消失と劣化が続いている(Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。
日本においては、かつて本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や住宅地へと転換された(例えば、高木1970;杉浦1972;五十嵐1996;橋本ほか1997など)。一方、北海道では明治時代に始まった開拓による大規模な農地開発や宅地化(例えば、北海道開発局1972;幸丸1994;宮地・神山1997;冨士田・橘1998など)によって、低地の湿地が急速に失われた。このような湿地の減少に関して、国土地理院が旧版地形図の解析を行い、明治・大正時代に2,110.62km²存在した日本の湿地のうち61.1%にあたる1,289.62km²が1999年までに既に消失し、820.99km²を残すのみであることを明らかにしている(国土地理院2000)。さらに、残存する湿地では、周辺への排水路の敷設による地下水位低下、湿地の乾燥化、道路による分断化、河川の直線化による土砂の流入、集水域の都市化による富栄養化など、人的影響によって様々な問題が起こっており(例えば、粕渕ほか1995;Nakamura et al.1997;Fujimura et al.2012;Lee et al.2017など)、それに伴う湿地の消失や劣化が危惧されている(冨士田1997;環境省自然環境局自然環境計画課2016)。
湿地目録(wetland inventory)は、湿地の現状を把握し保全する上で欠かすことのできない基礎的な情報である。例えば、ある地域の湿地の分布状況と面積を算出し、湿地の劣化状況の情報を収集、保全すべき湿地を抽出、保全策を立案するといった一連の作業において、湿地目録は必要不可欠である。しかし、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されておらず、あっても不正確で、湿地の正確な面積や現状、そして経年変化を把握することができない状況にある(Finlayson and Spiers1999;Zedler and Kercher2005)。一方で、地理情報システム(GIS:以下、GISとする)やリモートセンシングの普及や後述するような高解像度で安価な空中写真が登場したことで、世界各地で新たな湿地目録が作成され正確な湿地情報の把握が進みつつある(例えば、Peregon et al.2009;Rebelo et al.2009;Panigrahy et al.2012;Kloiber et al.2015など)。
日本では、これまでに全国と北海道を対象とした湿地目録がそれぞれ作成されている。全国を対象とした湿地目録は、1993年・1994年に第5回自然環境保全基礎調査の一環として実施された湿地分布調査と湿地概要調査の成果によるリスト(以下、環境庁湿地リスト1995とする)で、2,196箇所の湿地が記録されGISデータも作成された(環境庁自然保護局1995)。しかし、都道府県に委託して実施されたため、調査精度が一定ではなく、データ不足の地点が多く残されていた。さらに、データの類型化が難しく集計が困難なこと、GISデータにはポイント(地点)データとポリゴン(範囲)データが混在し一括した利用が難しいことや、県をまたぐ湿地は県界で分割されズレが生じていることなど、さまざまな課題が残された(環境庁自然保護局1995)。北海道を対象とした湿地目録は、湿地研究者が主体となって作成した現存湿地のリスト(以下、北海道湿地リスト1997とする)である(冨士田ほか1997)。この北海道湿地リスト1997は、既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし作成されたため、記載内容はかなり正確で、面積、標高、湿地植生といった湿地の基礎情報に加え、保護・保全に必要な湿地の保護状況などの情報を含むという特徴がある。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、周辺の土地開発によって面積がかなり減少した湿地があることや、乾燥化によってもはや湿地ではない場所もその面積に含まれていることが作成当初から指摘されており、現実に即した確認作業が必要とされてきた(冨士田ほか1997)。この問題を筆者らが確認したところ、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用し湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。以上のように、日本の2つの湿地目録は記載内容と湿地範囲の判定に課題を抱えており、その改善には湿地に関する知識のある者が目録に掲載する項目のチェックを行い、経験のある作業者が解像度の高い空中写真を用い一定の精度で湿地範囲を判定することが必要である。
2005年に相次いで公開されたGoogle EarthやMicrosoft Virtual Earth(現在、Bing Maps)などの無償の空中写真や2013年に公開された国土地理院の地理院地図、林野庁のカラー空中写真などとGISを組み合わせることで、湿地の確認作業は以前と比較にならないほど正確かつ容易になった。これらを活用することで、広域の湿地を網羅的に把握し、高い精度で湿地目録を作成することが可能になった。
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地球上の湿地の64%から71%は何世紀に失われたと推定されますか。
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地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定されます。
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JCRRAG_001795
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地理
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつある(Junk et al.2013;Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson2014)、21世紀になっても世界各地で消失と劣化が続いている(Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。
日本においては、かつて本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や住宅地へと転換された(例えば、高木1970;杉浦1972;五十嵐1996;橋本ほか1997など)。一方、北海道では明治時代に始まった開拓による大規模な農地開発や宅地化(例えば、北海道開発局1972;幸丸1994;宮地・神山1997;冨士田・橘1998など)によって、低地の湿地が急速に失われた。このような湿地の減少に関して、国土地理院が旧版地形図の解析を行い、明治・大正時代に2,110.62km²存在した日本の湿地のうち61.1%にあたる1,289.62km²が1999年までに既に消失し、820.99km²を残すのみであることを明らかにしている(国土地理院2000)。さらに、残存する湿地では、周辺への排水路の敷設による地下水位低下、湿地の乾燥化、道路による分断化、河川の直線化による土砂の流入、集水域の都市化による富栄養化など、人的影響によって様々な問題が起こっており(例えば、粕渕ほか1995;Nakamura et al.1997;Fujimura et al.2012;Lee et al.2017など)、それに伴う湿地の消失や劣化が危惧されている(冨士田1997;環境省自然環境局自然環境計画課2016)。
湿地目録(wetland inventory)は、湿地の現状を把握し保全する上で欠かすことのできない基礎的な情報である。例えば、ある地域の湿地の分布状況と面積を算出し、湿地の劣化状況の情報を収集、保全すべき湿地を抽出、保全策を立案するといった一連の作業において、湿地目録は必要不可欠である。しかし、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されておらず、あっても不正確で、湿地の正確な面積や現状、そして経年変化を把握することができない状況にある(Finlayson and Spiers1999;Zedler and Kercher2005)。一方で、地理情報システム(GIS:以下、GISとする)やリモートセンシングの普及や後述するような高解像度で安価な空中写真が登場したことで、世界各地で新たな湿地目録が作成され正確な湿地情報の把握が進みつつある(例えば、Peregon et al.2009;Rebelo et al.2009;Panigrahy et al.2012;Kloiber et al.2015など)。
日本では、これまでに全国と北海道を対象とした湿地目録がそれぞれ作成されている。全国を対象とした湿地目録は、1993年・1994年に第5回自然環境保全基礎調査の一環として実施された湿地分布調査と湿地概要調査の成果によるリスト(以下、環境庁湿地リスト1995とする)で、2,196箇所の湿地が記録されGISデータも作成された(環境庁自然保護局1995)。しかし、都道府県に委託して実施されたため、調査精度が一定ではなく、データ不足の地点が多く残されていた。さらに、データの類型化が難しく集計が困難なこと、GISデータにはポイント(地点)データとポリゴン(範囲)データが混在し一括した利用が難しいことや、県をまたぐ湿地は県界で分割されズレが生じていることなど、さまざまな課題が残された(環境庁自然保護局1995)。北海道を対象とした湿地目録は、湿地研究者が主体となって作成した現存湿地のリスト(以下、北海道湿地リスト1997とする)である(冨士田ほか1997)。この北海道湿地リスト1997は、既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし作成されたため、記載内容はかなり正確で、面積、標高、湿地植生といった湿地の基礎情報に加え、保護・保全に必要な湿地の保護状況などの情報を含むという特徴がある。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、周辺の土地開発によって面積がかなり減少した湿地があることや、乾燥化によってもはや湿地ではない場所もその面積に含まれていることが作成当初から指摘されており、現実に即した確認作業が必要とされてきた(冨士田ほか1997)。この問題を筆者らが確認したところ、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用し湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。以上のように、日本の2つの湿地目録は記載内容と湿地範囲の判定に課題を抱えており、その改善には湿地に関する知識のある者が目録に掲載する項目のチェックを行い、経験のある作業者が解像度の高い空中写真を用い一定の精度で湿地範囲を判定することが必要である。
2005年に相次いで公開されたGoogle EarthやMicrosoft Virtual Earth(現在、Bing Maps)などの無償の空中写真や2013年に公開された国土地理院の地理院地図、林野庁のカラー空中写真などとGISを組み合わせることで、湿地の確認作業は以前と比較にならないほど正確かつ容易になった。これらを活用することで、広域の湿地を網羅的に把握し、高い精度で湿地目録を作成することが可能になった。
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつありますか。
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はい、近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつあります。
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地理
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含み(Chris2000;Kobori and Primack2003;Bambaradeniya and Amarasinghe2004)、氾濫原の代替的なハビタットとして地域の生物多様性の維持に寄与してきた(鷲谷2007;Washitani2007)。この中で畦畔は、本田や水路といった水域に接するとともに、定期的に草刈りなどの管理が行われることで、明るく湿潤な条件が保たれることから、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されている(河野1984)。
しかし、近年では圃場整備に伴う畦畔のコンクリート化(前中ほか1993;山口ほか1998;松村2002)、外来牧草による緑化(前中ほか1993)などにより、生物多様性保全上の価値の高い畦畔の減少がいちじるしい(大窪・前中1995;Fukamachi et al.2001;飯山ほか2002)。さらに、外来植物の侵入(守山1997;迫田・武田1998;大窪2002;Iiyama et al.2005)による植物相の変化も指摘されている。このような変化が進行する中、現在でも良好な状態が残された地域における畦畔植生の種組成を記録するとともに、全国的に減少が顕著な湿地性植物の生育環境としての役割を評価することは重要である。
本研究では、2009年より里地・里山の生物多様性保全を主目的とした「久保川イーハトーブ自然再生事業」が進められている、北上川水系の久保川・栃倉川流域(岩手県一関市)を対象として、畦畔植生の特徴を保全生態学的観点から評価するとともに、そこに影響する要因を分析した。当流域では、かつて狭小な氾濫原のみが水田として利用されてきたが、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面での水田の開墾が進められた。しかし、複雑な地形のため1枚の水田の面積が小さく、用水は水田に隣接してつくられた小規模な溜池で確保された(須田・鷲谷2010)。その後、河川周辺の平地においては圃場整備による水田の大規模化・乾田化が進んだものの、小さな谷筋などにおいては溜池の多くは今もなお健在であり、それらを水源とした伝統的な水田耕作が広く継続されている。
本論文では、次の個別課題に答える調査・分析を行った。第一に、畦畔が湿地性の維管束植物の生育場所となっていることを確認するため、確認された種について一般的な生育環境のタイプを分類し、集計した。第二に、畦畔の構造や隣接環境の違いが生物多様性の保全の観点からみた畦畔植生の特徴(在来種、湿地性植物種数、絶滅危惧種数および外来種数)におよぼしている影響を、一般化線形混合モデルを主に用いて分析した。これらの結果をもとに、当地域において保全上の重要性が特に高い畦畔がどのような環境要因を満たす傾向にあるのかについて考察した。
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久保川・栃倉川流域では、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面で何が進められましたか。
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久保川・栃倉川流域では、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面で水田の開墾が進められました。
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JCRRAG_001797
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地理
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつある(Junk et al.2013;Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson2014)、21世紀になっても世界各地で消失と劣化が続いている(Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。
日本においては、かつて本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や住宅地へと転換された(例えば、高木1970;杉浦1972;五十嵐1996;橋本ほか1997など)。一方、北海道では明治時代に始まった開拓による大規模な農地開発や宅地化(例えば、北海道開発局1972;幸丸1994;宮地・神山1997;冨士田・橘1998など)によって、低地の湿地が急速に失われた。このような湿地の減少に関して、国土地理院が旧版地形図の解析を行い、明治・大正時代に2,110.62km²存在した日本の湿地のうち61.1%にあたる1,289.62km²が1999年までに既に消失し、820.99km²を残すのみであることを明らかにしている(国土地理院2000)。さらに、残存する湿地では、周辺への排水路の敷設による地下水位低下、湿地の乾燥化、道路による分断化、河川の直線化による土砂の流入、集水域の都市化による富栄養化など、人的影響によって様々な問題が起こっており(例えば、粕渕ほか1995;Nakamura et al.1997;Fujimura et al.2012;Lee et al.2017など)、それに伴う湿地の消失や劣化が危惧されている(冨士田1997;環境省自然環境局自然環境計画課2016)。
湿地目録(wetland inventory)は、湿地の現状を把握し保全する上で欠かすことのできない基礎的な情報である。例えば、ある地域の湿地の分布状況と面積を算出し、湿地の劣化状況の情報を収集、保全すべき湿地を抽出、保全策を立案するといった一連の作業において、湿地目録は必要不可欠である。しかし、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されておらず、あっても不正確で、湿地の正確な面積や現状、そして経年変化を把握することができない状況にある(Finlayson and Spiers1999;Zedler and Kercher2005)。一方で、地理情報システム(GIS:以下、GISとする)やリモートセンシングの普及や後述するような高解像度で安価な空中写真が登場したことで、世界各地で新たな湿地目録が作成され正確な湿地情報の把握が進みつつある(例えば、Peregon et al.2009;Rebelo et al.2009;Panigrahy et al.2012;Kloiber et al.2015など)。
日本では、これまでに全国と北海道を対象とした湿地目録がそれぞれ作成されている。全国を対象とした湿地目録は、1993年・1994年に第5回自然環境保全基礎調査の一環として実施された湿地分布調査と湿地概要調査の成果によるリスト(以下、環境庁湿地リスト1995とする)で、2,196箇所の湿地が記録されGISデータも作成された(環境庁自然保護局1995)。しかし、都道府県に委託して実施されたため、調査精度が一定ではなく、データ不足の地点が多く残されていた。さらに、データの類型化が難しく集計が困難なこと、GISデータにはポイント(地点)データとポリゴン(範囲)データが混在し一括した利用が難しいことや、県をまたぐ湿地は県界で分割されズレが生じていることなど、さまざまな課題が残された(環境庁自然保護局1995)。北海道を対象とした湿地目録は、湿地研究者が主体となって作成した現存湿地のリスト(以下、北海道湿地リスト1997とする)である(冨士田ほか1997)。この北海道湿地リスト1997は、既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし作成されたため、記載内容はかなり正確で、面積、標高、湿地植生といった湿地の基礎情報に加え、保護・保全に必要な湿地の保護状況などの情報を含むという特徴がある。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、周辺の土地開発によって面積がかなり減少した湿地があることや、乾燥化によってもはや湿地ではない場所もその面積に含まれていることが作成当初から指摘されており、現実に即した確認作業が必要とされてきた(冨士田ほか1997)。この問題を筆者らが確認したところ、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用し湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。以上のように、日本の2つの湿地目録は記載内容と湿地範囲の判定に課題を抱えており、その改善には湿地に関する知識のある者が目録に掲載する項目のチェックを行い、経験のある作業者が解像度の高い空中写真を用い一定の精度で湿地範囲を判定することが必要である。
2005年に相次いで公開されたGoogle EarthやMicrosoft Virtual Earth(現在、Bing Maps)などの無償の空中写真や2013年に公開された国土地理院の地理院地図、林野庁のカラー空中写真などとGISを組み合わせることで、湿地の確認作業は以前と比較にならないほど正確かつ容易になった。これらを活用することで、広域の湿地を網羅的に把握し、高い精度で湿地目録を作成することが可能になった。
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北海道湿地リスト1997は、誰が主体となって作成しましたか。
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北海道湿地リスト1997は、湿地研究者が主体となって作成しました。
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JCRRAG_001798
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地理
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含み(Chris2000;Kobori and Primack2003;Bambaradeniya and Amarasinghe2004)、氾濫原の代替的なハビタットとして地域の生物多様性の維持に寄与してきた(鷲谷2007;Washitani2007)。この中で畦畔は、本田や水路といった水域に接するとともに、定期的に草刈りなどの管理が行われることで、明るく湿潤な条件が保たれることから、湿生の草地性植物にとって好適なハビタットとなり得ることが指摘されている(河野1984)。
しかし、近年では圃場整備に伴う畦畔のコンクリート化(前中ほか1993;山口ほか1998;松村2002)、外来牧草による緑化(前中ほか1993)などにより、生物多様性保全上の価値の高い畦畔の減少がいちじるしい(大窪・前中1995;Fukamachi et al.2001;飯山ほか2002)。さらに、外来植物の侵入(守山1997;迫田・武田1998;大窪2002;Iiyama et al.2005)による植物相の変化も指摘されている。このような変化が進行する中、現在でも良好な状態が残された地域における畦畔植生の種組成を記録するとともに、全国的に減少が顕著な湿地性植物の生育環境としての役割を評価することは重要である。
本研究では、2009年より里地・里山の生物多様性保全を主目的とした「久保川イーハトーブ自然再生事業」が進められている、北上川水系の久保川・栃倉川流域(岩手県一関市)を対象として、畦畔植生の特徴を保全生態学的観点から評価するとともに、そこに影響する要因を分析した。当流域では、かつて狭小な氾濫原のみが水田として利用されてきたが、昭和初期から昭和40年代にかけて、丘陵の谷戸や斜面での水田の開墾が進められた。しかし、複雑な地形のため1枚の水田の面積が小さく、用水は水田に隣接してつくられた小規模な溜池で確保された(須田・鷲谷2010)。その後、河川周辺の平地においては圃場整備による水田の大規模化・乾田化が進んだものの、小さな谷筋などにおいては溜池の多くは今もなお健在であり、それらを水源とした伝統的な水田耕作が広く継続されている。
本論文では、次の個別課題に答える調査・分析を行った。第一に、畦畔が湿地性の維管束植物の生育場所となっていることを確認するため、確認された種について一般的な生育環境のタイプを分類し、集計した。第二に、畦畔の構造や隣接環境の違いが生物多様性の保全の観点からみた畦畔植生の特徴(在来種、湿地性植物種数、絶滅危惧種数および外来種数)におよぼしている影響を、一般化線形混合モデルを主に用いて分析した。これらの結果をもとに、当地域において保全上の重要性が特に高い畦畔がどのような環境要因を満たす傾向にあるのかについて考察した。
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水田生態系はどのような湿生環境を含みますか。
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水田生態系は、用水路、溜池、本田、畦畔など多様な湿生環境を含みます。
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JCRRAG_001799
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地理
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近年、人為開発などが原因の湿地の消失や劣化、外来種の侵入や温暖化による湿地生態系の撹乱などが急速に進行しつつある(Junk et al.2013;Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson2014)、21世紀になっても世界各地で消失と劣化が続いている(Gardner et al.2015;Mitsch and Gosselink2015)。
日本においては、かつて本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や住宅地へと転換された(例えば、高木1970;杉浦1972;五十嵐1996;橋本ほか1997など)。一方、北海道では明治時代に始まった開拓による大規模な農地開発や宅地化(例えば、北海道開発局1972;幸丸1994;宮地・神山1997;冨士田・橘1998など)によって、低地の湿地が急速に失われた。このような湿地の減少に関して、国土地理院が旧版地形図の解析を行い、明治・大正時代に2,110.62km²存在した日本の湿地のうち61.1%にあたる1,289.62km²が1999年までに既に消失し、820.99km²を残すのみであることを明らかにしている(国土地理院2000)。さらに、残存する湿地では、周辺への排水路の敷設による地下水位低下、湿地の乾燥化、道路による分断化、河川の直線化による土砂の流入、集水域の都市化による富栄養化など、人的影響によって様々な問題が起こっており(例えば、粕渕ほか1995;Nakamura et al.1997;Fujimura et al.2012;Lee et al.2017など)、それに伴う湿地の消失や劣化が危惧されている(冨士田1997;環境省自然環境局自然環境計画課2016)。
湿地目録(wetland inventory)は、湿地の現状を把握し保全する上で欠かすことのできない基礎的な情報である。例えば、ある地域の湿地の分布状況と面積を算出し、湿地の劣化状況の情報を収集、保全すべき湿地を抽出、保全策を立案するといった一連の作業において、湿地目録は必要不可欠である。しかし、湿地目録は世界の多くの国で十分に整備されておらず、あっても不正確で、湿地の正確な面積や現状、そして経年変化を把握することができない状況にある(Finlayson and Spiers1999;Zedler and Kercher2005)。一方で、地理情報システム(GIS:以下、GISとする)やリモートセンシングの普及や後述するような高解像度で安価な空中写真が登場したことで、世界各地で新たな湿地目録が作成され正確な湿地情報の把握が進みつつある(例えば、Peregon et al.2009;Rebelo et al.2009;Panigrahy et al.2012;Kloiber et al.2015など)。
日本では、これまでに全国と北海道を対象とした湿地目録がそれぞれ作成されている。全国を対象とした湿地目録は、1993年・1994年に第5回自然環境保全基礎調査の一環として実施された湿地分布調査と湿地概要調査の成果によるリスト(以下、環境庁湿地リスト1995とする)で、2,196箇所の湿地が記録されGISデータも作成された(環境庁自然保護局1995)。しかし、都道府県に委託して実施されたため、調査精度が一定ではなく、データ不足の地点が多く残されていた。さらに、データの類型化が難しく集計が困難なこと、GISデータにはポイント(地点)データとポリゴン(範囲)データが混在し一括した利用が難しいことや、県をまたぐ湿地は県界で分割されズレが生じていることなど、さまざまな課題が残された(環境庁自然保護局1995)。北海道を対象とした湿地目録は、湿地研究者が主体となって作成した現存湿地のリスト(以下、北海道湿地リスト1997とする)である(冨士田ほか1997)。この北海道湿地リスト1997は、既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし作成されたため、記載内容はかなり正確で、面積、標高、湿地植生といった湿地の基礎情報に加え、保護・保全に必要な湿地の保護状況などの情報を含むという特徴がある。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、周辺の土地開発によって面積がかなり減少した湿地があることや、乾燥化によってもはや湿地ではない場所もその面積に含まれていることが作成当初から指摘されており、現実に即した確認作業が必要とされてきた(冨士田ほか1997)。この問題を筆者らが確認したところ、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用し湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。以上のように、日本の2つの湿地目録は記載内容と湿地範囲の判定に課題を抱えており、その改善には湿地に関する知識のある者が目録に掲載する項目のチェックを行い、経験のある作業者が解像度の高い空中写真を用い一定の精度で湿地範囲を判定することが必要である。
2005年に相次いで公開されたGoogle EarthやMicrosoft Virtual Earth(現在、Bing Maps)などの無償の空中写真や2013年に公開された国土地理院の地理院地図、林野庁のカラー空中写真などとGISを組み合わせることで、湿地の確認作業は以前と比較にならないほど正確かつ容易になった。これらを活用することで、広域の湿地を網羅的に把握し、高い精度で湿地目録を作成することが可能になった。
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Google EarthやMicrosoft Virtual Earthは何年に公開されましたか。
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Google EarthやMicrosoft Virtual Earthは2005年に公開されました。
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JCRRAG_001800
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地理
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里地里山(さとやま)は、集落や農地からなる里地と、伝統的に植物資源の採取が行われてきた里山を含む複合生態系を指す(鷲谷2011)。さとやまは現在、日本の生物多様性保全の重要な場の1つとして認識されており(The Ministry of the Environment 2010)、保全再生の活動が活発に展開されている。その中には北上川水系の小河川久保川の流域(岩手県一関市)を対象として実施されている「久保川イーハトーブ自然再生事業」など、自然再生推進法に基づく自然再生事業も含まれている(鷲谷2011)。久保川イーハトーブ自然再生事業は「樹木葬」という、放棄された人工林などを管理しつつ地域の在来種を墓標として用いる新しい埋葬法によるさとやま再生の活動に取り組む仏教寺院「知勝院」が中心となり、2009年に自然再生推進法に則って自然再生協議会「久保川イーハトーブ自然再生協議会」を組織して実施されている。民間主導の本事業では、管理放棄された山林や棚田などの植生管理や、溜池の侵略的外来種排除など、さとやまの生物多様性の保全・再生のための多様な活動が進められている(久保川イーハトーブ自然再生協議会2009)。これらの実践においては、生物多様性の保全・再生のみならず、多様な生態系サービスの維持および向上が目標として掲げられている。
日本の多くのさとやま地域において、多様な生態系サービスを担う生物種の1つと考えられるのが、トウヨウミツバチ Apis ceranaの亜種であるニホンミツバチ Apis cerana japonicaである。ニホンミツバチは多年生ハナバチであり、数千~3万頭からなるコロニーを、年間を通じて維持する(菅原2005)。コロニー維持に必要な餌資源はすべて、花資源、すなわち主に成虫の活動のエネルギー源としての花蜜(炭水化物)と蜂児の成長に必要な花粉(タンパク質)に依存する(Haydak1970;Keller et al.2005a,b)。
一般にミツバチは、花資源の利用に伴い、基盤サービス(Kremen et al.2007)あるいは調節サービス(Millennium Ecosystem Assessment Board 2005)に分類される野生植物の送粉および、調節サービスに分類される栽培植物の授粉に寄与するとされている(Ghazoul2005;Klein et al.2007;Millennium Ecosystem Assessment Board 2005)。また、採集した花蜜の貯蜜を通じて、蜂蜜の供給サービスにも寄与する。なお、Millennium Ecosystem Assessment Board(2005)では野生植物の送粉を調節サービスに分類しているが、本研究では、雄性・雌性機能の両面から野生植物の次世代生産を支える送粉と、栽培植物生産のための授粉とを区別することが望ましいと考え、前者を生態系の維持に資するものとして、基盤サービスに分類する。同様の分類はWhelan et al.(2008)が用いている。
本研究は、ニホンミツバチが提供する生態系サービスを包括的に評価するため、ニホンミツバチが利用するランドスケープ要素と植物種についての基礎的情報の収集を目的として実施した。複合生態系としてのさとやまにおいては、開花植物の種構成や開花量が空間的季節的に大きく変動するため(Putra and Nakamura2009)、ニホンミツバチが依存する植物種も時空間的に大きく変化する。しかし、さとやまにおけるニホンミツバチの花資源利用の空間的季節的なパターンや蜂群のフェノロジーについては、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、1)定期的なルートセンサスによる訪花調査により、ニホンミツバチが花資源として利用し、同時に送粉・授粉に寄与する可能性のある植物種およびランドスケープ要素を把握した。さらに、2)コロニーの貯蜜量、蜂児量の測定により、当該さとやま地域のニホンミツバチが提供しうる蜂蜜供給サービスの評価のための、調査に適した季節を検討した。なお、開花植物種数が最も多く、ニホンミツバチが花粉源として利用する植物種数が最も多いとされている春季(Lopez et al.2013)には、3)巣に持ち帰る花粉の分析も行った。
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放棄された人工林などを管理しつつ地域の在来種を墓標として用いる新しい埋葬法とは何ですか。
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放棄された人工林などを管理しつつ地域の在来種を墓標として用いる新しい埋葬法は、樹木葬です。
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