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JCRRAG_014101
国語
恐らく、あの頃から後の数年が、一番多種多様の諜報機関が、国内で活動した時期だと思う。国際関係のものは勿論のこと、営利専門のものもあるし、情報通信のもの、経済関係のものなどと、ずいぶんいろいろの諜者が活躍をしていた。時には同士討もあって面白いこともあった。 およそ相手方の諜者にやらせてならぬことは、こっちの秘密を知られることと、これを相手方の本部へ通達されることの二つである。なかでも後者に属する通信であるが、これに対しては、水も洩らさぬ警戒をしなければならなかった。 あらゆる秘密通信機関を探しだして、これを諜報者の手から取上げることも、焦眉の急を要することだった。幸いわが国の通信事業は官庁の独占または監督下にあったため、比較的取締に都合がよかったし、また秘密通信機がコツコツとモールス符号を送りだしてもすぐそれを探しあてるほどの監督技術をもっていたから、これも都合がよかった。その当時、そういう秘密通信機関で摘発され、或いは発見されたものの数はすこぶる多い。 帆村荘六が事務所に備えつけていた最新式の短波通信機も当局の臨検にあい、もちろんのこと押収の議題にのぼったけれど、当時彼は既にもう某方面の仕事を命ぜられていたので、その方に必要なる道具であるとして幸いにも押収を免れた。そのとき帆村は、この短波通信機が此処へ来てそれほど貴重なものとなったとは認識していなかったけれど、後から聞いた話によると、民間機でその当時押収を喰わなかったものとては、帆村機の外に殆んどなかったとのことである。当時帆村はそういう事態を、それほどまで深刻に認識していなかったのだ。もちろん誰かからそういう説明を聞けばよく分って警戒もしたであろうが、事実説明はなかったとのことである。 さて或る日、帆村の事務所へ電話がかかってきた。大辻という助手が出て、相手の名前を訊ねたところ、貴方は帆村氏かという。大辻助手が、私は主人の帆村ではないと応えると、相手は帆村氏を電話口へ出してくれといって、なかなか身柄を明かさない。そこで大辻はその由を帆村に伝えたが、まあこんな風な電話のかかって来方は事件依頼主が身柄を秘したいときによくやる手で、それほど大したことではなかった。 入れかわって帆村が電話口に出てみると、相手はまた入念に帆村であることを確かめた上で、 「――実は、こっちは内務省なんですが、秘密に貴下の御力を借りたいのです」 と、始めて身柄を明かした。 そういう官庁とは、はじめての交渉であったけれど、官庁のことゆえ、帆村は助力をしてもいいが、と一応承諾の用意があることを明らかにし、その依頼事件の内容について訊ねた。 すると相手は、 「いや、もちろん電話ではお話できませんから、お会いしたい」 という。 「ではいつそちらへ伺いましょうか」 と帆村が訊ねると、 「なるべく早いことを希望します。しかしこっちへお出でになると、いろいろな人物も出入していることだしするから、目に立っていけません。だから外でお目に懸りましょう。それには、こうしてください」 といって、木村氏と名乗るその役人は、帆村に対し、今から三十分後、日比谷公園内のどこそこに立っていてくれ、すると自分はこれこれの番号のついた自動車に乗ってそこを通るから、そこで車に一緒にのってくれるように、あとはこっちは委せてくれということだった。帆村は承知の旨を応えて、電話を切った。 大辻助手には、すぐに出懸けるからと前提して、電話の内容を手短かに話をし、帆村がどこに連れてゆかれるかを確かめるため、適当に車をもって公園の中に隠れており、うまく尾行をするように、そして送りこまれたところが分れば、すぐに事務所に戻っているように、またそれから一時間経って、帆村からなんの電話も懸ってこないときは、すぐさま飛びこんでくるように申し渡して、事務所を出たのであった。というのも、官庁は別に怪しくなくても、いつ悪者どもが官庁の御用らしく見せかけて、こっちに油断をさせないでもないからのことだった。 帆村は十分の仕度をして、木村氏にいわれたとおり、三十分のちには日比谷公園の所定の場所に立っていた。 それから五分おくれて、形は大きいセダンではあるが、型は至極古めかしい自動車がとおりかかった。なるほど一目でそれと知れる官庁自動車だった。ラジエーターの上には官庁のマークの入った小旗がたてられていた。 「ああこれだな」 と思った折しも、車が帆村の前にぴたりと停り、中にいた四十がらみの鼻下に髭のある紳士が帆村の方へ顔をちかづけて、 「木村です。さあどうぞ」 と、柔味のある声音で呼びかけた。 帆村はそのまま車内の人となった。 そして彼は、木村氏の案内によって築地の某料亭の門をくぐったのであった。時刻は丁度午後三時十七分であった。
敵の諜報活動において重要な役割を果たすと考えられ、厳重な警戒が必要とされていた通信手段が、当時、容易に摘発・発見されていたのはなぜか。
敵の諜報活動における通信手段は重要な役割を果たすと考えられ、厳重な警戒が必要とされていたが、当時の日本の通信事業の特殊な体制と高度な監督技術によって、その多くが摘発・発見された。
JCRRAG_014102
国語
また実際、王妃がよく私を掌に乗せて鏡の前につれて行き、私たち両方の全身を一しょに映して見せるときなど、われながら微笑させられました。全くこの滑稽な比較には、私はなんだか自分の実際の身体が、ずっと小さく縮まってくるような気がしました。 私が一番癪にさわり、悩まされたのは、王妃のところの小人でした。 彼は四十フィートという小柄なグラムダルクリッチよりさらに国中で一等背が低いので、(実際、三十フィートないようでした)自分よりさらに小さなものを見ると、急に高慢になって、たとえば、私が王妃の次の間で貴族たちと話をしていると、彼はひどくふんぞり返って、私のテーブルのそばを通って行くのです。そして彼は、私の小さいことを、いつも一言二言いわねば気がすまないのでした。私は彼に向かって、「おい、兄弟、相撲をとってみようか。」と言ってやったり、口でなんとかやりこめて、そんなことで仇討ちをしてやるのでした。 ある日、食事のとき、この意地悪小僧は、何か私の言ったことに、かっと腹を立てると、王妃の椅子の上に跳び上がり、私の腰のあたりをつかんで、まるで見境もなく、いきなりクリームの入った銀の鉢の中にほうりこむと、そのまま一散に逃げ出しました。私はまっ逆さに落とされましたが、あのとき、もし泳げなかったら大へんでした。ちょうど、グラムダルクリッチは、そのとき、部屋の向こうの方に行っていましたし、王妃は驚きのあまり、私を助けることを忘れていました。私がしばらく鉢の中で泳ぎまわっていると、乳母さんが駈けつけて救い出してくれましたが、そのときはもうクリームをずいぶん飲んでいました。 私はさっそくベッドに寝かされました。まあ損害といったら、着物一着と下着二枚がすっかり駄目になったことぐらいでした。こびとはひどく棒で十は打たれ、鞭で二十は打たれ、罰として鉢の中のクリームを全部飲まされることになりました。そしてその後、こびとは王妃から愛想をつかされ、間もなく他の貴婦人にやってしまわれました、だからそれっきり、二度と彼の顔を見なくてすんだので、私はほっとしました。 私は臆病者だといって、王妃からよくからかわれました。 そして、王妃は、お前の国の者はみんなそんなに臆病なの、とよくお聞きになります。それには、ちょっと訳があるのです。この国では、夏になると、蠅が一ぱい出ます。ところが、その蠅というのが、雲雀ほどの大きさですし、このいやったらしい虫が、食事中も、ぶんぶん耳許で唸り続けるので私はちっとも落ち着けません。ときによると、食物の上にとまって、汚い汁や、卵を残してゆきます。パンに十は産み付け、肉に二十は産み付けるのです。 ところが、この国の人たちの目には、それが一向に見えないのですが、私の目には実によく見えるのです。ときどき、蠅は、私の鼻や額にとまって痛く刺したり、嫌な臭いを出します。
蠅が食事中に産み付ける卵のうち、より多いものを教えて下さい。
蠅が食事中に産み付ける卵のうち、より多いものは肉に産み付けた二十個です。
JCRRAG_014103
国語
むかし、むかし、丹後の国水の江の浦に、浦島太郎というりょうしがいました。 浦島太郎は、毎日つりざおをかついでは海へ出かけて、たいや、かつおなどのおさかなをつって、おとうさんおかあさんをやしなっていました。 ある日、浦島はいつものとおり海へ出て、一日おさかなをつって、帰ってきました。途中、子どもが五、六人往来にあつまって、がやがやいっていました。何かとおもって浦島がのぞいてみると、小さいかめの子を一ぴきつかまえて、棒でつついたり、石でたたいたり、さんざんにいじめているのです。浦島は見かねて、 「まあ、そんなかわいそうなことをするものではない。いい子だから」 と、とめましたが、子どもたちはきき入れようともしないで、 「なんだい。なんだい、かまうもんかい」 といいながら、またかめの子を、あおむけにひっくりかえして、足でけったり、砂のなかにうずめたりしました。浦島はますますかわいそうにおもって、 「じゃあ、おじさんがおあしをあげるから、そのかめの子を売っておくれ」 といいますと、こどもたちは、 「うんうん、おあしをくれるならやってもいい」 といって、手を出しました。そこで浦島はおあしをやってかめの子をもらいうけました。 子どもたちは、 「おじさん、ありがとう。また買っておくれよ」 と、わいわいいいながら、行ってしまいました。 そのあとで浦島は、こうらからそっと出したかめの首をやさしくなでてやって、 「やれやれ、あぶないところだった。さあもうお帰りお帰り」 といって、わざわざ、かめを海ばたまで持って行ってはなしてやりました。かめはさもうれしそうに、首や手足をうごかして、やがて、ぶくぶくあわをたてながら、水のなかにふかくしずんで行ってしまいました。 それから二、三日たって、浦島はまた舟にのって海へつりに出かけました。遠い沖のほうまでもこぎ出して、一生けんめいおさかなをつっていますと、ふとうしろのほうで 「浦島さん、浦島さん」 とよぶ声がしました。おやと思って振り返ってみますと、だれも人のかげは見えません。その代かわり、いつのまにか、一ぴきのかめが、舟のそばにきていました。
浦島太郎の家族の人数を教えてください。
浦島太郎の家族の人数は2で、「おとうさん」 「おかあさん」です。
JCRRAG_014104
国語
ところで、主人の親友の農夫が、このことを聞くと、ほんとかどうか、見にやって来ました。私はさっそく連れ出されて、テーブルの上に乗せられました。私は言いつけどおりに、歩いて見せたり、短剣を抜いたり、おさめたりして見せました。それから、お客に向かって、うやうやしく、おじぎをして、 「よくいらっしゃいました。御機嫌はいかがですか。」 と、可愛い乳母さんから教えられたとおりの言葉で言ってやりました。 その老人は年配で目がよく見えないので、私をよく見ようと眼鏡をかけました。そのとたん、老人の目が、二つの窓から射し込む満月のように見えました。私は腹をかかえて笑わずにはいられなくなりました。みんなも、私が笑う理由がわかると、私と一緒になって笑いだしました。すると、老人はムッとして顔色を変えました。 この老人は、けちんぼうだとの評判でしたが、やはりそうでした。そのため、私はとんだ目に会うことになりました。そこから35キロばかり、歩いたら一日かかる、馬でなら、30分はかかるだろう隣りの町の市日に、私をつれて行って、ひとつ見世物にするのがいい、と、彼は主人にすすめたのです。 主人とその男は、ときどき、私の方を指さして、長い間、ひそひそとささやき合っていました。私はそれを見て、これは何か悪いことを相談し合ってるな、と思いました。じっと気をつけていると、ときどき、もれて聞こえる二人の言葉は、なんだか私にもわかるような気がしました。 老人の話を聞いて主人は金を稼げるチャンスだとニヤニヤしていましたが、近くでそれを聞いていたグラムダルクリッチは苦い顔をして軽蔑したような表情を老人と主人に向けていました。 しかし、ほんとのことは、次の朝、グラムダルクリッチが私に話してくれたので、それで、すっかりわかったのでした。 私が見世物にされるということを、グラムダルクリッチは、母親から聞き出したのでした。彼女は私と別れることを、大へん悲しがり、私を胸に抱きしめて泣きだしました。 「見物人たちは、どんな乱暴なことをするかわかりません。あなたを押しつぶしてしまうかもしれないし、もしかすると、手を取って、あなたの手足を一本ぐらい折ってしまうかもわかりません。」 と、彼女は私のことを心配してくれるのでした。 「あなたは遠慮ぶかい、おとなしい、そして、気位の高い人です。それなのに、見世物なんかにされて、お金のために、卑しい連中の前でなぐさみにされるなんて、ほんとうに口惜しいことでしょう。お父さんもお母さんも、私にグリルドリッグをあげると言って約束したくせに、今になって、こんなことをするのです。去年も子牛を一匹あげると言っておきながら、肥えてくると、肉屋に売り払ってしまった、あれと同じようなことをしようとしてるのです。」 と、彼女は私のことを嘆くのでした。
私を見世物にするのがいいという老人の話を聞いた主人と、グラムダルクリッチの反応の違いを教えてください。
私を見世物にするのがいいという老人の話を聞いて、主人は金を稼げるチャンスだとニヤニヤしていました。 一方、近くでそれを聞いていたグラムダルクリッチは、苦い顔をして軽蔑したような表情を老人と主人に向けていました。
JCRRAG_014105
国語
帆村は自動車を操縦して、深夜の街道を全速力で走った。 航空隊についたときは、もう翌日の午前一時になっていた。門をくぐって、衛兵に来意をつげると、衛兵は山岸中尉から連絡されていると見え、すぐ案内してくれた。 「やあ、よく来てくれましたね」 山岸中尉は、いつもとはちがい、すこし青ざめた顔によろこびの色をうかべて、帆村を迎えた。中尉は、さっきから竜造寺兵曹長の行方不明事件で、心をいためていたらしい。 「いったいどうしたのですか」 「いや、まあ、部屋で話しましょう」 山岸中尉は廊下を先に立って案内し、隊付という名札のかかっている自室へ、帆村をみちびき入れた。 部屋の中は広くないが、寝台が一つ置いてあり、机が一つ、衣服箱が一つ、壁には軍刀がかかっていた。あとは椅子が三つ四つあるばかりで、すこぶる簡素で気持がよかった。 扉をたたく者があった。「おい」と、中尉が返事をすると、従兵がはいって来た。帆村にていねいに礼をしたうえで、机の上に菓子の袋と、土瓶と、湯呑茶碗とを置いた。 「もう用はない。寝てくれ」 中尉は従兵へ、やさしい瞳を送る。 従兵が出ていくと、この部屋には山岸中尉と帆村の二人きりとなった。 「いったいどうしたのですか」 と、帆村がもう一度同じことをいった。 「やあ、まったく困ってしまったんです。本日午前七時、竜造寺兵曹長は、成層圏機に乗ってここを出発しました。命令によると、兵曹長は高度二万五千メートルまで上昇することになっていました。なお余裕があれば三万メートルまでいってもよいことになっていました……」 成層圏のいちばん低いところは一万メートルである。それから上へ約四万五千メートル、つまり高さ五万五千メートルまでが成層圏とよばれるのだ。竜造寺兵曹長のめざしていったのはちょうどこの半分くらいの高さだった。 「飛行の間、地上とは定時連絡をしていました。私は地上の指揮をしていましたから、兵曹長からの無電はみんな聞いていました。午前十一時に、ついに二万五千メートルに達し、それから三万メートルをめざして、再び上昇をしていったのですが、飛行機の調子は非常によいといって喜んでいました。ところが、午前十一時四十分になって、とつぜん兵曹長との無電連絡がとまってしまいました」 山岸中尉の眉がぴくぴくとうごく。 「地上からいくら呼出しても、上では兵曹長が出てこないのです。上からの電波もまったく出ていません。無電に故障を生じたのかなと思いました」 「なるほど」 「ところが、それから十五分ほどたった午前十一時五十五分になって、こんどはとつぜん兵曹長からの無電です。それが非常に急いでいるようでして、こっちからの応答信号を受けようともせず、いきなり本文をうってきたのです。その文句がこれですが、まあ読んでみてください」 話を聞いているうちに、ぞくぞく身のけがよだつような気持になってきた帆村は、中尉から渡された受信紙の上に目をおとすと、それは鉛筆の走り書きで、片仮名がかいてあり、その横に漢字をあてて書きそえてあった。 “……高度二万八千メートルニ達セシトコロ、突然轟音トトモニハゲシキ震動ヲ受ケ、異状ニ突入セリ、噴射機関等ニマッタク異状ナキニモカカワラズ、速度計ハ零ヲ指シ、舵器マタキカズ、ソレニ続キ高度計ノ指針ハ急ニ自然ニ下リテ、ホトンド零ニ戻ル。気温ハ上昇シツツアリ、タダイマ外部ノ気圧計急ニ上昇ヲハジメ、早クモ五百五……” 五百五というところで、文句は切れていた。 帆村はふしぎそうな顔で、山岸中尉を見て、 「この続きはどうしたのですか」 「その続きはないのです。無電はそこで切れてしまったのです」 「ははあ、そうですか」 「どう感じました。ふしぎな報告文でしょう」 「ええ、まったくふしぎですね」 帆村は、竜造寺兵曹長の無電を、もう一度読みかえしてみた。それからまた一度、もう一度と、四五へん読みかえした。読めば読むほどふしぎだらけである。山岸中尉は、帆村が何か考えこんでいるのを見てとって、そのじゃまをしないように、心痛をしのんで黙っている。 「……速度計ハ零ヲ指シ、舵器マタキカズ、ソレニ続キ高度計ノ指針ハ急ニ自然ニ下リテ、ホトンド零ニ戻ル……まるで地上と同じような状態だなあ」 と、帆村はひとりごとをいい、また次を読みつづける。 「……気温ハ上昇シツツアリ、タダイマ外部ノ気圧……五百五、……気圧五百五十ミリ程度というと高度三千メートルに近い気圧だ。三万メートルに近い気圧なら、せいぜい十ミリというところだが、それが約五百五十ミリを指すとはまったく信じられない……」 帆村の目は、らんらんと輝き、まるで山岸中尉がそばにいるのに気がつかないように見えた。
竜造寺兵曹長は、成層圏飛行中にどのようなことに遭遇したか。
竜造寺兵曹長は、成層圏飛行中に、外部の気圧が急激に上昇するという異常事態に遭遇した。
JCRRAG_014106
国語
「伊作の足は、なんて早いんだ」 と多助は太郎右衛門に言いました。 「ああいう男は、坂の下で一服やってる頃だろうな。」 と太郎右衛門は笑いながら答えました。 多助と太郎右衛門が、峠を越して平原の見えるところまで来た時、坂の下の方で伊作が一生懸命に二人の方を見て、手を振っているのが、見えました。 「どうしたんだ? 伊作が、俺を呼んでるな。」 と多助が言いました。太郎右衛門も顔をしかめて坂の下を見下しました。 「早く来い、早く来い……面白いものが落っこちてるぞ!」 という伊作の声が聞こえて来ました。 「面白いものが落っこってるよ。」 と多助は、笑いながら言うと、太郎右衛門も大きな口を開けて笑いました。 「伊作の拾うものなんて、ろくなものじゃないだろうな!」 と太郎右衛門はつけ足して、多助と一緒に少し急いで坂を下りて行きました。 坂の下の方では、伊作はなんとももどかしそうに、二人の下りて来るのを待っていました。 「だまされたと思って、急いでくれよ!」 と多助は、炭俵をがさがさ騒がせて、走って行きました。 太郎右衛門は、もともと速く走れない男でしたから、多助に遅れて、一人で坂を下りて行きました。 太郎右衛門が伊作のいたところへ着いた時には、伊作と多助は大事そうにして、何か持ち上げて見たり触って見たりしていました。 「何が落ちてるんだって?」 太郎右衛門はまぬけな顔をして、二人の立っている間へ顔をつっこんでやりました。 「見ろ、こんなのが落ちてるんだって」 と伊作は少し身体をよけて、太郎右衛門にも見せました。 「おお! これは、奇妙な話じゃないか!」 と太郎右衛門は叫びました。 今三人の前に生後三か月ほどの一人の赤ちゃんが、美しい布きれに包まれて捨てられているのでした。 伊作の話では、伊作が最初に見つけた時は赤ちゃんはよく眠っていたということでした。 「一体何処どこの子供だろうな? いい顔つきしてるな」 多助は赤児の顔を見て、 「それだよ。いい着物を着てるしいいところの子供だろうよ。 だから、うっかり触らないほうがいいぞ。関わり合いになって牢屋にでも、ぶち込まれたら大変だ。触らぬ神に祟りなしって言うしよ」 と、つけたして言いました。 「そうだけどさ、不憫じゃないか?獣にでも見つかったら食われてしまうじゃないか?」 と、気の弱い太郎右衛門は言いました。 「子供も不憫には不憫だけどさ、子供にはもったいないような着物を着てるじゃないか?」 とふだんから少し欲の深い伊作は、赤ちゃんを包んでいる美しい布きれをほどいて見ました。 すると、赤ちゃんの腹のところに、三角に括り付けた胴巻が巻きつけてありました。 伊作は赤ちゃんが泣くのも耳に入らないと言うように、その財布を取り上げて、片方の端を持って振り回して見るとその中から小判がどっさり出て来ました。それを見て、多助も太郎右衛門もびっくりしてしまいました。 「なんてたまげた話しだ!」と多助は青い顔をして太郎右衛門を見ると、太郎右衛門は今までこんな大金を見たことがないので、がたがたふるえていました。 伊作の提案でとにかく三人はその赤児を拾うことにきめました。 「この金は、とにかくおれが預かることにするわ。」 と伊作はさっさと自分の腹へ巻きつけようとしたので、それを見た多助は大変に怒って、伊作とけんかを始めました。 そこで伊作は仕方がないので、小判を十枚だけ多助に渡しました。そして太郎右衛門には五枚だけ渡して、 「お前に子供がいなんだから、この子供を育てたらいいんじゃないか。」 と言いました。 太郎右衛門は、その時伊作に向かって、 「おれは子供が不憫だからつれて行くが、金が欲しくて子供をつれて行くわけじゃない」 と言ってどうしても金を受け取りませんでした。 多助は、もし太郎右衛門が受け取らなければその五枚の小判も伊作に取られてしまうのを知っているので、是非受け取るようにすすめたけれども受け取りませんでした。 伊作は太郎右衛門がどうしても小判を受け取れないので、その内の二枚を多助に渡し、残りの三枚を元の胴巻へ入れて、腰に巻きつけてしまいました。 多助も二枚余計にもらったので、まんざら悪い気持もしませんでした。 三人は城下へ行くのをやめて、その日は自分の村へ帰ってしまいました。
赤ちゃんのお腹に括り付けた胴巻きを振り回したらどうなりましたか。
小判がどっさり出て来た。
JCRRAG_014107
国語
ふしぎな謎の言葉「火星兵団」! 蟻田博士の放送によって「火星兵団」のことは、日本全国津々浦々にまで広まった。そうして、その時ラジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。 蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、今年十三歳になる友永千二であった。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親千蔵の手伝いをしている。彼の父親の手伝いというのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。 「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」 千二は、自分でこしらえた受信機の前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入れをしている父親に呼びかけた。 「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」 「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」 「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」 「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」 「ああ、そうかそうか」 「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」 「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」 千蔵は大きく首を振るのだった。 「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。 「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」 「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」 「だって、だって」 と、千二は口ごもりながら、 「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」 「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」 「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉があるからには、こっちでも大いに警戒して、早く『地球兵団』ぐらいこしらえておかなければ、いざという時に間に合わないって」 「ふふん、まるで雲をつかむような話じゃ。寝言を聞いているといった方が、よいかも知れん。お前も、あんまりそのようなへんなものに、こっちゃならないぞ。きっと後悔するにきまっている。この前お前は、ロケットとかいうものを作りそこなって、大火傷をしたではないか。いいかね、間違っても、そのカセイなんとかいうものなんぞに、こっちゃならないぞ」 「ええ、大丈夫。ロケットと『火星兵団』とはいっしょに出来ないよ。『火星兵団』を作れといっても、作れるわけのものじゃないし、ねえおとうさん、心配しないでいいよ」 「そうかい。そんならいいが……」 と、父親も、やっと安心の色を見せた。 だが、世の中は一寸先は闇である。思いがけないどんなことが、一寸先に、時間の来るのを待っているかも知れない。千二も父親も、まさかその夜のうちに、もう一度「火星兵団」のことを、深刻に思い出さねばならぬような大珍事に会おうとは、気がつかない。 その夜ふけに、千二は釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。湖には、たいへんおいしい鰻がいる。千二は、その鰻をとるために出かけたのだった。 出かけるときに、柱時計は、もう十二時をまわっていた。 外は、まっくらだった。星一つ見えない闇夜だった。 だが、風は全くない。鰻をとるのには、もってこいの天候だった。 千二は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。 「なんという暗い晩だろう。鼻をつままれてもわからない闇夜というのは、今夜のことだ」 でも、湖に近づくと、どういうわけか、水面がぼんやりと白く光ってみえた。 「こんな暗い晩には、きっとうんと獲物があるぞ。『うわーっ、千二、こりゃえらく捕ってきたな』と、お父さんが、えびすさまのように、にこにこして桶の中をのぞきこむだろう。今夜はひとつ、うんとがんばってみよう」 千二は、幼いときに母親に死にわかれ、今は親一人子一人の間柄だった。だから、父親千蔵は、天にも地にもかけがえのないただひとりの親だった。千歳は、千二のためには父親であるとともに、母親の役目までつとめて、彼をこれまでに育てあげたのだ。なんというたいへんな苦労であったろうか。しかも父親千蔵は、そんなことを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、何をしている父親に呼びかけたか。
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、夜業に網の手入をしている父親に呼びかけた。
JCRRAG_014108
国語
また実際、王妃がよく私を掌に乗せて鏡の前につれて行き、私たち両方の全身を一しょに映して見せるときなど、われながら微笑させられました。全くこの滑稽な比較には、私はなんだか自分の実際の身体が、ずっと小さく縮まってくるような気がしました。 私が一番癪にさわり、悩まされたのは、王妃のところの小人でした。 彼は四十フィートという小柄なグラムダルクリッチよりさらに国中で一等背が低いので、(実際、三十フィートないようでした)自分よりさらに小さなものを見ると、急に高慢になって、たとえば、私が王妃の次の間で貴族たちと話をしていると、彼はひどくふんぞり返って、私のテーブルのそばを通って行くのです。そして彼は、私の小さいことを、いつも一言二言いわねば気がすまないのでした。私は彼に向かって、「おい、兄弟、相撲をとってみようか。」と言ってやったり、口でなんとかやりこめて、そんなことで仇討ちをしてやるのでした。 ある日、食事のとき、この意地悪小僧は、何か私の言ったことに、かっと腹を立てると、王妃の椅子の上に跳び上がり、私の腰のあたりをつかんで、まるで見境もなく、いきなりクリームの入った銀の鉢の中にほうりこむと、そのまま一散に逃げ出しました。私はまっ逆さに落とされましたが、あのとき、もし泳げなかったら大へんでした。ちょうど、グラムダルクリッチは、そのとき、部屋の向こうの方に行っていましたし、王妃は驚きのあまり、私を助けることを忘れていました。私がしばらく鉢の中で泳ぎまわっていると、乳母さんが駈けつけて救い出してくれましたが、そのときはもうクリームをずいぶん飲んでいました。 私はさっそくベッドに寝かされました。まあ損害といったら、着物一着と下着二枚がすっかり駄目になったことぐらいでした。こびとはひどく棒で十は打たれ、鞭で二十は打たれ、罰として鉢の中のクリームを全部飲まされることになりました。そしてその後、こびとは王妃から愛想をつかされ、間もなく他の貴婦人にやってしまわれました、だからそれっきり、二度と彼の顔を見なくてすんだので、私はほっとしました。 私は臆病者だといって、王妃からよくからかわれました。 そして、王妃は、お前の国の者はみんなそんなに臆病なの、とよくお聞きになります。それには、ちょっと訳があるのです。この国では、夏になると、蠅が一ぱい出ます。ところが、その蠅というのが、雲雀ほどの大きさですし、このいやったらしい虫が、食事中も、ぶんぶん耳許で唸り続けるので私はちっとも落ち着けません。ときによると、食物の上にとまって、汚い汁や、卵を残してゆきます。パンに十は産み付け、肉に二十は産み付けるのです。 ところが、この国の人たちの目には、それが一向に見えないのですが、私の目には実によく見えるのです。ときどき、蠅は、私の鼻や額にとまって痛く刺したり、嫌な臭いを出します。
蠅が食事中に産み付ける卵のうち、より多いものを教えて下さい。
蠅が食事中に産み付ける卵のうち、より多いものは肉に産み付けた二十個です。
JCRRAG_014109
国語
まもなく、かめはまた出てきて、 「さあ、こちらへ」 と、浦島を御殿のなかへ案内しました。たいや、ひらめやかれいや、おさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、はいって行きますと、乙姫さまがおおぜいの腰元をつれて、お迎えに出てきました。やがて乙姫さまについて、浦島はずんずん奥へとおって行きました。めのうの天井にさんごの柱、廊下にはるりがしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽の音がきこえてきました。 やがて、水晶の壁に、いろいろの宝石をちりばめた大広間にとおりますと、 「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日はかめのいのちをお助けくださいまして、まことにありがとうございます。なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」 と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。やがて、たいをかしらに、かつおだの、ふぐだの、えびだの、たこだの、大小いろいろのおさかなが、めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛りがはじまりました。きれいな腰元たちは、歌をうたったり踊りをおどったりしました。浦島はただもう夢のなかで夢を見ているようでした。 ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内で、御殿のなかをのこらず見せてもらいました。どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますからそのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。ひととおり見てしまうと、乙姫さまは、 「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」 といって、まず、東の戸をおあけになりました。そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱れていました。あおあおとしたやなぎの枝が風になびいて、そのなかで小鳥が鳴いたり、ちょうちょうが舞ったりしていました。 次に、南の戸をおあけになりました。そこは夏のけしきで、垣根には白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉のなかでは、せみやひぐらしがないていました。お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶の珠のように露がたまっていました。お池のふちには、きれいなさざ波が立って、おしどりや鴨がうかんでいました。 次に西の戸をおあけになりました。そこは秋のけしきで花壇のなかには、黄ぎく、白ぎくが咲き乱れて、ぷんといいかおりを立てていました。むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥に、白い霧がたちこめていて、しかのなく声がかなしくきこえました。 いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。そこは冬のけしきで、野には散りのこった枯葉の上に、霜がきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降り積もったなかから、柴をたくけむりがほそぼそとあがっていました。 浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔った人のようになって、何もかもわすれてしまいました。
浦島を御殿のなかへ案内している時に、ものめずらしそうにみているおさかなの数を教えてください。
浦島を御殿のなかへ案内している時に、ものめずらしそうにみているおさかなの数は3で、 「たい」 「ひらめ」 「かれい」 です。
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国語
私は毎日、主人にこき使われ、忙しく動きまわらされたので、二週間もすると、とうとう身体の調子が変になりました。主人は私のおかげで、もうければもうけるほど、ますます欲ばりになりました。 主人は毎晩もうけたお金を数えており、少ない日でも金貨十枚、多い日では金貨三十枚も稼いでいました。 三週間もすると私はまるで、食事も欲しくなくなり、骸骨のように痩せ細りました。 グラムダルクリッチは私のようすを泣きそうな顔で毎日心配そうに見ています。 主人はそんな私を見ると、これは死んでしまうにちがいない、と考え、これが生きているうちに、できるだけもうけておこう、と決心したようです。 ちょうど、彼がこんなことを考えているところへ、宮廷から一人の使者がやって来ました。王妃と女官たちのお慰みにするのだから、すぐ私をつれて来い、という命令なのです。これは、女官たちの中にもう私を見物したものがいて、私の振舞いの美しいこと、賢いこと、いろいろ珍しい話を申し上げていたからです。 また別の女官は私のしぐさの面白いこと、動きの楽しいことをこれまた王妃に申し上げていたのでしょう。 さて宮廷に私が引き出されると、王妃や女官たちは、私の物腰や態度を見て、大へん面白がりました。私はさっそくひざまずいて、王妃の御足にキスすることをお願いしました。しかし、慈悲深い王妃は、手の小指を差し出しました。私はテーブルの上に置かれていたので、その小指を両腕でかかえて、その先にうやうやしく唇をあてました。 王妃はまず、私の国や旅行について、いろいろ質問されました。私はできるだけ簡単に、はっきりとお答えしました。それから王妃は、宮廷に来て住む気はないか、と聞かれました。そこで、私はテーブルに頭をすりつけて、 「只今は主人の奴隷でございますが、もし、お許しが出るのでしたら、私は陛下に一身を捧げてお仕えしたいと存じます。」 と答えました。 すると、王妃は主人に向かって、これをいい値段で売ってはくれないか、とお尋ねになりました。主人の方では、私がとてもあと一月とは生きていまいと思っていたところですから、 「それでは、お譲りいたしますが、金貨千枚頂戴いたしたいと存じます。」 と言いました。 王妃はその場で、すぐ金貨を千枚渡しました。そのとき、私は王妃に次のように、お願いしました。 「これから陛下にお仕えするにつきまして、お願いしたいことがございます。それは、今日まで私のことをよく気をつけて面倒をみてくれていたグラムダルクリッチのことです。あの人もひとつ宮廷でお召し使いになり、これからもずっと私の乳母と教師にさせていただけないでしょうか。」 王妃はこの私の願いをすぐ許してくれました。が、父親の方もこれはわけなく承知しました。自分の娘が宮廷に召し出されることは、彼には願ってもない喜びでした。娘の方も、うれしさは包みきれないようでした。そこで旧主人は私に別れを告げ、 「よい御奉公をするのだよ。」 と言いながら出て行きました。
私が主人にこき使われた結果、食事も欲しくなくなり、骸骨のように痩せ細ったようすを見たグラムダルクリッチと主人の反応の違いを教えてください。
グラムダルクリッチは私のやせ細ったようすを泣きそうな顔で毎日心配そうに見ていました。 一方、主人は弱り切った私を見ると、これは死んでしまうにちがいない、と考えて、これが生きているうちにできるだけもうけておこう、と決心したようです。
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国語
山岸中尉は、その夜を帆村と語りあかしてつよい信念を得たようであった。 すぐにも彼は、竜造寺兵曹長を救いだしに行きたかったけれども、帆村が、「兵曹長の一命はとうぶん大丈夫ですよ」というので、やっぱり十分に準備をしてからでかけることにした。 山岸中尉は、翌日司令にいっさいをぶちまけて、宇宙戦研究班の編成方をねがった。 司令は驚かれた。しかし司令は、がんらい頭の明晰な人であったので、山岸中尉の話の中におごそかな事実のあるのを見てとり、中尉の願いをききいれた。司令は、上の人と相談を重ね、その結果、早くも翌々日には、臨時宇宙戦研究班というものが、この航空隊の中にできた。そして班長には、有名なる戦闘機乗りの大勇士である左倉少佐が就任した。 班には班長以外に、四名の士官がつとめることになった。もちろん山岸中尉もそのひとりであった。 またその外に、班員として若干名が採用されることとなり、帆村荘六もこれに加わった。それから意外にも、熱血児の児玉法学士も志願して、その一員にしてもらった。 下士官が十名、兵員が八十名。 山岸中尉の弟の山岸少年と、その友達の川上少年の二人が、これも志願して班員となった。二人とも電信が打てるので、通信を担当することとなった。 この研究班の設立は、各方面へいろいろの反響を起した。 国内では、これを待っていましたとばかりに歓迎する者もあったが、多くはこの奇妙な部門が、なんのことだかわからず、けんとうちがいのことをのべる者が少くなかった。 一部にはつよい反対意見もあった。まだ敵アメリカを屈服させておらず、今もなおときどきアメリカ空軍が内地爆撃をやる有様である。そういう折から対アメリカ戦の結末をつけずに、宇宙戦の準備にかかるとは何事だというのであった。 しかしわが大日本帝国が世界の安全をあずかる重大使命を有するかぎり、すすんで宇宙戦の準備をしなければならぬ責任がある。だからこの研究班の編成は、時局がらたいへん必要なものである。そういう正しい意見がだんだん国内に強くなっていった。 国外では、この研究班の編成が、国内よりもずっと強くひびいたようである。各国は争って新聞にそのことを報道し、ラジオによって解説をこころみた。そして日本なればこそ、この困難なことをやりぬくであろうと信頼をよせた。 盟邦諸国は、それぞれ全面的に、そのことについて日本に力をあわせ、迫り来ったわれらの大危難を退けたいものだと、たいへん、もののわかったことをのべた。 こうして臨時宇宙戦研究班の編成は、たちまち世界中に大きな波紋をなげたのであった。 その間にも、山岸中尉と帆村荘六とは、この研究班を最初にいいだした関係から、非常にいそがしい毎日を送った。 はじめの一週間は、夢のように過ぎた。しかしその間に研究班の形はできた。それにつづいて次の一週間、二人はあっちこっちと走りまわった。その結果、二人は宇宙偵察隊をつくることに成功した。 宇宙偵察隊だ。 五台の噴射艇が揃った。これに乗って成層圏へ飛びあがり、場合によってはさらに高空へ飛び、偵察をやろうというのであった。 そしてこの偵察隊がまっ先にやらねばならぬことは、行方不明の竜造寺兵曹長の安否をしらべることだった。 班長左倉少佐が、ある日、明かるい顔をしてもどってきた。それをまっ先に見つけたのは山岸中尉だった。 「班長。いいお土産をお持ち下さったようですね」 「おう」 少佐はにっこり笑って、帽子と短剣を壁にかけながら、明かるい返事をした。 「まあそこへ掛けろ。いや、望月大尉も呼んできてくれ。帆村君に児玉君もな」 望月大尉は、やはりこの班員で、先任将校であった。これも戦闘機乗りの勇士で、左の頬に弾丸のあとがついている。 山岸中尉は、さっそくその三人を呼んで来た。一同は、それと感づいて、みんな、にこにこしている。 班長は集って来た一同をずらりと見渡し、 「みんなに報告する。噴射艇二隻で、成層圏偵察の許可が下りたぞ」 それを聞くと、一同の顔はぱっと輝く。 「彗星一号艇には、望月大尉と児玉班員と、川上少年電信兵が乗組む。二号艇には山岸中尉と、帆村班員と、山岸少年電信兵とが乗組む。目的はもちろん竜造寺機の調査にある。指揮は望月大尉がとる」 班員は唇を深く噛む。 「出発は明後日の〇五〇〇だ。すぐ用意にかかれ」この報告と内命に、一同は躍りあがらんばかりによろこんだ。 ついに研究班の活動が始ったのだ。彗星一号艇と二号艇とに乗って、怪しい空間にとびこむのだ。彗星号という噴射艇は、これまで秘密にせられていた成層圏飛行機――というよりも、成層圏以上の高空にまでとび出せる噴射艇であって、むしろ宇宙艇といった方がよいかもしれない、これは偵察に便利なように作られてあったが、また同時に戦闘もできる。その外、万一の場合も考えて、特殊な離脱装置も考えてある、なかなかすぐれたロケット機だ。 彗星号の形は、胴の両側に翼があり、その翼にはそれぞれ大きな噴射筒がついている。低空飛行の場合はこの形で飛ぶが、高度があがってくると、両翼は噴射筒とともにぐっと胴体の方によってきて、ちょうど爆弾のような形になるのであった。形を見ただけで、この彗星号がどんなにすごい性能をもった噴射艇であるかが察しられる。 出発は明後日の午前五時。 あと一日とちょっとしか時間がない。研究班は総員でその準備にとりかかった。噴射艇の出発地点というのが、○○航空隊のある村から、山道を五里ほどはいったところで、鬼影山と、青葉嶽との間にある、忍谷という山峡であった。
臨時宇宙戦研究班の設立に対して、国内ではどのような反応が見られたか。
臨時宇宙戦研究班の設立に対して、国内では歓迎する者もいたが、その目的が理解されず見当違いの意見が出たり、アメリカとの戦争終結を優先すべきだという反対意見も存在した。
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国語
二人はその晩、拾った赤ちゃんをかわりばんこに抱いて寝ました。 赤ちゃんの柔かい肌に触れると、二人ともなんとも言えない快感を感じました。 赤ちゃんが二度ほど泣きましたが、二人はそのたびに起き上ってあやしてやったり「おしっこ」をさせてやったりしたので、朝になって、大変よく眠りました。 奥さんが早く起きて、雨戸を明けると、そこから明るい太陽が遠慮なくさし込んで来ました。 奥さんは、急に自分が偉い人間にでもなったような誇らしい気持ちがするので、不思議に思った位でした。 太郎右衛門も太郎右衛門で、自分に抱かれて眠っている子供の顔を見ていると、その子がほんとうに自分の生んだ子供のような気がするのでした。 「見ろ、この子はなんていい顔してるんだろうな!」 太郎右衛門は、朝食の準備をしている奥さんを呼んで子供の顔を見せました。 「ほんとうだね、いい顔してるよ。こんな子供に百姓させられないねえ!」 と奥さんは、子供の寝顔を見て、思いにふけながら言うのでした。 太郎右衛門が子供を拾ったという噂が村中に広がりました。 夕方になると村の奥さんたちや子供たちがぞろぞろそろって噂の捨て子を見に来ました。 そして、あまりにも美しい赤ちゃんなのでみんな驚いてしまいました。 そして、「太郎右衛門さんのところは、なんて幸せなんだろうな。」と口々に言いながら帰りました。 これまで太郎右衛門の家はただ正直というだけで、村では一番貧乏で、一番馬鹿にされて暮らした家でしたが、子供を拾ってからは大変にぎやかな幸福な家になりました。 しかし太郎右衛門の家には田畑もないのに、子供が一人ふえたので、貧乏だったのにますます貧乏になりました。 しかし太郎右衛門は一度も不平を言ったことがありません。 田を耕している時でも、山で炭を焼いている時でも、太郎右衛門は、子供のことを思い出すと、愉快で愉快でたまりませんでした。 「早く仕事を終えて子供の顔を見たいもんだ。」と心の中で思いながら仕事をしていました。 子供の名前は朝に拾ったので、朝太郎と名付けました。 その朝太郎も、もう四歳になりました。 顔立ちこそ美しいが、始終田畑や山へつれて行くので、肌が焼けて真黒になって、百姓の子供として恥ずかしくないような顔になってしまいました。 もちろん着る物も、百姓の子供の着るようなものを着せていたので、ほんとに太郎右衛門夫婦の子供だと言っても、誰も不思議に思うものがない位でした。 話は変わりますが、あの太郎右衛門と一緒に子供を見つけた伊作と多助はどうしたでしょうか? 伊作と多助はその後、だんだん仲が悪くなって、いつでも喧嘩ばかりしていました。 伊作はある年の夏、橋の畔に小さな居酒屋を作りましたが、村には一軒も酒屋がなかったので、この居酒屋がとても繁盛してだんだん儲かって行きました。 伊作は今では田を耕したり、炭を焼いたりしなくても、立派に食べて行けるようになりました。 多助は、村のはずれに小さな水車小屋を持っていましたが、毎日伊作の店に寄っては酒を飲んだり、干魚を食べたりして、全く代金を払わないので、それが原因になって二人はいつでも喧嘩をしました。 二人は喧嘩をしたかと思うと仲直りをし、仲直りをしたかと思うと、また喧嘩をしました。 村の人たちは、どうしてあんなに仲のよかった伊作と多助が、こんな喧嘩をするようになったのか誰も知りませんでした。
村の人たちはなぜ「太郎右衛門のところはなんて幸せなんだ」といったのか。
太郎右衛門は子供を拾ってからは大変にぎやかで幸福な家になったからです。
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国語
ふしぎな謎の言葉「火星兵団」! 蟻田博士の放送によって「火星兵団」のことは、日本全国津々浦々にまで広まった。そうして、その時ラジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。 蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、今年十三歳になる友永千二であった。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親千蔵の手伝いをしている。彼の父親の手伝いというのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。 「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」 千二は、自分でこしらえた受信機の前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入れをしている父親に呼びかけた。 「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」 「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」 「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」 「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」 「ああ、そうかそうか」 「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」 「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」 千蔵は大きく首を振るのだった。 「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。 「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」 「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」 「だって、だって」 と、千二は口ごもりながら、 「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」 「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」 「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉があるからには、こっちでも大いに警戒して、早く『地球兵団』ぐらいこしらえておかなければ、いざという時に間に合わないって」 「ふふん、まるで雲をつかむような話じゃ。寝言を聞いているといった方が、よいかも知れん。お前も、あんまりそのようなへんなものに、こっちゃならないぞ。きっと後悔するにきまっている。この前お前は、ロケットとかいうものを作りそこなって、大火傷をしたではないか。いいかね、間違っても、そのカセイなんとかいうものなんぞに、こっちゃならないぞ」 「ええ、大丈夫。ロケットと『火星兵団』とはいっしょに出来ないよ。『火星兵団』を作れといっても、作れるわけのものじゃないし、ねえおとうさん、心配しないでいいよ」 「そうかい。そんならいいが……」 と、父親も、やっと安心の色を見せた。 だが、世の中は一寸先は闇である。思いがけないどんなことが、一寸先に、時間の来るのを待っているかも知れない。千二も父親も、まさかその夜のうちに、もう一度「火星兵団」のことを、深刻に思い出さねばならぬような大珍事に会おうとは、気がつかない。 その夜ふけに、千二は釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。湖には、たいへんおいしい鰻がいる。千二は、その鰻をとるために出かけたのだった。 出かけるときに、柱時計は、もう十二時をまわっていた。 外は、まっくらだった。星一つ見えない闇夜だった。 だが、風は全くない。鰻をとるのには、もってこいの天候だった。 千二は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。 「なんという暗い晩だろう。鼻をつままれてもわからない闇夜というのは、今夜のことだ」 でも、湖に近づくと、どういうわけか、水面がぼんやりと白く光ってみえた。 「こんな暗い晩には、きっとうんと獲物があるぞ。『うわーっ、千二、こりゃえらく捕ってきたな』と、お父さんが、えびすさまのように、にこにこして桶の中をのぞきこむだろう。今夜はひとつ、うんとがんばってみよう」 千二は、幼いときに母親に死にわかれ、今は親一人子一人の間柄だった。だから、父親千蔵は、天にも地にもかけがえのないただひとりの親だった。千歳は、千二のためには父親であるとともに、母親の役目までつとめて、彼をこれまでに育てあげたのだ。なんというたいへんな苦労であったろうか。しかも父親千蔵は、そんなことを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、夜ふけに何を手にして家を出たか。
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。
JCRRAG_014114
国語
彼らは朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビクビクしています。夜も、よく眠れないし、この世の楽しみを味おうともしないのです。朝、人に会って、第一にする挨拶は、 「太陽の具合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変わりはございませんか。」 「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」 と、こんなことを言い合うのです。それはちょうど、子供が幽霊やお化けの話が怖くて眠れないくせに聞きたがるような気持でした。 私は一月もたつと、この国の言葉がかなりうまくなりました。国王の前に出ても、質問は大概答えることができました。陛下は、私の見た国々の法律、政治、風俗などのことは、少しも聞きたがりません。その質問といえば、数学のことばかりでした。私が申し上げる説明を、ときどき、叩き役の助けをかりて聞かれながら、いかにも、つまんなそうな顔つきでいられます。 私は、この島のいろいろ珍しいものを見せてもらいたいと、陛下にお願いしました。さっそく、お許しが出て、私の先生がいっしょに行ってくれることになりました。私はこの島のさまざまな運動が何の原因によるものなのか、それが知りたかったのです。 この飛島は、直径約四マイル半の真円い島です。面積は、一万エーカー、島の厚さは、三百ヤードあります。島の一番底は、滑らかな石の板になっていて、その上に、鉱物の層があり、そのまた上に、土がかぶさっています。 島の中心には、直径五十ヤードほどの裂け目が一つあります。そこから、天文学者たちが、洞穴へおりて行きます。 その洞穴の中には、二十個のランプが、いつもともっています。 ここでも歪んでいるのか、右側に十三個、左側に七個のランプが置かれていました。 そこには、二十個の望遠鏡や、二個の天体観測器や、そのほか、天文学の器械が備えてあります。
洞穴の中にある天文学の器械のうち、より数が多いものを教えてください。
洞穴の中にある天文学の器械のうち、より数が多いものは望遠鏡で二十個です。
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国語
まもなく、かめはまた出てきて、 「さあ、こちらへ」 と、浦島を御殿のなかへ案内しました。たいや、ひらめやかれいや、おさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、はいって行きますと、乙姫さまがおおぜいの腰元をつれて、お迎えに出てきました。やがて乙姫さまについて、浦島はずんずん奥へとおって行きました。めのうの天井にさんごの柱、廊下にはるりがしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽の音がきこえてきました。 やがて、水晶の壁に、いろいろの宝石をちりばめた大広間にとおりますと、 「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日はかめのいのちをお助けくださいまして、まことにありがとうございます。なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」 と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。やがて、たいをかしらに、かつおだの、ふぐだの、えびだの、たこだの、大小いろいろのおさかなが、めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛りがはじまりました。きれいな腰元たちは、歌をうたったり踊りをおどったりしました。浦島はただもう夢のなかで夢を見ているようでした。 ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内で、御殿のなかをのこらず見せてもらいました。どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますからそのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。ひととおり見てしまうと、乙姫さまは、 「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」 といって、まず、東の戸をおあけになりました。そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱れていました。あおあおとしたやなぎの枝が風になびいて、そのなかで小鳥が鳴いたり、ちょうちょうが舞ったりしていました。 次に、南の戸をおあけになりました。そこは夏のけしきで、垣根には白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉のなかでは、せみやひぐらしがないていました。お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶の珠のように露がたまっていました。お池のふちには、きれいなさざ波が立って、おしどりや鴨がうかんでいました。 次に西の戸をおあけになりました。そこは秋のけしきで花壇のなかには、黄ぎく、白ぎくが咲き乱れて、ぷんといいかおりを立てていました。むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥に、白い霧がたちこめていて、しかのなく声がかなしくきこえました。 いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。そこは冬のけしきで、野には散りのこった枯葉の上に、霜がきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降り積もったなかから、柴をたくけむりがほそぼそとあがっていました。 浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔った人のようになって、何もかもわすれてしまいました。
東の戸を開けた時にいた生き物の種類の数を教えてください。
東の戸を開けた時にいた生き物の種類の数は2で、 「小鳥」、「ちょうちょう」です。
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私は毎日、主人にこき使われ、忙しく動きまわらされたので、二週間もすると、とうとう身体の調子が変になりました。主人は私のおかげで、もうければもうけるほど、ますます欲ばりになりました。 主人は毎晩もうけたお金を数えており、少ない日でも金貨十枚、多い日では金貨三十枚も稼いでいました。 三週間もすると私はまるで、食事も欲しくなくなり、骸骨のように痩せ細りました。 グラムダルクリッチは私のようすを泣きそうな顔で毎日心配そうに見ています。 主人はそんな私を見ると、これは死んでしまうにちがいない、と考え、これが生きているうちに、できるだけもうけておこう、と決心したようです。 ちょうど、彼がこんなことを考えているところへ、宮廷から一人の使者がやって来ました。王妃と女官たちのお慰みにするのだから、すぐ私をつれて来い、という命令なのです。これは、女官たちの中にもう私を見物したものがいて、私の振舞いの美しいこと、賢いこと、いろいろ珍しい話を申し上げていたからです。 また別の女官は私のしぐさの面白いこと、動きの楽しいことをこれまた王妃に申し上げていたのでしょう。 さて宮廷に私が引き出されると、王妃や女官たちは、私の物腰や態度を見て、大へん面白がりました。私はさっそくひざまずいて、王妃の御足にキスすることをお願いしました。しかし、慈悲深い王妃は、手の小指を差し出しました。私はテーブルの上に置かれていたので、その小指を両腕でかかえて、その先にうやうやしく唇をあてました。 王妃はまず、私の国や旅行について、いろいろ質問されました。私はできるだけ簡単に、はっきりとお答えしました。それから王妃は、宮廷に来て住む気はないか、と聞かれました。そこで、私はテーブルに頭をすりつけて、 「只今は主人の奴隷でございますが、もし、お許しが出るのでしたら、私は陛下に一身を捧げてお仕えしたいと存じます。」 と答えました。 すると、王妃は主人に向かって、これをいい値段で売ってはくれないか、とお尋ねになりました。主人の方では、私がとてもあと一月とは生きていまいと思っていたところですから、 「それでは、お譲りいたしますが、金貨千枚頂戴いたしたいと存じます。」 と言いました。 王妃はその場で、すぐ金貨を千枚渡しました。そのとき、私は王妃に次のように、お願いしました。 「これから陛下にお仕えするにつきまして、お願いしたいことがございます。それは、今日まで私のことをよく気をつけて面倒をみてくれていたグラムダルクリッチのことです。あの人もひとつ宮廷でお召し使いになり、これからもずっと私の乳母と教師にさせていただけないでしょうか。」 王妃はこの私の願いをすぐ許してくれました。が、父親の方もこれはわけなく承知しました。自分の娘が宮廷に召し出されることは、彼には願ってもない喜びでした。娘の方も、うれしさは包みきれないようでした。そこで旧主人は私に別れを告げ、 「よい御奉公をするのだよ。」 と言いながら出て行きました。
私のことを王妃に申し上げていた女官達の、言っていることの違いを教えてください。
王妃と女官たちのためにすぐ私をつれて来い、という命令がでました。これは、女官たちの中にもう私を見物したものがいて、私の振舞いの美しいこと、賢いこと、いろいろ珍しい話を王妃に申し上げていたからです。 また一方では、別の女官は私のしぐさの面白いこと、動きの楽しいことをこれまた王妃に申し上げていたようです。
JCRRAG_014117
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いよいよ宇宙偵察隊が出発する日が来た。その出発地点である忍谷では、夜あかしで準備がととのえられた。 噴射艇の彗星一号艇と二号艇とは、射出機の上にのり、もういつでも飛び出せるようになっていた。 この噴射艇は最新鋭のもので、特に宇宙飛行用に作ったものであるから、出発のときは、燃料や食糧をうんと積みこんでいるので、非常に重い。だからどうしても射出機を使わないと、うまいぐあいに出発ができないのだ。 その射出機も、ふつうのものでは力がたりないので、忍谷で用意したのは、電気砲の原理を使った射出機だった。これなら十分に初速も出るし、また電気でとびだすのだから、硝煙や噴射瓦斯のため地上の施設が損傷する心配もなかった。 高い鉄塔の上から照らしつける照明灯は、地上を昼間のように明かるくして、どこにも影がない。蛾の化物みたいな形の噴射艇の翼の下をくぐって、飛行服に身をかためた一人の男があらわれた。それは帆村荘六だった。帆村は腰をのばして、噴射艇をほれぼれと見上げる。 「じつに大したものだ。こんなすばらしい噴射艇が、完成していようとは思わなかった。これなら月世界くらいまでは平気で飛べるぞ」 と、ひどく感心のていで独言をいっている。そのとき同じような飛行服を着た別の男が、こっちへ走ってきた。そして後ろから帆村の肩をぽんとたたいた。 「おお、帆村君。もうすぐ出発だそうだぜ」 帆村がふりかえってみると、それは彗星一号に乗組む児玉法学士だった。 「やあ、児玉君」と、帆村は児玉の手をとり、しっかり握った。 「じつは僕は心配をしているんだ。宇宙への冒険飛行に、君のような法律家を引張り出して、さぞ君は迷惑しているのじゃないかと……」 「つまらんことをいうな」 と、児玉法学士は途中で帆村のことばをおさえた。 「僕は君の好意に、大いに感謝しているんだ。君の好意で臨時宇宙戦研究班へ引張りこまれた僕は、自分の生命を投げ出して一生けんめいになれる日本男児の仕事は、これだと気がついたのだ。見ていてくれたまえ。僕はこれから科学技術をどんどんおぼえていくよ。今に君をびっくりさせてやるから」 児玉法学士は元気のいい声で笑った。 「まあ、しっかり頼むよ。児玉君」 「うん、心配はいらん。今にして僕は気がついたんだが、日本人は、科学者や技術者にうってつけの国民性を持っていながら、今までどうしてその方面に熱心にならなかったのか、ふしぎで仕方がない。もっと早く日本人が科学技術の中にとびこんでいれば、こんどの世界戦争も、もっと早く勝利をつかめたんだがなあ」 「過ぎたことは、もう仕方がない。ひとつ勉強して、工学博士児玉法学士というようなところになって、僕を驚かしてくれたまえ」 「工学博士児玉法学士か。はははは、これはいい。よし、僕はきっとそれになってみせるぞ」 熱血漢の児玉法学士は、いよいよ顔を赤くして笑った。しかし、さすがの児玉法学士も、やがて彼が宇宙の怪物を相手に、法学士の実力を発揮して、たいへんな役をつとめようとは、神ならぬ身の知る由もなかった。帆村にしても、彼が児玉法学士を引張りこんだことが、一つの神助であったことに、まだ気がついていないのだった。それはいずれ後になってわかる。 東の空が、うっすらと白みそめた。と、刻々と明かるさがひろがっていって、高い鉄塔の上から照らしつけている照明灯の光が、だんだん明かるさを失っていった。とつぜん喇叭が鳴り響いた。総員整列だ。時計を見ると出発まで、あと三十分だ。 帆村たちは、地上指揮所の前に整列した。班長左倉少佐が前に立っている。一同敬礼を交す。それから班長から、本日の宇宙偵察隊出発について、力強い激励のことばがあった。 整備隊長から、彗星一号艇、二号艇の出発準備がまったく整ったことが、班長左倉少佐へ届けられる。 班長はうなずいて、これから出発する望月大尉以下六名をさしまねいて、宇宙図を指しながら、更にこまごました注意をあたえた。また一号艇長の望月大尉と、二号艇長の山岸中尉との間に打合せが行われ、両艇は、なるべく編隊で飛ぶこととし、もし何か大危難に遭遇したときは、一艇はかならず急いで地上へ戻ることとし、両艇とも散華するようなことはせぬ、そしてその場合、山岸艇が地上へ戻り、望月艇は奮戦を続けることにもきめられた。 午前五時。正確なその時間に、左倉少佐の号令一下、まず噴射艇彗星一号が、するどい音を発して、さっと空中にとびあがった。山頂の杉林の上を一とびに越えて、朝やけの空をぐんぐん上昇して行く。十秒後には、艇はもう噴射瓦斯を後へもうもうと、ふきだしていた。 無電報告が、彗星一号艇から来た。 「スベテ異状ナシ。総員士気旺盛ナリ」 かんたんな電文であるが、搭乗員も艇も、機関や機械類もすべて異状なしとあって、班長左倉少佐をはじめ地上員は大安心をした。 二十秒おいて、山岸中尉らの搭乗した彗星二号艇が出発した。これもうまくいって、みるみるうちに先発艇のうしろに追いついてしまった。北の鬼影山の頂の上空に、二つの艇は二組の尾をひきながら、すこしも狂わない調子で、ぐんぐん高度をあげていく。 異状なしとの無電報告が、二号艇からもやってきた。 左倉少佐は大満悦に見うけられる。双眼鏡から目を放すと、室内へはいって来て、 「おい、通信長。テレビジョンをのぞかせろ」 と、テレビジョンの受影幕をのぞきこんだ。壁間には昼間もはっきり見える九個の受影幕が、三個ずつ三列に並んでいた。その真中の受影幕には、彗星一号艇二号艇が、画面いっぱいにうつっていた。 「窓のところへちょいちょい出てくる、この顔は誰の顔か」 と、左倉少佐が幕面を指した。 「これですか。これは児玉班員であります」 「ああ、児玉か。彼はあいかわらず、じっとしていられない男だな。しかし成層圏へ上ったら、空気と圧力が稀薄になるから、児玉も自然猫のようにおとなしくなるだろう」
最新鋭の宇宙飛行用噴射艇はなぜ射出機が必要なのか。
最新鋭の宇宙飛行用噴射艇は、大量の燃料と食糧を積んでおり非常に重く、射出機を使用しなければうまく出発が出来ないからである。
JCRRAG_014118
国語
小田原と熱海の間に、軽便鉄道の敷設工事が始まったのは、良平が八つの時だった。 良平は毎日村のはずれに行って、その工事を見物に行った。 工事を、といったところが、ただトロッコで土を運搬する、それが面白くて見に行ったのである。 トロッコの上には土工が二人、土を積んだうしろにたたずんでいる。 トロッコは山を下りるのだから、人手を借りずに走って来る。 あおるように車台が動いたり、土工のはんてんの裾がひらついたり、細い線路がしなったり、良平はそんな景色をながめながら、土工になりたいと思う事がある。 せめては一度でも土工と一緒にトロッコへ乗りたいと思う事もある。 トロッコは村外れの平地へ来ると、自然とそこに止まってしまう。と同時に土工たちは、身軽にトロッコを飛び降りるが早いか、その線路の終点へ車の土をぶちまける。 それから今度はトロッコを押して、降りてきた山の方へ登り始める。 良平はその時乗れなくても、トロッコを押す事さえ出来たらと思うのである。 ある夕方、それは二月の初旬だった。良平は二つ下の弟や、弟と同じ年の隣の子供と、トロッコの置いてある村外れへ行った。 トロッコは泥だらけになったまま、薄明るい中に並んでいる。が、そのほかはどこを見ても、土工たちの姿は見えなかった。三人の子供は恐る恐る、一番端にあるトロッコを押した。トロッコは三人の力が加わると、突然ごろりと車輪をまわした。 良平はこの音にひやりとした。しかし二度目の車輪の音は、もう彼を驚かせなかった。ごろり、ごろり、トロッコはそういう音と共に、三人の手に押されながら、線路を登って行った。 その内にかれこれ20メートル程来ると、線路の勾配が急になってきた。トロッコも三人の力では、いくら押しても動かなくなった。どうしても車と一緒に、押し戻されそうになる事がある。良平はもういいタイミングだと思ったから、年下の二人に合図をした。 「さあ、乗ろう!」 彼等は一度に手をはなすと、トロッコの上へ飛び乗った。トロッコは最初はゆっくりと、それから見る見る勢いよく、一息に線路を下り出した。 その途端につき当りの風景は、たちまち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来る。顔に当たる夕暮れの風、足の下におどるトロッコの動きや揺れ、良平はほとんど有頂天になった。 しかしトロッコは二・三分動いた後、もうもとの終点に止まっていた。 「さあ、もう一度押そうぜ」 良平は年下の二人と一緒に、またトロッコを押し上げようとした。が、まだ車輪も動かない内に、突然彼らのうしろから、誰かの足音が聞こえた。足音は急に怒鳴り声に変わった。 「この野郎! 誰にことわってトロにさわってるんだ!」 そこには古い印袢天に、季節外れの麦藁帽子をかぶった、背の高い土工が立っている。 そういう姿が目にはいった時、良平は年下の二人と一緒にもう10メートル程逃げ出していた。 それきり良平はお使いの帰りに、人気のない工事場のトロッコを見ても、二度と乗って見ようと思った事はない。 ただその時の土工の姿は、今でも良平の頭のどこかに、はっきりした記憶を残していた。 薄明りの中に映った小さい黄色の麦藁帽、しかしその記憶さえも、年を重ねると色彩は薄れるらしい。 その後、十日余り経ってから、良平はまたたった一人で、ひる過ぎの工事場にたたずみながら、トロッコが来るのを眺めていた。 すると土を積んだトロッコの他にも、枕木を積んだトロッコが一台、これは本線になる筈の太い線路を登って来た。 このトロッコを押しているのは、二人とも若い男だった。良平は彼らを見た時から、何だか親しみ易いような気がした。 「この人たちならしかられない」彼はそう思いながら、トロッコの側へ走って行った。 「おじさん。押してやろうか?」 その中の一人、縞のシャツを着ている男は、うつむきながらトロッコを押したまま、思った通り良い返事をした。 「おお、押してくれよ」 良平は二人の間にはいると、力一杯押し始めた。 「お前、なかなか力があるな」 もう一人、耳に巻煙草をはさんだ男も良平をほめてくれた。 その内に線路の勾配は、だんだん楽になり始めた。「もう押さなくともいいよ」良平は今にもいわれるかと内心気がかりでならなかった。が、若い二人の土工は、前よりも腰を起こしたっきり、黙々と車を押し続けていた。 良平はとうとうこらえ切れずに、おずおずこんな事を尋ねて見た。 「いつまでも押していていい?」 「いいとも」 二人は同時に返事をした。良平は「優しい人たちだ」と思った。
良平が背の高い土工に怒鳴られたらどうなった。
人気のない工事場のトロッコを見ても、二度と乗って見ようと思った事はない。
JCRRAG_014119
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ふしぎな謎の言葉「火星兵団」! 蟻田博士の放送によって「火星兵団」のことは、日本全国津々浦々にまで広まった。そうして、その時ラジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。 蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、今年十三歳になる友永千二であった。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親千蔵の手伝いをしている。彼の父親の手伝いというのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。 「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」 千二は、自分でこしらえた受信機の前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入れをしている父親に呼びかけた。 「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」 「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」 「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」 「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」 「ああ、そうかそうか」 「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」 「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」 千蔵は大きく首を振るのだった。 「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。 「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」 「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」 「だって、だって」 と、千二は口ごもりながら、 「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」 「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」 「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉があるからには、こっちでも大いに警戒して、早く『地球兵団』ぐらいこしらえておかなければ、いざという時に間に合わないって」 「ふふん、まるで雲をつかむような話じゃ。寝言を聞いているといった方が、よいかも知れん。お前も、あんまりそのようなへんなものに、こっちゃならないぞ。きっと後悔するにきまっている。この前お前は、ロケットとかいうものを作りそこなって、大火傷をしたではないか。いいかね、間違っても、そのカセイなんとかいうものなんぞに、こっちゃならないぞ」 「ええ、大丈夫。ロケットと『火星兵団』とはいっしょに出来ないよ。『火星兵団』を作れといっても、作れるわけのものじゃないし、ねえおとうさん、心配しないでいいよ」 「そうかい。そんならいいが……」 と、父親も、やっと安心の色を見せた。 だが、世の中は一寸先は闇である。思いがけないどんなことが、一寸先に、時間の来るのを待っているかも知れない。千二も父親も、まさかその夜のうちに、もう一度「火星兵団」のことを、深刻に思い出さねばならぬような大珍事に会おうとは、気がつかない。 その夜ふけに、千二は釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。湖には、たいへんおいしい鰻がいる。千二は、その鰻をとるために出かけたのだった。 出かけるときに、柱時計は、もう十二時をまわっていた。 外は、まっくらだった。星一つ見えない闇夜だった。 だが、風は全くない。鰻をとるのには、もってこいの天候だった。 千二は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。 「なんという暗い晩だろう。鼻をつままれてもわからない闇夜というのは、今夜のことだ」 でも、湖に近づくと、どういうわけか、水面がぼんやりと白く光ってみえた。 「こんな暗い晩には、きっとうんと獲物があるぞ。『うわーっ、千二、こりゃえらく捕ってきたな』と、お父さんが、えびすさまのように、にこにこして桶の中をのぞきこむだろう。今夜はひとつ、うんとがんばってみよう」 千二は、幼いときに母親に死にわかれ、今は親一人子一人の間柄だった。だから、父親千蔵は、天にも地にもかけがえのないただひとりの親だった。千歳は、千二のためには父親であるとともに、母親の役目までつとめて、彼をこれまでに育てあげたのだ。なんというたいへんな苦労であったろうか。しかも父親千蔵は、そんなことを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、どのように湖の方へ歩いていったか。
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。
JCRRAG_014120
国語
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊の格好をして、ぴかぴかに光る鉄砲をかついで、白熊のような犬を二匹つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことをいいながら、あるいておりました。 「ここらの山は全体的に良くないね。鳥も獣も一匹もいやしない。なんでもいいから、早くタンタアーンと、銃を撃ってみたいもんだ」 「鹿の黄色の横っ腹に、二・三発お見舞いしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」 それはかなりの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっと迷って、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。 それに、あまりに山が物凄いので、その白熊のような犬が、二匹いっしょにめまいを起こして、しばらくうなって、それから泡を吐いて死んでしまいました。 「ぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼を、ちょっとかえしてみて言いました。 「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もうひとりが、くやしそうに、あたまを捻って言いました。 はじめの紳士は、すこし顔色を悪くして、じっと、もうひとりの紳士の、顔色を見ながらいいました。 「ぼくはもう戻ろうとおもう。」 「そうだね、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」 「それじゃ、これで切り上げよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を十円分くらい買って帰ればいい。」 「兎も料理に出てたから買えるな。十五円もあれば買えるか。買えば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか」 ところがどうも困ったことに、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。 風がどうと吹ふいてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」 「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」 「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」 「喰べたいもんだなあ」 二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことをいいました。 ふとうしろを見ると、立派な一軒の西洋造りの家がありました。 そして玄関には RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒 という札がでていました。 「君、ちょうどいい。この山はこう見えても人がいて賑やかなんだろうな。入ろうじゃないか」 「おや、こんなところにおかしいな。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「はいろうじゃないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」 二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なものでした。 そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」 二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。 「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日苦労したけれど、こんどはこんないいこともある。ここは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」 「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」
宿屋で買う物で高い方を教えてください。
宿屋で買う物で高いのは兎の十五円です。
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国語
まもなく、かめはまた出てきて、 「さあ、こちらへ」 と、浦島を御殿のなかへ案内しました。たいや、ひらめやかれいや、おさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、はいって行きますと、乙姫さまがおおぜいの腰元をつれて、お迎えに出てきました。やがて乙姫さまについて、浦島はずんずん奥へとおって行きました。めのうの天井にさんごの柱、廊下にはるりがしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽の音がきこえてきました。 やがて、水晶の壁に、いろいろの宝石をちりばめた大広間にとおりますと、 「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日はかめのいのちをお助けくださいまして、まことにありがとうございます。なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」 と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。やがて、たいをかしらに、かつおだの、ふぐだの、えびだの、たこだの、大小いろいろのおさかなが、めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛りがはじまりました。きれいな腰元たちは、歌をうたったり踊りをおどったりしました。浦島はただもう夢のなかで夢を見ているようでした。 ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内で、御殿のなかをのこらず見せてもらいました。どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますからそのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。ひととおり見てしまうと、乙姫さまは、 「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」 といって、まず、東の戸をおあけになりました。そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱れていました。あおあおとしたやなぎの枝が風になびいて、そのなかで小鳥が鳴いたり、ちょうちょうが舞ったりしていました。 次に、南の戸をおあけになりました。そこは夏のけしきで、垣根には白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉のなかでは、せみやひぐらしがないていました。お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶の珠のように露がたまっていました。お池のふちには、きれいなさざ波が立って、おしどりや鴨がうかんでいました。 次に西の戸をおあけになりました。そこは秋のけしきで花壇のなかには、黄ぎく、白ぎくが咲き乱れて、ぷんといいかおりを立てていました。むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥に、白い霧がたちこめていて、しかのなく声がかなしくきこえました。 いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。そこは冬のけしきで、野には散りのこった枯葉の上に、霜がきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降り積もったなかから、柴をたくけむりがほそぼそとあがっていました。 浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔った人のようになって、何もかもわすれてしまいました。
南の戸を開けた時にお庭の木の青葉の中で、ないている生き物の数を教えてください。
南の戸を開けた時にお庭の木の青葉の中で、ないている生き物の数は2で、 「せみ」、 「ひぐらし」 です。
JCRRAG_014122
国語
国王は、この国一番の学者で、哲学や数学にくわしい方でした。 国王は、私がまだ何も言わないで、まっすぐに立って歩いているのを御覧になったとき、これは誰か器用な職人が工夫して作った、ぜんまい仕掛の人形だろう、とお考えになりました。 大臣は、この国にいる小さな動物をしつけて、芸を教え込ませてだましているんじゃないかと思っていたそうです。 けれども、私の声を聞き、私の言うことが、一つ一つ道理に合っているのを御覧になると、さすがにびっくりされたようです。 しかし、国王は、どうして私がこの国へ来たか、それだけは、私の説明では、どうも満足されなかったようです。 これはグラムダルクリッチと父親がでっちあげた作り話だろう、よい値段で売りつけるために、二人で言葉を教え込んだのだろう、というふうにお考えになりました。 大臣もまた、グラムダルクリッチと父親も誰かに騙されて私を売りつけられたんじゃないかとまで疑っていました。 それで陛下は私に向かって、まだ、いろいろと質問をされました。 私はすじみちの立つ返事を申し上げました。ただ、私の言葉には訛りがあり、農家でおぼえたのですから、宮廷の上品な言い方ではなかったわけです。 この国では毎週、三人の大学者が、陛下のところに集まることになっています。陛下は、その三人の学者を呼んで、この私を研究させられました。これはいったい何だろうかと、学者たちは、しきりに首をひねって、私の形を調べていましたが、みんな、まちまちのことを言うのでした。 これはどうも自然の正しい法則から生まれたものではない、こんな身体では木によじのぼることも、地面に穴を掘ることもできないから、さぞ困るだろう、ということだけは、三人とも意見が合いました。 彼らは私の歯をよく調べてみたうえで、これは肉食動物だと言いだしました。ところが、大がいの獣は私より強いのです。野鼠でも私より敏捷でした。これでは、かたつむりか虫でも食べるのでなければ、生きてゆけるとは考えられないのです。ところが、いろいろやってみても、とてもそんなものは食べないということがわかりました。 学者の一人は、もしかすると、これはまだ産まれない前の子供だろう、と言いだしました。だが、それには二人の学者がすぐ反対しました。これには手も足もちゃんとついている、それに髯まである、髯は虫眼鏡で見なければわからないが、とにかく、これは数年間は生きて来たものにちがいない、と二人の学者は言うのでした。 学者たちは、また首をひねって言います。これはこびとでもない、こびとなら、王妃のお気に入りのこの国一番の小人でも、身の丈三十フィートはあるが、これはもっと小さいから、こびととも言えない、と不思議がるのでした。そんなふうにして、いろいろ議論をしたあげく、三人はとうとう、こう決めてしまいました。これはつまり、自然がいたずらして作り出したものだろう、ということになって、私のことを、『自然の戯れ』だと彼らは言うのでした。 こんなふうに学者たちが私を、『自然の戯れ』だと決めてしまったので、私はそれが、ひどく不服でした。そこで、私は国王陛下に申し上げました。
私がまだ何も言わないで、まっすぐに立って歩いているのを御覧になったときの国王と大臣の反応の違いを教えてください。
国王は、私がまだ何も言わないで、まっすぐに立って歩いているのを御覧になったときは、私のことを誰か器用な職人が工夫して作った、ぜんまい仕掛の人形だろう、とお考えになりました。 一方、大臣は、この国にいる小さな動物をしつけて、芸を教え込ませて自分たちをだましているんじゃないかと思っていたそうです。
JCRRAG_014123
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窓外はいよいよ暗黒だ。 死の世界、永遠の夜の世界だ。 その中に、どんな恐しい悪魔がひそんでいるかわからないのである。 「ノクトビジョンを働かしているか」 望月大尉から山岸中尉への注意だ。 ノクトビジョンとは、暗黒の中で、物の形を見る装置だ。これは一種のテレビジョンで、一名暗視装置ともいう。これで見るには、相手に向けて赤外線をあびせてやる。物があればこの赤外線で照らしつけてくれる。肉眼では見えないが、赤外線をよく感ずるノクトビジョン装置で見れば、まるで映画をみるようにはっきり物の形がわかるのである。 「高度二万五千メートル……」 帆村荘六が大きな声で報告する。 「あと三千で、問題の高度ですね」 山岸中尉は落ちついた声でそういう。彼の目は、テレビジョンの上にある、楕円型のノクトビジョンの受影幕に注意力をむけている。何か異変が見つかったら、すぐさま処置をとらないと、竜造寺兵曹長の二の舞を演ずることになるおそれがある。 その処置とは、どんなことをするのか。出発前、望月大尉と打合わせてきたところでは、異変が起りかけたら、敵の姿が見えようと見えまいと、間髪をいれず、機銃で猛射をすることにしてあった。機銃弾の威力は、きっと何かの形で、手ごたえを見せてくれるにちがいないと考えたのである。 高度はついに二万八千メートルに達した。だが異変は起らない。ノクトビジョンを左右へ振って、前方を注意しているが、なにも見えない。見えるは空ばかり。空が見えているというだけのことで、もうここらには雲片一つあるわけではなし、すこぶるたよりない。 高度を二万九千まであげてみたが、異変はさらに起らない。 そこで望月大尉は、 「高度二万八千に戻り、水平飛行で偵察を継続するぞ」 と、山岸中尉に知らせた。 「了解」 それはかしこいやり方である。竜造寺兵曹長の高度計は、たぶんくるっていないはずである。だから高度二万八千メートルのところがくさいことはたしかだ。しかし高度二万八千メートルの場所は、非常に広いのである。今飛んでいるところは、できるだけ竜造寺兵曹長のとびこんだと思われるところのつもりであるが、地点の推測の方はあまり正確でないので、まちがえたところを飛行しているおそれが多分にある。だから、この高度であたりをぐるぐると水平偵察をやっていれば、きっと例の魔の空間にぶつかると思われる。 こうして両機は、その高度で水平偵察をはじめた。はじめは円を画き、それからだんだんと径を大きくして、外側へ大きく円を画きつづけるのだ。つまり螺旋形の航路をとって探していくのである。望月艇と山岸艇とは、五十メートルの間隔を置いて飛んでいた。 地上の時刻でいうと、午前九時四十分前後であったが、とうとう望月艇が、異変にぶつかった。 山岸中尉は、テレビジョンの幕の上にうつる望月大尉の急信号により、望月艇が、異変にぶつかったことを知った。かねての手筈により、山岸中尉は、目にもとまらぬ速さで切替桿をひき、二号艇の尾部へむかって出る噴射瓦斯を、あべこべに前方へ出るように切替えた。つまり艇に全速後進をかけたのである。 大きな衝動が、搭乗の三名の肉体に伝わった。肉が骨から放れて、ばらばらになるかと思われるほどの大苦痛に襲われた。が、三人とも一生けんめいにがんばって、それをこらえた。しかし苦痛は短い時間だけつづいて、後はけろりと去った。そのとき、艇はまったく前進力をうしない、石のように落ちつつあるところだった。 山岸中尉は、急いで高度計を見た。二万七千メートルだ。問題の高度より一千メートル下になった。よし、ここなら安全だと、切替桿を逆につきだして、再度、艇を前進にうつした。 安定度が非常に高いこの彗星号は、このような乱暴きわまる操作にも、すこしも機嫌をわるくしないで、ちゃんと中尉のいうとおりになった。この艇の設計者は、よほどほめられてもいいと、山岸中尉は思った。 艇が安定をとり戻すと、こんどは急に一号艇のことが気になった。山岸中尉は、目をテレビジョンに持っていった。と、山岸中尉の顔色がさっと変った。一号艇の映像は消えている。いったいどうしたのだ……。 「一号艇、どうしたか」 山岸中尉は思わず叫んだ。 「一号艇は左上を飛んでいます」 こたえたのは帆村だ。 「左上を……」 「そうです。しかし変ですよ。今まではノクトビジョンでなければ、姿が見えなかった一号艇が、まぶしいほどはっきり姿を見せているのですよ。そこからも見えるでしょう」 帆村荘六の声は、いつになくあわてていた。帆村のいうとおりのまぶしい一号艇の姿を、山岸中尉も見出した。まるで照空灯に照らし出されたように見える。 「ああ、一号艇が雲に包まれていく……」 「雲に包まれていく。帆村君、そんなばかなことが……」 「しかしほんとうなのです。事実だからしようがない。さっぱりわけがわからん……」 帆村のいうとおりだった。一号艇はみるみるうちに、白い雲に包まれていった。そして後部の方からだんだん見えなくなり、やがて頭部も雲の中にかくれて、完全に見えなくなった。 「ふしぎだなあ、しゃくにさわる……」 と、山岸中尉は、じれったそうに舌うちをした。 「まったくふしぎだ。あの雲は楕円体だぞ。正確に木型で作ったように、廻転楕円体だ」 帆村の声は、いよいよ、うわずっている。 山岸中尉の目もそれを確めた。念のためにノクトビジョンでのぞいてみたが、まったくそのとおりだ。 「正楕円体の雲なんてあるかなあ」 と、帆村は首をひねったが、そのとき彼は電気にふれたように、座席からとびあがって、山岸中尉の肩をつかんだ。 「山岸中尉。わかったですぞ。あの楕円体こそ、いわゆる『魔の空間』です。一号艇はたった今、『魔の空間』にとじこめられたのです」 叫びながら、楕円体を指す帆村の目は、赤く血走っていた。
望月大尉からの緊急信号を受け取った山岸中尉は、どのような対応を取ったか。
望月大尉からの緊急信号を受け取った山岸中尉は、切替桿をひき、二号艇を全速で後退させる操作を行った。
JCRRAG_014124
国語
「行きに押す所が多ければ、帰りにまた乗る所が多い」そうもまた考えたりした。 竹藪のある所へ来ると、トロッコは静かに走るのをやめた。 三人はまた前のように、重いトロッコを押し始めた。 竹藪はいつのまにか雑木林になった。爪先上りのところどころには、赤錆の線路も見えない程、落葉のたまっている場所もあった。 その路をやっと登り切ったら、今度は高い崖の向こうに、広々と薄ら寒い海が開けた。 と同時に良平の頭には、あまりに遠くに来過ぎた事が、急にはっきりと感じられた。 三人はまたトロッコへ乗った。車は海を右に曲がりながら、雑木の枝の下を走って行った。しかし良平はさっきのように、面白い気持にはなれなかった。「もう帰ってくれればいいのに」彼はそうも念じて見た。 が、行く所まで行きつかなければ、トロッコも彼等も帰れない事は、もちろん彼にもわかりきっていた。 その次に車が止まったのは、切崩した山を背負っている、藁屋根の茶店の前だった。 二人の土工はその店へはいると、乳飲み子をおぶったかみさんを相手に、ゆうゆうと茶などを飲み始めた。 良平はひとりイライラしながら、トロッコのまわりをまわって見た。 トロッコは頑丈な車体の板に、はねかえった泥がかわいていた。 しばらくしてから茶店を出て来てすぐに、巻煙草を耳に挟んだ男は、(その時はもう挟んでいなかったが)トロッコの側にいる良平に新聞紙に包んだ駄菓子をくれた。良平はひややかに「ありがとう」といった。が、すぐにひややかにしては、相手にすまないと思い直した。彼はその冷淡さを取り繕うように、包み菓子の一つを口へ入れた。 菓子には新聞紙にあったらしい、石油のにおいがしみついていた。 三人はトロッコを押しながらゆるい傾斜を登って行った。良平は車に手をかけていても、心はほかの事を考えていた。 その坂を向こうへ下り切ると、また同じような茶店があった。土工たちがその中へはいった後、良平はトロッコに腰をかけながら、帰る事ばかり気にしていた。 茶店の前には花のさいた梅に、西日の光が消えかかっている。「もう日が暮れる」彼はそう考えると、ぼんやり腰かけてもいられなかった。トロッコの車輪を蹴って見たり、一人では動かないのを承知しながらうんうんそれを押して見たり、そんな事に気持ちを紛らせていた。 ところが土工たちは出て来ると、車の上の枕木に手をかけながら、無造作に彼にこういった。 「お前はもう帰りなさい。おれたちは今日はむこうで泊まりだから」 「あんまり帰りが遅くなるとお前の家でも心配するだろ」 良平は一瞬呆気にとられた。もうすぐ暗くなる事、去年は暮母と岩村まで来たが、今日の道のりはその三・四倍ある事、それを今からたった一人、歩いて帰らなければならない事、そういう事がすぐにわかったのである。 良平は泣きそうになった。が、泣いても仕方がないと思った。泣いている場合ではないとも思った。彼は若い二人の土工に、取ってつけたようなおじぎをすると、線路伝いに走り出した。 良平はしばらく無我夢中に線路の側を走り続けた。その内に懐の菓子包みが、邪魔になる事に気がついたから、それをみちばたへ放り投げるついでに、板草履もそこへ脱ぎ捨ててしまった。 すると薄い足袋の裏へ直接小石が食いこんだが、足だけははるかに軽くなった。 彼は左に海を感じながら、急な坂道を駆け登った。時々涙がこみ上げて来ると、自然に顔がゆがんで来る。それは無理に我慢しても、鼻だけは絶えずくうくう鳴った。 竹藪の側を駈け抜けると、夕焼けのした日金山の空も、もう火照りが消えかかっていた。 良平は、いよいよ気が気でなかった。行きと帰りで、景色が変わって違うように見えるのも不安だった。 すると今度は着物までも、汗の濡れ通ったのが気になったから、やはり必死に駈け続けながら、羽織をみちばたへ脱いで捨てた。 蜜柑畑へ来る頃には、あたりは暗くなる一方だった。「命さえ助かれば」良平はそう思いながら、すべってもつまずいても走って行った。 やっと遠い夕闇の中に、村外れの工事場が見えた時、良平は思わず泣きたくなった。しかしその時もべそはかいたが、とうとう泣かずに駆け続けた。 彼の村へはいって見ると、もう両側の家家には、電燈の光がさし合っていた。良平はその電燈の光に、頭から汗の湯気が立っているのが、彼自身にもはっきりわかった。井戸端に水を汲んでいる女たちや、畑から帰って来る男たちは、良平があえぎながら走るのを見ては、「おいどうしたね?」などと声をかけた。が、彼は無言のまま、雑貨屋だの床屋だの、明るい家の前を走り過ぎた。 彼の家の門口へ駈けこんだ時、良平はとうとう大声に、わっと泣き出さずにはいられなかった。その泣き声は彼の周囲へ、一時に父や母を集まらせた。母は何かいいながら、良平の体を抱きかかえるようにした。が、良平は手足をもがきながら、すすり泣き続けた。その声が余り激しかったせいか、近所の女衆も三・四人、薄暗い門口へ集まって来た。父母はもちろんのことその人たちは、口口に彼の泣く理由を尋ねた。しかし彼は何といわれても泣くより外に仕方がなかった。あの遠い路を駈け通して来た、今までの心細さをふり返ると、いくら大声に泣き続けても、足りない気持ちに迫られながら。
家の門口へ駈けこんだ時、なぜ良平は大声に、わっと泣き出したのですか。
あの遠い路を駈け通して来た、今までの心細さをふり返ると、いくら大声に泣き続けても、足りない気持ちに迫られていたからです。
JCRRAG_014125
国語
ふしぎな謎の言葉「火星兵団」! 蟻田博士の放送によって「火星兵団」のことは、日本全国津々浦々にまで広まった。そうして、その時ラジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。 蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、今年十三歳になる友永千二であった。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親千蔵の手伝いをしている。彼の父親の手伝いというのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。 「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」 千二は、自分でこしらえた受信機の前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入れをしている父親に呼びかけた。 「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」 「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」 「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」 「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」 「ああ、そうかそうか」 「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」 「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」 千蔵は大きく首を振るのだった。 「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。 「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」 「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」 「だって、だって」 と、千二は口ごもりながら、 「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」 「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」 「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉があるからには、こっちでも大いに警戒して、早く『地球兵団』ぐらいこしらえておかなければ、いざという時に間に合わないって」 「ふふん、まるで雲をつかむような話じゃ。寝言を聞いているといった方が、よいかも知れん。お前も、あんまりそのようなへんなものに、こっちゃならないぞ。きっと後悔するにきまっている。この前お前は、ロケットとかいうものを作りそこなって、大火傷をしたではないか。いいかね、間違っても、そのカセイなんとかいうものなんぞに、こっちゃならないぞ」 「ええ、大丈夫。ロケットと『火星兵団』とはいっしょに出来ないよ。『火星兵団』を作れといっても、作れるわけのものじゃないし、ねえおとうさん、心配しないでいいよ」 「そうかい。そんならいいが……」 と、父親も、やっと安心の色を見せた。 だが、世の中は一寸先は闇である。思いがけないどんなことが、一寸先に、時間の来るのを待っているかも知れない。千二も父親も、まさかその夜のうちに、もう一度「火星兵団」のことを、深刻に思い出さねばならぬような大珍事に会おうとは、気がつかない。 その夜ふけに、千二は釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。湖には、たいへんおいしい鰻がいる。千二は、その鰻をとるために出かけたのだった。 出かけるときに、柱時計は、もう十二時をまわっていた。 外は、まっくらだった。星一つ見えない闇夜だった。 だが、風は全くない。鰻をとるのには、もってこいの天候だった。 千二は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。 「なんという暗い晩だろう。鼻をつままれてもわからない闇夜というのは、今夜のことだ」 でも、湖に近づくと、どういうわけか、水面がぼんやりと白く光ってみえた。 「こんな暗い晩には、きっとうんと獲物があるぞ。『うわーっ、千二、こりゃえらく捕ってきたな』と、お父さんが、えびすさまのように、にこにこして桶の中をのぞきこむだろう。今夜はひとつ、うんとがんばってみよう」 千二は、幼いときに母親に死にわかれ、今は親一人子一人の間柄だった。だから、父親千蔵は、天にも地にもかけがえのないただひとりの親だった。千歳は、千二のためには父親であるとともに、母親の役目までつとめて、彼をこれまでに育てあげたのだ。なんというたいへんな苦労であったろうか。しかも父親千蔵は、そんなことを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年には母親はいるか。
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、幼いときに母親に死にわかれた。
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国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より多く蜂を放した時の数を教えてください。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より多く蜂を放した時の数は十匹です。
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国語
まもなく、かめはまた出てきて、 「さあ、こちらへ」 と、浦島を御殿のなかへ案内しました。たいや、ひらめやかれいや、おさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、はいって行きますと、乙姫さまがおおぜいの腰元をつれて、お迎えに出てきました。やがて乙姫さまについて、浦島はずんずん奥へとおって行きました。めのうの天井にさんごの柱、廊下にはるりがしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽の音がきこえてきました。 やがて、水晶の壁に、いろいろの宝石をちりばめた大広間にとおりますと、 「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日はかめのいのちをお助けくださいまして、まことにありがとうございます。なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」 と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。やがて、たいをかしらに、かつおだの、ふぐだの、えびだの、たこだの、大小いろいろのおさかなが、めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛りがはじまりました。きれいな腰元たちは、歌をうたったり踊りをおどったりしました。浦島はただもう夢のなかで夢を見ているようでした。 ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内で、御殿のなかをのこらず見せてもらいました。どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますからそのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。ひととおり見てしまうと、乙姫さまは、 「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」 といって、まず、東の戸をおあけになりました。そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱れていました。あおあおとしたやなぎの枝が風になびいて、そのなかで小鳥が鳴いたり、ちょうちょうが舞ったりしていました。 次に、南の戸をおあけになりました。そこは夏のけしきで、垣根には白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉のなかでは、せみやひぐらしがないていました。お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶の珠のように露がたまっていました。お池のふちには、きれいなさざ波が立って、おしどりや鴨がうかんでいました。 次に西の戸をおあけになりました。そこは秋のけしきで花壇のなかには、黄ぎく、白ぎくが咲き乱れて、ぷんといいかおりを立てていました。むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥に、白い霧がたちこめていて、しかのなく声がかなしくきこえました。 いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。そこは冬のけしきで、野には散りのこった枯葉の上に、霜がきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降り積もったなかから、柴をたくけむりがほそぼそとあがっていました。 浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔った人のようになって、何もかもわすれてしまいました。
西の戸の中で咲き乱れている花の数を教えてください。
西の戸の中で咲き乱れている花の数は2で、 「黄ぎく」 「白ぎく」 です。
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国語
国王は、この国一番の学者で、哲学や数学にくわしい方でした。 国王は、私がまだ何も言わないで、まっすぐに立って歩いているのを御覧になったとき、これは誰か器用な職人が工夫して作った、ぜんまい仕掛の人形だろう、とお考えになりました。 大臣は、この国にいる小さな動物をしつけて、芸を教え込ませてだましているんじゃないかと思っていたそうです。 けれども、私の声を聞き、私の言うことが、一つ一つ道理に合っているのを御覧になると、さすがにびっくりされたようです。 しかし、国王は、どうして私がこの国へ来たか、それだけは、私の説明では、どうも満足されなかったようです。 これはグラムダルクリッチと父親がでっちあげた作り話だろう、よい値段で売りつけるために、二人で言葉を教え込んだのだろう、というふうにお考えになりました。 大臣もまた、グラムダルクリッチと父親も誰かに騙されて私を売りつけられたんじゃないかとまで疑っていました。 それで陛下は私に向かって、まだ、いろいろと質問をされました。 私はすじみちの立つ返事を申し上げました。ただ、私の言葉には訛りがあり、農家でおぼえたのですから、宮廷の上品な言い方ではなかったわけです。 この国では毎週、三人の大学者が、陛下のところに集まることになっています。陛下は、その三人の学者を呼んで、この私を研究させられました。これはいったい何だろうかと、学者たちは、しきりに首をひねって、私の形を調べていましたが、みんな、まちまちのことを言うのでした。 これはどうも自然の正しい法則から生まれたものではない、こんな身体では木によじのぼることも、地面に穴を掘ることもできないから、さぞ困るだろう、ということだけは、三人とも意見が合いました。 彼らは私の歯をよく調べてみたうえで、これは肉食動物だと言いだしました。ところが、大がいの獣は私より強いのです。野鼠でも私より敏捷でした。これでは、かたつむりか虫でも食べるのでなければ、生きてゆけるとは考えられないのです。ところが、いろいろやってみても、とてもそんなものは食べないということがわかりました。 学者の一人は、もしかすると、これはまだ産まれない前の子供だろう、と言いだしました。だが、それには二人の学者がすぐ反対しました。これには手も足もちゃんとついている、それに髯まである、髯は虫眼鏡で見なければわからないが、とにかく、これは数年間は生きて来たものにちがいない、と二人の学者は言うのでした。 学者たちは、また首をひねって言います。これはこびとでもない、こびとなら、王妃のお気に入りのこの国一番の小人でも、身の丈三十フィートはあるが、これはもっと小さいから、こびととも言えない、と不思議がるのでした。そんなふうにして、いろいろ議論をしたあげく、三人はとうとう、こう決めてしまいました。これはつまり、自然がいたずらして作り出したものだろう、ということになって、私のことを、『自然の戯れ』だと彼らは言うのでした。 こんなふうに学者たちが私を、『自然の戯れ』だと決めてしまったので、私はそれが、ひどく不服でした。そこで、私は国王陛下に申し上げました。
どうして私がこの国へ来たかを説明した時の、大臣と国王の反応の違いを教えてください。
国王は、どうして私がこの国へ来たかは、私の説明では、どうも満足されなかったようで、これはグラムダルクリッチと父親がでっちあげた作り話だろう、よい値段で売りつけるために、二人で言葉を教え込んだのだろう、というふうにお考えになりました。 一方、大臣もまた、グラムダルクリッチと父親も誰かに騙されて私を売りつけられたんじゃないかとまで疑っていました。
JCRRAG_014129
国語
成層圏も、高度二万七千メートルになると、いやにすごくなる。まるで月光の下の墓場を見る感じだ。いや、それ以上だ。 いまはまだ昼間だというのに、空はすっかり光を失って、漆のように黒くぬりつぶされている。ただ光るものは、ダイヤモンドをまきちらしたような無数の星、それとならんで冷たく光っている銀盆のような衰えた太陽が見えるばかり。この荒涼たる成層圏風景を、うっかり永くながめていようものなら、そのうちに頭がへんになってくる。 そういう折しも、指揮官望月大尉ののった彗星一号艇が奇怪なる消失。あれよあれよといううちに、白く光る廻転楕円体の雲の中に包まれて、見えなくなったそのふしぎさ。なぜといって、高度二万七千メートルの成層圏には水蒸気は存在しないから、雲がある道理がないのだ。しかるに帆村荘六も、山岸中尉もともにはっきりと白い雲を見たのである。けっして見まちがいではないのだ。うち重なる成層圏の怪異。この怪異をとく鍵はどこにあるのか。 彗星一号艇を包んでしまったあやしい形の雲、あの雲こそ「魔の空間」だと帆村荘六は叫んで、山岸中尉に注意をしたが、これは鍵ではない。鍵のはいっている箱かもしれないという程度である。けっきょく「魔の空間」とはどんなものか、それがわからなければ、この謎はとけはじめないだろう。戦う彗星部隊は、高度飛行のくるしさの上に、こうした頭脳のくるしさまでが重々しくのしかかっているのだ。 「電信員」 山岸中尉の声が、爆発したように聞えた。 「はい」 弟の山岸少年は、元気な声をはりあげて、兄にこたえた。 「無電をうて、平文で急げ」 中尉は急いでいる。無理もない。帆村は目を近づく楕円雲に、耳を山岸中尉の声に使いわけて緊張の頂点にある。 「宛、左倉班長。本文。高度二万七千、一号艇廻転楕円体ノ白雲内ニ消ユ、ワレ、ソノ雲ニ突進セントス、オワリ」 電文は簡単である。だが簡単な中に、ひじょうにすごい響きがある。山岸少年は、電文を復誦した。一字もまちがいはない。中尉が「よし」というのを聞いて、ただちに電鍵をたたきはじめる。さっき中尉から命令をうけると、すぐさま少年は送電機のスイッチを入れて、真空管に点火し、右手の指は電鍵の上に軽くおいて、いつでも打てるように用意をして待っていたのだ。電文は地上指揮所にとどいて、すぐさま同じ文句を地上からうちかえしてきた。 だが、どうしたものか、その無電は途中でぷつんと切れてしまった。そして山岸少年の耳にかけた受話器に、七色の笛のようなうなり音がはいってきた。 「機長、地上からの送信に、異状がおこりました」 と、山岸少年は、すばやくその異状を機長にとどけ出た。 山岸少年は、兄の返事を聞くことができなかった。そのとき事態はひじょうに迫っていたのである。いつどこからわき出したか、白い雲がかなり早い速さでするすると拡って、早くも二号艇を半分ばかり包んでしまったのだ。山岸中尉は、すべての注意力をそっちへそそいでいた。彼はその雲に包まれまいとして、あらゆる努力をこころみた。まだその雲ののび切っていない方向へ全速力でとばせた。が、白い雲は意地わるく、右から左から、また上から下からと、白いゴム布をのばしたようにのびていった。しかもそののび方が一点をめがけてのびていくように見える。残された出口ともいうべき暗黒の空が、見る見るうちに狭くなっていくのだ。 奇妙にも、その残された黒い空は円形をなしていた。その円の広さがだんだんに狭くなっていくのだ。晴天に大きな蛇の目傘をひろげたようであったのが、ずんずん小さくなって、黒い丸い窓のように見えるまで狭くなり、やがて黒い目玉ほどになった。 「うむ、ちく生」 山岸中尉が、彼に似合わぬきたないことばを吐いた。よほど癪にさわったとみえる。艇は黒い目玉めがけて突進していったが、やっぱり間にあわなかった。ついにその小さい黒い目玉も消えてなくなり、前は一面に白い雲でおおわれてしまった。艇はいまやすっかり怪雲に包まれてしまったのだ。一号艇を救い出そうとして、その後を追った二号艇であったが、いくばくもなくして、自らも同じ運命におちこんでしまったのであった。 だが、山岸中尉は、まだ希望をすててはいなかった。たとえこれが怪雲だとしても、これくらいのものは体当りでぶち切ることができるかもしれないと思っていた。そこで彼は、全速をかけたままで、白い怪雲の壁をめがけて激しくどんとぶつかった。 いけなかった。それがひじょうにまずかった。速度が見る見るうちに落ちた。そしてついにとまってしまった。と思ったら、あろうことかあるまいことか、こんどはあべこべに後方へぶうんと艇が走りだしたではないか。 山岸中尉は、あぶら汗をべっとりとかいた。操縦桿だけは放さなかったが、艇はもう全く彼の思うとおりには動かなくなった。 (もう処置なしだ) と、中尉は心の中で叫んだ。そのうちに艇は次第に安定を回復してきたように思われた。そこで中尉は、ふと計器盤の速度計に目をやった。とたんに彼は、 「あっ」 と叫んだ。速度計が零を指しているではないか。噴射機関に異状はないのに……。高度計はと見れば、いつの間にか零の近くまでもどっている。竜造寺兵曹長が消息をたつ、その直前に打った謎の無電と同じ状況ではないか。ああ、あの無電……。 “……高度二万八千メートルニ達セシトコロ、突然轟音トトモニハゲシキ震動ヲ受ケ、異状ニ突入セリ。噴射機関等ニマッタク異状ナキニモカカワラズ、速度計ハ零ヲ指シ、舵器マタキカズ。ソレニツヅキ高度計ノ指針ハ急ニ自然ニ下リテ、ホトンド零ニモドル。気温ハ上昇シツツアリ……” そうだ。たしかに暑苦しくなってきた。 “……タダイマ外部ノ気圧計急ニ上昇ヲハジメ、早クモ五百五……” 五百五というところで、竜造寺兵曹長の無電は切れたのだった。山岸中尉が外部気圧計の面をのぞくと、このときの艇内の気圧は五百七十ミリを指していた。なるほど竜造寺兵曹長の場合と同じだ。高度二万七千メートルなら気圧はせいぜい二十ミリぐらいであるはず、それが五百七十ミリを示している。これは高度二千メートル附近にあたる。 大異変来る。ついに竜造寺兵曹長と同じ運命におちいったのだ。山岸中尉は大きく息をすいこんだ。 「ああ、『魔の空間』、ほんとうだったな」
彗星二号艇が雲に包まれたあと空はどうなったか。
彗星二号艇は、突如として現れた白い雲に急速に包まれ始め、最終的には残された暗黒の空が円形でどんどん小さくなり、黒い目玉ほどの大きさになった。
JCRRAG_014130
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「ひきが強いね」 とMがいいました。本当にその通りでした。ひきとは水が沖の方にひいて行く時の力のことです。その日は大変強いように私たちは思ったのです。くるぶしくらいまでより水の来ない所に立っていても、その水が退いてゆく時にはまるで急な河の流れのようで、足の下の砂がどんどん掘れるものですから、うっかりしていると倒れそうになる位でした。 その水の沖の方に動くのを見ていると目がふらふらしました。けれどもそれが私たちには面白くってならなかったのです。足の裏をくすむるように砂が掘れて足がどんどん深く埋まってゆくのがこの上なく面白かったのです。三人は手をつないだまま少しずつ深い方にはいってゆきました。沖の方を向いて立っていると、ひざの所で足がくの字に曲がりそうになります。陸の方を向いているとむこうずねにあたる水が痛い位でした。両足をそろえてまっすぐに立ったままどっちにも倒れないのを勝ちにして見たり、片足で立ちっこをして見たりして、三人は面白がって人魚のように跳ねまわりました。 そのうちにMが膝位の深さの所まで行って見ました。そうするとうねりが来るたびにMは背伸びをしなければならないほどでした。 それがまた面白そうなので私たちも段々ふかみに進んでゆきました。そして私たちはとうとう波のない時には腰位まで水につかるほどのふかみに出てしまいました。そこまで行くと波が来たらただ立っていたままでは間に合いません。どうしてもふわりと浮き上がらなければ水をのませられてしまうのです。 ふわりとうきあがると私たちは大変高い所に来たように思いました。波が行ってしまうので地面に足をつけると海岸の方を見ても海岸は見えずに波の脊中だけが見えるのでした。その中にその波がざぶんとくだけています。波打際が一面に白くなって、いきなり砂山や妹の帽子などが手に取るように見えます。それがまたこの上なく面白かったのです。私たち三人は土用波があぶないということも何も忘れてしまって波越の遊びを続けさまにやっていました。 「あら大きな波が来てよ」 と沖の方を見ていた妹が少しこわそうな声でこういきなりいいましたので、私たちも思わずその方を見ると、妹の言葉通りに、これまでのとはかけはなれて大きな波が、両手をひろげるようなかっこうで押し寄せて来るのでした。 泳ぎの上手なMも少し気味悪そうに陸の方を向いていくらかでも浅い所までにげようとした位でした。 私たちはいうまでもありません。腰から上をのめるように前に出して、両手をまたその前につきだして泳ぐような恰好をしながら歩こうとしたのですが、何しろひきがひどいので、足を上げることも前にやることも思うようには出来ません。私たちはまるで夢の中で怖い奴に追いかけられている時のような気がしました。 後から押し寄せて来る波は私たちが浅い所まで行くのを待っていてはくれません。見る見る大きく近くなって来て、そのてっぺんにはちらりちらりと白い泡がくだけ始めました。Mは後ろから大声をあげて、 「そんなにそっちへ行くと駄目だよ、波がくだけるとまきこまれるよ。今のうちに波を越す方がいいよ」 といいました。そういわれればそうです。私と妹は立ち止まって仕方なく波が来るのを待っていました。 高い波が屏風を立てつらねたように押し寄せて来ました。私たち三人は丁度具合よくくだけないうちに波の背を越すことが出来ました。 私たちは体をもまれるように感じながらもうまくその大波をやりすごすことだけは出来たのでした。三人はようやく安心して泳ぎながら顔を見合わせてにこにこしました。そして波が行ってしまうと三人ながら泳ぎをやめてもとのように底の砂の上に立とうとしました。 ところがどうでしょう、私たちは泳ぎをやめると一緒に、三人ながらずぼりと水の中に潜ってしまいました。水の中に潜っても足は砂にはつかないのです。私たちは驚きました。あわてました。そして一生懸命にめんかきをして、ようやく水の上に顔だけ出すことが出来ました。その時私たち三人が互いに見合った眼といったら、顔といったらありません。顔は真っ青でした。眼は飛び出しそうに見開いていました。今の波一つでどこか深い所に流されたのだということを私たちはいい合わさないでも知ることが出来たのです。 うまく合わさなくても私たちは陸の方を目がけて泳げるだけ泳がなければならないということがわかったのです。 三人は黙ったままで体を横にして泳ぎはじめました。けれども私たちにどれほどの力があったかを考えて見て下さい。Mは十四歳でした。私は十三歳でした。妹は十一歳でした。Mは毎年学校の水泳部に行っていたので、とにかくあたり前に泳ぐことを知っていましたが、私は横のし泳ぎを少しと、水の上に仰向けに浮くことを覚えたばかりですし、妹はようやく板を持たなくて5メートル位泳ぐことが出来るだけなのです。 私たちは見る見る沖の方へ沖の方へと流されているのです。私は頭を半分水の中につけて横のしでおよぎながら時々頭を上げて見ると、その度ごとに妹は沖の方へと私から離れてゆき、友達のMはまた岸の方へと私から離れて行って、しばらくの後のちには三人はようやく声がとどく位お互いに離ればなれになってしまいました。そして波が来るたんびに私は妹を見失ったりMを見失ったりしました。
三人は強いひきによって面白がっていたらどうなりましたか。
私たち三人は土用波があぶないということも何も忘れてしまった。
JCRRAG_014131
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ふしぎな謎の言葉「火星兵団」! 蟻田博士の放送によって「火星兵団」のことは、日本全国津々浦々にまで広まった。そうして、その時ラジオを聞いていた人々を、驚かしたものである。 蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、今年十三歳になる友永千二であった。彼は、千葉県のある大きな湖のそばに住んでいて、父親千蔵の手伝いをしている。彼の父親の手伝いというのは、この湖に舟を浮かべて、魚を取ることだった。しかしどっちかというと、彼は魚をとることよりも、機械をいじる方がすきだった。 「ねえ、お父さん。今ラジオで、蟻田博士がたいへんなことを放送したよ。『火星兵団』というものがあるんだって」 千二は、自分でこしらえた受信機の前に坐っていたが、そう言って、夜業に網の手入れをしている父親に呼びかけた。 「なんじゃ、カセイヘイダン? カセイヘイダンというと、それは何にきく薬かのう」 「薬? いやだねえ、お父さんは。カセイヘイダンって、薬の名前じゃないよ」 「なんじゃ、薬ではないのか。じゃあ、うんうんわかった。お前が一度は食べたいと言っていた、西洋菓子のことじゃな」 「ちがうよ、お父さん。火星と言うと、あの地球の仲間の星の火星さ。兵団と言うと、日中戦争の時によく言ったじゃないか、柳川兵団だとか、徳川兵団だとか言うあの兵団、つまり兵隊さんの集っている大きな部隊のことだよ」 「ああ、そうかそうか」 「お父さん、『火星兵団』の意味がわかった?」 「文字だけは、やっとわかったけれど、それはどういうものを指していうのか、意味はさっぱりわからぬ」 千蔵は大きく首を振るのだった。 「おい千二、その『火星兵団』という薬の名前みたいなものは、一体どんなものじゃ」 父親は網のほころびを繕う手を少しも休めないで、一人息子の千二の話相手になる。 「さあ『火星兵団』ってどんなものだか、僕にもわからないんだ」 「なんじゃ、おとうさんのことを叱りつけときながら、お前が知らないのかい。ふん、あきれかえった奴じゃ。はははは」 「だって、だって」 と、千二は口ごもりながら、 「『火星兵団』のことは、これから蟻田博士が研究して、どんなものだかきめるんだよ。だから、今は誰にもわかっていないんだ」 「おやおや、それじゃ一向に、どうもならんじゃないか」 「だけれど、蟻田博士は放送で、こんなことを言ったよ。『火星兵団』という言葉があるからには、こっちでも大いに警戒して、早く『地球兵団』ぐらいこしらえておかなければ、いざという時に間に合わないって」 「ふふん、まるで雲をつかむような話じゃ。寝言を聞いているといった方が、よいかも知れん。お前も、あんまりそのようなへんなものに、こっちゃならないぞ。きっと後悔するにきまっている。この前お前は、ロケットとかいうものを作りそこなって、大火傷をしたではないか。いいかね、間違っても、そのカセイなんとかいうものなんぞに、こっちゃならないぞ」 「ええ、大丈夫。ロケットと『火星兵団』とはいっしょに出来ないよ。『火星兵団』を作れといっても、作れるわけのものじゃないし、ねえおとうさん、心配しないでいいよ」 「そうかい。そんならいいが……」 と、父親も、やっと安心の色を見せた。 だが、世の中は一寸先は闇である。思いがけないどんなことが、一寸先に、時間の来るのを待っているかも知れない。千二も父親も、まさかその夜のうちに、もう一度「火星兵団」のことを、深刻に思い出さねばならぬような大珍事に会おうとは、気がつかない。 その夜ふけに、千二は釣の道具を手にして、ただひとり家を出かけた。湖には、たいへんおいしい鰻がいる。千二は、その鰻をとるために出かけたのだった。 出かけるときに、柱時計は、もう十二時をまわっていた。 外は、まっくらだった。星一つ見えない闇夜だった。 だが、風は全くない。鰻をとるのには、もってこいの天候だった。 千二は、小さい懐中電灯で、道をてらしながら、湖の方へあるいていった。 「なんという暗い晩だろう。鼻をつままれてもわからない闇夜というのは、今夜のことだ」 でも、湖に近づくと、どういうわけか、水面がぼんやりと白く光ってみえた。 「こんな暗い晩には、きっとうんと獲物があるぞ。『うわーっ、千二、こりゃえらく捕ってきたな』と、お父さんが、えびすさまのように、にこにこして桶の中をのぞきこむだろう。今夜はひとつ、うんとがんばってみよう」 千二は、幼いときに母親に死にわかれ、今は親一人子一人の間柄だった。だから、父親千蔵は、天にも地にもかけがえのないただひとりの親だった。千歳は、千二のためには父親であるとともに、母親の役目までつとめて、彼をこれまでに育てあげたのだ。なんというたいへんな苦労であったろうか。しかも父親千蔵は、そんなことを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、父親に対してどのようなことを考えていたか。
蟻田博士の放送に、誰よりも熱心に、耳を傾けていた少年は、いい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。
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蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より多く蜂を放した時の数を教えてください。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より多く蜂を放した時の数は十匹です。
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むかし、スイスの国に、ひとりの年をとった伯爵が住んでおりました。伯爵にはむすこがひとりしかいませんでしたが、そのむすこはばかで、なにひとつおぼえることができないありさまでした。 そこで、あるとき、おとうさんがいいました。 「これ、せがれ、わしはおまえの頭になにひとついれてやることができん。そこで、こんどはひとつ、わしの思っていることをやってみたい。おまえはこの土地をはなれなければいかん。つまり、わしはおまえを、ある名高い先生にあずけようと思うのだ。その先生が、おまえをなんとかしてくださるだろう。」 こうして、若者は知らない町にやられて、その先生のところにまる一年おりました。一年たって、むすこはかえってきました。そこで、おとうさんはたずねました。 「どうだ、せがれ、なにをおぼえてきた。」 「おとうさん、ぼくは犬のことばをおぼえてきました。」 と、むすこはこたえました。 「ああ、なんということだ。」 と、おとうさんは思わず大きな声でいいました。 「おまえのおぼえてきたのは、それだけなのか。では、おまえをほかの町へやって、べつの先生にあずけるとしよう。」 こうして、若者はまたつれていかれました。そして、この先生のところにも、やっぱり一年いました。むすこがかえってくると、おとうさんがまたたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこはこたえました。 「おとうさん、ぼくは鳥のことばをおぼえてきました。」 それをきいて、おとうさんはかんかんにおこって、いいました。 「このろくでなしめ、だいじな時間をつぶして、なにひとつおぼえてきもしない。よくそれで、はずかしくもなく、わしのまえへこられたものだ。わしはおまえをつぎの先生のところへやる。だがこんどもなにひとつおぼえてこないようだったら、わしはもうおまえの親ではないぞ。」 むすこはつぎの先生のところにも、まる一年おりました。かえってくると、おとうさんがたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこがこたえていいました。 「おとうさん、ことしはカエルのことばをおぼえてきましたよ。」 これをきいたとたん、おとうさんはかんかんに腹をたてて、いすからとびあがり、家来たちをよんで、いいました。 「この男は、もうわしのむすこではない。わしはこいつを追いだしてやる。おまえたちはこいつを森へつれだして、殺してしまえ。いいか、しかともうしつけたぞ。」
むすこがおぼえてきたことばの数を教えてください。
むすこがおぼえてきたことばの数は3で、 「犬のことば」 「鳥のことば」 「カエルのことば」 です。
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「どうか私の申し上げることも少し聞いてください。私はこう見えても、これでも故国イギリスに帰りさえすれば、私と同じような背丈の人間が、八百万人といるのです。そしてそこでは、三千万という動物や二千万という樹木や何百万という家も、みんな私の身体と同じ割合で、小さくなっています。ですから、私でも、その国でなら、充分自分で身を守ることもできるし、ちゃんと立派に生きてゆけるのです。」 私はこう言って、学者たちの見当違いを正してやったつもりなのです。しかし、彼等はただニヤニヤ笑うばかりで、 「あんなうまいこと言うが、農夫から教え込まれたのだろう。」 と言うのでした。 しかし、陛下はさすがに賢いお方でした。それで、学者たちを帰らすと、もう一度、私の旧主人の農夫を呼びにやられました。私の旧主人がやって来ると、陛下はまず御自身で、彼にいろいろとお尋ねになりました。それから、その旧主人と私と娘と、三人に目の前で話させて御覧になりました。そして、これは私たちの言ってることが、ほんとかもしれない、というふうにお考えになりました。 陛下は王妃に、私の面倒をよくみるように言いつけられました。また、私とグラムダルクリッチが非常に仲好しなのを御覧になって、私の世話はこの娘にやらせようと、お考えになりました。そこで彼女は宮中に便利な部屋を一つあてがわれました。そして、彼女の世話をするために、家庭教師の婦人が二人、それから、着物の世話をする女中が一人、いろんな雑用をする召使が三人、彼女につき添うことになりました。けれども、私の世話は全部、グラムダルクリッチ一人がしてくれました。 王妃は、お付きの指物師に言いつけて、私の寝室になるような、一つの箱を作らせました。これを作るには、私とグラムダルクリッチが、いろいろ意見を言ったのですが、指物師はとても器用な職人でしたから、三週間もすると、私の指図したとおりに、縦十六フィート、横十六フィート、高さ十二フィート、それに、三つの丸い窓と二つの四角い窓と、一つの戸口と二つの小部屋のある、木造の箱を作り上げました。それはまるで、ロンドンの寝室そっくりでした。 この寝室の天井の板は、二つの蝶番で、開けることができるようになっています。家具師が持って来た寝台を、その天井のところから入れました。寝台は毎日、グラムダルクリッチが取り出して日にあて、ちゃんと自分でととのえては、晩になると中に入れ、天井に錠をおろすのでした。
私が、イギリスに帰れば私と同じサイズの人や動物がいると説得して、学者たちの見当違いを正してやった時の、学者と陛下の違いを教えてください。
私は学者たちの見当違いを正してやったつもりなのでしたが、彼等はただニヤニヤ笑うばかりで、「あんなうまいこと言うが、農夫から教え込まれたのだろう。」と言うのでした。 一方、陛下はさすがに賢いお方だったので、学者たちを帰らせると、もう一度私の旧主人の農夫を呼びました。陛下はまず御自身で、彼にいろいろとお尋ねになり、その旧主人と私と娘と、三人に目の前で話させて御覧になりました。そして、これは私たちの言ってることが、ほんとかもしれない、というふうにお考えになりました。
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山岸中尉は、ついに操縦桿から手を放した。もうこのうえ操縦桿を握っていることが意味なしと思ったからである。 繰縦桿を放しても、艇はすこぶる安定であった。山岸中尉は、こみあげてくる腹立たしさに、「ちえっ」と舌うちした。倒れた壁の下におさえつけられたも同様だ。 それから山岸中尉は、うしろをふりむいた。搭乗のあとの二人は、どんな顔をしているだろう……。 中尉の弟である山岸少年は、艇がいまどんな危険な状態にあるかということを、すこしも知らぬらしい顔つきで、しきりに無電機械を調整しつづけている。地上との通信が切れたのは、彼自身のせいだと思って、一生けんめい直しているのだった。 もう一人の搭乗者たる帆村荘六は、さっき大きな声で、「魔の空間」へ近づいたと叫んだ頃は、しきりにさわいでいたが、いま見ると、彼は手帳を出して、その中に何か盛んに書きこんでいる。これまた山岸少年におとらぬ落着きぶりだ。 山岸中尉は、ほっと息をついた。いま部下の二人が、あんがい落着いていてくれることは、たいへんありがたい。いまのうちに、死の覚悟をといておこうと思った。中尉の観測では、自分たちの生命は、あと十五分か二十分ぐらいだろうと思った。 「総員集れ」 と、中尉が叫ぶと、山岸少年は、はっと顔をあげて、耳から受話器をはずした。その目は、さっと不安の色が走った。 「兄さん、どうしたんです」 「ばか。電信員、用語に注意」 山岸中尉は、こんな場合にも注意することを忘れなかった。 帆村は手帳を持ったまま席を立ち、中尉のそばへ行こうとしたが、ちょうど山岸少年が通りかかったので、彼に狭い通路をゆずってやった。 「本艇はただいま大危難にさらされている。死の覚悟をしてもらいたい」 中尉はふるえていた。 「お待ちなさい――。いや機長、意見をいわせてください」 と、帆村がいった。 「よろしい。何でもいってよろしい」 中尉は、帆村の意見も、この際何の役にも立つまいと思った。 「機長。私は、私たちがいま生命の危険におびやかされているとは考えません。いや、むしろぜったいに安全だと思うのです」 「なぜか。説明を……」 「いや、そんなことは後で話をしましょう。それより目下最も大切なのは、本艇が積んでいる、成層圏落下傘と投下無電機です。こればかりは敵に渡さないようにして下さい」 「敵、敵とは……」 「いまの二種のものは敵の目をくらますために、糧食庫の底へでも入れておいた方がよくありませんか」 帆村は、中尉にはこたえないで、自分のいおうとすることだけについて語った。 「敵とは誰ですか、帆村さん。アメリカ人ですか」 と、山岸少年がたずねた。少年もいっこうわけがわからないといった面持だ。 「敵といえば、わかっているよ。例の緑色の怪物だ。いや、ここでは緑色の衣裳をぬいでいるかもしれないが……。しかし、少くともわれわれのいるここへ来るときは、例の服装でいるだろう」 「ああ、あいつですか。鉱山の底で死んだふりをしていた。青いとかげの化物みたいな奴……。大きな目が二つあって、頭に角が三本生えている、あのいやらしい怪物のことですか」 「帆村班員はほんとうにそう思っているのか。いったいそれはどういうわけで……」 と、山岸中尉も、思わず声を大きくして帆村の方へすり寄った。 「これは別にたいした予言でもありませんよ。なぜといって……」 と、帆村は途中で言葉をとめてしまった。 「帆村さん。早く話をしてください」 「話をするよりも、実物を見た方が早いよ。それっ、窓から外を見たまえ。例の緑色の怪物どもがおしかけて来たよ。ふふふ、これは面白い」 「えっ」 山岸少年が窓の方へ目を走らせると、たしかに帆村のいったとおりだ。向こうからこっちへ、緑色の怪物が十四五名、肩を組んだようにしてぞろぞろと歩いてくる。そしてその先頭に立って歩いている一名が、手をあげて何か叫んでいる様子だ。それは山岸たちに向かって呼びかけているように思われる。 「総員戦闘準備……」 山岸中尉は、いよいよ来るものが来たと思って、戦うつもりだ。 「待った。機長、はじめから戦うつもりでいたんでは、こっちの不利となりますよ。しばらく成行にまかせてみようじゃないですか」 「いや、捕虜になるのは困る」 「捕虜ということはないですよ。あの緑人どもは、われわれ地球人類と話をしたがっているのだと思います。だから、私たちを大事にするに違いありません」 「どうかなあ」 「まあ、こんどだけは私のいうところに従ってください。そしてここをさよならするまでは、短気を出さないように頼みますよ」 「帆村班員は、よくそんなに落着いていられるなあ」 「なあに、私は大いに喜んでいるのです。緑色の怪物どもから、われわれのまだ知らない、宇宙の秘密をしゃべらせてみせますよ。とうぶん彼等を憎まず、そして恐れず、しばらくつきあってみましょう。その結果、許すべからざる無礼者だとわかったら、そのときは山岸中尉に腕をふるってもらいましょう」 「竜造寺兵曹長の、安否をはやく知りたいものだ」 「それは頃合をはかって聞いてみましょう。私は兵曹長が無事で生きているような気がしますよ」 そういっているとき、緑鬼たちは、窓のところへ来て、外からどんどん窓をたたきはじめた。早くここを開けといっているらしい。 「ほう、外部の気圧は七百六十ミリになっていますよ。これはあの緑鬼どもが、ちゃんと空気を『魔の空間』へ送りこんで、私たちが楽に呼吸できるように用意しているのです。ですから、とうぶん生命の危険はないはずです。では扉をあけましょうか」 と、帆村は心得顔でいった。
外部の気圧が異常に上昇していることについて、帆村はどのような理由を説明したか。
帆村は、外部の気圧が異常に高い七百六十ミリになっているのは、緑色の怪物たちが「魔の空間」に空気を送り込み、自分たちが呼吸しやすいようにしてくれた為だと説明した。
JCRRAG_014136
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私の顔が見えると妹は後ろの方からあらん限りの声をしぼって 「兄さん来てよ……もう沈む……苦しい」 と呼びかけるのです。実際妹は鼻の所くらいまで水に沈みながら声を出そうとするのですから、その度ごとに水を呑むように見えて真っ青な苦しそうな顔をして私をにらみつけるように見えます。私も前に泳ぎながら心は後ろにばかり引かれました。何度も妹のいる方へ泳いで行こうかと思いました。けれども私は悪い人間だったと見えて、こうなると自分の命が助かりたかったのです。妹の所へ行けば、二人とも一緒に沖に流されて命がないのはわかり切っていました。私はそれが恐ろしかったのです。何しろ早く岸について漁師にでも助けに行ってもらうしかないと思いました。今から思うとそれはずるい考えだったようです。 でもとにかくそう思うと私はもう後ろも向かずに無我夢中で岸の方を向いて泳ぎ出しました。力が無くなりそうになるとあおむけに水の上にはねてしばらく息をつきました。 それでも岸は少しずつ近づいて来るようでした。一生懸命に……一生懸命に……、そして立ち泳ぎのようになって足を砂につけて見ようとしたら、またずぶりと頭まで潜ってしまいました。私は慌てました。そしてまた一生懸命泳ぎ出しました。 立って見たら水が膝の所位しかない所まで泳いで来ていたのはそれからよほど時間が経ってからのことでした。ほっと安心したと思うと、もう夢中で私は泣き声を立てながら、 「助けてくれえ」 といって砂浜を狂ったように駆けずり回りました。見るとMは遥かむこうの方で私と同じようなことをしています。私は駈けずりまわりながらも妹の方を見ることを忘れはしませんでした。波打際から随分遠い所に、波に隠れたり現われたりして、可哀そうな妹の頭だけが見えていました。 浜には船もいません、漁師もいません。その時になって私はまた水の中に飛び込んで行きたいような心持ちになりました。大事な妹を置きっぱなしにして来たのがたまらなく悲しくなりました。 その時Mが遥かむこうから一人の若い男の袖を引っぱってこっちに走って来ました。私はそれを見ると何もかも忘れてそっちの方に駈け出しました。若い男というのは、土地の者ではありますが、漁師とも見えないような通りがかりの人で、肩に何か担いでいました。 「早く……早く行って助けて下さい……あそこだ、あそこだ」 私は、涙を流し放題に流して、地団駄をふまないばかりにせき立てて、震える手をのばして妹の頭がちょっぴり水の上に浮かんでいる方を指しました。 若い男は私の指す方を見定めていましたが、やがて手早く担いでいたものを砂の上におろし、帯をくるくると解いて、衣物を一緒にその上におくと、ざぶりと波を切って海の中に入って行ってくれました。 私はぶるぶる震えて泣きながら、両手の指をそろえて口の中へ押しこんで、それをぎゅっと歯でかみしめながら、その男がどんどん沖の方に遠ざかって行くのを見送りました。私の足がどんな所に立っているのか、寒いのだか、暑いのだか、すこしも私には分かりません。手足があるのかないのかそれも分かりませんでした。 抜手を切って行く若者の頭も段々小さくなりまして、妹との距離が見る見る近よって行きました。若者の身のまわりには白い泡がきらきらと光って、水を切った手が濡れたまま飛魚が飛ぶように海の上に現われたり隠れたりします。私はそんなことを一生懸命に見つめていました。 とうとう若者の頭と妹の頭とが一つになりました。私は思わず指を口の中から放して、声を立てながら水の中にはいってゆきました。けれども二人がこっちに来るのはおそいことおそいこと。私はまた何の訳もなく砂の方に飛び上がりました。そしてまた海の中にはいって行きました。どうしてもじっとして待っていることが出来ないのです。 妹の頭は何度も水の中に沈みました。時には沈み切りに沈んだのかと思うほど長く現われて来ませんでした。若者もどうかすると水の上には見えなくなりました。そうかと思うと、ぽこんと跳ね上るように高く水の上に現われ出ました。なんだか曲泳でもしているのではないかと思われるほどでした。それでもそんなことをしているうちに、二人は段々岸近くなって来て、とうとうその顔までがはっきり見える位になりました。が、そこいらは打ち寄せる波が崩れるところなので、二人はもろともに幾度も白い泡のうずまきの中に姿を隠しました。やがて若者は這うようにして波打際にたどりつきました。妹はそんな浅い所に来ても若者におぶさりかかっていました。私は有頂天になってそこまで飛んで行きました。 飛んで行って見て驚いたのは若者の姿でした。せわしく深くいきをついて、体はつかれ切ったようにゆるんでへとへとになっていました。妹は私が近づいたのを見ると夢中で飛んで来ましたがふっと思いかえしたように私をよけて砂山の方を向いて駈け出しました。その時私は妹が私を恨んでいるのだなと気がついて、それは無理のないことだと思うと、この上なくさびしい気持ちになりました。 それにしても友達のMはどこに行ってしまったのだろうと思って、私は若者のそばに立ちながらあたりを見回すと、遥かな砂山の所をお婆様を助けながら駈け下りて来るのでした。妹は早くもそれを見付けてそっちに行こうとしているのだとわかりました。 それで私は少し安心して、若者の肩に手をかけて何か言おうとすると、若者はうるさそうに私の手を払いのけて、水の寄せたり引いたりする所にすわりこんだまま、いやな顔をして胸のあたりを撫でまわしています。私は何んだか言葉をかけるのさえためらわれて黙ったまま突っ立っていました。 「まああなたがこの子を助けて下さったんですね。お礼の申しようもございません」 すぐそばで息せき切ってしみじみといわれるお婆様の声を私は聞きました。 妹は頭からずぶ濡れになったままで泣きじゃくりをしながらお婆様にぴったり抱かれていました。 私たち三人は濡れたままで、きものやタオルを小脇に抱えてお婆様と一緒に家の方に帰りました。若者はようやく立ち上がって体を拭いて行ってしまおうとするのをお婆様がたって頼んだので、黙ったまま私たちのあとからついて来ました。 家に着くともう妹のために布団が敷いてありました。妹は寝間着に着かえてねかしつけられると、まるで夢中になってしまって、熱を出して木の葉のようにふるえ始めました。 お婆様は気丈な方でかいがいしく世話をすますと、若者に向って心の底からお礼をいわれました。 若者は挨拶の言葉もいわないような人で、ただ黙ってうなずいてばかりいました。お婆様はようやくのことでその人の住んでいる所だけを聞き出すことが出来ました。
若者は妹を助けに海の中に入ってどうなりましたか。
若者は這うようにして波打際にたどり着き、妹はそんな浅瀬に来ても若者におぶさりかかっていました。
JCRRAG_014137
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学士嬢の失踪 その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気がただよっているのに気がついたのが中学二年生の三田道夫だった。 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道、両側にうちつづいた思い思いの塀、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭や横丁の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停まっていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。 「あ、何かかわった出来事が起こったんだな」 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。 「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞こえそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知らせなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停まっている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。 道夫は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がついた。道夫は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。 「只今。お母さん……」 格子戸を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。 「あ、道夫かい。おかえりなさい」 母の声がすぐ聞こえた。それは別に取り乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。 「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」 「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」 「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」 道夫は、鞄を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。 「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」 「へえ、雪子姉さんが……」 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁なし眼鏡をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。 「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」 道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。 「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」 「変てこって」 「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」 母親は道夫のために小箪笥からおやつの果物をとりだして、紫檀の四角いテーブルのうえへならべながらいった。 「じゃあ、雪子姉さんは、はだしで家をでたんでしょう」 「ところが、そうとも思われないのよ。なぜってね、雪子さんは昨夜おそくまで自分の研究室で仕事をしていらしたの。そして研究室には内側からちゃんと鍵がかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。だから雪子さんは、研究室の中に必ずいなさらなければならないはずなのに、実際は、扉をうち破って調べてみても、雪子さんの姿がないのですってよ」 「へえ、それはふしぎだなあ」 内側から鍵をかけた密室の中から、雪子姉さんの姿が完全に消えてしまうなんて、そんなことがあっていいであろうか。 「ああ分かった。窓からでていったんでしょう」 「いいえ、窓も皆、内側から錠が下りていたのよ」 「じゃあ、研究室の外から鍵をかけて、でていったんじゃないかしら」 「ところがね、研究室の扉の鍵は、内側からさしこんだまんまになっているんだから、外から別の鍵をつかうわけにはいかないんですって」 「ふうん。それじゃ雪子さんは、煙になって煙突からでていったとしか思われませんね」 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。 「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、どこの間をぬけて内玄関へ急いだか。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだ。
JCRRAG_014138
国語
彼らは朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビクビクしています。夜も、よく眠れないし、この世の楽しみを味おうともしないのです。朝、人に会って、第一にする挨拶は、 「太陽の具合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変わりはございませんか。」 「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」 と、こんなことを言い合うのです。それはちょうど、子供が幽霊やお化けの話が怖くて眠れないくせに聞きたがるような気持でした。 私は一月もたつと、この国の言葉がかなりうまくなりました。国王の前に出ても、質問は大概答えることができました。陛下は、私の見た国々の法律、政治、風俗などのことは、少しも聞きたがりません。その質問といえば、数学のことばかりでした。私が申し上げる説明を、ときどき、叩き役の助けをかりて聞かれながら、いかにも、つまんなそうな顔つきでいられます。 私は、この島のいろいろ珍しいものを見せてもらいたいと、陛下にお願いしました。さっそく、お許しが出て、私の先生がいっしょに行ってくれることになりました。私はこの島のさまざまな運動が何の原因によるものなのか、それが知りたかったのです。 この飛島は、直径約四マイル半の真円い島です。面積は、一万エーカー、島の厚さは、三百ヤードあります。島の一番底は、滑らかな石の板になっていて、その上に、鉱物の層があり、そのまた上に、土がかぶさっています。 島の中心には、直径五十ヤードほどの裂け目が一つあります。そこから、天文学者たちが、洞穴へおりて行きます。 その洞穴の中には、二十個のランプが、いつもともっています。 ここでも歪んでいるのか、右側に十三個、左側に七個のランプが置かれていました。 そこには、二十個の望遠鏡や、二個の天体観測器や、そのほか、天文学の器械が備えてあります。
洞穴の中にある天文学の器械のうち、より数が少ないものを教えてください。
洞穴の中にある天文学の器械のうち、より数が少ないものは天体観測器で二個です。
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国語
むかし、スイスの国に、ひとりの年をとった伯爵が住んでおりました。伯爵にはむすこがひとりしかいませんでしたが、そのむすこはばかで、なにひとつおぼえることができないありさまでした。 そこで、あるとき、おとうさんがいいました。 「これ、せがれ、わしはおまえの頭になにひとついれてやることができん。そこで、こんどはひとつ、わしの思っていることをやってみたい。おまえはこの土地をはなれなければいかん。つまり、わしはおまえを、ある名高い先生にあずけようと思うのだ。その先生が、おまえをなんとかしてくださるだろう。」 こうして、若者は知らない町にやられて、その先生のところにまる一年おりました。一年たって、むすこはかえってきました。そこで、おとうさんはたずねました。 「どうだ、せがれ、なにをおぼえてきた。」 「おとうさん、ぼくは犬のことばをおぼえてきました。」 と、むすこはこたえました。 「ああ、なんということだ。」 と、おとうさんは思わず大きな声でいいました。 「おまえのおぼえてきたのは、それだけなのか。では、おまえをほかの町へやって、べつの先生にあずけるとしよう。」 こうして、若者はまたつれていかれました。そして、この先生のところにも、やっぱり一年いました。むすこがかえってくると、おとうさんがまたたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこはこたえました。 「おとうさん、ぼくは鳥のことばをおぼえてきました。」 それをきいて、おとうさんはかんかんにおこって、いいました。 「このろくでなしめ、だいじな時間をつぶして、なにひとつおぼえてきもしない。よくそれで、はずかしくもなく、わしのまえへこられたものだ。わしはおまえをつぎの先生のところへやる。だがこんどもなにひとつおぼえてこないようだったら、わしはもうおまえの親ではないぞ。」 むすこはつぎの先生のところにも、まる一年おりました。かえってくると、おとうさんがたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこがこたえていいました。 「おとうさん、ことしはカエルのことばをおぼえてきましたよ。」 これをきいたとたん、おとうさんはかんかんに腹をたてて、いすからとびあがり、家来たちをよんで、いいました。 「この男は、もうわしのむすこではない。わしはこいつを追いだしてやる。おまえたちはこいつを森へつれだして、殺してしまえ。いいか、しかともうしつけたぞ。」
むすこがことばを覚えるのに全部で何年かけましたか。
むすこがことばを覚えるのにかけた年数は全部で3年です。
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国語
それから、小さい骨董品などをこしらえることで有名な一人の職人が、象牙みたいなもので、よっかかりのついた椅子を三つ、引き出しつきのテーブルを二つ、私のために家具を作ってくれました。部屋は壁も床も天井も、蒲団が張りつめてありました。この寝室を提げて持ち歩くとき、中にいる私が怪我をするといけないし、また、馬車に乗せるときに、揺れるのを防ぐために、こうしてあるのです。 私は、鼠などが入って来ないように、扉に鍵をつけてほしいと言いました。鍛冶屋は、いろいろ工夫してみたうえで、これまでに類のないほど、小さな鍵を作ってくれました。イギリスにだって、紳士の家の門などには、もっと大きなのがあるはずです。私はこの鍵は自分のポケットにしまっておくことにしました。あんまり小さいので、グラムダルクリッチに持たせては、失くしてしまうかもしれないと思ったからです。 王妃が私のためにとても薄い絹で、私の洋服と、シャツを作ってくださいました。 が、洋服はイギリスの毛布ぐらいの厚さで、馴れるまでにはずいぶん着心地の悪い服でした。 シャツはこれまたイギリスの絨毯のような厚さになっていました。 仕立てはすっかりこの国の型でしたが、ペルシャ服のようなところもあれば、中国服にも似ていて、非常にきちんとしていて重々しいものでした。
王妃が私のために作った洋服とシャツの厚さの違いを教えてください。
王妃が私のために作った洋服はイギリスの毛布ぐらいの厚さで、馴れるまでにはずいぶん着心地の悪い服でした。 また、シャツはイギリスの絨毯のような厚さになっていました。
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国語
三人は、彗星二号艇から外へ出た。 緑色の怪物たちは、とびかかって来る様子もなく、おだやかに迎えた。 帆村は山岸兄弟よりも前に出た。そして緑色の怪物の中で、隊長らしく見える者の方へつかつかと寄った。 「せっかくあなたがたがよんでくださったものですから、やってきましたよ」 帆村は大きな声を出して、日本語でいった。山岸少年がびっくりして帆村の横顔をうかがった。 すると緑色の怪物たちは、急にざわめきたち、額をあつめて何やら相談をはじめたような様子であった。 山岸中尉が帆村に向かって何か言おうとした。帆村はそれを手で制した。そして、「それは後にしてください」と目で知らせた。緑色の怪物たちがどう出るか、いまは最も大事な時であったから、むやみなことをいって、怪物の気持を悪くしてはいけないと思ったのだ。 そのうちに、怪物は相談が終ったと見え、前のようにならんだ。そして隊長らしい者が、帆村の方へ歩みよった。 「あなたがいま言ったこと、わかりました。わたくしたちは、あなたのことばに満足します。これからいろいろ聞きますから、返事をしてください」 彼は日本語でしゃべった。それは妙なひびきを持った日本語であった。しかし原住民の片言の日本語よりは、ずっと調子がいい。緑色の怪物は、いつの間に日本語を勉強したのだろうか。 「はい、承知しました」 と、帆村は素直にこたえた。ふだんとちがって、いやにおとなしいのであった。 「僕たちからも伺うことがありますが、返事をしてくださるでしょうね」 「はい。返事をします」 「で、君のことを何とよべばいいでしょうか」 「わたくしですか。わたくしはココミミという名です」 「ココミミ。ああ、そうですか」 と、帆村はこの奇妙な名前をおぼえようと努力しながら、 「ではココミミ君。君はどこで日本語を習ったのですか」 と、つっこんだ質問をうちこんだ。 「ああ、日本語。これをおぼえるのには苦労しました。わが国の研究所では、五百名の者が五年もかかって、ようやく日本語の教科書を作りました」 「それはおどろきましたね。五百名で五年かかったとは、ずいぶん大がかりになすったわけですね。それでいま『わが国』とおっしゃいましたが、失礼ながら君の国は何という国で、どこに本国があるのですか」 帆村荘六は、この重大な質問を発することについて、さすがに鼓動の高くなるのをおさえかねた。しかしそれを相手に知られまいとして、つとめて何気ない調子でたずねた。 「わが国名はミミといいます。どこに本国があって、どんな国かということは、いま話してもわからんでしょう。しかしわたくしたちも、あなたがたも、ともに銀河系の生物だということです。つまりお互いに親類同士なんです。ですからお互いの間の話は、原則としてよく合うはずなのです」 緑色の人の語るところは、帆村たちによくわかるところもあるが、何だかまとがはずれているようなところも感じられる。 「そういわないで、君たちの国のことについて、いま話をしてください。僕たちは一刻も早くそれを知りたいのですよ」 帆村は、けんめいにねばった。 「いや、いまはしません。後になれば、自然にわかるでしょう。そのときくわしく説明します」ココミミ氏は肩をそびやかし、説明をいますることを拒絶した。 「そうですか。では、僕の方からのべてみましょうか」 帆村は、大胆なことをいった。 「ほう、あなたがのべるのですか。よろしい。では、のべてください」 ココミミ氏は仲間の方へ手をあげて何か合図をした。すると彼の仲間はおどろいた様子を示し、ざわざわと前へ出てきた。帆村はそれには無関心な様子を見せて、しずかに口を開いた。 「まず第一に申しますが、君たちはほんとうの姿をわれわれに見せていない。君たちは人体の形をした緑色の服を体の上に着ているのです。どうです、あたったでしょう」 帆村はとんでもないことをいい出した。しかしそれがあんがい相手に響いたらしく、いっせいに怪物たちの体が、がたがたふるえだした。そして帆村に向かっていまにもとびかかりそうな気配を示した。それを一生けんめいにとどめたのは例のココミミ君だった。 「どうぞ、その先を……」 彼は帆村に挨拶をおくった。 「では、第二に、君たちはわれわれより智能が発達しており、地球の人間なんかそういう点では幼稚なものだと思っている。しかしこれは君たちの思いちがいだということを、いずれお悟りになることでしょう」 「ふむ、ふむ」 「第三に、君たちはさし迫った重大資源問題のため、はるばる地球へやって来たのです。君たちはこの問題をなるべく早く解決しないと、君たちの世界は間もなく滅びるかもしれないのだ。だから……」 帆村のことばは突然中断した。それは緑色の怪物三名が、やにわに帆村に組みついたからである。それは電光石火の如くあまりにはやく、そばに立っていた山岸中尉が、帆村のためにふせぐひまもなかったほどだ。
帆村が緑色の怪物たちの外見について述べた際、怪物たちはどのような反応を示したか。
帆村が緑色の怪物たちが人間の形をした緑色の服を体の上に着ていると指摘したところ、彼らの体は激しく震え出し、帆村に襲いかかろうとしたが、ココミミがそれを制止した。
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国語
メロスは、巡回していた警官に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。 メロスは、王の前に引き出された。 「この短刀で何をするつもりだったのか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をもって問いつめた。 その王は顔面蒼白で眉間の皺は刻み込まれたように深かった。 「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。 「おまえがか?」王は、笑った。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬのだ。」 「言うな!」とメロスはいきり立って反対した。「人の心を疑うなんて、最も恥ずべき悪い行いだ。王は民の忠誠心さえ疑っている。」 「人を疑うのが正しい事なのだと、わしに教えてくれたのはおまえたちだ。人の心はあてにならない。人間はもともと私欲のかたまりなのだ。信じてはならぬ。」暴君は落ち着いてつぶやき、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだ・・・」 「なんの為の平和だ。自分の地位を守るためか!?」こんどはメロスが嘲笑った。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」 「だまれ!げせんの者が!」王は、顔を挙げた。 「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹の中の奥底が透き通って見えるのだ。おまえだって磔になってから、泣いてわびたって聞かぬ。」 「ああ、王はお利口だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬ覚悟でいるというのに。命乞いなど決してしない。ただ」と言いかけて、メロスは足元に視線を落としてわずかにためらった。 「ただ、私に情けをかけるつもりなら、処刑までに三日間の期限を下さい。たった一人の妹に亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」 「ばかな!」と暴君はしわがれた声で低く笑った。 「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」 「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮れまで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」 それを聞いて王は、残虐な笑みを浮かべた。生意気なことを言うやつだ。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきにだまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代わりの男を、三日目に殺してやるのも気分がいいだろう。「人はこれだから信じられぬ!」と、わしは悲しい顔をして、その身代りの男を磔の刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいうやつらにうんと見せつけてやろう。 「その願いを聞いてやろう。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとでもおくれて来るのがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」 「なに!?何をおっしゃる。」 「ははは!いのちが大事ならおくれて来ればいい。おまえの心はわかっているぞ。」 メロスは口惜しく、地団駄を踏んだ。何も言う気もなくなった。 竹馬の友であるセリヌンティウスは深夜王城に呼び出された。暴君ディオニスの面前で、よき友とよき友は、二年ぶりに出会った。 メロスは友に全ての事情を語った。セリヌンティウスは無言でうなずいてメロスをひしと抱きしめた。 友と友の間はそれでよかった。セリヌンティウスは縛り上げられ、メロスはすぐに出発した。初夏、満天の星である。 メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは翌日の午前だった。 陽はすでに高く昇っており、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。 メロスの十六歳の妹も、きょうは兄の代わりに羊の群れの番をしていた。 よろめいて歩いて来る兄の疲労困憊している姿を見つけて驚いた。 そして兄にうるさい位に質問を浴びせた。 「なんでも無いよ。」メロスは無理に笑おうとした。「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがいいだろう。」 妹は頬をあからめた。 「うれしい?綺麗な衣裳も買って来たぞ。さあこれから村の人たちに結婚式はあすだと知らせて来い。」 メロスはまたよろよろと歩き出して家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。 眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐに花婿の家を訪れた。少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれと頼んだ。 婿になる牧人は驚いた。「それは駄目ですよ、こっちはまだ何の仕度も出来ていない、葡萄ができる季節まで待ってくれ」と答えた。 メロスは「待つことはできない!どうか明日にしてくれ!」と更に押して頼み込んだ。 婿の牧人も頑固であり、なかなか承諾してくれない。議論は夜明けまで続いて、やっとどうにか婿をなだめすかして説き伏せることに成功した。 結婚式は真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころに黒雲が空を覆ってぽつりぽつりと雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。 祝宴に参加していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも気持ちを引きたてて狭い家の中でむんむん蒸し暑いのも我慢して、陽気に歌をうたい、手をうった。 メロスも喜色満面にしてしばらくは王との約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れて華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。メロスは、一生このままここにいたい、と思った。この良い人たちと生涯共に暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。 メロスは後ろ髪をひかれながらもついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分時間がある。 ちょっと一眠りしてそれからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっているだろう。 少しでも長くこの家にグズグズととどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものはある。 歓喜に酔っている花嫁に近寄って、 「おめでとう。私は疲れてしまったからちょっと眠りたいんだ。眼が覚めたらすぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主がいるのだから決して寂しい事は無いだろう。おまえの兄の一番嫌いなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえもそれは知っているな?亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」 花嫁は、夢見心地でうなずいた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、 「仕度が無いのはお互いさまさ。私の家で宝といえるのは妹と羊だけだ。他には何も無いよ。君に全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」 花婿はもみ手をして照れていた。メロスは笑って村人たちにも会釈して宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで死んだように深く眠った。
なぜメロスは処刑まで三日間の期限をもらおうとしたのですか。
たった一人の妹に亭主を持たせてやりたいと思ったからです。
JCRRAG_014143
国語
学士嬢の失踪 その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気がただよっているのに気がついたのが中学二年生の三田道夫だった。 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道、両側にうちつづいた思い思いの塀、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭や横丁の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停まっていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。 「あ、何かかわった出来事が起こったんだな」 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。 「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞こえそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知らせなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停まっている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。 道夫は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がついた。道夫は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。 「只今。お母さん……」 格子戸を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。 「あ、道夫かい。おかえりなさい」 母の声がすぐ聞こえた。それは別に取り乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。 「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」 「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」 「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」 道夫は、鞄を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。 「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」 「へえ、雪子姉さんが……」 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁なし眼鏡をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。 「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」 道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。 「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」 「変てこって」 「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」 母親は道夫のために小箪笥からおやつの果物をとりだして、紫檀の四角いテーブルのうえへならべながらいった。 「じゃあ、雪子姉さんは、はだしで家をでたんでしょう」 「ところが、そうとも思われないのよ。なぜってね、雪子さんは昨夜おそくまで自分の研究室で仕事をしていらしたの。そして研究室には内側からちゃんと鍵がかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。だから雪子さんは、研究室の中に必ずいなさらなければならないはずなのに、実際は、扉をうち破って調べてみても、雪子さんの姿がないのですってよ」 「へえ、それはふしぎだなあ」 内側から鍵をかけた密室の中から、雪子姉さんの姿が完全に消えてしまうなんて、そんなことがあっていいであろうか。 「ああ分かった。窓からでていったんでしょう」 「いいえ、窓も皆、内側から錠が下りていたのよ」 「じゃあ、研究室の外から鍵をかけて、でていったんじゃないかしら」 「ところがね、研究室の扉の鍵は、内側からさしこんだまんまになっているんだから、外から別の鍵をつかうわけにはいかないんですって」 「ふうん。それじゃ雪子さんは、煙になって煙突からでていったとしか思われませんね」 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。 「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、なぜ胸がわくわくしてきたか。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。
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突然黒人の王が現れる。王子と王女はびっくりする。 黒人の王 こんにちは。わたしは今4000キロメートル離れたアフリカから、一飛びに飛んで来たのです。どうですか、わたしの長靴の力は? 王女 (冷淡に)ではもう一度アフリカへ行っていらっしゃい。 王 いや、今日はあなたと一緒に、ゆっくりお話がしたいのです。(王子を見る)誰ですか、その下男は? 王子 下男?(腹立たしそうに立ち上がる)わたしは王子です。王女を助けに来た王子です。わたしがここにいる限りは、指一本も王女には触らせません。 王 (わざとていねいに)わたしは三つの宝を持っています。あなたはそれを知っていますか? 王子 剣と長靴とマントですか? なるほどわたしの長靴は100メートルも飛ぶ事は出来ません。しかし王女と一緒ならば、この長靴をはいていても、千里や二千里は驚きません。またこのマントを見なさい。わたしが下男と思われたため、王女の前へ来られたのは、やはりマントのおかげです。これでも王子の姿だけは、隠す事が出来たじゃありませんか? 王 (嘲笑う)生意気な! わたしのマントの力を見るがいい。(マントを着る。同時に消え失せる) 王女 (手を打ちながら)ああ、もう消えてしまいました。わたしはあの人が消えてしまうと、ほんとうに嬉しくてたまりませんわ。 王子 ああいうマントも便利ですね。ちょうどわたしたちのために出来ているようです。 王 (突然また現われる。忌々しそうに)そうです。あなた方のために出来ているようなものです。わたしには役にも何にもたたない。(マントを投げ捨てる)しかしわたしは剣を持っている。(急に王子をにらみながら)あなたはわたしの幸福を奪うものだ。さあ勝負をしよう。わたしの剣は鉄でも切れる。あなたの首くらい切るなんて何でもない。(剣を抜く) 王女 (立ち上がるが早いか、王子をかばう)鉄でも切れる剣ならば、わたしの胸も突けるでしょう。さあ、一突きに突いてごらんなさい。 王 (尻ごみをしながら)いや、あなたは斬れません。 王女 (嘲るように)まあ、この胸も突けないのですか? 鉄でも斬れるとおっしゃったくせに! 王子 お待ちなさい。(王女を押し止めながら)王のいう事はもっともです。王の敵はわたしですから、尋常に勝負をしなければなりません。(王に)さあ、すぐに勝負をしよう。(剣を抜く) 王 年の若いのに立派な男だ。いいですか? わたしの剣にさわれば命はないぞ。 王と王子と剣を打ち合わせる。するとたちまち王の剣は、杖か何かを切るように、王子の剣を切ってしまう。 王 どうだ? 王子 剣は切られたに違いない。が、わたしはこの通り、あなたの前でも笑っている。 王 ではまだ勝負を続ける気か? 王子 あたり前だ。さあ、来い。 王 もう勝負などはしないでもいい。(急に剣を投げ捨てる)勝ったのはあなただ。わたしの剣などは何にもならない。 王子 (不思議そうに王を見る)なぜ? 王 なぜ? わたしがあなたを殺したところで、王女にはいよいよ憎まれるだけだ。あなたにはそれがわからないのか? 王子 いや、わたしにはわかっている。ただあなたにはそんな事も、わかっていなそうな気がしたから。 王 (考えに沈みながら)わたしには三つの宝があれば、王女も貰えると思っていた。が、それは間違いだったらしい。 王子 (王の肩に手をかけながら)わたしも三つの宝があれば、王女を助けられると思っていた。が、それも間違いだったらしい。 王 そうだ。我々は二人とも間違っていたのだ。(王子の手を取る)さあ、綺麗に仲直りをしましょう。わたしの失礼はゆるして下さい。 王子 わたしの失礼も赦して下さい。今になって見ればわたしが勝ったか、あなたが勝ったかわからないようです。 王 いや、あなたはわたしに勝った。わたしはわたし自身に勝ったのです。(王女に)わたしはアフリカへ帰ります。どうか御安心なさって下さい。王子の剣は鉄を切る代わりに、鉄よりももっと堅い、わたしの心を刺したのです。わたしはあなた方の御婚礼のために、この剣と長靴と、それからあのマントと、三つの宝をさし上げましょう。 もうこの三つの宝があれば、あなた方二人を苦しめる敵は、世界にないと思いますが、もしまた何か悪いやつがあったら、わたしの国へ知らせて下さい。わたしはいつでもアフリカから、百万の黒人の騎兵と一緒に、あなた方の敵を征伐に行きます。(悲しそうに)わたしはあなたを迎えるために、アフリカの都のまん中に、大理石の御殿を建ててました。その御殿のまわりには、一面の蓮の花が咲いているのです。(王子に)どうかあなたがこの長靴をはいたら、時々遊びに来て下さい。 王子 きっとごちそうになりに行きます。 王女 (黒人の王の胸に、薔薇の花をさしてやりながら)わたしはあなたにすまない事をしました。あなたがこんな優しい方だとは、夢にも思わなかったのです。どうか許してして下さい。ほんとうにわたしはすまない事をしました。(王の胸にすがりながら、子供のように泣き始める) 王 (王女の髪を撫でながら)ありがとう。よくそういってくれました。わたしも悪魔ではありません。悪魔も同様な黒人の王はおとぎ話にあるだけです。(王子に)そうじゃありませんか? 王子 そうです。(見物人に向かいながら)皆さん! 我々三人は目がさめました。悪魔のような黒人の王や、三つの宝を持っている王子は、おとぎ話の中だけなのです。我々はもう目がさめた以上、おとぎ話の中の国には、住んでいるわけには行きません。我々の前には霧の奥から、もっと広い世界が浮かんでいます。我々はこの薔薇と噴水の世界から、一緒にその世界へ出て行きましょう。もっと広い世界! もっと醜い、もっと美しい、もっと大きいおとぎ話の世界! その世界で我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何も知りません。ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵士のように、進んで行く事を知っているだけです。
長靴の力で飛べる距離のうち、多いほうを教えてください。
長靴の力で飛べる距離のうち、多いほうは黒人の王が持っている長靴の4000キロです。
JCRRAG_014145
国語
むかし、スイスの国に、ひとりの年をとった伯爵が住んでおりました。伯爵にはむすこがひとりしかいませんでしたが、そのむすこはばかで、なにひとつおぼえることができないありさまでした。 そこで、あるとき、おとうさんがいいました。 「これ、せがれ、わしはおまえの頭になにひとついれてやることができん。そこで、こんどはひとつ、わしの思っていることをやってみたい。おまえはこの土地をはなれなければいかん。つまり、わしはおまえを、ある名高い先生にあずけようと思うのだ。その先生が、おまえをなんとかしてくださるだろう。」 こうして、若者は知らない町にやられて、その先生のところにまる一年おりました。一年たって、むすこはかえってきました。そこで、おとうさんはたずねました。 「どうだ、せがれ、なにをおぼえてきた。」 「おとうさん、ぼくは犬のことばをおぼえてきました。」 と、むすこはこたえました。 「ああ、なんということだ。」 と、おとうさんは思わず大きな声でいいました。 「おまえのおぼえてきたのは、それだけなのか。では、おまえをほかの町へやって、べつの先生にあずけるとしよう。」 こうして、若者はまたつれていかれました。そして、この先生のところにも、やっぱり一年いました。むすこがかえってくると、おとうさんがまたたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこはこたえました。 「おとうさん、ぼくは鳥のことばをおぼえてきました。」 それをきいて、おとうさんはかんかんにおこって、いいました。 「このろくでなしめ、だいじな時間をつぶして、なにひとつおぼえてきもしない。よくそれで、はずかしくもなく、わしのまえへこられたものだ。わしはおまえをつぎの先生のところへやる。だがこんどもなにひとつおぼえてこないようだったら、わしはもうおまえの親ではないぞ。」 むすこはつぎの先生のところにも、まる一年おりました。かえってくると、おとうさんがたずねました。 「せがれ、なにをおぼえてきた。」 すると、むすこがこたえていいました。 「おとうさん、ことしはカエルのことばをおぼえてきましたよ。」 これをきいたとたん、おとうさんはかんかんに腹をたてて、いすからとびあがり、家来たちをよんで、いいました。 「この男は、もうわしのむすこではない。わしはこいつを追いだしてやる。おまえたちはこいつを森へつれだして、殺してしまえ。いいか、しかともうしつけたぞ。」
むすこにことばを教えた先生は全部で何人か。
むすこにことばを教えた先生は全部で3人です。
JCRRAG_014146
国語
食事時になりました。 王妃は黄金の盃でこの国でも一番上等の葡萄酒を、一息にお飲みになります。 王女たちはまだこどもだったので、果物をふんだんに使った甘いジュースをおいしそうに飲んでいました。 それから、王妃のナイフの大きさは、大鎌の二倍もあります。スプーンもフォークも、それぞれみな実に大きなものです。私はいつかグラムダルクリッチが、面白半分に宮廷の食卓につれて行ってくれたのを、おぼえていますが、こういう巨大なナイフが六本やフォークが八本もあるような、こんな恐ろしい食器が並んだ光景は、全く見たことがないと思いました。 この国では毎週、水曜日がお休みの日なので、この日には、両陛下はじめ、王子王女殿下も、国王陛下のお部屋で一緒に食事をされることになっています。私は今では国王陛下にも、すっかりお気に入りになっていたので、この会食のときには、いつも私の二つの椅子と一つの食卓が、陛下の左手の塩壷の前に置かれました。 陛下は、私と話をするのがお好きで、ヨーロッパの風俗、宗教、百の法律や政治、何十もの学問などについていろいろ、お尋ねになります。私もできるだけ、よくお答え申し上げるつもりでした。陛下は頭のいい方ですから、私の申し上げることが、すぐおわかりです。そして、なかなか賢いことをおっしゃいます。 けれども、一度こんなことがありました。私がイギリスのことや、貿易のことや、戦争や、政党のことを、あまり、いい気になってしゃべっていたところ、陛下は、右手に私をつまみ上げて、左の手で静かに私をなでながら、大笑いされました。それから、陛下の後に大きな白い杖を持って控えている首相をかえりみて、こう言われました。 「人間なんて、いくら威張ったところで、つまらないものではないか。このちっぽけな虫けらでさえ、まねができるのだからな。どうだ、こんな奴等にでも、位とか称号があるというし、家とか市とか呼ぶ、ちっぽけな巣や穴なども作るらしい。それに、お洒落をしてみたり、戦争してみたり、喧嘩したり、欺いたり、裏切ったりするというのだからな。」 と、大たいこんなふうな調子で言われましたので、自分の祖国がこんなに軽蔑されるのを聞いては、私は腹が立って、顔が真赤になってしまいました。しかし、よくよく考えなおしてみると、私は陛下に恥をかかされたのかどうか、あやしくなりました。というのは、私はこうして幾月か、この国民の姿や話しぶりに馴れ、見るものがみな、この国では人間の大きさに比例して大きい、ということがわかってきたので、今では、もうはじめのように、その大きさに驚いたり恐れたりしなくなりました。ですから、今では、もしイギリスの貴族たちが晴着を着て、さも上品らしく、気どった恰好で、歩いたり、おじぎをしたり、おしゃべりしているのを見たら、私はかえって、噴き出すかもしれません。ちょうど、今この国の陛下や貴族が、私を笑ったように、私もまた、彼らを大いに笑ってやりたい気になるでしょう。
食事時に王妃と王女たちが飲んでいたものの違いを教えてください。
食事時になると、王妃は黄金の盃でこの国でも一番上等の葡萄酒を、一息にお飲みになります。 一方、王女たちはまだまだこどもだったので、果物をふんだんに使った甘いジュースをおいしそうに飲んでいました。
JCRRAG_014147
国語
緑鬼どもに組みつかれた帆村は、まず山岸中尉の方へ目で合図するのに骨を折った。山岸中尉の顔は、緑鬼どもにたいする怒りに燃えていた。が、帆村は「待て、しずかに……」と、目で知らせているので、中尉は拳をぶるぶるふるわせながら、かろうじてその位置に立っていた。 「ココミミ君。君たちは、僕を殺すためにやって来たのか、それとも地球を調べるためにやって来たのか、どっちです」 帆村は叫んだ。緑鬼の隊長と見えるココミミ君は、帆村のつよい言葉に、ぎくりとしたようであった。帆村たち地球人類を殺すために、ここへ封じこめたのではないことは、よくわかっている。しかし彼の部下は怒りっぽいのだ。帆村に図星をさされたことを憤って、帆村を殺そうとしているのだ。 ココミミ君は、なにか意を決したもののごとく部下のそばへとんでいった。そのときふしぎな光景が見られた。ココミミ君の頭の上に出ている触角が、にゅうっと一メートルばかり伸び、長い鞭のようになった。つぎにその鞭のようなものは、かりかりと奇妙な音を立てて、蛸の手のように動いた。そして帆村に組みついて放さない緑鬼どもの角にまきついては、これをゆすぶった。 すると緑鬼は、急にがたがた体をふるわせて、どすんと尻餅をついた。こうしてココミミ君は、つぎつぎに緑鬼たちを倒してしまった。山岸少年は兄のうしろで、目をぱちくり。 救われた帆村は、べつにおどろいてもいず、はずれた飛行服の釦をかけて、にっこり笑う。 「ココミミ君。君と二人で、よく話しあいたいものですね」 と、帆村はいった。 するとココミミ君は、触角をするすると頭の中にしまいこみ、帆村のところへやってきて、手を握った。 「あなたの申し出に賛成します。われわれは、お互いの幸福のために、しずかに話しあわねばなりません。そうですね」 「もちろん、そうですよ。乱暴をしては、話ができませんからね」 と、帆村がこたえた。ココミミ君は、なかなか話のわかるミミ族だ。 「それではすぐ話にかかります。まずみなさん方をしばらくの間、ひとりひとりに隔離します。私たちは手わけして質問にゆきます」 「それはいけない。われわれの行動は自由です。しかし、せっかく君がそういうんだから、僕だけは君がいうところへついていきましょう」 「それは困る。ぜひ、ひとりひとりを……」 「そんなことは許しませんぞ。それよりも、早く地球の話がわかった方がいいのではありませんか。この大宇宙にすんでいるのは、地球人類とミミ族だけではありませんよ。他の生物の方が早く地球と話をつけてしまえば、君たちは困りはしませんか」 この一語は、ココミミ君にひどくきいたらしい。彼は、それでもさっき言ったことをやりとおすのだとは言わなかった。 が、他の緑鬼どもは、いつの間にか起き上り、彗星二号艇のそばに立っている、山岸中尉と山岸少年の方へ襲いかかろうとしている。 山岸中尉は、うしろに弟をかばい、右手にはピストルを握りしめ、もしも近づく奴があれば、一撃のもとにうちたおすぞと、緑鬼をにらんだすさまじさ。 これをみておどろいたココミミ君は、ころがるようにして仲間のところへとんで来た。そしてふたたび触角の鞭をふりまわした。緑鬼たちは、たわいなくごろごろとその場にころがった。 そのときココミミ君は、すっくと立上り、呼吸をするような姿勢になった。すると彼の頭上に生えていた三本の触角が、すうっと垂直に立った。と、そのうちの一本がぐにゃぐにゃと下りてきて、垂直に立つ他の二本の触角を、まるで竪琴の絃をはじきでもするかのように、ぽろんぽろんとはじいた。音が出たにちがいない。しかし帆村たちには、その音が聞えなかった。 それが通信だったと見え、あやしい白雲の奥から、どやどやと一隊の人影があらわれた。いや、人影というよりも、鬼影といった方がいいかも知れない。 彼らはココミミ君の前に整列した。新しく来た彼らは、体の色がすこし淡かった。そしてどこかおとなしいところがあった。ココミミ君は帆村にいった。 「これはタルミミ隊の者です。これから、このタルミミ隊が皆さんのお世話をします。私の隊員は、戦闘をするのが専門ですから、自然皆さんに失礼があったと思います。しかし私どもとしては、はじめて迎える地球人類にたいして、そうとう警戒の必要を感じていたわけですから、どうぞあしからず。で、このタルミミ隊は、じゅうぶん皆さんの気にいるようにお世話をすると思います。なんでもいいつけてください。皆さんのための食事の用意もありますよ。しかし、ここから脱走することのお手伝いだけは、させないでください。でないと、ミミ族を憤激させることになります。そうなれば、もう取りかえしがつきませんからね」 ココミミ君は、帆村たちにこのようにいって、できるだけの好意を示した。そして帆村にむかい、 「では、もっとゆっくりあなたと話をしたいと思います。いっしょに来てくれますか」 ときいた。帆村は山岸中尉の許しをえて、ココミミ君の申し出に同意した。そこで二人はならんで歩きだした。一時間もすれば、ここへ戻ってくるという約束のもとに。
ココミミが人類を隔離して質問することを提案した際、帆村はどのようにして反対したか。
ココミミが人類を隔離して個別に質問することを提案したのに対し、他の宇宙生物が先に地球と接触する可能性があり、それが起きた際にミミ族が困るのではないかと提唱し反対した。
JCRRAG_014148
国語
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人とさっとすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向こうに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。 「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞こえた。 「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。 「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目です。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」 「いや、まだ陽は沈まぬ。」 「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみします。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」 「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。 「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じておりました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」 「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。」 「ああ、あなたは気が狂ったのか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」 言うまでもない。まだ陽は沈んでいない。最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。 「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかりで、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、 「私だ、刑務官! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精いっぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、かじりついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。 「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」 セリヌンティウスは、すべてを察した様子でうなずき、刑場一杯に鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しくほほえみ、 「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生まれてはじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」 メロスは腕にうなりをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。 「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。 群衆の中からも、すすり泣く声が聞こえた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の姿を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。 「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。人を信じるということは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」 どっと群衆の間に、歓声が起った。 「万歳、王様万歳。」 ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。よき友は、気をきかせて教えてやった。 「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなくくやしいのだ。」 勇者は、ひどく赤面した。
フィロストラトスがメロスに走るのをやめさせようとしたが、メロスはどうしましたか。
メロスは「信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ」と答えた。
JCRRAG_014149
国語
学士嬢の失踪 その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気がただよっているのに気がついたのが中学二年生の三田道夫だった。 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道、両側にうちつづいた思い思いの塀、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭や横丁の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停まっていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。 「あ、何かかわった出来事が起こったんだな」 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。 「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞こえそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知らせなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停まっている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。 道夫は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がついた。道夫は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。 「只今。お母さん……」 格子戸を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。 「あ、道夫かい。おかえりなさい」 母の声がすぐ聞こえた。それは別に取り乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。 「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」 「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」 「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」 道夫は、鞄を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。 「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」 「へえ、雪子姉さんが……」 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁なし眼鏡をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。 「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」 道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。 「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」 「変てこって」 「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」 母親は道夫のために小箪笥からおやつの果物をとりだして、紫檀の四角いテーブルのうえへならべながらいった。 「じゃあ、雪子姉さんは、はだしで家をでたんでしょう」 「ところが、そうとも思われないのよ。なぜってね、雪子さんは昨夜おそくまで自分の研究室で仕事をしていらしたの。そして研究室には内側からちゃんと鍵がかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。だから雪子さんは、研究室の中に必ずいなさらなければならないはずなのに、実際は、扉をうち破って調べてみても、雪子さんの姿がないのですってよ」 「へえ、それはふしぎだなあ」 内側から鍵をかけた密室の中から、雪子姉さんの姿が完全に消えてしまうなんて、そんなことがあっていいであろうか。 「ああ分かった。窓からでていったんでしょう」 「いいえ、窓も皆、内側から錠が下りていたのよ」 「じゃあ、研究室の外から鍵をかけて、でていったんじゃないかしら」 「ところがね、研究室の扉の鍵は、内側からさしこんだまんまになっているんだから、外から別の鍵をつかうわけにはいかないんですって」 「ふうん。それじゃ雪子さんは、煙になって煙突からでていったとしか思われませんね」 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。 「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、どこから出てきた母親とむかいあったか。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、茶の間からでてきた母親にむかいあった。
JCRRAG_014150
国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より少なく蜂を放した時の数を教えてください。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より少なく蜂を放した時の数は五匹です。
JCRRAG_014151
国語
家来たちは、むすこをつれだしはしましたが、いざ殺すとなると、かわいそうで、とてもそんなことはできません。で、そのまま、むすこをにがしてやりました。そのかわり、家来たちは子ジカの舌、子ジカの目を切りとって、それをむすこを殺した証拠の品として、伯爵のところへもってかえりました。 そこで、若者は旅にでかけました。しばらくして、とあるお城のまえにきましたので、ひと晩の宿をたのみました。 「よろしい。」 と、そのお城の城主がいいました。 「あの下の古い塔のなかで、夜をあかすつもりがあるなら、あそこへいきなさい。だが、そのまえに注意しておくが、命はないものと思いなさい。というのは、あの塔のなかには、山犬がいっぱいいて、ひっきりなしにほえたり、うなったりしているのだ。しかも、きまった時間ごとに、人間をひとりずつあのなかにいれてやらねばならんのだが、それをあの犬どもはたちまちくいつくしてしまうのだ。」 じつは、そのためにこの国がこまりきって、かなしみにしずんでいたのですが、だれにもどうすることもできなかったのです。ところが、若者はすこしもおそれるようすもなく、こういいました。 「まあ、わたしをそのほえくるっている犬のところへやってください。それから、なにか犬にやるものをください。だいじょうぶ、わたしに害をくわえるようなことはさせません。」 若者がどうしてもじぶんでいくといいはりますので、お城の人たちは山犬にやる食べものをいくらかわたして、それから若者を下の塔へつれていきました。 若者がなかへはいっていくと、犬どもはほえつくどころか、いかにもうれしそうにしっぽをふりながら、まわりによってきて、若者のなげてやるものを食べました。こうして、若者にはなんの害もくわえませんでした。 あくる朝、若者がかすり傷ひとつうけずに、元気なすがたをあらわしたときには、だれもかれもびっくりしました。若者は城主にむかっていいました。 「あの犬どもは、どうしてここに巣くって、この国に害をなしているのか、犬のことばでわたくしに話してくれました。じつは、あの犬どもは魔法をかけられておりまして、あの塔のなかにあるたくさんの宝ものの番をしていなければならないのです。そして、その宝ものがとりだされるまでは、いっときもやすむことができないのです。なお、どうしたら、その宝ものがとりだせるかということも、犬どもの話からききとってまいりました。」 これをきいた人たちは、みんな大いによろこびました。城主は、若者がこのことをうまくやりとげたら、じぶんのむすこにしようといいました。 若者はもういちど塔におりていきました。そして、どうしたらいいかちゃんとこころえていましたので、そのとおりにやって、黄金のいっぱいつまっている長持ちをはこびだしました。 それからというもの、犬のほえ声はまるできこえなくなりました。それどころか、犬はみんなどこかへいってしまって、こうしてこの国の難儀がすくわれたのです。 それからしばらくたったとき、若者は、ふと、ローマへいってみたくなりました。そのとちゅう、とある沼のほとりをとおりかかりますと、沼のなかでたくさんのカエルがガアガアないていました。若者は耳をすまして、カエルたちのしゃべっていることをきいているうちに、すっかりゆううつになって、かなしくなってきました。 ようやく若者はローマにつきましたが、ちょうどそのときは、法王がなくなって、法王の相談役の人たちは、だれをその後継のあとつぎにしたらよいか、たいへんまよっているところでした。みんなはいろいろまよったすえ、けっきょく、神さまの奇跡のあらわれた人を法王にえらぼうということに、意見がまとまりました。 ところが、ちょうどそういうことにきまったとき、伯爵のむすこが教会にはいってきたのです。と、とつぜん、どこからともなく、雪のように白いハトがとんできて若者の両方の肩にとまりました。坊さんたちはこれを見て、これこそ神さまのおつげだと思いましたので、すぐその場で若者にむかって、法王になってくれる気はないか、と、たずねました。 若者は、そんなりっぱな位につく値うちがじぶんにあるかどうかわかりませんので、しばらくためらってしまいましたが、ハトがしきりにすすめてくれるものですから、とうとう、 「承知しました。」 と、もうしました。 そこで、若者は聖油をぬってきよめられ、坊さんになる式をうけました。ここへくるとちゅう、カエルたちが、この人はやがて法王になるといっているのをきいたとき、若者はびっくりしましたが、こうしてとうとう、それがほんとうになってしまったのです。 若者は、ミサをおこなわなければなりませんでしたが、もちろん、そのやりかたはなんにも知りません。けれども、ハトがいつも両肩の上にとまっていて、なにからなにまで若者の耳にささやいてくれました。
むすこの両方の肩にとまったハトは何羽か。
むすこの両方の肩にとまったハトは2羽です。
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国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます。 巨人の国の海にはそして魚類がたくさん生息しています。ですが彼らは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚は私の住んでいるヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取っても食べられる大きさではありませんし、あまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。鯨は彼らにとっては食べがいのある魚のようなものなので、これを捕えて、みんなで喜んで食べています。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
巨人の国における、魚と鯨の違いを教えてください。
巨人の国の海にはそして魚類がたくさん生息していますが、彼らは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚は私の住んでいるヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取っても食べられる大きさではありませんし、あまり役に立たないからです。 その一方で鯨が巌にぶつかって死ぬことがありますが、鯨は彼らにとっては食べがいのある魚のようなものなので、これを捕えて、みんなで喜んで食べています。
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国語
山岸中尉と山岸少年の二人は、帆村を送って後に残った。中尉は愛弟をうしろにかばって、新米のタルミミ隊をにらみつけていた。 タルミミ隊は、山岸中尉の前で活動をはじめた。どこからか円い卓子が持出された。椅子もはこんで来た。それから思いがけない御馳走が大きな器にいれられて、卓子の上におかれた。飲物のはいっている壜もきた。「水」だとか、「酒」だとか、「清涼飲料」とかの、日本字が書きつけてあった。 「さあ、どうぞ召上ってください」 と、タルミミ君らしい一人が、そういって挨拶をした。山岸中尉は返事に困った。 「御心配はいりません。これはあなた方にたべられないものでもなく、また毒がはいっているわけでもありません。安心して召上ってください」 タルミミ君は、ていねいにいった。 山岸中尉は豪胆な人間だったから、ここで弱味を見せてはならぬと思い、蜜柑を一箇手にとった。それとなく注意してみるが、内地の蜜柑と変りのない外観をしている。そこで皮をむいた。ぷうんと蜜柑の香りがした。一房ちぎって口の中へほうりこんだ。甘酸っぱい汁――たしかに地上でおなじみの蜜柑にちがいなかった。しかもこの味は四国産の蜜柑と同じだった。 「この蜜柑は、どこになったのかね」 山岸中尉がタルミミ君へ声をかけた。 「日本産ですよ。外の料理も、みな日本産です。あなた方がくるとわかっていたので、用意してあったのです。どうぞ安心してたべてください」 どんな方法で、日本の料理や、果物などを手にいれたのか、それはわからなかった。しかしたべてみると、たしかに口にあうものばかりだった。そこで弟にもたべるようにすすめた。二人は腹がすいていたのでよくたべた。一度たべた以上は、少くたべても、たくさんたべても同じことだと胆玉をすえた。 (この連中は、おれたちがここへ来ることを知っていたという。こっちはそんなこととは知らなかった。やはりミミ族の方が、われわれ人間より智力が上なのかなあ) 山岸中尉は、たべながらそんなことを考えた。山岸兄弟が食事をしているのを見て安心したものか、タルミミ隊員は、いつとはなしに二人の前から姿を消してしまった。 「兄さん。あの緑人がみんなどこかへ行ってしまいましたよ」 「うん。しかし、どこからかこっちを見張っているにちがいないから、油断をしないように……」 「はい」 「お前、疲れたろう。しばらく寝ろよ」 「僕、ねむくありません」 「そうか。では兄さんは、二十分ばかりねむる。お前、起してくれ」 「はい、起します」 中尉はそこにごろんと横に寝た。 「これは寝心地がいいぞ。士官室の長椅子より上等だ。はははは」 中尉は豪快に笑った。そしてしばらくすると気持よさそうないびきをかきはじめた。 山岸少年は、兄ののんきさ加減にあきれてしまった。こんなおそろしいところへ来て、ねむってしまうなんて、なんということだろうかと。またこの気味のわるい白い雲のようなものの上で、よくもねむられるものだと感心した。もしもどうかして穴があいたら、二万七千メートルの高空から、体はまっさかさまに下へ落ちてゆくではないか。 少年は、このふしぎな「魔の空間」の中でとききれないたくさんの謎をかかえこんでしまって、妙な気持でいるのだった。いったいどうしてこんな高空に、地上の建物の一室とちがわない場所があるのであろうか。 あの怪人どもの頭の上についている、触角みたいなものはなんであろうか。 怪人どもの正体は、あの中にあるのだと帆村がいったが、それはほんとうかしらん。ほんとうなら、いったいどんな形をしているのであろうか、ミミ族という生物は……。 地球人類と同じく銀河系の生物だから、親類だと思ってくれと、ココミミ君はいっていた。銀河系の生物とはなんのことだろう。 こうして考えていけば、謎はつきない。夢のようにふしぎである。しかし夢ではない。頬をつねればちゃんと痛い。 早くも二十分がたったので、山岸少年は兄を起した。中尉は起き上ると、海軍体操を二つ三つやって、元気に笑った。 「さあ、これでいい。くるなら来い、どこからでも来いだ」 「兄さんは、よくねむれますね」 「いや、さっきはねむくて困ったよ。……まだ帆村君はもどって来ないか」 「ええ、もう一時間を五分ばかりすぎていますがね」 「話が長くなったのかな。それとも……」 「それとも」 「いや、心配しないでいいよ」 帆村はなかなか姿を見せなかった。なにかまちがいがあったのではないかと、山岸中尉は思った。だからといって、この白昼探しにゆくわけにもいかない。夜のくるのを待つほかないのだ。ところが、夜はいっこうやってこなかった。 そのはずだ。ここは地球の上ではないのだ。「魔の空間」である。あたり前なら、二万七千メートルはなに一つ見えぬ暗黒界でなければならぬ。それにもかかわらず、こうして白昼のように物の形がみえているのは、ここが「魔の空間」なればこそだ。謎はますます深くなってゆく。
タルミミ隊員が山岸兄弟の食事中にいなくなった後、山岸中尉はミミ族の知能についてどのようなことを考えたか。
タルミミ隊員が山岸兄弟の食事中にいなくなった後、山岸中尉は、彼らが自分たちの到着を事前に知っていたと思い、ミミ族の方が人間よりも知能が高いのではないかと考えた。
JCRRAG_014154
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禅智内供の鼻といえば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上からアゴの下まで下がっている。 形は元も先も同じように太い。例えるなら細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下がっているのである。 五十歳を越えた内供は、沙弥をやっていた過去から、内道場供奉の職に昇格した現在まで、内心では始終この鼻について悩み苦しんでいた。 もちろん表面では、べつにさほど気にしてないような顔をしてすましている。これは来世は浄土に生まれ変わるよう専念して祈る僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしているという事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、鼻って単語が出て来るのを何よりも怖がっていた。 内供が鼻を持てあました理由は二つある。一つは実際に、鼻の長いのが不便だったからである。第一飯を食う時にも一人では食えない。独りで食えば、鼻の先がお椀の中のご飯へとどいてしまう。そこで内供は弟子の一人を膳の向こうへ座らせて、飯を食う間中、広さ一寸と長さ二尺ばかりの板で、鼻を持ち上げていて貰う事にした。しかしこうして飯を食うという事は、持ち上げている弟子にとっても、持ち上げられている内供にとっても、決して容易な事ではない。一度この弟子の代わりをした中童子が、くしゃみをした拍子に手がふるえて、鼻をお粥の中へ落とした話は、当時の京都まで伝わった。けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ主な理由ではない。内供は本当はこの鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しんだのである。 池の尾の町の者は、こういう鼻をしている禅智内供のために、内供は僧侶で幸せだといった。あの鼻では誰も妻になる女がいるまいと思ったからである。中にはまた、あの鼻だから出家したのだろうと批評する者さえあった。しかし内供は、自分が僧であるために、少しでもこの鼻に煩わしい思いをすることが少なくなったと思っていない。
内供が鼻を持てあました本当の理由はなんですか。
内供は本当はこの鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しみました。
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国語
学士嬢の失踪 その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気がただよっているのに気がついたのが中学二年生の三田道夫だった。 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道、両側にうちつづいた思い思いの塀、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭や横丁の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停まっていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。 「あ、何かかわった出来事が起こったんだな」 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。 「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞こえそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知らせなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停まっている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。 道夫は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がついた。道夫は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。 「只今。お母さん……」 格子戸を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。 「あ、道夫かい。おかえりなさい」 母の声がすぐ聞こえた。それは別に取り乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。 「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」 「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」 「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」 道夫は、鞄を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。 「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」 「へえ、雪子姉さんが……」 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁なし眼鏡をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。 「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」 道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。 「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」 「変てこって」 「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」 母親は道夫のために小箪笥からおやつの果物をとりだして、紫檀の四角いテーブルのうえへならべながらいった。 「じゃあ、雪子姉さんは、はだしで家をでたんでしょう」 「ところが、そうとも思われないのよ。なぜってね、雪子さんは昨夜おそくまで自分の研究室で仕事をしていらしたの。そして研究室には内側からちゃんと鍵がかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。だから雪子さんは、研究室の中に必ずいなさらなければならないはずなのに、実際は、扉をうち破って調べてみても、雪子さんの姿がないのですってよ」 「へえ、それはふしぎだなあ」 内側から鍵をかけた密室の中から、雪子姉さんの姿が完全に消えてしまうなんて、そんなことがあっていいであろうか。 「ああ分かった。窓からでていったんでしょう」 「いいえ、窓も皆、内側から錠が下りていたのよ」 「じゃあ、研究室の外から鍵をかけて、でていったんじゃないかしら」 「ところがね、研究室の扉の鍵は、内側からさしこんだまんまになっているんだから、外から別の鍵をつかうわけにはいかないんですって」 「ふうん。それじゃ雪子さんは、煙になって煙突からでていったとしか思われませんね」 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。 「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年が、茶の間へ追っていきながらたずねたのはだれか。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。
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国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より少なく蜂を放した時の数を教えてください。
こびとの奴が私の鼻の先で蜂を放した時に、より少なく蜂を放した時の数は五匹です。
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家来たちは、むすこをつれだしはしましたが、いざ殺すとなると、かわいそうで、とてもそんなことはできません。で、そのまま、むすこをにがしてやりました。そのかわり、家来たちは子ジカの舌、子ジカの目を切りとって、それをむすこを殺した証拠の品として、伯爵のところへもってかえりました。 そこで、若者は旅にでかけました。しばらくして、とあるお城のまえにきましたので、ひと晩の宿をたのみました。 「よろしい。」 と、そのお城の城主がいいました。 「あの下の古い塔のなかで、夜をあかすつもりがあるなら、あそこへいきなさい。だが、そのまえに注意しておくが、命はないものと思いなさい。というのは、あの塔のなかには、山犬がいっぱいいて、ひっきりなしにほえたり、うなったりしているのだ。しかも、きまった時間ごとに、人間をひとりずつあのなかにいれてやらねばならんのだが、それをあの犬どもはたちまちくいつくしてしまうのだ。」 じつは、そのためにこの国がこまりきって、かなしみにしずんでいたのですが、だれにもどうすることもできなかったのです。ところが、若者はすこしもおそれるようすもなく、こういいました。 「まあ、わたしをそのほえくるっている犬のところへやってください。それから、なにか犬にやるものをください。だいじょうぶ、わたしに害をくわえるようなことはさせません。」 若者がどうしてもじぶんでいくといいはりますので、お城の人たちは山犬にやる食べものをいくらかわたして、それから若者を下の塔へつれていきました。 若者がなかへはいっていくと、犬どもはほえつくどころか、いかにもうれしそうにしっぽをふりながら、まわりによってきて、若者のなげてやるものを食べました。こうして、若者にはなんの害もくわえませんでした。 あくる朝、若者がかすり傷ひとつうけずに、元気なすがたをあらわしたときには、だれもかれもびっくりしました。若者は城主にむかっていいました。 「あの犬どもは、どうしてここに巣くって、この国に害をなしているのか、犬のことばでわたくしに話してくれました。じつは、あの犬どもは魔法をかけられておりまして、あの塔のなかにあるたくさんの宝ものの番をしていなければならないのです。そして、その宝ものがとりだされるまでは、いっときもやすむことができないのです。なお、どうしたら、その宝ものがとりだせるかということも、犬どもの話からききとってまいりました。」 これをきいた人たちは、みんな大いによろこびました。城主は、若者がこのことをうまくやりとげたら、じぶんのむすこにしようといいました。 若者はもういちど塔におりていきました。そして、どうしたらいいかちゃんとこころえていましたので、そのとおりにやって、黄金のいっぱいつまっている長持ちをはこびだしました。 それからというもの、犬のほえ声はまるできこえなくなりました。それどころか、犬はみんなどこかへいってしまって、こうしてこの国の難儀がすくわれたのです。 それからしばらくたったとき、若者は、ふと、ローマへいってみたくなりました。そのとちゅう、とある沼のほとりをとおりかかりますと、沼のなかでたくさんのカエルがガアガアないていました。若者は耳をすまして、カエルたちのしゃべっていることをきいているうちに、すっかりゆううつになって、かなしくなってきました。 ようやく若者はローマにつきましたが、ちょうどそのときは、法王がなくなって、法王の相談役の人たちは、だれをその後継のあとつぎにしたらよいか、たいへんまよっているところでした。みんなはいろいろまよったすえ、けっきょく、神さまの奇跡のあらわれた人を法王にえらぼうということに、意見がまとまりました。 ところが、ちょうどそういうことにきまったとき、伯爵のむすこが教会にはいってきたのです。と、とつぜん、どこからともなく、雪のように白いハトがとんできて若者の両方の肩にとまりました。坊さんたちはこれを見て、これこそ神さまのおつげだと思いましたので、すぐその場で若者にむかって、法王になってくれる気はないか、と、たずねました。 若者は、そんなりっぱな位につく値うちがじぶんにあるかどうかわかりませんので、しばらくためらってしまいましたが、ハトがしきりにすすめてくれるものですから、とうとう、 「承知しました。」 と、もうしました。 そこで、若者は聖油をぬってきよめられ、坊さんになる式をうけました。ここへくるとちゅう、カエルたちが、この人はやがて法王になるといっているのをきいたとき、若者はびっくりしましたが、こうしてとうとう、それがほんとうになってしまったのです。 若者は、ミサをおこなわなければなりませんでしたが、もちろん、そのやりかたはなんにも知りません。けれども、ハトがいつも両肩の上にとまっていて、なにからなにまで若者の耳にささやいてくれました。
家来たちがむすこを殺した証拠の品として伯爵のところにもってかえった物の数を教えてください。
家来たちがむすこを殺した証拠の品として伯爵のところにもってかえった物の数は2で、 「子ジカの舌」 「子ジカの目」 です。
JCRRAG_014158
国語
王妃は、私から航海の話を聞いたり、また私が陰気にしていると、いつもしきりに慰めてくださるのでしたが、あるとき私に、帆やオールの使い方を知っているか、少し舟でも漕いでみたら、健康によくはあるまいか、とお尋ねになりました。 私は、普通の船員の仕事もしたことがあるので、帆でもオールでも使えます、とお答えしました。だが、この国の船では、どうしたものか、それはちょっとわかりませんでした。一番小さい舟でも、私たちの国の第一流の軍艦ほどもあるので、私に漕げるような船は、この国の川に浮かべられそうもありません。しかし王妃は、私がボートの設計をすれば、お抱えの指物師にそれを作らせ、私の乗りまわす場所もこさえてあげる、と言われました。 そこで、器用な指物師が、私の指示にしたがって、十日かけて、一艘の遊覧ボートを作り上げました。オールにマスト、船具も全部そろっていて、ヨーロッパ人なら、八人は乗れそうなボートでした。ボートが出来上がると、王妃は非常に喜んでいました。国王はなんだか心配そうでした。恐らく私がボートを漕げるとは思っておらず、転覆してしまうのではないかと思っていたのでしょう。 国王は、まず試しに、私をそれに乗せて、水桶に水を一ぱい張って浮かせてみよ、と命じられました。しかし、そこの水桶は狭くて、うまく漕げませんでした。 ところが、王妃は、ちゃんと前から、別の水槽を考えていたのです。指物師に命じて、長さ三百フィート、幅五十フィート、深さ八フィートの、木の箱を作らせ、水の漏らないように、うまく目張りして、宮殿の部屋の壁際に置いてありました。水は、二人の召使が、半時間もかかればすぐ一ぱいにすることができます。そして、その箱の底には栓があって、水が古くなると抜けるようになっていました。 私はその箱の中を漕ぎまわって、自分の気晴らしをやり、王妃や女官たちを面白がらせました。彼女たちは、私の船員姿を大へん喜びます。それにときどき、帆を上げると、女官たちが扇で風を送ってくれます。私はただ舵をとっていればいいわけでした。彼女等があおぐのに疲れると、今度は侍童たちが口で帆を吹くのです。すると、私はおも舵を引いたり、とり舵を引いたりして、思うままに乗りまわすのでした。それがすむと、グラムダルクリッチは、いつも私のボートを自分の部屋に持って帰り、釘にかけて、かわかすのでした。 この水箱は、三日おきに水を替えることになっていましたが、あるとき、水を替える役目の召使が、うっかりしていて、二匹の雄カエルと一匹の雌カエルを手桶から一しょに流し込んでしまいました。はじめ、そのうちの一匹の蛙はじっと隠れていたのですが、私がボートに乗り込むと、うまい休み場所が出来たとばかりに、ボートの方に這い上って来ました。船はひどく一方へ傾くし、私はひっくりかえらないように、その反対側によって、うんと力を入れていなければなりません。"
ボートが出来上がったときの王妃と国王の反応の違いを教えてください。
器用な指物師が、私の指示にしたがって、十日かけて、遊覧ボートを作り上げました。ボートが出来上がると、王妃は非常に喜んでいました。 ですがその一方で、恐らく私がボートを漕げるとは思っておらず、転覆してしまうのではないかと思っていたのでしょう、国王はなんだか心配そうでした。
JCRRAG_014159
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帆村は十時間めに戻ってきた。 「どうした。心配していたぞ」 山岸中尉は喜んで、思わず帆村の手をとった。帆村の手は氷のように冷えきっていた。帆村の顔色は悪く、土色をしていた。そしてぶるぶると悪寒にふるえていた。 「どうした、帆村班員。報告しない前に、なんというざまか」 山岸中尉は、声をはげまして叱りつけた。それは帆村の気を引立たせるためだった。 「はいっ」帆村は大きく身ぶるいして、姿勢を正した。だがつぎの瞬間、崩れるようにへたへたと坐りこんでしまった。 「電信員。艇内から酒のはいった魔法壜をもってこい」 「はい。持ってきます」 山岸少年は大急ぎで艇によじのぼり、兄にいわれたものを探しあてて下りてきた。 一ぱいの香り高い日本酒が、帆村を元気づけた。土のようだった彼の顔色が目の下あたりからぽうっと赤くなりはじめ、彼の目が生々と光ってきた。 「どうした、帆村班員」 三度、山岸中尉は帆村にきいた。 「ああ、機長……」 帆村は山岸中尉の顔を仰ぎ、それから山岸少年の方を見、なおあたりをぐるぐると見廻した上で、ほっと息をついた。 「遅かったね。なにをしていたのか」 「はあ」と、帆村は喉をなでながら、 「できるだけ『魔の空間』を偵察してきました。報告することがたくさんあります。第一に、生きている竜造寺兵曹長の姿も見えました」 「えっ、竜造寺に会ったと……」 「そうです。兵曹長は、狭い透明な箱の中にとじこめられています。胸に重傷しているようです」 「ふうん。助けだせないか」 「いま考え中です。話をしたかったが、監視が厳重で、そばへよれませんでした」 「そうか。ではおれが助けにゆく」 「まあ、お待ちなさい、機長。まだお話があるのです。彗星一号艇の乗組員に会いました」 「えっ、一号艇は無事か」 「艇は無事だそうです。私は児玉法学士に会って、それを聞きました」 「望月大尉は健在か」 「はい、大尉も、電信員の川上少年も、軽傷を負っているだけで、まず大丈夫です。児玉法学士は大元気です。彼は緑鬼どもと強い押問答をやって、待遇改善をはかっています。私は彼とよく打合わせました。われわれは、けっして緑鬼どもに頭を下げないことにしました。そして彼らの弱点をついて、あべこべに彼らをわれらに協力させるのです」 「できるか、そんなことが」 「それについて児玉法学士は、一つの方法を考えていました。彼はきっとうまくやるでしょう」 「どういう方法か」 「要するに彼らを説き伏せ、まっすぐな道を歩かせるのです。しかし、もしもこのことが不成功のあかつきには、われわれは即刻この『魔の空間』から引揚げないと危険なのです」 「それはどういうわけか」 「これは私の調べた結果ですが、ミミ族という生物は、われわれ人間とはぜんぜんちがった先祖から生まれたものです。ですから、性格がすっかりちがっているのです。あのココミミ君は、もっとも人間に近い性質を示していますが、あれは人間学を勉強して、あれほど人間に近い性質を示すようになったのです。しかしミミ族は、生まれつきひじょうに残酷な生物です。人情などというものはなく、まるで鉄のように冷たい生物なのです。そのかわり正直この上なしです。ほしいと思うものにすぐ手を出して取り、強い者には頭を下げ、弱い者はすぐ殺すのです」 「どうして、そんなことがわかったのか」 「私が見てきたのです。山岸中尉、彼ら緑鬼は、動物の一種でもなく、また植物の一種でもないのですぞ」 「なんだって」山岸中尉はおどろきのあまり、思わず大きな声をたてた。 「君は途方もないことをいうね。生物といえば、動物と植物にきまっている。それ以外の生物というのがあるだろうか」 しかし帆村は言った。 「そういう理窟は、地球の上だけにあてはまるのです。他の世界へ行けば、かならずしもあてはまらないのだと思います」 「すると、いったいどういう種類の生物だというのかね、あのミミ族は……」 山岸中尉は、こめかみに指をたてて、むずかしい顔をした。帆村のいうことがわかりかねるのだ。もちろん誰にだってわかるはずはない。 「まだ判定の材料がすっかり集っていないから、しかとはいえませんが、私の考えるところでは、緑鬼ミミ族は、高等金属だと思います」 「なに、高等金属。わははは。君は気がどうかしているよ。わははは」山岸中尉は大声で笑った。帆村は、かくべつ腹をたてた様子もなく、真面目な顔をしていた。そして中尉の笑いのしずまるのを待っていた。 「金属が生きものだ。ふつうならば、そんなことを考えないよ。わははは。帆村君、しっかりしてくれよ」 中尉の笑いはなかなかとまらなかった。そこで帆村は、やむなく口を開いた。 「ちょっと待ってください。地球の上で、金属は生物だなどといっては、たいてい笑われるでしょう。しかし他の世界へ行けば、金属が生きものである場合があるのです」 「ばかばかしいことだ。それは暴論だよ」 そういわれても、帆村はひるまなかった。 「地球上に存在する金属の中にも、ほんの僅かの種類ですが、生物らしき現象を示すものがあるのです。それを言いましょう。ラジウムはアルファ、ベータ、ガンマ線を出して年齢をとり、ラジウム、エマナチオンになり、やがては鉛となります」 「そんなことが生物と言えるだろうか」 「生物に似ているではありませんか。また別のことを取上げましょう。無機物の集合体であるところの電波発振器は、空間へ電波を発射します。これは人体における脳細胞の、活動のときにともなう現象と同じです」 「それはこじつけだ」 「継電器はどうです。僅かの電気的刺戟によっていずれかへ動き出し、あげくの果は、大きなものを動かします。電波操縦もこの類です。人体における神経と、筋肉の関係そっくりではありませんか」 山岸中尉は、帆村が後から後へとならべる例について、心から同感だとはいいたくなかった。しかし聞いているうちに、なんとなく金属も生きているらしい気がしてきた。帆村は一段と声をはげまし、 「地球以外の星には、ラジウムよりも、もっと重い金属があって、おそろしい放射能を持っているものがあるのです。そういう奴は、ラジウムよりもずっと高等な生物ですよ。高等金属といったのは、そういう物質を指すのです」といったが、山岸中尉がまだ知らん顔をしているのを見ると、帆村は別なことをいい出した。 「機長。この『魔の空間』が、この前白根村に墜落したときに、なぜ私たちの目には見えなかったのか、そのわけを考えてごらんになったことがありますか」この質問は、山岸中尉をひじょうにおどろかせた。 「えっ、この前『魔の空間』が白根村に墜落したって。そんなことが、どうして……」
山岸中尉がミミ族について帆村に尋ねた際、帆村はミミ族がどのような特徴を持つと説明したか。
帆村は、ミミ族を見てきたことで、人間とは全く違う祖先を持ち、生まれつき残酷で情がなく冷酷だが、非常に正直で、欲しいものはすぐに奪い、強い者には従い、弱い者はすぐに殺すという独自の性質を持っていると説明した。
JCRRAG_014160
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ところがある年の秋、内供の仕事も兼ねて、京都へ行った弟子の僧侶が、知り合いの医者から長い鼻を短くする方法を教わって来た。その医者というのは、中国から渡って来た男で、当時は長楽寺の僧侶になっていたのである。 内供は、いつものように鼻などは気にかけないという雰囲気を出していて、わざとその方法もすぐにやって見ようとはいわずにいた。そうして一方では、気軽な口調で「食事するたびに弟子の手間をかけるのが心苦しいんだよなあ」みたいな事を言った。だが内心ではもちろん弟子の僧が、自分を説得して、この方法をやらせようとするのを待っていたのである。 弟子の僧にも、内供のこの策略がわからない筈はない。しかしそれに対する反感よりは、内供のそういう策略をとる心境の方が、より強くこの弟子の僧に同情させたのだろう。弟子の僧は、内供の予定通りに、この方法をやってみる事を非常に強い口調で勧め出した。そうして、内供自身もまた、その予定通り、結局この熱心なアドバイスを聞いてやってみる事になった。 その方法というのは、ただ、お湯で鼻を茹でて、その鼻を人に踏ませるという、極めて簡単なものであった。 お湯は寺の湯屋で、毎日沸かしている。そこで弟子の僧は、指も入れられないような熱い湯を、すぐに提げに入れて、湯屋から汲んで来た。しかし直接この提げに鼻を入れるとなると、湯気を浴びて顔を火傷する危険性がある。そこで折敷に穴をあけて、それを提の蓋にして、その穴から鼻を湯の中へ入れる事にした。鼻だけはこの熱い湯の中へ浸しても少しも熱くないのである。しばらくすると弟子の僧がいった。 もう茹で上がったんじゃないですかね? 内供は苦笑した。これだけ聞いたのでは、誰も鼻の話とは気がつかないだろうと思ったからである。鼻は熱湯に蒸されて、蚤に食われたようにむず痒い。 弟子の僧は、内供が折敷の穴から鼻をぬくと、そのまだ湯気の立っている鼻を、両足に力を入れながら、踏みはじめた。内供は横になって、鼻を床板の上へのばしながら、弟子の僧の足が上下に動くのを眼の前で見ているのである。弟子の僧は、時々気の毒そうな顔をして、内供の禿頭を見下ろしながら、こんな事をいった。 痛くないですか?医師は強く踏めと言ったものですから。痛くないですか? 内供は首を振って、痛くないという意思を伝えようとした。ところが鼻を踏まれているので思うように首が動かない。そこで、上目使いをして、弟子の僧の足にあかぎれが出来ているのを眺めながら、腹を立てたような声で、 痛くはない。 と答えた。実際鼻はむず痒い所を踏まれるので、痛いよりもかえって気持ちいいくらいだったのである。 しばらく踏んでいると、やがて、粟粒のようなものが、鼻へ出来始めた。例えるなら毛をむしった小鳥をそっくり丸焼きにしたような形である。弟子の僧はこれを見ると、足を止めて独り言のようにこういった。 これをピンセットで抜くと言ってましたね。 内供は、不満そうに頬をふくらませて、黙って弟子の僧のしたいようにさせた。もちろん弟子の僧の親切がわからない訳ではない。それは分かっていても、自分の鼻をまるで物のように取り扱うのが、不愉快に思われたからである。内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして、弟子の僧が、いやいや鼻の毛穴からピンセットで脂をとるのを眺めていた。脂は、鳥の羽の茎くきのような形をして、1.3センチばかりの長さにぬけるのである。 やがて一通り脂を取りおわると、弟子の僧は、ほっと一息ついたような顔をして、 もう一度、これを茹でればいいみたいですよ。 といった。 内供はやはり、眉間に八の字を寄せたまま不服そうな顔をして、弟子の僧の言いなりになっていた。 さて二度目に茹でた鼻を出して見ると、成程確かに今までないくらいに短くなっている。これではその辺にいる鍵鼻と大した変わりはない。内供はその短くなった鼻を撫でながら、弟子の僧の出してくれる鏡を、照れくさそうにおずおずと覗いて見た。 鼻はあのアゴの下まで下がっていた鼻は、ほとんど嘘のように縮み上がって、今はわずかに上唇の上で意気地なくなんとか残ってるようになっていた。ところどころが赤くなっているのは、恐らく踏まれた時の名残であろう。こうなれば、もう誰もわらうものはないにちがいない。鏡の中にある内供の顔は、鏡の外にある内供の顔を見て、満足そうに眼をパチパチさせていた。 しかし、その日はまだ一日中、鼻がまた長くなりはしないかという不安があった。そこで内供は声を出して経をとなえている時にも、食事をする時にも、暇さえあれば手を出して、そっと鼻の先にさわってみた。だが、鼻は行儀よく唇の上に納まっているだけで、それより下へぶら下がって来る様子もない。それから一晩寝て翌日早く眼がさめると内供はまず、第一に、自分の鼻を撫でて見た。鼻は依然として短い。内供はそこで、ここ数年なかったような、法華経の書写の功を積んだ時のような、のびのびした気分になった。
内供が弟子が教わって来た長い鼻を短くする方法をやろうとしなかったのはなぜですか。
内心では弟子の僧が、自分を説得して、この方法をやらせようとするのを待っていたからです。
JCRRAG_014161
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学士嬢の失踪 その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気がただよっているのに気がついたのが中学二年生の三田道夫だった。 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道、両側にうちつづいた思い思いの塀、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭や横丁の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付をして、道夫の方をじろじろと見るのだった。 あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停まっていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。 「あ、何かかわった出来事が起こったんだな」 それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。 「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」 もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞こえそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知らせなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停まっている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。 道夫は、植込の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がついた。道夫は、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。 「只今。お母さん……」 格子戸を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。 「あ、道夫かい。おかえりなさい」 母の声がすぐ聞こえた。それは別に取り乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。 道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。 「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」 「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」 「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」 道夫は、鞄を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。 「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」 「へえ、雪子姉さんが……」 道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁なし眼鏡をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。 「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」 道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。 「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」 「変てこって」 「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」 母親は道夫のために小箪笥からおやつの果物をとりだして、紫檀の四角いテーブルのうえへならべながらいった。 「じゃあ、雪子姉さんは、はだしで家をでたんでしょう」 「ところが、そうとも思われないのよ。なぜってね、雪子さんは昨夜おそくまで自分の研究室で仕事をしていらしたの。そして研究室には内側からちゃんと鍵がかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。だから雪子さんは、研究室の中に必ずいなさらなければならないはずなのに、実際は、扉をうち破って調べてみても、雪子さんの姿がないのですってよ」 「へえ、それはふしぎだなあ」 内側から鍵をかけた密室の中から、雪子姉さんの姿が完全に消えてしまうなんて、そんなことがあっていいであろうか。 「ああ分かった。窓からでていったんでしょう」 「いいえ、窓も皆、内側から錠が下りていたのよ」 「じゃあ、研究室の外から鍵をかけて、でていったんじゃないかしら」 「ところがね、研究室の扉の鍵は、内側からさしこんだまんまになっているんだから、外から別の鍵をつかうわけにはいかないんですって」 「ふうん。それじゃ雪子さんは、煙になって煙突からでていったとしか思われませんね」 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。 「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、わけがわからなくなって何をいったか。
自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついたのが中学二年生の少年は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。
JCRRAG_014162
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このラピュタの運命をつかさどっているのは、一つの大きな磁石です。磁石の真中に、心棒があって、誰でも、ぐるぐる回すことができるようになっています。 この磁石の力によって、島は、上ったり下ったり、一つの場所から他の場所へ動いたりするのです。磁石の一方の端は、島の下の領土に対して、遠ざかる力を持ち、もう一方の端は、近寄ろうとする力を持っています。 もし近寄ろうとする力を下にすれば、島は下ってゆきます。その反対にすれば、島は上ってゆきます。斜めにすれば、島は斜めに動きます。そして、磁石を土面と水平にすれば、島は停まっています。 この磁石をあずかっているのは、天文学者たちで、彼等は王の命令で、ときどき、磁石を動かすのです。 もし、下の都市が謀叛を起したり、税金を納めない場合には、国王は、その都市の真上に、この空飛ぶ島を持って来ます。こうすると、下では日もあたらず雨も降らないので、住民たちは苦しんでしまいます。また場合によっては、上から百個の大きな石や二千個の小石を都市めがけて落とします。こうなっては、住民たちは、地下室に引っ込んでいるよりほかはありません。 大抵は三日、長くても七日で下の都市の住民達は降参するそうです。 だが、それでもまだ王の命令に従わないと、最後の手段を取ります。それは、この島を彼らの頭の上に落としてしまうのです。こうすれば、家も人も何もかも、一ぺんにつぶされてしまいます。 しかし、これはよくよくの場合で、めったにこんなことにはなりません。王もこのやり方を喜んでいません。それにもう一つ、これには困ることがあるのです。つまり、都市には高い塔や柱などが立ち並んでいるので、その上に島を落すと、島の底の石が割れるおそれがあります。もし底の石が割れたりすると、磁石の力がなくなって、たちまち島は地上に落っこちてしまうことになるのです。
空飛ぶ島から下の都市めがけて落とす石のうち、数が多いほうを教えてください。
空飛ぶ島から下の都市めがけて落とす石のうち、数が多いのは小石で二千個です。
JCRRAG_014163
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むかし、ある男に七人のむすこがありました。けれども、むすめはひとりもいませんでした。それだけに、この男はむすめをたいそうほしがっていました。 そのうちに、おかみさんのおなかが大きくなって、子どもが生まれそうになりました。やがて生まれた子どもは、待ちにまっていた女の子でした。 この男はどんなによろこんかもしれません。けれども、子どもは小さくて、やせこけていました。そして、からだがよわいため、すぐにかりの洗礼をうけさせなければなりませんでした。 おとうさんは、男の子のひとりをおおいそぎで泉にやって、洗礼の水をもってこさせようとしました。すると、ほかの子どもたちも、いっしょにかけていきました。そして、みんなが競争で水をくもうとしたものですから、つぼが手からすべって、泉のなかにおちてしまいました。 みんなはぼんやりつっ立ったまま、どうしていいかわかりません。そして、だれひとりうちにかえろうとはしませんでした。 おとうさんは、いつまでたってもだれもかえってこないので、いらいらして、いいました。 「きっと、またあそびにむちゅうになって、用事をわすれちまったんだな。しょうのないやつらめ。」 そのうちに、ぐずぐずしていると、女の子が洗礼もうけないうちに、死んでしまいはしないかと、心配になってきました。それで、ぷんぷん腹をたてて、 「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」 と、どなりました。 ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタ、バタいう、羽の音がきこえてきました。空をながめますと、炭のようにまっ黒なカラスが、高くまいあがって、とびさっていきます。 おとうさんとおかあさんは、さっきののろいのことばを、もうとりけすことはできません。ふたりは、七人のむすこをなくしたことを、たいそうかなしみました。でも、かわいらしい女の子がさずかりましたので、それでいくらかはなぐさめられました。 女の子は、まもなく力もついて、一日ごとに美しくなりました。 女の子は、じぶんににいさんたちのあったことを、長いあいだ知りませんでした。というのは、おとうさんもおかあさんも、この子のまえで、にいさんたちのことを話さないように気をつけていたからです。 でも、とうとうある日、みんながこの子のうわさをして、 「あの子は美しいけれども、七人のにいさんたちがあんなにひどいめにあったのは、もとはといえば、あの子のせいなんだからなあ。」 と、いっているのを耳にしました。 女の子は、すっかりかなしくなってしまいました。そして、おとうさんとおかあさんのところへいって、 「あたしには、にいさんたちがいたんですか。そして、そのにいさんたちはどこへいってしまったんですか。」 と、たずねました。おとうさんとおかあさんも、もうこれ以上、この秘密をかくしておくわけにはいきません。そこで、 「でも、にいさんたちがそうなったのは、神さまがおきめになったことで、おまえが生まれてきたためではないよ。」 と、もうしました。
女の子が生まれて、ある男の子どもは何人になりましたか。
女の子が生まれて、ある男の子どもは8人になりました。
JCRRAG_014164
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ひどく寒い日でした。 雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜 —— 今年さいごの夜でした。 この寒さと暗闇の中、一人のあわれな少女が道を歩いておりました。 頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。 家を出るときには靴をはいていました。 ええ、確かにはいていたんです。 でも、靴は何の役にも立ちませんでした。 それはとても大きな赤い靴で、 これまで少女のお母さんがはいていたものでした。 たいそう大きい靴でした。 かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、少女はその靴をなくしてしまいました。 二台の馬車が猛スピードで走ってきたからです。 片方の赤い靴はどこにも見つかりませんでした。 もう片方は浮浪児が見つけ、走ってそれを持っていってしまいました。 その浮浪児は、いつか自分に子どもができたらゆりかごにできると思ったのです。浮浪児は笑顔で走っていきました。 それで少女は手にもう片方の靴を持ったまま小さな裸の足で歩いていきました。 両足は冷たさのためとても赤く、また青くなっておりました。少女はすっかり悲しい顔で歩いています。少女は古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、 手に一たば持っていました。 日がな一日、誰も少女から何も買いませんでした。 わずか一円だって少女にあげる者はおりませんでした。
大きな赤い靴を一側ずつ持った少女と浮浪児の違いを教えてください。
片方の赤い靴は浮浪児が見つけ、走ってそれを持っていってしまいました。 その浮浪児は、いつか自分に子どもができたらゆりかごにできると思ったのです。浮浪児は笑顔で走っていきました。 もう一方の少女は手に片方の靴を持ったまま小さな裸の足で歩きました。 両足は冷たさのためとても赤く、また青くなっておりました。少女はすっかり悲しい顔で歩いています。
JCRRAG_014165
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一方、竜造寺兵曹長を救いだすことであったが、これは帆村と山岸少年の二人が力をあわせて決行した。 竜造寺兵曹長は、一人牢の中にいれられていた。そのわけは、兵曹長はここへとびこむと、たいへん怒って、ミミ族を相手にさんざんあばれたのだ。それがために兵曹長は、重傷を足に負い、出血多量で人事不省になってしまった。そこでミミ族は、ようやく兵曹長をかついで、一人牢の中へ移すことができた。 帆村は、竜造寺兵曹長の一人牢のあるところを知っていたので、そこへ山岸少年をつれていった。 兵曹長は、いきなり日本人の顔が二つ現れたのでおどろいた。しかもよく見ると、その一人は帆村であったし、もう一人は自分の上官の愛弟であったから、夢かとばかりよろこんだ。 だが双方は、手を握りあうわけにいかなかった。その間には透明な壁があって近づくことができなかったのである。しかも一方から声をかけても、相手にとどかなかった。密閉した壁が、それをさまたげているのだ。 帆村は、かねてそれに気がついていたので、山岸少年をつれてきたのだった。少年は、帆村のいうことを、手旗信号でもって兵曹長に通じた。もちろん旗は持っていないから、手先を動かして信号したのである。 兵曹長の目はかがやいた。兵曹長はさかんにうなずきながら、やはり手を動かして、返事を信号にしてよこした。 こうして双方の連絡はついた。 兵曹長は、この牢の外側に、錠がおりているらしいと言った。もちろんそれは透明だから見えなかった。しかし兵曹長がその位置を教えたので、帆村は手さぐりで、そのありかを探しあてた。幸いにも、それは外側からつっかい棒のようなものをしてあるだけのことであったから、帆村はすぐはずすことができた。大成功である。神の御加護にちがいない。 が、兵曹長を今ここからだすことは、ミミ族に見つかって、脱出のさまたげになるから、もうしばらく中にいてもらうことにした。そして帆村は、脱出の用意ができたら、かならず迎えにくるからと、兵曹長に言って、山岸少年とともにそこを離れた。 機のところへもどってくると、山岸中尉は待ちかねていた。兵曹長を救うことはわけなしだと聞いて、中尉のよろこびは大きかった。 そこでいよいよ脱出準備にかかることとなったが、ミミ族がここへ食事をはこんでくるのが十三時だから、そのすぐ後で、爆弾を正面の壁のところへはこぶこととした。 あとはなにを何時何分にすると、くわしい時刻表をこしらえて、三人は手わけしてそれを持った。 ミミ族はいつもの三人づれで、十三時にちゃんと食事を持ってきて、すぐ帰ってしまった。なにも知らないらしい。 いよいよ決行だ。 うまく脱出に成功するか、それとも押しもどされるか、こなみじんになるか。 今となっては一ばん気になることは、噴射艇のエンジンをかけて、燃料をたきはじめてから、全速力で出発するまでの時間のことだ。これはどんなに手際よくやっても三十秒はかかるのである。この三十秒のうちに、ミミ族に発見され、そして出発をさまたげるような手段をとられたら、せっかくの計画もだめである。 が、そんなことを、いまさら心配していてもしようがない。こうなったら、腹をきめて、さらりとやってのけるのがいいのだ。 帆村は山岸中尉とともに力をあわせて、爆弾を壁のところへはこんだ。爆風が艇の方へこないように、不要の機械を置いて防いだ。 山岸少年は、ひとりで竜造寺兵曹長を救いだしにいった。それが帰ってくるころには、爆弾は全部はこびおわるはずであった。 誰が時間をまちがっても、この脱出計画はうまくいかなくなるのだ。 だが幸いにも、万事すらすらといった。 山岸中尉と帆村が、最後の爆弾をかついで艇を出発するとき、少年は竜造寺兵曹長をつれてもどってきた。 「あ、山岸中尉……」 竜造寺兵曹長は、山岸中尉の姿を見ると、感きわまって、足をひきずりながら駆けよろうとする。それを中尉は、叱るようにして押しとどめ、帆村をうながして爆弾をかついで走りだした。 爆裂の時限をちゃんとあわせた。あと一分五十秒で爆裂するのだ。 一分二十秒で駆けもどって機内にはいり、十秒で扉をとじ、エンジンの燃料に点火する。あと二十秒でエンジンは全速力を出してもいいようになる。と、爆裂が起る。すぐ出発だ。穴の中をくぐりぬけるまでに、時間は二秒とかからないであろう。これが計画だった。 「それ、急げ」 山岸中尉は、帆村の腕をひっぱるようにして、艇の方へ駆けだした。 艇の入口には、山岸少年の心配そうな顔がのぞいていた。帆村を先へはいらせて、最後に中尉が梯子をのぼる。梯子はぽんと外へ蹴とばし、扉をぴたりと閉める。気密扉だから、全部を閉めるまでに十秒かかるのだ。 「そら、燃料点火だ」 帆村は、時計を見ていて、一秒ちがわず点火する。エンジンは働きだした。 艇ははげしく震動し、尾部からは濛気が吹きだす。この三十秒が、命の瀬戸際だ。どうぞミミ族よ、気がつかないように……。 だが、それは無理だった。このような爆音、このような震動、そして濛気だ。どうしてミミ族に知られないでいるだろうか。 早くも十秒後には、こっちへ駆けてくる緑鬼ミミ族の姿が見られた。 「ちえっ、見つかったか。どうします、機長」 帆村はピストルを握って、山岸中尉の方へ向いた。操縦席の中尉は泰然自若として、 「かまわん。ほっておけ」 これがほっておけるだろうか。帆村は気が気でない。二十秒たった。あと十秒だ。 ミミ族は、扉をあけようと、艇を外からがんがんたたいている。翼の上にはいあがった者もいる。艇にぶらさがっている者もある。 しかし山岸中尉は平気な顔で、計器盤にはめこんである、時計の秒針の動きを見つめている。 そのときだった。前方に一大閃光が起った。と、その爆風で、艇はうしろへ押しもどされた。 「出発――」 たたきつけるような山岸中尉の声。がくんとハンドルは引かれ、スロット(飛行機の両翼にある墜落をふせぐ仕掛)は変えられた。気をうしなうほどのはげしい衝動。艇は矢のように飛びだした。一大閃光の中心部へ向かって……。
帆村と山岸少年は、牢にいる竜造寺兵曹長とどのようにして意思疎通を図ったか。
帆村と山岸少年は、竜造寺兵曹長と密閉した透明な壁のせいで直接会話することは出来なかったが、手旗信号の要領で手先を動かして兵曹長と意思疎通を図った。
JCRRAG_014166
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ところが二・三日経ってくると、内供は意外な事実を発見した。それはその頃に、用事があって池の尾の寺を訪れた侍が、前よりも一段と面白そうな顔をして、話もろくにしないで、内供の鼻ばっかりじろじろと眺めていた事である。 それだけではなく、かつて、内供の鼻を粥の中へ落とした事のある中童子なぞは、講堂の外で内供と行きちがった時に、始めは、下を向いて笑いをこらえていたが、とうとう耐え切れなかったのか、ブッと吹き出してしまった。用事を言い渡された下法師たちが、面と向かっている間だけはつつしんで聞いていても、内供が後ろを向いたら、すぐにくすくす笑い出したのは、一度や二度の事ではない。 内供ははじめ、これを自分の顔が変わってしまったせいだと解釈した。しかしどうもこの解釈だけでは十分に説明がつかないようである。もちろん、中童子や下法師が笑う原因は、そこにあるのにちがいない。けれども同じ笑うにしても、鼻の長かった昔とは、笑っている内容の意味が違うように思えた。見慣れた長い鼻より、見慣れない短い鼻の方が滑稽に見えるといえば、それまでである。が、そこにはまだ何かあるらしい。 前はあのようにバカ笑いしなかった。 内供は、音読しかけた経文をやめて、禿頭を傾けながら、時々こうつぶやいていた。愛すべき内供は、そういう時になると、必ずぼんやり、近くにかけた普賢の画像を眺めながら、鼻の長かった四・五日前の事をおもい出して、「今落ちぶれてしまった人が、昔の良かった時代を思い出すかのように」ふさぎこんでしまうのである。内供には、残念ながらこの問題に答えを見出すための知恵が欠けていた。 人間の心にはお互いに矛盾した二つの感情がある。もちろん、他人の不幸に同情しない者は誰もいない。ところがその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような気持ちになる。少し誇張していえば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れてみたいような気にさえなってしまう。そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事になる。内供が、理由を知らないながらも、何となく不快に思ったのは、池の尾の僧俗の態度に、この傍観者の利己主義をそれとなく感づいたからにほかならない。 そこで内供は日毎に機嫌が悪くなった。二言目には、誰でも意地悪く叱りつける。しまいには鼻の治療をしたあの弟子の僧でさえ、「内供は法慳貪の罪を受けるぞ」と陰口を言うほどになった。なにより内供を怒らせたのは、例のいたずらな中童子である。ある日、うるさく犬の吠える声がするので、内供が何気なく外へ出て見ると、中童子は、二尺ばかりの木の片きれをふりまわして、毛の長い、痩せた犬いぬをおいまわしている。それもただ、おいまわしているのではない。「鼻を打たれないようにしろよ。それ、鼻を打たれないようしろ」とからかいながら、おいまわしているのである。内供は、中童子の手からその木の片をひったくって、したたかにその顔を打った。木の片は以前鼻を持ち上げていた木だったのである。 内供は無理に、鼻を短くしたのがかえって恨めしく思うようになった。 するとある夜の事である。日が暮れてから急に風が出たと見えて、塔の風鐸の鳴る音が、うるさいほど寝ている所に響いて来た。その上、寒さもひどくなってきたので、老年の内供は寝ようとしてもなかなか眠れなかった。そこで床の中でじっとしていると、ふと鼻がいつになく、むず痒いのに気がついた。手をあてて見ると少し水気が来たようにむくんでいる。どうやらそこだけ、熱を持っているようだ。 無理に短くしたから、病気になったのかもしれないな。 内供は、仏前に香花を供えるような丁寧な手つきで、鼻を抑えながら、こう呟いた。 翌朝、内供がいつものように早く眼をさますと、寺内の銀杏や橡が一晩で葉を落としたので、庭は黄金を敷いたように明るい。塔の屋根に霜が下りているせいであろう。まだうすい朝日に、九輪がまばゆく光っている。禅智内供は、障子を開けて縁側に立って、深く息をすいこんだ。 ほとんど忘れようとしていたある感覚が、再び内供に帰って来たのはこの時である。 内供は慌てて鼻へ手をやった。手にさわるものは、昨夜の短い鼻ではない。上唇の上からあごの下まで、五・六寸あまりもぶら下がっている、昔の長い鼻である。内供は鼻が一夜の中に、また元の通り長くなったのを知った。そうしてそれと同時に、鼻が短くなった時と同じような、はればれした気持ちが、どこからともなく帰って来るのを感じた。 こうなれば、もう誰もわらうものはないにちがいない。 内供は心の中でこう自分にささやいた。長い鼻を明け方の秋風にぶらつかせながら。
内供は意外な事実を発見したが、それをどう解釈したか。
内供は自分の顔が変わってしまったせいだと解釈しました。
JCRRAG_014167
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その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。 なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。 その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとりが道ばたや畑にさいているさまざまな花をむしってくる。そして地べたに茶飲茶碗ほどの――いやもっと小さい、さかずきほどの穴をほりその中にとってきた花をいい按配に入れる。それから穴に硝子の破片でふたをし、上に砂をかむせ地面の他の部分とすこしもかわらないようにみせかける。 「ようしか」とおにが催促する、「もうようし」と合図する。するとおにが眼をあけてきてそのあたりをきょろきょろとさがしまわり、ここぞと思うところを指先でなでて、花のかくされた穴をみつけるのである。それだけのことである。 だがその遊びに私たちが持った興味は他の遊びとはちがう。おににかくしおおせて、おにを負かしてしまうということや、おにの方では、早くみつけて早くおにをやめるということなどにはたいして興味はなかった。もっぱら興味の中心はかくされた土中の一握の花の美しさにつながっていた。 砂の上にそっとはわせてゆく指先にこつんとかたいものがあたるとそこに硝子がある。硝子の上の砂をのける。だがほんのすこし。ちょうど人さし指の頭のあたる部分だけ。穴からのぞく。そこには私たちのこのみなれた世界とは全然別の、どこかはるかなくにの、おとぎばなしか夢のような情趣を持った小さな別天地があった。小さな小さな別天地。ところがみているとただ小さいだけではなかった。無辺際に大きな世界がそこに凝縮されている小ささであった。そのゆえにその指さきの世界は私たちをひきつけてやまなかったのである。 いつもその遊びをしたわけではない。それをするのは夕暮が多かった。木にのぼったり、草の上をとびまわったり、はげしい肉体的な遊戯につかれてきて、夕まぐれの青やかな空気のなごやかさに私たちの心も何がなしとけこんでゆくころにそれをした。それをする相手も、たれであってもかまわぬというのではなかった。第一そんな遊びを頭からこのまないなかまもあった。女の子はたいていすきだった。 ふたりいればできると私はいったが、ひとりでもできないことはなかった。私はひとりでよくした。ただひとりのときは自分がふたりになってするだけのことである。つまり花をとってかくしておき、そこからすこしはなれたところへできうべくんば家の角を一つまわったところまで、いっておにになり、眼をとじて百か二百かぞえ、それからさがしに出かけるのである。 だがそれをひとりでするときは心に流れるうらわびしさが、硝子の指先にふれる冷たさや、土のしめっぽい香や、美しい花の色にまでしみて余計さびしくなるのだった。 ふたりか三人でその遊びをしたあと、家へ帰る前に美しい作品を一つ土中にうめておきそのまま帰ることもあった。その夜はときどきうめてきた花のことを思い出し床の中でも思い出してねむるのである。 そんなとき土中のその小さな花のかたまりは私の心の中のたのしい秘密であって、母にもたれにも話さない。つぎの朝いってさがしあててみると、花は土のしめりですこしもしおれずしかし明るい朝の光の中ではやや色あせてみえ私はそれと知らず幻滅を覚えたのであった。また前の晩にうめておいた花のことをつぎの朝、子ども心の気まぐれにわすれてしまうこともあった。そういう花が私たちにわすられたままたくさん土にくちてまじったことだろう。 私たちは家に帰る前に、また、そのとき使った花や葉を全部あつめほんとうに土の中に土をもってうめ、上を足でふんでおくこともあった。遊びのはてにするこの精算は私の心に美しいもの純潔なものをもたらした。子どもでありながらなんといじらしいことをしたものだろう。
なぜその遊びは他の遊びと異なる魅力を持っていたのか。
その遊びは単なる勝敗ではなく、隠された花の美しさを見つけることに価値があったから。
JCRRAG_014168
国語
つぎの朝はやく、まだ子どもたちが目をさまさないうちに、ばあさんはもう起きだしました。そして、ふたりが、まんまるの、赤いほっぺたをして、かわいらしく、すやすやとねむっているすがたを見ますと、 「こいつは、いいごちそうにならあね。」 と、つぶやきました。 それから、ばあさんはやせこけた手でヘンゼルをつかまえると、小さい小屋のなかにつれていって、格子戸をピシャンとしめてしまいました。ですから、ヘンゼルがいくらわめいても、なんにもなりませんでした。それから、ばあさんはグレーテルのところへいって、ゆりおこしました。そして、 「さっさとおきるんだ、なまけものめ。水をくんできて、おまえのにいさんに、なんかうまいものでもこしらえてやんな。あいつは、そとの小屋にいるがな、せいぜいふとらせてやるんだ。ふとったところで、このあたしがごちそうになるのさ。」 と、どなりつけました。 グレーテルは、わあっとはげしく泣きだしました。でも、いまとなっては、どうしようもありません。グレーテルは、わるい魔法使いのいうとおりのことをしなければなりませんでした。 こうして、かわいそうなヘンゼルは、魔法使いから毎日焼きたてのパンを五個、鳥の肉を十枚やりんごを二十個もらったりと上等のごちそうをもらいましたが、それにひきかえ、グレーテルのほうは、魔法使いからザリガニのこうらをもらったきりでした。毎朝毎朝、ばあさんは小屋のところへいって、 「ヘンゼル、指をだしなさい。ぼちぼち、ふとってきたかどうか、さわってみるんじゃ。」 と、わめきました。 いわれて、ヘンゼルは、食べ残した骨を一本、ばあさんのほうへつきだしました。ところが、ばあさんは目がかすんでいましたので、骨とは気がつかずに、それをヘンゼルの指だとばかり思いこみました。そして、ヘンゼルはどうしてふとらないのかと、ふしぎでふしぎでなりませんでした。 それから、四週間たちましたが、ヘンゼルはあいかわらずちっともふとりません。それで、ばあさんもかんしゃくをおこして、もうこれ以上、がまんができなくなりました。 「やい、グレーテル。」 と、ばあさんは小さい妹にむかってどなりつけました。 「とんでって、水をくんできな。ヘンゼルのやつめ、やせていようと、ふとっていようと、あしたは、あいつをぶち殺して、煮てしまうんだ。」 ああ、かわいそうに、小さい妹は、水をくみにやらされたとき、どんなになげきかなしんだことでしょう。そして、ほおの上を、どんなにたくさんの涙がながれおちたことでしょう。 「ああ、神さま、どうかあたしたちをおたすけください。」 と、グレーテルは大声でさけびました。 「こんなことなら、いっそのこと、森のなかでけものに食べられるほうがよかったわ。だって、そんなら、おにいさんといっしょに死ねたんですもの。」 「うるさい。さわぐんじゃない。いくらわめいたって、なんにもなりゃしないんだぞ。」 と、ばあさんはいいました。 つぎの朝はやく、グレーテルはおもてへでて、水をいっぱいいれたおかまをつるし、火をたきつけさせられました。 「さきにパンを焼くんだ。」 と、ばあさんはいいました。 「かまどには、もう火がはいっているし、それに、パン粉もねってあるんだから。」 ばあさんは、かわいそうなグレーテルを、パン焼きかまどのほうへつきとばしました。かまどからは、もう、ほのおがめらめらともえでています。 「なかにはいりこんで、火がよくまわっているかどうか、見るんだ。よかったら、パンをいれるからな。」 と、魔法使いはいいました。 もしグレーテルがなかにはいったら、ばあさんはかまどのふたをしめてしまうつもりでした。そうすれば、グレーテルはなかで焼き殺されてしまいます。そこで、ばあさんはグレーテルをも、ぺろりと食べてしまう腹だったのです。 「どうやってなかにはいるんですか。」 と、グレーテルはいいました。 「ばかやろう。かまどの口は、こんなに大きいじゃないか。ほれみろ、このわしだってはいれるくらいだ。」 ばあさんは、こういいながら、よちよち歩いていって、かまどのなかに頭をつっこみました。このときとばかり、グレーテルは、どんとばあさんをつきとばしましたから、ばあさんはかまどのずっとおくのほうへとびこんでしまいました。グレーテルはすばやく、鉄の戸をバタンと閉めて、掛け金をかけました。ううっ、と、ばあさんはほえだしました。それはそれはものすごいうなり声でした。けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの魔法使いは、むごたらしく焼け死んでしまったのです。 グレーテルはすぐにヘンゼルのところへとんでいって、小屋の戸をあけるなり、 「にいちゃん、あたしたち、たすかったわ。魔法使いのおばあさんは、死んじゃったのよ。」 と、さけびました。 戸があいたとたんに、ヘンゼルは、鳥がかごからとびだすように、ぱっととびだしてきました。その時、ふたりは、どんなにうれしかったことでしょう。お互いに首にだきついて、そこらじゅうをかけまわっては、キッスをしあいました。 いまはもう、こわいものはなんにもありません。ふたりは、魔法使いのうちのなかにずんずんはいっていきました。うちのなかには、真珠や宝石のいっぱいつまった箱が、あっちのすみにも、こっちのすみにも、ごろごろしていました。 「これは、小石なんかよりずっといいや。」 と、ヘンゼルはいいながら、ポケットというポケットに、つまるだけつめこみました。すると、グレーテルも、 「あたしもすこし、おみやげにもっていこうっと。」 と、いって、まえかけにいっぱいいれました。 「だけど、もういこうよ。」 と、ヘンゼルはいいました。 「ぼくたち、はやく魔法使いの森からでるんだ。」
ヘンゼルが魔法使いからもらったごちそうで一番数が多い食べ物はなんですか。
ヘンゼルが魔法使いからもらったごちそうで一番数が多い食べ物はりんごで二十個です
JCRRAG_014169
国語
むかし、ある男に七人のむすこがありました。けれども、むすめはひとりもいませんでした。それだけに、この男はむすめをたいそうほしがっていました。 そのうちに、おかみさんのおなかが大きくなって、子どもが生まれそうになりました。やがて生まれた子どもは、待ちにまっていた女の子でした。 この男はどんなによろこんかもしれません。けれども、子どもは小さくて、やせこけていました。そして、からだがよわいため、すぐにかりの洗礼をうけさせなければなりませんでした。 おとうさんは、男の子のひとりをおおいそぎで泉にやって、洗礼の水をもってこさせようとしました。すると、ほかの子どもたちも、いっしょにかけていきました。そして、みんなが競争で水をくもうとしたものですから、つぼが手からすべって、泉のなかにおちてしまいました。 みんなはぼんやりつっ立ったまま、どうしていいかわかりません。そして、だれひとりうちにかえろうとはしませんでした。 おとうさんは、いつまでたってもだれもかえってこないので、いらいらして、いいました。 「きっと、またあそびにむちゅうになって、用事をわすれちまったんだな。しょうのないやつらめ。」 そのうちに、ぐずぐずしていると、女の子が洗礼もうけないうちに、死んでしまいはしないかと、心配になってきました。それで、ぷんぷん腹をたてて、 「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」 と、どなりました。 ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタ、バタいう、羽の音がきこえてきました。空をながめますと、炭のようにまっ黒なカラスが、高くまいあがって、とびさっていきます。 おとうさんとおかあさんは、さっきののろいのことばを、もうとりけすことはできません。ふたりは、七人のむすこをなくしたことを、たいそうかなしみました。でも、かわいらしい女の子がさずかりましたので、それでいくらかはなぐさめられました。 女の子は、まもなく力もついて、一日ごとに美しくなりました。 女の子は、じぶんににいさんたちのあったことを、長いあいだ知りませんでした。というのは、おとうさんもおかあさんも、この子のまえで、にいさんたちのことを話さないように気をつけていたからです。 でも、とうとうある日、みんながこの子のうわさをして、 「あの子は美しいけれども、七人のにいさんたちがあんなにひどいめにあったのは、もとはといえば、あの子のせいなんだからなあ。」 と、いっているのを耳にしました。 女の子は、すっかりかなしくなってしまいました。そして、おとうさんとおかあさんのところへいって、 「あたしには、にいさんたちがいたんですか。そして、そのにいさんたちはどこへいってしまったんですか。」 と、たずねました。おとうさんとおかあさんも、もうこれ以上、この秘密をかくしておくわけにはいきません。そこで、 「でも、にいさんたちがそうなったのは、神さまがおきめになったことで、おまえが生まれてきたためではないよ。」 と、もうしました。
水をくもうとしたのは何人ですか。
水をくもうとしたのは7人です。
JCRRAG_014170
国語
ひらひらと舞い降りる雪が少女の長くて金色の髪を覆いました。 その髪は首のまわりに美しくカールして下がっています。 でも、もちろん、少女はそんなことなんか考えていません。 どの窓からも蝋燭の輝きが広がり、 鵞鳥を焼いているおいしそうな香りがしました。 ご存知のように、今日は大みそかです。町中が新年を前に浮足立っています そうです、少女はそのことを考えていたのです。 二つの家が街の一角をなしていました。 そのうち片方が前にせり出しています。 少女はそこに座って小さくなりました。 引き寄せた少女の小さな足は体にぴったりくっつきましたが、 少女はどんどん寒くなってきました。 けれど、家に帰るなんて冒険はできません。 マッチはまったく売れていないし、 たったの一円も持って帰れないからです。 このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。 それに家だってぼろぼろで寒いのです。 大きなひび割れだけは、わらとぼろ切れでふさいでいますが、 上にあるものは風が音をたてて吹き込む天井だけなのですから。 この壁の向こうの家では暖炉に薪がくべられて、あたたかな絨毯が敷かれ、とても暖かそうな家の中で知らない家族がにこやかに笑っています。
少女の家と、壁の向こうの家の違いを教えてください。
少女はどんどん寒くなってきましたが、家に帰るなんてできません。 マッチはまったく売れていないし、このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。 それに家だってぼろぼろで寒いのです。 大きなひび割れだけは、わらとぼろ切れでふさいでいますが、 風が音をたてて吹き込んでいるのです。 一方、この壁の向こうの家では暖炉に薪がくべられて、あたたかな絨毯が敷かれ、とても暖かそうな家の中で知らない家族がにこやかに笑っています。
JCRRAG_014171
国語
自爆か、「魔の空間」から離脱か。 不幸と幸運とが、紙一枚の差で背中あわせになっているのだ。 彗星二号艇にのっている四人の勇士たちは、艇が全速力で一大閃光の中にとびこんだまではおぼえているが、それにつづいて起ったことを知っている者はひとりもなかった。 それでいて、山岸中尉は、ちゃんと操縦桿を握りしめていた。帆村荘六は、気密室から空気が外へもれだしはしまいかと、計器をにらみつけていた。 山岸少年は、いつでも命令一下、地上の本隊へ無電連絡ができるようにと、左手で無電装置の目盛板を、本隊の波長のところへぴったり固定し、右手の指で電鍵を軽くおさえていた。 重傷の竜造寺兵曹長は、むりに起きあがって、窓外の光景へ見張の目を光らせていた。 だが、この四人が四人とも、この姿勢のままで人事不省におちいっていたのだ。 そのことは四人のうちの誰もが知らなかった。そして艇は人事不省の四人の体をのせたまま、闇黒の成層圏を流星のように光の尾をひき、大地にむかって隕石のような速さで落ちていくのであった。「魔の空間」を出発するときの初速があまり大きかったので、四人とも脳をおされて、気がとおくなってしまったのである。 艇は重力のために、おそろしく落下の加速度を加えつつ、身ぶるいするほど速く落ちていく。空気の摩擦がはげしくなって、艇の外側はだんだん熱をおびてきた。このいきおいで落下がつづけば艇はぱっと燃えだし、燐寸箱に火がついたように、一団の火の塊となるであろう。 だが、まだ四人とも、誰もそれに気がつかない。 艇の危険は、刻々にましていった。 どこからともなく、しゅうしゅうという音が聞えはじめた。それは気密室から艇外にもれはじめた空気が、艇の外廓の、破れ穴を通るときに発する音だった。 室内の気圧はだんだん下っていき、がっくりとたれた帆村の頭の前で、気圧計の針はぐるぐると廻っていった。ああ、この有様がつづけば、四人とも呼吸困難になって、死んでしまわなければならない。 「魔の空間」から、幸いにものがれることができたが、このままでは、彗星二号艇は、刻々と最後に近づくばかりであった。 こういう戦慄すべき状態が、あと十五分間もつづいたら、もうとり返しのつかない破局にまでたどりついたであろう。 だが、そうなる少し前に、――くわしくいえば十三分たった後のこと、この艇内において、一人だけがわれにかえったのである。 「うむ、酸素だ。酸素マスクはどこか……」 うなるようにいったのは、重傷の竜造寺兵曹長であった。さすがは海軍軍人として、ながい間鍛えてきただけのことはあって、誰よりも早くわれにかえったのである。 「あっ、これはいかん。おう、たいへんだ」 兵曹長は、艇が危険の中にあることに気がついた。起上ろうとしたが、体に力がはいらなかった。 「おい、起きろ、起きろ。たいへんだぞ」 兵曹長は手をのばして、手のとどくところにいた山岸少年をゆり起した。 「ああっ……」 少年は、うっすりと目を開いた。 「おいっ、おれの体を起してくれ。操縦席へいくんだ。早くいって、処置をやらにゃ、本艇は空中分解するぞ」 「ええっ、それは……」 山岸少年は、若いだけに身も軽く、また悲観することも知らず、兵曹長にいわれたとおり彼を助け起した。 二人は、もつれながら操縦席へいった。兵曹長は片手をのばして操縦桿をつかんだ。それから力をこめて、ぐっ、ぐぐっと桿を手前へひっぱった。 艇は妙なうなりをあげはじめた。すると速力計の針は逆に廻りだした。速力がだんだん落ちてきたのである。それとともに、竜造寺兵曹長も、山岸少年も気持がよくなった。艇は水平にもどったのである。 「しっかり、しっかり。気をしっかり……」 兵曹長は、山岸中尉と帆村とを起した。二人とも、ようやくわれにかえった。 「機長。いま、水平に起しました。それまでは艇は急落下しておりました」 「ああ……」 「どこかに穴があいているようです。室内の気圧がどんどん下っていきます」 「ああ、そうか。これはすまん」 帆村が横合から声をだした。彼は計器のスイッチをぱちぱちと切りかえて、指針の動きに気をつけた。その結果、空気のもれているのは、尾部に近い左下の部分だとわかった。 「機長。空気の漏洩箇所は尾部左下です。いま調べてなおします」 「よし、了解。おちついて頼むぞ」 「大丈夫です。さっきはちょっと失敗しました。でも、ちゃんと『魔の空間』から離脱できたじゃないですか。われわれは大冒険に成功したわけですよ」 尾部の方へはいっていきながら、帆村は元気な声で言った。 「竜造寺兵曹長。見張につけ。敵の追跡に注意して……」 そうだ。ミミ族はどうしたろう。ゆだんはならない。 「はい」 兵曹長は、山岸少年に助けられながら、のぞき窓の前の席についた。 「兵曹長。苦しいですか」 と、少年は聞いた。 「いや、体が思うように動かぬだけだ。目はよく見える。心配はいらん」 だが兵曹長は、よほど苦しいらしく、歯をくいしばって、額を窓におしあてた。
彗星二号艇が急降下している状況で、竜造寺兵曹長はどのようにして艇を水平飛行に戻したか。
竜造寺兵曹長は、落下する艇を救うため、山岸少年に体を起こしてもらい操縦席へ行き、操縦桿を操作することで艇の速度を落とし、水平飛行に戻した。
JCRRAG_014172
国語
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊の格好をして、ぴかぴかに光る鉄砲をかついで、白熊のような犬を二匹つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことをいいながら、あるいておりました。 「ここらの山は全体的に良くないね。鳥も獣も一匹もいやしない。なんでもいいから、早くタンタアーンと、銃を撃ってみたいもんだ」 「鹿の黄色の横っ腹に、二・三発お見舞いしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」 それはかなりの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっと迷って、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。 それに、あまりに山が物凄いので、その白熊のような犬が、二匹いっしょにめまいを起こして、しばらくうなって、それから泡を吐いて死んでしまいました。 「ぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼を、ちょっとかえしてみて言いました。 「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もうひとりが、くやしそうに、あたまを捻って言いました。 はじめの紳士は、すこし顔色を悪くして、じっと、もうひとりの紳士の、顔色を見ながらいいました。 「ぼくはもう戻ろうとおもう。」 「そうだね、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」 「それじゃ、これで切り上げよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を十円分くらい買って帰ればいい。」 「兎も料理に出てたから買えるな。買えば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか」 ところがどうも困ったことに、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。 風がどうと吹ふいてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」 「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」 「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」 「喰べたいもんだなあ」 二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことをいいました。 ふとうしろを見ると、立派な一軒の西洋造りの家がありました。 そして玄関には RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒 という札がでていました。 「君、ちょうどいい。この山はこう見えても人がいて賑やかなんだろうな。入ろうじゃないか」 「おや、こんなところにおかしいな。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「はいろうじゃないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」 二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なものでした。 そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」 二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。 「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日苦労したけれど、こんどはこんないいこともある。ここは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」 「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」
二人の若い紳士はなぜ切り上げようとおもったのか。
寒くはなったし腹は空いてきたからです。
JCRRAG_014173
国語
その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。 なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。 その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとりが道ばたや畑にさいているさまざまな花をむしってくる。そして地べたに茶飲茶碗ほどの――いやもっと小さい、さかずきほどの穴をほりその中にとってきた花をいい按配に入れる。それから穴に硝子の破片でふたをし、上に砂をかむせ地面の他の部分とすこしもかわらないようにみせかける。 「ようしか」とおにが催促する、「もうようし」と合図する。するとおにが眼をあけてきてそのあたりをきょろきょろとさがしまわり、ここぞと思うところを指先でなでて、花のかくされた穴をみつけるのである。それだけのことである。 だがその遊びに私たちが持った興味は他の遊びとはちがう。おににかくしおおせて、おにを負かしてしまうということや、おにの方では、早くみつけて早くおにをやめるということなどにはたいして興味はなかった。もっぱら興味の中心はかくされた土中の一握の花の美しさにつながっていた。 砂の上にそっとはわせてゆく指先にこつんとかたいものがあたるとそこに硝子がある。硝子の上の砂をのける。だがほんのすこし。ちょうど人さし指の頭のあたる部分だけ。穴からのぞく。そこには私たちのこのみなれた世界とは全然別の、どこかはるかなくにの、おとぎばなしか夢のような情趣を持った小さな別天地があった。小さな小さな別天地。ところがみているとただ小さいだけではなかった。無辺際に大きな世界がそこに凝縮されている小ささであった。そのゆえにその指さきの世界は私たちをひきつけてやまなかったのである。 いつもその遊びをしたわけではない。それをするのは夕暮が多かった。木にのぼったり、草の上をとびまわったり、はげしい肉体的な遊戯につかれてきて、夕まぐれの青やかな空気のなごやかさに私たちの心も何がなしとけこんでゆくころにそれをした。それをする相手も、たれであってもかまわぬというのではなかった。第一そんな遊びを頭からこのまないなかまもあった。女の子はたいていすきだった。 ふたりいればできると私はいったが、ひとりでもできないことはなかった。私はひとりでよくした。ただひとりのときは自分がふたりになってするだけのことである。つまり花をとってかくしておき、そこからすこしはなれたところへできうべくんば家の角を一つまわったところまで、いっておにになり、眼をとじて百か二百かぞえ、それからさがしに出かけるのである。 だがそれをひとりでするときは心に流れるうらわびしさが、硝子の指先にふれる冷たさや、土のしめっぽい香や、美しい花の色にまでしみて余計さびしくなるのだった。 ふたりか三人でその遊びをしたあと、家へ帰る前に美しい作品を一つ土中にうめておきそのまま帰ることもあった。その夜はときどきうめてきた花のことを思い出し床の中でも思い出してねむるのである。 そんなとき土中のその小さな花のかたまりは私の心の中のたのしい秘密であって、母にもたれにも話さない。つぎの朝いってさがしあててみると、花は土のしめりですこしもしおれずしかし明るい朝の光の中ではやや色あせてみえ私はそれと知らず幻滅を覚えたのであった。また前の晩にうめておいた花のことをつぎの朝、子ども心の気まぐれにわすれてしまうこともあった。そういう花が私たちにわすられたままたくさん土にくちてまじったことだろう。 私たちは家に帰る前に、また、そのとき使った花や葉を全部あつめほんとうに土の中に土をもってうめ、上を足でふんでおくこともあった。遊びのはてにするこの精算は私の心に美しいもの純潔なものをもたらした。子どもでありながらなんといじらしいことをしたものだろう。
なぜその遊びは特定の仲間としか行われなかったのか。
その遊びの楽しさを理解し、共感できる人だけが興味を持ったから。
JCRRAG_014174
国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
蜂の針の長さのうち、より長い針のサイズを教えてください。
蜂の針の長さのうち、より長い針のサイズは二インチです。
JCRRAG_014175
国語
むかし、ある男に七人のむすこがありました。けれども、むすめはひとりもいませんでした。それだけに、この男はむすめをたいそうほしがっていました。 そのうちに、おかみさんのおなかが大きくなって、子どもが生まれそうになりました。やがて生まれた子どもは、待ちにまっていた女の子でした。 この男はどんなによろこんかもしれません。けれども、子どもは小さくて、やせこけていました。そして、からだがよわいため、すぐにかりの洗礼をうけさせなければなりませんでした。 おとうさんは、男の子のひとりをおおいそぎで泉にやって、洗礼の水をもってこさせようとしました。すると、ほかの子どもたちも、いっしょにかけていきました。そして、みんなが競争で水をくもうとしたものですから、つぼが手からすべって、泉のなかにおちてしまいました。 みんなはぼんやりつっ立ったまま、どうしていいかわかりません。そして、だれひとりうちにかえろうとはしませんでした。 おとうさんは、いつまでたってもだれもかえってこないので、いらいらして、いいました。 「きっと、またあそびにむちゅうになって、用事をわすれちまったんだな。しょうのないやつらめ。」 そのうちに、ぐずぐずしていると、女の子が洗礼もうけないうちに、死んでしまいはしないかと、心配になってきました。それで、ぷんぷん腹をたてて、 「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」 と、どなりました。 ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタ、バタいう、羽の音がきこえてきました。空をながめますと、炭のようにまっ黒なカラスが、高くまいあがって、とびさっていきます。 おとうさんとおかあさんは、さっきののろいのことばを、もうとりけすことはできません。ふたりは、七人のむすこをなくしたことを、たいそうかなしみました。でも、かわいらしい女の子がさずかりましたので、それでいくらかはなぐさめられました。 女の子は、まもなく力もついて、一日ごとに美しくなりました。 女の子は、じぶんににいさんたちのあったことを、長いあいだ知りませんでした。というのは、おとうさんもおかあさんも、この子のまえで、にいさんたちのことを話さないように気をつけていたからです。 でも、とうとうある日、みんながこの子のうわさをして、 「あの子は美しいけれども、七人のにいさんたちがあんなにひどいめにあったのは、もとはといえば、あの子のせいなんだからなあ。」 と、いっているのを耳にしました。 女の子は、すっかりかなしくなってしまいました。そして、おとうさんとおかあさんのところへいって、 「あたしには、にいさんたちがいたんですか。そして、そのにいさんたちはどこへいってしまったんですか。」 と、たずねました。おとうさんとおかあさんも、もうこれ以上、この秘密をかくしておくわけにはいきません。そこで、 「でも、にいさんたちがそうなったのは、神さまがおきめになったことで、おまえが生まれてきたためではないよ。」 と、もうしました。
「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」と言ったらカラスになった男の子は何人ですか。
「小僧ども、みんな、カラスになっちまえ。」と言ったらカラスになった男の子は7人です。
JCRRAG_014176
国語
少女の小さな両手は冷たさのためにもうかじかんでおりました。 ああ! たばの中からマッチを取り出して、 壁にこすり付けて、指をあたためれば、 それがたった一本のマッチでも、少女は ほっとできるでしょう。少女は一本取り出しました。 ≪シュッ!≫何という輝きでしょう。 何とよく燃えることでしょう。 温かく、輝く炎で、 上に手をかざすとまるで蝋燭のようでした。 すばらしい光です。 小さな少女には、 まるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているようでした。 そのストーブにはぴかぴかした真鍮の足があり、てっぺんには真鍮の飾りがついていました。 その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。 いっぱいの喜びで満たすように、炎はまわりをあたためます。 少女は足ものばして、あたたまろうとします。 しかし、—— 小さな炎は消え、ストーブも消えうせました。 残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。 少女はもう二本目のマッチを壁にこすりました。 マッチは明るく燃え、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透け、 部屋の中が見えました。 テーブルの上には雪のように白いテーブルクロスが広げられ、 その上には豪華な磁器が揃えてあり、 焼かれた鵞鳥はおいしそうな湯気を上げ、 その中にはリンゴと乾しプラムが詰められていました。 さらに驚いたことには、 鵞鳥は皿の上からぴょんと飛び降りて、 胸にナイフとフォークを刺したまま床の上をよろよろと歩いて、 あわれな少女のところまでやってきたのです。 ちょうどそのとき——マッチが消え、厚く、冷たく、じめじめした壁だけが残りました。
一本目のマッチを擦って見えた景色と二本目のマッチを擦って見えた景色の違いを教えてください。
少女はマッチを一本取り出して燃やしました。するとまるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているようでした。ストーブにはぴかぴかした真鍮の足があり、てっぺんには真鍮の飾りがついていました。その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。しかし、マッチはすぐに燃え尽きました。 少女は二本目のマッチを擦りました。するとマッチは明るく燃え、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透け、 部屋の中が見えました。 テーブルの上には雪のように白いテーブルクロスが広げられ、 その上には豪華な磁器が揃えてあり、 焼かれた鵞鳥はおいしそうな湯気を上げ、 その中にはリンゴと乾しプラムが詰められていました。
JCRRAG_014177
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いつの間にか、地球をうかがっていた、不逞の宇宙魔ミミ族のことは、放送電波にのって全世界へひびきわたった。そして世界中の人間は、はじめて耳にする怪魔ミミ族の来襲に色を失う者が多かった。 「もうだめだ。ミミ族というやつは、地球人類より何級も高等な生物なんだから、戦えばわれら人類が負けるにきまっているよ。こうとしったら、穴倉でもこしらえて、食料品をうんとたくわえておくんだった」 「どこか逃げだすところはないかなあ、噴射艇にのって、ミミ族のおいかけてこない星へ移住する手はないだろうか」 などと、あいかわらず弱音をはく人間が、いわゆる文化国民の間に少くなかった。 そうかと思うと、てんでミミ族を甘く見ているのんきな連中もいた。 「ミミ族だって、地球人類をすぐ殺すつもりでやってきたわけじゃあるまい。なにか物資をとりかえっこしたいというんだろう。そんならこっちもミミ族のほしい物をだしてやって、交易をやったらいいじゃないか。喧嘩腰はよして、まずミミ族の招待会を開いて、酒でものませてやったらどうだ」 「そうだ、そうだ。ミミ族だって、地球人類だって同じ生物だ。話せばわかるにちがいない。ひとつ訪問団をこしらえて、ミミ族の代表者を迎えにいってはどうか」 「それがいいなあ。とりあえず僕は、ミミ族におくる土産物を用意するよ」 こんな連中も、多くではないが、のさばりでた。だが、こののんきな連中は、まもなく大きな失望に見舞われた。 それはミミ族の一隊が突然カナダのある町にあらわれて、その町を、住民ごとすっかり天空へさらっていってしまったという、驚くべき事件が起ったからであった。 もちろん警察飛行隊はすぐ出動して、嵐にまう紙屑のように、天空に吸いあげられていく町の人々や、木や、家や、牛や、馬や、犬などのあとをおいかけた。しかし一時間ばかりすると、どの飛行機ももどってきた。 彼らの報告は、きまって同じだった。あの奇妙な竜巻をおいかけていったが、そのうちどこへ消えたか、彼らの姿が全然見えなくなったそうである。そして晴れわたった青い空に、太陽だけがかがやいていたという。 こんな騒動が、世界のあちらこちらで起り、それはあとからあとへ世界中へ放送され、人々の恐怖は日とともにつのっていった。 ふしぎなことに、そういう事件が相ついで起っても、ミミ族は一ども姿を見せなかった。ミミ族の方では、よほど注意して、人類の目にふれることをさけたのである。 しかし、そうとは知らない騒動の町の学者たちは、帆村の報告した「ミミ族会見記」をうたがいだし、相ついで起る騒動も、じつは天災であって、ミミ族などという、宇宙生物のせいではないと力説する者さえでてくるしまつだった。 これに対して帆村荘六は、すぐには弁明しなかった。それというのが、彼はわが地球人類の目をくらますミミ族の裏をかいて、ミミ族の行動がはっきり見える器械――それを帆村は「電子ストロボ鏡」と名づけたが、その器械を設計し、その試作をいくつかやっては、新しく改良を加えていたから、たいへん忙しかったのだった。 この電子ストロボ鏡は、帆村の手によって、ついに完成せられた。そしてそれは大量生産にうつり、やがて各隊へくばられた。 この電子ストロボ鏡には、大小いろいろとあって、大きいのは天文台の望遠鏡くらいもあったし、一番小さいものは、手のひらに握ってしまえるほどであった。しかしその能力にはかわりはなく、肉眼ではとても見えないものが、はっきり見えた。 このストロボ鏡の一番大きいものは、左倉少佐のところにあった。 それを参観にきたあるえらい軍人は、ストロボ鏡を通して、天空をのぞいてみてびっくりした。それもそのはずであった。一片の雲もなき晴れた大空に、楕円形の風船みたいなものが浮かんでおり、そしてよく見ると、その風船みたいなものの中に、蟻くらいの大きさの生物が、さかんに走りまわっているのが見えた。 「見えましたか。その楕円形のものが、帆村荘六の名づけた『魔の空間』です。それから中にうごめいているのは、ミミ族であります」 「ほんとうに本物が見えているのかね。この望遠鏡みたいなものの中に、なにか仕掛があって、絵でも書いてあるのではないか」 と、そのえらい軍人は、半分はじょうだんにまぎらわして、不審な顔をした。 「いや、絵がはりつけてあるわけではありません。絵でないしょうこには、ミミ族はしきりに活動しておりましょう」 「ふむ、なるほど、これは絵ではない。ふしぎだなあ。普通の望遠鏡では見えないものが、これで見るとちゃんと見えるのはどういうわけか」 「はあ。それはミミ族や楕円体は、たいへんはげしい震動をしているので、肉眼では見えません。しかしこの電子ストロボ鏡では、相手の震動がとまるところばかりを続けて見る仕掛になっているから、ちゃんと見えるのです。その原理は、ちょうどフイルム式の映画を映写幕にうつすときと似ています。いずれあとから、発明者の帆村荘六がくわしく御説明するでしょう」 帆村荘六の発明した、この電子ストロボ鏡は、ミミ族にとっておそるべき器械だった。 もはやミミ族は、この器械の前には姿をかくすことができなくなったのである。 こうしてミミ族は、帆村の発明のために、急に形勢不利となった。
ミミ族がカナダの町を消滅させた事件以降、世界の人々にどのような影響を与えたか。
ミミ族がカナダの町を住民ごと天空に連れ去ったという衝撃的な事件から世界各地で同様の騒動が起き、そのニュースが世界中に放送されたことで、世界の人々はミミ族に対する恐怖を増大させた。
JCRRAG_014178
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二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。 「ことにふとったお方や若いお方は、大歓迎いたします」 二人は大歓迎というので、もう大いによろこびました。 「君、ぼくらは大歓迎されてるようなもんだな。」 「ぼくらは両方条件を満たしているからな」 ずんずん廊下を進んで行くと、こんどは水いろのペンキ塗りの扉がありました。 「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」 「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」 そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。 「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」 「なかなか流行ってるんだな。こんな山の中で。」 「それはそうだ。見たまえ、東京の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」 二人はいいながら、その扉をあけました。するとその裏側に、 「注文はたくさんありますがどうか一個一個聞いて下さい。」 「これは一体どういうことなんだ。」ひとりの紳士は顔をしかめました。 「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいってことなんだろう。」 「そうだろう。早くどこかの部屋の中にはいりたいもんだな。」 「そしてテーブルに座りたいもんだな。」 ところがどうもわずらわしいことに、また扉が一つありました。そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。 扉には赤い字で、 「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落としてください。」 と書いてありました。 「これは確かにそうだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」 「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、よく来るんだろうな。」 そこで二人は、きれいに髪をとかして、靴の泥を落としました。 そしたら、どうでしょう。ブラシを板の上に置いたしゅんかん、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。 二人はびっくりして、おたがいによりそって、扉をがたんと開けて、次の部屋へ入って行きました。早く何か暖かいものでもたべて、元気をつけないと、もうとんでもないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。 扉の内側に、また変なことが書いてありました。 「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」 見るとすぐ横に黒い台がありました。 「なるほど、鉄砲を持って食事するという作法はない。」 「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだな。」 二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。 また黒い扉がありました。 「どうか帽子とコートと靴をおとり下さい。」 「どうだ、帽子とコートをとるか。」 「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来ているのは」 二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。 扉の裏側には、 「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、 ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」 と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵まで添えてあったのです。 「ははあ、何かの料理に電気をつかうように見えるね。金属はあぶない。さらに尖った金属はあぶないってことなんだろう。」 「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」 「どうもそうらしい。」 「そうだ。きっと。」 二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。
二人は「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」と扉の内側に書かれていたのを見てどうしましたか。
二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置いた。
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ある日の日暮どき私たちはこの遊びをしていた。私に豆腐屋の林太郎に織布工場のツル――の三人だった。私たちは三人同い年だった。秋葉さんの常夜燈の下でしていた。 ツルは女だからさすがに花をうまくあしらい美しいパノラマをつくる、また彼女はそれをつくり私たちにみせるのがすきだった。ではじめのうち林太郎と私のふたりがおにでツルのかくした花をさがしてばかりいた。 私はツルのつくった花の世界のすばらしさにおどろかされた。彼女は花びらを一つずつ用い草の葉や、草の実をたくみに点景した。ときには帯のあいだにはさんでいる小さい巾着から、砂粒ほどの南京玉を出しそれを花びらのあいだに配した。まるで花園に星のふったように。そしてまた私はツルがすきだった。 遊びにはおのずから遊びの終わるときがくるものだが、最後にツルと林太郎とふたりで花をかくし私がひとりおにになった。「よし」といわれて私はさがしにいったが、いくらさがしてもみあたらない。「もっと向こうよ、もっと向こうよ」とツルがいうままにそのあたりをなでまわるがどうしてもみあたらない。林太郎はにやにや笑って常夜燈にもたれてみている。林太郎はただツルの花をうずめるのをみていただけに相違ない。「お茶わかしたよ」ととうとう私はかぶとをぬいだ。すれば、ツルの方で意外のところから花のありかを指摘してみせるのが当然なのだがツルはそうしなかった。「そいじゃ明日さがしな」といった。 私は残念でたまらなかったのでまた地びたをはいまわったがついにみつからなかった。でその日は家に帰った。たびたび常夜燈の下の広くもない地びたを眼にうかべた。そのどこかに、ツルがつくったところのこの世のものならぬ美しさをひめた花のパノラマがあることを思った。その花や南京玉の有様が手にとるように閉じた眼にみえた。 朝起きるとすぐ私は常夜燈の下へいってみた。そしてひとりでツルのかくした花をさがした。息をはずませながら。まるで金でもさがすように。だがついにみつからなかった。 それから以後たびたび思い出してはそこへいってさがした。花はもうしおれはてているだろうということはすこしも考えなかった。いつでも眼を閉じさえすれば、ツルのかくした花や南京玉が、水のしたたる美しさでうす明かりの中にうかぶのであった。たれか他の者にみつけ出されると困るので、私はひとりのときにかぎってそこへさがしにいった。 遊び相手がなくてひとりさびしくいるとき、常夜燈の下にツルのかくしたその花があるという思いは私を元気づけた。そこへかけつけ、さがしまわるあいだの希望は何にもかえがたかった。いくらさがしてもみつからない焦燥もさることながら。 ところがある日、私は林太郎にみられてしまった。私が例のように常夜燈の下をすみからすみまでさがしまわっていると、いつのまにきたのか林太郎が常夜燈の石段にもたれてとうもろこしをたべていた。私は林太郎にみられたと気づいた瞬間ぬすみの現行をおさえられたようにびくっとした。私はとっさのあいだにごまかそうとした。 だが、林太郎は私の心の底までつまり私がツルをすいているということまでみとおしたようににやにやと笑って「まださがいとるのけ、ばかだな」といった。「あれ嘘だっただよ、ツルあ何も埋けやせんだっただ」 私は、ああそうだったのかと思った。心についていたものがのぞかれたように感じて、ほっとした。 それからのち、常夜燈の下は私にはなんの魅力もないものになってしまった。ときどきそこで遊んでいて、ここには何もかくされてはないのだと思うとしらじらしい気持ちになり、美しい花がかくされているのだと思いこんでいた以前のことをなつかしく思うのであった。 林太郎が私に真実を語らなかったら、私にはいつまでも常夜燈の下のかくされた花の思いは楽しいものであったかどうか、それはわからない。 ツルとはその後、同じ村にいながら長いあいだ交渉をたっていたが、私が中学を出たときおりがあって手紙のやりとりをし、あいびきもした。しかし彼女はそれまで私が心の中で育てていたツルとはたいそうちがっていて、普通のおろかな虚栄心の強い女であることがわかり、ひどい幻滅を味わったのは、ツルがかくしたようにみせかけたあの花についての事情と何か似ていてあわれである。
なぜ私は何度もツルの隠した花を探し続けたのか。
私はツルが作る世界に惹かれ、見つけることがツルとのつながりだと感じたから。
JCRRAG_014180
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蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
蜂の針の長さのうち、より長い針のサイズを教えてください。
蜂の針の長さのうち、より長い針のサイズは二インチです。
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けれども、女の子は、まい日まい日、そのことばかり気にして、なんとかしてにいさんたちをたすけだして、もういちど、もとのようなすがたにしてあげなければならない、と思っていました。 女の子は、もうじっとしていられなくなりました。だれにも気づかれないように、こっそりと家をぬけだして、ひろい世のなかへでていきました。にいさんたちを見つけだして、たとえどんなことをしてでも、自由にしてあげようというつもりなのです。 女の子は、ほんのわずかのものしかもっていきませんでした。おとうさんとおかあさんの思い出に小さな指輪をひとつ、それから、おなかがへったときのためにパンをひとかたまり、のどがかわいたときのために小さいつぼに水を一ぱい、それに、くたびれたときの用意にかわいい椅子をひとつ、と、これだけしかもっていかなかったのです。 さて、女の子は、どこまでもどこまでも、歩いていきました。とうとう、世界のはてまできてしまいました。 そこで、お日さまのところへいきましたが、お日さまはとってもあついし、それに、こわくてたまりません。だって、小さな子どもを、がつがつ食べてしまうんですもの。 女の子は、あわててそこをにげだして、お月さまのところへかけていきました。ところが、お月さまはつめたすぎて、ざんこくで、おまけに、いじわるでした。 お月さまはこの子に気がつきますと、 「人間の肉くさいぞ、人間の肉くさいぞ。」 と、いいました。 それで、女の子はここをもいそいでにげだして、お星さまたちのところへいきました。お星さまたちは、しんせつで、やさしくしてくれました。そして、めいめいがとくべつのいすにこしかけていました。明けの明星が立ちあがって、女の子にひよこの足を一本くれました。そして、こういいました。 「この足をもっていないと、ガラス山の門をあけることができないよ。きみのにいさんたちは、そのガラス山にいるんだよ。」 女の子はその足をもらって、だいじに布につつみました。それから、また長いこと歩いていきました。 やがて、ガラス山につきました。門にはかぎがかかっていました。そこで、女の子は足をとりだそうと思って、布をあけてみました。ところが、なかはからっぽです。女の子は、しんせつなお星さまたちからもらったものをなくしてしまったのです。さあ、どうしたらいいでしょう。にいさんたちをたすけてあげたいのですが、ガラス山の門をあけるかぎがありません。 心のやさしい妹は、小刀こがたなをとりだして、じぶんのかわいい指を切りおとしました。そして、それを門のなかにさしこんで、うまくあけました。門のなかにはいりますと、ひとりの小人がでてきて、いいました。
女の子がもっていったものの数を教えてください。
女の子がもっていったものの数は4で、 「おとうさんとおかあさんの思い出に小さな指輪をひとつ」 「おなかがへったときのためにパンをひとかたまり」 「のどがかわいたときのために小さいつぼに水を一ぱい」 「くたびれたときの用意にかわいい椅子をひとつ」 です。
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少女は三本目のマッチをともしました。 すると、少女は最高に大きなクリスマスツリーの下に座っていました。 そのツリーは、 金持ち商人の家のガラス戸を通して見たことのあるものよりもずっと大きく、 もっとたくさん飾り付けがしてありました。 何千もの光が緑の枝の上で燃え、 店のショーウインドウの中で見たことがあるような楽しい色合いの絵が少女を見おろしています。 少女は両手をそちらへのばして——そのとき、マッチが消えました。 クリスマスツリーの光は高く高く上っていき、 もう天国の星々のように見えました。 そのうちの一つが流れ落ち、長い炎の尾となりました。 「いま、誰かが亡くなったんだわ!」と少女は言いました。 というのは、おばあさん——少女を愛したことのあるたった一人の人、いまはもう亡きおばあさん——がこんなことを言ったからです。 星が一つ、流れ落ちるとき、魂が一つ、神さまのところへと引き上げられるのよ、と。 四本目のマッチを、壁でこすりました。 すると再び明るくなり、その光輝の中におばあさんが立っていました。 とても明るく光を放ち、とても柔和で、愛にあふれた表情をしていました。 「おばあちゃん!」と小さな子は大きな声をあげました。 「お願い、わたしを連れてって! マッチが燃えつきたら、おばあちゃんも行ってしまう。 あったかいストーブみたいに、 おいしそうな鵞鳥みたいに、 それから、あの大きなクリスマスツリーみたいに、 おばあちゃんも消えてしまう!」 少女は急いで、一たばのマッチをありったけ壁にこすりつけました。 おばあさんに、しっかりそばにいてほしかったからです。 マッチのたばはとてもまばゆい光を放ち、昼の光よりも明るいほどです。 このときほどおばあさんが美しく、大きく見えたことはありません。 おばあさんは、少女をその腕の中に抱きました。 二人は、輝く光と喜びに包まれて、高く、とても高く飛び、 やがて、もはや寒くもなく、空腹もなく、心配もないところへ——神さまのみもとにいたのです。 けれど、あの街角には、夜明けの冷え込むころ、かわいそうな少女が座っていました。 薔薇のように頬を赤くし、口もとには微笑みを浮かべ、 壁にもたれて——古い一年の最後の夜に凍え死んでいたのです。 その子は売り物のマッチをたくさん持ち、体を硬直させてそこに座っておりました。 マッチのうちの一たばは燃えつきていました。 「あったかくしようと思ったんだなあ」と人々は言いました。 少女がどんなに美しいものを見たのかを考える人は、 誰一人いませんでした。 少女が、新しい年の喜びに満ち、おばあさんといっしょにすばらしいところへ入っていったと想像する人は、 誰一人いなかったのです。"
三本目のマッチを擦って見えた景色と四本目のマッチを擦って見えた景色の違いを教えてください。
少女は三本目のマッチをともしました。少女は最高に大きなクリスマスツリーの下に座っていました。何千もの光が緑の枝の上で燃え、 店のショーウインドウの中で見たことがあるような楽しい色合いの絵が少女を見おろしています。 少女が両手をそちらへのばしたとき、マッチが消えました。 少女はすぐに四本目のマッチを、壁でこすりました。 すると再び明るくなり、その光輝の中に少女のおばあさんが立っていました。 とても明るく光を放ち、とても柔和で、愛にあふれた表情をしていました。
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力強い第一宇宙戦隊の産声に、感激を新たにして、帆村荘六は、左倉少佐と山岸中尉の許を辞してもどった。こうなれば、帆村の任務もますます重大である。ぜひとも成功して、ミミ族の正体をつきとめねばならない。 その翌日から、いよいよ帆村所長の指揮で、ミミ族狩りがはじまった。 電子ストロボ鏡で、天空をのぞいていると、ちょうど天空から、そろそろと降下してくる回転楕円体の「魔の空間」を発見した。それは約十粁ばかり東へいった、山麓附近を目がけて下りてくるようだ。 「出動――」 帆村は号令をかけた。所員と警備隊員とは、軍用自動車にとび乗って、街道を全速力で東へ走らせた。 あと一粁ばかりのところで、車はとめられた。そして陣地がつくられ、車の上へ積んできた怪力線砲と、音響砲は下され、対空戦闘の用意はととのえられた。 「戦闘開始」 と、帆村は警備隊長の竜造寺兵曹長へ命令を発した。竜造寺兵曹長は、こん度は特に志願して帆村の下につき、警備隊を指揮することとなったのだ。「魔の空間」から救いだされて以来、兵曹長は深く感激し、帆村に恩をかえしたいと思いつづけていたのだ。 「怪力線砲、撃ち方はじめ」 兵曹長は、はじめ打ちあわせた順序により、まず怪力線砲から射撃をはじめた。目に見えないが、強い電磁波は、一直線にのびていって、天空をわが物顔に下りてくる「魔の空間」を突きさした。 「所長。怪力線は『魔の空間』に命中」 と、兵曹長は叫ぶ。 帆村はもちろん、電子ストロボ鏡でそれを見まもっていた。 「怪力線、射撃をつづけよ」 と、帆村は命令して、「魔の空間」にどんな変化がおこるかと、目を皿のようにして見つめていた。が、三十秒、一分、一分三十秒とたっても、「魔の空間」は、なんの変化も示さず、あいかわらずゆっくりと下降をつづけているではないか。 (だめだ。怪力線砲は効果なしだ) 帆村はそう思った。 「隊長、音響砲で砲撃を……」 そういって、帆村は竜造寺兵曹長に命令した。 「音響砲、撃ち方はじめ」 砲撃はすぐはじまったが、光も見えなければ、音もしない。音響はだすが、超音波のことだから、人間の耳には音と感じないのだ。だが、音響砲は頼もしくも、手ごたえがあった。 「あっ、『魔の空間』が落下の速度を早めたぞ。機関が故障になったのだ。ああ、墜ちる墜ちる。あそこへ急げ」 帆村は、狙った「魔の空間」が、音響砲の砲撃のため、故障になって墜落するのを見定めると、全員を急がせて、その落下の場所へ移動を命じた。あと僅か一粁ばかりの距離であった。 竜造寺隊長の指揮もあざやかに、全員は現場に車を乗り入れると、まだ地上まで墜ちきらない「魔の空間」を中心に、まわりをぐるっと取りまいて、陣地をつくった。 附近の村の人々は、大さわぎをしている。 「なんだね、あれは……。でっけえ風船みたいじゃが、あんなでけえやつは見たことがねえだ」 「いやな色しとるな。殿様蛙の背中みたいじゃ。やれまあ、気持のわるい」 「これこれ、早く待避せんかちゅうのに。あれが地面にあたって大爆発すると、村の家が皆ふっ飛んでしまうちゅうぞや」 「えっ、それはたいへんじゃ……」 村人たちは、こわさはこわし、気になるので見てはいたしで、待避壕をはいったりでたりの、混雑をくりかえしている。 目に見える「魔の空間」だ。それははじめてのことだった。濃緑色と暗褐色のだんだらに塗られた、西瓜のお化けのような「魔の空間」だった。 「帆村所長。あの『魔の空間』は、なぜよく見えるのですか」 と、山岸少年が帆村の腕をひっぱった。 「ああ、そのことか。そのわけは、『魔の空間』の機関が、音響砲にやっつけられて、故障になったのだ。そうなると、『魔の空間』のはげしい震動がぴたりととまってしまったんだ。震動がとまれば、当然われわれ人類の目に見えるわけだ。『魔の空間』にしろ、ミミ族にしろ、震動していればこそ、われわれの目に見えないのだ。だから理窟はわかるだろう」 帆村は説明してやった。 「すると、この前鉱山で解剖されかけた、ミミ族が、急に空中へとびあがり、姿が見えなくなったのは、そのときやっぱり震動を起したからですか」 「そうだ。解剖の前までは、あの緑鬼は仮死状態になっていたのさ。そのうちに、地上を飛んでいる宇宙線を吸って体力を回復し、空中へとび上ったのだ、そして身体の震動が一定のはげしい震動数に達したとき、われわれの目にはもう見えなくなったのだ」 「ふしぎな生物ですね、ミミ族は……」 「いや、今わかっているのは、彼らのほんの一部がわかっているだけにすぎない。ほんとうの正体は、これから探しあてるのだ。……ほら、いよいよ『魔の空間』が地面に激突するぞ」 ものすごい光景が、起るだろうと予想していた者は、あてがはずれた。「魔の空間」は、すこしばかり土煙をあげ、二三度弾んだだけで、あとは丸パンを置いたように、ふくらんだ上部はそのままにして、地上へべったりと腰を下した。その大きさは、二階建の国民学校一棟が楽にはいるほどであった。だから、なかなか大きいものだった。 「隊長、攻撃だ。音響砲で攻めてみてください」 帆村が竜造寺隊長に言った。 警備隊員は、長い双眼鏡に引金をつけたような、奇妙な形の音響砲を手にとって、墜落した「魔の空間」に近づいていった。 「困ったなあ、中が見えない。帆村所長、なんとか処置がないですか」 竜造寺隊長が困った顔でふりかえる。 「うまくゆくかどうかわからないが、サイクロ銃で切ってみよう」 帆村は所員に持たせてあった、サイクロ銃をとりあげ、台尻を肩におしあてた。これは中性子を利用したすごい透過力のある銃である。あまり遠くまではきかないが、二百米以内なら、岩でも鋼板でもすぱりと切ってしまう力がある。そして近ければ近いほど、その透過力は一点に集中できる便宜があった。 帆村は大胆にも、そのサイクロ銃をいつでも発射できるように身構えて、ずんずん「魔の空間」に近づいた。 「所長、あぶない。一人では危険だ」 と、隊長が注意して、隊員とともに、すぐ後から追いかけた。と、帆村はどうしたわけか、五十米手前で、銃を持ったまま、ばったり倒れてしまった。
帆村荘六がミミ族の正体解明に一層力を入れるようになったのは、なぜか。
力強い第一宇宙戦隊の発足に感動した帆村荘六は、自身の任務がさらに重要になったと感じ、必ずミミ族の正体を突き止めなければならないと新たに決意したから。
JCRRAG_014184
国語
むかしむかし、イギリスの大昔、アルフレッド大王の御代のことでございます。ロンドンの都からとおくはなれたいなかのこやに、未亡人の女のひとが、ちいさいむすこのジャックをあいてに、さびしくくらしていました。かけがえのないひとりむすこですし、それに、ずいぶんのんきで、ずぼらで、なまけものでしたが、ほんとうは気だてのやさしい子でしたから、母親は、あけてもくれても、ジャック、ジャックといって、それこそ目の中にでも入れてしまいたいくらいにかわいがって、なんにもしごとはさせず、ただ遊ばせておきました。 こんなふうで、のらくらむすこをかかえた上に、このやもめの人は、どういうものか運がわるくて、年々ものが足たりなくなるばかり、ある年の冬には、もう手まわりの道具や衣類まで売って、手に入れたおかねも、手内職なんかして、わずかばかりかせぎためたおかねも、きれいにつかってしまって、とうとう、うちの中で、どうにかおかねになるものといっては、たった一ぴきのこった牝牛だけになってしまいました。 そこで、ある日、母親は、ジャックをよんで、 「ほんとうに、おかあさんは、自分のからだを半分もって行かれるほどつらいけれど、いよいよ、あの牝牛を、手ばなさなければならないことになったのだよ。おまえ、ごくろうだけれど、市場まで牛をつれて行って、いいひとをみつけて、なるたけたかく売って来ておくれな。」といいました。 そこで、ジャックは、牛をひっぱって出かけました。 しばらくあるいて行くと、むこうから、肉屋の親方がやって来ました。 「これこれ坊や、牝牛なんかひっぱって、どこへ行くのだい。」と、親方は声をかけました。 「売りに行くんだよ。」と、ジャックはこたえました。 「ふうん。」と、親方はいいながら、片手にもった帽子をふってみせました。がさがさ音がするので、気がついて、ジャックが、帽子のなかを、ふとのぞいてみますと、きみょうな形をした豆が、袋の中から、ちらちらみえました。 「やあ、きれいな豆だなあ。」 そうジャックはおもって、なんだか、むやみとそれがほしくなりました。そのようすを、相手の男は、すぐに見つけてしまいました。そして、このすこし知恵のたりないこどもを、うまくひっかけてやろうとおもって、わざと袋の口をあけてみせて、 「坊や、これがほしいんだろう。」といいました。 ジャックは、そういわれて、にこにこになると、親方はもったいらしく首をふって、「いけない、いけない、こりゃあふしぎな、魔法の豆さ。どうしても、ただではあげられないな。どうだ、その牝牛と、とりかえっこしようかね。」といいました。 ジャックは、その男のいうなりに、牝牛と豆の袋ととりかえっこしました。そして、おたがい、これはとんだもうけものをしたとおもって、ほくほくしながら、わかれました。 ジャックは、豆の袋をかかえて、うちまでとんでかえりました。うちへはいるか、はいらないに、ジャックは、 「おかあさん、きょうはほんとに、うまく行ったよ。」と、いきなりそういって、だいとくいで、牛と豆のとりかえっこした話をしました。ところが、母親は、それをきいてよろこぶどころか、あべこべにひどくしかりました。 「まあ、なんというばかなことをしてくれたのだね。ほんとにあきれてしまう。こんなつまらない、えんどう豆の袋なんかにつられて、だいじな牝牛一ぴき、もとも子もなくしてしまうなんて、神さま、まあ、このばかな子をどうしましょう。」 母親はぷんぷんおこって、いまいましそうに、窓のそとへ、袋の中の豆をのこらず、なげすててしまいました。そして、つくづくなさけなさそうに、しくしく泣きだしました。 きっとよろこんでもらえるとおもっているが真逆で、うまれてはじめて、おかあさんのこんなにおこった顔をみたので、ジャックはびっくりして、じぶんもかなしくなりました。そして、なんにもたべるものがないので、おなかのすいたまま、その晩ははやくから、ころんとねてしまいました。
ジャックはなぜ牛をひっぱって出かけましたか。
かせぎためたおかねも、きれいにつかってしまったからです。
JCRRAG_014185
国語
ある日の日暮どき私たちはこの遊びをしていた。私に豆腐屋の林太郎に織布工場のツル――の三人だった。私たちは三人同い年だった。秋葉さんの常夜燈の下でしていた。 ツルは女だからさすがに花をうまくあしらい美しいパノラマをつくる、また彼女はそれをつくり私たちにみせるのがすきだった。ではじめのうち林太郎と私のふたりがおにでツルのかくした花をさがしてばかりいた。 私はツルのつくった花の世界のすばらしさにおどろかされた。彼女は花びらを一つずつ用い草の葉や、草の実をたくみに点景した。ときには帯のあいだにはさんでいる小さい巾着から、砂粒ほどの南京玉を出しそれを花びらのあいだに配した。まるで花園に星のふったように。そしてまた私はツルがすきだった。 遊びにはおのずから遊びの終わるときがくるものだが、最後にツルと林太郎とふたりで花をかくし私がひとりおにになった。「よし」といわれて私はさがしにいったが、いくらさがしてもみあたらない。「もっと向こうよ、もっと向こうよ」とツルがいうままにそのあたりをなでまわるがどうしてもみあたらない。林太郎はにやにや笑って常夜燈にもたれてみている。林太郎はただツルの花をうずめるのをみていただけに相違ない。「お茶わかしたよ」ととうとう私はかぶとをぬいだ。すれば、ツルの方で意外のところから花のありかを指摘してみせるのが当然なのだがツルはそうしなかった。「そいじゃ明日さがしな」といった。 私は残念でたまらなかったのでまた地びたをはいまわったがついにみつからなかった。でその日は家に帰った。たびたび常夜燈の下の広くもない地びたを眼にうかべた。そのどこかに、ツルがつくったところのこの世のものならぬ美しさをひめた花のパノラマがあることを思った。その花や南京玉の有様が手にとるように閉じた眼にみえた。 朝起きるとすぐ私は常夜燈の下へいってみた。そしてひとりでツルのかくした花をさがした。息をはずませながら。まるで金でもさがすように。だがついにみつからなかった。 それから以後たびたび思い出してはそこへいってさがした。花はもうしおれはてているだろうということはすこしも考えなかった。いつでも眼を閉じさえすれば、ツルのかくした花や南京玉が、水のしたたる美しさでうす明かりの中にうかぶのであった。たれか他の者にみつけ出されると困るので、私はひとりのときにかぎってそこへさがしにいった。 遊び相手がなくてひとりさびしくいるとき、常夜燈の下にツルのかくしたその花があるという思いは私を元気づけた。そこへかけつけ、さがしまわるあいだの希望は何にもかえがたかった。いくらさがしてもみつからない焦燥もさることながら。 ところがある日、私は林太郎にみられてしまった。私が例のように常夜燈の下をすみからすみまでさがしまわっていると、いつのまにきたのか林太郎が常夜燈の石段にもたれてとうもろこしをたべていた。私は林太郎にみられたと気づいた瞬間ぬすみの現行をおさえられたようにびくっとした。私はとっさのあいだにごまかそうとした。 だが、林太郎は私の心の底までつまり私がツルをすいているということまでみとおしたようににやにやと笑って「まださがいとるのけ、ばかだな」といった。「あれ嘘だっただよ、ツルあ何も埋けやせんだっただ」 私は、ああそうだったのかと思った。心についていたものがのぞかれたように感じて、ほっとした。 それからのち、常夜燈の下は私にはなんの魅力もないものになってしまった。ときどきそこで遊んでいて、ここには何もかくされてはないのだと思うとしらじらしい気持ちになり、美しい花がかくされているのだと思いこんでいた以前のことをなつかしく思うのであった。 林太郎が私に真実を語らなかったら、私にはいつまでも常夜燈の下のかくされた花の思いは楽しいものであったかどうか、それはわからない。 ツルとはその後、同じ村にいながら長いあいだ交渉をたっていたが、私が中学を出たときおりがあって手紙のやりとりをし、あいびきもした。しかし彼女はそれまで私が心の中で育てていたツルとはたいそうちがっていて、普通のおろかな虚栄心の強い女であることがわかり、ひどい幻滅を味わったのは、ツルがかくしたようにみせかけたあの花についての事情と何か似ていてあわれである。
なぜ私は花を探すことに価値を感じていたのか。
私は、花の存在がツルとのつながりや希望を象徴していたから。
JCRRAG_014186
国語
このラピュタの運命をつかさどっているのは、一つの大きな磁石です。磁石の真中に、心棒があって、誰でも、ぐるぐる回すことができるようになっています。 この磁石の力によって、島は、上ったり下ったり、一つの場所から他の場所へ動いたりするのです。磁石の一方の端は、島の下の領土に対して、遠ざかる力を持ち、もう一方の端は、近寄ろうとする力を持っています。 もし近寄ろうとする力を下にすれば、島は下ってゆきます。その反対にすれば、島は上ってゆきます。斜めにすれば、島は斜めに動きます。そして、磁石を土面と水平にすれば、島は停まっています。 この磁石をあずかっているのは、天文学者たちで、彼等は王の命令で、ときどき、磁石を動かすのです。 もし、下の都市が謀叛を起したり、税金を納めない場合には、国王は、その都市の真上に、この空飛ぶ島を持って来ます。こうすると、下では日もあたらず雨も降らないので、住民たちは苦しんでしまいます。また場合によっては、上から百個の大きな石や二千個の小石を都市めがけて落とします。こうなっては、住民たちは、地下室に引っ込んでいるよりほかはありません。 大抵は三日、長くても七日で下の都市の住民達は降参するそうです。 だが、それでもまだ王の命令に従わないと、最後の手段を取ります。それは、この島を彼らの頭の上に落としてしまうのです。こうすれば、家も人も何もかも、一ぺんにつぶされてしまいます。 しかし、これはよくよくの場合で、めったにこんなことにはなりません。王もこのやり方を喜んでいません。それにもう一つ、これには困ることがあるのです。つまり、都市には高い塔や柱などが立ち並んでいるので、その上に島を落すと、島の底の石が割れるおそれがあります。もし底の石が割れたりすると、磁石の力がなくなって、たちまち島は地上に落っこちてしまうことになるのです。
空飛ぶ島から下の都市めがけて落とす石のうち、数が少ないほうを教えてください。
空飛ぶ島から下の都市めがけて落とす石のうち、数が少ないほうは大きな石で百個です。
JCRRAG_014187
国語
「カラスさんたちは、いまるすだよ。でも、かえってくるまで待つ気なら、こっちへはいっておいでよ。」 それから、小人はカラスたちの食べものを七つの小さなおさらにのせ、飲みものを七つの小さなさかずきにいれて、もってきました。妹は、七つのおさらからひとかけらずつ食べ、七つのさかずきからひとすすりずつのみました。そして、いちばんおしまいのさかずきのなかに、うちからもってきた、かわいい指輪をおとしておきました。 そのとき、とつぜん、空のほうからバタ、バタいう羽の音と、カア、カアというなき声が、きこえてきました。すると、小人がいいました。 「さあ、カラスさんたちがかえってきたよ。」 まもなく、カラスたちはおりてきました。そして、食べたり、のんだりしようと思って、小さなおさらやかわいいさかずきをさがしました。けれども、すぐに、 「だれがぼくのおさらのものを食べたんだ。だれがぼくのさかずきのものをのんだんだ。こんなことをしたのは、人間の口にちがいない。」 と、カラスたちはじゅんじゅんにいいました。 しかし、七ばんめのカラスがさかずきをのみほしたとき、かわいい指輪がころがりでました。よく見ますと、それはたしかに、見おぼえのある、おとうさんとおかあさんの指輪です。それで、そのカラスはいいました。 「ああ、妹がここにいてくれたらなあ。そうすりゃ、ぼくたち、たすけてもらえるんだけど。」 女の子は戸のうしろに立って、そっときいていましたが、この願いごとを耳にしますと、すぐにカラスたちのまえにでてきました。 と、たちまち、カラスたちは一羽のこらず、もとの人間のすがたにもどったではありませんか。みんなはかたくだきあって、キッスをしあいました。そして、心もはればれとして、国へかえりました。
妹が食べたひとかけらの数を教えてください。
妹が食べたひとかけらの数は7です。
JCRRAG_014188
国語
猿が私をつれて行くのを見ると、グラムダルクリッチは「キャッ」と叫びました。彼女は気狂のようになってしまいました。それから間もなく、宮廷は大騒ぎになったのです。召使は梯子を取りに駈けだしました。猿は屋根の上に腰をおろすと、まるで赤ん坊のように片手に私を抱いて、顎の袋から何か吐き出して、それを私の口に押し込もうとします。 そして今、屋根の下では召使や兵士達が、この光景を見上げているのです。私が食べまいとすると、猿は母親が子をあやすように、私を軽く叩くのです。それを見て、下の群衆は笑いだしました。 変なものを食べさせられやしないかと悲鳴をあげる者も中にはいました。 実際、これは誰が見ても馬鹿馬鹿しい光景だったでしょう。なかには猿を追うつもりで、石を投げるものもいましたが、屋根に二回、近くの木に三回当たって危険だとして、これはすぐ禁じられました。 やがて梯子をかけて、五人の男と一人の女がのぼって来ました。猿はそれを見て、いよいよ囲まれたとわかると、三本足では走れないので、今度は私を瓦の上に残しておいて、一人でさっと逃げてしまいました。私は地上三百ヤードの瓦の上にとまったまま、今にも風に吹き飛ばされるか、目がくらんで落ちてしまうか、まるで生きた心地がしませんでした。が、そのうちに召使の一人が、私をズボンのポケットに入れて、無事に下までおろしてくれました。 私はあの猿が私の咽喉に無理に押し込んだ何か汚い食物のため、息がつまりそうでした。しかし、私の乳母が小さい針で一つ一つそれをほじくり出してくれたので、やっとらくになりました。だが、ひどく身体が弱ってしまい、あの動物に抱きしめられていたため、両脇が痛くてたまりません。私はそのため二週間ばかり病床につきました。王、王妃、そのほか、宮廷の人たちが、毎日見舞いに来てくれました。猿は殺され、そして今後こんな動物を宮廷で飼ってはならないことになりました。
屋根の上で猿が私を叩いた光景を見た群衆の反応の違いを教えてください。
猿は屋根の上に腰をおろすと、まるで赤ん坊のように片手に私を抱いて、顎の袋から何か吐き出して、それを私の口に押し込もうとします。私が食べまいとすると、猿は母親が子をあやすように、私を軽く叩くのです。それを見て、下の群衆は笑いだしました。 一方私が変なものを食べさせられやしないかと悲鳴をあげる者も中にはいました。
JCRRAG_014189
国語
帆村荘六のミミ族研究は、ある程度の成功をおさめた。ミミ族の正体は、まず大体のことがわかった。またミミ族が、空気の中での戦闘に得意でないこと、ことに宇宙線からエネルギーを吸って生きている関係上、地底だとか、宇宙線遮蔽檻のように、宇宙線に乏しいところではすっかり元気がなくなってしまうこと、また音響砲のような、超音波を加えられると震動がとまって墜落し、そして地球人類に見えるようになることなどの弱点がわかった。しかしミミ族が、一体どこの天空からやってきたものか、それはわからなかった。またあの赤色金属藻の実質が、どういう性質のものであるかもわからなかった。 その間に、左倉少佐のひきいる第一宇宙戦隊は、活発な行動をとりはじめた。この戦隊は、噴射艇五百隻でもって、約二百万哩を航続する力を持っていた。その上、帆村の研究により、ミミ族を制圧するにたるだけの音響砲や、サイクロ砲や、その他珍しい最新鋭兵器をたくさん積んでいたから、ひじょうに強力な宇宙部隊だった。 司令左倉少佐は、宇宙戦隊の準備が完了すると、ミミ族にたいして強硬な申し入れを行った。それは二つの事項からなっていた。第一に、望月大尉以下を、第一彗星号とともに、安全にこっちへもどすこと。第二に、ミミ族はわが太陽系の空間以外のところへ引きあげることであった。もしこのことが、五日以内に行われないときは、わが宇宙戦隊はミミ族にたいして、自由行動をとるであろうと申しそえた。これはミミ族にたいする最後通牒であった。もし彼らがこれを聴き入れるつもりがなければ、当然宇宙戦争がはじまるわけだった。 ミミ族からは、申しこみを受けとったことだけを回答してきた。返事をいつよこすか、それは言ってこなかった。無気味なにらみあいの時間が流れていった。左倉少佐は、宇宙戦隊をひきいて、天空にうるさいほど浮揚している、およそ百箇に近い「魔の空間」の間を、ゆうゆうとぬって廻り、敵にたいして無言の圧力を加えた。 ミミ族の間には、かなり狼狽の色があらわれた。地球人類には見えないはずの「魔の空間」に衝突もせず、宇宙戦隊がゆうゆうと天空を飛び廻るので、地球人類が早くも新しい光学兵器を作ったことを察し、地球人類の智力もばかにならないことをさとったらしいのである。そのためか、三日目あたりから、「魔の空間」は次第に数を減じていった。ミミ族は後退をはじめたらしい。 こうして期限の五日目になったが、その朝になってみると、地上から見ることのできる「魔の空間」は、ただの一箇となった。それは静かに降下しつつあった。よく見ているとその「魔の空間」の下に、小さな旗がぶら下っているのが見えた。それはまぎれもなく日章旗であった。 この「魔の空間」は、やがて着陸した。その中からでてきた者を見ると、望月大尉に、児玉法学士、それに川上少年であった。三名は無事帰還したのだ。ミミ族は左倉少佐の申し入れを全部聞き入れたことがわかった。 こうしてこの怪事件も、ついに結末をつげた。宇宙戦隊の威力と、帆村荘六のすぐれた研究とが、せっかく来襲したミミ族を、その目的の百分の一も達せさせないうちに、見事に追い払ったわけである。その功は大きい。 だが帆村は、すこしもその功を誇らなかったし、やれやれと安心の色も示していなかった。彼はこう言うのであった。 「まあ、こんなわけで、ミミ族は弱点をおさえられ、一応退去しましたが、これでもう、二度と地球へやってこないとはいえませんよ。いやいや、きっと彼らは、ふたたび来襲することでしょう。今回にこりて、彼らはもっともっと強力な準備をし、これだけのものを持っていけば、必ず地球人類を制圧できるという、自信のついたところで来寇するでしょう。油断はならないのです。相手が準備に費す間に、こっちでもじゅうぶんの防禦準備をつくらねばなりません。それにはぜひともここ一二年のうちに、宇宙艦隊を数千隊にふやし、警備線を天王星、海王星あたりまで進めなければならんです。さあ、皆さん、元気をだして、誰も彼もが宇宙艇を操縦して、宇宙生活にたえるように勉強と訓練をして頂かねばなりません。しかも地球を狙うものはミミ族だけではないのです。第二第三のミミ族にも備えることが肝要です。成層圏飛行に成功したくらいで安心していては、間もなくミミ族のために、簡単にたべられてしまいますよ。さあ、蹶起してください」
左倉少佐が率いる第一宇宙戦隊は、どのような宇宙部隊か。
左倉少佐率いる第一宇宙戦隊は、五百隻の噴射艇を有し約二百万マイルの航続力がある、音響砲やサイクロ砲などの最新鋭兵器を多数搭載した非常に強力な宇宙部隊である。
JCRRAG_014190
国語
その翌朝、ジャックは目をさまして、もう夜があけたのに、なんだかくらいなとおもって、ふと窓のそとをみました。するとどうでしょう、きのう庭になげすてた豆の種子から、芽が生えて、ひと晩のうちに、ふとい、じょうぶそうな豆の大木が、みあげるほどたかくのびて、それこそ庭いっぱい、うっそうとしげっているではありませんか。 びっくりしてとびおきて、すぐと庭へおりてみますと、どうして、たかいといって、豆の木は、それこそほうずのしれないたかさに、空の上までのびていました。つると葉とがからみあって、それは、空の中をどんとつきぬけて、まるで豆の木のはしごのように、しっかりと立っていました。 「あれをつたわって、てっぺんまでのぼって行ったら、一体どこまで行けるんだろう。」 そうおもって、ジャックは、すぐにはしごにのぼりはじめました。だんだんのぼって行くうち、ジャックの家は、ずんずん、ずんずん、目の下がちいさくなって行きました。そしていつのまにかみえなくなってしまいました。それでもまだてっぺんには来ていませんでした。ジャックは、いったいどこまで行くのかとおもって、すこしきみがわるくなりました。それでもいっしょうけんめい、はしごにしがみついて、のぼって行きました。あんまりたかくのぼって、目はくらむし、手も足もくたびれきって、もうしびれて、ふらふらになりかけたころ、やっとてっぺんにのぼりました。 ジャックは、そのとき、まずそこらを見まわしました。すると、そこはふしぎな国で、青々としげった、しずかな森がありました。うつくしい花のさいている草原もありました。水晶のようにきれいな水のながれている川もありました。こんなたかい空の上に、こんなきれいな国があるとは、おもってもいませんでしたから、ジャックはあっけにとられて、ただきょとんとしていました。 いつもまにか、ふと、赤い角ずきんをかぶった、みょうな顔のおばあさんが、どこから出て来たか、ふと目の前にあらわれました。ジャックは、ふしぎそうに、このみょうな顔をしたおばあさんをみつめました。おばあさんは、でも、やさしい声でいいました。 「そんなにびっくりしないでもいいのだよ。わたしはいったい、お前さんたち一家のものを守ってあげている妖女なのだけれど、この五、六年のあいだというものは、わるいまもののために、魔法でしばられていて、お前さんたちをたすけてあげることができなかったのさ。だが、こんどやっと魔法がとけたから、これからはおもいのままに、たすけてあげられるだろうよ。」 だしぬけに、こんなことをいわれて、ジャックは、なおさらあっけにとられてしまいました。そのぽかんとした顔を、妖女はおもしろそうにながめながら、そのわけをくわしく話しだしました。それをかいつまんでいうと、まあこんなものでした。 「ここからそうとおくはない所に、おそろしい鬼の大男が、すみかにしている、お城のような家がある。じつはその鬼が、むかし、そのお城に住んでいたお前のおとうさんをころして、城といっしょに、そのもっていたおたからのこらずとってしまったものだから、お前のうちは、すっかり貧乏になってしまったのさ。そうしてお前も、赤ちゃんのときから、かわいそうに、お前のおかあさんのふところにだかれたまま、下界におちぶれて、なさけないくらしをするようになったのだよ。だから、もういちど、そのたからをとりかえして、わるいその鬼を、ひどいめにあわしてやるのが、お前のやくめなのだよ。」 こういうふうにいいきかされると、ぐうたらなジャックのこころも、ぴんと張ってきました。知らないおとうさんのことが、なつかしくなって、どうしてもこの鬼をこらしめて、かすめられた宝を、とりかえさなくてはならないとおもいました。そうおもって、とてもいさましい気になって、おなかのすいていることも、くたびれていることも、きれいにわすれてしまいました。そこで、妖女にお礼をいってわかれますと、さっそく、鬼の住んでいるお城にむかって、いそいで行きました。 やがて、お日さまが西にしずむころ、ジャックは、なるほどお城のように大きな家の前に来ました。 まず、とんとんと門をたたくと、なかから、目のひとつしかない、鬼のおかみさんが出て来ました。きみのわるい顔に似合わず、鬼のおかみさんは、ジャックのひもじそうなようすをみて、かわいそうにおもいました。それで、さもこまったように首をふって、 「いけない、いけない。きのどくだけれど、とめてあげることはできないよ。ここは、人くい鬼のうちだから、みつかると、晩のごはんのかわりに、すぐたべられてしまうからね。」といいました。 「どうか、おばさん、知らないようにしてとめてくださいよ。ぼく、もうくたびれて、ひと足もあるけないんです。」と、たのむように、ジャックはいいました。 「しかたのない子だね。じゃあ今夜だけとめてあげるから、朝になったら、すぐおかえりよ。」 こういっているさいちゅう、にわかにずしん、ずしん、地ひびきするほど大きな足音がきこえて来ました。それは主人の人食い鬼が、もう、そとからかえって来たのです。鬼のおかみさんは、大あわてにあわてて、ジャックを、だんろの中にかくしてしまいました。 鬼は、へやの中にはいると、いきなり、ふうと鼻をならしながら、たれだってびっくりしてふるえ上がるような大ごえで、 「フン、フン、フン、イギリス人の香りがするぞ。生きていようが死んでようが、骨ごとひいてパンにしてやるぞ。」 と、いいました。すると、おかみさんが、 「いいえ、それはあなたが、つかまえて、土の牢屋に入れてあるひとたちの、においでしょう。」といいました。 けれど鬼の大男は、まだきょろきょろそこらを見まわして、鼻をくんくんやっていました。でも、どうしても、ジャックをみつけることができませんでした。 とうとうあきらめて、鬼は、椅子いすの上に腰こしをおろしました。そしてがつがつ、がぶがぶ、たべたりのんだりしはじめました。そっとジャックがのぞいてみてみると、それはあとからあとから、いつおしまいになるかとおもうほどかっこむので、ジャックは、目ばかりまるくしていました。
大男はジャックをみつけることができなくてどうしましたか。
とうとうあきらめて、鬼は椅子の上に腰をおろして、そしてがつがつ、がぶがぶ、たべたりのんだりしはじめました。
JCRRAG_014191
国語
わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。 わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。 ある晩のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。 「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」 と、うしかいがわたしにいいました。 わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。 そこで、おっかなびっくり、マッチの棒のはしの方をもってすりました。すると、棒のさきに青い火がともりました。 わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。 「や、ありがとう。」 といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。 わたしはひとりになってから考えました。 ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。 あのうしかいは山の向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。 山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの旅人にゆきあうかもしれない。 するとその旅人は、 「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」 といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。 そしてこの旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。 すると、この旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。 その人たちは、 「わたしたちの村のひとりの子どもが、狐にばかされて村にかえってきません。それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」 といって、旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。 そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、やまや谷をさがしてゆくだろう。 わたしはいまでも、あのときわたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、つぎからつぎへうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。
なぜわたしは火の行く先を想像し続けたのか。
わたしは火が誰かの助けになり、つながりを生んでいくことを信じたから。
JCRRAG_014192
国語
むかし、あるところに、三人むすこをもった、粉ひき男がいました。もともと、びんぼうでしたから、死んだあとで、こどもたちに分けてやる財産といっても、粉ひき臼をまわす大きな風車と、普通ロバと、それから、小さい猫一ぴきだけしかありませんでした。さていよいよ財産を分けることになりましたが、公証人や役場の書記を呼ぶではなし、至極無造作に、一番上のむすこが、十メートルもある大きな風車をもらい、二番目のむすこが、二メートルもあるロバをもらい、すえのむすこが、六十センチの小さい猫をもらうことになりました。すえのむすこは、こんなつまらない財産を分けてもらったので、すっかりしょげかえってしまいました。 「にいさんたちは、めいめいにもらった財産をいっしょにして働けば、りっぱにくらしていけるのに、ぼくだけはまあ、この猫をたべてしまって、それからその毛皮で手袋をこしらえると、あとにはもうなんにも、のこりゃしない。おなかがへって、死んでしまうだけだ。」 すえの子は、不服そうにこういいました。すると、そばでこれを聞いていた猫は、なにを考えたのか、ひどくもったいぶった、しかつめらしいようすをつくりながら、こんなことをいいました。 「だんな、そんなご心配はなさらなくてもよございますよ。そのかわり、わたしにひとつ袋をこしらえてください。それから、ぬかるみの中でも、バラ藪の中でも、かけぬけられるように、長靴を一足作ってください。そうすれば、わたしが、きっとだんなを、しあわせにしてあげますよ。ねえ、そうなれば、だんなはきっと、わたしを遺産に分けてもらったのを、お喜びなさるにちがいありません。」 主人は猫のいうことを、そう、たいしてあてにもしませんでした。けれども、この猫がいつもねずみをとるときに、あと足で梁にぶらさがって、小麦粉をかぶって、死んだふりをしてみせたりして、なかなかずるい、はなれわざをするのを知っていましたから、なにか都合して、当面の難儀を、すくってくれる工夫があるのかもしれない、とおもって、とにかく、猫のいうままに、袋と長ぐつをこしらえてやりました。 "
粉ひき男から分けられた財産の中で、一番小さい物をもらったのはだれですか。
粉ひき男から分けられた財産の中で一番小さい物をもらったのは、六十センチの小さい猫をもらったすえのむすこです。
JCRRAG_014193
国語
「カラスさんたちは、いまるすだよ。でも、かえってくるまで待つ気なら、こっちへはいっておいでよ。」 それから、小人はカラスたちの食べものを七つの小さなおさらにのせ、飲みものを七つの小さなさかずきにいれて、もってきました。妹は、七つのおさらからひとかけらずつ食べ、七つのさかずきからひとすすりずつのみました。そして、いちばんおしまいのさかずきのなかに、うちからもってきた、かわいい指輪をおとしておきました。 そのとき、とつぜん、空のほうからバタ、バタいう羽の音と、カア、カアというなき声が、きこえてきました。すると、小人がいいました。 「さあ、カラスさんたちがかえってきたよ。」 まもなく、カラスたちはおりてきました。そして、食べたり、のんだりしようと思って、小さなおさらやかわいいさかずきをさがしました。けれども、すぐに、 「だれがぼくのおさらのものを食べたんだ。だれがぼくのさかずきのものをのんだんだ。こんなことをしたのは、人間の口にちがいない。」 と、カラスたちはじゅんじゅんにいいました。 しかし、七ばんめのカラスがさかずきをのみほしたとき、かわいい指輪がころがりでました。よく見ますと、それはたしかに、見おぼえのある、おとうさんとおかあさんの指輪です。それで、そのカラスはいいました。 「ああ、妹がここにいてくれたらなあ。そうすりゃ、ぼくたち、たすけてもらえるんだけど。」 女の子は戸のうしろに立って、そっときいていましたが、この願いごとを耳にしますと、すぐにカラスたちのまえにでてきました。 と、たちまち、カラスたちは一羽のこらず、もとの人間のすがたにもどったではありませんか。みんなはかたくだきあって、キッスをしあいました。そして、心もはればれとして、国へかえりました。
妹がのんだひとすすりの数を教えてください。
妹がのんだひとすすりの数は7です。
JCRRAG_014194
国語
病気が治ると、私は王にお礼を申し上げに行きました。王はうれしそうに、今度のことをさんざ、おからかいになるのでした。猿に抱かれていた間どんな気持ちがしたか、あんな食物の味はどうだったか、どんなふうにして食べさすのか、などお尋ねになります。そして、そんな場合、ヨーロッパではどうするのか、と言われます。そこで、私は、 「ヨーロッパには猿などいません。いてもそれは物好きが遠方からつかまえて来たもので、そんなものは実に可愛らしい奴です。そんなのなら十二匹ぐらい束になってやって来ても、私は負けません。実際に五匹やってきたときも、十匹やってきたときも追い払ったことがあります。 なに、この間のあの大きな奴だって、あれが私の部屋に片手を差し込んだとき、あのときも私は平気だったのです。私がほんとに怖いと思ったら、この短剣で叩きつけます。そうすれば、相手に傷ぐらい負わせて、手を引っ込めさせたでしょう。」 と、私はきっぱり申し上げました。 けれども、私の言うことに、みんなはどっと噴きだしてしまいました。 中には私の勇ましさに感心したように頷いているものもいました。 これで私はつくづく考えました。はじめから問題にならないほど差のある連中の中で、いくら自分を立派に見せようとしても駄目だということがわかりました。 国王は非常に音楽が好きで、だから、よく宮廷では音楽会がありました。私もときどき、つれて行ってもらって、テーブルの上に箱を置いてもらって聞いたものですが、なにしろ大へんな音で、曲も何もわからないのです。軍楽隊の十の太鼓と二十のラッパをみんな持って来て耳許で鳴らすより、もっと凄い騒がしさです。ですから、私はいつも一番遠いところに箱を置いてもらい、扉も窓もすっかり閉め、カーテンまでおろします。そうすると、それでまず、どうにか聞けるのでした。 国王はまた非常に賢い方でしたが、よく私を箱のままつれて来て、陛下のテーブルの上に置かれます。私は椅子を一つ持って、箱から出て来ると、陛下の近くの箪笥の上に坐ります。そこで、私の顔と陛下の顔が向かい合いになります。こんなふうにして、私たちは何度も話し合いましたが、ある日、私は思いきって、こんなことを申し上げました。 「一たい陛下がヨーロッパなどを軽蔑なさるのは、どうも賢い陛下に似合わぬことのようです。智恵はなにも身体の大きさによるものではありません。いや、あべこべの場合だってあるようです。蜜蜂とか蟻とかは、ほかのもっと大きな動物たちよりも、はるかに勤勉で、器用で、利口だと言われています。私なども、陛下は取るに足りない人間だとお考えでしょうが、これでも、いつか素晴しいお役に立つかもしれません。」 陛下は、私の話を一心に聞いておられましたが、前よりよほど私をよくわかってくださるようでした。そして、 「それではひとつ、イギリスの政治について、できるだけ正確に話してもらいたい。」 と仰せになりました。 そこで、私はわが祖国の議会のこと、裁判所のこと、6000万人いる人口について、宗教について、あるいは歴史のことまで、いろいろとお話し申し上げることになりました。私は王に何回もお目にかかって、毎回数時間、この話をお聞かせしたのですが、王はいつも非常に熱心に聞いてくださいました。そして、ノートには、一つ一つ、後で質問しようと思われるところや、私の話の要点を書き込んでおられました。
ヨーロッパの猿なら私でも追い払ってみせると豪語した私の話を聞いた、みんなの反応の違いを教えてください。
王はうれしそうに、猿に抱かれていた間どんな気持ちがしたか、食物の味はどうだったか、どんなふうにして食べさすのか、などお尋ねになります。そして、そんな場合、ヨーロッパではどうするのか、と言われたので、私は、「ヨーロッパの猿なら追い払って見せます」と、きっぱり申し上げましたが、みんなはどっと噴きだしてしまいました。 その一方で、中には私の勇ましさに感心したように頷いているものもいました。
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国語
北緯二十度、東経百十五度。 ――というと、そこはちょうど香港を真南に三百五十キロばかりくだった海面であるが、警備中のわが駆逐艦松風は、一せきのあやしい中国船が前方を南西へむかって横ぎっていくのを発見した。 「――貨物船。推定トン数五百トン、船尾に“平靖号”の三字をみとむ……」 と、見張兵は、望遠鏡片手に、大声でどなる。 艦橋には、艦長の姿があらわれた。そしてこれも双眼鏡をぴたりと両眼につけ、蒼茫とくれゆく海面に黒煙をうしろにながくひきながら、全速力で遠ざかりゆくその怪貨物船にじっと注目した。 「商船旗もだしておりませんし、さっきから観察していますと、多分にあやしむべき点があります」 副長が、傍から説明をはさんだ。 艦長は、それを聞いて、双眼鏡をにぎりしめ、ぐっと顎をむこうへつきだした。 「追え!」 命令は下ったのだ。 駆逐艦松風は、まもなく全速力で、怪船のあとをおいかけた。艦首から左右に、雪のような真白な波がたって、さーっと高く後へとぶ。 一体あの怪中国船は、どこの港から出てきたのであろうか。どんな荷をつんで、どこへいくつもりなのであろうか。いま怪船のとっている針路からかんがえると、南シナ海をさらに南西へ下っていくところからみて、目的地はマレー半島でもあるのか。 小さな貨物船は、速力のてんで到底わが駆逐艦の敵ではなかった。ものの十分とたたない間に駆逐艦松風は、怪船においつき、舷と舷とがすれあわんばかりに近づいた。 駆逐艦のヤードに、さっと信号旗がひるがえった。 “停船せよ!” 怪貨物船は、この信号を知らぬかおで、そのまま航走をつづけた。甲板上には、たった一人の船員のすがたも見えない。さっきまでは、そうではなかった。双眼鏡のそこに、たしかに甲板にうごく船員のすがたをみとめたのに。 停船命令を出したのに、怪船がそれを無視してそのまま航走をつづけるとあっては、わが駆逐艦もだまっているわけにはいかない。副砲は、一せいに怪船の方にむけられた。撃ち方はじめの号令が下れば、貨物船はたちまち蜂のすのようになって、撃沈せられるであろう。雨か風か、わが乗組員は唇をきッとむすんで、怪船から眼をはなさない。 それがきいたのか、怪船はにわかに速力をおとした。それとともに、甲板のものかげから、ねずみのように船員たちがかおを出しては、また引っこめる。 岸少尉を指揮官とする臨検隊が、ボートにうちのって、怪貨物船に近づいていった。むこうの方でも、もう観念したものと見え、舷側から一本の繋梯子がつり下げられた。わがボートはたくみにその下によった。 岸少尉を先頭に、臨検隊員は、怪船の甲板上におどりあがった。 「帝国海軍は、作戦上の必要により、ここに本船を臨検する」 中国語に堪能な岸隊長は、船員たちのかおをぐっとにらみつけながら、流暢な言葉で、臨検の挨拶をのべた。 そのとき、甲板にぞろぞろ出て来た船員たちの中から、半裸の中国人が一人、前にでて、 「臨検はどうぞ御勝手に。その前に、船長がちょっと隊長さんにお目にかかりたいと申して、このむこうの公室でまっています」 「なに、向うの室へ、船長がこいというのか。なかなか無礼なことをいうね。用があれば、そっちがここへ出て来いといえ」 「はい、それがちょっと出られない事情がありまして、ぜひにまげて御足労をおねがいしろとのことです」 「出て来られない事情というのは何か。それをいえ」 岸隊長は、まるで母国語のように、中国語でべらべらいいまくる。 そのとき、かの半裸の中国人は、一歩前に出た。ひそかに岸隊長にはなしをするつもりだったらしいが、隊長の部下がどうしてこれを見おとそうか、剣つき銃をもって、隊長の前に白刄のふすまをきずいた。 「とまれ!」 もう一歩隊長の方へよってみろ、そのときは芋ざしだぞというはげしいいきおいだ。 「あッ、危ねえ!」 かの半裸の中国人は、飛鳥のように後へとびさがったが、そのとき臨検隊の一同は、おやという表情で、その中国人のかおをみつめた。それも道理だ。その中国人が、“あッ、危ねえ!”と、きゅうにあざやかな日本語をしゃべったからである。 「やっ、貴様は何者!」 岸少尉は、相手をにらみすえた。
日本の駆逐艦松風が、遭遇した中国船を「怪しい」と判断したのはなぜか。
怪しい中国船は商船旗を掲げておらず、停船命令を無視して航行を続け、さらに先ほどまで甲板にいた船員の姿が見えなくなったという状況など不審点が多かったから。
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国語
さて、たらふくたべてのんだあげく、おかみさんに、 「おい、にわとりをつれてこい。」といいつけました。 それは、ふしぎなめんどりでした。テーブルの上にのせて、鬼が、「生め。」といいますと、すぐ金のたまごをひとつ生みました。鬼がまた、「生め。」といいますと、またひとつ、金のたまごを生みました。 「やあ、ずいぶん、とくなにわとりだな。おとうさんのおたからというのは、きっとこれにちがいない。」と、下からそっとながめながら、ジャックはそうおもいました。 鬼はおもしろがって、あとからあとから、いくつもいくつも、金のたまごを生ましているうち、おなかがはってねむたくなったとみえて、ぐすぐすと壁のうごくほどすごい大いびきを立てながら、ぐっすりねこんでしまいました。 ジャックは、鬼のすっかりねむったのを見すまして、ちょうど鬼のおかみさんが、台所へ行っているのをさいわい、そっとだんろの中からぬけだしました。そして、テーブルの上のめんどりを、ちょろり小わきにかかえて、すたこらお城を出て行きました。 それから、どんどん、どんどん、かけだして行って、豆の木のはしごのかかっている所までくると、するするとつたわっておりて、うちへかえりました。 ジャックのおかあさんは、むすこが、鬼か魔女にでもとられたのではないかと心配していると、ぶじでひょっこりかえって来たので、とても大さわぎしてよろこびました。それからは、ジャックのもってかえった、金のたまごを生むにわとりのおかげで、おや子はお金もちにもなりましたし、しあわせにもなりました。
ジャックは鬼がぐっすりねこんでしまったらどうしましたか。
テーブルの上のめんどりを、ちょろり小わきにかかえて、すたこらお城を出て行きました。
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国語
わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。 わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。 ある晩のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。 「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」 と、うしかいがわたしにいいました。 わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。 そこで、おっかなびっくり、マッチの棒のはしの方をもってすりました。すると、棒のさきに青い火がともりました。 わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。 「や、ありがとう。」 といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。 わたしはひとりになってから考えました。 ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。 あのうしかいは山の向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。 山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの旅人にゆきあうかもしれない。 するとその旅人は、 「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」 といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。 そしてこの旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。 すると、この旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。 その人たちは、 「わたしたちの村のひとりの子どもが、狐にばかされて村にかえってきません。それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」 といって、旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。 そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、やまや谷をさがしてゆくだろう。 わたしはいまでも、あのときわたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、つぎからつぎへうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。
なぜわたしは今でも火が灯り続けていると感じるのか。
わたしは、自分が灯した火が人々の間で受け継がれ続けていると信じているから。
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国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
蜂の針の長さのうち、より短い針のサイズを教えてください。
蜂の針の長さのうち、より短い針のサイズは一インチです。
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国語
むかしむかし、あるところに、王さまとお妃さまがおりました。ふたりはたいそうなかよくくらしていました。十二人のお子さんがいましたが、みんなそろいもそろって男の子ばかりでした。 さて、あるとき、王さまがお妃さまにむかっていいました。 「こんど生まれる子どもが、もし女の子だったら、十二人の男の子はみんな殺してしまおう。そして、その女の子の財産がたくさんになって、この国がその子だけのものになるようにしてやろう。」 王さまは、ほんとうに、十二のお棺までもこしらえさせました。そのなかには、すでにかんなくずもつめてあって、ひとつひとつに、死人のための小さなまくらまでもいれてありました。王さまはこれをひとつのへやにはこびこませて、かぎをかけました。そして、そのかぎをお妃さまにわたして、このことはだれにもいってはならぬ、といいわたしました。 けれども、お妃さまは、それからというものは、一日じゅうすわったきりで、かなしみにしずんでおりました。ですから、いつもお妃さまのそばにばかりくっついているすえっ子の、ベンジャミンという子が、お妃さまにむかってたずねました。この子は、聖書から名をとってベンジャミンとよばれていたのです。 「おかあさま、どうしてそんなにかなしんでいらっしゃるの。」 「ぼうや、ぼうやにはそのわけを話してあげることができないのよ。」 と、お妃さまはいいました。 けれども、ベンジャミンはいつまでもうるさくせがみます。それで、とうとう、お妃さまは立っていってそのへやをあけ、もうかんなくずまでつまっている十二のお棺を見せてやりました。 「かわいいベンジャミン、このお棺はね、おまえのおとうさまが、おまえと十一人のおにいさまたちのためにこしらえさせたものなのよ。というのは、もしこんど、女の子が生まれれば、おまえたちはみんな殺されて、このなかにいれられて、ほうむられてしまうことになっているのよ。」 こう話しながら、お妃さまはさめざめと泣なきました。すると、男の子はおかあさまをなぐさめて、いいました。 「泣かないでよ、おかあさま。ぼくたち、みんなでたすけあって、にげてしまうから。」 すると、お妃さまはいいました。 「十一人のおにいさまたちといっしょに、森へにげなさい。そして、森のなかでいちばん高い木を見つけて、だれかひとりがかならずそこにのぼって、見はりをしているようになさい。そうして、このお城の塔のほうをよく見ているんですよ。もしも男の子が生まれれば、白い旗をかかげますからね。そうしたら、みんなでかえっていらっしゃい。でも、もし女の子が生まれたら、赤い旗をかかげますよ。そしたら、できるだけはやくおにげなさい。ああ、どうか神さまがおまえたちをおまもりくださいますように。あたしはまい晩おきていて、おまえたちのためにおいのりをしていますよ。冬は、みんなが火にあたれるように、夏は、暑さにくるしまないようにね。」 こうして、お妃さまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔のほうをながめていました。
王さまは死人のための小さなまくらをいくつ作りましたか。
王さまは死人のための小さなまくらを十二個作りました。
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国語
ある日、私は王の御機嫌をとるつもりで、こんなことを申し上げました。 「実は私は素晴しいことを知っているのです。というのは、今から三百年前、遅くても四百年前に、火薬という粉が発明されましたが、その製造法を私はよく知っているからです。まず、この粉というのは、それを集めておいて、これに、ほんのちょっぴりでも火をつけてやると、たとえ山ほど積んである物でも、たちまち火になり、雷よりももっと大きな音を立てて、何もかも空へ高く吹き飛ばしてしまいます。 で、もし、この粉を真鍮か鉄の筒にうまく詰めてやると、それは恐ろしい力と速さで遠くへ飛ばすことができるのです。こういうふうにして、大きな大砲を打ち出すと、一度に百人の騎兵を全滅させることも、千人の歩兵を全滅させることもできます。 大砲の威力はすさまじく、鉄壁を破ったり、十隻の小さな船や一隻の大きな船さえ沈めてしまうこともできます。また、この粉を大きな鉄の球に詰めて、機械仕掛けで敵に向かって放つと、舗道は砕け、家は崩れ、かけらは八方に飛び散って、そのそばに近づくものは、誰でも脳味噌を叩き出されます。 私はこの粉を、どういうふうにして作ったらいいか、よく心得ているのです。で、職人たちを指図して、この国で使えるぐらいの大きさに、それを作らせることもできます。一番大きいので長さ百フィートあればいいでしょうが、こうした奴を三十本打ち出すと、この国の一番丈夫な城壁でも、三時間で打ち壊せます。もし首都が陛下の命令に背くような場合は、この粉で首都を全滅させることだってできます。とにかく、私は陛下の御恩に報いたいと思っているので、こんなことを申し上げる次第です。」 私がこんなことを申し上げると、大臣たちはまた面白い作り話をするものだと笑っていましたが、国王はすっかり、仰天してしまったようです。そして呆れ返った顔つきで、こう仰せになりました。 「よくもよくもお前のような、ちっぽけな、虫けらのような動物が、そんな鬼、畜生にも等しい考えを抱くものだ。それに、そんなむごたらしい有様を見ても、お前はまるで平気でなんともない顔をしていられるのか。お前はその人殺し機械をさも自慢げに話すが、そんな機械の発明こそは、人類の敵か、悪魔の仲間のやることにちがいない。そんな、けがらわしい奴の秘密は、たとえこの王国の半分をなくしても、余は知りたくないのだ。だから、お前も、もし生命が惜しければ、二度ともうそんなことを申すな。」 国王御自身は、科学に興味を持たれ、自然に関する発見など非常に喜ばれたのですが、このことばかりは、頑として許されないのでした。
私の火薬の話を聞いた陛下と大臣の反応の違いを教えてください。
私は王の御機嫌をとるつもりで、火薬という粉と、それを使ったとんでもない威力を持った大砲の話をしました。私がこんなことを申し上げると、大臣たちはまた面白い作り話をするものだと笑っていました。 一方で、国王はすっかり、仰天してしまったようです。そして呆れ返った顔つきで、二度とそんな人殺し機械の話をするなと言いました。