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 じーっと僕を見つめる黒剣団の皆さん。えっと。
 10秒ほど見つめ合った後、黒剣団のリーダーさんが口を開いた。
「……俺たちは、お前が参入者になることに反対だ。それは今でも変わってない。冒険者賄賂でどうにかなるほど甘くない」
「ゴードン……」
 フラムさんが口を開こうとするけど、リーダーのゴードンさんは手で制止ながら続ける。
「だが、俺たちは公正に判断し報告しよう。黒剣団の名に賭けて。だからここからは居ない者として扱ってくれ」
「あ、分かりました。では、よろしく? お願いします」
「はぁ……、そう言われたら私もここからの接触は自粛しようか。公正な審査のために」
 んー。まぁ公正にしてくれるというなら良いか。じっと見られてるのは気持ち悪いけど。
『そうは言ってもあたいはこうやって話しかけられるけどな』
『まぁそうですけどね。あ、僕、色々こっそりやりますけどばらさないでくださいね』
『あぁ、かまわんさ。好きにしな』
 と、蓮っ葉な念話がフラム様から。表と裏で口調違いすぎる……。
「じゃぁ出発しますねー」
 僕を先頭にフラム様と黒剣団の4人がついてくる。普通に見れば6人パーティなんだけど。無言。街の人もなんか変な顔して見てる。まだ涼しい時間なのに、なんか汗が出てくるのは何故だろうねー。
 街の北門から外に出る。こちらは余り人里が無い。道を覆うように大きな枝が張りだしてるし、道の真ん中にも割と雑草が生えていて、腐葉土の匂いがぷんとする。もう少ししたら蝉もうるさいと思う。
 僕に与えられた仕事はここから10kmほど行った集落で見つかったゴブリン退治。2体が確認されていて、多分追加はない、とのこと。余りに数に違いがあったら後ろの人が助けてくれるし、逃げても構わない。
 体が急成長して良かったのは、野外活動の時だね。140cmなら歩幅もそこそこあるし、持久力もある。成長過程の体でも10kmなら余裕だ。まぁ途中で遭遇戦でもなければ、だけどね。
 お腹が減ってきた僕は、泡倉からリンゴとチーズを取り出してかじりながら進み始めた。
【タイトル】
040 参入者へ2
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2018-08-03 08:51:59(+09:00)
【公開日時】
2018-08-03 08:51:59(+09:00)
【更新日時】
2018-08-03 08:51:59(+09:00)
【文字数】
2,422文字
【本文(64行)】
 両手にリンゴとチーズを持って歩く僕。後ろの皆さんが呆れた目で僕を見てる。え? なんで分かるのかって? いつもなら気温や時間を表示してる右下に、後ろの様子が表示されてるから。正に後ろに目が付いてるようなものだよね。僕は探索術が使えないからすごく便利。拡大縮小に視点移動も出来るので、両手が塞がっていても警戒は出来るのです。うん。
 あ、ちなみにロジャーさんは見守りモードです。ほんとに僕の手に負えないようなことでも無い限りは手出し無用と命令してるのです。そうじゃないと成長できないからね。
 急に体が成長して一番困ったのは体の使い方。
 もちろん日常動作くらいは問題ないんだけどね。戦闘行動なんかだとずれる。今も、とっさの動きはちょっとおかしい。成長が急すぎて脳がついていけないみたい。
 コータローライブラリで何か参考できないかと探してみたら、成長時の動作についての考察が幾つかあった。すごく助かった。でも、不思議なんだよね。あの書き方だと、コータローさんはまるで《《何度か成長した》》、みたいなんだよね。転生なら名前が変わるし、インタビューとかそういう感じじゃなかったと思う。
 まぁいいけど。
 あ、あともう一つ変わったこと。
 感情が落ち着いたんだ。時々、僕自身でも制御できない感情が溢れて泣き出したり笑ったり怒ったりしてたんだけど、大分落ち着いたんだ。
 僕は同年代の子供と比べると大人びてるでしょ? 自分が妙な衝動に引きずられるのが嫌だったんだ。それが落ち着いてほっとしたよ。
 さて。街を出て北に向かって1時間。
 土埃を巻き上げる大きな街道から外れて行くと、あっというまに様子が変わってきた。人の手の入っていない森の中に辛うじて荷馬車が通れるだけの道がある。山の方に向かっているから緩やかな上り坂。
 蝉が鳴き、虫はぶんぶん飛んでくるし。それでも道を歩けば木が生えてないから歩きやすい。
 でも、もうちょっと、ちょっと楽をしたいな。だって上り坂疲れるもん。
「すいません、ペース上げますねー」
 後ろに向かって叫ぶと、僕は一つの術を魂倉のライブラリから呼び出した。
 途端に腰、太もも、すね、足の裏と、幾つもの円筒に包まれたファンが出現する。それが稼働すると、凄い勢いの空気の流れが生まれ、僕の体は1mほど宙に浮いた。ちなみにうるさい。しゅーしゅーとおっきな蛇が沢山いるみたい。それに、ちょっと高度を取らないと、土や石を巻き上げて面倒くさい。
「じゃ、行きますか」
 僕は中腰になり前を向く。背中からもう一つ大きな音がして風がでる。それが推進力となって僕は進み始めた。
 右下のモニターでは黒剣団の皆さんが慌てて追いかけてくるのが見える。フラム様も。僕のスピードは時速10km程度。ちょっとした駆け足程度だ。後ろの皆さんは装備を背負ってるし、緩やかとは言え上り坂で大変みたい。
 あぁ、フラム様から護符越しにご連絡だ。もっとゆっくりにしないといけないか。置いてけぼりにして査定が悪くなるといけないしなぁ。
 ま、いいや。
「じゃ、もうちょっとゆっくり行きますので、付いてきてくださいね!」
 ホバリングの術はうるさいので、僕は大声で告げ発進した。今度は時速6km程度。皆さん軽装だし、問題ないはず。
 村まで数百メートルと言うところで術を解除したんだけど。
 黒剣団の皆さんはついて来れてないね。まぁ平地の街道を走るのとは訳が違うから仕方ないのかな。
 当然のように付いてきたフラム様がホバリングについて聞いてきたので、大ざっぱなやり方と制御のコツを話してると、黒剣団の皆さんがやってきた。
 さすがに平気な顔をしている。
 ほぼ日の出と共に動き始めたから、まだ日差しも強くない。森と村の境目が良く分からないこの村には何度かお届け物もしてる。だから村人とも顔なじみなんだよね。道を歩く人と挨拶する。大きくなる度に別人に間違えられてめんどくさかったけど。普通の子供はちょっと見ない間に10cmも背が伸びないし、ね。
 今日はみんな、僕より僕の後ろに付いてくる人達を見て驚いてる。その度に、説明するのがこれまた面倒だね。
 ここは大した産品もなく、焼き物や山の幸、薬草を街に売り、後は自給自足で生活している。鍛冶屋も薬師も神官もいないし、何か有ると外に頼らざるを得ない弱い村だ。
 でもさすがにゴブリン二体なら何とかなるのでは? 大人が数人武器を持って戦えば。
 あぁ、やっぱり面倒ごとが。
 僕は《《村長の娘さん》》から話を聞きながら、眉間にしわが寄ってきた。
 先日、ゴブリンの小集団が村を襲い、村長を先頭に有志が対抗。何とか大部分を倒したけれど、村人にもけが人と死人がでたとのこと。村長も大けがで今も寝たきり。動かせないからまともな治療も出来ないとの事。
 一昨日から残ったゴブリンらしきモノが現れ、畑に被害があるとのことで、それを退治して貰いたいというのが今回の依頼。
 とりあえずゴブリンの脅威が無くなったら男手を集めてけが人をアレハンドロまで連れて行き、治療するのだという。
『ねぇロジャー』
『駄目ですぜ、坊っちゃん。あっしは認められませんな』
『まだ何も言ってないんだけど……』