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 満月でほのかに明るい泡倉。広場に隣接した館を見ると、門前に一人佇んでいるのが見えた。
 セリオ様より少し低いくらいかな? 銀髪のお爺さん。かっちりした仕立ての良さそうな服を着ている。僕たちが近づいていくと、お爺さんが丁寧なお辞儀をして名乗った。
「先ほどは失礼致しました。改めまして泡倉管理人セニオリブスでございます」
「魂倉管理人、ロジャーだ」
「コミエ村のサウルです。よろしくお願いします」
「それでは、サウル様。この泡倉の諸元と詳しい利用方法についてですが」
 しれっとセニオさんが話を進めようとするので、ちょっと止める。無視された格好のロジャーおじさん、機嫌悪そう。
「待ってください。僕はまず泡倉管理人のセニオリブスさんに聞きたいことがあります」
「なんでございましょう?」
「何故、今日まで僕と接触しなかったのですか? 確か、最初僕以外とは会いたくない、とロジャーに連絡しましたよね。その後、何度か泡倉に僕が出入りしても何もありませんでした」
「確かに、その通りでございます」
「理由を教えてください。場合によっては、泡倉の閉鎖も検討します」
 ロジャーおじさんがぎょっとした顔をする。うん。相談してなかったしね。セニオさんは、余り驚いてないのかな?
「……人は罪深きモノでございます。この泡倉には様々な物が蓄えられています。
 鉱物、動植物、海産物、魔物に幻獣、聖獣に至るまで。
 愚か者がこの泡倉を自ままにすれば……」
 セニオさんはこっちをじっと見た後、にこりと微笑んだ。孫を見つめる老人のように。
「分かりました。僕を試したんですね。お眼鏡に適いましたか?」
「はい。当分は」
「おい、爺さん。坊っちゃんを導くのも俺らの使命だろ? おかしくねぇか?」
 ロジャーおじさんは納得いかなかったみたい。
「腐った卵から雛は孵りません」
「ちっ、あっしはこの爺さん気に入らねぇな」
「私の使命には君との友情ごっこは無いようですよ」
「まぁまぁ」
 なんで僕が仲裁してるんだろう? なんだか理不尽な気がする。
 その後、泡倉の諸元と、細かい使い方、どういう物が入ってるのかを大ざっぱに聞いていった。細かいことはセニオさんに都度聞くことになった。
 獣や魔獣などに関してはセニオさんとその眷属が管理しているけど、基本的には自然に任せているとのこと。だから、危険な生物にあったら戦わないと死ぬ事も有るそうだ。怖いね。
 で、泡倉内の資源は僕の裁量で持ち出しても良い。家なんかも建てて良い。などなど。
 夜も遅くなったので、続きはまた今度になった。最期までロジャーおじさんとセニオさんは仲が悪そうだった。困ったなぁ。
【タイトル】
020 村人になる1
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-07-29 15:59:05(+09:00)
【公開日時】
2017-07-29 15:59:05(+09:00)
【更新日時】
2017-07-30 09:42:06(+09:00)
【文字数】
3,852文字
【本文(100行)】
 5月13日。3の闇の日。週の初めの日である闇の日はお休みなんだけど、皆余り休んでない。特に生き物を飼っているところは、休みようが無いみたい。
 ふと思いついたので列挙してみる。
 60秒で1分。
 60分で1時間。
 24時間で1日。
 1週が6日。闇、地、水、火、風、光。
 1ヶ月は30日で、1年は12ヶ月の360日。
 1ヶ月が5週なのが勿体ないな。美しくない。6週なら良かったのに。闇の週の闇の日とか、水の週の風の日とか、綺麗に表現できそうだったのになぁ。でもそれじゃ、一年を表すのが面倒だね。仕方ないかな。
 今朝はちょっと暖かい。12度。空は曇っている。こないだ読んだ暦の本、6月半ばから雨が多くなるのだそうだ。それまでは晴れが多い、らしいんだけど。そこにあったセリオ様とマリ様の書き込みからすると、この辺は余り当てにならない、とのこと。
 冬小麦の収穫がそろそろなのだそうだ。かり集めて脱穀乾燥して、村に納める。僕も収穫を手伝ってたはずなんだけど、記憶に無い。
 脱穀、乾燥。何か役に立たないかな。
 脱穀は、《《うちの牛》》に踏ませたり、フレイルで叩いたり、一本一本棒で挟んで取ったりしてたんだっけ。んーー。思いつかないな。もっと間近で観察しないと駄目かも。
 えっと。乾燥は確か、余り乾燥させるとひび割れてしまうとか。だから、上下から弱い熱線を加えて、穀物から出た湿気は、弱い風で飛ばせば良いと思う。でも、乾燥する間僕が付いてなきゃ駄目かな? 何時間くらいなんだろう? 水の術を逆に使えば、直接水分も抜けるかも知れない。でも、どの程度が良いのか分からないな。これも実験しないと分からないなぁ。
 前世は万能じゃ無くて、使えない時もあるんだね。ちょっとホッとした。
 と、そうそう。前世。昨日の料理に関する閃きはちょっとびっくり。最初の頃は、何か思い出そうとすると痛かったり気持ち悪かったりしたけど、凄く普通だった。これはちょっと相談した方が良いのかも知れない。
 僕が僕でいるために。
 水汲みは続行。僕は四大術で水を出すことが出来るようになって、量も質も思いのまま、なんだけど。闘気法の練習と、肉体を動かす訓練を兼ねてやるべきだという事らしい。夕方のお風呂は四大術で出すことに。その代わりお風呂は毎日になった。王都の貴族みたいだってアラン様がいつもの調子で笑ってた。
 そんなわけで、ちょっと疲れた僕は水汲みを終えて、朝食の席についたとこ。
「昨日のことなんだけどよ、クソガキ。お前、あの出汁の話、《《誰に聞いた》》?」
 アラン様が前触れ無しに突っ込んできた。重い話は食事の後が良いと思うんだけど、お構いなし。最初は戸惑ったり腹が立ったりしたけど、慣れて来ちゃった。
「誰にも聞いたことは無いです。なので前世なんだと思います」
 ここなら普通に話して良い事だ。
「やっぱな。じゃぁ、お前自警団に参加しろ」
「え?」
 唐突な話で繋がりが見えないんだけど。キョロキョロと大人達を見ると、セリオ様が説明してくれるみたい。
「昨夜、サウルが前世に飲み込まれないために、どうすれば良いかという話になってね。
 術の空間に入り浸りすぎて帰って来れなくなる話や、魔性の物に魂を取られる話、古代遺跡でかけられる呪い。
 前世の話を一緒にすると、前世の人が気を悪くするかも知れないけど、まぁ同じようなものだろうと言う話になったんだ。なら対抗するには、この世に|縁《えにし》を作る事、だろうと」