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JCRRAG_014201
国語
「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化の皮がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」 と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。 だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。 「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」 岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。 「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」 と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八という者です。この貨物船平靖号の水夫をしています」 「ふん、竹見太郎八か、お前、なぜこんな中国船の水夫となってはたらいているのか」 「はい。私はなにも申上げられません。しかし、さっきも申しましたとおり、船長があなたにお目にかかりたいといっていますから、まげて船長の公室へおいでくださいませんか。これにはいろいろ事情がありまして……」 水夫竹見は、俄にていねいになって、岸隊長をうごかそうとする。その熱心が、彼の顔にはっきりあらわれているので、隊長もその気になって、彼に案内をめいじた。 このような小さな貨物船に、船長の公室があるというのも笑止千万であるが、ともかくも岸隊長は、隊員の一部をひきつれて、竹見のあとにつづいて公室の入口をくぐった。そこは船橋のすぐ下で、船長室につづいた室だった。 入ってみて、またおどろいた。 室内は、こんな貧弱な船に似合わず、絢爛眼をうばう大した装飾がしてあって、まるで中国のお寺にいったような気がする。入口をはいったところには、高級船員らしい七八人の男がきちんと整列していて、隊長岸少尉のかおを見ると、一せいに挙手の礼を行った。 室の真中に、一つの大きな卓子がある。その前に、一人の肥満した人物が、ふかい椅子に腰をかけている。 「さあ、どうぞこちらへ」 と、その肥満漢は手をのばして、隊長に上席をすすめた。混じり気のない立派な日本語であった。どうやらこれが船長らしい。だが船長にしろ、椅子にこしをかけたまま、帝国軍人に呼びかけるとは無礼至極であるとおもっていると、かの肥満漢は、 「私は脚が不自由なものでしてナ、お迎えにも出られませんで、御無礼をしておりますじゃ。この汽船の船長天虎来こと淡島虎造でござんす」 と、ていねいに挨拶をしてあたまを下げた。 脚が不自由だという。見れば、なるほどこの虎船長の両脚は、太腿のところからぷつりと両断されて無い。 このように脚が不自由だから、岸隊長を公室までまねいたことが一応合点がいった。しかしいくら脚が不自由でも、この船長だって出てこられないはずはないのだがと、岸隊長はどこまでも、こまかいところへ気を配りつつ訊問にかかった。 「本船のせきは、日本か中国か」 「もちろん日本でございます」 「日本船なら、なぜ船尾に日章旗を立てないのか」 「おそれ入りますが、これにはいろいろ仔細がございまして……」 と、かの虎船長は一揖して、きっと形をあらため、かたりだしたところによると、 「――この平靖号は、中国から分捕った貨物船でありまして、払下手続をとって手に入れたものであります。この汽船には四十八名の乗組員がおりますが、どれもこれも中国語をよくあやつる。しかしそのうち八名を除いて、のこり四十名はいずれも生粋の日本人でございます。そこに立っております高級船員たちも、どこから見ても中国人ですが、これがみな日本人なんで、商船学校も出た者もおりまするし、予備の海兵も混っております」 虎船長は、そういって後の船員たちを指した。岸隊長は、あらためて高級船員の面をじっと見まわしたが、なるほど、眼の光だけは炯々として、新東亜建設の大精神にもえていることがはっきりと看取される。 「本船の目的は、どこか。また、なぜこんなに、すっかり中国式になっているのか。日本人らしい装飾も什器も、なんにもないではないか」 岸隊長は、疑問のてんをついた。 「はい、本船の目的と申しまするのは、日本を飛びだして日本に帰らないということであります。われわれ一同、こせこせした日本人に嫌気がさし、日本人を廃業して中国人になり切り、南シナ海からマレー、インドの方までもこの船一つを資本として、きのうは東に、きょうは西にと、気ままに航海をつづけようというのであります。積荷は、ことごとく中国雑貨と酒です」 日本人を廃業するんだとは、船長なかなかすごいことをいいだしたものである。そういっておいて、船長はじっと岸少尉の顔色をうかがっていた。
平靖号の船長は自分についてどのように説明したか。
平靖号の船長は、自分は脚が不自由だと説明し両脚とも太腿のところから両断されて無かった。
JCRRAG_014202
国語
しばらくすると、ジャックはまた、もういちど空の上のお城に行ってみたくなりました。そこで、こんどは、この間とは違った変装をして、ある日、豆の木のはしごを、またするするとのぼって行きました。鬼のお城に行って、門をたたくと、鬼のおかみさんが出てきました。ジャックが、またかなしそうに、とめてもらいたいといって、たのみますと、おかみさんは、まさかジャックとは気がつかないようでしたが、それでも手をふって、 「いけない、いけない。この前も、お前とおなじような貧乏たらしいこどもをとめて、主人のだいじなにわとりを、ちょっくらもって行かせた。それからはまい晩、そのことをいいだして、わたしが、延々としかられているじゃないか。またもあんなひどいめにあうのはこりごりだよ。」といいました。 それでも、ジャックは、しつこくたのんで、とうとう中へ入れてもらいました。すると、大男がかえって来て、また、そこらをくんくんかいでまわりましたが、ジャックは、あかがねの箱の中にかくれているので、どうしてもみつかりませんでした。 大男は、この前とおなじように、晩の食事をたらふくやったあとで、こんどは、金のたまごをうむにわとりの代わりに、金や銀のおたからのたくさんつまった袋を出させて、それをざあっとテーブルの上にあけて、一枚一枚かぞえてみて、それから、おはじきでもしてあそぶように、それをチャラチャラいわせて、さんざんあそんでいましたが、ひととおりたのしむと、また袋の中にしまって、ひもをかたくしめました。そして、天井にひびくほどの大あくびをひとつして、それなりぐうぐう、大いびきでねてしまいました。 そこで、こんども、ジャックは、そろりそろり、あかがねの箱からはいだして、金と銀のおたからのいっぱいつまった袋を、両方の腕に、しっかりかかえるがはやいか、さっさとにげだして行きました。ところが、この袋の番人に、一ぴきの小犬がつけてあったので、そいつが、とたんに、きゃんきゃん吠えだしました。 ジャックは、こんどこそだめだとおもいました。それでも、大男は、とても死んだようによくねていて、目をさましませんでした。ジャックはむちゅうで、後ろをみずにどんどん、走って行って、とうとう豆の木のはしごに行きつきました。 さて、にわとりとちがって、こんどはおもたい金と銀の袋をはこぶのに、ほねがおれました。それでもがまんして、うんすら、うんすら、二日がかりで、豆の木のはしごを、ジャックはおりました。 やっとこさ、うちまでたどりつくと、おかあさんは、ジャックがいなくなったので、すっかり、がっかりして、ひどい病人になって、戸をしめてねていました。それでも、ぶじなジャックの顔をみると、まるで死んだ人が生きかえったようになって、それからずんずんよくなって、やがて、しゃんしゃんあるきだしました。その上、お金がたくさんできたときいて、よけいげんきになりました。
おかあさんはジャックの顔をみるとどうなりましたか。
ぶじなジャックの顔をみるとまるで死んだ人が生きかえったようになって、それからずんずんよくなって、やがて、しゃんしゃんあるきだしました。
JCRRAG_014203
国語
大頭の吉太郎君にわかれてから、大作君はもう四つ五つの道かどをまがってきた。こんなふうに景色をかえているうちに、たいていの不愉快なおもいは消えてしまうものである。ところが、今日はそうでなかった。家は貧乏だ、というおもいは、しゅうねんぶかく大作君のあとをつけてきた。まるで、追っても追ってもついてくるすて犬のように。 大作君は、何もいままで自分の家の貧乏なことを知らなかったわけではないのだ。しかしこんなぐあいに、まざまざとみせつけられたのは今日がはじめてであった。 四年生の三学期に大作君は体操をなまけてばかりいたことがあった。それで、体操の点が乙か丙になるだろうということは、前からうすうす思っていた。しかし通知票をもらって、じっさいそこに、体操丙と書かれてあるのをみたときには、いやこれであたりまえだ、と思いながらも、がっかりしてしまったものだ。 大作君が、いぜんからうすうす知っていた自分の家の貧しいことを、今日のできごとでまざまざとみせつけられたのは、体操丙の通知票をみたときと同じようなことであった。 そこで大作君は、おとなのことばでいえば、自分の家の貧乏をはっきり認識した。さらに、貧乏であることをしみじみはずかしく感じたのである。 人は、つまずいてすてんころりとぶざまにころんだりすると、ころんだ自分に腹を立てて、もういっぺんわざと、こんどはもっとひどく、ころんで自分をいじめることがあるものだが、大作君も、自分の家の貧乏なことがよくわかり、そしてそれがうたがいもなくはずかしいことであるとわかってみると、こんどはわざと、自分の家がどんなに貧しいはずかしい暮らし方をしているかをおもい出して、ますますはずかしさを味わってみたくなった。 ――第一、大作君の家では子どもが多すぎるのだ。大作君をかしらにして八人いる。そしてお母さんはまだこれから赤ん坊をうむかも知れないのである。何しろこんなに生まれるということはお父さんも意外だったそうだ。それが証拠に、お父さんははじめ三人だけは、大作、速男、幸助と、ていねいな名前をつけた。そして四人目が生まれたときにはじめて、これは今後何人生まれるかわからない。それならば、いちいち考えて名をつけているわけにはいかないというので、四人目の弟からは、四郎、五郎、ムツ子、七郎と、番号式につけたのだそうである。この話をよく大作君はお父さんから笑い話としてきかされ、そのつど、おかしくて大笑いした。しかし考えてみれば、こんなことのどこがおもしろいものか。ぜんぜん貧乏くさい話じゃないか。 子どもが多いので大作君の家では、服をひとりひとりに買ってあてがうということはないのだ。たとえば大作君が使った洋服を、つぎの速男が使ってわるくし、それをつぎの幸助が使ってぞうきんみたいなものにしてしまい、それをつぎの四郎と五郎が使っていっそうちぎれちぎれにしてしまうと、最後は赤ん坊たちのむつきになるというあんばいだった。 帽子や鞄や教科書、その他なんでもそういうふうに、年上から年下へ手わたされていくのであった。おかしいことに眼の上のこぶまでがそうだった。つまり最初に、大作君の左の眼の上が赤くつやつやとふくれあがってまぶたが重くなる。一週間もして大作君のそれがなおると、つぎの速男がちゃんとそれをうけついで、左の眼の上をはらしている。速男がなおれば幸助、つぎは四郎、五郎という順にいく。たんこぶまでが、リレーの棒のように、眼から眼へうけわたされていくというのは、まったくばかげた、一銭の得にもならない話ではないか。 いや、その弟どもが、またひとりひとり考えてみると、いかにも貧乏たらしいのである。 速男はやせっぽちで、大作君からゆずりうける服がいつもだぶだぶのくせに大ぐいである。そして家では速男を西瓜ぐいの名人といっている。それは、はやくたべることと、皮を紙のようにうすくのこしてあとはすっかりたべてしまう芸当のためにもらった名前である。 つぎの幸助は、なんでもひろってきて、人のみないところにかくしておき、ひとりでとてつもないことを大まじめに考えているという変なやつだ。たとえば、茶色の小石をマッチ箱に入れて持っていて、めったにみせてはくれないが、それは土の中にうめておくとだんだん大きくなり、さらにそれを清水のわくところにつけておくと、すきとおってきて宝石になるのだそうだ。 つぎの四郎はまだ国民学校にあがったばかりだ。声がいいというので学芸会に出て唱歌をうたったが、家にいるときは、つぎのようなくだらん歌をいつでもくりかえしうたっている。 たかじゃっぽォ ぽんひゃァりィ りくぐんのォ 乃木さんがァ がいせんすゥ すずゥめェ めじろォ ろしやァ やばんこォくゥ クロバトキン …… このばかげたしりとりうたはいつまでうたってもきりがない。きいてるとうんざりしてしまうのだ。 つぎの五郎は、耳の先をぴくぴく動かすことができる。みんながめずらしがって、動かしてみせろというと、まだちいさいので、いい気になって、眼を細め、口をさるのようにつぼめ、耳をぴくつかせてみせるのである。 まだ大作君の家の貧乏な話はいくらでもあるが、そう一度に全部おもい出せるものではない。ここまでおもい出したとき、大作君はもう家のそばまできてしまった。 いつもなら物置小屋の横を通って、さっさと庭にはいるのだが、今日は物置小屋の横で足がとまってしまった。ことのついでに、自分の家がどんなに貧乏くさいかみてやれ、と大作君は思ったのだ。 大作君は、物置小屋の横から自分の生まれた家を観察するため、顔をすこしさしだしたとき、泥棒でもしようとしているかのように、うしろめたく感じた。 井戸ばたで小さい女の人が、油っ気のない髪をいいかげんにぐるぐるとまきつけて、洗濯をしていた。それが大作君のお母さんだった。そのうしろにはビール箱がおいてあって、中に赤ん坊がはいっていた。ビール箱はお父さんが買ってきて、ちょっと細工してつくった「乳母車」であった。 赤ん坊を、八つぐらいの男の子どもがあやしていた。あやす玩具は何かといえば、すりきれて、もう使えなくなったほうきであった。その男の子どもが大作君の弟の四郎であった。 これはもう、申し分のない貧乏な景色であるように大作君には思えた。やれやれ、自分の家はこんなんだったのか。 大作君はげんなりと力もぬけて、物置小屋の壁にもたれていた。
なぜ大作君は家を観察する際に泥棒のような気分になったのか。
自分の家を客観的に見つめることで、外部の視点から家の貧しさを痛感したから。
JCRRAG_014204
国語
蠅の足の裏側には、ねばねばしたものがくっついているので、それで、天井を逆さまに歩くことができるのだ、と、博物学者たちは言っていますが、私の目には、あのねばねばしたものまで、実にはっきり見えるのです。私はこの憎ったらしい動物から、身を守るのに、大へん閉口しました。顔などにとまられると、思わず跳び上がったものです。ところが、こびとの奴はいつもこの蠅を五匹、ちょうど、小学生がよくやるように、手につかんで来ては、いきなり私の鼻の先に放すのです。これは私を驚かして、王妃の御機嫌をとるつもりでした。私は飛んで来る奴をナイフで斬りつけるばかりでした。この私の腕前は、みんなからほめられました。 ある日は七匹、またある日は十匹も放した来たときなどは大変苦しみながら切りつけました。 今でもよくおぼえていますが、ある朝、グラムダルクリッチは、私を箱に入れたまま、窓口に載せておいたのです。天気のいい日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂いに誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。 なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴーゴーと唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼らを空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂はしゃこぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチもあって、縫い針のように鋭いものでした。 別の日には六匹をしとめた時に、二インチもあった針を持っていた蜂もいました。 私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろいろな珍品と一緒にイギリスに持って帰りました。
蜂の針の長さのうち、より短い針のサイズを教えてください。
蜂の針の長さのうち、より短い針のサイズは一インチです。
JCRRAG_014205
国語
むかしむかし、あるところに、王さまとお妃さまがおりました。ふたりはたいそうなかよくくらしていました。十二人のお子さんがいましたが、みんなそろいもそろって男の子ばかりでした。 さて、あるとき、王さまがお妃さまにむかっていいました。 「こんど生まれる子どもが、もし女の子だったら、十二人の男の子はみんな殺してしまおう。そして、その女の子の財産がたくさんになって、この国がその子だけのものになるようにしてやろう。」 王さまは、ほんとうに、十二のお棺までもこしらえさせました。そのなかには、すでにかんなくずもつめてあって、ひとつひとつに、死人のための小さなまくらまでもいれてありました。王さまはこれをひとつのへやにはこびこませて、かぎをかけました。そして、そのかぎをお妃さまにわたして、このことはだれにもいってはならぬ、といいわたしました。 けれども、お妃さまは、それからというものは、一日じゅうすわったきりで、かなしみにしずんでおりました。ですから、いつもお妃さまのそばにばかりくっついているすえっ子の、ベンジャミンという子が、お妃さまにむかってたずねました。この子は、聖書から名をとってベンジャミンとよばれていたのです。 「おかあさま、どうしてそんなにかなしんでいらっしゃるの。」 「ぼうや、ぼうやにはそのわけを話してあげることができないのよ。」 と、お妃さまはいいました。 けれども、ベンジャミンはいつまでもうるさくせがみます。それで、とうとう、お妃さまは立っていってそのへやをあけ、もうかんなくずまでつまっている十二のお棺を見せてやりました。 「かわいいベンジャミン、このお棺はね、おまえのおとうさまが、おまえと十一人のおにいさまたちのためにこしらえさせたものなのよ。というのは、もしこんど、女の子が生まれれば、おまえたちはみんな殺されて、このなかにいれられて、ほうむられてしまうことになっているのよ。」 こう話しながら、お妃さまはさめざめと泣なきました。すると、男の子はおかあさまをなぐさめて、いいました。 「泣かないでよ、おかあさま。ぼくたち、みんなでたすけあって、にげてしまうから。」 すると、お妃さまはいいました。 「十一人のおにいさまたちといっしょに、森へにげなさい。そして、森のなかでいちばん高い木を見つけて、だれかひとりがかならずそこにのぼって、見はりをしているようになさい。そうして、このお城の塔のほうをよく見ているんですよ。もしも男の子が生まれれば、白い旗をかかげますからね。そうしたら、みんなでかえっていらっしゃい。でも、もし女の子が生まれたら、赤い旗をかかげますよ。そしたら、できるだけはやくおにげなさい。ああ、どうか神さまがおまえたちをおまもりくださいますように。あたしはまい晩おきていて、おまえたちのためにおいのりをしていますよ。冬は、みんなが火にあたれるように、夏は、暑さにくるしまないようにね。」 こうして、お妃さまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔のほうをながめていました。
ひとつのへやにお棺が何個入っていますか。
ひとつのへやにお棺は十二個入っています。
JCRRAG_014206
国語
私は、いつかは自由な身になりたい、という気持ちを、いつも持っていました。しかし、どうしたら自由になれるのか、それはまるでわかりませんでした。私にできそうな工夫はてんで見つからないのです。この国の海岸に吹きつけられた船は、後にも前にも、私の乗って来た船のほかに、誰も見たことはありません。しかし国王は、もし万一またほかの船が現れたら、すぐ海岸へ引っ張って来て、船長や乗客を手押車に乗せてつれて来るようにと、言い渡されていました。 国王は、私と同じ大きさの女を妻にさせて、私たちの子供をふやしてみたい、と熱心に望まれていました。私と同じ大きさの男の子を五人、女の子を三人はふやしてほしいと言っていました。 しかし私は、馴れたカナリヤのように籠の中で飼われたり、国中の貴族たちの慰みに売られるために、子供をつくるくらいなら、そんな恥かしい目に会うよりか、死んだ方がましだと思っていました。それに、国に残してきた家庭のことも忘れることができませんでした。もう一度、気らくに話のできる人間の中に帰り、街や野を歩くときも、蛙や犬の子みたいに踏みつぶされる心配なしに歩きたかったのです。しかし私は、たまたま思いがけないことから、うまく、この国を離れることができたのです。それを次にお話しいたしましょう。 それは私がこの国へ来て二年が過ぎ、ちょうど三年目のはじめ頃のことでした。グラムダルクリッチと私は、十人の警備と十五人の召使と共に国王と王妃のお供をして、南の海岸の方へ行きました。私はいつものように、旅行用の箱に入れられていました。ハンモックを天井の四隅から絹糸で吊し、旅行中はよくこれで眠ることにしました。 いよいよ海岸に着くと、国王はその海岸からあまり遠くないところにある離宮で数日間、お過しになることになりました。グラムダルクリッチも私も、へとへとに疲れていました。私も少し風邪をひいていましたが、グラムダルクリッチは非常に加減が悪いので、部屋で休んでいなければならなかったのです。私はなんとかして海へ行ってみたいと思いました。海へ行けば、この国から逃げ出す工夫が見つかるかもしれません。そこで、私は身体工合の悪いことを訴えて、ひとつ海岸へ行っていい空気が吸いたいので、行かせてください、と頼みました。そして、私と一緒に四人いる侍童のうち一人の男の子がついて行ってくれることになりました。 侍童は海岸に行くのを心から楽しそうにうきうきとついてきてくれていました。 王妃は手を振って私を見送ってくれました。 しかし、グラムダルクリッチは、私が海へ行くのを喜びませんでした。別れるとき、彼女は何か虫が知らせるのか、しきりに涙を流していました。
私が海岸に行くときの王妃とグラムダルクリッチの反応の違いを教えてください。
私はなんとかして海へ行ってみたいと思いました。海へ行けば、この国から逃げ出す工夫が見つかるかもしれません。そこで、私は海岸へ行かせてください、と国王に頼みました。王妃は手を振って私を見送ってくれました。 しかし、グラムダルクリッチは、私が海へ行くのを喜びませんでした。別れるとき、彼女は何か虫が知らせるのか、しきりに涙を流していました。
JCRRAG_014207
国語
「日本人を廃業して、ふたたび日本にかえらないというのか。ふん、なるほど」 岸少尉は、わかいがさすがに思慮ある士官、べつだんいやなかおもせず、船長のおもてを見かえして、 「あれは今から一ヶ月ほど前のことだったか、長崎県の或るさびれた禅寺において、土地の人がびっくりしたくらいの盛大な法会が行われたそうだね」 と妙なことを岸少尉はしゃべりだした。 「はあ、そうでしたか」 「そうでしたかというところを見ると、貴公は知らないと見えるね。――その法会に参加した人数は五十人あまり、法会の模様からさっすると、これは団体的葬儀の略式なるものであったということが分った。その中に一人、容貌魁偉にして、ももより下、両脚が切断されて無いという人物が混っていたそうだが、そういうはなしを貴公は聞いたことがないか。なんのためのひめたる団体葬儀であろうか。仏の数が五十人あまり、参会者もまた同数の五十人あまりだという。一体だれの葬儀なのであろうか」 岸少尉のかたるうちに、途中で一度、虎船長は、はっと思った様子だが、少尉がかたりおわるや、からからとうち笑って、 「はっはっはっはっ。世間には、どうもまぎれやすいはなしがあるものですな。両脚のない人間も世間には何百人といるんですぞ。団体葬儀だなんて、それは誰かの早合点でありましょう」 と、少尉のいうことを盛んにうちけす。 「はっはっはっ」と、こんどは岸少尉がうちわらって 「こうやって見まわすと、この船の乗組員たちは、どういうものかそろいもそろって、頭の天頂の附近に二銭銅貨大の禿――禿ではない、毛が生えそろわなくてみじかいのだ、それが揃いも揃って目につく。第一貴公のあたまにも、妙なところに山火事のあとみたいなものがあるではないか。さっきいった長崎の禅寺へ、五十人ほどの参会者がそろいもそろって毛髪をそって、納めていったそうだが、ずいぶん世間には、こまかいところまでつじつまのあう不思議なはなしがあるものだねえ」 これを聞くと、虎船長は、目を白黒。おもわず両手で椅子からとび下りようとしたが、結局それをあきらめて、 「ふふン、ふふふふ。ふふふふ」 と、妙なわらい方をした。隊員一同も、わらいもできず、くすぐったいかおをして唇をかんでいる。臨検隊員は、少尉の言葉のいみをやっと諒解して、ものめずらしげに一同のかおを端から端へいくどもじろじろとながめやる。向うの一団は、いよいよ顔のやり場にこまっている様子だ。 そのとき岸少尉は、きッと形を改め、荘重なこえで、 「臨検は、これで終了した。なお、おわりに四十何人かの生ける亡者どのの健康をしゅくし、そしてその成功をいのってやまぬ。おわり」 そういって少尉は、隊員をひきつれ、さっさと公室を出ていった。 少尉たちの靴音が甲板へきえても、虎船長はじめ公室の一同は、その場を石のようにうごかなかった。どこからか、鳴咽のこえがもれた。するとあっちでもこっちでも、すすりなきのこえが起った。拳でなみだをはらっている者もある。感激のなみだだ! 生ける屍となって、ひめられた或る使命のために壮途につこうという虎船長以下は、はからずも臨検の海軍軍人からげきれいの言葉をうけ、感激のなみだは、あとからあとへと湧きいでて尽きなかったものだ。 「おい、おおくりしよう。わしを抱いてつれていけ」 虎船長がさけんだ。 船員たちは、へんじをするよりもはやく、脚のない船長を両脇からいだきあげ、甲板へつれていった。そのとき臨検隊長岸少尉は、舷側におろされた縄梯子を今手をかけて下りようとしたところだったが、虎船長があらわれたと知って、つかつかと後へ戻り、無言のまましっかとその手をにぎった。そのときである。副隊長の兵曹が、 「あっ、岸隊長。本艦から至急帰還せよとの信号です。別な船が一せき、南方にあらわれました」と、こえをかけた。 このとき平靖号が、はからずも一つの大失敗をやったことが、後に至って思いだされることとなったが、まだだれも気がつかない。
岸少尉が「生ける亡者」と表現した際に、虎船長はじめ公室の一同はどのような反応をしたか。
岸少尉が臨検の最後に「生ける亡者」と表現したのに対し、虎船長はじめ公室の一同がその言葉に感激して涙を流した者もあった。
JCRRAG_014208
国語
森の中。三人の盗人が宝を争っている。宝とはひとっとび千里を飛ぶ長靴、着れば姿の隠れるマント、鉄でも真っ二つに切れる剣、ただしどれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。 第一の盗人 そのマントをこっちへよこせ。 第二の盗人 よけいな事をいうな。その剣こそこっちへよこせ。おや、おれの長靴を盗んだな。 第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。 第一の盗人 よしよし、ではこのマントはおれが貰って置こう。 第二の盗人 こんちくしょう! 貴様なんかに渡してたまるものか。 第一の盗人 よくもおれをなぐったな。おや、またおれの剣も盗んだな? 第三の盗人 何だ、このマント泥棒め! 三人の者が大喧嘩になる。そこへ馬にまたがった王子が一人、森の中の路を通りかかる。 王子 おいおい、お前たちは何をしているのだ? (馬から下りる) 第一の盗人 何、こいつが悪いのです。わたしの剣を盗んだ上、マントさえよこせというものですから、 第三の盗人 いえ、そいつが悪いのです。マントはわたしのを盗んだのです。 第二の盗人 いえ、こいつ等は二人とも大泥棒です。これは皆わたしのものなのですから。 第一の盗人 嘘をつけ! 第二の盗人 この大嘘つきめ! 三人はまた喧嘩をしようとする。 王子 待て待て。たかが古いマントや、穴のあいた長靴ぐらい、誰が取ってもいいじゃないか? 第二の盗人 いえ、そうは行きません。このマントは着たら、姿の隠れるマントなのです。 第一の盗人 どんな鉄の兜でも、この剣で切れば切れるのです。 第三の盗人 この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。 王子 なるほど、そういう宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。が、それならば欲張らずに、一つずつ分ければいいじゃないか? 第二の盗人 そんな事をしてごらんなさい。わたしの首はいつ、あの剣に切られるかわかりはしません。 第一の盗人 いえ、それよりも困るのは、あのマントを着られれば、何を盗まれるか知れません。 第二の盗人 いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられないわけです。 王子 それもなるほど一理あるな。では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか? そうすれば心配も入らないはずだから。 第一の盗人 どうだい、この殿様に売ってしまうのは? 第三の盗人 なるほど、それもいいかも知れない。 第二の盗人 ただ値段次第だな。 王子 値段は、そうだ。そのマントの代わりに、この赤いマントをやろう、これには刺繍の縁もついている。それからその長靴の代わりに、この宝石のはいった靴をやろう。この黄金細工の剣をやれば、その真っ二つに切れる剣を私にくれても損はあるまい。どうだ、この値段では? 第二の盗人 わたしはこのマントの代わりに、そのマントを頂きましょう。 第一の盗人と第三の盗人 わたしたちも言うことはありません。 王子 そうか。では取り替えて貰おう。 王子はマント、剣、長靴等を取り換えた後、また馬の上にまたがりながら、森の中の路を行きかける。 王子 この先に宿屋はないか? 第一の盗人 森の外へ出さえすれば「黄金の角笛」という宿屋があります。では御大事に。 王子 そうか。ではさようなら。(去る) 第三の盗人 うまい商売をしたな。おれはあの長靴が、こんな靴になるとは思わなかった。見ろ。止め金にはダイヤモンドがついている。 第二の盗人 おれのマントも立派な物じゃないか? こんなマントを着たら、殿様のように見えるだろう。 第一の盗人 この剣も大した物だぜ。何しろ柄も鞘も黄金だからな。しかしああも簡単に騙されるとは、あの王子もおおばかじゃないか? 第二の盗人 しっ! 壁に耳あり、徳利にも口だ。まあ、どこかへ行って一杯やろう。 三人の盗人は嘲笑いながら、王子とは反対の路へ行ってしまう。
三つの宝はなぜ三人の盗人に一つずつ分けることができなかったのか。
三つの宝をつかってなにをされるかわからないからです。
JCRRAG_014209
国語
大作君は、あることはわすれてしまい、あることは憶えている。憶えていることは、たびたびおもい出す機会があるので、ますます心に刻みこまれていく。 自分の家は貧乏だ、ということは、大作君の心からいつまでも消えてゆかなかった。 ある日の昼休みの時間に、大作君は鉄棒をしていた。尻上がりでうまくくるりとまわって、体をくの字型に鉄棒にかけて、さて向こうをみたとき、大作君の眼は、ちょうど校舎の屋根の上にいる人かげにとまった。 その人かげは小さくて、顔などははっきりみえなかったけれども、大作君のお父さんであることは、大作君にはすぐわかった。お父さんの職業というのが、屋根職人であったからだ。今日は校舎の屋根の、こわれた瓦をとりかえにきたのに相違ない。 お父さんだとわかると、大作君ははずかしくなってきた。こりゃ、こんなところにいるといけないぞ、つぎに尻上がりした奴がきっとみつけるだろう、そしてこんなことをいうかも知れない、「あッ、おい、みれよ。大くんがれのお父つあんが屋根の上におるぞ。」 そこで大作君は、さっと砂の上に飛びおりると、お父さんの姿のみえない小使室の方へ走っていった。そこの桜の木の下では、兼男君たちが地雷火遊びをしていたので、仲間に入れてもらって、お父さんのことをわすれてしまった。 午後の一時間目は綴方であった。先生が扉口にあらわれたのをみると、綴方帳のひと荷物を重そうにかかえていられる。十日ほど前に「私の家」という題で書いた綴方を返してくださるのだ。 大作君は胸に一撃をくらった。なんだかわるいことがはじまるぞ、という予感があった。大作君は、その綴方を書いたじぶんは、まだ貧乏がそれほどはずかしいこととは思わなかったので、自分の家の貧乏なことを得意になって書いてしまったのだ。たとえば、こんなふうに書いたところもあった。「ぼくの家はびんぼうだ。しかしのぐち英世の家はびんぼうだったと先生は教えてくれた。ぼくもしっかり勉強してのぐち英世に負けないようにしよう……」 当番の者が綴方帳をくばっていたとき、みんなの頭の上でミシミシッという音がした。先生はあおむいて天井をみた。生徒たちも天井をみた。大作君もそれにつられて天井をあおいだが、すぐうつむいてしまった。お父さんがちょうど教室の真上にきたその足音だということをさとったからである。 するとだれかが、うしろの方で「瓦屋さんだ。」と小さい声でいった。大作君は耳の中で蝉が一ぴきじーんと鳴き出したように感じた。 「大作君のお父つあんだ。」と、すぐ横の吉太郎君が、必要もないのに大きな声ではっきりみんなに教えた。そこでみんなは大作君の顔をみた。大作君はどうしようもなくはずかしいのであった。 綴方帳がもどってきたのでそこを開いてみると、「優」という赤い字と、文のそちこちに打ってある泡つぶのような円とが、大作君の眼にとびこんだ。大作君は喜ばしい気持ちと困ったなという気持ちとを同時に味わった。優であることはうれしかったが、いつもの例で、優の者はたいてい自作を朗読することになっていたから、それは困るのであった。 わるいことというものはすべり台のようなもので、そのはしにのってすべりはじめると、するすると、いきつくところまでいってしまうのである。大作君はそれをよく知っていた。きっとこれからはずかしい目に合うんだ。 その通りだった。大作君はまっさきに朗読をあてられた。なぜなら大作君の綴方がいちばんの傑作なんだそうだ。やれやれ。 大作君は思い切って、立って読んだ。「ぼくの家はびんぼうだ。ぼくの家ではお父さんひとりがお金をもうける。お父さんは屋根しょくにんだ。」するとそのとたんに、また頭上で、ミシミシと音がした。まるで大作君のお父さんが屋根の上で朗読をきいていて、「そうだ、そうだよ。」とあいづちを打ったようなぐあいであった。あまりそれがぴったり合っていたので、みんなはどっと笑った。先生までつりこまれて笑ってしまわれた。 それから先も、ところどころで、屋根の上のお父さんは、ミシミシとあいづちを打ったり、とっぴょうしにパシャンとわれ瓦を窓先へ投げおろしたりして、子どもの大作君の綴方朗読をめちゃめちゃにしてしまった。みんなはそのたびに笑った。 みんなは、むろん大作君の家の貧乏なことを笑ったのではないだろう。親と子が屋根の上と下で、同時に音をたてているのがおもしろかったのだろう。しかし大作君はみんなが大作君の家の貧乏をあざわらったように思えた。何しろ大作君は、貧乏がはずかしいことと思いこんでいたので。
なぜ大作君は綴方の授業で不安を感じたのか。
以前書いた自分の家の貧乏についての作文を読まされるかもしれないと考えたから。
JCRRAG_014210
国語
このラピュタの運命をつかさどっているのは、一つの大きな磁石です。磁石の真中に、心棒があって、誰でも、ぐるぐる回すことができるようになっています。 この磁石の力によって、島は、上ったり下ったり、一つの場所から他の場所へ動いたりするのです。磁石の一方の端は、島の下の領土に対して、遠ざかる力を持ち、もう一方の端は、近寄ろうとする力を持っています。 もし近寄ろうとする力を下にすれば、島は下ってゆきます。その反対にすれば、島は上ってゆきます。斜めにすれば、島は斜めに動きます。そして、磁石を土面と水平にすれば、島は停まっています。 この磁石をあずかっているのは、天文学者たちで、彼等は王の命令で、ときどき、磁石を動かすのです。 もし、下の都市が謀叛を起したり、税金を納めない場合には、国王は、その都市の真上に、この空飛ぶ島を持って来ます。こうすると、下では日もあたらず雨も降らないので、住民たちは苦しんでしまいます。また場合によっては、上から百個の大きな石や二千個の小石を都市めがけて落とします。こうなっては、住民たちは、地下室に引っ込んでいるよりほかはありません。 大抵は三日、長くても七日で下の都市の住民達は降参するそうです。 だが、それでもまだ王の命令に従わないと、最後の手段を取ります。それは、この島を彼らの頭の上に落としてしまうのです。こうすれば、家も人も何もかも、一ぺんにつぶされてしまいます。 しかし、これはよくよくの場合で、めったにこんなことにはなりません。王もこのやり方を喜んでいません。それにもう一つ、これには困ることがあるのです。つまり、都市には高い塔や柱などが立ち並んでいるので、その上に島を落すと、島の底の石が割れるおそれがあります。もし底の石が割れたりすると、磁石の力がなくなって、たちまち島は地上に落っこちてしまうことになるのです。
空飛ぶ島から石を落とされて、都市の住民達が降参するまでの日数のうち、より早い日数を教えてください。
空飛ぶ島から石を落とされて、都市の住民達が降参するまでの日数のうち、より早い日数は三日です。
JCRRAG_014211
国語
こうして、お妃さまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔のほうをながめていました。 十一日たって、ベンジャミンの番になりました。見ると旗があがりました。しかし、それは白い旗ではなくて、赤い血の旗です。みんなが殺されることにきまったというあいずです。にいさんたちはこのことをきくと、かんかんにおこって、いいました。 「ぼくたちは、女の子ひとりのために、死ななければならないっていうのか。ようし、かならずこの復讐はしてやるぞ。女の子は見つけしだい、かたっぱしから赤い血をながさせてやる。」 それから、十二人の兄弟たちは、森のおくへおくへとはいっていきました。いつのまにか、森のまんなかのいちばんくらいところまできました。すると、そこに魔法をかけられた小さな小屋がたっていました。家のなかには、だれもいませんでした。そこで、みんなはいいました。 「ぼくたちはここに住むことにしよう。それから、おい、ベンジャミン、おまえはいちばん小さいし、それに力もいちばんよわい。おまえはうちにのこって、うちのなかのしごとをやっていておくれ。ぼくたちほかのものは、みんなそとへいって食べものをとってくるから。」 こうして、にいさんたちは森のなかへはいって、ウサギだの、野ジカだの、小鳥だの、かわいいおすのハトだの、食べられるものはなんでもうって、それをベンジャミンのところにもってきました。ベンジャミンのやくめは、それを料理して、おにいさんたちのぺこぺこのおなかをいっぱいにしてあげることでした。 それから十年というあいだ、兄弟たちはこの小屋でいっしょにくらしましたが、みんなはそれほど長いとも思いませんでした。 さて、兄弟たちのおかあさまになる、お妃さまの生んだ女の子は、いまではすっかり大きくなりました。気だてのやさしい、美しいお姫ひめさまでした。ひたいの上には、金の星がひとつ、つけていました。 ある日のこと、せんたくものがたくさんありましたが、お姫さまがふと見ると、そのなかに男もののシャツが十二枚もありました。それで、ふしぎに思って、お妃さまにたずねてみました。 「この十二枚のシャツはだれのもの。おとうさまのにしては小さすぎますもの。」 すると、お妃さまは心もおもく、こうこたえました。 「姫や、これはねえ、おまえの十二人のおにいさまたちのですよ。」 「その十二人のおにいさまって、どこにいらっしゃるの。あたし、おにいさまのことなんて、まだいちどもきいたことないわ。」 と、お姫さまはいいました。 すると、お妃さまはこたえました。 「どこにいるかご存知なのは、神さまばかりよ。きっと、ひろい世のなかを、あっちこっちとまよい歩いているでしょう。」 それから、お妃さまはあのへやにむすめをつれていって、扉をあけて、かんなくずと、死人のためのまくらまでもはいっている十二のお棺を見せました。 「このお棺はね、おまえのおにいさまたちのものにきまっていたのよ。でも、おまえの生まれるまえに、みんなこっそりにげていってしまったの。」 と、お妃さまがいいました。 こういって、お妃さまは、あのときのことをのこらず話してきかせました。 それをきいて、お姫さまはいいました。 「おかあさま、泣かないで。あたしがいって、おにいさまたちをさがしてきますから。」 そこで、お姫さまはその十二枚まいのシャツをもって、お城をでますと、まっすぐ大きな森のなかへはいっていきました。お姫さまは、その日一日じゅう歩きつづけて、日のくれるころ、魔法のかけられているあの小屋こやのまえにきました。お姫さまが小屋のなかにはいっていきますと、ひとりの男の子がいて、 「きみは、どこからきたの。そして、どこへいくの。」 と、たずねました。
にいさんたちが森のなかでとってきた物の種類数を教えてください。
にいさんたちが森のなかでとってきた物の種類は4で、 「ウサギ」、 「野ジカ」、 「小鳥」、 「かわいいおすのハト」 です。
JCRRAG_014212
国語
私が空を飛ぶ島に行ってまず不思議に思ったことがあります。 私が空を飛ぶ島に住んでいる彼らの頭はみんな、傾いていました。 左に頭を傾けている者と、右に頭を傾けている者がいます。 このことについて島の住人に聞いてみましたが、特に理由もなく、法則性もないようでした。 目は、片方は内側へ向け、もう一方は真上を向いているのです。上衣は、太陽、月、星などの模様に、フィドル、フルート、ハープ、トランペット、ギター、そのほか、いろんな珍しい楽器の模様を交ぜています。 それから、召使の服装をした男たちは、短い棒の先に、膀胱をふくらませたものをつけて持ち歩いています。そんな男たちも、だいぶいました。これはあとで知ったのですが、この膀胱の中には、乾いた豆が二十粒と小石が五個入っています。 ところで、彼らは、この膀胱で、傍に立っている男の口や耳を叩きます。これは、この国の人間は、いつも何か深い考えごとに熱中しているので、何か外からつついてやらねば、ものも言えないし、他人の話を聞くこともできないからです。そこで、お金持ちは、叩き役を一人、召使としてやとっておき、外へ出るときには、必ずついて行きます。召使の仕事というのは、この膀胱で、主人やお客の耳や口を、静かにかわるがわる、叩くことなのです。また、この叩き役は主人に寄り添って歩き、ときどき、その目を軽く叩いてやります。というのは、主人は考えごとに夢中になっていますから、うっかりして、崖から落っこちたり、溝にはまりこんだりすることがあるかもしれないからです。 "
空を飛ぶ島に住んでいる人たちの、頭の傾けている方向の違いを教えてください。
私が空を飛ぶ島に行ってまず不思議に思ったことは、彼らの頭はみんな、傾いていました。左に頭を傾けている者がいます。 その一方で右に頭を傾けている者がいます。
JCRRAG_014213
国語
「なに、もう一度いってみろ」 船長は虎の名にふさわしく、眼を炯々とひからせて、水夫竹見をにらみつけた。 「はい。私は本船を下りたくあります」 「な、なにをいうか、本船にのりこむ前に、あれほど誓約したではないか。本船にのったうえからは、本船と身命をともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海の蒼い海の色をみて、きゅうに臆病風に見まわれたんだな」 竹見は、目玉をくるくるうごかしつつ、 「臆病風なんて、そんなことは絶対にありません。私は……」 といっているとき、横から一等運転士の坂谷が 「船長。ノーマ号が、本船に“用談アリ、停船ヲ乞ウ”と信号旗をあげました。いかがいたしましょうか」 「なに、用談アリ、停船ヲ乞ウといってきたか。どれ、向うはどういう様子か」 船長は、ノーマ号の様子をみるため、一旦双眼鏡を目にあてようとしたが、気がついて水夫竹見太郎八の方を向き、 「お前のはなしは、後でよく聞こう。それまでは下にいってはたらいていろ。じつに厄介なやつだ」 と、はきだすようにいった。 ノーマ号は、もうすこしで平靖号と並行しそうな位置まで近づいていた。そしてヤードにはたしかに用談アリ、停船ヲ乞ウの信号が出ていた。甲板を見わたすと、赤い髪に青い眼玉の船員や水夫が、にやにやうすわらいしながら、こっちを見おろしていた。 虎船長は、うむとうなって、 「用談とは何の事だ。聞きかえしてやれ」 といった。 信号旗は、こっちのヤードにも、するするとあがった。 すると、すぐノーマ号から返事があった。 “飲料水、野菜、果実ノ分譲ヲ乞ウ。高価ヲ以テ購ウ” それを見て虎船長は、 「駄目だ。本船にも、その貯蔵がすくないから、頒けてやれない。香港か新嘉坡へいって仕入れたらよかろうといってやれ」 と、命令した。 その信号は、再び平靖号のヤードに、一連の旗となってひらひらとひるがえった。 すると、また折かえして、ノーマ号からの返事があった。 “ゼヒ分譲タノム。量ノ如何ヲ問ワズ、本船ニ[「本船ニ」は底本では「本船に」]壊血病多数発生シ、ソノ治療用ニアテルタメナリ” ノーマ号は、壊血病患者がたくさん発生しているから、ぜひ野菜や果実をわけてくれという信号なのである。 「壊血病とは、気の毒じゃ」と、虎船長はいって、くびをふった。 「じゃあ、すこしわけてやることにするか」 と、いって、事務長の方をふりかえった。 「でも、本船の貯蔵量は、ほんとにぎりぎり間に合うだけしかないのですから、どうですかな」 事務長は、分譲に反対の口ぶりだった。 「うむ、まあ海のうえでは、船のりと船のりとは相身互いだ。すこしでいいから、なんとか融通してやったらどうじゃ」 虎船長は、若い日の船乗り生活の追憶からして、相身互いの説もちだした。 事務長は、だまっていると、傍にいた一等運転士の坂谷が、船長と事務長の間にわって入り、 「じゃあ、こうしてはどうですかなあ。こっちからノーマ号へ出かけていって、むこうのいうがごとくはたして壊血病患者がどんなに多数いるかどうかをたしかめたうえで、野菜や果実をわたしてやったがいいではありませんか」 坂谷は、なかなかうまいことをいった。 「ああ、それならよかろう。事務長も、賛成じゃろう」 と虎船長は、事務長の同意を確かめたうえで、飲料水一斗、野菜二貫匁、林檎三十個を、ボートで持たせてやることにして、その指揮を事務長にやらせることにした。 「よろしい、行ってきます」 事務長は、気がるに立ち上った。 そのときであった。 「船長。私も、事務長と一緒に、ノーマ号へやってください」 船橋の入口に立っていた水夫竹見が、いきなり船長の前へとびだしてきた。 「ううっ、竹見か、お前は、行くことならんぞ。下船したいなどといい出すふらちなやつだ……」 「ちがいます。私が下船したいといったのは……」 「だまれ、竹見」と船長は、あかくなってどなりつけた。 「わしは船長として貴様にめいずる。只今からのち貴様は本船内で一語も喋ってはならん。しかと命令したぞ。下へいって、謹慎しておれ」 船長は竹見に対して、たいへん不機嫌をつのらせるばかりだった。 一体竹見は、なぜ下船したいなどと、とんでもないことをいいだしたものであろうか?
「ノーマ号」が物資の分譲を求めた際、虎船長は何を考えたか。
「ノーマ号」が高価で物資の分譲を求めた際、虎船長は一度は自船の貯蔵不足で断ろうとしたが、「ノーマ号」の壊血病患者多数という訴えに同情し、少量ながら譲る事を検討した。
JCRRAG_014214
国語
突然黒人の王が現れる。王子と王女はびっくりする。 黒人の王 今日こんにちは。わたしは今アフリカから、一飛びに飛んで来たのです。どうですか、わたしの長靴の力は? 王女 (冷淡に)ではもう一度アフリカへ行っていらっしゃい。 王 いや、今日はあなたと一緒に、ゆっくりお話がしたいのです。(王子を見る)誰ですか、その下男は? 王子 下男?(腹立たしそうに立ち上がる)わたしは王子です。王女を助けに来た王子です。わたしがここにいる限りは、指一本も王女には触らせません。 王 (わざとていねいに)わたしは三つの宝を持っています。あなたはそれを知っていますか? 王子 剣と長靴とマントですか? なるほどわたしの長靴は100メートルも飛ぶ事は出来ません。しかし王女と一緒ならば、この長靴をはいていても、千里や二千里は驚きません。またこのマントを見なさい。わたしが下男と思われたため、王女の前へ来られたのは、やはりマントのおかげです。これでも王子の姿だけは、隠す事が出来たじゃありませんか? 王 (嘲笑う)生意気な! わたしのマントの力を見るがいい。(マントを着る。同時に消え失せる) 王女 (手を打ちながら)ああ、もう消えてしまいました。わたしはあの人が消えてしまうと、ほんとうに嬉しくてたまりませんわ。 王子 ああいうマントも便利ですね。ちょうどわたしたちのために出来ているようです。 王 (突然また現われる。忌々しそうに)そうです。あなた方のために出来ているようなものです。わたしには役にも何にもたたない。(マントを投げ捨てる)しかしわたしは剣を持っている。(急に王子をにらみながら)あなたはわたしの幸福を奪うものだ。さあ勝負をしよう。わたしの剣は鉄でも切れる。あなたの首くらい切るなんて何でもない。(剣を抜く) 王女 (立ち上がるが早いか、王子をかばう)鉄でも切れる剣ならば、わたしの胸も突けるでしょう。さあ、一突きに突いてごらんなさい。 王 (尻ごみをしながら)いや、あなたは斬れません。 王女 (嘲るように)まあ、この胸も突けないのですか? 鉄でも斬れるとおっしゃったくせに! 王子 お待ちなさい。(王女を押し止めながら)王のいう事はもっともです。王の敵はわたしですから、尋常に勝負をしなければなりません。(王に)さあ、すぐに勝負をしよう。(剣を抜く) 王 年の若いのに立派な男だ。いいですか? わたしの剣にさわれば命はないぞ。 王と王子と剣を打ち合わせる。するとたちまち王の剣は、杖か何かを切るように、王子の剣を切ってしまう。 王 どうだ? 王子 剣は切られたに違いない。が、わたしはこの通り、あなたの前でも笑っている。 王 ではまだ勝負を続ける気か? 王子 あたり前だ。さあ、来い。 王 もう勝負などはしないでもいい。(急に剣を投げ捨てる)勝ったのはあなただ。わたしの剣などは何にもならない。 王子 (不思議そうに王を見る)なぜ? 王 なぜ? わたしがあなたを殺したところで、王女にはいよいよ憎まれるだけだ。あなたにはそれがわからないのか? 王子 いや、わたしにはわかっている。ただあなたにはそんな事も、わかっていなそうな気がしたから。 王 (考えに沈みながら)わたしには三つの宝があれば、王女も貰えると思っていた。が、それは間違いだったらしい。 王子 (王の肩に手をかけながら)わたしも三つの宝があれば、王女を助けられると思っていた。が、それも間違いだったらしい。 王 そうだ。我々は二人とも間違っていたのだ。(王子の手を取る)さあ、綺麗に仲直りをしましょう。わたしの失礼はゆるして下さい。 王子 わたしの失礼も赦して下さい。今になって見ればわたしが勝ったか、あなたが勝ったかわからないようです。 王 いや、あなたはわたしに勝った。わたしはわたし自身に勝ったのです。(王女に)わたしはアフリカへ帰ります。どうか御安心なさって下さい。王子の剣は鉄を切る代わりに、鉄よりももっと堅い、わたしの心を刺したのです。わたしはあなた方の御婚礼のために、この剣と長靴と、それからあのマントと、三つの宝をさし上げましょう。 もうこの三つの宝があれば、あなた方二人を苦しめる敵は、世界にないと思いますが、もしまた何か悪いやつがあったら、わたしの国へ知らせて下さい。わたしはいつでもアフリカから、百万の黒人の騎兵と一緒に、あなた方の敵を征伐に行きます。(悲しそうに)わたしはあなたを迎えるために、アフリカの都のまん中に、大理石の御殿を建ててました。その御殿のまわりには、一面の蓮の花が咲いているのです。(王子に)どうかあなたがこの長靴をはいたら、時々遊びに来て下さい。 王子 きっとごちそうになりに行きます。 王女 (黒人の王の胸に、薔薇の花をさしてやりながら)わたしはあなたにすまない事をしました。あなたがこんな優しい方だとは、夢にも思わなかったのです。どうか許してして下さい。ほんとうにわたしはすまない事をしました。(王の胸にすがりながら、子供のように泣き始める) 王 (王女の髪を撫でながら)ありがとう。よくそういってくれました。わたしも悪魔ではありません。悪魔も同様な黒人の王はおとぎ話にあるだけです。(王子に)そうじゃありませんか? 王子 そうです。(見物人に向かいながら)皆さん! 我々三人は目がさめました。悪魔のような黒人の王や、三つの宝を持っている王子は、おとぎ話の中だけなのです。我々はもう目がさめた以上、おとぎ話の中の国には、住んでいるわけには行きません。我々の前には霧の奥から、もっと広い世界が浮かんでいます。我々はこの薔薇と噴水の世界から、一緒にその世界へ出て行きましょう。もっと広い世界! もっと醜い、もっと美しい、もっと大きいおとぎ話の世界! その世界で我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何も知りません。ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵士のように、進んで行く事を知っているだけです。
黒人の王が持っていた剣はなぜ王女を斬れませんでしたか。
黒人の王はそれはできないとためらったからです。
JCRRAG_014215
国語
このことがあってから、大作君は意気地がなくなってしまった。いぜんは大作君の体に針金のようにぴいんとしたものがはいっていた。それはいってみれば「何くそ! ぼくは優等生だぞ。ぼくの家は貧乏だってなんにもうしろぐらいことはないぞ。公明正大な貧乏だぞ!」といったような気持ちであった。だから、そのじぶんは、大作君はどんなに帽子に穴があいていたって、どんなに洋服の袖がよれよれになっていたって、人にみられてはずかしいなどと思わなかった。それがこのごろではまるでちがってきた。あの針金のようなものが体からぬけてしまったので、どうかすると立っているのさえ難儀なことがあった。いっそ、みみずのように地べたをはっていたいと思うようなことがあった。そして人にながめられると、すぐ自分のみなりの貧乏くさいことを気にするのであった。それも、あとから考えるとばかばかしいようなことが気になった。たとえば、下から二つ目のボタンがひしゃげていることとか、胸のあたりにこびりついている味噌汁のとばっちりだとか。また、お母さんに髪をかってもらったあとでは、頭のうしろを気にした、そこが弟たちのように虎刈りになっていやしないかと思って。 いぜんには大作君は明快に口がきけたものだ。何々であります、とか、いいえちがいます、とか、最後のことばまではっきりいえたものだ。それがこのごろでは、半分くらい何かいうと、あとはゴム風船から空気がぬけたように、消えてしまうというあんばいだった。たとえば「あッ、ひこ――」というと、もう力がぬけてしまって、あとの「おきが飛んでおるよ。」ということができないのであった。また歌にしても、「ふ、な、」というともうやめてしまうので、きいている者には、大作君が「ふなさァかァやァまやァすゥぎさァかとォ」という児島高徳の歌をうたうつもりだったのか、それとも「ふなすくいにいこうかよオ」というつもりだったのか、とんとわからなかったのである。 また、いぜんには大作君は、どんなことでも、大頭の吉太郎君などには負けなかったもんだ。競走なら、吉太郎君が十メートルくらい先に走ってから大作君がスタートを切っても、運動場を一周してくるうちには、楽々と吉太郎君をぬいてしまったし、相撲なら、不意に吉太郎君がうしろからくみついてきても、腰を二つほどひねれば、吉太郎君はよっぱらいのようにあっちこっちよろける、そこでわき腹へ手をまわして足をかければ、かるく吉太郎君はたおれてしまったものである。ところがある日、意外なことが起こった。いつものように砂場で勝ちぬき相撲をやっていた大作君は、そこでひとり相手をたおした。するとうしろからだれかが大作君の腰にしがみついてきた。大作君はいつもするように腰をひねったが、相手はなかなかてごわかった。うしろからぐんぐんおしてきた。大作君は、こいつはいけないと、足の爪先に力を入れてふんばろうとしたが、思うように力がはいらなかった。そして浮足でいるうちに、砂場の外へおし出されてしまった。ふりかえってみて、大作君はおや、と思った。いつも簡単にひねりつぶしていた大頭の吉太郎君だったからだ。自分が意気を失ったことを、このとき大作君ははっきり知ったのである。 それよりいっそういけないことが大作君の心の中に起こった。ときどき、自分の家、弟妹たち、いやお父さんお母さんたちをさえも、他人のように冷淡な眼でじっとみるようになったことだ。たとえば、夜一家が一つのあかりの下に集まってにぎやかに夕飯を食べている。そんなとき大作君ひとりは、しんねりむっつりとおしだまって、小さい弟妹たちを、がきみたいな奴らだなア、耳の中にあかをためたりして、などと思ってみているのである。また、ご飯のときには勝手場へ持ってこられ、お客のあるときには居間の方へ持ってゆかれ、風呂にはいるときには土間の方にさし出され、たった一つで五つ分ほどのはたらきをする十六燭光の電燈をみては、こんなことは家が貧乏である証拠になるばかりで、すこしも自慢のたねになることじゃないと考えているのである。こんなときは、大作君の体は家族の中にありながら、心は遠くにさまよっているので、とつぜん、家の者みなが何かのことで笑い出したりすると、大作君は夢からさめた人のようにきょろんとして、おくればせにすこし笑うのであった。 ときには大作君は、貧乏くさいというので、弟の中のだれかれをにくんだりした。
大作君はなぜ、貧乏を恥ずかしく思うようになったのか。
大作君が自信を失い、周囲の目を気にするようになったから。
JCRRAG_014216
国語
さっそく、三百人の大工と二百人の技師に言いつけて、この国で一番大きな機械を持ち出すことになりました。それは長さ七フィート、幅四フィートの木の台で、二十二箇所の車輪がついています。私が眠り薬のおかげで、ぐっすり何も知らないで眠っている間に、この車が私の身体にぴったり横づけにされていました。だが、眠っている私をかつぎ上げて、この事に乗せるのは大へんなことだったらしいのです。 まず第一に、高さ一フィートの柱を八十本立て、それから、私の身体をぐるぐるまきにしている紐の上に、丈夫な綱をかけました。そして、この綱を柱にしかけてある滑車で、えんさえんさと引き上げるのです。九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬と九百人の男が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。もっとも、これは、みんなあとから人に聞いて知った話なのです。 車が動きだしてから、四時間もした頃のことです。何か故障のため、車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二・三人の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか、それを見るために、わざわざ車によじのぼって来ました。 はじめは、そっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を、私の鼻の孔にグイと突っ込んだものです。こよりで、つつかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず、大きなくしゃみと一緒に私は目がさめました。 日が暮れてから、車は休むことになりましたが、私の両側には、それそれ五百人の番兵が、弓矢をかかげ、百人の番兵がたいまつをかかげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押さえようとしていました。翌朝、日が上ると、車はまた進みだしました。そして正午頃、車が都の近くにやって来ました。皇帝も、大臣も、みんな出迎えました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、それは危険でございます、と言って、大臣たちはとめていました。
この国で一番大きな機械を持ち出すために言いつけた者たちで数が多い職種を教えてください。
この国で一番大きな機械を持ち出すために言いつけた者たちで数が多い職種は大工で三百人です。
JCRRAG_014217
国語
こうして、お妃さまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔のほうをながめていました。 十一日たって、ベンジャミンの番になりました。見ると旗があがりました。しかし、それは白い旗ではなくて、赤い血の旗です。みんなが殺されることにきまったというあいずです。にいさんたちはこのことをきくと、かんかんにおこって、いいました。 「ぼくたちは、女の子ひとりのために、死ななければならないっていうのか。ようし、かならずこの復讐はしてやるぞ。女の子は見つけしだい、かたっぱしから赤い血をながさせてやる。」 それから、十二人の兄弟たちは、森のおくへおくへとはいっていきました。いつのまにか、森のまんなかのいちばんくらいところまできました。すると、そこに魔法をかけられた小さな小屋がたっていました。家のなかには、だれもいませんでした。そこで、みんなはいいました。 「ぼくたちはここに住むことにしよう。それから、おい、ベンジャミン、おまえはいちばん小さいし、それに力もいちばんよわい。おまえはうちにのこって、うちのなかのしごとをやっていておくれ。ぼくたちほかのものは、みんなそとへいって食べものをとってくるから。」 こうして、にいさんたちは森のなかへはいって、ウサギだの、野ジカだの、小鳥だの、かわいいおすのハトだの、食べられるものはなんでもうって、それをベンジャミンのところにもってきました。ベンジャミンのやくめは、それを料理して、おにいさんたちのぺこぺこのおなかをいっぱいにしてあげることでした。 それから十年というあいだ、兄弟たちはこの小屋でいっしょにくらしましたが、みんなはそれほど長いとも思いませんでした。 さて、兄弟たちのおかあさまになる、お妃さまの生んだ女の子は、いまではすっかり大きくなりました。気だてのやさしい、美しいお姫ひめさまでした。ひたいの上には、金の星がひとつ、つけていました。 ある日のこと、せんたくものがたくさんありましたが、お姫さまがふと見ると、そのなかに男もののシャツが十二枚もありました。それで、ふしぎに思って、お妃さまにたずねてみました。 「この十二枚のシャツはだれのもの。おとうさまのにしては小さすぎますもの。」 すると、お妃さまは心もおもく、こうこたえました。 「姫や、これはねえ、おまえの十二人のおにいさまたちのですよ。」 「その十二人のおにいさまって、どこにいらっしゃるの。あたし、おにいさまのことなんて、まだいちどもきいたことないわ。」 と、お姫さまはいいました。 すると、お妃さまはこたえました。 「どこにいるかご存知なのは、神さまばかりよ。きっと、ひろい世のなかを、あっちこっちとまよい歩いているでしょう。」 それから、お妃さまはあのへやにむすめをつれていって、扉をあけて、かんなくずと、死人のためのまくらまでもはいっている十二のお棺を見せました。 「このお棺はね、おまえのおにいさまたちのものにきまっていたのよ。でも、おまえの生まれるまえに、みんなこっそりにげていってしまったの。」 と、お妃さまがいいました。 こういって、お妃さまは、あのときのことをのこらず話してきかせました。 それをきいて、お姫さまはいいました。 「おかあさま、泣かないで。あたしがいって、おにいさまたちをさがしてきますから。」 そこで、お姫さまはその十二枚まいのシャツをもって、お城をでますと、まっすぐ大きな森のなかへはいっていきました。お姫さまは、その日一日じゅう歩きつづけて、日のくれるころ、魔法のかけられているあの小屋こやのまえにきました。お姫さまが小屋のなかにはいっていきますと、ひとりの男の子がいて、 「きみは、どこからきたの。そして、どこへいくの。」 と、たずねました。
魔法をかけられた小さな小屋に何人が住むことになったのか。
魔法をかけられた小さな小屋に住むことになったは十二人です。
JCRRAG_014218
国語
ところで、私はこの国の人々に案内されて、上り階段を上り、下り階段を下り、空飛ぶ島の上にある宮殿へつれて行かれたのですが、そのとき、私は、みんなが何をしているのか、さっぱり、わかりませんでした。階段を上って行く途中でも下って行く途中でも、彼らは考えごとに熱中し、ぼんやりしてしまうのです。そのたびに、叩き役が、彼らをつついて、気をつけてやりました。 私は宮殿に入って、空飛ぶ島の国王の間に通されました。見ると、国王陛下の左右には、高位の人たちが、ずらりと並んでいます。王の前にはテーブルが一つあって、その上には、地球儀や、そのほか、種々さまざまな数学の器械がいっぱい並べてあります。なにしろ今、私を含め大勢の人がどかどかと入ったので、騒がしかったはずです。 国王陛下の左右にいる高位の人たちは、私を見て驚いたり両隣の人間とひそひそ話をしたりしていましたが、陛下は一向に私たちが来たことに気がつかれません。 陛下は今、ある問題を一心に考えておられる最中なのです。私たちは、陛下がその問題をお解きになるまで、一時間ぐらい待っていました。 陛下の両側には、叩き棒を待った侍童が、一人ずつついています。陛下の考えごとが終わると、一人は口許を、一人は右の耳を、それぞれ軽く叩きました。 口許は三回、右の耳を二回叩いていました。
私が宮殿に入って国王の間に通された時の、高位の者と、陛下の反応の違いを教えてください。
私は宮殿に入って、空飛ぶ島の国王の間に通されました。国王陛下の左右には、高位の人たちが、ずらりと並んでいます。 国王陛下の左右には、高位の人たちは私を見て驚いたり両隣の人間とひそひそ話をしたりしていました。 その一方で、陛下は一向に私たちが来たことに気がつかれません。陛下は今、ある問題を一心に考えている最中なのでした。
JCRRAG_014219
国語
ノーマ号では、飲料水などを、平靖号が頒けてやってもいいという返事に、いろめきわたった。だが、ノーマ号からボートを下そうといったのに対し、平靖号は、こっちが品物をボートに積んでそっちへいくといって聞かないので、ちょっと当惑をしたらしく、しばらくは、その返事をよこさなかった。 やがてのことに、やっと応諾の返事が、ノーマ号からあがったので、いよいよ事務長はボートを仕立てて、六人の部下とともに海上に下りた。 事務長は、みずから舵をひいた。 飲料水と野菜と果実とは、舳にあつめられ、そのうえに大きなカンバスのぬのをかぶせてあった。 虎船長は、本船をはなれていくボートをじっとみていたが、側をかえりみて、 「おい、一等運転士。あの荷は、ばかに大きいじゃないか。事務長は、もっていく分量を、まちがえたんじゃあるまいな」 「そうですね」と坂谷はくびをかしげて「まさか、事務長が、分量をまちがえることはありませんよ。事務長は、林檎一つさえ、ノーマ号へやりたがらなかったんですからねえ」 「そういえば、そうだが、他人に呉れてやる物は、いやに大きくみえるのが人情なんだろうか」 船長は、ふしぎそうに、くびを左右へふった。 そのうちに平靖号のボートは、停船しているノーマ号の舷側についた。縄梯子は、すでに水ぎわまで下されていた。 例のカンバスが、一度とりのぞかれたが、すぐ元のように、品物のうえに被せられた。ノーマ号の船員に、ちょっと見せただけのようであった。 ボートからは、事務長を先頭に、三人の者が、縄梯子をするするとのぼって、ノーマ号の甲板に上った。 ノーマ号の、高級船員らしいのが五六人、そこへ集ってきて、なにか協議をはじめた様子である。きっと、壊血病患者がたくさん出たという先方のはなしをたしかめたうえでないと、品物を売りわたすことはできないといっているらしい。 「おやッ、あれはおかしいなあ」 とつぜん、船長が叫んだ。 「な、なんです。おかしいというのは……」 一等運転士が船長の顔をみた。 「あれみろ」と船長は、ボートの方をゆびさして「ノーマ号の上にのぼった奴は三名、ボートには、五名のこっているじゃないか。合計して八名。どうもへんだ」 「ははア」 「ははアじゃないよ。君もぼんやりしとるじゃないか。いまボートにのって出懸けたのは、事務長と六名の漕手だから、みんなで七名だ。ところが今見ると、いつの間にやら八名になっている」 「ははア、するといつの間にかどっかで一名ふえたようですな。これはどうもふしぎだ」 と、一等運転士は、口では愕いているが、態度では、そんなに愕いていない。彼はすでに、なにごとかをよきしていたようだ。 「ああッ、彼奴だ」と船長が大きなこえを出した。「竹見の奴、いつの間にか、本船をぬけだして、ノーマ号の甲板に立っていやがる。あいつ、どうも仕様がないやつだなあ」 「えっ、やっぱり竹見でしたか」 「うぬ、船長の命令を聞かないで、わが隊のとうせいをみだすやつは、もうゆるしておけない。かえってきたら、おしいやつだが、ぶったぎってしまう」 虎船長はついに激怒してしまった。 その当人、竹見太郎八は、悠々とノーマ号の甲板をぶらぶらと歩いている。事務長が、ノーマ号の高級船員を相手に、強硬に主張をつっぱっているには、一向おかまいなしで、むこうの水夫をつかまえて、手真似ではなしをしている。 「どうだい。これは胡瓜の缶詰だ。ほら、ここに胡瓜のえが描いてあるだろう。欲しけりゃ、お前たちに呉れてやらねえこともないぜ、あははは」 集ってきたノーマ号の水夫たちは、竹見の顔色をうかがいながら、ごくりと咽喉をならした。 「われわれは、その缶詰が欲しい。そのかわり、汝はなにをほっするか」 と、むこうも手真似だ。 「そうだねえ――」 と、竹見はいって、ポケットから煙草を一本だして口にくわえ、ぱっと燐寸をつけた。 すると、ノーマ号の船員たちは、一せいに呀っとさけんで、真青になった。 なぜ彼等は、青くなったのであろうか。
なぜ船長は「平靖号」から「ノーマ号」へボートで向かった乗組員の人数が1人多いと気づいたか。
最初「平靖号」から「ノーマ号」へボートで向かった人数は7人だと思っていたが、船長が確認したところ3人が「ノーマ号」に乗り移ったがボートには5人が残っており合計8人であり、1人多いと気づいた。
JCRRAG_014220
国語
「まあ、あたしもいつか見たいわ。魚の口の形の星だなんてまあどんなに立派でしょう。」 「それは立派ですよ。僕は水沢の天文台で見ましたがね。」 「まあ、あたしも見たいわ。」 「見せてあげましょう。僕、実は望遠鏡をドイツのツァイスに注文してあるんです。来年の春までには来ますから、来たらすぐ見せてあげましょう。」狐は思わずこういってしまいました。そしてすぐ考えたのです。ああ僕はたった一人のお友達にまたついウソをいってしまった。ああ僕はほんとうにだめなやつだ。けれども決して悪い気でいったんじゃない。よろこばせようと思っていったんだ。あとですっかり本当のことをいってしまおう、狐はしばらく静まりながらこう考えていたのでした。樺の木はそんなことも知らないでよろこんで言いました。 「まあうれしい。あなた本当にいつでも親切だわ。」 狐は少ししょげながら答えました。 「ええ、そして僕はあなたの為ならば他にもどんなことでもやりますよ。この詩集、ごらんなさいませんか。ハイネという人のですよ。翻訳ですけれども仲々よくできてるんです。」 「まあ、お借りしていいんでしょうか。」 「構いませんとも。どうかゆっくり見てください。じゃ僕はもう失礼します。そういえば、なにかいい残したことがあったような。」 「お星さまのいろのことですわ。」 「ああそうそう、だけどそれは今度にしましょう。僕あんまり長くお邪魔しちゃいけないから。」 「あら、いいんですよ。」 「僕はまた来ますから、じゃさよなら。本をあげてきます。じゃ、さよなら。」狐はいそがしく帰って行きました。そして樺の木はその時吹いて来た南風にざわざわ葉を鳴らしながら狐の置いて行った詩集をとりあげて天の川やそらいちめんの星から来るかすかなあかりにすかしてページをめくりました。そのハイネの詩集にはロウレライやさまざま美しい歌がいっぱいありました。そして樺の木は一晩中よみ続けました。 夜が明けました。太陽がのぼりました。 草には露がきらめき花はみな力いっぱい咲きました。 その東北の方から熔けた銅の汁をからだ中に被ったように朝日をいっぱいに浴びて土神がゆっくりゆっくりやって来ました。いかにも思慮深そうに腕組みしながらゆっくりゆっくりやって来たのでした。 樺の木は何だか少し困ったように思いながら、それでも青い葉をきらきらと動かして土神の来る方を向きました。その影は草に落ちてちらちらちらちらゆれました。土神はしずかにやって来て樺の木の前に立ちました。 「樺の木さん。お早う。」 「お早うございます。」 「わしはね、どうも考えて見るとわからんことが沢山ある、なかなかわからんことが多いもんだね。」 「まあ、どんなことでございますの。」 「たとえばだね、草というものは黒い土から出るのだがなぜこう青いもんだろう。黄や白の花さえ咲くんだ。どうもわからんねえ。」 「それは草の種子が青や白をもっているためではないでございましょうか。」 「そうだ。まあそういえばそうだがそれでもやっぱりわからんな。たとえば秋のきのこのようなものは種子もなし全く土の中からばかり出て行くもんだ、それにもやっぱり赤や黄いろやいろいろある、わからんねえ。」 「狐さんにでも聞いて見ましたらいかがでございましょう。」 樺の木はうっとり昨夜の星のはなしをおもっていたのでついこういってしまいました。 この言葉を聞いて土神は突然顔色を変えました。そしてこぶしを握りました。 「何だ。狐? 狐が何を言いやがったのだ?」 樺の木はおろおろした声になりました。 「なにか言ったわけではございませんがひょっとしたらご存知かと思いましたので。」 「狐なんぞに神が物を教わるとは一体何たることだ。えい。」 樺の木はもうすっかりこわくなってぷりぷりぷりぷりゆれました。土神は歯をきしきし噛みながら高く腕を組んでそこらをあるきまわりました。その影はまっ黒に草に落ち草も恐ろしくふるえたのです。 「狐の奴は実にこの世の害悪だ。ただ一言も真実を言うことなく卑怯で臆病でそれに非常にねたみ深いのだ。うぬ、畜生の分際で。」 樺の木はやっと気をとり直してくれました。 「もうあなたの方のお祭も近づきましたね。」 土神は少し顔色を和らげました。 「そうじゃ。今日は五月三日、あと六日だ。」 土神はしばらく考えていましたが、また突然大声をあげました。 「しかしながら人間どもは不届きだ。近頃はわしの祭にも供物一つ持って来ない!おのれ、今度わしの領分に最初に足を入れたものはかならず泥の底に引き擦り込こんでやろう。」土神はまたきりきり歯噛みしました。 樺の木は折角なだめようと思っていったことがまたもやかえってこんなことになったのでもうどうしたらいいかわからなくなり、ただちらちらとその葉を風にゆすっていました。土神は日光を受けてまるで燃えるようになりながら高く腕を組みキリキリ歯噛みをしてその辺をうろうろしていましたが、考えれば考えるほど何もかもしゃくにさわって来るようでした。そしてとうとうこらえ切れなくなって、吠えるようにうなって荒々しく自分の谷地に帰って行ったのでした。
樺の木は狐から借りたハイネの詩集をどうしましたか。
樺の木は一晩中よみ続けました。
JCRRAG_014221
国語
このことがあってから、大作君は意気地がなくなってしまった。いぜんは大作君の体に針金のようにぴいんとしたものがはいっていた。それはいってみれば「何くそ! ぼくは優等生だぞ。ぼくの家は貧乏だってなんにもうしろぐらいことはないぞ。公明正大な貧乏だぞ!」といったような気持ちであった。だから、そのじぶんは、大作君はどんなに帽子に穴があいていたって、どんなに洋服の袖がよれよれになっていたって、人にみられてはずかしいなどと思わなかった。それがこのごろではまるでちがってきた。あの針金のようなものが体からぬけてしまったので、どうかすると立っているのさえ難儀なことがあった。いっそ、みみずのように地べたをはっていたいと思うようなことがあった。そして人にながめられると、すぐ自分のみなりの貧乏くさいことを気にするのであった。それも、あとから考えるとばかばかしいようなことが気になった。たとえば、下から二つ目のボタンがひしゃげていることとか、胸のあたりにこびりついている味噌汁のとばっちりだとか。また、お母さんに髪をかってもらったあとでは、頭のうしろを気にした、そこが弟たちのように虎刈りになっていやしないかと思って。 いぜんには大作君は明快に口がきけたものだ。何々であります、とか、いいえちがいます、とか、最後のことばまではっきりいえたものだ。それがこのごろでは、半分くらい何かいうと、あとはゴム風船から空気がぬけたように、消えてしまうというあんばいだった。たとえば「あッ、ひこ――」というと、もう力がぬけてしまって、あとの「おきが飛んでおるよ。」ということができないのであった。また歌にしても、「ふ、な、」というともうやめてしまうので、きいている者には、大作君が「ふなさァかァやァまやァすゥぎさァかとォ」という児島高徳の歌をうたうつもりだったのか、それとも「ふなすくいにいこうかよオ」というつもりだったのか、とんとわからなかったのである。 また、いぜんには大作君は、どんなことでも、大頭の吉太郎君などには負けなかったもんだ。競走なら、吉太郎君が十メートルくらい先に走ってから大作君がスタートを切っても、運動場を一周してくるうちには、楽々と吉太郎君をぬいてしまったし、相撲なら、不意に吉太郎君がうしろからくみついてきても、腰を二つほどひねれば、吉太郎君はよっぱらいのようにあっちこっちよろける、そこでわき腹へ手をまわして足をかければ、かるく吉太郎君はたおれてしまったものである。ところがある日、意外なことが起こった。いつものように砂場で勝ちぬき相撲をやっていた大作君は、そこでひとり相手をたおした。するとうしろからだれかが大作君の腰にしがみついてきた。大作君はいつもするように腰をひねったが、相手はなかなかてごわかった。うしろからぐんぐんおしてきた。大作君は、こいつはいけないと、足の爪先に力を入れてふんばろうとしたが、思うように力がはいらなかった。そして浮足でいるうちに、砂場の外へおし出されてしまった。ふりかえってみて、大作君はおや、と思った。いつも簡単にひねりつぶしていた大頭の吉太郎君だったからだ。自分が意気を失ったことを、このとき大作君ははっきり知ったのである。 それよりいっそういけないことが大作君の心の中に起こった。ときどき、自分の家、弟妹たち、いやお父さんお母さんたちをさえも、他人のように冷淡な眼でじっとみるようになったことだ。たとえば、夜一家が一つのあかりの下に集まってにぎやかに夕飯を食べている。そんなとき大作君ひとりは、しんねりむっつりとおしだまって、小さい弟妹たちを、がきみたいな奴らだなア、耳の中にあかをためたりして、などと思ってみているのである。また、ご飯のときには勝手場へ持ってこられ、お客のあるときには居間の方へ持ってゆかれ、風呂にはいるときには土間の方にさし出され、たった一つで五つ分ほどのはたらきをする十六燭光の電燈をみては、こんなことは家が貧乏である証拠になるばかりで、すこしも自慢のたねになることじゃないと考えているのである。こんなときは、大作君の体は家族の中にありながら、心は遠くにさまよっているので、とつぜん、家の者みなが何かのことで笑い出したりすると、大作君は夢からさめた人のようにきょろんとして、おくればせにすこし笑うのであった。 ときには大作君は、貧乏くさいというので、弟の中のだれかれをにくんだりした。
大作君はなぜ、家族に対して冷淡な目を向けるようになったのか。
大作君は貧乏を意識しすぎて、家族を否定的に見るようになったから。
JCRRAG_014222
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が多いほうを教えてください。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が多いのは小さな船で二百隻です。
JCRRAG_014223
国語
こうして、お妃さまが子どもたちのためにおいのりをすませますと、みんなは森へでかけていきました。みんなはかわるがわる見はりにたち、いちばん高い木の上にすわって、塔のほうをながめていました。 十一日たって、ベンジャミンの番になりました。見ると旗があがりました。しかし、それは白い旗ではなくて、赤い血の旗です。みんなが殺されることにきまったというあいずです。にいさんたちはこのことをきくと、かんかんにおこって、いいました。 「ぼくたちは、女の子ひとりのために、死ななければならないっていうのか。ようし、かならずこの復讐はしてやるぞ。女の子は見つけしだい、かたっぱしから赤い血をながさせてやる。」 それから、十二人の兄弟たちは、森のおくへおくへとはいっていきました。いつのまにか、森のまんなかのいちばんくらいところまできました。すると、そこに魔法をかけられた小さな小屋がたっていました。家のなかには、だれもいませんでした。そこで、みんなはいいました。 「ぼくたちはここに住むことにしよう。それから、おい、ベンジャミン、おまえはいちばん小さいし、それに力もいちばんよわい。おまえはうちにのこって、うちのなかのしごとをやっていておくれ。ぼくたちほかのものは、みんなそとへいって食べものをとってくるから。」 こうして、にいさんたちは森のなかへはいって、ウサギだの、野ジカだの、小鳥だの、かわいいおすのハトだの、食べられるものはなんでもうって、それをベンジャミンのところにもってきました。ベンジャミンのやくめは、それを料理して、おにいさんたちのぺこぺこのおなかをいっぱいにしてあげることでした。 それから十年というあいだ、兄弟たちはこの小屋でいっしょにくらしましたが、みんなはそれほど長いとも思いませんでした。 さて、兄弟たちのおかあさまになる、お妃さまの生んだ女の子は、いまではすっかり大きくなりました。気だてのやさしい、美しいお姫ひめさまでした。ひたいの上には、金の星がひとつ、つけていました。 ある日のこと、せんたくものがたくさんありましたが、お姫さまがふと見ると、そのなかに男もののシャツが十二枚もありました。それで、ふしぎに思って、お妃さまにたずねてみました。 「この十二枚のシャツはだれのもの。おとうさまのにしては小さすぎますもの。」 すると、お妃さまは心もおもく、こうこたえました。 「姫や、これはねえ、おまえの十二人のおにいさまたちのですよ。」 「その十二人のおにいさまって、どこにいらっしゃるの。あたし、おにいさまのことなんて、まだいちどもきいたことないわ。」 と、お姫さまはいいました。 すると、お妃さまはこたえました。 「どこにいるかご存知なのは、神さまばかりよ。きっと、ひろい世のなかを、あっちこっちとまよい歩いているでしょう。」 それから、お妃さまはあのへやにむすめをつれていって、扉をあけて、かんなくずと、死人のためのまくらまでもはいっている十二のお棺を見せました。 「このお棺はね、おまえのおにいさまたちのものにきまっていたのよ。でも、おまえの生まれるまえに、みんなこっそりにげていってしまったの。」 と、お妃さまがいいました。 こういって、お妃さまは、あのときのことをのこらず話してきかせました。 それをきいて、お姫さまはいいました。 「おかあさま、泣かないで。あたしがいって、おにいさまたちをさがしてきますから。」 そこで、お姫さまはその十二枚まいのシャツをもって、お城をでますと、まっすぐ大きな森のなかへはいっていきました。お姫さまは、その日一日じゅう歩きつづけて、日のくれるころ、魔法のかけられているあの小屋こやのまえにきました。お姫さまが小屋のなかにはいっていきますと、ひとりの男の子がいて、 「きみは、どこからきたの。そして、どこへいくの。」 と、たずねました。
赤い血の旗があがってかんかんにおこったのは何人か。
赤い血の旗があがってかんかんにおこったのは十一人です。
JCRRAG_014224
国語
食事がすむと、貴族たちは帰りました。 そして今度は、陛下の命令で来たという男達が、叩き役をつれて、入って来ました。彼らは一本のペン、二個のインキ、五枚の紙、それに、四冊の書物を持って来て、言葉を教えに来たのだと手まねで言います。私たちは、四時間一しょに勉強しました。私はたくさんの言葉を縦に書き、それに訳を書いてゆきました。短い文章も少しおぼえました。 それにはまず片方の先生が、召使の一人に、「何々を持って来い。」「あっちを向け。」「おじぎ。」「坐れ。」「立て。」というふうに命令をします。そして私は、その文章を書くのでした。それから今度は本を開いて、日や月や星や、そのほか、いろんな平面図、立体図の名を教えてくれました。 別の先生は、楽器の名前やこの国の音楽の話を、いろいろ教えてくれました。 こんなふうにして、二、三日すると、私は大たい彼等の言葉がどんなものであるか、わかってきたのです。この島は『ラピュタ』といいます。私はそれを『飛島』『浮島』などと訳しておきました。 私の服がみすぼらしいというので、私の世話人が洋服屋を呼んで来ました。ところが、その洋服屋のやり方が、ヨーロッパの寸法の取り方とは、まるで違うのでした。
先生たちが教えてくれたことの違いを教えてください。
陛下の命令で来たという男達が、入って来ました。彼らはペン、インキ、紙、それに書物を持って来て、言葉を教えに来たそうです。私たちは勉強しました。まず片方の先生が、召使を使って日常の言葉を教えたあとに、本を開いて、日や月や星や、そのほか、いろんな平面図、立体図の名を教えてくれました。 一方、別の先生は、楽器の名前やこの国の音楽の話を、いろいろ教えてくれました。
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国語
「やい、ハルク、その缶詰は、おれたちのものだ。こっちへよこせ」 ハルクというのは、その逞しい巨人水夫の名のようだ。缶詰にみれんたっぷりの船員たちはハルクの前へおしかけて、うばいかえそうとする。 「……」 巨人ハルクは、一語も発しないで、近づいてくる船員のかおをじろりじろりとながめまわす。そして缶詰をわざと顔の前でひねくりまわして、ごくりと唾をのんでみせたりする。こいつはかえって気味がわるい。 いきおいこんだ船員たちは、猫ににらまれたねずみのように、もう一歩も前に出られなくなった。 「やい、ハルク。意地わるをすると、あとで後悔しなければならないぞ」 ハルクは、どこを風がふくかといったかおであった。 竹見は、ハルクが、ばかに気に入った。彼はそこでハルクの前へいって、右手をさしのばした。 「ハルクよ。お前は世界一の巨人だぞ!」 「ふふん、それほどでもないよ」 ハルクがはじめて口をきいた、しかも片言ながら、とにかく広東語で……。そして二人は、しっかり握手をしてしまったのである。そこで、さしものめんどうな胡瓜の缶詰事件も、一まず、かたづいた。 こっちで缶詰事件が起っている間に、平靖号から野菜その他をもってノーマ号へ出掛けた事務長の一行は、とどこおりなく取引をすませた。ノーマ号の船長ノルマンは、金貨でその代金をはらったが、その支払いぶりは、なかなかよかった。よほど金がある船であるのか、それともよほど野菜類にこまっていたものらしい。 「貴船は、これからどこへいかれるのですか」 平靖号の事務長は、中国人らしい発音で、ノルマンにたずねた。 「本船は、サイゴンをへて、シンガポールに出るつもりだよ」 ノルマン船長は、たいへんおちついた紳士のように見えた。おそろしくやせぎすで、大きな両眼は、日よけの色眼鏡によって遮蔽されてあった。 「貴船は貨物船らしいが、なにをつんでおられるのですか」 「鉱石である」 鉱石である――という返事が、ばかにはやくとびだした。まるでさっきからこれをきかれることを予想して、すぐ出せるように用意しておいた返事のように聞えた。 「鉱石というと、どんな種類の鉱石ですか」 ノルマン船長のくちびるが、ぎゅッとまがった。 「もう用事はすんだのだ。いそいで帰りたまえ」 ノルマン船長は、はじめて叱咤するようにさけんだ。彼の語尾は、かすかにふるえおびていた。 事務長の質問が、ノルマンの気にさわったらしい。 「ねえ、事務長」 そのとき、事務長のうしろからこえをかけた者がある。それは一緒にノーマ号へのりつけた一行の中の一名、丸本という水夫だった。 「なんだ」 「本船からの信号でさあ。はやくかえってこいといってますぜ」 事務長は、うむとくびをふって、 「ああ、いますぐかえると、手旗信号で返事をしてくれ」 「ねえ、事務長」 「なんだ。まだなにかあるのか」 「へえ、もう一つ、厄介なことをいってきました。虎船長から、じきじきの命令でさあ」 といって、常日ごろ、ばかに年寄りじみたことをいうので、“お爺”と綽名のある丸本水夫だが、すこし当惑の色が見える。 「なんだ、やっかいなことというのは」 「ほら、あの竹のことでさあ。さっきわれわれ一行の中に紛れこんでいましたね。彼奴はカンバスの下に野菜と一緒になってかくれていたんですよ。ところが虎船長、大の御立腹ですわい。いまも船からの信号で、竹の手足をしばってつれもどれとの厳命ですぜ。ようがすか」 「ふむ、そうか。竹見……いや竹の手足をしばってつれもどれと、船長の命令か。無理もない、船長の許可なくして船をぬけだすことは、一番の重罪だからな」 「じゃあ、やりますかね」 「なにを?」 「なにをって、竹の手足を縛ってつれてかえるかということです」 「もちろんだ。なぜそんなことをきくのか」 「だって、彼奴は大力があるうえに、猿のように、はしっこいのですからね。こっちがつかまえると感づくと、この船内をはしりまわって、なかなかつかまえられませんぜ」 「ふーん、それはお前のいうとおりだな」 と、事務長はうらめしそうなかおになって、本船の方をふりかえった。本船の甲板では、虎船長が、椅子のうえにどっかとすわって、こっちをにらんでいた。
船長はどのような厳命をしたか。
竹見の手足を縛って連れ戻すよう厳命した。
JCRRAG_014226
国語
土神の棲んでいる所は小さな競馬場ぐらいあり、冷たい湿地で苔やから草や短い蘆などが生えていましたがまた所々にはアザミや背の低いひどくねじれたヤナギなどもいました。 水がじめじめしてその表面にはあちこち赤い鉄の渋が湧きあがり見るからにどろどろで気味も悪いのでした。 そのまん中の小さな島のようになった所に丸太でこしらえた高さ一間ばかりの土神の祠があったのです。 土神はその島に帰って来て祠の横に長々と寝そべりました。そして黒いやせた脚をがりがり掻きました。土神は一羽の鳥が自分の頭の上をまっすぐに翔けて行くのを見ました。すぐ土神は起き上がって座り「しっ」と叫びました。鳥はびっくりしてよろよろっと落ちそうになり、それからまるではねも何もしびれたようにだんだん低く落ちながら向こうへにげて行きました。 土神は少し笑って立ち上がりました。けれどもまたすぐ向こうの樺の木の立っている高みの方を見るとはっと顔色を変えて棒立ちになりました。それからいかにもむしゃくしゃするという風にそのぼろぼろの髪の毛を両手で掻きむしっていました。 その時、谷地の南の方から一人の木こりがやって来ました。三つ森山の方へ稼ぎに出るらしく谷地のふちに沿った細い路を大股で歩いて行くのでしたがやっぱり土神のことは知っていたようで時々心配そうに土神の祠の方を見ていました。けれども木こりには土神の姿は見えなかったのです。 土神はそれを見るとよろこんでぱっと顔をほてらせました。それから右手をそっちへ突き出して左手でその右手の手首をつかみこっちへ引き寄せるようにしました。するとおかしなことに木こりは路を歩いていると思いながらだんだん谷地の中に踏み込んで来るようでした。それからびっくりしたように足が早くなり顔も青ざめて口を開けて呼吸をしました。土神は右手のこぶしをゆっくりぐるっとまわしました。すると木こりはだんだんぐるっと丸くまわって歩いていましたがいよいよひどく大いにあわてて、まるではあはあはあはあしながら何回も同じ所をまわり出しました。何でも早く谷地からにげようとするらしいのでしたが、あせってもあせっても同じところをまわっているばかりなのです。とうとう木こりは泣き出しました。そして両手をあげて走り出したのです。土神はいかにも嬉しそうにニヤニヤニヤニヤ笑って寝そべったままそれを見ていましたが、間もなく木こりがすっかりのぼせて疲れてばたっと水の中に倒れてしまいますと、ゆっくりと立ちあがりました。そしてぐちゃぐちゃ大股にそっちへ歩いて行って倒れている木こりのからだを向こうの草はらの方へぽんと投げ出しました。木こりは草の中にどっしりと落ちてううんといいながら少し動いたようでしたがまだ気がつきませんでした。 土神は大声で笑いました。その声はあやしい波になって空の方へ行きました。 空へ行った声はまもなくそっちからはねかえってガサリと樺の木のところにも落ちて行きました。樺の木ははっと顔色を変えて日光に青くすきとおりせわしくせわしくふるえました。 土神はたまらなそうに両手で髪を掻きむしりながらひとりで考えました。おれがこんなに面白くない原因のトップは狐のせいだ。狐のためというよりは樺の木のためだ。狐と樺の木のためだ。けれども樺の木の方はおれは怒ってはいないのだ。樺の木を怒らせないためにおれはこんなにつらいのだ。樺の木さえどうでもよければ狐などはなおさらどうでもいいのだ。おれは仮にも神の分際だ。それに狐のことなどを気にかけなければならないというのは情けない。それでも気にかかるから仕方ない。樺の木のことなどは忘れてしまえ。ところがどうしても忘れられない。今朝は青ざめてふるえたぞ。あの立派だった姿が、どうしても忘られない。おれは苛立ちまぎれにあんなあわれな樺の木をいじめてしまったのだ。けれども仕方ない。誰だってむしゃくしゃしたときは何をするかわからないのだ。 土神はひとりで切ながってばたばたしました。空をまた一羽の鷹が翔けて行きましたが土神はこんどは何もいわずだまってそれを見ました。 ずうっとずうっと遠くで騎兵の演習らしいパチパチパチパチ塩のはぜるような鉄砲の音が聞こえました。空から青光りがどくどくと野原に流れて来ました。それを吸ったためかさっきの草の中に投げ出された木こりはやっと気がついておずおずと起きあがりしきりにあたりを見回しました。 それから突然立って一目散ににげ出しました。三つ森山の方へ一目散ににげました。 土神はそれを見てまた大きな声で笑いました。その声はまた青空の方まで行く途中とちゅうから、バサリと樺の木の方へ落ちました。 樺の木はハッと葉の色を変えて見えない位こまかくふるえました。 土神は自分のほこらのまわりをうろうろうろうろ何度も歩き回ってからやっと気がしずまったように見えて、すっと形を消して融けるようにほこらの中へ入って行きました。
倒れた木こりは起き上がってどうしましたか。
突然立って三つ森山の方へ一目散ににげました。
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宝蔵倉の前で、少年たちが模型グライダーを飛ばしていた。みんな大なり小なりグライダーを持っていたが、なかに大作君の弟の幸助だけが持っていなかった。幸助はそこで、みんなの飛ばすグライダーをひろう役目をさせてもらっていた。みんなの手から飛んでいったグライダーが宝蔵倉の戸か壁にあたって地べたに落ちる。すると幸助が走っていって、それをひろってくる。幸助は、ひろって持ち主のところまでいくあいだ、グライダーを持つことができる、それによってわずかに自分のグライダー欲をみたしていたのである。だから幸助は、その役をうばわれないようにみんなのご機嫌をとっていた。ちょうど上衣のポケットのすみに穴があいていたので、ポケットにつっこんだ手の人指指をその穴から出して、「ピストルだぞ、ピストルだぞ。」といっては、二つ三つおどけてとびあがってみせるのであった。そんなことが何かの愛嬌になるつもりでいるのであった。大作君は、みていてまったくなさけなかった。なんという恥さらしだ! 大作君は幸助をものかげによんだ。そして、兄さんのいかりをちっとも知らないで天使のように無邪気な顔をしてやってきた幸助の横びんたを、「ばかッ」とさけびざま、びしゃんとぶたずにはいられなかった。 こうして、貧乏ったらしいまねをしていた弟は、大作君ににくまれてなぐりとばされた。しかし貧乏くさいからとて、お父さんやお母さんをにくむことが大作君にできたろうか。 それは大麦のうれるころのある日だった。そのじぶんお父さんは、瓦屋の方の仕事がひまなので、いそがしい百姓家へ一日か半日ずつやとわれて、百姓仕事を手つだいにいっていた。正午近く大作君は、お父さんのところへ弁当を持ってゆくよう、お母さんからいいつかった。大作君は弁当を持って、和五郎さんの麦畠の方へいった。そこの畠でお父さんは手つだっているはずだった。 菓子屋の勝助さんと床屋の家のあいだを通りぬけると、西の方に和五郎さんの麦畠がみえた。もう麦はみなかられて、たばねられてあった。畠のこちらのすみでは、和五郎さんとおかみさんが脱穀していた。向こうからだれかが麦を肩にかついで運んできた。その人は少年のようにすとすとと畠中を走って運んでいた。はじめ大作君は、それがどこかの少年かと思った。なぜならおとなはめったに走ったりしないものなので。しかし、大作君がもっと近くへいって、和五郎さんとおかみさんが笑いながら「加重さん、そう走らんでもええがン、もっとぼつぼつやっとくれや。」といっているのを聞くと、それがほかならぬお父さんの加重さんであることがわかった。 お百姓の和五郎さんとおかみさんは、加重さんの走り方がおかしいといって笑いころげた。ふたりは、加重さんがおどけてそんなことをしていると思ったのだ。大作君もはじめそう思って、和五郎さんたちといっしょにお父さんの方をみながら、笑って立っていた。なんというひょうきん者のお父さんだろう。 だが、そのうちに大作君は顔がこわばってきて、笑えなくなってしまった。そして笑えなくなった顔の、ぎゅッとひきゆがむのが感じられた。深い悲しみが大作君をおそったのだ。 大作君にはいまわかった、お父さんがひょうきんでそんなまねをしているのではないことが。お父さんは真剣だったのだ。早くその仕事をしてしまいたかったのだ。つぎの仕事で一銭でも多くもうけるために。いわば貧乏が、おとなの加重さんをこんなに子どものように畠の上を走りまわらせているのであった。なんという悲しいながめであろう。 大作君はもうみていられなかった。恥と悲しみで、体がふるえるのをとめられなかった。
大作君はなぜ、父親の働く姿に悲しみを覚えたのか。
大作君が父親の働く姿に悲しみを覚えたのは、貧しさのために、父親が子どものように必死に働いていたから。
JCRRAG_014228
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が多いほうを教えてください。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が多いのは小さな船で二百隻です。
JCRRAG_014229
国語
それからは、お姫さまはベンジャミンといっしょにうちにいて、ベンジャミンのしごとの手つだいをしました。十一人のにいさんたちは森にはいって、けものや、シカや、鳥や、小バトなどをつかまえてきました。これがみんなの食べものになりました。それをいろいろ料理するのが、ベンジャミンと妹のやくめなのです。 妹は煮たきをするたきぎや、野菜がわりにつかう草葉をさがしてきたり、おなべを火にかけたりしました。そうして、十一人のにいさんたちがかえってくるころには、いつでも食事ができるようにしておきました。そればかりか、妹はうちのなかをきれいにかたづけたり、寝床に白いきれいな敷布をきちんとかけたりしました。ですから、にいさんたちはいつも満足しきって、妹といっしょになかよくくらしていました。 あるときのことです。ふたりはうちにおいしいごちそうをこしらえておきました。みんながあつまると、それぞれ席について、食べたりのんだりしました。みんなは大よろこびでした。 ところで、この魔法をかけられている小屋には小さな庭があって、そのなかにユリのような花が十二本さいていました。この花は、またの名をシュトデンテンともいいます。妹は、この十二の花をおりとって、食事のあとでにいさんのひとりひとりにこの花をひとつずつあげようと思いました。こうして、にいさんたちによろこんでもらおうと思ったのです。ところが、どうしたというのでしょう、妹が花をおりとったとたん、十二人のにいさんたちのすがたは十二羽のカラスにかわってしまって、みんなは森のはるかかなたへととびさってしまったではありませんか。しかもそれといっしょに、うちも庭も、あとかたもなくきえうせてしまったのです。 かわいそうに、女の子はおそろしい森のなかでひとりぼっちになってしまいました。あたりを見回すと、そばにひとりのおばあさんが立っていました。おばあさんは、 「これ、これ、おまえはいったいなにをしたのだね。どうして、十二の白い花をそっとしておかなかったのだい。あれは、おまえのにいさんたちだったのさ。にいさんたちは、いまじゃカラスになっちまって、もう永久にかわることはないよ。」 と、いいました。 女の子はなくなくいいました。 「ほんとうに、にいさんたちをたすける方法はないんでしょうか。」 「だめだねえ。」 と、おばあさんはいいました。 「その方法は、たったひとつあるにはあるけど、むずかしすぎるから、とてもそれでにいさんたちをすくうことはできなかろうよ。なにしろ、七年というあいだ、おまえはひと言もしゃべらずにとおさなければならないんだからね。口をきいてもいけないし、わらってもいけない。もしもおまえが、たったひとことでも口をきこうものなら、そうしてまた、七年にほんの一時間だけたりなくっても、なにもかもがむだになってしまうのさ。しかも、そのたったひとことのために、おまえのにいさんたちは殺されてしまうんだよ。」
十一人のにいさんたちが森にはいってつかまえた物の種類の数を教えてください。
十一人のにいさんたちが森にはいってつかまえた物の種類の数は4で、 「けもの」、「シカ」、「鳥」、「小バト」です。
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国語
ラピュタの人たちは、家の作り方が非常に下手です。壁はゆがみ、どの部屋も直角になっていないのです。 四方の壁の内、三か所は外側に、一か所は内側に曲がっている、となっているのです。 彼らの作るレンガは十個のレンガがあれば、四個は欠けているレンガ、そして六個はヒビが入っているレンガなのです。 彼らは、定規や鉛筆でする紙の上の仕事は大へんもっともらしいのですが、実際にやらしてみると、この国の人間ぐらい、下手で不器用な人間はいません。彼らは数学と音楽には非常に熱心ですが、そのほかの問題になると、これくらい、ものわかりの悪い、でたらめな人間はいません。理窟を言わせれば、さっぱり筋が通らないし、むやみに反対ばかりします。彼らは頭も心も、数学と音楽しかわからないのです。 それに、この国の人たちは、いつも何か心配していて、そのために一分間も心は安らかでないのですが、他の人間から見たら、それは何でもないことを心配しているのでした。 その心配の種というのは、天に何か変わったことが起きはすまいか、ということです。 たとえば、地球は絶えず太陽に向かって近づいているのだから、今に吸い込まれるか、飲み込まれてしまうだろう。 あるいは、太陽の表面にはガスがだんだん固まってきて、今に日が射さなくなるときが来るだろう。 この前の彗星のときは、地球は星の尻尾になでられないで助かったが、今度、三十一年後に彗星が現れる、われわれはいよいよ滅ぼされるだろう、というのです。そうかとおもえば、太陽は毎日光線を出しているので、やがては、蝋燭のように溶けてなくなるだろう、そうすると、地球も月も、みんななくなってしまうだろう、などという心配でした。
この国の人たちは、いつも何か心配しているのですが、彼らの心配の種の違いを教えてください。
彼らの話す心配の種というのは、天に何か変わったことが起きないだろうか、地球は絶えず太陽に向かって近づいているのだから、今に吸い込まれるか、飲み込まれてしまうだろうか、ということでした。 またあるいは、太陽の表面にはガスがだんだん固まってきて、今に日が射さなくなるときが来るだろう、ということを話していました。
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国語
それからもエフ瓦斯の放出は、やすみなく続けられた。瓦斯の厚い壁は、壊れた宇宙艇をすっかり包んでいて火星人の襲撃から安全に保護していた。 一応危機が去ったので、デニー博士は、乗組員に交代で睡ることを命じた。 しかし博士は休養をとらず、これから火星人とどのようにして交渉に入ったものかについて、幹部の人々と会議を始めた。 それから一時間ほど経った後、艇内に歓呼の声が起った。 「無電が通じるようになったぞ。地球との無電連絡がとれるようになったぞ」 えっ、無電が地球へ届くようになったか。それと聞いた乗組員は、いそいで無電室へ集った。寝たばかりの連中も、寝台からはね起きて無電室へ駆付けた。 「もしもし、KGO局ですね。……そうですよ、危機一髪のところで墜落を免れて着陸しました。……皆おどろいていますって。局へ電話がどんどんかかってきますって。自動車で乗りつける人もある。それは愉快だな。……こっちの乗組員の氏名ですか。まず艇長のデニー博士、それから……」 地球の上では早くもこれが全世界に電波の力で報道され、大興奮の渦巻となった様子であった。会議中だったデニー博士も遂にマイクの前に引張り出された。 「余は、わが火星探険協会長に永年よせられたるアメリカ全国民の後援に対し、衷心感謝の意を表するものであります。今やわが地球人類は、火星にまで足跡を印したのでありますが、われわれはその光栄のために、今日までのあらゆる苦闘を一瞬にして忘れてしまいました。さりながらわれわれの任務は重且つ大でありまして、火星人との交渉はこれから始まらんとして居ります。われわれは地球人類の光栄と名誉を保持し、それを汚すことなく、この新しい使命について万全の努力を払おうとする次第であります。ただ心にかかることは、宇宙艇の大破損と、燃料の大部分を失ったことでありますが、只今もその善後策について、最善の途を考慮中であります。最後に余は、アメリカ国民諸君、いな全地球人諸君に深く期待し、この火星探険をしてわれらの生きとし生けるものの幸福と栄光へ導かんことを願うものであります。ありがとう」 このデニー博士のあいさつは、非常な感激を地球上の人々に与えたようである。 それから後は、無電室は猛烈に忙しくなった。公式の通信の隙間に、各通信社からの特別通信申込が殺到して、それにいちいちどう答えてよいのか分りかねた。なにしろこっちは只一つの無電装置が回復したばかりであって、とても地球からのおびただしい通信の申込みを満足させることができなかった。 デニー博士が再びマイクの前に立って、われわれは今火星に着陸したものの、非常な危険に曝されて居り、火星探険記などについて今詳しい報告を送っている余裕のないことを正直に告げなかったとしたら、せっかく回復した宇宙艇の無電装置は使いすぎのため間もなく壊れてしまったことであろう。ようやく事態が地球上にも分かり、政府は、命令を以て、今後当分のうち、宇宙艇との通信は公報にかぎられることとし、一方デニー博士の要求に応じてあらゆる後援を惜しまず、その申出に待機することとなった。 こうして地球と宇宙艇との通信さわぎは、一先ず治まり、無電員も楽になった。 デニー博士は会議の席へ戻った。そしてそれから二時間、割合としずかな時刻が過ぎていった。 「いったい、今、時刻は何時なんだろうね」 と、乗組員のひとりが、同僚に訊ねた。 「お昼頃だろうね。ほら、太陽は頭の上に輝いているよ」 彼は丸窓を通して、上を指した。 「でもへんだぜ、この火星へ着陸してからもう四時間は過ぎたのに、太陽は初めからほとんど同じように、頭の上に輝いているんだからね」 「そんなばかなことがあってたまるか」 「だって、それは本当だから仕方がない」 「それはこういうわけさ」と、通りかかったマートン技師が笑いながらいった。 「火星の上では、一日が四十八時間なんだもの。つまり火星は地球の約半分の遅い速さで廻っているので、二倍の時間をかけないと一日分を廻り切らないのだ」 「へへえ、そいつはやり切れないな。三度の食事に、二倍ずつ食べないと、腹が減って目がまわっちまうぜ」 「なあに、一日に六度食べればいいのさ」 「いや、そうはいかないぜ。夜が二十四時間もつづくんだろう。二十四時間を何にも食べないで生きていられるだろうか」 「さあ、それはちょっとつらいね。途中で一ぺん起きて食事をし、それからまた続きを睡るってえことになるかな」 「なんだか訳が分らなくなった。どうも厄介な土地へ来たもんだ。はっはっはっ」 一同は顔を見合せて大笑いをした。
乗組員たちが無電が再び使えるようになったと聞いて歓声をあげたのはなぜか。
乗組員たちが無電が再び使えるようになったと聞いて歓声をあげたのは、危機が去り、地球との連絡が取れるようになり安心したから。
JCRRAG_014232
国語
そのうちとうとう秋になりました。樺の木はまだまっ青でしたがその辺のエノコログサはもうすっかり黄金の穂を出して風に光りところどころすずらんの実も赤く熟しました。 あるすきとおるように黄金の秋の日、土神はとても上機嫌でした。今年の夏からのいろいろな辛い思いが何だかぼうっとみんな立派なもやのようなものに変わって頭の上に環になってかかったように思いました。そしてもうあの不思議に意地の悪い性質もどこかへ行ってしまって、樺の木なども狐と話したいなら話すがいい、両方ともうれしくてはなすのならほんとうにいいことなんだ、今日はそのことを樺の木にいってやろうと思いながら土神は心も軽く樺の木の方へ歩いて行きました。 樺の木は遠くからそれを見ていました。 そしてやっぱり心配そうにぶるぶるふるえて待ちました。 土神は進んで行って気軽に挨拶しました。 「樺の木さん。おはよう。実にいい天気だな。」 「お早うございます。いいお天気でございます。」 「天道というものはありがたいもんだ。春は赤く夏は白く秋は黄いろく、秋が黄いろになると葡萄は紫になる。実にありがたいもんだ。」 「全くでございます。」 「わしはな、今日は大へんに気分がいいんだ。今年の夏から実にいろいろつらい目にあったのだがやっと今朝からにわかに心持ちが軽くなった。」 樺の木は返事しようとしましたがなぜかそれが非常に重苦しいことのように思われて返事しかねました。 「わしはいまなら誰のためにでも命をやる。みみずが死ななければならんならそれにもわしはかわってやっていいのだ。」土神は遠くの青いそらを見て言いました。その眼も黒く立派でした。 樺の木は又何とか返事しようとしましたがやっぱり何か大へん重苦しくてわずか吐息をつくばかりでした。 そのときです。狐がやって来たのです。 狐は土神がいるのを見るとはっと顔色を変えました。けれども戻るわけにも行かず少しふるえながら樺の木の前に進んで来ました。 「樺の木さん、お早う、そちらに居られるのは土神ですね。」狐は赤革の靴をはき茶色のレインコートを着てまだ夏帽子をかぶりながらこう言いました。 「わしは土神だ。いい天気だ。な。」土神はほんとうに明るい気持ちでこう言いました。狐は嫉ましさに顔を青くしながら樺の木に言いました。 「お客さまが来てる所に入ってしまって失礼いたしました。これはこの間約束した本です。それから望遠鏡はいつかはれた晩にお目にかけます。さよなら。」 「まあ、ありがとうございます。」と樺の木が言っているうちに狐はもう土神に挨拶もしないでさっさと戻りはじめました。樺の木はさっと青くなってまた小さくぷりぷりふるいました。 土神はしばらくの間ただぼんやりと狐を見送って立っていましたが、ふと狐の赤革の靴がキラッと草に光るのにびっくりして我に返ったと思ったら突然頭がぐらっとしました。狐がいかにも意地をはったように肩をいからせてぐんぐん向こうへ歩いているのです。土神はむらむらっと怒りました。顔も物凄くまっ黒に変わったのです。美学の本だの望遠鏡だのと、ちくしょう、さあ、どうするか見てろ、といきなり狐のあとを追いかけました。樺の木はあわてて枝が一ぺんにがたがたふるえ、狐もその気配にどうかしたのかと思って何気なくうしろを見たら、土神がまるで黒くなって嵐のように追って来るのでした。さあ狐はさっと顔いろを変え口もまがり風のように走ってにげ出しました。 土神はまるでそこら中の草がまっ白な火になって燃えているように思いました。青く光っていた空さえ突然ガランとまっ暗な穴になってその底では赤い焔がどうどう音を立てて燃えるのかと思ったのです。 二人はごうごう鳴って汽車のように走りました。 「もうおしまいだ、もうおしまいだ、望遠鏡、望遠鏡、望遠鏡」と狐は一心に頭の隅のとこで考えながら夢のように走っていました。 向こうに小さな赤剥の丘がありました。狐はその下の丸い穴に入ろうとしてくるっと一つまわりました。それから首を低くしていきなり中へ飛び込もうとして後足をちらっとあげた時、もう土神はうしろからぱっと飛びかかっていました。と思うと狐はもう土神に体をねじられて口を尖らせて少し笑ったようになったままぐんにゃりと土神の手の上に首を垂れていたのです。 土神はいきなり狐を地べたに投げつけてぐちゃぐちゃ四・五回踏みつけました。 それからいきなり狐の穴の中にとび込んで行きました。中はがらんとして暗く、ただ赤土が奇麗に固められているだけでした。土神は大きく口をまげてあけながら少し変な気がして外へ出て来ました。 それからぐったり横になっている狐の屍骸のレインコートの隠しポケットの中に手を入れてみました。その隠しポケットの中には茶色いカモガヤの穂が二本入っていました。土神はさっきからあいていた口をそのまま、まるでとんでもない声で泣き出しました。 そのなみだは雨のように狐に降り、狐はますます首をぐんにゃりとさせてうすら笑ったようになって死んでいたのです。
土神はうしろからぱっと飛びかかった結果狐はどうなりましたか。
狐はぐんにゃりと土神の手の上に首を垂れていました。
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国語
六月の終わりの暑い日に、近くの町の公園グランドで連合競技会が行なわれた。 その最後の種目は、六年男子の綱持競走であった。長さ五メートルぐらいの一本の綱を一組二十人の者が持って、距離四キロを走破するのである。そしてこの競走のだいじなところは、二十人のうちひとりでも落伍してはだめだということだ。 なんだか知らないが、戦線における皇軍のある仕事をしのばせるから、大作君たちはこの競走には勝とうという悲壮な決意が、はじめからみんなのはらの中にできていた。 いざ出場となると、大作君たちはおたがいの緊張した顔を、いやに黒くげんこつみたいに小さいなアと思いながら、もくもくとはだしになり、運動帽のふちのひもを頭がいたくなるほどしめなおした。 たくさん出てきた。およそ三十組くらいの縦列が、長くひかれた白線の前にならんだ。大きい学校からは数組出ているのだろう。大作君の学校は小さいので、二十人出ると六年男子はほとんどみんなである。 それから競走がはじまった。先頭の徳一君が「ヨイショッ」と声をかけると、それをみんなが「ヨイショッ」とうける。はじめはあたりいっぱい「ヨイショ」や「コラショ」や「オ一二」の声があったので、大作君たちの声はそれにのまれてしまって、自分たちの「ヨイショ」なのか、ひとの「ヨイショ」なのか区別もつかなかった。 グランドを縦につっきって、両側をヒマラヤシーダの並木ではさまれた細い道から往還へ出た。そのじぶんにはもう、平行していく組も走っているということはなかった。ただ大作君たちにしつこく追いすがってくるのは、線色のそろいの帽子をかぶった知らない学校の一組だけであった。がそれも、飴屋の前の最初の曲がり角をまわったころには、もう数メートル大作君たちよりおくれていた。大作君たちはトップではなかったが、そうとう前の方に走っているつもりであった。 かけ声の「ヨイショ」と足とがよくそろって、調子は上々であった。練習のときなら、ひょうきんな兵太郎君がこのあたりで「コラショイ」と突拍子な声をあげたり「アリャリャン」「スチャラカ、ポンポン」などとでたらめをいったりしてにぎわすのだが、今日はやはりほんとうの競走だからまじめになっているのか、それとも、ゆうべアイスキャンデーを七本たべて今朝はちょっと腹工合がわるいといっていたから、そのせいなのか、どちらか知らないが、ともかく変な声は立てなかった。 稲荷さんの門前に立っている赤旗をまわってひきかえすのであったが、そこにいき着くまでに大作君たちは三つの組を追いぬき、赤旗のところでもみあって、また二組ぬいた。しかしそのじぶんには、みんなの呼吸がだいぶん苦しそうになっていた。かけ声の「ヨイショ」もはじめのような元気な響きを失って、うめき声のようになった。中にはもうそれに声を合わせないで、だまって走っている者もあった。だまっている者は、きっと横腹のいたむのや胸の苦しいのをじっとこらえているのだ、と大作君は思った。
大作君たちは、なぜ綱持競走に対して特別な決意を持っていたのか。
大作君たちが特別な決意を持っていたのは、競走が戦場の任務を連想させ、勝利を強く意識していたから。
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国語
このラピュタの運命をつかさどっているのは、一つの大きな磁石です。磁石の真中に、心棒があって、誰でも、ぐるぐる回すことができるようになっています。 この磁石の力によって、島は、上ったり下ったり、一つの場所から他の場所へ動いたりするのです。磁石の一方の端は、島の下の領土に対して、遠ざかる力を持ち、もう一方の端は、近寄ろうとする力を持っています。 もし近寄ろうとする力を下にすれば、島は下ってゆきます。その反対にすれば、島は上ってゆきます。斜めにすれば、島は斜めに動きます。そして、磁石を土面と水平にすれば、島は停まっています。 この磁石をあずかっているのは、天文学者たちで、彼等は王の命令で、ときどき、磁石を動かすのです。 もし、下の都市が謀叛を起したり、税金を納めない場合には、国王は、その都市の真上に、この空飛ぶ島を持って来ます。こうすると、下では日もあたらず雨も降らないので、住民たちは苦しんでしまいます。また場合によっては、上から百個の大きな石や二千個の小石を都市めがけて落とします。こうなっては、住民たちは、地下室に引っ込んでいるよりほかはありません。 大抵は三日、長くても七日で下の都市の住民達は降参するそうです。 だが、それでもまだ王の命令に従わないと、最後の手段を取ります。それは、この島を彼らの頭の上に落としてしまうのです。こうすれば、家も人も何もかも、一ぺんにつぶされてしまいます。 しかし、これはよくよくの場合で、めったにこんなことにはなりません。王もこのやり方を喜んでいません。それにもう一つ、これには困ることがあるのです。つまり、都市には高い塔や柱などが立ち並んでいるので、その上に島を落すと、島の底の石が割れるおそれがあります。もし底の石が割れたりすると、磁石の力がなくなって、たちまち島は地上に落っこちてしまうことになるのです。
空飛ぶ島から石を落とされて、都市の住民達が降参するまでの日数のうち、より遅い日数を教えてください。
空飛ぶ島から石を落とされて、都市の住民達が降参するまでの日数のうち、より遅い日数は七日です。
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それからは、お姫さまはベンジャミンといっしょにうちにいて、ベンジャミンのしごとの手つだいをしました。十一人のにいさんたちは森にはいって、けものや、シカや、鳥や、小バトなどをつかまえてきました。これがみんなの食べものになりました。それをいろいろ料理するのが、ベンジャミンと妹のやくめなのです。 妹は煮たきをするたきぎや、野菜がわりにつかう草葉をさがしてきたり、おなべを火にかけたりしました。そうして、十一人のにいさんたちがかえってくるころには、いつでも食事ができるようにしておきました。そればかりか、妹はうちのなかをきれいにかたづけたり、寝床に白いきれいな敷布をきちんとかけたりしました。ですから、にいさんたちはいつも満足しきって、妹といっしょになかよくくらしていました。 あるときのことです。ふたりはうちにおいしいごちそうをこしらえておきました。みんながあつまると、それぞれ席について、食べたりのんだりしました。みんなは大よろこびでした。 ところで、この魔法をかけられている小屋には小さな庭があって、そのなかにユリのような花が十二本さいていました。この花は、またの名をシュトデンテンともいいます。妹は、この十二の花をおりとって、食事のあとでにいさんのひとりひとりにこの花をひとつずつあげようと思いました。こうして、にいさんたちによろこんでもらおうと思ったのです。ところが、どうしたというのでしょう、妹が花をおりとったとたん、十二人のにいさんたちのすがたは十二羽のカラスにかわってしまって、みんなは森のはるかかなたへととびさってしまったではありませんか。しかもそれといっしょに、うちも庭も、あとかたもなくきえうせてしまったのです。 かわいそうに、女の子はおそろしい森のなかでひとりぼっちになってしまいました。あたりを見回すと、そばにひとりのおばあさんが立っていました。おばあさんは、 「これ、これ、おまえはいったいなにをしたのだね。どうして、十二の白い花をそっとしておかなかったのだい。あれは、おまえのにいさんたちだったのさ。にいさんたちは、いまじゃカラスになっちまって、もう永久にかわることはないよ。」 と、いいました。 女の子はなくなくいいました。 「ほんとうに、にいさんたちをたすける方法はないんでしょうか。」 「だめだねえ。」 と、おばあさんはいいました。 「その方法は、たったひとつあるにはあるけど、むずかしすぎるから、とてもそれでにいさんたちをすくうことはできなかろうよ。なにしろ、七年というあいだ、おまえはひと言もしゃべらずにとおさなければならないんだからね。口をきいてもいけないし、わらってもいけない。もしもおまえが、たったひとことでも口をきこうものなら、そうしてまた、七年にほんの一時間だけたりなくっても、なにもかもがむだになってしまうのさ。しかも、そのたったひとことのために、おまえのにいさんたちは殺されてしまうんだよ。」
妹がやるしごとの数を教えてください。
妹がやるしごとの数は4で、 「煮たきをするたきぎや、野菜がわりにつかう草葉をさがす」 「おなべを火にかける」 「うちのなかをきれいにかたづける」 「寝床に白いきれいな敷布をきちんとかけたりした」 です。
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国語
彼らは朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビクビクしています。夜も、よく眠れないし、この世の楽しみを味おうともしないのです。朝、人に会って、第一にする挨拶は、 「太陽の具合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変わりはございませんか。」 「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」 と、こんなことを言い合うのです。それはちょうど、子供が幽霊やお化けの話が怖くて眠れないくせに聞きたがるような気持でした。 私は一月もたつと、この国の言葉がかなりうまくなりました。国王の前に出ても、質問は大概答えることができました。陛下は、私の見た国々の法律、政治、風俗などのことは、少しも聞きたがりません。その質問といえば、数学のことばかりでした。私が申し上げる説明を、ときどき、叩き役の助けをかりて聞かれながら、いかにも、つまんなそうな顔つきでいられます。 私は、この島のいろいろ珍しいものを見せてもらいたいと、陛下にお願いしました。さっそく、お許しが出て、私の先生がいっしょに行ってくれることになりました。私はこの島のさまざまな運動が何の原因によるものなのか、それが知りたかったのです。 この飛島は、直径約四マイル半の真円い島です。面積は、一万エーカー、島の厚さは、三百ヤードあります。島の一番底は、滑らかな石の板になっていて、その上に、鉱物の層があり、そのまた上に、土がかぶさっています。 島の中心には、直径五十ヤードほどの裂け目が一つあります。そこから、天文学者たちが、洞穴へおりて行きます。 その洞穴の中には、二十個のランプが、いつもともっています。 ここでも歪んでいるのか、右側に十三個、左側に七個のランプが置かれていました。 そこには、二十個の望遠鏡や、二個の天体観測器や、そのほか、天文学の器械が備えてあります。
朝から晩までビクビクしている彼らの第一の挨拶の違いを教えてください。
彼らは朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビクビクしています。朝、人に会って、第一にする挨拶は、「太陽の具合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変わりはございませんか。」という挨拶をします。 するともう一方では「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」と、こんなことを言い合うのです。
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国語
火星人の大群が、宇宙艇の前方において、再び大々的の集結を始めたという山木の報告は、又もや乗組員たちの顔を、不安に曇らせた。 いったん潮の引くように退いた火星人たちは、こんどは前よりも一層勢いをつよめて宇宙艇へ追って来つつあるのだ。 火星人たちの人数がふえたばかりか、こんどは手に手に異様な棒を持っている。 先が丸く膨らんだ棍棒みたいなものである。そればかりではない。彼らは高い櫓のようなものを後に引張っていた。それは四五階になっていて、どの階にも気味のわるい火星人の顔が、まるでトマトを店頭に並べたように鈴なりになっていた。そういうものが、密林の中から次第次第に現われ、数を増してくるのであった。 (いったい彼らは、どうしようという気だろうか) 櫓と棍棒とおびただしい火星人の群! さっきはエフ瓦斯をくらって総退却した彼らだったが、こんどはそれに対抗する手段を考えて向ってきたものに違いない。 艇内には、非常配置につけの号令が出、デニー博士はまたもや指揮台の上に立って、テレビ見張器に食い入るような視線を投げつけている。 と、火星人たちが、手にしていた棍棒みたいなものを一せいに高くさしあげた。 するとふしぎにも、風がぴゅうぴゅう吹きだした。沙漠の砂塵が、舞いあがった。と、宇宙艇を包んでいたエフ瓦斯の幕が吹きとばされて見る見るうちに淡くなっていった。 火星人たちは、どっと笑ったようである。櫓の上に乗っている火星人たちは、さかんに棒をぐるぐる頭の上でふりまわした。風は烈しさを増し、宇宙艇は荒天の中の小星のようにゆさゆさ揺れはじめた。 「これはえらいことになったぞ」 乗組員たちは、転がるまいとして、一所けんめい傍にあるものに取付いた。 「重力装置を働かせよ」 デニー博士が号令をかけた。 ぷうんと呻って、重力装置は働きだした。宇宙艇はぴったりと大地に吸いついた。だからもう微動もしなくなった。 火星人たちの送って来る風が一段と烈しさを加えた。 だが、宇宙艇はびくともしなかった。しかしエフ瓦斯は噴出孔を出るなり吹きとばされて役に立たない。 と、風がぴたりと停った。火星人たちは一せいに棍棒を下ろしたのだ。 やれ助かったかと思う折しも、こんどは大きい青い岩のようなものが、彼らの中からとび出して、宇宙艇の方へどんどん投げつけられ始めた。 「やっ、手榴弾か、爆弾か」 こっちの乗組員は、顔色をかえたが、それはそういう爆発物ではないらしく、炸裂音は聞えず、ただどすんどすんというにぶい小震動が感じられたばかりであった。しかしそれは次第に数を増し、何百何千と艇の上に落ちて来た。 「瓦斯の噴気孔がふさがれました」 困った報告が来た。 「なに、すると瓦斯は出なくなったのか」 「そうです。孔をふさがれちゃ、もうどうもなりません」 その頃、火星人たちは、また上機嫌になって笑っているように見受けられた。 「仕方がない。あとは出来るだけ永く、彼らを艇内に入れないようにするしかない。全員、空気服をつけろ。いつ艇が破れて、空気が稀薄になるか分らないからね」 遂に最悪の事態を迎えて、デニー博士の顔は深刻さを増した。 乗組員たちは、大急ぎで空気服を着はじめた。大きな靴、ぶかぶかの鎧の様な脚や胴や腕、蛸の頭の様な丸い兜、空気タンク、原子エンジン発電機。みんなの姿が変ってしまった。 「割合に軽いね。へんじゃないか」 「火星の上では、重力が地球のそれの約半分なんだから、地球で着たときよりはずっと軽く感じるのさ」 「そうかね。これでどうやらすこし火星人に似て来たぞ。彼奴らも空気服を着ているのかしらん」 「まさかね」 そのとき乗組員たちは、デニー博士の前に四人の少年が並んだのを見た。どうしたわけだろうか。四人の少年は、揃いも揃って、お尻に大きな尻尾を垂らしていた。 四人の少年は、デニー博士にしきりに何かいう。博士は、分った分ったと、手をあげて合図をする。やがて博士は、四人の少年の手を一人一人握って振った。すると彼らは、博士の前から動きだして、部屋を出ていった。いったいどうしたことであろうか。 「諸君におしらせすることがある」 デニー博士は、空気兜についている高声器を通じて乗組員たちに呼びかけた。 「ただ今、ごらんになったろうが、河合、山木、張、ネッドの四少年が来ていうには、彼ら四名は、われわれの使者として、火星人たちのところへ出掛けたいと申し出た」 「それは危険だ。停めなければいけない」 と、誰かが叫んだ。 「もちろん余も再三停めたのだ。しかし少年たちの決心は岩のように硬かった。少年たちは平和手段によって、火星人との間になごやかな交渉を開いてみるから許してくれというのだ。余は遂に四少年の冒険――四少年の好意を受諾するしかないことを悟った。実際、われわれはこの調子で進めば、火星人と一騎打を演ずるしかないのだから……」 博士は言葉を停めた。こんどは誰も口出しする者がなかった。 「われわれはこの艇内に停り、四少年の成功を神に祈りたいと思う。もしこのことが不成功に終ったとすると、われわれは次の運命を覚悟しなければならぬ。……さあテレビ見張器の前に集るがよい。そこの窓から外を見るがよい。……ああ、あの音は、マートン技師が四少年のために、艇の腹門を開いているのだ。今に彼らは艇を出て、姿を見せるだろう」 博士の言葉が終ると間もなく、乗組員一同は、わっと歓声をあげた。 「おお、行くぞ。われらの少年団が!」 「ふうん、考えたよ。あんなものに乗って行くとは」 艇から転がるように姿を現したのはあのぐらぐらする大きな牛乳配達車だった。横腹に、大きな牝牛を描いてあるあのおんぼろ箱自動車であった。その上には、空気服を着て太い尻尾を生やした三少年が立っていた。もう一人は運転台にいるに違いない。これを見た乗組員たちが、一せいに歓呼の声をあげたのも無理ではない。が、彼らは次にぽろぽろ涙を流し始めた。大きい感激の涙を! 四少年は、これから何をするのだろう。彼らの運命はどうなるのだろうか。
今回火星人がエフ瓦斯を散らす事ができたのはなぜか。
今回火星人がエフ瓦斯を散らす事ができたのは、前回Fガスで退却した経験の元、火星人が棍棒のようなものを使って風を起こし、Fガスを吹き飛ばしたから。
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私がミスラ君に魔術を教わってから、一月ばかりたった後のことです。これもやはりざあざあ雨の降る晩でしたが、私は銀座のあるクラブの一室で、五・六人の友人と、暖炉の前へ陣取りながら、気軽な雑談に耽っていました。 何しろここは東京の中心ですから、窓の外に降る雨脚も、ひっきりなしに往来する自働車や馬車の屋根を濡らすせいか、あの、大森の竹藪にしぶくような、ものさびしい音は聞えません。 もちろん窓の内の陽気なことも、明るい電燈の光といい、大きなモロッコ皮の椅子といい、あるいはまた滑かに光っている寄木細工の床といい、見るからに精霊でも出て来そうな、ミスラ君の部屋などとは、まるで比べものにはならないのです。 私たちは葉巻の煙の中に、しばらくは猟の話だの競馬の話だのをしていましたが、その内に一人の友人が、吸いさしの葉巻を暖炉の中に放りこんで、私の方へ振り向きながら、 「君は近頃魔術を使うという評判だが、どうだい。今夜は一つ僕たちの前で使って見せてくれないか。」 「いいとも。」 私は椅子の背に頭をもたせたまま、さも魔術の名人らしく、横柄にこう答えました。 「じゃ、何でも君に任せるから、世間の手品師などには出来そうもない、不思議な術を使って見せてくれたまえ。」 友人たちは皆賛成だと見えて、とても椅子をすり寄せながら、促すように私の方を眺めました。そこで私はおもむろに立ち上って、 「よく見ていてくれたまえよ。僕の使う魔術には、種もしかけもないのだから。」 私はこう言いながら、両手のカフスをまくり上げて、暖炉の中で燃え盛っている石炭を、無造作に掌の上へすくい上げました。私を囲んでいた友人たちは、これだけでも、もう非常に驚いたのでしょう。皆顔を見合せながらうっかり側へ寄って火傷でもしては大変だと、気味悪そうにしりごみさえし始めるのです。 そこで私の方はいよいよ落ち着き払って、その掌の上の石炭の火を、しばらく一同の眼の前へつきつけてから、今度はそれを勢いよく寄木細工の床へ撒き散らしました。その途端です、窓の外に降る雨の音を圧して、もう一つ変わった雨の音が突然床の上から起こったのは。と言うのはまっ赤な石炭の火が、私の手の平を離れると同時に、無数の美しい金貨になって、雨のように床の上へこぼれ飛んだからなのです。 友人たちは皆、夢でも見ているように、茫然と喝采するのさえも忘れていました。 「まずちょいとこんなものさ。」 私は得意の微笑を浮かべながら、静かにまた元の椅子に腰を下しました。 「こりゃ全部ほんとうの金貨かい。」 呆気にとられていた友人の一人が、ようやくこう私に尋ねたのは、それから五分ばかりたった後のことです。 「ほんとうの金貨さ。嘘だと思ったら、手にとって見たまえ。」 「まさか火傷をするようなことはあるまいね。」 友人の一人は恐る恐る、床の上の金貨を手にとって見ましたが、 「なるほど、こりゃほんとうの金貨だ。おい、給仕、箒とちり取りを持って来て、これを皆掃き集めてくれ。」 給仕はすぐに言いつけられた通り、床の上の金貨を掃き集めて、うずたかく側のテーブルへ盛り上げました。友人たちは皆そのテーブルのまわりを囲みながら、 「ざっと二十万円くらいはありそうだね。」 「いや、もっとありそうだ。華奢なテーブルだった日には、つぶれてしまうくらいあるじゃないか。」 「何しろ大した魔術を習ったものだ。石炭の火がすぐに金貨になるのだから。」 「これじゃ一週間とたたない内に、岩崎や三井にも負けないような金満家になってしまうだろう。」などと、口々に私の魔術を褒めたたえました。が、私はやはり椅子によりかかったまま、悠然と葉巻の煙を吐いて、 「いや、僕の魔術というやつは、一旦欲の心を起こしたら、二度と使うことが出来ないのだ。だからこの金貨にしても、君たちが見てしまった上は、すぐにまた元の暖炉の中へほうりこんでしまおうと思っている。」 友人たちは私の言葉を聞くと、打ち合わせしたかのように、反対し始めました。これだけの大金を元の石炭にしてしまうのは、もったいない話だと言うのです。が、私はミスラ君に約束した手前もありますから、どうしても暖炉にほうりこむと、剛情に友人たちと争いました。
私は魔術で出した金貨をどうしようとしましたか。
金貨はすぐにまた元の暖炉の中へほうりこんでしまおうと思っていた。
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国語
六月の終わりの暑い日に、近くの町の公園グランドで連合競技会が行なわれた。 その最後の種目は、六年男子の綱持競走であった。長さ五メートルぐらいの一本の綱を一組二十人の者が持って、距離四キロを走破するのである。そしてこの競走のだいじなところは、二十人のうちひとりでも落伍してはだめだということだ。 なんだか知らないが、戦線における皇軍のある仕事をしのばせるから、大作君たちはこの競走には勝とうという悲壮な決意が、はじめからみんなのはらの中にできていた。 いざ出場となると、大作君たちはおたがいの緊張した顔を、いやに黒くげんこつみたいに小さいなアと思いながら、もくもくとはだしになり、運動帽のふちのひもを頭がいたくなるほどしめなおした。 たくさん出てきた。およそ三十組くらいの縦列が、長くひかれた白線の前にならんだ。大きい学校からは数組出ているのだろう。大作君の学校は小さいので、二十人出ると六年男子はほとんどみんなである。 それから競走がはじまった。先頭の徳一君が「ヨイショッ」と声をかけると、それをみんなが「ヨイショッ」とうける。はじめはあたりいっぱい「ヨイショ」や「コラショ」や「オ一二」の声があったので、大作君たちの声はそれにのまれてしまって、自分たちの「ヨイショ」なのか、ひとの「ヨイショ」なのか区別もつかなかった。 グランドを縦につっきって、両側をヒマラヤシーダの並木ではさまれた細い道から往還へ出た。そのじぶんにはもう、平行していく組も走っているということはなかった。ただ大作君たちにしつこく追いすがってくるのは、線色のそろいの帽子をかぶった知らない学校の一組だけであった。がそれも、飴屋の前の最初の曲がり角をまわったころには、もう数メートル大作君たちよりおくれていた。大作君たちはトップではなかったが、そうとう前の方に走っているつもりであった。 かけ声の「ヨイショ」と足とがよくそろって、調子は上々であった。練習のときなら、ひょうきんな兵太郎君がこのあたりで「コラショイ」と突拍子な声をあげたり「アリャリャン」「スチャラカ、ポンポン」などとでたらめをいったりしてにぎわすのだが、今日はやはりほんとうの競走だからまじめになっているのか、それとも、ゆうべアイスキャンデーを七本たべて今朝はちょっと腹工合がわるいといっていたから、そのせいなのか、どちらか知らないが、ともかく変な声は立てなかった。 稲荷さんの門前に立っている赤旗をまわってひきかえすのであったが、そこにいき着くまでに大作君たちは三つの組を追いぬき、赤旗のところでもみあって、また二組ぬいた。しかしそのじぶんには、みんなの呼吸がだいぶん苦しそうになっていた。かけ声の「ヨイショ」もはじめのような元気な響きを失って、うめき声のようになった。中にはもうそれに声を合わせないで、だまって走っている者もあった。だまっている者は、きっと横腹のいたむのや胸の苦しいのをじっとこらえているのだ、と大作君は思った。
競走の途中で、兵太郎君がふざけなかった理由は何か。
競走の途中で、兵太郎君がふざけなかった理由は競走が真剣な場であり、体調も万全ではなかったから。
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国語
さっそく、三百人の大工と二百人の技師に言いつけて、この国で一番大きな機械を持ち出すことになりました。それは長さ七フィート、幅四フィートの木の台で、二十二箇所の車輪がついています。私が眠り薬のおかげで、ぐっすり何も知らないで眠っている間に、この車が私の身体にぴったり横づけにされていました。だが、眠っている私をかつぎ上げて、この事に乗せるのは大へんなことだったらしいのです。 まず第一に、高さ一フィートの柱を八十本立て、それから、私の身体をぐるぐるまきにしている紐の上に、丈夫な綱をかけました。そして、この綱を柱にしかけてある滑車で、えんさえんさと引き上げるのです。九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬と九百人の男が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。もっとも、これは、みんなあとから人に聞いて知った話なのです。 車が動きだしてから、四時間もした頃のことです。何か故障のため、車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二・三人の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか、それを見るために、わざわざ車によじのぼって来ました。 はじめは、そっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を、私の鼻の孔にグイと突っ込んだものです。こよりで、つつかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず、大きなくしゃみと一緒に私は目がさめました。 日が暮れてから、車は休むことになりましたが、私の両側には、それそれ五百人の番兵が、弓矢をかかげ、百人の番兵がたいまつをかかげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押さえようとしていました。翌朝、日が上ると、車はまた進みだしました。そして正午頃、車が都の近くにやって来ました。皇帝も、大臣も、みんな出迎えました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、それは危険でございます、と言って、大臣たちはとめていました。
木の台のフィートが長い方を教えてください。
木の台のフィートが長い方は長さで七フィートです。
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国語
あたし、きっと、にいさんたちをたすけてみせるわ。 それから、女の子は歩いていきました。一本の高い木を見つけると、その上にすわって、糸をつむぎはじめました。でも、もちろん、口もきかなければ、わらいもしませんでした。 さて、あるときのこと、ひとりの王様がこの森で狩りをしました。王さまは一ぴきの猟犬をつれていましたが、その犬が女の子ののぼっている木のところへ走ってきて、そのまわりをとびはねては、しきりに木の上にむかってほえたてました。 そこで、王さまが近よってみますと、おどろいたことに、ひたいに金の星をつけた美しいお姫さまが、木の上にすわっているではありませんか。お姫さまのあまりの美しさに、王さまはうっとりとして、じぶんの妃になる気はないかとよびかけました。お姫さまはなんともへんじをしませんでしたが、ほんのちょっとうなずいてみせました。 それを見た王さまは、じぶんでその木にのぼって、お姫さまを木からおろしました。それから、じぶんの馬にのせて、いっしょにお城へつれかえりました。 やがて、ご婚礼の式が、めでたく、りっぱにとりおこなわれました。けれども、花よめはひとことも口をききませんし、わらいもしませんでした。 ふたりは何年かのあいだたのしいくらしをつづけました。ところが、王さまのおかあさまは、もともとたちのよくないひとでしたので、ぼつぼつわかいお妃さまのわる口をいいはじめました。そして、王さまにこうつげ口をしました。 「おまえがつれてきたのは、いやしい身分のむすめですよ。かげでは、こっそりどんなわるいことをしているか、わかったものではありません。口がきけないにしても、いちどぐらいはわらいそうなものです。とにかく、わらわない人は、心のよくない人ですよ。」 王さまは、さいしょのうちは、そんなことを信じようとはしませんでした。けれども、年よりがいつまでもそのことをいいはりますし、それに、いろいろとわるいことをお妃さまのせいにしますので、とうとう、王さまもいいまかされてしまって、お妃さまに死刑をいいわたしました。 こうして、お城の庭で大がかりな火がたかれました。この火のなかで、お妃さまが焼き殺されることになったのです。王さまは二階の窓ぎわに立って、涙ながらにこのありさまをながめていました。だって、王さまはいまでもなお、お妃さまがかわいくてならなかったのですもの。 いよいよ、お妃さまが柱にしばりつけられました。火がはやくも赤い舌したをチョロチョロさせて、お妃さまの着物をなめはじめました。 ちょうどそのとき、七年という年月のさいごの瞬間がすぎさったのです。と、空にバタバタという羽の音がして、十二羽のカラスがとんできて、地面にまいおりました。そして、その足が地面にふれたかと思うと、たちまち、十二人のにいさんたちのすがたになりました。みんなは、妹のおかげですくわれたのです。にいさんたちはすぐさま火をかきちらし、ほのおをもみけして、かわいい妹をたすけだして、キッスをしたり、だきしめたりしました。 さて、いまこそ、お妃さまは口をひらいて、話すことができるのです。そこで、どうしていままでひとことも口をきかず、またいちどもわらわなかったか、そのわけを王さまに話しました。王さまは、お妃さまになんの罪もないことをきいて、それはそれはよろこびました。そして、この人たちは、死ぬまで、みんないっしょになかよくくらしました。 心のよくないまま母のほうは、裁判にかけられて、煮えくりかえった油と、毒ヘビのいっぱいはいっているたるにいれられて、むざんな死にかたをしました。
王さまがお城にかえるとき、馬の上には何人いましたか。
王さまがお城にかえるとき、馬の上には王さまとお姫さまの2人がいました。
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国語
私はこの国で、別にいじめられたわけではないのです。だが、どうも、なんだか、みんなから馬鹿にされているような気がしました。この国では、王も人民も、数学と音楽のことのほかは、何一つ知ろうとしないのです。だから私なんか、どうも馬鹿にされるのでした。 ところが、私の方でも、この島の珍しいものを見物してしまうと、もう、そこの人間たちには、あきあきしてしまいました。彼らはいつも、何か我を忘れて、ぼんやり考え事に耽っているのです。付き合う相手として、これほど不愉快な人間はいません。 で、私はいつも女や、商人や、叩き役、侍童などとばかり話をしました。 ものを言って、筋の通った返答をしてくれるのは、こういう連中だけでした。 私は勉強したので、彼らの言葉はだいぶん話せるようになっていました。で、私はこうして、ほとんど相手にもしてもらえないような国で、じっとしているのが、たまらなくなったのです。一日も早く、この国を去ってしまいたいと思いました。 私は陛下にお願いして、この国から出られるようにしてもらい、二月十六日に、王と宮廷に別れを告げました。ちょうどそのとき、島は首府から二マイルばかり郊外の山の上を飛んでいましたので、私は一番下の通路から、鎖を吊り下げてもらって地上におりました。
私が話ができる人間とできない人間の違いを教えてください。
私はこの国で、どうもみんなから馬鹿にされているような気がしました。この国では、王も人民も、数学と音楽のこと以外は、何一つ知ろうとしないのです。彼らはいつも、何か我を忘れて、ぼんやり考え事に耽っているのです。付き合う相手として、これほど不愉快な人間はいません。 一方、私はいつも女や、商人や、叩き役、侍童達とばかり話をしました。ものを言って、筋の通った返答をしてくれるのは、こういう連中だけでした。
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箱自動車は、沙漠の砂をけって進む。四少年は、瞳をじっと火星人の群に定めて、顔を緊張に硬くしている。 火星人の大群は、手に手に棍棒のようなものを頭上に高くふりあげて、怒濤のようにこっちへ向って押し寄せてくる。 箱自動車は、そのまん中をめがけて矢のように走って行く。 「おい、もっとスピードをゆるめた方がいいよ。でないと、火星人をひき殺してしまうかもしれないからね」 山木が、運転台に注意した。 「だめなんだ、これが一番低いスピードなんだ」 「そんなことはないだろう」 「いや、そうなんだ。火星の上では、重力が地球の場合の約三分の一しかないんだ。だから摩擦も三分の一しかないから、えらくスピードが出てしまうんだ」 「そうかね。そんなことがあるかね」 山木には、ふしぎに思えた。 そのとき河合が、あっと声をあげた。と、自動車は大きくゆれ、かたんとはげしい音をたてて停ってしまった。 「うわッ」 箱自動車の上に乗っていた張とネッドは、いきなり空中へ放り出され、あっと思う間もなくばさりと砂の中へ叩きこまれた。砂だったからよかった。もし岩であったら、頭をめちゃくちゃにくだくところだった。 火星人の群から、きゃんきゃんと、奇妙な笑声がまきおこった。 沙漠に、たくみな落し穴がこしらえてあったのだ。そうとは知らず、河合は箱自動車をすっとばして、穴の中へ落ちこんだのだ。 形勢は急に不利となった。ただ幸いなことに河合も山木も、おでこに瘤をこしらえたぐらいのことで、生命に別条はなく、一方、張もネッドも、すぐ砂の中からはい出した。 だが、皆の顔色はすっかり変っていた。頼みに思う箱自動車が穴ぼこの中に落ちてしまったのでは、これからてくてく歩くしかないのだ。それはずいぶん心細いことであった。 「どうしたらいいだろうか」 「困ったねえ」 と、張とネッドが顔を見合わせて、今にも泣き出しそうだ。 「おい河合、どうしたらいい」 山木に呼ばれた河合は、落とし穴へもぐりこんで車体をしらべていた。 「おーい、皆安心しろ。車は大丈夫だぞ」 「だって河合。車がいくら大丈夫でも、穴ぼこの中にえんこしていたんじゃ仕様がないじゃないか。役に立ちゃしないもの」 「ううん、大丈夫。皆、手を貸せよ。車をこの穴ぼこから上へひっぱりあげればいいんだよ」 「なんだって。穴ぼこから、車をひっぱりあげるって。そんなことが出来るものか。ぼくたちは子供ばかりだし、自動車は重いし、とてもだめだよ」 ネッドがそういって肩をすくめた。 「大丈夫、もちあがるよ。ぐずぐずしていないで、皆穴の中へ下りて来て、手を貸した。さあ早く、早く」 張とネッドと山木は、河合のことばを信じかねたが、しかし河合がしきりに急がせるのでしぶしぶ穴の中へ下りた。 「さあ、こっちから押すんだぞ。一チ、二イ、三ン。そら、よいしょ」 「よいしょ、おやァ……」 「よいしょ、よいしょ」 意外にも、箱自動車は動き出して、穴の斜面をゆらゆらとゆれながら上へ押しあげられて行った。やがて、ちゃんと元の沙漠へ自動車はあがった。 「変だね。この自動車はなんて軽くなったんだろう」 「それはそのわけさ。さっきもいったろう。火星の上では、地球の場合にくらべて重力は約三分の一なんだ。だからなんでも重さが三分の一に感じられるんだよ」 「へえ、そうかね」 あとの三人は目を丸くした。 「まだ信じられないんなら、ためしに大地をけって、ぴょんぴょんととびあがってごらん。びっくりするほど高くとべるから」 河合がそういったので、一番茶目助のネッドが、早速ぴょんととびあがった。 と、あらふしぎ、ネッドのからだはボール紙を空へなげたようにすうっと軽くもちあがり、三人の少年の頭の上よりもはるかに上までとびあがった。 「やあ、あんなに上までとびあがったぞ。まるで天狗みたいだよ」 「やあ、これはおもしろい。もっととんでやれ」 ネッドはいい気になって、ぴょんととび、またぴょん、ふわふわととび、それをくりかえした。そのたびに、お尻につけている太い狸の尻尾が宙にゆれて、じつにおかしかったので、皆は火星人の大群を前にひかえている危険をさえ忘れて、腹をかかえて笑った。ネッドはますますいい気になって、ぴょんととびあがりざま、ふざけた恰好をしてみせるのであった。 「おい、ネッド。もうよせ。そして皆早く自動車に乗れよ」 河合がそういって、運転台の上から叫んだ。それでようやく他の三人も吾にかえって、自動車によじのぼった。 自動車は、再び沙漠の上を走り出した。
箱自動車が最低速度でも非常に速く走っていたのはなぜか。
箱自動車が最低速度でも非常に速く走っていたのは、火星の上では、重力も摩擦も地球の約三分の一しかなくスピードが出やすかったから。
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国語
すると、その友人たちの中でも、一番狡猾だという評判のある奴が、鼻の先で、せせら笑いながら、 「君はこの金貨を元の石炭にしようと言う。僕たちはまたしたくないと言う。それじゃいつまでたった所で、議論が終わらないのは当たり前だろう。そこで僕が思うには、この金貨を元手にして、君が僕たちとかるたをするのだ。そうしてもし君が勝ったなら、石炭にするとも何にするとも、自由に君が始末するがいい。が、もし僕たちが勝ったなら、金貨のまま僕たちへ渡したまえ。そうすればお互いの意見も立って、至極満足するじゃないか。」 それでも私はまだ首を振って、簡単にはその申し出に賛成しようとはしませんでした。ところがその友人は、いよいよあざけるような笑みを浮べながら、私とテーブルの上の金貨とをずる賢そうにじろじろ見比べて、 「君が僕たちとかるたをしないのは、つまりその金貨を僕たちに取られたくないと思うからだろう。それなら魔術を使うために、欲心を捨てたとか何とかいう、折角の君の決心も怪しくなってくる訳じゃないか。」 「いや、何も僕は、この金貨が惜しいから石炭にするのじゃない。」 「それならかるたをやりたまえよ。」 何度もこういう押し問答を繰り返した後で、とうとう私はその友人の言葉通りに、テーブルの上の金貨を元手に、どうしてもかるたを闘わなければならない羽目になりました。勿論友人たちは皆大喜びで、すぐにトランプを一組取り寄せると、部屋の片隅にあるかるた机を囲みながら、まだためらいがちな私を早く早くと急き立てるのです。 ですから私も仕方がなく、しばらくの間は友人たちを相手に、いやいやかるたをしていました。が、どういうものか、その夜に限って、ふだんは格別かるた上手でもない私が、嘘のようにどんどん勝つのです。するとまた妙なもので、始めは気乗りもしなかったのが、だんだん面白くなり始めて、ものの十分とたたない内に、いつか私は全てを忘れて、熱心にかるたを引き始めました。 友人たちは、元々私から、あの金貨を残らずまき上げるつもりで、わざわざかるたを始めたのですから、こうなると皆焦りに焦って、ほとんど血相さえ変わるかと思うほど、夢中になって勝負を争いました。が、いくら友人たちが躍起となっても、私は一度も負けないばかりか、とうとうしまいには、あの金貨とほぼ同じほどの金額分、私の方が勝ってしまったじゃありませんか。するとさっきの人の悪い友人が、まるで、狂ったような勢いで、私の前に、札をつきつけながら、 「さあ、引きたまえ。僕は僕の財産にすっかり賭ける。地面も、家作も、馬も、自動車も、一つ残らず賭けてしまう。その代わり君はあの金貨のほかに、今まで君が勝った金をことごとく賭けるのだ。さあ、引きたまえ。」 私はこの瞬間に欲が出ました。テーブルの上に積んである、山のような金貨ばかりか、せっかく私が勝った金さえ、今度運悪く負けたが最後、皆相手の友人に取られてしまわなければなりません。のみならずこの勝負に勝ちさえすれば、私は向こうの全財産を一度に手に入れることが出来るのです。こんな時に使わなければどこで魔術などを教わった、苦労の甲斐があるのでしょう。そう思うと私は矢も楯もたまらなくなって、そっと魔術を使いながら、決闘でもするような勢いで、 「よろしい。まず君から引き給え。」 「九。」 「キング。」 私は勝ち誇った声を挙げながら、真っ青になった相手の眼の前へ、引き当てた札を出して見せました。すると不思議にもそのかるたのキングが、まるで魂がはいったように、冠をかぶった頭をもたげて、ひょいと札の外へ体を出すと、行儀よく剣を持ったまま、にやりと気味の悪い微笑を浮べて、 「御婆サン。御婆サン。御客様ハ御帰リニナルソウダカラ、寝床ノ仕度ハシナクテモ好イヨ。」 と、聞き覚えのある声で言うのです。と思うと、どういう訳か、窓の外に降る雨脚までが、急にまたあの大森の竹藪にしぶくような、寂しいざんざん降りの音を立て始めました。 ふと気がついてあたりを見回すと、私はまだうす暗い石油ランプの光を浴びながら、まるであのかるたのキングのような微笑を浮かべているミスラ君と、向かい合って座っていたのです。 私が指の間にはさんだ葉巻の灰さえ、やはり落ちずにたまっている所を見ても、私が一月ばかり経ったと思ったのは、ほんの二・三分の間に見た、ミスラ君による催眠術が見せた夢だったのに違いありません。けれどもその二・三分の短い間に、私がハッサン・カンの魔術の秘法を習う資格のない人間だということは、私自身にもミスラ君にも、明らかになってしまったのです。私は恥ずかしそうに頭を下げたまま、しばらくは口もきけませんでした。 「私の魔術を使おうと思ったら、まず欲を捨てなければなりません。あなたはそれだけの修業が出来ていないのです。」 ミスラ君は気の毒そうな眼つきをしながら、縁へ赤く花模様を織り出したテーブル掛けの上に肘をついて、静かにこう私をたしなめました。
私が恥ずかしそうに頭を下げたまま、しばらくは口もきけなかったのはなぜですか。
私がハッサン・カンの魔術の秘法を習う資格のない人間だということは、私自身にもミスラ君にも、明らかになってしまったからです。
JCRRAG_014245
国語
大作君は、腹もいたまねば胸も苦しくなかった。この調子ならまだ十キロぐらい走れる、と思った。しかし眼がちらちらして、風景がはっきりうつらなかった。ときどき、道の角の花をつけた夾竹桃や、太陽の直射に背中の毛を繻子のように光らせて道ばたに休んでいる牛の姿が、眼にとびこんでくるだけであった。 公園の入口のみえる長い直線道路に出たとき、大作君たちは急にかけ声をやめてしまった。すぐまえを、紫色のはちまきした一組が足なみそろえて走っていた。大作君たちの組がだまってしまったのは、あの強敵をぬこうという、みんなの決意のあらわれだ、と大作君は思った。 ひっそりして大作君たちは紫のはちまきにせまっていった。敵も大作君たちをみとめるや、声を消してしまった。ひっそりとして二つの組は必死になった。そして大作君たちは、ひっそりとして追いぬいていった。 ついに公園グランドにはいった。周囲に歓呼の声がわあッとあがった。自分たちは優勝だ! 自然に「ヨイショッ」が口をついて出た。 審判の先生がきて、すぐ頭数をかぞえた。そして「おやひとりたらんぞ。」といった。それからまた数えなおしてみた。「ひとりたらん。」そう気の毒そうにいった。 「だれだ、だれだッ。」 と先頭の徳一君が、汗で、川からあがったばかりのようにぬれた顔を殺気立ててどなった。 だがみんなは、決勝点についたという思いでもう気力がぬけ、ぽうとしていた。もう何も考えられなかった。はやく腰をおろしたいばかりであった。 大作君たちは楡の大木のかげにいって休み、やがてだんだん元気がかえってきた。そしてそれまでに、落伍したのは大頭の吉太郎君であることがわかった。稲荷社の前で赤旗をまわるとき三組ばかりいっしょになってもみあったが、あのときのどさくさで、吉太郎君が落ちたことをだれも気づかなかったのだろう。受持ちの鈴木先生は自転車を借りて吉太郎君をむかえにいった。道ばたにへたばっているかも知れないからだ。 大作君たちの隣りの控席に帰ってきたよその学校の組の中で、ひとりのふとった少年があおくなってのびた。ふたりのつきそいの先生は、それ水を持ってこい、それ扇であおれ、と大さわぎをしていた。本部のテントの中から、急をきいて、白い服の看護婦や女の先生が飛んできた。えらいことになった、と大作君たちは思った。そして、吉太郎君がああいうふうになってもどってこないようにと、心の中にみんなは願った。もう、競走の勝敗のことなどすっかりわすれていた。 吉太郎君は帰ってきた。みんなが願っていた通り、元気で帰ってきた。先生のうしろから自転車の荷かけにまたがって、血色のいい顔をにこにこさせながら帰ってきた。すこし元気すぎるほどだ。でもまあよかった。みんなは、ほっとして帰りじたくにかかった。 公園を出て、川の堤を電車の停留場の方へ歩いていった。みんなは疲れでぼんやりしていたので、だれひとりものをいおうとしなかった。 電車を待つために、大作君たちは停留場の外の葉桜の日かげに腰をおろして、向こう側のかりとられた小麦畠の方をぼんやりみていた。先生は事務所の中へはいってゆかれた。
競走後、大作君たちはなぜ無言で電車を待っていたのか。
大作君たちが無言で電車を待っていたのは極度の疲労があったから。
JCRRAG_014246
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が少ないほうを教えてください。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が少ないほうは大きな船で百隻です。
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国語
(あたし、きっと、にいさんたちをたすけてみせるわ。) それから、女の子は歩いていきました。一本の高い木を見つけると、その上にすわって、糸をつむぎはじめました。でも、もちろん、口もきかなければ、わらいもしませんでした。 さて、あるときのこと、ひとりの王様がこの森で狩りをしました。王さまは一ぴきの猟犬をつれていましたが、その犬が女の子ののぼっている木のところへ走ってきて、そのまわりをとびはねては、しきりに木の上にむかってほえたてました。 そこで、王さまが近よってみますと、おどろいたことに、ひたいに金の星をつけた美しいお姫さまが、木の上にすわっているではありませんか。お姫さまのあまりの美しさに、王さまはうっとりとして、じぶんの妃になる気はないかとよびかけました。お姫さまはなんともへんじをしませんでしたが、ほんのちょっとうなずいてみせました。 それを見た王さまは、じぶんでその木にのぼって、お姫さまを木からおろしました。それから、じぶんの馬にのせて、いっしょにお城へつれかえりました。 やがて、ご婚礼の式が、めでたく、りっぱにとりおこなわれました。けれども、花よめはひとことも口をききませんし、わらいもしませんでした。 ふたりは何年かのあいだたのしいくらしをつづけました。ところが、王さまのおかあさまは、もともとたちのよくないひとでしたので、ぼつぼつわかいお妃さまのわる口をいいはじめました。そして、王さまにこうつげ口をしました。 「おまえがつれてきたのは、いやしい身分のむすめですよ。かげでは、こっそりどんなわるいことをしているか、わかったものではありません。口がきけないにしても、いちどぐらいはわらいそうなものです。とにかく、わらわない人は、心のよくない人ですよ。」 王さまは、さいしょのうちは、そんなことを信じようとはしませんでした。けれども、年よりがいつまでもそのことをいいはりますし、それに、いろいろとわるいことをお妃さまのせいにしますので、とうとう、王さまもいいまかされてしまって、お妃さまに死刑をいいわたしました。 こうして、お城の庭で大がかりな火がたかれました。この火のなかで、お妃さまが焼き殺されることになったのです。王さまは二階の窓ぎわに立って、涙ながらにこのありさまをながめていました。だって、王さまはいまでもなお、お妃さまがかわいくてならなかったのですもの。 いよいよ、お妃さまが柱にしばりつけられました。火がはやくも赤い舌したをチョロチョロさせて、お妃さまの着物をなめはじめました。 ちょうどそのとき、七年という年月のさいごの瞬間がすぎさったのです。と、空にバタバタという羽の音がして、十二羽のカラスがとんできて、地面にまいおりました。そして、その足が地面にふれたかと思うと、たちまち、十二人のにいさんたちのすがたになりました。みんなは、妹のおかげですくわれたのです。にいさんたちはすぐさま火をかきちらし、ほのおをもみけして、かわいい妹をたすけだして、キッスをしたり、だきしめたりしました。 さて、いまこそ、お妃さまは口をひらいて、話すことができるのです。そこで、どうしていままでひとことも口をきかず、またいちどもわらわなかったか、そのわけを王さまに話しました。王さまは、お妃さまになんの罪もないことをきいて、それはそれはよろこびました。そして、この人たちは、死ぬまで、みんないっしょになかよくくらしました。 心のよくないまま母のほうは、裁判にかけられて、煮えくりかえった油と、毒ヘビのいっぱいはいっているたるにいれられて、むざんな死にかたをしました。
死ぬまで、みんないっしょになかよくくらしたのは何人か。
死ぬまで、みんないっしょになかよくくらしたのは14人です。
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国語
その大陸は、飛島の国王に属していて、バルニバービといわれています。首府はラガードと呼ばれています。 私は地上におろされて、とにかく満足でした。服装は飛島のと同じだし、彼等の言葉も、私はよくわかっていたので、何の気がかりもなく、町の方へ歩いて行きました。私は飛島の人から紹介状をもらっていましたので、それを持って、ある偉い貴族の家を訪ねて行きました。すると、その貴族は、彼のやしきの一室を、私に貸してくれて、非常に厚くもてなしてくれました。 翌朝、彼は、私を馬車に乗せて、市内見物につれて行ってくれました。街はロンドンの半分くらいですが、家の建て方が、ひどく奇妙で、そして、ほとんど荒れ放題になっているのです。街を通る人は、みな急ぎ足で、妙にもの凄い顔つきで、大概ボロボロの服を着ています。 男が四人、女が二人の六人の集団が道をふさぐように横一列で歩いている時は驚きました。 それから私たちは、城門を出て、三マイルばかり郊外を歩いてみました。そこでは、たくさんの農夫が、いろいろの道具で地面を掘り返していましたが、どうも、何をしているのやら、さっぱり、わからないのです。 農夫たちが鍬を持って土を起こしたりしています。 少し離れた所ではべつの農夫たちが種を撒いています。 見る限り土はよく肥えているのに、穀物など一向に生えそうな様子はありません。
農夫がやっていることの違いを教えてください。
私たちは、城門を出て、三マイルばかり郊外を歩いてみました。そこでは、たくさんの農夫が、いろいろの道具で地面を掘り返していました。農夫たちが鍬を持って土を起こしたりしています。 一方で、少し離れた所ではべつの農夫たちが種を撒いています。
JCRRAG_014249
国語
それ以来、少年たちは急に元気になったようである。どうしてそうなったのか、多分今まで一番しょげていたネッドがばかにきげんがよくなってしまったからであろう。彼は跳躍をやって、あまり身軽にとびあがれるのでうれしくなってしまったらしい。ネッドは、この自動車に積んであった電気蓄音器をかけてみようといい出した。河合もそれにさんせいしたが、電蓄がこわれていないかと心配した。ところが、やってみると器械はちゃんと廻り出して、あの愉快な「證城寺の狸ばやし」が高声器から高らかに流れ出した。 「あっ、これはいいや。皆で、自動車の上で狸踊をおどろうや」 「よし、ぼくもやるぞ」 黙りやの張も、ネッドにつられてうかれ出した。それに山木を加えて三人が、箱自動車のうえであの愉快な狸踊をはじめたのだった。そして自動車はずんずん火星人の群に近づいていった。いきり立っていた火星人の群。棒を高くふりあげながら、じわじわとつめよせて来たその大群。――それがこのとき急に足を停めた。それからふりあげられていた棍棒みたいなものが、だんだんとおろされ始めた。 そればかりではない。やがて火星人たちはからだを左右へふりはじめた。 「證城寺の狸ばやし」のリズムに調子をあわせて……。 「しめた、火星人は音楽が分るんだな」 運転台の上の河合は、とびあがりたいほどのうれしさに包まれた。彼は自動車のスピードをできるだけゆるめた。そして電蓄の増幅器のつまみをひねって、音を一段と大きくした。 自動車は遂に火星人の群の中に突入した。奇妙な顔かたちをした気味のわるい火星人たちは、もはやこっちへ襲いかかる気配は示さず、自動車の通り道をあけた。 河合は、そこで思い切って、自動車を彼らのまん中にぴったりと停めた。 火星人たちは自動車のまわりに大きい円陣を作った。彼らはますますからだを大きく左右へふって、リズムを楽しむ風であった。 そのうちに彼らは、大きな頭をふり、蛸のような手をふりかざして踊りだし、はては、くるくるとまわりだした。どうやら箱自動車の上で一所けんめい踊っている三少年の狸踊をまねているものと見える。 「これはいい。音盤を二三枚廻しているうちに、火星人はぼくたちと仲よしになるにちがいない。おーい、皆、せいを出して踊れよ」 河合は下から自動車の屋根へ、そういって声をかけた。が、これはどうも上へ聞えたらしくなかった。でも三少年は夢中で踊っている。踊っていてくれれば結構だと河合は思った。 とつぜんに音盤が停った。河合は、火星人の踊りに見とれて、音盤が終ったのも知らなかったのだ。すると火星人は踊りをぴたりとやめ、またざわざわとざわめき出し、危険なしるしが見えた。 「これはいけない」 河合はあわてて新しい音盤を掛けた。 それはベートーベンの「月光の曲」であった。この静かな曲が響きはじめると、ざわついていた火星人は、ぴたりと鳴りをしずめた。 「ふむ、やっぱり火星人は音楽好きだな」 と、河合は呟いた。 しかし火星人たちはもう踊らなかった。そして石のようにからだを硬くして、大きな目玉をこっちへじっと向け、それから奇妙な声をあげはじめた。それは名曲に魅せられてすすり泣いているように思われた。 「おーい河合。そんな音盤はやめちまえ。ベートーベンじゃ踊りようがないじゃないか」 箱自動車の上から、山木がどなった。 「もっと踊れるにぎやかな曲をやってくれ。あれ見ろ、火星人が吠えているよ。今にこっちへとびかかってくるぜ」 ネッドが下へ抗議の声を送ってきた。 「ああ、そうだったな、君たちは踊っていたんだ。今、曲をかえるよ」 河合は、また、あわてて音盤をかけかえた。手にあたったのが「越後獅子」であった。これならにぎやかなこと、まちがいなしだ。 和洋合奏のにぎやかな曲がはじまった。 すると、そのききめは、すぐ現れた。墓石のように硬くなっていた火星人群は、たちまち陽気に動きだした。手をふり足をあげ、重そうな頭を動かして、釜の中へ蝗を放りこんだように、ものすごく活発な踊りを始めた。 「おーい、その曲はだめだい」 上から山木がどなった。 「だってにぎやかでいいじゃないか」 「いや、だめだい。にぎやかすぎて、踊の方がついて行けないよ。かわいそうに、ネッドなんかまじめに踊っているもんだから、足がふらふらしているよ」 「困ったねえ。『證城寺』をやるか」 「うん、それよりは軽快なワルツでもやるんだね。そして火星人が少しおちついたところを見計って、外交交渉を始めるんだね。もういい頃合だと思うよ」 「なるほど、それでは何がいいかな。そうだ、『ドナウ河の漣』を掛けよう」 高声器から「ドナウ河の漣」の軽快なリズムが響きはじめると、火星人たちは一せいにしずかになった。そして次第にからだを左右にゆすって、波の寄せるような運動をくりかえすのだった。 山木が下りて来た。そのあとから張とネッドが下りて来た。 「じゃあ三人で行ってみるかね。君はここにいて、音楽をつづけてくれたまえ」 山木は河合にそういった。 「大丈夫かい。まだ早いんじゃないか」 「いや、今が頃合いだ」 自信があるらしく山木はそういって、張とネッドをさしまねくと、大胆にも砂の上をぱたぱたと踏んで、火星人の群へ近づいていった。三人とも、例の大きな円い兜をかぶり、空気服のお尻には太い尻尾をぶらさげて……。 さあどうなるであろうか。 果して火星人の群は、山木たちを素直に迎えてくれるであろうか。それとも一撃のもとに、頭を叩き割られてしまうだろうか。河合は音盤の番をしながら、友の後姿と火星人の様子とを見くらべるのに忙しかった。
ベートーベンの「月光の曲」を流すと火星人はどうなったか。
ベートーベンの「月光の曲」を流すとざわついていた火星人は踊るのをやめ、奇妙な声をあげはじめた。
JCRRAG_014250
国語
すると、ブルは、みんながだまって、相手にしなくなったから、二、三日前から一人でおこってる。おこっても、相手がいないから、けんかができない。そこで、洗濯代をはらわないのだ。すると、洗濯屋のジョージが、さいそくにきた。このジョージも強い。牧場で牛があばれだしたとき、走っていってとりおさえたのは、ジョージの力だ。 「ポールさん、洗濯代をはらってください」と、ジョージがきていうと、 「なに?」ブルが下あごをつき出して、ニヤリとわらった。 さあブルのらんぼうがはじまるぞ! と、みんなが青くなった。ちょうど食堂にいたときだ。中には焼き肉を半分、食いかけたままで、コソコソと逃げだしたものもいる。ぼくは、このとき、すみの方で、ジャガイモを食いかけていた。 「なにって、前の月の洗濯代を、まだ払ってもらってないんです。ぼくが主人にさいそくされて、こまってるんですから、どうかおはらいください、ポールさん」と、ジョージがブルに、ていねいにいってる。 「ハッハッハッ」と、ブルが、わらったかと思うと、いきなりどなりだした。 「ヤイ、ジョージ! きさまはおれに、恥をかかせたな、みんなの前で、さいそくなんかしやがって、こい! もうすこし前へこい!」 「いや、恥をかかせるなんて、そんなことが、あるもんですか。みんなの前でとおっしゃっても、ここの倶楽部の方ばかりで、みなさんは仲のいい兄弟のような方じゃありませんか」と、ジョージが、やさしくいうと、 「だまれッ! なにが兄弟だ。きさままでおれに反対するかッ」 と、いきなりブルが立ち上がった、と思うと、ジョージにとびかかっていった。ジョージもおこった。ものもいわずにブルへ打ってかかる。打たれてブルはすごく顔色をかえた。と思った瞬間組みついた。大げんか、大格闘になった。みんながバラバラと逃げだした。ケンカを止めたりしたら、あとで、「ヤイ、なぜとめた。おれの勝つけんかを、なぜとめた」と、ブルがくってかかる。しかし、だまって見てたら、 「きさま、なんで見てた。なぜ加勢しなかったんだ」と、やはりおこってくる。もしも加勢したら、「オイ、おれが弱いと思ったのか。さあこい、きさまが相手だ」と、どうしてもつっかかってくる。それを知ってるから、みんなが逃げだしてしまって、ぼくばかりのこった。ジャガイモを食いながら、目の前の大格闘を見てると、 「エイッ!」すごい気合いとともに、ブルが、ジョージのからだを、つり上げた、と思うと、 「ウッ!」ジョージが、ブルに、しがみついた。 「な、なにをッ!」 と、すごい力をからだ中にこめたブル、いきなり、ジョージを肩かたの上までグッとさしあげると、そのまま下へ力いっぱい投げつけた。 「ウーン」と、いったきり、さすがのジョージも、床の上にひらたくなったまま、肩で息をしてる。起きられないのだ。 ブルは、息もつかずに、ぼくの方を、ジロリと見て、 「どうだ? おれに歯向かうやつは、ヘッ、こんなものだぞ!」 と、いうと、廊下の方へ、ノソリノソリと出ていった。どうしたのか、ぼくにくってかからない。ハハア、ブルのやつ、ぼくが日本人だから、すこしはこわがってるんかな? と、そう思いながら、ぼくはジョージの倒れてるところへいって、だきおこしてやった。
なぜみんなが青くなりましたか。
ブルのらんぼうがはじまるからです。
JCRRAG_014251
国語
小麦のかりとられたあとに一輪の矢車草の花がさいていて、なんということなく、みんなの眼をひいた。 「あんなとこに、矢車草があるげや。」 そう兵太郎君がいった。 「うん。」 と大作君が答えた。 するとみんなのうしろにすわって、すこしきまりわるそうにしていた大頭の吉太郎君が、 「とってこうか。」 といって、小走りに走っていき、二メートルほどの赭土の傾斜をいせいよくかけのぼった。 みんなは顔を見合わせた。吉太郎君がすこし元気すぎるのだ。あんなに元気なら、なぜ最後までがんばらなかったのか。みんなの心にはいまになって、優勝をとりにがしたいまいましさがよみがえってきた。 吉太郎君は矢車草をとって、みんなのそばにもどってきた。 「やろか。」 といって隣りの周造君の方にさし出した。 みんなにはそのときはっきりと、吉太郎君がみんなのご機嫌をとろうとしていることがわかった。良心にやましい点があるのだ。つまり、まだ走れるところを綱をはなしてしまったのだ。 「周造、そんなものをうけとるな。」 そう徳一君が親分みたいにげんとして命令した。おとなしい周造君はちょっとまごついたが、ついにがき大将の徳一君の命にしたがった。吉太郎君はべそをかいていた。 いまはみんなは、吉太郎君がひごろいやらしい奴であったことを憶い出した。親しげに人の耳のそばに口をよせてきて、つまらぬつげ口をしたかと思うと、もうつぎの日には、ほかの者の耳に口をよせて、ちらちら横眼でこちらをみながら、何かこちらのことをつげ口しているというふうの奴であった。また、つきとばされたりすると、面と向かってくるのではなくて、げらげらと下品に笑いながら、よいどれのまねなどしながら、べたべたとはりついてきて、たわむれのようにみせかけながら、相手の服に鼻汁をなすりつけたりして復讐するというふうの卑劣な奴であった。 しかしいまさらおこったって、どうにもならない。みんなはあきらめてまたぼんやり小麦畠の方をみていた。 向こうの道角を、自転車のうしろに氷のかたまりをのせた人がまがって、坂道にかかった。そのとき氷がすべり落ちた。すぐそれをひろって、その人は坂をのぼっていってしまった。そのあとにちょっとした破片が一つ光って落ちていた。 徳一君がそれをひろって、水道であらってきた。 「ええかァ」と徳一君はいった。「いまからこいつをまわすから、順番につぎのもんにわたせよ。」 徳一君の手から兼男君の手にわたった。それからつぎの者へ。こうして一片の氷は少年たちの手をわたっていった。みんなは声を立ててその冷たさを喜んだ。中には頭の上にしばらくのせているものもあった。兵太郎君は、石鹸のように両掌の中でもんだので、急に小さくなってしまったようにみんなは思った。 大作君はうけとった。大作君のつぎには、べそをかいて草の葉をむしっている大頭の吉太郎君がのこっているばかりだった。大作君はこの氷の破片をどうしようかとまよった。みんなはあきらかに吉太郎君をにくんでいた。吉太郎君なんかにわたすな、と眼でしらせていた。 大作君はためらっていた。手の中の小さい氷の破片が妙に重く感じられた。大勢の注意がそれに集まっているからだ。 大作君もみんなのように、吉太郎君のふがいなさに腹を立てていた。すこしお腹のかげんのわるい兵太郎君でさえ、最後までがんばり通したのに、どこもわるくない吉太郎君がすこしぐらい苦しいからといって、途中ですっこけてしまって、その上あろうことかあるまいことか、先生の自転車にのっけてもらって、にやにや笑いながらもどってくるなんて、じつに失敬じゃないか、と思った。 しかし大作君のその心の、も一つ奥にある何ものかが、大作君をおすのであった。大作君は、そっと、氷をうつむいている吉太郎君の手ににぎらせたのである。
大作君はなぜ、氷の破片を吉太郎君に渡すのをためらったのか。
大作君が氷の破片を吉太郎君に渡すのをためらったのは、周囲が吉太郎君を嫌っており、それに逆らうことになるから。
JCRRAG_014252
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が少ないほうを教えてください。
大きな川に浮かんでいる船のうち、数が少ないほうは大きな船で百隻です。
JCRRAG_014253
国語
中国の上海にある町です。昼でも薄暗い家の二階で、人相の悪いインド人の婆さんが一人、商人らしい一人のアメリカ人と何かしきりに話し合っていました。 「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね」 アメリカ人はそう言いながら、新しい巻煙草へ火をつけました。 「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」 婆さんは嘲笑うかのように、じろりと相手の顔を見ました。 「この頃は折角見て上げても、御礼さえろくにしない人が、多くなって来ましたからね」 「そりゃもちろん御礼をするよ」 アメリカ人は惜しげもなく、三百ドルの小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。 「差し当たりこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから」 婆さんは三百ドルの小切手を見ると、急に愛想がよくなりました。 「こんなに沢山頂いては、かえって御気の毒ですね。そうして一体又あなたは、何を占ってくれとおっしゃるんです?」 「わたしが見てもらいたいのは」 アメリカ人は煙草をくわえるなり、狡猾そうな微笑を浮かべました。 「一体日米戦争はいつ始まるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人はたちまち、大金儲けが出来るからね」 「じゃ明日いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」 「そうか。じゃ間違いのないように」 インド人の婆さんは、得意そうに胸を反らせました。 「私の占いは五十年来、一度も外れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」 アメリカ人が帰ってしまうと、婆さんは次の間の戸口へ行って、 「恵蓮。恵蓮」と呼びました。 その声に応じて出て来たのは、美しい中国の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子のしもぶくれの頬は、まるで蝋のような色をしていました。 「何をぐずぐずしているんだい? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと又台所でいねむりか何かしていたんだろう?」 恵蓮はいくらしかられても、じっとうつむいたまま黙っていました。 「よくお聞き。今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」 女の子はまっ黒な婆さんの顔を見て、悲しそうな眼を挙げました。 「今夜ですか?」 「今夜の十二時。いいかい? 忘れちゃいけないよ」 インド人の婆さんは、おどかすように指を挙げました。 「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。お前なんぞは殺そうと思えば、ひよっこのくびを絞めるより」 こう言いかけた婆さんは、急に顔をしかめました。ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際に行って、丁度開いていた硝子窓から、寂しい往来を眺めているのです。 「何を見ているんだい?」 恵蓮はいよいよ色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。 「よし、よし、そう私をばかにするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」 婆さんは眼を怒らせながら、そこにあった箒をふり上げました。 丁度その途端です。誰かが外へ来たと見えて、戸をたたく音が、突然荒々しく聞こえ始めました。
薄暗い家の二階で話し合っていたのは何人か。
薄暗い家の二階で話し合っていたのは2人です。
JCRRAG_014254
国語
こんなふうに、田舎も街も、どうも実に奇妙なので、私は驚いてしまいました。 「これは一たいどうしたわけなのでしょう。町にも畑にも、あんなにたくさんの人々が、とても忙しそうに動きまわっているのに、ちょっとも、よくないようですね。私はまだ、こんなでたらめに耕された畑や、こんなむちゃくちゃに荒れ放題の家や、みじめな人間の姿を見たことがないのです。」 と私は案内役の貴族に尋ねてみました。 すると彼は次のような話をしてくれました。 今からおよそ四十年前に、八人の人間がラピュタへ上がって行ったのです。彼等は五ヵ月ほどして帰って来ましたが、飛島でおぼえていたのは、数学のはしくれでした。しかし、彼らは、あの空の国のやり方に、とてもひどく、かぶれてしまったのです。帰ると、さっそく、この地上のやり方をいやがりはじめ、芸術も学問も機械も、何もかも、みんな、新しくやりなおそうということにしました。 それで、彼等は国王に願って、このラガードに学士院を作りました。ところが、これがついに全国の流行となって、今では、どこの町に行っても学士院があるのです。 百の町があれば百以上の学士院があり、一つの町に二つの学士院がある町の、隣の町では三つの学士院があったりするのです。 この学士院では、先生たちが、農業や建築の新しいやり方とか、商工業に使う新式の道具を、考え出そうとしています。先生たちはよくこう言います。 「もし、この道具を使えば、今まで十人でした仕事が、たった一人で出来るし、宮殿はたった一週間で建つ。それに一度建てたら、もう修繕する必要がない。 そして、この道具を使えば、果物は、いつでも好きなときに熟れさせることができ、今までの百倍ぐらいたくさん取れるようになる。」 と、そのほかいろいろ結構なことばかり言うのです。 残念なのは、これらの計画が、まだどれも、ほんとに出来上ってはいないことです。だから、それが出来るまでは、国中が荒れ放題になり、家は破れ、人民は不自由をつづけます。だがそれでも彼等は元気は失わず、希望にもえ、半分やけくそになりながら、五十倍の勇気を振り絞って、この計画をなしとげようとするのです。 彼はこんなことを私に説明してくれたのです。そして、 「ぜひ、ひとつあなたにも、その学士院を御案内しましょう。」 と、つけ加えました。 それから数日して、私は彼の友人に案内されて、学士院を見物に行きました。 この学士院は、全体が一つの建物になっているのではなく、往来の両側に建物がずっと並んでいました。 私が訪ねて行くと、院長は大変喜んでくれました。私は何日も何日も、学士院へ出かけて行きました。どの部屋にも、発明家が二人いました。部屋によっては三人、多いところでは四人いました。 私はおよそ五百ぐらいの部屋を見て歩きました。 発明家がいる部屋は学士院の一本の廊下の両側にずらっと並んであり、右側に二百、左側に三百あったでしょうか。 最初に会った男は、手も顔も煤だらけで、髪はぼうぼうと伸び、それに、ところどころ焼け焦げがありました。そして、服もシャツも、皮膚と同じ色なのです。
学士院にいる先生たちが話す、新しい道具ができることの違いを教えてください。
学士院では、先生たちは「もし、この道具を使えば、今まで十人でした仕事が、たった一人で出来るし、宮殿はたった一週間で建つ。それに一度建てたら、もう修繕する必要がない。」とこういうのです。 もう一方で「そして、この道具を使えば、果物は、いつでも好きなときに熟れさせることができ、今までの百倍ぐらいたくさん取れるようになる。」 と、いろいろと結構なことばかり言うのです。
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国語
三人の少年大使は、やがて進めるだけ進んで、火星人の群の前に立ち停まった。 あとで山木の語った感想によると、彼はあまり異様な火星人をたくさん目の前に見たので、頭が変になり、気を失いかけたそうである。 張の感想によると、彼は火星人の身体つきを見て、これはスープで丸煮にして喰べたら、さぞうまいだろうと思ったそうである。 ネッドはどんなことを考えたか。何とかして火星人をひとり土産にして地球へ連れてかえり、見世物にしたら、さぞお金が儲かることだろうと思ったそうだ。 それはさておき、山木はここで火星人に対し一つ敬礼をして親愛の情を示したいものだが、さてどんなかたちをして見せれば、火星人たちはそれを敬礼だと受取ってくれるだろうかと思いなやんだ。 が、いつまでも思いなやんではいられなかった。そこで彼は、思い切って両手を胸の上に組合わせ、上体を前にまげ、そしてアメリカ語でいった。 「火星の諸君、こんにちわ。ごきげん如何ですか。ぼくたちは地球からはるばる来ました」 山木がしゃべっている間、張もネッドも、山木と同じようなかたちをして、あいさつをした。 すると、とつぜん火星人の中から奇妙な声があがった。 「ようこそ来てくれましたね。地球の諸君。お目にかかって、たいへんにうれしいです」 たいへん流暢なアメリカ語であった。 「おお、ありがとう、ありがとう」 山木はびっくりとうれしさとで、両手を前へのばして感謝の意をあらわした。だが半信半疑であった。どうして火星人は地球のことばを知り、そしてそれを話すことができるのであろうかと。 そのとき、火星人の群が、三少年の前で左右に割れた。と、奥からも七人の火星人が、こっちへ進んで来た。見るとその火星人たちは大きな頭の下、つまり首に相当するところに太いマフラーのようなものを巻いていた。一番先頭の者は、白いマフラーを巻き、その他は緑、黄、紫などのものを巻いていた。どうやらこの白いマフラーの火星人が、えらい人物のように見受けられた。 「おもしろい音楽、おもしろい踊り。それをわれわれの目の前で聞かせたり見せたりして下すって、たいへん愉快でした。みんなよろこんでいますよ」 と、白いマフラーの火星人はいいながら、山木たちの前まで来て立ち停り、鞭のような手の一本を前にさしだした。 それは握手をもとめているらしく思われたので山木はちょっと気味がわるかったが、思い切って自分の手をさしのばすと、ぐっと相手の手をつかんでふった。その手ざわりは、かなり冷めたかったが、それでも体温のあることが分った。 「地球のことばを話して下さるので、たいへんよく分ります。そしてうれしいです。ぼくは山木という者です。どうぞよろしく」 「やあ、よくそういって下すって、私もうれしいです。私はギネといって、このミカサ集団の代表者をつとめている者、どうぞよろしく」 白いマフラーを首に巻いた火星人ギネは、そういって、ていねいにあいさつをした。 山木はいよいようれしくなって、張とネッドを紹介すれば、ギネも、そのうしろにひかえた六人の職能代表者を紹介した。 一同の間には、親しい気分が流れた。 「ああ、ギネさんとおっしゃいましたね」 山木が呼んだ。 「はい、私はギネです」 白いマフラーのミカサ代表者はこたえた。 「ええ、その……つまり、さきほどはたいへん失礼しました。気持のわるい瓦斯をふきだして皆さんを苦しめ、ぼくたちも火星へついたばかりであわてていましたし、そこへ見なれない皆さんがたが押しよせてこられたので、これはたいへんだとちょっと誤解したのです」 「いや、あんなことは大したことではありませんよ。こっちも、じつは誤解をしてさわぎだした者があったのです。とにかく、あっちへ来ていただいて、ゆっくりお話をうけたまわりましょう。また、おもしろい音楽などをたくさん聞かせて下さい」 「はいはい、承知しました」 「が、その前にちょっと伺っておきますが、あなたがたは、いったい何の目的で、私どものところへ来られたのですか」 ギネは、とつぜん重大な質問を発した。 山木はぎくんとした。しかしここでうろたえては一大事と、気をしずめて、 「ああ、そのことですか。われわれ地球の者は、じつは何千年も前から、この火星の存在を知っていたのです。しかも火星にはたしかに生物――つまりあなたがたのような方がすんでいるにちがいないと考えまして、早くおちかづきになりたいと思っていたのです。しかし宇宙をとんで来るのはなかなか容易なことではなく、ようやくデニー博士の宇宙艇が完成したので、こんどやって来たようなわけであります」 「ふん。私たちを見たいためだったのですか。それだけですか。外に目的はないのですか」 ギネのことばは、さっきとはすこし変り、なんだか疑いをふくんでいるように思われた。 「くわしいことは、いずれ後からデニー博士がおはなしすると思います。とにかく火星を訪れたという目的は、地球に一番近い火星人と手をとりあい、火星にないものは地球から送り、またお互いに一層幸福になりたいという考えで、われわれはこっちへ来たのです」 「なるほど。共存共栄ですね。それは結構です。われわれは皆、互いに力になり合わなければなりません。――しかし、あなたがたの来られた目的は、たしかにそれだけでしょうかねえ」 ギネは、大きな目をぐるぐるっと動かして、しつこく尋ねた。ギネのうしろにいた他の六名の代表者も、身構えらしい恰好になって、山木が何と答えるかと、注意をするどく集めている様子だ。 山木は、遂にちょっと気をのまれて、すぐには答えられなくなった。 「いや山木さん。じつは私どもは、地球の人たちについて警戒せよとの一つの忠告を受取っているのです。お答えによってはわれわれは重大なる決心をしなければなりません」 そのことばと共に、七人の火星人の代表者は三少年のまわりをぐるっと取巻いた。 はじめの調子の良さにくらべて、途中から険悪さを加えてのこの窮迫である。少年大使の運命はどうなることか。
白いマフラーを巻いた火星人は何者か。
白いマフラーを巻いた火星人はギネという名前で、ミカサ集団の代表者を務めている。
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国語
ブルは、牛より強いジョージに勝ってから、いよいよらんぼうになった。洗濯代ばかりでなく、倶楽部の代金まで、まるではらわなくなった。この倶楽部というのは、学生の寄宿舎なのだ。名前を「ラサハ倶楽部」という。「ラサハ」というのは、ギリシャのことばで、「友だちの愛」という意味だ。ところが、ブル一人のらんぼうで、みんながビクビクしてる。「友だちの愛」が、ブルのために、やぶれてるのだ。このみんなは、カリフォルニア大学の学生で、その大学は、米国の大都会サンフランシスコにある。ぼくは、和歌山中学を卒業してから、このカリフォルニア大学へはいって、そして、ラサハ倶楽部に、寄宿していたのだ。日本人はぼくばかり、ほかはみんな、米国人だ。ブルを合わせて四十八人、そのほかに、フランクという倶楽部長がいた。このフランクが、ぼくの部屋へきた。ほんとうにこまってる顔をしながら、 「内村君、ブルのやつが、下宿代をはらわないんだ。しかし、追い出すといったりしたら、それこそたいへんだしね。どうしたものだろう?」と、相談しだした。 「さあ、ボクシングのトップ選手だというんだから、いばらしておくさ」と、ぼくは、ブルなんかなんとも思ってない。すると、 「ただいばるだけならいいが、ブルがいるので、倶楽部を出ていくものもあるしね、なんとかならないものだろうか?」と、倶楽部長フランクが小声でいう。 「なんとかならないものかって、どうするんだ?」と、きいてみると、 「きみはこの前、ブルが洗濯屋のジョージを、たたきつけたときに、一人ひとりでジャガイモを食ってたそうだね、ほんとうかい?」と、また、たずねる。 「ウン、食ってたよ、うまかった」 「フウム、すると、ほんとうだね。それがみんなの評判になってるんだが、きみは、いったい、ブルがこわかないのかい」 「べつにこわかないね」 「ホウ、すると、どうだろう? きみとブルと試合したら、どっちが勝つと思う? 内村君」 「それは、やってみないとわからないさ。しかし、まず負けることはあるまいね」 「エッ、きみ、すると、勝てるつもりかい、ほんとうに?」 「そうさ、日本人は勝つといったら勝つよ」 「フウム、やはり、ボクシングでやるかい? 試合となったら」 「なあに、ボクシングなんか、いらないだろう。ブルが相手なら。そうだね、まず、小指一本さ」 「エエッ? 小、小指、一本? きみ、それ、ほんとうかい? 小指一本?」 と、うっかり「小指一本」とぼくがいったのを、倶楽部長のフランクは、びっくりしてしまって、自分の小指を出して見せながら、 「こ、これで、きみ、ブルに勝つというのかい?」と、目をみはって、真剣にたずねる。 さあぼくは弱った。フランクの真剣な顔を見ると、「いまいったのはちがうよ、うそだよ、冗談だよ」ともいえなくなってしまった。しかたがないから思いきって、 「ウン、まず小指一本、……で、いいだろう」と、いうと、 「ありがたいッ! 実にありがたい!」と、フランクが、いきなり立ち上がった。と思うと、 「きみはラサハ倶楽部の救い主だ!」と、大声でさけびだしながら、部屋を出ていってしまった。
フランクは内村の部屋に来てどうしましたか。
ほんとうにこまってる顔をしながら、「内村君、ブルのやつが、下宿代をはらわないんだ。しかし、追い出すといったりしたら、それこそたいへんだしね。どうしたものだろう?」と、相談しだした。
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国語
小麦のかりとられたあとに一輪の矢車草の花がさいていて、なんということなく、みんなの眼をひいた。 「あんなとこに、矢車草があるげや。」 そう兵太郎君がいった。 「うん。」 と大作君が答えた。 するとみんなのうしろにすわって、すこしきまりわるそうにしていた大頭の吉太郎君が、 「とってこうか。」 といって、小走りに走っていき、二メートルほどの赭土の傾斜をいせいよくかけのぼった。 みんなは顔を見合わせた。吉太郎君がすこし元気すぎるのだ。あんなに元気なら、なぜ最後までがんばらなかったのか。みんなの心にはいまになって、優勝をとりにがしたいまいましさがよみがえってきた。 吉太郎君は矢車草をとって、みんなのそばにもどってきた。 「やろか。」 といって隣りの周造君の方にさし出した。 みんなにはそのときはっきりと、吉太郎君がみんなのご機嫌をとろうとしていることがわかった。良心にやましい点があるのだ。つまり、まだ走れるところを綱をはなしてしまったのだ。 「周造、そんなものをうけとるな。」 そう徳一君が親分みたいにげんとして命令した。おとなしい周造君はちょっとまごついたが、ついにがき大将の徳一君の命にしたがった。吉太郎君はべそをかいていた。 いまはみんなは、吉太郎君がひごろいやらしい奴であったことを憶い出した。親しげに人の耳のそばに口をよせてきて、つまらぬつげ口をしたかと思うと、もうつぎの日には、ほかの者の耳に口をよせて、ちらちら横眼でこちらをみながら、何かこちらのことをつげ口しているというふうの奴であった。また、つきとばされたりすると、面と向かってくるのではなくて、げらげらと下品に笑いながら、よいどれのまねなどしながら、べたべたとはりついてきて、たわむれのようにみせかけながら、相手の服に鼻汁をなすりつけたりして復讐するというふうの卑劣な奴であった。 しかしいまさらおこったって、どうにもならない。みんなはあきらめてまたぼんやり小麦畠の方をみていた。 向こうの道角を、自転車のうしろに氷のかたまりをのせた人がまがって、坂道にかかった。そのとき氷がすべり落ちた。すぐそれをひろって、その人は坂をのぼっていってしまった。そのあとにちょっとした破片が一つ光って落ちていた。 徳一君がそれをひろって、水道であらってきた。 「ええかァ」と徳一君はいった。「いまからこいつをまわすから、順番につぎのもんにわたせよ。」 徳一君の手から兼男君の手にわたった。それからつぎの者へ。こうして一片の氷は少年たちの手をわたっていった。みんなは声を立ててその冷たさを喜んだ。中には頭の上にしばらくのせているものもあった。兵太郎君は、石鹸のように両掌の中でもんだので、急に小さくなってしまったようにみんなは思った。 大作君はうけとった。大作君のつぎには、べそをかいて草の葉をむしっている大頭の吉太郎君がのこっているばかりだった。大作君はこの氷の破片をどうしようかとまよった。みんなはあきらかに吉太郎君をにくんでいた。吉太郎君なんかにわたすな、と眼でしらせていた。 大作君はためらっていた。手の中の小さい氷の破片が妙に重く感じられた。大勢の注意がそれに集まっているからだ。 大作君もみんなのように、吉太郎君のふがいなさに腹を立てていた。すこしお腹のかげんのわるい兵太郎君でさえ、最後までがんばり通したのに、どこもわるくない吉太郎君がすこしぐらい苦しいからといって、途中ですっこけてしまって、その上あろうことかあるまいことか、先生の自転車にのっけてもらって、にやにや笑いながらもどってくるなんて、じつに失敬じゃないか、と思った。 しかし大作君のその心の、も一つ奥にある何ものかが、大作君をおすのであった。大作君は、そっと、氷をうつむいている吉太郎君の手ににぎらせたのである。
吉太郎君に対する仲間の態度には、どのような背景があったのか。
吉太郎君に対する仲間の態度には、普段から卑怯な行動をとっていたため、信頼を失っていた背景があった。
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国語
私はこの国で、別にいじめられたわけではないのです。だが、どうも、なんだか、みんなから馬鹿にされているような気がしました。この国では、王も人民も、数学と音楽のことのほかは、何一つ知ろうとしないのです。だから私なんか、どうも馬鹿にされるのでした。 ところが、私の方でも、この島の珍しいものを見物してしまうと、もう、そこの人間たちには、あきあきしてしまいました。彼らはいつも、何か我を忘れて、ぼんやり考え事に耽っているのです。付き合う相手として、これほど不愉快な人間はいません。 五人と話すと三人はぼんやりしているのです。 で、私はいつも女や、商人や、叩き役、侍童などとばかり話をしました。 ものを言って、筋の通った返答をしてくれるのは、こういう連中だけでした。 四人の女、三人の商人、五人の叩き役、六人の侍童とは非常に楽しく話をできたことをおぼえています。 私は勉強したので、彼らの言葉はだいぶん話せるようになっていました。で、私はこうして、ほとんど相手にもしてもらえないような国で、じっとしているのが、たまらなくなったのです。一日も早く、この国を去ってしまいたいと思いました。 私は陛下にお願いして、この国から出られるようにしてもらい、二月十六日に、王と宮廷に別れを告げました。ちょうどそのとき、島は首府から二マイルばかり郊外の山の上を飛んでいましたので、私は一番下の通路から、鎖を吊り下げてもらって地上におりました。
私が楽しく話ができた人間のうち、もっとも人数が多いものを教えてください。
私が楽しく話ができた人間のうち、もっとも人数が多いのは侍童で六人です。
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国語
中国の上海にある町です。昼でも薄暗い家の二階で、人相の悪いインド人の婆さんが一人、商人らしい一人のアメリカ人と何かしきりに話し合っていました。 「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね」 アメリカ人はそう言いながら、新しい巻煙草へ火をつけました。 「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」 婆さんは嘲笑うかのように、じろりと相手の顔を見ました。 「この頃は折角見て上げても、御礼さえろくにしない人が、多くなって来ましたからね」 「そりゃもちろん御礼をするよ」 アメリカ人は惜しげもなく、三百ドルの小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。 「差し当たりこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから」 婆さんは三百ドルの小切手を見ると、急に愛想がよくなりました。 「こんなに沢山頂いては、かえって御気の毒ですね。そうして一体又あなたは、何を占ってくれとおっしゃるんです?」 「わたしが見てもらいたいのは」 アメリカ人は煙草をくわえるなり、狡猾そうな微笑を浮かべました。 「一体日米戦争はいつ始まるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人はたちまち、大金儲けが出来るからね」 「じゃ明日いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」 「そうか。じゃ間違いのないように」 インド人の婆さんは、得意そうに胸を反らせました。 「私の占いは五十年来、一度も外れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」 アメリカ人が帰ってしまうと、婆さんは次の間の戸口へ行って、 「恵蓮。恵蓮」と呼びました。 その声に応じて出て来たのは、美しい中国の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子のしもぶくれの頬は、まるで蝋のような色をしていました。 「何をぐずぐずしているんだい? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと又台所でいねむりか何かしていたんだろう?」 恵蓮はいくらしかられても、じっとうつむいたまま黙っていました。 「よくお聞き。今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」 女の子はまっ黒な婆さんの顔を見て、悲しそうな眼を挙げました。 「今夜ですか?」 「今夜の十二時。いいかい? 忘れちゃいけないよ」 インド人の婆さんは、おどかすように指を挙げました。 「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。お前なんぞは殺そうと思えば、ひよっこのくびを絞めるより」 こう言いかけた婆さんは、急に顔をしかめました。ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際に行って、丁度開いていた硝子窓から、寂しい往来を眺めているのです。 「何を見ているんだい?」 恵蓮はいよいよ色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。 「よし、よし、そう私をばかにするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」 婆さんは眼を怒らせながら、そこにあった箒をふり上げました。 丁度その途端です。誰かが外へ来たと見えて、戸をたたく音が、突然荒々しく聞こえ始めました。
薄暗い家の二階で話している人間の国籍の数を教えてください。
薄暗い家の二階で話している人間の国籍の数は2で、 「インド」 「アメリカ」 です。
JCRRAG_014260
国語
この発明家は、胡瓜から日光を引き出す計画を、やっているのだそうです。なんでも、もう八年間このことばかり考えているのだそうです。それは、つまり、この胡瓜から引き出した日光を缶詰にしておいて、夏のじめじめする日に、空気を温めるために使おうというのです。 「もうあと八年もすれば、これはきっと、うまくできるでしょう。」 と彼は私に言いました。 「しかし困るのは、胡瓜の値段が今非常に高いことです。どうか、ひとつこの発明を助けるために、いくらか寄附していただけないでしょうか。」 と彼は手を差し出しました。私は金貨を二枚と銀貨を三枚渡しました。 別の部屋に入ると、悪臭がむんと鼻につきました。びっくりして私は跳び出したのですが、案内者が引きとめて、小声でこう言いました。 「どうか先方の気を損ねるようなことをしないでください。ひどく腹を立てますから。」 それで、私は鼻をつまむわけにもゆかず困ってしまいました。この部屋の発明家は、顔も鬚も黄色になり、手や着物は汚れた色がついています。彼の研究というのは、人間の排泄したものを、もう一度もとの食物になおすことでした。 五キロの排泄物があればそこから三キロの食べ物と二キロの飲み物ができるとも言っていました。
発明家がやろうとしてることの違いを教えてください。
発明家は、胡瓜から日光を引き出す計画を、やっています。 もう一方の発明家が行っている研究は、人間の排泄したものを、もう一度もとの食物になおすことです。
JCRRAG_014261
国語
少年たちの形勢は悪くなった。 山木は言葉もなく、ブブンに言い負かされた形だ。ブブンの大きな眼玉がぐるぐると動き、彼の頭に生えている触角が蛇のようにくねくねと気味わるくゆらぐ。 ネッドは心配のため、呼吸が停まりそうになって、張にすがりついた。 「おい張、ぼくたちは一体どうなるだろうね」 地蔵さまのように立っていた張は、ネッドの手をやさしくなでてやった。そしていった。 「大丈夫だ。心配するなよ。今にうまく解決する」 「ほんとうかい。でも、相手のけんまくは相当強いぜ。逃げてかえろうか」 「まあ待て、動いてはよくない。ぼくのように落付いているんだ」 「だめだよ。ぼくは落付けやしないよ」 「ネッド」 「なんだ、張」 「お前は忘れたか、牛頭仙人のことを」 「ああ牛頭仙人……それはお前のことだ」 「そうだろう。お前はいつも大仙人のことを信じていた。その大仙人は、さっきからひそかにあの霊現あらたかなる水晶をなでてて、占っていたんだ。ほら、水晶はこのとおりぼくの腰にぶら下っている袋の中にあるんだ。占ってみると、たしかに今の急場は大丈夫しのげるとお告げが出たぞ。安心しろ」 「え、お告げが出たか。そうか。そんなら安心した」 ネッドは急に元気になっていった。 「それにしても、このむずかしい場面が、どうしてうまく解決するのだろうか」 ブブンはなおも声高にどなっていた。そのときとつぜん、音楽が始まった。牛乳配達の自動車の運転台にひとりで待っている河合が、電気蓄音器を鳴らし始めたのだ。その曲はトロイメライ。聞いていると眠くなるような夢の曲がチェロによって奏でられる。ブブンの声がぴったりと停まる。彼の勝ち誇っていきり立った触角がだらりと下がり、そしてやがてそれは曲の旋律にあわせて、すこしずつくねり出した。 ふしぎにも、音楽には弱い火星人だった。 さっきから黙っていた火星人代表のギネがブブンの肩を叩いて何かいった。するとブブンはとびあがった。何かおどろいたらしい。彼は山木たちの方へ出て来て、 「へえっ。君たちは地球人の少年かね。おれは君たちが成人した地球人だと思っていたが……」 「そうです、ぼくたち四人は少年です」 「四人? 三人しか見えないが……」 「もう一人は、あの自動車の中にいます」 「あのうつくしい音を出しているのが、そうか」 「そうです」 「ふうん。これは意外だ。おれは君たちが成人の地球人だとばかり思って話をしていたが、まだ年端もいかない少年だとは思わなかった。少年でもあれくらいの考えを持っているのだから、成人した地球人は相当えらいのだろうね」 「えらいですとも。大人は皆、宇宙艇に残っていますよ。ぜひおだやかに会って下さい」 「よし、そうしよう。ああギネが、君たちが少年であることをもっと早く教えてくれたら、おれはあんなにがみがみいうんじゃなかった。なにしろギネは地球へ行ったことがあるんで、火星人の中では一番ものしりなんだ」 「えっ、ギネさんは地球へ来られたことがあるんですか」 「二三度行ったよ。そうだね、ギネ」 「そうです。三度行きました。そして地球人のことを研究してきました。だが私の行ったことは、地球人は気がつかなかったようです」 「へえっ、それはおどろいた。どうして行ったのですか。何に乗って」 「ははは、それはいいますまい。アメリカ語を話せるようになったのも、私がそれをしらべてきたからです。しかし私の地球研究はまだその途中でした。だから火星の方で地球人を迎える用意もできていなかったのです。それで私がいくらなだめても皆はいうことをきかず、地球人の入っている宇宙艇の方へ押しかけたわけです。私は地球人の長所や文化を皆に知らせた上で、地球と正式に友交関係を結ぶつもりでした。しかし君がたがあまり早く火星へ来てしまったので、私の計画もすっかり手違いになったのです」 ギネは、さすがに物わかりのいいおだやかな火星人で、代表者としてはもって来いの人物だった。山木も張もネッドも、ほっと一息ついた。 トロイメライの音楽が、軽快なワルツにかわった。 「さあ踊ろうや。ぼくたちの仕事だ」 ネッドは張を引張りだして踊りはじめた。すると、さっきからすっかり温和しくなったブブンもそれを真似して踊りだした。そのうしろにいたたくさんの火星人群も、また共にワルツの曲に合わせて舞いはじめた。 河合が、こっちの険悪な場面を心配して、思い切ってまた音楽を始めたことがたいへんよかったのである。 山木とギネの間には、打合わせがどんどん進んで、デニー博士をギネたちがおだやかに訪問してくる申合わせもついた。 音楽にあわせて火星人の舞踊はだんだんにぎやかになって行き、音声を発して踊り回る姿はまことに天真らんまんであった。 四少年と火星人の交歓は、ますますうまく行って、牛乳配達車のまわりには火星人がいっぱい集って来た。そしてその横腹に書かれた牝牛の絵を指して、ものめずらしげに打ち興じるのであった。牛は火星にはすんでいないのだ。いや牛ばかりではない。馬も羊も鹿も見たことがないのだった。 火星での大きな動物といえば、蛙にちょっと似た動物が居るきりだった。もっともその奇獣(?)は猫ほどの大きさがあったが……。 四少年が、火星人をこの牛乳配達車に乗せてやると、火星人たちはますます上機嫌になった。彼等は箱の上に鈴なりになり、奇声をあげてわめきさけび、周囲で見物している彼等の仲間と呼びあって大よろこびだった。その中には、たくさんの火星の子どもが交っていたが、彼等は身体がたいへん小さく、犬の子ぐらいであった。しかし大きな頭に大きな目玉をぐるぐる動かし、短かい触手をふりたてるところは火星人の大人とかわらなかった。かわっているところは、首から下が非常に短くて、ほうずきの化物みたいに見えた。
ギネがアメリカ語を話せるようになったのはなぜか。
ギネがアメリカ語を話せるようになったのは、ギネ自身が地球へ行き、調べてきたからである。
JCRRAG_014262
国語
これからがたいへんだ。フランクが倶楽部中の者に、「内村は小指一本でポールに勝つといってる」と話したらしい。すぐにポールのブルがききつけて、カンカンにおこったのだ。いきなり、ボクシングの試合をぼくに申し込んできた。どうもしかたがない。「よろしい。やろう!」とぼくもすぐに返事した。すると、この試合の評判が、大学中にひろがってしまった。大学でもポールの別の名はブルだ。そこで、 「ブルを小指一本で、日本人の内村が、投げとばすそうだ」という大評判なのだ。小指のことを、英語で「赤ん坊の指」という。大きな牛のようなブルを、赤ん坊の指一本でなげとばすというんだから、この大評判が、とうとう、新聞にまで出てしまった。いよいよ、大さわぎになって、ミス・ネールという金持ちのお嬢さんは、この試合に二十万円の懸賞金を出すと、これまた新聞に書かせてしまった。なにしろブルは、ボクシングのトップ選手だ。今では名前が知られている。そのブルと赤ん坊の指一本の試合だ。そこへ二十万円の懸賞金! さあもう、たいへんな人気だ。 ところが、ぼくはひと時に有名になってしまって、また困った。和歌山中学で関口流の柔道を、初段くらいまでおそわったのだ。だから、ブルを別にこわがりもしないし、試合したって、三回やって三回とも負けるとは思わない。が、しかし、なにしろ「小指一本」には、どうしたらいいか、自分でもわからないんだ。倶楽部長のフランクに、ふと冗談にいったのを、とても後悔したが、もう今のような大評判になっては、手が回らない。食堂へいくたびに、ブルはブルで、ぼくの小指ばかり、にらんでる。みんなはまた、ブルのいないところで、 「内村君、きみの赤ん坊の指を大事にしたまえよ!」と、本気になって言ってくる。 新聞記者がまいにち、写真機を持ってきて、 「内村君の赤ん坊の指を撮影させてくれ」と、たのみにくる。日本の柔道には、小指一本で勝つ術があるのだと、みんなが信じてるのだ。 写真はもちろん、うつさせなかった。が、ぼくは気が気でない。しかし、困った顔は見せられない。心の中うちで困りに困ってると、いよいよ試合の日になった。倶楽部のテニスコートが、この日の試合場だ。審判官は一人と決めてフランクに決まった。ところが、朝、夜の明けないうちから見物人がくるわくるわ、巡査が交通のとりしまりに十六人もかけつけてきたというさわぎだ。どうもしかたがない。
内村はブルと試合することになって困ったのはなぜですか。
小指一本でブルと試合するのは、どうしたらいいか、自分でもわからなかったから。
JCRRAG_014263
国語
その夜、大作君はくたびれたので、柱をふまえてねそべっていた。下からみたって、いつもみなれたすかんぴんの貧しい家であった。しかし大作君の心は、いまは安らかにここに落ち着いていた。貧乏なことになんの不平もなかった。 そこへ風呂からあがったはだかん坊の弟たちが、湯気につつまれながら出てきた。そして大作君の頭のかたわらで相撲をとりはじめた。どんどんと大作君の頭にひびいた。 いつもなら大作君は、「やめんかッ」と、優等生の兄さんらしくどなるところだ。しかし今夜はしからなかった。弟たちの健康なはだかん坊をたのもしいもののようにみていた。足音が大きくひびいてくればくるほど気持ちがよかった。――おお! 力を出せ! 力のありったけを出せ! 家がつぶれるくらいあばれろ! 大作君はそう声援したいほどだった。 いまは、大作君の心から、ながいあいだかかっていた灰色のとばりがはらいのけられていた。――貧乏だとてはずかしがることはないのだ。ぼくたちは健康だ。そしてぼくたちにはがんばる力があるんだ。ぼくたちにはこれからどんなことだってできるのだ。―― はじめは、ちびの四郎と五郎だけが相撲をしていたが、やがて速男も幸助も加わって、しまいには相撲というよりはめちゃめちゃの乱闘になってしまった。 「よし、こいッ。」 そうさけんで、大作君ははね起きた。「ぼくひとりにみんなかかってこいッ。」 みんなかかってきた。うしろからしがみつくもの、足にからまるもの、腕をひっぱるもの、大作君はたじたじとなったが、うんとふんばった。ちびの五郎を両腕でだきあげた。じたばたするのを顔の高さにまで持ちあげた。そして「神だなに上げるぞオ。」といって、そちらへ歩いていった。 すると大作君は、神棚の下にたらしてはってある四角な紙に眼がとまった。何か免状みたいなものだ。 「これなんだア。」 と大作君は五郎をおろしてたずねた。 そして速男から、それは幸助がたばこ、キャラメルなどの空箱や、おれ釘、針金などをひろいためて、今日役場の軍事課へ献納して、もらってきた感謝状だということをきいた。 ――それなら幸助は、あのキャラメルの箱も献納するつもりでひろったんだ。そうだったのか。国民六年加藤大作君は、きいていて、喜びのために胸があつくなるのを覚えたのである。
大作君はなぜ、弟たちの乱闘を怒らずに見ていたのか。
大作君は弟たちの元気な姿に、生命力と希望を感じたから。
JCRRAG_014264
国語
さっそく、三百人の大工と二百人の技師に言いつけて、この国で一番大きな機械を持ち出すことになりました。それは長さ七フィート、幅四フィートの木の台で、二十二箇所の車輪がついています。私が眠り薬のおかげで、ぐっすり何も知らないで眠っている間に、この車が私の身体にぴったり横づけにされていました。だが、眠っている私をかつぎ上げて、この事に乗せるのは大へんなことだったらしいのです。 まず第一に、高さ一フィートの柱を八十本立て、それから、私の身体をぐるぐるまきにしている紐の上に、丈夫な綱をかけました。そして、この綱を柱にしかけてある滑車で、えんさえんさと引き上げるのです。九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬と九百人の男が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。もっとも、これは、みんなあとから人に聞いて知った話なのです。 車が動きだしてから、四時間もした頃のことです。何か故障のため、車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二・三人の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか、それを見るために、わざわざ車によじのぼって来ました。 はじめは、そっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を、私の鼻の孔にグイと突っ込んだものです。こよりで、つつかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず、大きなくしゃみと一緒に私は目がさめました。 日が暮れてから、車は休むことになりましたが、私の両側には、それそれ五百人の番兵が、弓矢をかかげ、百人の番兵がたいまつをかかげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押さえようとしていました。翌朝、日が上ると、車はまた進みだしました。そして正午頃、車が都の近くにやって来ました。皇帝も、大臣も、みんな出迎えました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、それは危険でございます、と言って、大臣たちはとめていました。
私を滑車に乗せて都に運ぶ際に多く使った物を教えてください。
私を滑車に乗せて都に運ぶ際に多く使った物は馬で、千五百頭です。
JCRRAG_014265
国語
その日のかれこれ同じ時刻に、この家の外を通りかかった、年の若い一人の日本人がいました。それがどう思ったのか、二階の窓から顔を出した中国の女の子を一目見ると、しばらく呆気にとられたように、ぼんやり立ちすくんでしまいました。 そこへ又通りかかったのは、年をとった中国人の人力車夫です。 「おい。おい。あの二階に誰が住んでいるか、お前は知っていないかね?」 日本人はその人力車夫へ、いきなりこう問いかけました。中国人は楫棒を握ったまま、高い二階を見上げましたが、「あそこですか? あそこには、何とかいうインド人の婆さんが住んでいます」と、気味悪そうに返事をすると、そうそう行こうとするのです。 「まあ、待ってくれ。そうしてその婆さんは、何を商売にしているんだ?」 「占い師です。が、この近所の噂じゃ、何でも魔法さえ使うそうです。まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方がいいようですよ」 中国人の車夫が行ってしまってから、日本人は腕を組んで、何か考えているようでしたが、やがて決心でもついたのか、さっさとその家の中へはいって行きました。すると突然聞こえて来たのは、婆さんの罵る声に混じった、中国人の女の子の泣き声です。日本人はその声を聞くが早いか、一股に二・三段ずつ、薄暗い梯子を駈かけ上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力いっぱい叩き出しました。 戸は直ぐに開きました。が、日本人が中へはいって見ると、そこにはインド人の婆さんがたった一人立っているばかり、もう中国人の女の子は、次の間へでも隠れたのか、影も形も見当りません。 「何か御用ですか?」 婆さんはさも疑わしそうに、じろじろと相手の顔を見ました。 「お前さんは占い者だろう?」 日本人は腕を組んだまま、婆さんの顔をにらみ返しました。 「そうです」 「じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか? 私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ」 「何を見て上げるんですえ?」 婆さんはますます疑わしそうに、日本人のようすをうかがっていました。 「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方知れずになった。それを一つ見て貰いたいんだが」 日本人は一句一句、力を入れて言うのです。 「私の主人は香港の日本領事だ。御嬢さんの名は妙子さんとおっしゃる。私は遠藤という書生だが、どうだろう? その御嬢さんはどこにいらっしゃる」 遠藤はこう言いながら、上衣の隠しに手を入れると、ピストルを引き出しました。 「この近所にいらっしゃいませんか? 香港の警察署の調べた所じゃ、御嬢さんをさらったのは、インド人らしいということだったが、隠し立てをすると為にならんぞ」 しかしインド人の婆さんは、少しもこわがる気色が見えません。見えないどころか唇には、かえって人を莫迦にしたような微笑さえ浮かんでいるのです。 「お前さんは何を言うんだ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありゃしないよ」 「うそをつけ。今その窓から外を見ていたのは、たしかに御嬢さんの妙子さんだ」 遠藤は片手にピストルを握ったまま、片手に次の間の戸口を指さしました。 「それでもまだ剛情を張るんなら、あそこにいる中国人をつれて来い」 「あれは私の貰い子だよ」 婆さんはやはり嘲るように、にやにやひとり笑っているのです。 「貰い子か貰い子でないか、一目見りゃわかることだ。貴様がつれて来なければ、おれがあそこへ行って見る」 遠藤が次の間へ踏みこもうとすると、とっさにインド人の婆さんが、その戸口に立ち塞がりました。 「ここは私の家だよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはいられてたまるものか」 「どけ。退かないとうちころすぞ」 遠藤はピストルを挙げました。いや、挙げようとしたのです。が、その拍子に婆さんが、鴉のような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがにきもをひしがれたのでしょう、ちょいとの間は不思議そうに、あたりを見回していましたが、たちまちまた勇気をとり直すと、 「魔法使いめ」と罵りながら、虎のように婆さんの方へ飛びかかりました。 が、婆さんもさるものです。ひらりと身をかわすが早いか、そこにあったほうきをとって、又つかみかかろうとする遠藤の顔へ、床の上のごみを掃きかけました。すると、そのごみが皆火花になって、眼といわず、口といわず、ばらばらと遠藤の顔へ焼きつくのです。 遠藤はとうとうたまりかねて、火花の旋風に追われながら、ころげるように外へ逃げ出しました。
遠藤が出したピストルの数を教えてください。
遠藤が出したピストルの数は1です。
JCRRAG_014266
国語
それから、非常に器用な建築家もいました。彼が思いついた新しい研究によると、家を建てるには、一番はじめに、屋根を作り、そして、だんだん下の方を作ってゆくのがいいというのです。その証拠に、蜂や蟻などもこれと同じやり方でやっているのではないか、と彼は言っていました。 ある部屋では、生まれながらの盲人が、盲人の弟子を使っていました。彼らの研究は、画家のために、絵具を混ぜることでした。この先生は、指と鼻で、絵具の色が見分けられるというのです。しかし、私が訪ねたときは、先生はほとんど間違ってばかりいました。 また別の部屋には、鋤や家畜の代わりに、豚を使って、土地を耕すことを発見したという男がいました。 それはこうするのです。まず、一エーカーの土地に、六インチおきに、八インチの深さに、百個のどんぐり、二百個のなつめ、八十個のやし、五十個の栗、そのほか、豚の好きそうなものをたくさん埋めておきます。それから、四百頭の雄豚、二百頭の雌豚、合計六百頭の豚を土地に放すのです。すると、三日もすれば、豚どもは食物を探して、隅から隅まで掘り返すし、それに、豚の糞が肥料になるので、あとはもう種を蒔けばいいだけです。もっとも、これは、お金と人手がかかるばかりで、作物はほとんど、取れなかったということです。
非常に器用な建築家と、生まれながらの盲人がやろうとしている研究の違いを教えてください。
非常に器用な建築家が思いついた新しい研究によると、家を建てるには、蜂や蟻などのように、一番はじめに屋根を作り、そしてだんだん下の方を作ってゆくのがいいという考えをしていました。 その一方、ある部屋では、生まれながらの盲人が、盲人の弟子を使っていました。彼らの研究は、画家のために、絵具を混ぜることでした。この先生は、指と鼻で、絵具の色が見分けられるということでした。
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さてこの物語も、ここらで結末に入らなければならない。 火星探険団長のデニー博士たちと火星人の会見は、四少年の下工作が功を奏してたいへんうまく平和的にいった。そして火星と地球の間にやがて定期航空をひらくことと、火星と地球の間に互いに不足している資源を融通しあうこと、もう一つ両者の間に文化学術の交流を行うことについて一応諒解が成立した。これは博士にとっても意外な大きな収穫だった。博士が火星航空路に成功しただけでもすばらしい収穫であるのに、なおその上にこの功績を加えたのであった。 それから博士は、次の仕事にとりかかった。それは地球へ無電連絡を確立することと、壊れた宇宙艇の修理が出来るかどうかを調べることだった。 地球との通信は、うまく行くようになった。発電機を動かす燃料も、十分にあり、新しい送受信機を組立てる部品を揃えることも出来た。 もう一つの仕事の、壊れた宇宙艇が修理できるかどうかは、一行の運命をきめてしまう重大なことがらだった。この調査には一週間を要した。その結果はとても出来ないことが分った。一行の人々の目の前は、急に暗くなった。第一、機材がどうしても足りないし、工作機械は十分でないし、それに燃料は絶対不足だった。デニー博士は、思い切って宇宙艇を小型のものに設計がえをし、乏しい機械からこれを作ることを考えたが、これにも難関があって成功は望まれそうもなかった。それはエンジンをそのままのせると、艇は重くなりすぎて飛び出せそうもなかったし、それかといってエンジンを小型にすることは、工作上とてもここでは出来ない相談だった。ただエンジンを解体して、従来のものの二分の一または四分の一にすることは出来たが、博士の考えていた小型のものに丁度いいのは、四分の一にしたエンジンを取付けることだった。だからこれはやれそうに見えたが、そこで実際に馬力と速力とを計算しているとエンジンが非常に能率を悪くする関係で、火星を出てから地球に達するまでに五ヶ年もかかることが分り、しかも五ヶ年間エンジンを動かすための燃料といえば莫大なもので、とても用意が出来そうもなかった。こんなわけで、一行は遂に地球に帰還するための乗物を用意することが出来ないことが明らかとなった。一行の失望と落胆は、ここに記すも気の毒なほどだった。 「マートンさん。地球へ救援を求めることは出来ないのですか。つまり、別の宇宙艇をこの火星へよこしてもらうのです」 河合が、マートン技師にいった。 「さあ、不可能だろうね。なにしろ火星まで届くほどの有力なる宇宙艇を作り得る組織を持っている工場は、わがデニー先生の火星探険協会をおいて他にないんだからね」 「宇宙艇というものは、全然他では出来ないのですか」 「今出来ているのは、われわれのものを除くとせいぜい月世界まで届くぐらいのものなんだ。それも一旦月世界まで行っても帰還することはむずかしいからね」 「困ったものですねえ」 「ああ、全く困った」 いつも元気で、最後まで希望を捨てないマートン技師も、今は別人のように悲観の淵に沈んでいる。 「ああそうだ」と河合が叫んだ。 「マートンさん、まだやってみることがあるではありませんか」 「まだやってみることが? それは何……」 「われわれの力だけでは、もうどうにも手の施しようのないことは分りましたが、しかしここは火星国です。火星人の智恵、火星の資源、火星人の労働力――そういうものはうんとあるではありませんか。それにあのギネという火星人は、これまで秘密のうちに、地球まで三回も往復しているんだそうですから、あの火星人に頼めば、われわれの知らない強力なエンジンを貸してくれるかもしれませんよ。そしてたくさんの火星人の労働力を借りるなら、どんな巨大な宇宙艇だって楽に早く建造することが出来るのではないですか」 「おお、それはすばらしいアイデアだ。そうだ、われわれはわれわれの力だけで解決することを考えていたので、宇宙艇の再建造は不可能だと決めてしまわねばならなかったんだ。火星人に協力を求める! なるほど、そうだったね。そういう道があるのだ」 河合少年の思付は、早速マートン技師からデニー博士に伝えられた。博士はそれを聞いて喜んだ。そしてその方向に、問題を解決する道を進むことになった。 それからはとんとん拍子に行った。ギネの好意で、火星政府もエンジンを貸すことを承諾し、火星人の技術団をつけて地球まで行かせることにしてくれた。但しこのエンジンの秘密は当分地球人には公開されないことを一つの条件として……。 それから半年の後、地球人と火星人の合作による新宇宙艇の建造はめでたく完成した。この新艇には“太陽の子”という名前がつけられた。火星も地球も共に太陽の子であるという意味を含めたもので、同じく太陽の子である以上、仲よくしましょうという平和精神が盛られてあるのだった。 試運転も地球人と火星人の協力でうまく行った。そして一ヶ月後に、地球帰還の用意万端は成り、いよいよ“太陽の子”号は、はなばなしく初航空の旅についた。地上からは火星人たちの盛んな見送りがあり、艇からはデニー博士一行と、地球訪問の火星人使節団と技術団とが手を握り、触手を動かして挨拶をかわした。こうしてめでたい地球人と火星人との協力による宇宙旅行が始まったのであった。 デニー博士が調査作製した宇宙航路によって、“太陽の子”号は最も条件のよい航路を選び、地球へ近づいて行った。そしてわずか十五日で、その航路を突破した。“太陽の子”号がニューヨーク郊外の新飛行場“火星”へ無事着陸すると、地球は――いや全世界は歓喜と興奮の渦にまきこまれた。デニー博士以下の乗組員たちは大統領に出迎えられ、光栄ある讃辞を受けた。また火星からの異形の使説団一行は大歓迎をもって迎えられた。 デニー博士は大統領の車に同乗して、はなばなしいニューヨーク入りをした。一行の上に、七色の紙が花のように降り、市民たちは家もすっかり空っぽにして沿道に集り、歓呼をあびせかけた。 山木、河合、張、ネッドの四少年は、例の牛乳配達車に乗って、行進の中に加わった。これがまたたいへんな歓呼で迎えられ、牛乳配達車の上は花束が山のように積まれ、絵の牝牛の首にも美しい赤と青と白とのリボンがつけられた。――張の予言は、たしかに的中したのだった。 それからデニー博士がどんなに盛んな歓迎攻めに会ったか、それは記すまでもないであろう。 しかしデニー博士は重要な仕事を持っていたので、火星使節団とわが世界代表との間に立って連日大奮闘をした。しかしその甲斐あって、双方の間にひろい協力の条約が成立し、地球と火星との定期航空路も共同経営をすることに決まった。そしてなお更に一歩進んでわが太陽系惑星が平和連合星団を建設することに話がまとまった。 デニー博士はやがて、火星に永住することとなった。博士は駐火星地球大使に任ぜられたのである。博士の銅像はニューヨークと、もう一つデニー塔のあったアリゾナの二ヶ所に建てられた。 四少年は、褒美のお金によって、すばらしい自動車と飛行機を買うことが出来、それを乗りまわしている。その自動車と飛行機には例の大きな牝牛が描かれてあるということだ。
何という名前の新宇宙艇が地球人と火星人の合作で建造されたか。
地球人と火星人の合作で「太陽の子」という名前の新宇宙艇が建造された。
JCRRAG_014268
国語
伊藤豊治青年が洗面を済まして着替えをしているところへ、制服を着たボーイが朝のコーヒーを運んで来た。 「お早うございます」 「ああお早う」 「よくお寝やすみになれましたか」 伊藤青年はネクタイを結びながら、ボーイの支度するコーヒーのテーブルに向かって掛けた。あまり機嫌のよい顔つきではない。 「よく眠れなかったよ君、一体この向こうの部屋にはどんな客が泊まっているんだい? ひと晩中へんな音をたてたり妙な声をしたり、本当に困ったよ」 「向こうの部屋と申しますと?」 「廊下の向こうさ、この翼屋で、向こうといえばここと廊下の向こうと二部屋しか無いじゃないか」 ボーイはなにか思い当たる事があるらしく、サッと顔色を変えながら眼をそらした。 伊藤豊治は九州大学の工科研究室に籍をおいている研究生で、恩師の鹿谷弘吉博士が、ある研究報告をするため上京した後を追って、その助手を勤めるために昨夜東京へ着いたのである。ところがこのホテルへ来てみると、博士は研究上やらなきゃいけない仕事ができて仙台へ出張したということだった。博士が出張したため、伊藤青年はゆうべ一人でホテルへ泊まったのであった。 彼の泊まった部屋はホテルの翼屋で、そこには廊下を隔てて二つの部屋が向かい合っている。その向こう側の部屋から、ゆうべひと晩中、女のうめくような悲しげな声や、長い紙を静かに引き裂くような物音が、絶えては聞こえ絶えては聞こえして来るので、妙にいらいらと寝苦しい思いをしながら一夜を明かしたのであった。 「やはりお聞きになりましたか」 ボーイはやがて声をひそめていった。 「やはりって? 何かあるのかい」 「あの部屋にはどなたも泊まってはいらっしゃいません。もうずっと以前からお客様をお入れしない事になっていますので、と申しますのは、実は極内々のお話なのですが、あの部屋は『亡霊の部屋』といって、私共仲間内でも怖がって近寄らないくらいです」 「ふふふふ、今時亡霊とは古風だな」 「お笑いになりますが、現に昨夜、貴方様がそれをお聞きになったではございませんか」 伊藤青年はふっと笑いを止めた。ゆうべ深夜に聞いた、悲しげな女の呻き声を思い出したのである。ボーイはさらに声をひそめて、 「そうなんです、ここだけのお話ですが、二年まえの冬のある夜、あの部屋へ泊まったお客様……御老人の方とその若い美しい夫人でしたが、お泊りになった晩、御老人が若い夫人を短刀で刺し殺したうえ、御自分も自殺なさったという事件がございました。くわしい事情は存じませんですが……お部屋は血でいっぱい、寝台から這いだした夫人が、ドアのノブを掴んだまま血みどろになって、さんばら髪で死んでいたその凄さ、今思い出してもぞっと……」 ボーイはぶるっと身を震わした。 「それ以来、あの部屋へお客様をお泊め致しますと、きまって変な事がございますので、今では使わない事になっているのです。しかしどうか……この話は決して他の人には誰にも話さないで頂きたいのです、なにしろこんな事が広まっては客商売のことですから」 「その点は安心したまえ、僕なら決して誰にもしゃべりはしないから」 「ありがとうございます。もしお望みでしたら早速お部屋を変えましょうか」 「いや、ここでいいよ」 「しかしもし貴方様になにかありましては」 「まあそれ程の事もないだろう」 ボーイは会釈して出て行った。 いやな話である。ゆうべたしかに聞いた女の呻き声や、あの長い紙を静かに静かに引き裂くような物音が、まざまざと耳によみがえって来る。ドアのノブを掴んだまま血みどろになって死んでいたという、若い夫人の姿も、どうも眼にちらつくような気がする。 「ちぇ! いやな話を聞いた」 舌打ちをしながらがぶりとコーヒーを飲んで、煙草に火を点けようとした時、卓上電話がジリジリと鳴りだした。受話器を取ると、いきなりいきいきした少女の声で、 「あら、お兄さまね?」 と叫ぶようにいう。牛込若松町に母と二人で住んでいる妹のみどりだった。伊藤青年とは七つ違いの今年十八歳で、みどりの下の二字だけ取って「ドーリイ」と呼ばれているおてんばな女学生だ。 「なんだ、ドーリイじゃないか」 「ひどいわ、東京へいらっしゃったのにどうして家へ知らせて下さらないの?」 「君はまたどうして僕の来たことを知ったんだ」 「ゆうべホテルのロビーでお友達がお兄さまを見かけたんですって、たしかにお兄さまらしいからって知らせて来たのよ、どうして家へいらっしゃらないの?」
伊藤はなぜこのホテルに一人で泊まることになりましたか。
伊藤が博士に会いにホテルへ来てみると、博士は仙台へ出張することになってしまったからです。
JCRRAG_014269
国語
その夜、大作君はくたびれたので、柱をふまえてねそべっていた。下からみたって、いつもみなれたすかんぴんの貧しい家であった。しかし大作君の心は、いまは安らかにここに落ち着いていた。貧乏なことになんの不平もなかった。 そこへ風呂からあがったはだかん坊の弟たちが、湯気につつまれながら出てきた。そして大作君の頭のかたわらで相撲をとりはじめた。どんどんと大作君の頭にひびいた。 いつもなら大作君は、「やめんかッ」と、優等生の兄さんらしくどなるところだ。しかし今夜はしからなかった。弟たちの健康なはだかん坊をたのもしいもののようにみていた。足音が大きくひびいてくればくるほど気持ちがよかった。――おお! 力を出せ! 力のありったけを出せ! 家がつぶれるくらいあばれろ! 大作君はそう声援したいほどだった。 いまは、大作君の心から、ながいあいだかかっていた灰色のとばりがはらいのけられていた。――貧乏だとてはずかしがることはないのだ。ぼくたちは健康だ。そしてぼくたちにはがんばる力があるんだ。ぼくたちにはこれからどんなことだってできるのだ。―― はじめは、ちびの四郎と五郎だけが相撲をしていたが、やがて速男も幸助も加わって、しまいには相撲というよりはめちゃめちゃの乱闘になってしまった。 「よし、こいッ。」 そうさけんで、大作君ははね起きた。「ぼくひとりにみんなかかってこいッ。」 みんなかかってきた。うしろからしがみつくもの、足にからまるもの、腕をひっぱるもの、大作君はたじたじとなったが、うんとふんばった。ちびの五郎を両腕でだきあげた。じたばたするのを顔の高さにまで持ちあげた。そして「神だなに上げるぞオ。」といって、そちらへ歩いていった。 すると大作君は、神棚の下にたらしてはってある四角な紙に眼がとまった。何か免状みたいなものだ。 「これなんだア。」 と大作君は五郎をおろしてたずねた。 そして速男から、それは幸助がたばこ、キャラメルなどの空箱や、おれ釘、針金などをひろいためて、今日役場の軍事課へ献納して、もらってきた感謝状だということをきいた。 ――それなら幸助は、あのキャラメルの箱も献納するつもりでひろったんだ。そうだったのか。国民六年加藤大作君は、きいていて、喜びのために胸があつくなるのを覚えたのである。
大作君の価値観の変化は、どのようなきっかけで生じたのか。
大作君の価値観の変化が生じたきっかけは家族の健康や努力を実感し、貧しさを前向きに捉えるようになったから。
JCRRAG_014270
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が多いものを教えてください。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が多いものは村落で百あります。
JCRRAG_014271
国語
その夜の十二時に近い時分、遠藤は独り婆さんの家の前にたたずみながら、二階の硝子窓に映る火影を口惜しそうに見つめていました。 「折角御嬢さんのありかをつきとめながら、とり戻すことが出来ないのは残念だな。いっそ警察へ訴えようか? いや、いや、中国の警察が手ぬるいことは、香港でもう懲り懲りしている。万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし」 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら落ちて来た紙切れがあります。 「おや、紙切れが落ちて来たが、もしや御嬢さんの手紙じゃないか?」 こうつぶやいた遠藤は、その紙切れを、拾い上げながらそっと隠した懐中電燈を出して、まん丸な光に照らして見ました。すると紙切れの上には、妙子が書いたに違いない、消えそうな鉛筆の跡があります。 「遠藤さん。この家のお婆さんは、恐しい魔法使いです。時々真夜中に私の体へ、『アグニ』というインドの神を乗り移らせます。私はその神が乗り移っている間中、死んだようになっているのです。ですからどんな事が起るか知りませんが、何でもお婆さんの話では、『アグニ』の神が私の口を借りて、いろいろ予言をするのだそうです。今夜も十二時にはお婆さんが又『アグニ』の神を乗り移らせます。いつもだと私は知らず知らず、気が遠くなってしまうのですが、今夜はそうならない内に、わざと魔法にかかった真似をします。そうして私をお父様の所へ返さないと『アグニ』の神がお婆さんの命をとると言ってやります。お婆さんは何よりも『アグニ』の神が怖いのですから、それを聞けばきっと私を返すだろうと思います。どうか明日の朝もう一度、お婆さんの所へ来て下さい。この計略以外に婆さんの手から、逃げ出すみちはありません。さようなら」 遠藤は手紙を読み終わると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。 「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使いだし、御嬢さんはまだ子供だから、余程運がよくないと」 遠藤の言葉が終わらない内に、もう魔法が始まるのでしょう。今まで明るかった二階の窓は、急にまっ暗になってしまいました。と同時に不思議な香のにおいが、町の敷石にもしみる程、どこからかしずかに漂って来ました。
遠藤が懐中時計を出して見た時間は、正確には何時何分ですか。
遠藤が懐中時計を出して見た時間は、正確には十一時五十五分です。
JCRRAG_014272
国語
さて、その次の部屋に行くと、壁から天井から、くもの巣だらけで、やっと人ひとりが出入りできる狭い路がついていました。私が入って行くと、 「くもの巣を破っては駄目だ。」 と、いきなり大声でどなりました。それから、相手は私に話しかけてくれました。 「そもそもくもというものは、蚕などよりずっと立派な昆虫なのだ。くもは糸を紡ぐだけでなく、織り方までちゃんと心得ている。だから、蚕の代わりにくもを使えば、絹を染める手数が省けることになる。」 そう言って、彼は、非常に美しい蠅をたくさん取り出して見せてくれました。 赤の美しい蠅、青の美しい蠅、緑の美しい蠅がいました。 つまり、くもにこの美しい蠅を食べさせると、くもの糸にその色がつくのだそうです。それに彼は、いろんな色の蠅を飼っていましたが、この蠅の餌として、何か糸を強くさせるものを研究しているのでした。 それから私は、もう一人、この学士院でも指折りで有名な人を見ました。この人は、もう三十年間というものは、人類の生活を改良させることばかり、考えつづけているのです。 彼の部屋は奇妙な品物で一ぱいでしたが、四人の部下がこの有名な発明家の指図で働いていました。部下の一人は、空気をかわかして塊りにすることを研究していました。また、ある部下は、石をゴムのように柔かくして、枕をこしらえようとしていました。生きた馬のひづめのところを石にすることを考えている者もいました。
学士院でも指折りの有名人が部下にやらせている研究を教えてください。
学士院でも指折りで有名な人の部屋では部下がこの有名な発明家の指図で働いていました。部下の一人は、空気をかわかして塊にすることを研究していました。 また一方で、ある部下は、石をゴムのように柔かくして、枕をこしらえようとしていました。
JCRRAG_014273
国語
この奇妙な死骸の発見者は、金田という鉱員と、川上と山岸という二人の少年鉱員であった。 この三人は、梅雨ばれの空をあおぎながら、早朝この山へのぼってきた。 この山は、この間までりっぱな坑道をもった鉱山であったが、とつぜん五百機に近い敵機の大編隊によって集中爆撃をうけ、そのためにこの鉱山はめちゃめちゃになった。 坑道の入口はたたきつぶされ、変電所も動力室も事務所も、あとかたなく粉砕されてしまった。坑道を通って外へ鉱石をはこび出すためのケーブル吊下げ式の運搬器も、その鉄塔も、爆風のため吹きとんでしまい、今は切れ切れになった鋼索が、赤い土のあいだから、枯草のように顔を出しているだけであった。 それよりも、すごい光景は、この鉱山の上に爆弾が集中されたため、山の形がすっかりかわってしまって、地獄谷のようなありさまになっていることだ。その間から、ほりかえされた坑道が、あっちにもこっちにも、ぽかんと口をあけ、あるところは噴火口のように見えていた。 金田と、川上、山岸の三人は、この日このように破壊された坑道のどこからか地中にはいりこみ、この間まで働いていた第八十八鉱区が今どんなになっているか、それをよく見てしらべてくるのが仕事だった。それはかなり危険な仕事であったが、戦争の最中のことで、鉱区はできるだけ早くもとのようになおして、鉱石をほりだすようにしなければならないので、三人はえらばれて、この山へやってきたのである。それは敵機の大爆撃があってから、七日めのことだった。 山へついた三人は、いつもはいりなれた坑道の入口がわからないので、まごついた。やむなくそれから山の頂上へのぼって、上からようすを見ることにしたが、三人は前にのべたように、地嶽谷のようなものすごい破壊の光景にぶつかって、たいへんおどろいた。しばらくはぼんやりとそこにたたずんで、口がきけなかったほどであった。 が、金田はもう老人といわれる年齢になった老鉱員であるが、十四歳の時からずっとこの山で働いていたしっかり者だけに、二人の少年をはげまして、ついに地中へもぐりこんだのである。 頭には、上から落ちてくる岩をふせぐための弾力のある帽子をしっかりかぶり、手にはするどい鉤のついた小さい手斧と、強い燭光の手提灯をもち、腰には長い綱をさげていた。そのほかに、携帯用の強力な穴ほり道具を、三人が分解して肩にかついでいた。 せっかくはいりこんだ坑道が、盲管のように行きどまりになっていたので、三人はいくども、もとへもどらなければならなかった。 でも、そんなことをくりかえしているうちに、ようやくわりあい崩れ落ちているところのすくない坑道にもぐりこむことができて、三人はすこし明かるい心になった。 それでもやっぱり、落磐の個所がつぎつぎに出てきた。三人は、酸水素爆発を応用した穴ほり道具を、なるべく使わないようにしながら進んだ。こうして進むうちにも、不安定な状態にある坑道は、いつ新しい落磐をおこすかもしれないので、そのときは強力な穴掘り道具を使う方針であった。 およそ四時間もかかって、ようよう三人は第八十八鉱区の入口にたどりついた。 たいへんうれしかった。 しかしこれから先が問題である。働きなれたなつかしい鉱区の中は、いったいどんなになっているのであろうか。 三人は、そこで持ってきた握飯をたべ、水筒から水をのんで元気をつけた。 それからいよいよ中へ入っていったのである。 ところが坑内は、意外にもきちんとしていた。もっともここはそうとう深いところでもあるし、地質もしっかりしているので、きちんとしていることがむしろあたりまえだった。だが地上のあのすごい光景にびっくりさせられた三人は、第八十八鉱区のこの無事なありさまが意外に感ぜられた。 が、三人が、この鉱区の中央をつらぬく竪坑のところへ、横合から出たときには、思わずあっとさけんだ。 いつもこの竪坑は暗かった。今は電灯もついておらず、さぞまっくらであろうと思っていたところ、その竪坑へ出ようとするところが、ぼうっと明かるかった。日の光が、どこからかさしこんでいる様子だ。それから三人はいそいで竪坑へ出た。そして上を見たのである。竪坑は明かるかった。上を見ると、盆くらいのひろさの空が見え、そこからつよく日がさしこんでいた。 「これはどういうわけだろう」 と、金田はつぶやいた。 「竪坑はまっくらなはずですね。これは場所がちがうのではないでしょうか」 と、川上少年鉱員がいった。 「いや、うちの竪坑にちがいない」 金田はつよくいった。 「ああ、わかった。竪坑の上から爆弾が落ちて、天井がぬけてしまったんだよ」 と、山岸少年鉱員がさけんだ。 「そうだ。それにちがいない」と、金田がうなずいて、「それにしても、あんなに厚い山がふきとんで、竪坑の天井がなくなるなんて、すごい爆発だなあ」 まったくものすごい爆撃をくらったものである。 それから三人は、竪坑をおりることにした。前にはあった昇降機も見えなければ、それを吊っていた鋼索もないので、三人は持っていた綱をつなぎあわせ、それにすがって下へおりることにした。 竪坑の底まで、そこからなお五十メートルばかりあった。 先へ金田がおり、つづいて川上、山岸の順でおりた。 竪坑の底も、やっぱり明かるかった。しかしそこには上から落ちてきた岩のかけらが、小さい山をなしていた。 この小山は、一方がひっかいたように、岩のかけらがくずれて凹んでいた。 見ると、そこからくずれて、下へ向けてゆるやかな傾斜をもった坑道の中へ流れこんでいた。その下には最近ほりかけた一つの坑道があるのだ。そこは三人が働いていたところなので、どんなふうになっているだろうかと気にかかった。そこで三人はほかのしらべは後まわしにして、ざらざらすべる斜面を下へおりていったのである。 奇妙な例の死骸は、その底において発見されたのである。大の字なりに上をむき、足を入口に近い方にし、頭は奥のほうに半分うずもれていたのである。 三人がどんなにおどろいたかということは、三人とも気がついたときは地上を走っていたことによっても知られる。三人はいつどこをどうして地上にとび出したか、さっぱりおぼえがないといっている。
金田と二人の少年が鉱山の状況を調査するという任務に選ばれたのはなぜか。
金田と二人の少年鉱員が鉱山の状況を調査する任務に選ばれたのは、鉱山をできるだけ早く修復し、鉱石を採掘する必要があった為。
JCRRAG_014274
国語
「やっぱりそうよ」 みどりは電話を切って母の方へ振り返った。 「で、一体どうしたんだって?」 「なんだか秘密を要する研究報告のために、鹿谷博士と御一緒に上京したんですって、だからそれが済むまでは家へ来られないって」 「そう、じゃあおまえ、福岡の方へ送るつもりで用意しといたズボン下やシャツを持って行ってあげなさい」 「そうね、どうせ学校の帰りに麻布の村上さんを訪ねるお約束だから行くわ、そして汚れ物があったら持って来るわね」 一年ぶりに兄に会えると思うと、みどりはもう心もうきうきとして来るのだった。 学校が終わったのが午後四時、それから片町の友達を訪ねたが、無理に引き留められて、六本木の近くにある山手ホテルへ着いたのは午後七時を過ぎた頃だった。受付で部屋の番号をきくと、若いボーイがいて三階の六号だと教えてくれた。 「御案内を致しましょう」 というのを断って(不意に行って驚かせてあげようと思ったのである)とんとんと階段を登り、右の翼屋の方へ曲がって右側の扉ドア、六号と書いてあるのを見て、そっとノブを回してみた、鍵はかけてなかった。 いるわ。 と思って、首をすくめながらそっと開け、あしおとを忍ばせて入った。そこは寝室と前部屋とカーテン一枚で仕切られていて、前の部屋には仕事テーブルと椅子が数脚置いてある。そのテーブルの側に立って、こっちへ背を向けて一人の男が何かをしていた。 お兄さまだわ。 疑ってみるまでもなくそう信じたみどりは、いきなり後ろへ駈け寄って、 「お兄さまこんばんは」 と叫んだ。不意を打たれて相手は、 「あっ!」 といいながら振り返った。意外にもそれは兄ではなかった。全く見知らぬ人である、みどりはびっくりして二・三歩退がり、「まあ、すみませんでした、あたくし」 と詫びようとした時、相手の男は凄まじく歯を剥き出したと思うと、いきなり扉口へ飛鳥のようにとびついた。そしてスイッチの音がしたとみる刹那、部屋中の電灯がぱっと消えてあたりは真暗闇になった。これはすべてあっという間の出来事だった。 「あ、あれ!」 闇の中からみどりの悲鳴が聞こえ、荒々しい争いの気配がした。しかしそれはすぐに鎮まって、間もなく、どこか部屋の隅の方から、コトンと金具を合わせるような物音が聞こえ……それっきりしんとして人がいる様子もなくなってしまった。 伊藤豊治青年が鹿谷博士と共に帰って来たのは、それからおよそ一時間ほど経った後のことだった。伊藤青年は夕食前に、仙台から帰るという博士の電報を受け取ったので上野駅まで迎えに行って来たのである。したがって留守中にそんな事件があった事などは知る由もない。 「君の部屋は何号だね」 「翼屋の六号です」 「ははあ、ではゆうべ何かあったろう」 博士は眼をしかめながら訊いた。 「御存じなんですか、先生」 「うん、僕も最初にあの部屋へ入ったよ、どうやら一番静かそうだから望んだのだがね、前の部屋に亡霊が出て少し怖いから引き移った訳さ」 「先生まで幽霊を怖がるんですか」 「君だって怖くない事はあるまい、が、とにかくそれについて少し考えている事があるんだ、まあ……後で僕の部屋へ来たまえ」 二階の階段で二人は別れた。 伊藤豊治は三階へ上って、扉の鍵を(それはいつかもうちゃんと閉まっていた)開け、中へ入って電灯を点けた。そして、部屋を温めるためにヒーターの栓をひねった時、卓上電話がけたたましく鳴りだした。受話器を取ってみると、牛込の母からだった。 「ああお母さんですか」 「豊治かい、東京へおいでだってね、御用が済んだら牛込へも寄っておくれよ」 「ええ一週間ほどしたら伺います」 「待ってますよ。それからみどりはまだそっちにいるかい、余りに帰りが遅いからどうしたかと思って」 「ドーリイが来たんですか」 「行っていないのかい」 「いいえ、もっとも今までここを留守にしていましたので、ちょっとフロントへ聞いてみましょう」 そういって伊藤青年は呼鈴を押した。
みどりは兄である伊藤と会えましたか。
いいえ、みどりは兄である伊藤と会えませんでした。
JCRRAG_014275
国語
ある日、王さまはこじきのようなようすをして、ひとりで町へやってゆきました。 町には小さな靴屋がいっけんあって、おじいさんがせっせと靴をつくっておりました。 王さまは靴屋の店にはいって、 「これこれ、じいや、そのほうはなんという名まえか。」 とたずねました。 靴屋のじいさんは、そのかたが王さまであるとは知りませんでしたので、 「ひとにものをきくなら、もっとていねいにいうものだよ。」 と、つっけんどんにいって、とんとんと仕事をしていました。 「これ、名まえはなんと申すぞ。」 とまた王さまはたずねました。 「ひとにくちをきくには、もっとていねいにいうものだというのに。」 とじいさんはまた、ぶっきらぼうにいって、仕事をしつづけました。 王さまは、なるほどじぶんがまちがっていた、と思って、こんどはやさしく、 「おまえの名まえを教えておくれ。」 とたのみました。 「わしの名まえは、マギステルだ。」 とじいさんは、やっと名まえを教えました。 そこで王さまは、 「マギステルのじいさん、ないしょのはなしだが、おまえはこの国の王さまはばかやろうだとおもわないか。」 とたずねました。 「おもわないよ。」 とマギステルじいさんはこたえました。 「それでは、こゆびのさきほどばかだとはおもわないか。」 と王さまはまたたずねました。 「おもわないよ。」 とマギステルじいさんはこたえて、靴のかかとをうちつけました。 「もしおまえが、王さまはこゆびのさきほどばかだといったら、わしはこれをやるよ。だれもほかにきいてやしないから、だいじょうぶだよ。」 と王さまは、金の時計をポケットから出して、じいさんのひざにのせました。 「この国の王さまがばかだといえばこれをくれるのかい。」 とじいさんは、金づちをもった手をわきにたれて、ひざの上の時計をみました。 「うん、小さい声で、ほんのひとくちいえばあげるよ。」 と王さまは手をもみあわせながらいいました。 するとじいさんは、やにわにその時計をひっつかんで床のうえにたたきつけました。 「さっさと出てうせろ。ぐずぐずしてるとぶちころしてしまうぞ。不忠者めが。この国の王さまほどごりっぱなおかたが、世界中にまたとあるかッ。」 そして、もっていた金づちをふりあげました。 王さまは靴屋の店からとびだしました。とびだすとき、ひおいの棒にごつんと頭をぶつけて、大きなこぶをつくりました。 けれど王さまは、こころを花のようにあかるくして、 「わしの人民はよい人民だ。わしの人民はよい人民だ。」 とくりかえしながら、宮殿のほうへかえってゆきました。
なぜマギステルじいさんは王さまの誘いに乗らなかったのか。
マギステルじいさんは王さまを尊敬しており、不忠者を許せなかったから。
JCRRAG_014276
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が多いものを教えてください。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が多いものは村落で百あります。
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国語
白はやっと喘ぎ喘ぎ、主人の家へ帰って来ました。黒塀の下の犬くぐりを抜け、物置小屋を回りさえすれば、犬小屋のある裏庭です。白はほとんど風のように、裏庭の芝生へ駈けこみました。もうここまで逃げて来れば、罠にかかる心配はありません。おまけに青あおした芝生には、幸いお嬢さんや坊ちゃんもボール投げをして遊んでいます。それを見た白の嬉しさは何と言えばいいのでしょう? 白は尻尾を振りながら、一足飛びにそこへ飛んで行きました。 「お嬢さん! 坊ちゃん! 今日は犬殺しにあいましたよ。」 白は二人を見上げると、息もつかずにこういいました。(もっともお嬢さんや坊ちゃんには犬の言葉はわかりませんから、わんわんと聞えるだけなのです。)しかし今日はどうしたのか、お嬢さんも坊ちゃんもただ呆気にとられたように、頭さえ撫でてはくれません。白は不思議に思いながら、もう一度二人に話しかけました。 「お嬢さん! あなたは犬殺しを御存じですか? それは恐ろしいやつですよ。坊ちゃん! わたしは助かりましたが、お隣の黒君はつかまりましたぜ。」 それでもお嬢さんや坊ちゃんは顔を見合わせているばかりです。おまけに二人はしばらくすると、こんな妙なことさえいい出すのです。 「どこの犬でしょう? 春夫さん。」 「どこの犬だろう? 姉さん。」 どこの犬? 今度は白の方が呆気にとられました。(白にはお嬢さんや坊ちゃんの言葉もちゃんと聞きわけることが出来るのです。我々は犬の言葉がわからないものですから、犬もやはり我々の言葉はわからないように考えていますが、実際はそうではありません。犬が芸を覚えるのは我々の言葉がわかるからです。しかし我々は犬の言葉を聞きわけることが出来ませんから、闇の中を見通すことだの、かすかなにおいを嗅ぎ当てることだの、犬の教えてくれる芸は一つも覚えることが出来ません。) 「どこの犬とはどうしたのです? わたしですよ! 白ですよ!」 けれどもお嬢さんはあいかわらず気味悪そうに白を眺めています。 「お隣の黒の兄弟かしら?」 「黒の兄弟かも知れないね。」坊ちゃんもバットをおもちゃにしながら、考え深そうに答えました。 「こいつも体中まっ黒だから。」 白は急に背中の毛が逆立つように感じました。まっ黒! そんなはずはありません。白はまだ子犬の時から、牛乳のように白かったのですから。しかし今前足を見ると、いや、前足ばかりではありません。胸も、腹も、後足も、すらりと上品にのびた尻尾も、みんな鍋底のようにまっ黒なのです。まっ黒! まっ黒! 白は気でも違ったように、飛び上ったり、はね廻ったりしながら、一生懸命に吠え立てました。 「あら、どうしましょう? 春夫さん。この犬はきっと狂犬だわよ。」 お嬢さんはそこに立ちすくんだなり、今にも泣きそうな声を出しました。しかし坊ちゃんは勇敢です。白はたちまち左の肩をぽかりとバットに打たれました。と思うと二度目のバットも頭の上へ飛んで来ます。白はその下をくぐるが早いか、元来た方へ逃げ出しました。けれども今度はさっきのように、一町も二町も逃げ出しはしません。芝生のはずれには棕櫚の木のかげに、クリーム色に塗った犬小屋があります。白は犬小屋の前へ来ると、小さい主人たちを振り返りました。 「お嬢さん! 坊ちゃん! わたしはあの白なのですよ。いくらまっ黒になっていても、やっぱりあの白なのですよ。」 白の声は何ともいわれぬ悲しさと怒りとに震ふるえていました。けれどもお嬢さんや坊ちゃんにはそういう白の心もちも呑みこめるはずはありません。現にお嬢さんはにくらしそうに、 「まだあそこで吠えているわ。ほんとうに図々しい野良犬ね。」などと、地だんだを踏んでいるのです。坊ちゃんも、坊ちゃんは小径の砂利を拾うと、力一ぱい白へ投げつけました。 「畜生! まだぐずぐずしているな。これでもか? これでもか?」砂利は続けさまに飛んで来ました。中には白の耳のつけ根へ、血のにじむくらい当たったものもあります。白はとうとう尻尾を巻き、黒塀の外へぬけ出しました。黒塀の外には春の日の光に銀の粉を浴びた紋白蝶が一羽、気楽そうにひらひら飛んでいます。 「ああ、きょうから宿無し犬になるのか?」 白はため息を洩もらしたまま、しばらくはただ電柱の下でぼんやり空を眺めていました。
坊ちゃんは白を何回バットで打ちましたか。
坊ちゃんは白を2回バットで打ちました。
JCRRAG_014278
国語
それから、これは私にはどうもよくわからないのですが、この有名な学者は、畑にもみがらを蒔くことを研究しており、さらに羊に毛の生えない薬を塗ることを、目下しきりに研究しているのだそうです。 私は道を横切って、向こう側の建物に入りました。そこの学士院には、学問の発明家がいました。 私が最初に会った教授は、広い教室にいました。そこには四十人ばかりの学生が集っていました。男が十五、女が三十五人だったでしょうか、教授は一つの便利な機械を考える研究をしていました。 その機械を使えば、どんな無学な人でも、何でも書けるのです。哲学、詩、政治学、数学、神学、そんなものが誰にでも、らくに書ける機械でした。教授は、その機械についていろいろ私に説明してくれました。 私はつづいて国語学校を訪ねました。 ここでは、教授が国語の改良をいろいろと熱心に考えていました。 一つの案は、言葉を全部しゃべらないことにしたらいい、というものでした。その方が簡単だし、健康にもよい、ものをしゃべれば、それだけ肺を使うことになるから、生命を縮める、というのです。 それで、その代わりに、こんなことが発明されました。言葉というものは、物の名前だから、話をしようとするときには、その物を持って行って、見せっこをすれば、しゃべらなくても意味は通じるというのです。 しかし、これにも一つ困ることがあります。それはちょっとした話なら、道具をポケットに入れて持って行けばいいのですが、話がたくさんある場合だと大へんです。そのときは、力の強い召使が、大きな袋に、いろんな品物を入れて、背負って行かなければなりません。"
有名な学者が研究していることと、機械が得意な教授のやっている研究の違いを教えてください。
有名な学者は、畑にもみがらを蒔くことを研究しており、さらに羊に毛の生えない薬を塗ることを、目下しきりに研究しているそうです。 一方私が次に会った教授は、一つの便利な機械を考える研究をしていました。その機械を使えば、どんな無学な人でも、何でも書けるのです。哲学、詩、政治学、数学、神学、そんなものが誰にでも、らくに書ける機械ということでした。
JCRRAG_014279
国語
息せききって、三人は本部へかけこんだ。そのとき本部につめあわしていた人々は、三人が気が変になったのではないかと思ったそうだ。 顔色は死人のように青ざめて血の気がなく、両眼はかっとむいたままで、まばたきもしない。そしてしきりに口をぱくぱくするのであるが、さっぱり言葉が出ない。出るのは、動物のなき声に似たかすれた叫びだけであったという。 それでも三人は、水をのませられたり、はげまされたりしてそれからしばらくして、気をとりなおしたのであった。そしてようやく三人が見た「地底の怪物」のことが、本部の人々に通じたのであった。 その物がたりは、こんどは本部の人々の顔をまっ青にかえた。なかには、それはこわいこわいと思うあまり、見ちがえたのであろうという者もあったが、三人がくりかえしのべる話を聞いているうちに、その者もやっぱり顔色をかえる組へはいっていった。 決死視察隊が編成された。 ふだんから強いことをいっている連中が二十名、それに警官が二名くわわり、金田と二少年を案内にさせて、第八十八鉱区の底へおりていったのである。 決死視察隊の一同が、そこで何を見たか、どんなにおどろいたかは、ここにあらためてのべるまでもあるまい。とにかく、その結果「地底の怪物」は「奇妙な緑色の死骸」とよばれ、本部へ報告され、さわぎはだんだんに大きくなっていった。 さらに大勢の社員や、警官などが、第八十八鉱区の中におりていった。 奇妙な死骸のまわりには、勇気のある人たちが、入れかわりたちかわり集ったり、散ったりした。 「何者ですかなあ、これは……」 「何者というよりも、これは人間だろうか」 「さあ、人間にはちがいないと思いますなあ、手足も首も胴もちゃんとそろっているのですからねえ」 「しかし角が生えていますよ。角の生えている人間がすんでいるなんて、私は聞いたことがない」 「そうだ、角が生えている。これは私たちが昔話で聞いた青鬼というものじゃないでしょうか」 「なにをいうんだ、ばかばかしい。今の世の中に青鬼なんかがすんでいるものですか。君は気がどうかしているよ」 「でも、そうとしか考えられないではないですか。それとも君は、なにかしっかりした考えがあるのですか」 「そういわれるとこまるが、とにかく私はね、この人間が着ている鎧をぬいでみれば、早いところその正体がわかると思うんだがね」 「鎧ですって。鎧ですか、これは。しかし、きちんと体にあっていますよ」 「きちんと身体に合っている鎧は、今までにもないことはありませんよ。中世紀のヨーロッパの騎士は、これに似た鎧を着ていましたからねえ」 「中世紀のヨーロッパの騎士の話なんかしても、仕方がありませんよ。ここはアジアの日本なんだからねえ。それに今は中世紀ではありませんよ。それから何百年もたっている皇紀二千六百十年ですからねえ」 集った人々の話は、いつまでたっても尽きなかった。しかしだれひとりとして、この奇妙なる死骸の正体をいいあてた者はなかった。 本部でもこまった。警察のほうでも、同じようにこまった。こまったあげく、ようやくきまったことは、東京へむけてこのことを急報し、だれかえらい学者に来てもらうことと、警視庁の捜査課の腕利きの捜査官にも来てもらうことであった。 さっそくこのことは、電話で東京へ通ぜられた。いきなりこの変な報告をうけた東京がわでは、やっぱり変な人が、電話口に出ていると思ったそうである。くどくどといくども説明をくりかえして、やっとわかってもらうことができた。 とにかくそれぞれのむきへも連絡して、できるだけ早く、東京から調査官をおくるから安心するように。それから奇妙な死骸のある現場はなるべくそのままにして、手をふれないようにせよと、東京がわから注意があった。 このような手配がすんで、鉱山の人々も、土地の警察も、ほっとひと安心した。 そこで人々の気持も、前よりはいくぶんゆっくりして来た。そのとき、ある人がきゅうに大きな声を出したので、まわりにいた人たちは、また何ごとが起ったかとおどろいた。 「そうだ。本社の研究所へ来ている理学士の帆村荘六氏にこれを見せるのがいい。あの人なら僕たちよりずっと物知りだから、きっと、もっとはっきりしたことが、わかるかもしれない」 「ああ、そうか。帆村理学士という名探偵が、うちの会社へ来ていたね。あの人は前に科学探偵をやっていたというから、これはいいかもしれない。もっと早く気がつけば、こんなにあわてるのではなかったのに……」 といっているとき、人々の中へぬっとはいって来た長身の人物があった。眼鏡をかけ、顔色のあさぐろい、そして大きい唇をもった人物であった。 「ああ、みなさん。あの奇妙な死骸が、どうしてこんな深い地底にあるかということが、はっきりわかりましたよ」 彼は太い音楽的な声で、そういった。 あつまっている人々は、声のするほうをふりむいた。 「おお、帆村さんだ。帆村さん、いつのまにここへ来られたのですか」 と、一同はおどろいて、帆村の顔をうちながめた。 さてこの帆村理学士は、奇妙な死骸の謎について、いったいどんな科学的解決をあたえたのであろうか。かれはもういつのまにやら、しらべを始めていたのだ。
奇妙な死骸の正体は分かったか。
奇妙な死骸の正体は誰一人として分からず、本部と警察も分からなかった。
JCRRAG_014280
国語
それから博士と伊藤青年がどんな活躍をしたかは分からない、翌日の朝十時、ロビーでお茶の時間が開かれた時、博士と伊藤豊治の二人は、さっぱりと身なりを改めて、片隅のテーブルで熱いコーヒーを啜っていた。 その日はばかに客が多く、朝食だけ食べに来たらしい紳士や、面会人と見える人々が、それぞれコーヒーを啜ったり、トーストとハムエッグをつついたりしていた。十時が十五分過ぎた頃だった。ホテルの表に一台の高級車が着いて、三人のヨーロッパ人がロビーへ入って来た。この三人は毎朝ここへ朝食だけを食べに来るので、いつも奥の方にきまってテーブルが用意されてあるくらいなじみの客だった。 入って来た三人は、訛りのあるフランス語で口やかましく話しながら、自分たちのテーブルに就いて煙草を取り出した、もう毎日のことで注文は分かっているらしく、やがてボーイ(伊藤青年に亡霊の話をしたボーイである)が銀盆の上へ、コーヒーやトーストやサラダを載せて運んで来た。 「お早うございます」 「ヤアオ早ウ、イイ天気デスネ」 「左様でございます、今日は特にベーコン・エッグを致しましたからどうかお試し下さいまし」 そういってボーイが、テーブルの上へ銀盆を置いた時である。突然うしろから訛りのない流暢なフランス語で、 「失礼ですが、そのベーコン・エッグは私の方へ頂きたいですね」 と声をかけた者がある、三人の外人がびくりとして振り返ると、そこには鹿谷博士がにやにやしながら立っていた。否、博士だけではない、意外にも今まで客のように見せていたロビーの人たち、およそ十七八名の紳士が、ぐるりと周囲を取り巻いているのだ、しかも手に手にピストルを持って。博士は冷やかに続けた、 「×××国の特務機関員諸君、もうじたばたしても駄目だよ、この通り網の口は締められたんだ。亡霊のからくりは暴露したぜ」 「あ! うぬ」 「手を挙げろ! 動くと射殺するぞ!!」 がんと喚きながら進み出たのは、老紳士と見せかけていた警視庁の高野刑事課長だった。三人の外国人は一瞬、紙のように血の気を失って、両手を挙げながら椅子から立った。 その隙である、例のボーイは影のように身をずらすとまるで弦を放れた矢のような勢いで地下室の方へ逃げだした。と見た博士が、 「伊藤、みどりさんを檻禁したのは彼奴だ、逃がすな!」 叫ぶよりはやく、伊藤青年は、 「くそっ」 と一声、弾丸のように走って、いま正に石の階段を半分まで駈け下りたボーイの背中へ、だっとばかり跳躍した。思い切った奇襲である。もんどり打って二人は、重なり合ったまま地下室へ転げ落ちる。 「衆生!」(支那語で「畜生」という意味) ボーイは獣のように喚くと、いきなり右手に短剣を抜いてはね起きた。伊藤青年は下から、だっと蹴り上げて置いて、素早く寄身になると、力任せに右手の拳で相手の顎を突き上げた。 「あ!」 とよろめくところをもう一撃。 「この豚野郎ッ」 とばかり、鼻柱をへし折れよと叩きつけた。妹を苦しめた仇と思う憤怒の拳だ。ボーイは鼻から血を迸らせながらのけぞって倒れた。 「みごとみごと、もう堪忍してやりたまえ」 博士が階段口から愉快そうに叫んだ。 「それ以上やると死んでしまうだろう。あとは警視庁の諸君に任せるが宜い、それより早くみどりさんを助けるんだ」 伊藤青年は倒れているボーイ(それは実は支那人であった)の脇腹をひとつ、がんと蹴っておいて、物置部屋の方へ駈けだした。 それから一時間の後。 伊藤兄妹は博士の部屋で、熱いコーヒーを啜りながら、事件の謎を解く博士の言葉を聞いていた。 「彼らは×××国のスパイだった。あのボーイは中国の人で、勿論彼らの手先なのだ。亡霊の話は、あの部屋へ人を近寄らせないためだったが、その理由はあの部屋が秘密の連絡に使われていたからだ。どういう方法で連絡を取ったかというと、あの紙を裂くような音、あれがその機械だ。別のスパイが第×連隊の横に張り込んでいて、連隊の移動状態を探り、それを光線通信であの部屋へ送っていたのだ」 「ですが先生、もし夜間に光線で通信すればすぐ発見されるではありませんか、現にゆうべ僕たちが見張っていたのに、別になんの光も見えなかったですよ」 「だからさ、見えない光線を使ったのだ」 博士は微笑しながら続けた。 「つまり赤外線だ。兵営の付近から特殊な機械で、この部屋へ向かって赤外線を放射する。君も知っている通り赤外線は人間の眼には見えないものだ。しかし同じ受感装置には感じるから、光線を受けると同時に自動的に動きだし、眼に見えぬ通信を完全に記録するんだ。ゆうべ壁のところでカチリと音がして、小さな火花が閃めいたろう。あのとき記録装置が活動を始めたのだ。それから白い亡霊。あれは例の中国人ボーイが化けたのだが、あれがその記録を取り外し、朝になってあの三人の外人に給仕をする時、そっと手から手へ渡すという仕組みなのさ。実に敵ながらあっぱれ、赤外線を使ったのはスパイ戦はじまって以来これが最初だろうよ」 「ところで、どうして先生はこれをスパイ事件だとお気付きになりましたか?」 「初めはそこまで気がつかなかったね。ただあのボーイが、得意そうに亡霊の話をしたので、こいつは怪しいと思ったのだ。なぜって、客商売してる者が、聞かれもしないのに客のいやがる亡霊の話などをする筈がないからなあ。これは何かある! と睨んだよ、その次にみどりさんの行方不明を聞いたので、たしかにこの家に何かあると感付いた。そして何の気もなく外の空気を吸おうとして窓を明けたところが、向こうに第×連隊の営舎があるのをみつけたので、そう、一種の霊感だな、本能的にこれはスパイ事件に違いない! と思ったんだ。すると毎朝あの三人の外人が、きまってロビーへ朝飯に来る事、その給仕はあの男に限っている事などがはっきり思い出された。こうなればあとは簡単さ、みどりさんを縛ったままにして置けば、彼奴はまだ自分の罪がバレたした事に気付かず、堂々とロビーで連絡を取るに違いない、そう思った事が図星に当たった。頼んで置いた警視庁の諸君も、なかなか立派に芝居をしてくれたよ」 そして博士は次の様に言葉を結んだ。 「つまり奴等はやり過ぎたのさ。不必要な場合に亡霊を宣伝し、また僕の研究の秘密を盗もうとして、運悪く来てしまったみどりさんを檻禁した。この二つが自ら事件を暴く糸口を作ったようなもんだからなあ、ことわざで言うだろう、それ、過ぎたるは及ばざるに如しかず、とね、あははははは」
ボーイは伊藤に殴られてどうなりましたか。
ボーイは鼻から血を迸らせながらのけぞって倒れた。
JCRRAG_014281
国語
「犬」という字が一字きり大きく黒板に書かれてあります。先生はその前を右へいったり左へいったり、ときにはそこから生徒たちの方へおりてきて、生徒たちがせっせと作文を書いているのをのぞいたりします。みんなは頭を動かし動かし犬のことを作文に書いています。家でかっている犬のこと。かわいそうなのら犬のこと。どこかの犬にほえつかれたこと。それぞれかわったことを書いています。 いちばんうしろの、えんぴつけずりの前では酒屋の次郎君がこつこつと書いています。先生が書く前になんども字を美しくきれいに書かねばなりませんと注意なさったにもかかわらず、ごてごてと汚く書きこんでいます。けしゴムがそこにあるのに書きちがえると指の先につばをつけてこすってしまいます。とてもめんどうくさくてけしゴムなんか使っていられません。というのは次郎くんは世界中で一ばんすきな「西郷隆盛」のことを書いているからです。 「西郷隆盛」ってあの大英雄のことでしょうか? そうではありません。それは次郎くんの作文を読めばわかります。 「ぼくんちの犬は西ごうたかもりという名です。もうせんお父さんがあさがやの西川さんちからもらってきました。西川さんちには六ぴきも生まれてみんなごうけつの名をつけました。秀吉、ナポレオン、ばんずいん長べえ、とうごう大将、猿飛佐助、西ごうたかもりであります。それでお父さんは西ごうたかもりをもらってきました。西ごうたかもりはぼくが大すきです。ぼくが西ごうたかもりとよぶと走ってきます。ぼくがボールを投げてやるとひろってきます。そっとくわえてくるのでボールははれつしません。ミットでもひろってきます。靴でも帽子でもなんでもぼくが投げてやるとひろってきます。それでそっとくわえてくるのでやぶれません。また西ごうたかもりはじっさいつよい。ほかの犬がきても西ごうたかもりがううとうなるとこそこそとにげていってしまいます。めったにわんとなきません。わんわんとよくなく犬はよわんぼであります。それで西ごうたかもりが番しているのでぼくんちはごうとうがはいっても大丈夫です。」 これでおわかりでしょう。「西郷隆盛」というのは次郎君ちの犬のことです。 そんなことを次郎君がこつこつ書いているすぐ隣りの机では森川君がこんなことを書いています。 「前からほしいほしいと思っていた犬をお父さんが買ってきてくれた。シェパードである。毛がふさふさしていてかるく走るとき、それがゆらゆらゆれてみるからに美しい。 シェパードは純すいな犬である。シェパードはだから頭がよい。雑種の犬は頭がよくない。北君(次郎君のこと)ちの西ごうたかもりなんかは雑種だから猟犬にはなれないと犬屋の人が語ってくれた。――」 「筆をおいて」と先生がおっしゃいました。みんなが筆をおくとさらにこうおっしゃいます。「ではいちばんうしろの北次郎君から読んでください。」 次郎くんはあわてて、筆入れをひっくりかえしたり、机のふたをひっかけたり、がたがたとそうぞうしく立ちあがります。次郎君が立ちあがるときはいつもそうなのですが、今日は自分の作文に夢中になっているので、よけいそういうことになります。 声がふるえて、どもって、ちっともうまく読めません。まるでしかられているようにどぎまぎしてやっと読みおわります。どうです西郷隆盛のすばらしいことはわかってくれましたか。次郎君は腰をおろして先生の顔をみつめました。 「乙の上」と先生は冷然とおっしゃいます。やれやれ。こんなにすばらしく書いたのにやっぱり乙の上か。 こんどは森川君が立ちあがって読みはじめました。 「――雑種の犬は頭がよくない。北くんちの西ごうたかもりなんかは雑種だから猟犬にはなれない――」 それを聞いて次郎くんはぴくりと耳を動かしました。そしてかんかんにおこってしまいました。こんな侮辱があるもんか。次郎くんは自分が侮辱されたように腹を立てました。先生がみていなきゃ、いますぐおどりかかって、得意の手でノックアウトするところです。次郎くんは下唇をかみしめてこらえました。 「甲の上」と先生は次郎くんの気持ちも知らぬげに森川くんの作文によい点をおつけになりました。
ほかの犬がきてもぼくんちの犬がううとうなるとどうなりますか。
ほかの犬がきてもぼくんちの犬がううとうなるとこそこそとにげていきます。
JCRRAG_014282
国語
私はこの国で、別にいじめられたわけではないのです。だが、どうも、なんだか、みんなから馬鹿にされているような気がしました。この国では、王も人民も、数学と音楽のことのほかは、何一つ知ろうとしないのです。だから私なんか、どうも馬鹿にされるのでした。 ところが、私の方でも、この島の珍しいものを見物してしまうと、もう、そこの人間たちには、あきあきしてしまいました。彼らはいつも、何か我を忘れて、ぼんやり考え事に耽っているのです。付き合う相手として、これほど不愉快な人間はいません。 五人と話すと三人はぼんやりしているのです。 で、私はいつも女や、商人や、叩き役、侍童などとばかり話をしました。 ものを言って、筋の通った返答をしてくれるのは、こういう連中だけでした。 四人の女、三人の商人、五人の叩き役、六人の侍童とは非常に楽しく話をできたことをおぼえています。 私は勉強したので、彼らの言葉はだいぶん話せるようになっていました。で、私はこうして、ほとんど相手にもしてもらえないような国で、じっとしているのが、たまらなくなったのです。一日も早く、この国を去ってしまいたいと思いました。 私は陛下にお願いして、この国から出られるようにしてもらい、二月十六日に、王と宮廷に別れを告げました。ちょうどそのとき、島は首府から二マイルばかり郊外の山の上を飛んでいましたので、私は一番下の通路から、鎖を吊り下げてもらって地上におりました。
私が楽しく話ができた人間のうち、もっとも人数が少ないものを教えてください。
私が楽しく話ができた人間のうち、もっとも人数が少ないのは商人で三人です。
JCRRAG_014283
国語
お嬢さんや坊ちゃんに追い出された白は東京中をうろうろ歩きました。しかしどうしても、忘れることのできないのはまっ黒になった姿のことです。白は客の顔を映している理髪店の鏡を恐れました。雨上がりの空を映している往来の水たまりを恐れました。往来の若葉を映している飾窓の硝子ガラスを恐れました。いや、カフェのテーブルに黒ビールをたたえているコップさえ、けれどもそれが何になるでしょう? あの自動車を御覧なさい。ええ、あの公園の外にとまった、大きな黒塗りの自動車です。漆を光らせた自動車の車体は今こちらへ歩いて来る白の姿を映していました。はっきりと、鏡のように。白の姿を映すものはあの客待の自動車のように、到るところにあるわけなのです。もしあれを見たとすれば、どんなに白は恐れるでしょう。それ、白の顔を御覧なさい。白は苦しそうにうなったと思うと、たちまち公園の中へかけこみました。 公園の中の鈴懸の若葉にかすかな風が吹いています。白は頭を垂れたなり、木々の間を歩いて行きました。ここには幸い池のほかには、姿を映すものも見当たりません。物音はただ白薔薇に群がる蜂の声が聞こえるばかりです。白は平和な公園の空気に、しばらくはみにくい黒犬になった日ごろの悲しさも忘れていました。 しかしそういう幸福さえ五分と続いたかどうかわかりません。白はただ夢のように、ベンチに並んでいるみちばたへ出ました。するとその路の曲がり角の向こうにけたたましい犬の声が起ったのです。 「きゃん。きゃん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」 白は思わず身震いをしました。この声は白の心の中へ、あの恐ろしい黒の最後をもう一度はっきり浮かばせたのです。白は目をつぶったまま、元来た方へ逃げ出そうとしました。けれどもそれは言葉通り、ほんの一瞬の間のことです。白は凄すさまじい唸り声をもらすと、きりりとまた振り返りました。 「きゃあん。きゃあん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」 この声はまた白の耳にはこういう言葉にも聞こえるのです。 「きゃあん。きゃあん。臆病ものになるな! きゃあん。臆病ものになるな!」 白は頭を低くするが早いか、声のする方へ駈け出しました。 けれどもそこへ来て見ると、白の目の前へ現れたのは犬殺しなどではありません。ただ学校の帰りらしく、洋服を着た子供が二、三人、頸のまわりへ縄をつけた茶色の子犬を引きずりながら、何かわいわい騒いでいるのです。子犬は一生懸命に引きずられまいともがきもがき、「助けてくれえ。」と繰り返していました。しかし子供たちはそんな声に耳を貸すけしきもありません。ただ笑ったり、怒鳴ったり、あるいはまた子犬の腹を靴で蹴ったりするばかりです。 白は少しもためらわずに、子供たちを目がけて吠えかかりました。不意を打たれた子供たちは驚いたの驚かないのではありません。また実際白のようすは火のように燃えた眼の色といい、刃物のようにむき出した牙の列といい、今にも噛みつくかと思うくらい、恐ろしいけんまくを見せているのです。子供たちは四方へ逃げ散りました。中には余り狼狽したはずみに、みちばたの花壇へ飛びこんだのもあります。白は二・三間追いかけた後のち、くるりと子犬を振り返ると、しかるようにこう声をかけました。 「さあ、おれといっしょに来い。お前の家まで送ってやるから。」 白は元来た木々の間へ、まっしぐらにまた駈けこみました。茶色の子犬も嬉しそうに、ベンチをくぐり、薔薇を蹴散らしちらし、白に負けまいと走って来ます。まだ頸にぶら下がった、長い縄をひきずりながら。
白が東京中を歩いて恐れた物は何個ありますか。
白が東京中を歩いておそれた物は4個で、 「客の顔を映している理髪店の鏡」 「雨上がりの空を映している往来の水たまり」 「往来の若葉を映している飾窓のガラス」 「カフェのテーブルに黒ビールをたたえているコップ」 です。
JCRRAG_014284
国語
私はつづいて、政治の発明家たちを訪ねましたが、この教室では、あまり愉快な気持にはされなかったのです。 この教室で、一人の医者がこんな研究をしていました。大臣などというものは、どうも物忘れがひどくて困るとは、誰もが言う苦情ですが、これを防ぐには、次のようにすればいいというのです。つまり、大臣に面会したときには、できるだけ、わかりやすい言葉で用件を伝えておいて、別れぎわに、一つ、大臣の鼻を一回つまむとか、腹を二回蹴るとか、腕を三回つねるとか、なんとかして、約束したことは忘れないようにさせるのです。そしてその後も、面会するたびに同じことを繰り返し、約束したことは実行してもらうようにするのです。 また、別の医者は、政党の争いをうまく停める方法を研究していました。 それは、まず両方の政党から六十人の男性議員と四十人の女性議員、合計で百人の議員を選んできて、これを二人ずつ、頭の大きさの似たもの同士の組にしておきます。それから、それぞれ両方の頭をのこぎりでひいて、二つに分けます。こうして切り取った半分の頭を、それぞれ取り換えっこして、反対派の頭にくっつけるのです。 また別の部屋で私は、二人の教授がしきりに議論しているのを聞きました。どうしたら、人民を苦しめないで、税金を集めることができるかという議論でした。 一人の教授の意見では、悪徳や愚行に税金をかけるのがいい、というものでした。ところが、もう一人の教授の意見では、人がその自惚れている長所に税金をかけたらいい、というのです。"
二人の医者がやろうとしている研究の違いを教えてください。
医者は物忘れのひどい大臣のために、大臣に面会したときには、できるだけわかりやすい言葉で用件を伝えておいて、別れぎわに、一つ、大臣の鼻を一回つまむとか、腹を二回蹴るとか、腕を三回つねるとか、なんとかして、約束したことは忘れないように繰り返す研究だそうです。 一方、別の医者は、政党の争いをうまく停めるために方法を研究していました。まず両方の政党から百人の議員を選んできて、これを二人ずつ、頭の大きさの似たもの同士の組にして、それぞれ両方の頭をのこぎりでひいて、二つに分けます。こうして切り取った半分の頭を、それぞれ取り換えっこして、反対派の頭にくっつけるという研究です。
JCRRAG_014285
国語
東京からは係官が来るかわりに有名な特別刑事調査隊の七人組がやってきた。 この七人組は、刑事事件に長い間の経験を持った、老弁護士の集団から選び出された人たちで、当局からも十分信頼されて居り、係官と同じ検察権が特に与えられていた。 この七人組は、「奇妙な死骸」事件の話を聞くと、特に志願して、この事件の解決にあたることになったのである。当局としては、戦時下非常にいそがしい折柄でもあるので、七人組の申し出をたいへん喜び、それに事件をまかせることにしたのである。 この特別刑事調査隊長を室戸博士といい、残りの六人も全部博士であった。殊に甲斐博士という人は、法学博士と医学博士との、二つの肩書を持っている人で、法医学には特にくわしい知識をもち、一行の中で一番年齢が若かった。それでも氏は、五十五歳であった。 このようにすぐれた博士組が、この鉱山へ来てくれたので、事務所はもちろん、東京本社でも大喜びだったし、この怪事件にふるえあがっていた土地の人々も、大安心をしたのであった。 調査隊の取調べが始った。さすがにその道の老練家たちだけあって、やることがきびきびしていた。 坑道のあらゆる底が調べあげられた。そして石膏で模型が作りあげられた。その結果、この怪物は土中から出てきたのではないことがあきらかとなった。 現場の写真が何十枚となくうつされた。竪坑の寸法が測られた。径が六メートルあった。 竪坑のあらゆる壁が調べられた。そして三箇所において、この怪物がぶつかったと思われる痕が発見された。怪物が竪坑を下へと落ちてきたことは、いよいよあきらかとなった。 怪物の死骸は、現場で立体写真におさめられ、実物と寸分ちがわない模型を作りあげる仕事が進められた。それからこの怪物のからだに附着していた土が小さく区分されて、いちいち別の容器におさめられた。 坑道内の土も、全部集められた。 七人の博士について来た助手たちは、ほとんど一睡もとらないで、この仕事を続けた。この怪物の頭部の後に、第三の眼らしきものがついているのが発見されたのも、この時であった。身体の要所要所の寸法も、くわしく測って記録された。 あらゆる記録が、これで揃った。隊長の室戸博士は、この報告を受取って、たいへん満足した。 「それでは、あとを甲斐博士にお願いするかな」 と、隊長は、甲斐博士の方に目くばせをした。 「はい。ようやくお許しが出ましたよ。それでは私が解剖をお引受けいたしましょう」 甲斐博士は、にっこりと笑った。 解剖が最後に残されたのであった。 きれいに水で洗われた怪物の死骸が、白い担架の上から、解剖台の上にのせられた。 「おい。甲斐博士。ここで執刀するのかね」と、隊長が聞いた。 「はい。ここの方がよろしゅうございます。静かでもありますし、このとおり照明も十分できていますから……」と、甲斐博士が答えた。 「地上へ持って行こうじゃないか。解剖している途中で、臭気が発散すると、ここでは困るぞ」 「賛成ですな。くさくて息がつまるかもしれない。すでにこの死骸は十数日たっていますからな」と、隊員の一人がいった。 「では、そうしましょう」 甲斐博士は、すなおに隊長室戸博士の説に従った。怪物の死骸は、地上へ運ばれることとなった。それを聞いていた次長は、はっと顔色を変えた。今日はあいにく帆村荘六がこの席にいないが、彼はこの怪物をここから出すことをかたく戒めて行ったのだ。そこで次長は前へ進み出て、そのことを注意した。 すると室戸博士は首を左右にふった。 「根拠がないね、この死骸を動かしてはいかんというのは……。われわれの診断によると、これはもう死んでいるのだ。心臓の音を顕微音聴診器できいても、全く無音だ。死んでしまっているものを、どこへ持っていこうと心配はないじゃないか」 この七人組の博士たちは、なかなか偉い人たちの集りで、少しも欠点がなかったが、しいて欠点をあげると、少しばかり頑固なところがあった。他人の言うことを、あまり取上げないのであった。それは刑事事件に対する自分たちの永い経験と、強い自信からきているようであった。次長はもう黙っているほかなかった。 怪物の死骸は、滑車にとおした長い綱によって、簡単に地上へ運ばれた。そこにはすでに、解剖に便利なように、天幕が張られてあった。 怪物の死骸は、白い解剖台の上に載せられた。そのころ地底へ持っていってあった甲斐博士の解剖用道具が、つぎつぎに竪坑の下からあがって来た。 甲斐博士はすっかり白装束の支度をしていた。背中には、いつでも役に立つようにと、防毒面がくくりつけてあった。用意はすっかり整ったのだ。 甲斐博士が、電気メスを右手に握って、怪物の死骸に近づいた。その時だった。死骸をおさえつけていた助手の一人が、 「あっ」と叫ぶと、 「先生、この死骸は生きているのじゃないでしょうか。心臓の鼓動らしいものを感じます」と、早口でいった。 「ばかなことをいうな。私は何度も聴診したが、心臓の鼓動なんて一度も聞えなかった。それに、ほら、こんなに冷え切っている……」 と、甲斐博士は、怪物の死骸に手をふれて助手を叱りつけようとしたが、そのとき博士の顔色は、なぜかさっと変って、紙のように白くなった。
特別刑事調査隊の隊長である室戸博士は、報告を受け取った後何をしたか。
特別刑事調査隊の隊長である室戸博士は、報告を受け取った後、甲斐博士に解剖を依頼した。
JCRRAG_014286
国語
それから博士と伊藤青年がどんな活躍をしたかは分からない、翌日の朝十時、ロビーでお茶の時間が開かれた時、博士と伊藤豊治の二人は、さっぱりと身なりを改めて、片隅のテーブルで熱いコーヒーを啜っていた。 その日はばかに客が多く、朝食だけ食べに来たらしい紳士や、面会人と見える人々が、それぞれコーヒーを啜ったり、トーストとハムエッグをつついたりしていた。十時が十五分過ぎた頃だった。ホテルの表に一台の高級車が着いて、三人のヨーロッパ人がロビーへ入って来た。この三人は毎朝ここへ朝食だけを食べに来るので、いつも奥の方にきまってテーブルが用意されてあるくらいなじみの客だった。 入って来た三人は、訛りのあるフランス語で口やかましく話しながら、自分たちのテーブルに就いて煙草を取り出した、もう毎日のことで注文は分かっているらしく、やがてボーイ(伊藤青年に亡霊の話をしたボーイである)が銀盆の上へ、コーヒーやトーストやサラダを載せて運んで来た。 「お早うございます」 「ヤアオ早ウ、イイ天気デスネ」 「左様でございます、今日は特にベーコン・エッグを致しましたからどうかお試し下さいまし」 そういってボーイが、テーブルの上へ銀盆を置いた時である。突然うしろから訛りのない流暢なフランス語で、 「失礼ですが、そのベーコン・エッグは私の方へ頂きたいですね」 と声をかけた者がある、三人の外人がびくりとして振り返ると、そこには鹿谷博士がにやにやしながら立っていた。否、博士だけではない、意外にも今まで客のように見せていたロビーの人たち、およそ十七八名の紳士が、ぐるりと周囲を取り巻いているのだ、しかも手に手にピストルを持って。博士は冷やかに続けた、 「×××国の特務機関員諸君、もうじたばたしても駄目だよ、この通り網の口は締められたんだ。亡霊のからくりは暴露したぜ」 「あ! うぬ」 「手を挙げろ! 動くと射殺するぞ!!」 がんと喚きながら進み出たのは、老紳士と見せかけていた警視庁の高野刑事課長だった。三人の外国人は一瞬、紙のように血の気を失って、両手を挙げながら椅子から立った。 その隙である、例のボーイは影のように身をずらすとまるで弦を放れた矢のような勢いで地下室の方へ逃げだした。と見た博士が、 「伊藤、みどりさんを檻禁したのは彼奴だ、逃がすな!」 叫ぶよりはやく、伊藤青年は、 「くそっ」 と一声、弾丸のように走って、いま正に石の階段を半分まで駈け下りたボーイの背中へ、だっとばかり跳躍した。思い切った奇襲である。もんどり打って二人は、重なり合ったまま地下室へ転げ落ちる。 「衆生!」(支那語で「畜生」という意味) ボーイは獣のように喚くと、いきなり右手に短剣を抜いてはね起きた。伊藤青年は下から、だっと蹴り上げて置いて、素早く寄身になると、力任せに右手の拳で相手の顎を突き上げた。 「あ!」 とよろめくところをもう一撃。 「この豚野郎ッ」 とばかり、鼻柱をへし折れよと叩きつけた。妹を苦しめた仇と思う憤怒の拳だ。ボーイは鼻から血を迸らせながらのけぞって倒れた。 「みごとみごと、もう堪忍してやりたまえ」 博士が階段口から愉快そうに叫んだ。 「それ以上やると死んでしまうだろう。あとは警視庁の諸君に任せるが宜い、それより早くみどりさんを助けるんだ」 伊藤青年は倒れているボーイ(それは実は支那人であった)の脇腹をひとつ、がんと蹴っておいて、物置部屋の方へ駈けだした。 それから一時間の後。 伊藤兄妹は博士の部屋で、熱いコーヒーを啜りながら、事件の謎を解く博士の言葉を聞いていた。 「彼らは×××国のスパイだった。あのボーイは中国の人で、勿論彼らの手先なのだ。亡霊の話は、あの部屋へ人を近寄らせないためだったが、その理由はあの部屋が秘密の連絡に使われていたからだ。どういう方法で連絡を取ったかというと、あの紙を裂くような音、あれがその機械だ。別のスパイが第×連隊の横に張り込んでいて、連隊の移動状態を探り、それを光線通信であの部屋へ送っていたのだ」 「ですが先生、もし夜間に光線で通信すればすぐ発見されるではありませんか、現にゆうべ僕たちが見張っていたのに、別になんの光も見えなかったですよ」 「だからさ、見えない光線を使ったのだ」 博士は微笑しながら続けた。 「つまり赤外線だ。兵営の付近から特殊な機械で、この部屋へ向かって赤外線を放射する。君も知っている通り赤外線は人間の眼には見えないものだ。しかし同じ受感装置には感じるから、光線を受けると同時に自動的に動きだし、眼に見えぬ通信を完全に記録するんだ。ゆうべ壁のところでカチリと音がして、小さな火花が閃めいたろう。あのとき記録装置が活動を始めたのだ。それから白い亡霊。あれは例の中国人ボーイが化けたのだが、あれがその記録を取り外し、朝になってあの三人の外人に給仕をする時、そっと手から手へ渡すという仕組みなのさ。実に敵ながらあっぱれ、赤外線を使ったのはスパイ戦はじまって以来これが最初だろうよ」 「ところで、どうして先生はこれをスパイ事件だとお気付きになりましたか?」 「初めはそこまで気がつかなかったね。ただあのボーイが、得意そうに亡霊の話をしたので、こいつは怪しいと思ったのだ。なぜって、客商売してる者が、聞かれもしないのに客のいやがる亡霊の話などをする筈がないからなあ。これは何かある! と睨んだよ、その次にみどりさんの行方不明を聞いたので、たしかにこの家に何かあると感付いた。そして何の気もなく外の空気を吸おうとして窓を明けたところが、向こうに第×連隊の営舎があるのをみつけたので、そう、一種の霊感だな、本能的にこれはスパイ事件に違いない! と思ったんだ。すると毎朝あの三人の外人が、きまってロビーへ朝飯に来る事、その給仕はあの男に限っている事などがはっきり思い出された。こうなればあとは簡単さ、みどりさんを縛ったままにして置けば、彼奴はまだ自分の罪がバレたした事に気付かず、堂々とロビーで連絡を取るに違いない、そう思った事が図星に当たった。頼んで置いた警視庁の諸君も、なかなか立派に芝居をしてくれたよ」 そして博士は次の様に言葉を結んだ。 「つまり奴等はやり過ぎたのさ。不必要な場合に亡霊を宣伝し、また僕の研究の秘密を盗もうとして、運悪く来てしまったみどりさんを檻禁した。この二つが自ら事件を暴く糸口を作ったようなもんだからなあ、ことわざで言うだろう、それ、過ぎたるは及ばざるに如しかず、とね、あははははは」
博士が敵ながらあっぱれといったのはなぜですか。
赤外線を使ったのはスパイ戦はじまって以来これが最初だろうと思ったからです。
JCRRAG_014287
国語
つぎは体操の時間です。 紅白の帽子の列が東と西に向きあってならんでいます。先生がまん中で笛をふきました。わあっとかん声があがります。紅白の波は向きあって進んできてぶつかります。それからはいりみだれて帽子のとりっくらです。勝負なかばでふたたび笛が鳴ります。すると帽子をとられた者も、まだとられない者もさあっと東西にひきあげていきます。 ところが真中にふたりの少年がお互いに相手の腕をつかんだままにらみあって立っています。足を四方にふんばっていっかな動こうとしません。そのくせふたりとも帽子はとっくにとられて頭は陽にさらされているのです。ふたりは次郎くんと森川くんです。 先生がゆっくり近よってこられました。 「お前らは何をやっているのか。」と笑っておっしゃいます。 ふたりはだまっています。 「角力か。」 両側でどっと笑い声が起こります。 「北君がはなさないんです。」と森川君がやっと口をききました。 「うそです。森川くんがはなさないんです。」と次郎くんもだまってはいません。 「そんな猛獣みたいな顔をしていないで、さあわかれろわかれろ。」 そこでふたりは相手をはなして自分自分の列に帰っていきました。 帽子とりがすむと、やれやれ、こんどは長距離競走です。コースは学校の外側をぐるぐると二周するのです。先生は4キロとおっしゃいましたがなんて長いコースでしょう。4キロってこんなに長いのでしょうか。 スタートはきられました。赤も白もクラス全部の者が走るのです。門を出るときにはもう横の列が縦の列にかわっていました。しんがりはふたりです。次郎君と森川君です。 次郎君はなまけているのではありません。せいいっぱい走っているのです。それでもしんがりです。いつもこうです。だから長距離は嫌です。もっとも短距離でも次郎君はいつもしんがりでした。けれど短距離ならばあまり差が大きくならないうちに決勝点についてしまいます。ところが長距離では、そういうわけにはいきません。どんどんとりのこされて、あたりをみまわしてもだれもいなくなってしまうのです。いえ、たったひとり道づれがいつもありました。それが森川君です。森川君もやはり次郎君のようにせいいっぱい走るんですが、スピードが出ないのです。いつもそうなのです。
なぜ次郎くんは森川くんに対して強いライバル意識を持っているのか。
次郎君と森川君は、競技の結果などで競争が続いているから。
JCRRAG_014288
国語
さっそく、三百人の大工と二百人の技師に言いつけて、この国で一番大きな機械を持ち出すことになりました。それは長さ七フィート、幅四フィートの木の台で、二十二箇所の車輪がついています。私が眠り薬のおかげで、ぐっすり何も知らないで眠っている間に、この車が私の身体にぴったり横づけにされていました。だが、眠っている私をかつぎ上げて、この事に乗せるのは大へんなことだったらしいのです。 まず第一に、高さ一フィートの柱を八十本立て、それから、私の身体をぐるぐるまきにしている紐の上に、丈夫な綱をかけました。そして、この綱を柱にしかけてある滑車で、えんさえんさと引き上げるのです。九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬と九百人の男が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。もっとも、これは、みんなあとから人に聞いて知った話なのです。 車が動きだしてから、四時間もした頃のことです。何か故障のため、車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二・三人の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか、それを見るために、わざわざ車によじのぼって来ました。 はじめは、そっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を、私の鼻の孔にグイと突っ込んだものです。こよりで、つつかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず、大きなくしゃみと一緒に私は目がさめました。 日が暮れてから、車は休むことになりましたが、私の両側には、それそれ五百人の番兵が、弓矢をかかげ、百人の番兵がたいまつをかかげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものなら、すぐ取り押さえようとしていました。翌朝、日が上ると、車はまた進みだしました。そして正午頃、車が都の近くにやって来ました。皇帝も、大臣も、みんな出迎えました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、それは危険でございます、と言って、大臣たちはとめていました。
車が休むことになった時に、私の両側にいた番兵の中で数が多いほうを教えてください。
車が休むことになった時に、私の両側にいた番兵の中で数が多いほうは弓矢をかかげている番兵で五百人です。
JCRRAG_014289
国語
二、三時間たった後、白は貧しいカフェの前に茶色の子犬とただ、たたずんでいました。昼も薄暗いカフェの中にはもう赤あかと電燈がともり、音のかすれた蓄音機は浪花節か何かやっているようです。子犬は得意そうに尾を振りながら、こう白へ話しかけました。 「僕はここに住んでいるのです。この大正軒というカフェの中に。おじさんはどこに住んでいるのです?」 「おじさんかい?おじさんはずっと遠い町にいる。」 白は寂しそうにため息をつきました。 「じゃもうおじさんは家へ帰ろう。」 「まあお待ちなさい。おじさんの御主人はやかましいのですか?」 「御主人? なぜまたそんなことをたずねるのだい?」 「もし御主人がやかましくなければ、今夜はここに泊まって行って下さい。それから僕のお母さんにも命拾いの御礼をいわせて下さい。僕の家には牛乳だの、カレーライスだの、ビフテキだの、いろいろな御馳走があるのです。」 「ありがとう。ありがとう。だがおじさんは用があるから、御馳走になるのはこの次にしよう。じゃお前のお母さんによろしく。」 白はちょっと空を見てから、静かに敷石の上を歩き出しました。空にはカフェの屋根のはずれに、三日月もそろそろ光り出しています。 「おじさん。おじさん。おじさんといえば!」 子犬は悲しそうに鼻を鳴らしました。 「じゃ名前だけ聞かせて下さい。僕の名前はナポレオンです。ナポちゃんだのナポ公だのともいわれますけれども。おじさんの名前は何というのです?」 「おじさんの名前は白というのだよ。」 「白ですか? 白というのは不思議ですね。おじさんはどこも黒いじゃありませんか?」 白は胸が一ぱいになりました。 「それでも白というのだよ。」 「じゃ白のおじさんといいましょう。白のおじさん。ぜひまた近い内に一度来て下さい。」 「じゃナポ公、さよなら!」 「ごきげんよう、白のおじさん! さようなら、さようなら!」
ナポレオンの家のご馳走の例として挙げられている数を教えてください。
ナポレオンの家のご馳走の例として挙げられている数は3で、 「牛乳」、 「カレーライス」、 「ビフテキ」 です。
JCRRAG_014290
国語
私はつづいて、政治の発明家たちを訪ねましたが、この教室では、あまり愉快な気持にはされなかったのです。 この教室で、一人の医者がこんな研究をしていました。大臣などというものは、どうも物忘れがひどくて困るとは、誰もが言う苦情ですが、これを防ぐには、次のようにすればいいというのです。つまり、大臣に面会したときには、できるだけ、わかりやすい言葉で用件を伝えておいて、別れぎわに、一つ、大臣の鼻を一回つまむとか、腹を二回蹴るとか、腕を三回つねるとか、なんとかして、約束したことは忘れないようにさせるのです。そしてその後も、面会するたびに同じことを繰り返し、約束したことは実行してもらうようにするのです。 また、別の医者は、政党の争いをうまく停める方法を研究していました。 それは、まず両方の政党から六十人の男性議員と四十人の女性議員、合計で百人の議員を選んできて、これを二人ずつ、頭の大きさの似たもの同士の組にしておきます。それから、それぞれ両方の頭をのこぎりでひいて、二つに分けます。こうして切り取った半分の頭を、それぞれ取り換えっこして、反対派の頭にくっつけるのです。 また別の部屋で私は、二人の教授がしきりに議論しているのを聞きました。どうしたら、人民を苦しめないで、税金を集めることができるかという議論でした。 一人の教授の意見では、悪徳や愚行に税金をかけるのがいい、というものでした。ところが、もう一人の教授の意見では、人がその自惚れている長所に税金をかけたらいい、というのです。"
二人の教授が議論している人民を苦しめないで、税金を集めることができるかという方法の違いを教えてください。
二人の教授がしきりに議論しているのを聞きました。どうしたら、人民を苦しめないで税金を集めることができるかという議論でした。一人の教授の意見では、悪徳や愚行に税金をかけるのがいい、というものでした。 ところが、もう一人の教授の意見では、人が自惚れているであろう長所に税金をかけたらいい、というものでした。
JCRRAG_014291
国語
甲斐博士が、恐しそうに身を後に引くのと、怪物の死骸がぴょんと跳ね上がるのとが同時であった。 「あっ」 解剖に立会っていた者で、青くならない者はなかった。 怪物の死骸――いや、死んだものとばかり思っていた、その怪物の身体は、解剖台の上に突立った。あまりのすごさに、人々は思わず下にひれ伏した。 と、怪物の身体は、台の上で独楽のようにきりきりと舞いだした。それが見るまに台から上にとびあがったと思うと、天幕を頭でつきあげた。ばりばりぷつんと、天幕の紐が切れる音が聞えた。すると天幕がばさりと下に崩れ落ち、次にその天幕は地上を滑って走りだした。その後で、解剖台が大きな音をたててひっくりかえったので、人々はびっくりして目をとじた。 やがて人々が目を開いたときには、天幕はもう百メートルも向こうの山腹を走っていくのが見えた。なんといっていいか、その奇怪な光景は、文章にも絵にも書きあらわせない。 「追え。あれを追え」 そう叫んだのは、隊長の室戸博士の声だった。若い助手たちは、隊長の声に、ようやく我にかえった。そして青い顔のままで、逃げて行く天幕のあとを追いかけた。 「追いつけないようだったら、ピストルで撃ってもいいぞ」 隊長室戸博士は、金切声で、助手たちの後から叫んだ。 駆けだす天幕の足は早かった。助手たちは息切れがしてきた。そして天幕との距離はだんだん大きくなっていく。 「撃とう。仕方がない。撃っちまえ」 「よし」 助手は立木に身体をもたせて、逃げる天幕めがけて、どかんどかんとピストルをぶっ放した。銃声はものすごく木霊した。だが天幕は、あいかわらず走りつづけるのであった。 「あれっ、たしかに命中したはずだが……」 天幕はそれでもなお走った。そして山腹の途中の坂を下った。助手はピストルを撃つのをやめて、また追いかけた。 その坂が見下せるところまで、時間でいってわずか五分ばかりのところだった。そこへまっ先にのぼりついたのは、助手の児玉という法学士だった。彼は坂の下に、天幕が立ち停っているのを発見した。それを見たとき、彼の足はすくんで動かなくなった。怪しい天幕が、彼に戦をいどんでいるように見えたからである。 ようやく後から来た助手たちも追いついた。そこで若い連中は勢をもりかえし、 「それ行け。今のうちだ」 と、大勢で突撃して行った。 天幕は、一本の松の木にひっかかり、風に吹かれてゆらゆら動いていた。だが、目ざす緑色の怪物の姿は、どこにもなかった。 「どこへ行った。あの青とかげの化物は……」 皆はそこら中を探しまわった。しかし緑色の怪物は、どこにも見えなかった。 「見えないね。どこへ行ったろう」 ふしぎなことである。たしかに天幕をかぶったままで走って、ここまで来たに違いないのに……。 「あっ、あそこだ。あそこにいる」 児玉法学士が、するどい声で叫んで、右手を前方へのばした。 「えっ、いたか。どこだ」 「あの岩の上だ。あっ、見えなくなった。ふしぎだなあ」 「ええっ、ほんとうか。どこだい」 児玉法学士の指さす方に、たしかに裸岩が一つあった。しかし怪物の姿は見えなかった。後からかけつけた連中は、児玉がほんとうに岩の上に怪物の姿を見たのかどうかを疑って、質問の矢をあびせかけた。 これにたいして児玉は、すこし腹を立てているらしく、頬をふくらませて答えた。 「……怪物めは、あの岩の上に、立ち上ったのだ。さっき解剖台の上で立ち上ったのと同じだ。それから身体を軸としてぐるぐる廻りだした。すると怪物の身体がふわっと宙に浮いて、足が岩の上を放れた。竹蜻蛉のようにね。とたんに怪物の姿は見えなくなったのだ。それで僕のいうことはおしまいだ」 「へえっ、ほんとうなら、ふしぎという外はない」 「君たちは、僕のいうことを信用しないのかね」 「いや、そういうわけじゃないが、とにかく君だけしか見ていないのでね」 緑色の怪物を最後に見た者は、この児玉法学士だけであった。それ以後には、誰も見た者がなかった。そして緑色の怪物にたいする手がかりは、これでまったく終りとなった。 いったいあの怪物はどこへ行ってしまったのであろうか。そして、どうしたのであろうか。 失望したのは特別刑事調査隊の七人組の博士たちや若い助手達だけではなかった。集ってきた鉱山の社員や村の人々も、皆失望してしまった。 「やっぱり帆村荘六が言った注意を守っていた方がよかったね。そうすれば、あの怪物は逃げられなかったんだ」 「たしかに、そうだと思う。惜しいことをしたな。しかしあの怪物は、死んだふりをしていたのだろうか」 「そこがわからないのだ。解剖台の上から飛び出す前には、心臓は動いているような音が聞えたそうだが、怪物の身体は、やはり氷のように冷えていたそうだよ」 「それはへんだねえ。生きかえったものなら、体温が上って温くなるはずだ」 「そこが妖怪変化だ。あとで我々に祟りをしなければいいが」 と、鉱山事務所の人々がかたまって噂をしていると、後から別の声がした。 「いや、あれは妖怪変化の類ではない。たしかに生ある者だ」 この声に、皆はびっくりして、後をふりむいた。するとそこには帆村荘六が立っていた。 「ああ帆村君か。君は今まで何をしていた……。しかし君の注意はあたっていたね」 「そうだ。不幸にして、私の予言はあたった。坑道の底では死んでいた怪物が、地上に出ると生きかえったのだ。あれは宇宙線を食って生きている奴にちがいない」 帆村は謎のような言葉を吐いた。これでみると、帆村だけは、あの怪物の正体について、いくらか心当りがあるらしい。いったいあれは何者だろうか。そして何をしようとしているのだろうか。
甲斐博士が怪物から身を引くのと同時に何が起こったか。
甲斐博士が怪物から身を引くのと同時に怪物はぴょんと跳ね上がり、解剖台の上に突っ立った。
JCRRAG_014292
国語
ある大都会の大通りの下の下水道に、悪魔が一匹住んでいました。まっ暗な中でねずみやこうもりなんかと一緒に、下水の中の汚物等をあさって暮らしていました。ところがある時、下水道の中に上の方から明るい光がさしていましたので、何だろうと思って寄ってゆくと、下水道の掃除口が半分ばかり開いているのです。悪魔は何の気もなくその掃除口につかまって、そっと外をのぞいてみて、びっくりしました。街中に明るく灯りがともっていて、大勢の人がぞろぞろ通っていて、おもしろい蓄音機の音までも聞こえています。 「ほほう、まっ暗な汚いこの下水道の上に、こんな立派な賑やかな通りがあろうとは、今まで夢にも知らなかった。何ときらきら光ってる灯りなんだ。何と大勢の美しい人間共が通ってることか。何という賑やかさ華やかさだ。下水の掃除人がこの掃除口を閉め忘れてるのを幸いに、俺も少しこの賑やかな通りを散歩してみるかな」 そしてこののん気な悪魔は、下水道からひょいと飛び出して、小さな犬に化けて、街路樹の影をのそのそと歩き出しました。昼のように明るい街路、美しく賑やかな人通り、宮殿のようにきらびやかな店先、うまそうな食物の匂い、楽しい音楽の響き、そんなものに悪魔は気がぼーっとして、いつまでもうろついていました。 そのうちに夜はだんだんふけてきて、人通りも少なくなり、商店の窓もしめられ、賑やかだった街路が淋しくなり始めました。悪魔はふと気がついて、自分が飛び出したあの下水の掃除口のところへ、大急ぎで戻って行きました。ところが、いつのまにか掃除人が戻ってきたとみえて、大きな鉄の蓋がかっちり閉め切られています。 「ほい、これはとんでもないことになった」 そして悪魔は、方々の掃除口を探して歩きましたが、どこもここもみな、頑丈な鉄の蓋が閉め切ってあって、下水道へはいり込む隙間もありません。 「弱ったな。どうしたら下水道へ戻ってゆけるかしら」 思い迷ってふらふら歩いていると、酔っぱらいの男や商店の子僧などから、野良犬だといっておどかされたり追っぱらわれたりしますし、巡査ががちゃがちゃ剣を鳴らしてやって来たりするものですから、悪魔はすっかり心が折れました。そしてどこかもぐり込む隅でもないかと、きょろきょろ探し回ってるうちに、ある立派な帽子屋の店が閉め残されてるのを見つけました。店の中には誰もいなくて、奥の方で番頭が一人居眠りをしています。 「しめたぞ。今夜はこの店の中に隠れるとしよう」 そーっとはいり込んで、陳列棚の上に飛び上がって、ひょいと帽子に化けて素知らぬ顔をしていました。間もなく、奥の部屋から二・三人の子僧が出て来て、表の戸締りをして、電気を消して、また引っ込んでいきました。 悪魔はほっと息をついて、やれやれ助かったと思うと、急に疲れが出て、帽子に化けたまま、ぐっすり眠ってしまいました。
悪魔は下水道に戻れなくなったのはなぜですか。
悪魔は方々の掃除口を探して歩きましたが、どこも頑丈な鉄の蓋が閉め切ってあって、下水道へはいり込む隙間もなかったからです。
JCRRAG_014293
国語
第二の角を次郎選手と森川選手がほとんど同時にまわりました。するとふたりはもうすっかりとりのこされてしまっていることを知りました。前をいく者はみなもう第三の角をまわってしまっていて、檜葉垣ぞいの静かな道にはとんぼがとんでいるばかりです。 いつもならこのあたりで次郎君が、 「森川君、ゆっくりいけよ。」 と声をかけるのです。すると森川君が、 「よしきた、と」 と応じて、ふたりは妥協するのです。そして歩調をゆるめることになっていました。しんがりになるにはひとりよりふたりいっしょの方が心づよいからでしょう。 ところが、今日の次郎君はかたく口をむすんでがんばりつづけます。息がきれて、血をはいてたおれようと、森川君なんかには口をきかないぞといった決心のようです。そこで森川君も何くそとがんばります。次郎君が一歩先にリードしたかと思うと森川君のがんばりがきいてふたりの順位が逆になってしまいます。まるで火の出るような接戦です。次郎くんは横腹がいたくなってきました。 「横腹の奴、がまんしろ、がまんしろ。」 と口の中でいいながら次郎君はかけつづけます。 しかし突然次郎君は走るのをやめてしまいました。まけたってかまやしない、どうともなれという不敵な気持ちになってしまいました。そしてのそのそと歩きはじめました。森川君のことなんか眼中にないのだと自分に向かっていいました。それでいながら、森川君がどういう態度をとるかが気にかかっています。 森川君も次郎君が歩みはじめるとすぐはりあいがなくなったように走るのをやめてしまいました。ふたりはならんでのそのそ歩いていきます。しかしふたりはお互いに見も知らぬ旅人のようにだまりこくっていきます。 あまり森川君がすました顔をしているので次郎君はますますしゃくにさわってきます。 「こいつ、みんなの前でぼくんちの西郷隆盛にはじをかかせて、それでてすましてやがる、ふてぶてしいやつだ。」 と次郎君は腹の中でつぶやきながら、ながし目に森川君をにらんでやります。向こうはそれに気がついてわざと知らんふりをします。もうがまんがなりません。 「なんだい」と次郎君はいってしまいました。「シェパードなんかが。あんな犬あよわむしじゃないか。」 「君んちの犬こそなんだい。あんなのら犬に西ごうたかもりなんてつけて、まったく西ごうたかもりがなくよ。」 「ひとの犬のわる口なんかいわなくてもいいじゃないか。」 「わる口なんかいやしねえや。」 「じゃさっきの作文はどうだ。」 「ほんとうのことを書いただけさ。犬屋がほんとうにああいったんだからしようがないや。」 「……」 次郎君は議論していた日には自分が負けだと思って口をつぐんでしまいました。 そして突然、 「じゃどっちの犬がつよいか決闘させよう。」 といいました。 「よしきた。」 「今日学校がひけてから、原っぱで。」 「オーケー。」 そのときクラスでいちばんよく走る工藤君が、 「やあ、失敬」 と声をかけて、ふたりを追いぬいていきました。次郎君と森川君は工藤君に一周おくれたわけです。
なぜ次郎君は急に走るのをやめてしまったのか。
次郎君は競争心が薄れ、不敵な気持ちになったから。
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国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が少ないものを教えてください。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が少ないものは大都市で五十一あります。
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国語
その後の白はどうなったか?それは一々話さずとも、いろいろな新聞に伝えられています。おおかたどなたも御存じでしょう。度々危うい人命を救った、勇ましい一匹の黒犬のあるのを。また一時『義犬』という活動写真が流行したことを。あの黒犬こそ白だったのです。しかしまだ不幸にも御存じのない方がいれば、どうか下に引用した新聞の記事を読んで下さい。 東京日日新聞。昨十八日(五月)午前八時四十分、奥羽線上り急行列車が田端駅付近の踏切を通過する際、踏切番人の過失により、田端一二三会社員柴山鉄太郎の長男実彦(四歳)が列車の通る線路内に立ち入り、危く轢死を遂げようとした。その時、たくましい黒犬が一匹、稲妻のように踏切へ飛びこみ、目前に迫った列車の車輪から、見事に実彦を救い出した。この勇敢なる黒犬は人々がさわいでいる間にどこかへ姿を隠したため、表彰したくてもすることが出来ず、当局は大いに困っている。 東京朝日新聞。軽井沢で避暑中のアメリカ富豪エドワード・バークレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛している。すると最近同氏の別荘へ七尺余りの大蛇が現れ、ベランダにいる猫を呑もうとした。そこへ見知らぬ黒犬が一匹、突然猫を救いに駈けつけ、二十分に渡り奮闘した後、とうとうその大蛇を噛み殺した。しかしこのけなげな犬はどこかへ姿を隠したため、夫人は五千ドルの賞金を懸け、犬の行方を求めている。 国民新聞。日本アルプス横断中、一時行方不明になった第一高等学校の生徒三名は七日(八月)上高地の温泉へ到着した。一行は穂高山と槍ヶ岳との間にみちを失い、かつ過日の暴風雨にテントや糧食等を奪われたため、ほとんど死を覚悟していた。しかるにどこからか黒犬が一匹、一行のさまよっていた渓谷に現れ、あたかも案内をするように、先へ立って歩き出した。一行はこの犬の後に従い、一日余り歩いた後、やっと上高地へ着くことが出来た。しかし犬は目の下に温泉宿の屋根が見えると、ひとこと嬉しそうに吠えたきり、もう一度もと来た熊笹の中へ姿を隠してしまったという。一行は皆この犬が来たのは神明の加護だと信じている。 時事新報。十三日(九月)名古屋市の大火は焼死者十余名に及んだが、横関名古屋市長なども愛児を失おうとした一人である。令息武矩(三歳)はいかなる家族の手落ちからか、猛火の中の二階に残され、すでに灰燼となろうとしたところを、一匹の黒犬のためにくわえ出された。市長は今後名古屋市に限り、野犬撲殺を禁ずるといっている。 読売新聞。小田原町城内公園に連日の人気を集めていた宮城巡回動物園のシベリヤ産大狼は二十五日(十月)午後二時ごろ、突然巌乗な檻を破り、木戸番二名を負傷させたのち、箱根方面へ逸走した。小田原署はそのために非常動員を行い、全町にわたって警戒線を張った。すると午後四時半ごろ狼が十字町に現れ、一匹の黒犬と噛み合い始めた。黒犬は悪戦すこぶる努め、ついに敵を噛み伏せるに至った。そこへ警戒中の巡査もかけつけ、直ちに狼を銃殺した。この狼はルプス・ジガンティクスと称し、最も兇猛な種属であるという。なお宮城動物園主は狼の銃殺を不当とし、小田原署長を相手どった告訴を起こすといきまいている。等、等、等。
白の活躍が載った新聞の数を教えてください。
白の活躍が載った新聞の数は5で、 「東京日日新聞」、 「東京朝日新聞」、 「国民新聞」、 「時事新報」、 「読売新聞」 です。
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国語
昔、ある北の国の山奥に一つの村がありました。その村に伊作、多助、太郎右衛門という三人の百姓がいました。 三人の百姓は少しばかりの田を耕しながら、その合間に炭を焼いて三里ばかり離れた城下に売りに行くのを仕事にしておりました。 三人の百姓の生まれた村というのは、それはそれは淋しい小さな村で、秋になると、山が一面に紅葉になるので、城下の人たちが紅葉を見に来るほか、何のとりえもないような村でありました。 しかし百姓たちの村に入るところに大きな河が流れて、その河には、秋になると、岩名や山魚が沢山泳いでいました。 太郎右衛門は 村の人たちは、みんな楽しそうに、元気に働いていました。 伊作、多助、太郎右衛門の三人は、ある秋のおわりに、いつものように背中に炭俵を背負って城下へ出かけて行きました。 多助は村の百姓たちのなかでもとびぬけて小柄なので二人よりも背負っている炭俵が小さいのです。 伊作は村の百姓たちのなかでもさらに背が高く大柄なので、とても大きな炭俵を背負っています。 三人が村を出た時は、まだ河の流れに朝霧がかかっていて、河原の石の上には霜が真白に下りていました。 「今日も、晴れになるだろうな」 と伊作が橋を渡りながら、一人言のようにいうと、ほかの二人も高い声で、 「そうだな、晴れになるだろうな」 と調子を合わせて、橋を渡って行きました。三人はいつものように、炭を売った後で、町の居酒屋で酒を飲むことを楽しみに、何の考えもなく足を早めて道を歩いて行きました。 伊作は背の高い一番丈夫な男だけに、峠を登る時は、多助と太郎右衛門が10メートル歩く頃には二人から100メートルほど先を歩いていました。 多助と太郎右衛門は、高い声で話をしながら坂を登って行きました。 二人は浜へ嫁に行っていた村の娘が、亭主に死なれて帰って来たという話を、まるで大事件のように力を入れて話していたのでした。 "
多助と伊作が背負っている炭俵の違いを教えてください。
伊作、多助、太郎右衛門の三人は、ある秋のおわりに、いつものように背中に炭俵を背負って城下へ出かけて行きました。 多助は村の百姓たちのなかでもとびぬけて小柄なので、二人よりも、背負っている炭俵が小さいのです。 一方、伊作は村の百姓たちのなかでもさらに背が高く大柄なので、とても大きな炭俵を背負っていました。
JCRRAG_014297
国語
青いとかげの化物みたいな怪死骸に逃げられ、皆がっかりだった。はるばる東京からやってきた特別刑事調査隊の七人組も、どうやら面目をつぶしてしまったかたちで、室戸博士以下くやしがること一通りではなかった。 この上、現場にうろうろして、怪物のとび去った空をながめていても仕方がないので、鉱山の若月次長のすすめるままに、一同は鉱山事務所へ行って休息することとなった。 青とかげの怪物がにげてしまったことは、すでに事務所にもひろがっていた。皆おちつきを失って、あっちに一かたまり、こっちに一かたまりとなり、今入ってきた七人組を横目でにらみながら、怪物の噂に花がさいている。 「あの七人組の先生がたも、こんどはすっかり手を焼いたらしいね」 「しかし、折角こっちがつかまえておいたものを、むざむざ逃がすとは、なっていない」 「それよりも、僕はあの怪物がきっとこれから禍をなすと思うね。この鉱山に働いている者は気をつけなければならない」 「あんな七人組なんかよばないで、帆村さんにまかせておけばよかったんだ」 「そうだとも、帆村荘六のいうことの方が、はるかにしっかりしている。彼は『あの怪物は宇宙線を食って生きている奴だ』と、謎のような言葉をはいたが、宇宙線てなんだろうね。食えるものかしらん」 誰もそれについて、はっきり答えられる者がなかった。 「宇宙線というと、光線の一種かね」 「そうじゃないだろう。まさか光線を食う奴はいないだろう」 「それではいよいよわけが分からない」そういっているとき、帆村荘六が、例のとおり青白い顔をして、部屋へはいってきた。彼は皆につかまってしまった。そして宇宙線が食えるかどうかについて、矢のような質問をうけたのであった。 「宇宙線というのは、X線や、ラジウムなどの出す放射線よりも、もっとつよい放射線のことだ」と、帆村は、皆にかこまれて説明を始めた。 「X線が人間の体をつきとおるのは、誰でも知っている。胸部をX線写真にうつして、肺に病気のところがあるかどうかをしらべることはご存じですね。宇宙線はX線よりももっと強い力で通りぬける。X線の約三千倍の力があるのです。X線はクーリッジ管から出るものだが、宇宙線は何から出てくるか。これは今のところ謎のまま残されています。しかし地球以外のはるかの天空からやってくる放射線であることだけは分かっています。だから宇宙線といわれるのです。その宇宙線は、まるで機関銃弾のように、いつもわれわれ人間の体をつきぬけている。しかしわれわれは、宇宙線にさしとおされていることに、気がつかないのです。この宇宙線は、空高くのぼっていくほど数がふえます。それから宇宙線は、更に大きな力を引出す働きをします。火薬を入れた函にマッチで火をつけると大爆発をしますが、宇宙線はこの場合のマッチのような役目をするのです。この働きに、僕たちは注意していなければなりません」 聞いていた皆は、何だか急に寒気がしてきたように感じた。 「ふかい地の底には、宇宙線はとどきません。そこに暮していると、宇宙線につきさされないですみます。そうなると、人間――いや生物はどんな発育をするでしょうか。またそれと反対に、人間が成層圏機や宇宙艇にのり、地球を後にして、天空はるかに飛び上っていくときには、ますます強いたくさんの宇宙線のために体をさしとおされるわけですから、そんなときには体にどんな変化をうけるか、これも興味ある問題ですねえ」 「その問題はどうなるのかね」 と、若月次長がきいた。すると帆村は首を左右にふって、 「まだ分かっていません。今後の研究にまつしかありません」 「宇宙線というやつは、気味のわるいものだな」 「そういろいろと気味のわるいものがふえては困るねえ。あの青いとかげのような怪物といい、宇宙線といい……」 「帆村さん、あの青い怪物と宇宙線との間には、どんな関係があるのですか」 と、また一人がたずねた。 「さあ、そのことですがね。あの怪物は宇宙線を食って生きている奴じゃないかと思うのです。つまり地底七百メートルの坑道の底には、宇宙線がとどかない。そのとき彼奴は死んでいた。それを地上へもってあがると生きかえった。地上には宇宙線がどんどん降っているのです。ちょうど川から岸にはねあがって、死にそうになっていた鯉を、再び川の中に入れてやると、元気になって泳ぎ出すようなものです」 「なるほど、それであの怪物は生きかえったのですか」 「そうだろうと思うのですよ。これは想像です。たしかにそうであるといい切るためには、われわれは、もっとりっぱな証拠を探し出さねばなりません」 「すると、帆村君は、その証拠をまだ探しあてていないのかね」 「そうです。今一生けんめい探しているのです」 「しかし、そんな証拠は、見つからない方がいいね」 「えっ、なぜですか」 「だって、そうじゃないか。その証拠が見つかれば、僕たちは今まで知らなかったそういうものすごい怪物と、おつきあいしなければならなくなる。それは思っただけでも、心臓がどきどきしてくるよ」 「しかし、ねえ次長さん。あの青い怪物とのおつきあいは、あの坑道の底で死骸を発見したときから、もう既に始っているのですよ」 「えっ、おどかさないでくれ」 「おどかすわけではありませんが、あの怪物の方が進んでわれわれ地球人類にたいし、つきあいを求めてきているのですよ」 帆村の言葉に、聞いていた一同は、ぶるぶるとなって、たがいの顔を見合わせた。 「これからあんな怪物とつきあうのはたまらないな。なにしろ相手の方がすぐれているんだからね。うかうかすると、僕たちはいつ殺されてしまうか分からない。帆村君、一体どうすればいいんだ、今後の処置は……」 若月次長は帆村の腕をつかまえゆすぶった。帆村はしばらく黙っていた。そして遂にこういった。 「戦争の準備をすることです。宇宙戦争の準備をね」 聞いている者は、おどろいた。 「えっ、宇宙戦争。そんな夢みたいなことが始るとは思われない」 「その準備は一刻も早く始めるのがいいのです」と、帆村は相手の言葉にかまわず、強くいい切った。 「まあ見ていてごらんなさい。これから先、次から次へと奇妙な出来事が起るですよ。そうなれば、僕の今いったことが、思いあたるでしょう」
鉱山事務所では、青い怪物が逃げ出したことについてどのような噂がされていたか。
鉱山事務所では、青い怪物が逃げ出したことについて、七人組の先生方も手を焼いた、自分たちが捕まえておいたのに逃がすとはなっていない、これから禍をなすだろう、帆村さんに任せておけばよかったなどの噂がされていた。
JCRRAG_014298
国語
しばらくたって眼を開くと、そこもやはり賑やかな大通りで、ハイカラな洋服の紳士はステッキを打ち振りながら変なしかめ顔をして歩いていました。きっと腹が空いてるんだな、と思うと悪魔は、急におかしくなって、ははははと笑い出しました。がその声に自分でもびっくりして、首を縮こめた瞬間に、何だか寒くなって、うつらうつらしてる間に風邪をひいたとみえ、大きなくしゃみが出てきました。 紳士は驚いて立ち止まりました。頭の上で笑い声がして、次にくしゃみの音がしたのです。まさか、悪魔の化けてる帽子をかぶってるとは思わないものですから、あたりを見回したり空を仰いだりして、きょとんとした顔つきで考えました。 「変だな」 その時またさっと風が吹いてきました。悪魔はそれに真正面から吹きつけられて、くしゃんと、もう一くしゃみをしました。 「おや」 こんどは紳士も頭の帽子に気がついたとみえて、手をあげて帽子を取ろうとしました。もう悪魔は絶対絶命です。手に取って正体を見抜かれたら大変です。どうしようと思ったとたんに、ふといいことを考えついて、紳士の頭が横に傾いた拍子に、風に吹き飛ばされたふうをして、ふーっと往来に飛び降りて、ころころと転がって逃げ始めました。 紳士は大事な帽子が風に吹き飛ばされたのを見て、後を追っかけてきました。悪魔にとっては、つかまえられたら一大事です。一生懸命に転がって逃げました。紳士はどんどん追っかけてきます。そのうちに、立派な紳士と帽子とが駆けっこをしてるのを見て、大勢の人がおもしろがってついて来ました。 「よく転がる帽子だな」 「まるで生きてるようだな」 「おかしな帽子だな」 「つかまえてやれ、つかまえてやれ」 大勢の人が紳士と一緒になって追っかけてきます。つかまったら最後だ、と悪魔は思って、くるくるくるくるまわりながら、一生懸命に逃げ出しました。あまりに転がったので眼がまわって、闇雲に逃げてるうち、ある橋のところへやってきて、行く方向を間違ったものですから、あっというまに川の中へ落ち込みました。 「川に落っこった、川に落っこった」 「ぽかんとして浮いてやがる」 「竿を持って来い、竿を」 大勢の人ががやがや騒ぎ立てました。 悪魔は川に落ちて、眼を白黒させていましたが、やがて気が静まると、きらきら光ってる太陽が見えます。岸に立って騒いでる大勢の人が見えます。うらめしそうな顔をしてるハイカラ紳士も見えます。 「はてどこへ逃げたらいいかしら」 そう思って見回すと、川の岸の石垣に、大きな円い穴が口を開いて、汚い水が中から流れ出ています。嗅ぎなれたくさい匂いがしています。 「これだ」と悪魔は心の中で叫びました。「俺の住まいだ。下水道の出口だ」 そして、帽子が水に流されるようなふうをして、つーっと泳ぎだして、下水道の口の中に飛びこみました。 それを見て、岸の上では大変な騒ぎになりました。 「帽子が泳いだ」 「下水道の中に飛び込んだ」 「お化けの帽子だ、お化けだ」 「不思議な帽子だ」 わいわい騒ぎ立てて下水道の口をのぞいています。しかしいつまでたっても、もう帽子は二度と出て来ませんでした。 帽子はもうちゃんともとの悪魔の姿になって、下水道の口からちょっとのぞいて大勢の人を見ると、こそこそと中の方へはいってゆきました。 「あぶないところだった。だがここまでくればもう大丈夫だ。どうも変に寒い。珍しいごちそうを食べて、あの男の頭の上で居眠りをしたので、風邪でも引いたのかな」 そしてそこの下水道の奥のまっ暗な中で、悪魔は、また大きなくしゃみをしました。
紳士はなぜ立ち止まって帽子を取ろうとしたのですか。
さっと吹いてきた風に真正面から吹きつけられて、悪魔はくしゃんと、もう一回くしゃみをしたからです。
JCRRAG_014299
国語
森川君が十メートルほど先まできたとき、西郷隆盛はシェパードをみつけてむっくり体を起こしました。次郎君は手をはなしました。西郷隆盛は猛然と向かってゆきました。 森川君もそのとき体をわきによけてシェパードに道をあけてやりました。いよいよ犬同士の決闘です。森川君も次郎君も、口に出してはなんともいいません。しかし心の中ではお互いに自分の犬に向かって「おし、おし」と勢いをつけています。次郎君はいつのまにかすすきの穂をひきぬいて人さし指にかたくまきつけていました。 西郷隆盛はシェパードと二メートルほどへだたったところまでいくとぴたっととまって、シェパードとにらみあっていました。――と次郎君と森川君は思えたのですが、じつはにらみあったのではありません。これが犬の仲間ではあいさつであります。 心をはりつめていたふたりはがっかりしました。犬はいっこう決闘をしようとはいたしません。決闘どころか、鼻をすりあわせたり、お互いの体をかぎあったり、そしておしまいにはずっと以前からなかよしだったもののように、森川君と次郎君をおきざりにしてあっちへならんでいってしまいました。 「だめだなあ。」 と次郎君は口に出していいましたが、ややほっとした気持ちです。 ふたりにはそのとき、つまらないことでおこりあった自分たちより、犬同士の方がはるかに利口なように思えました。そしてふたりはつねづね自分たちがなかよしで、長距離競走のときにはいつもそろってしんがりをすることなどを憶い出しました。なぜ敵対したのかわからなくなってしまいました。 次郎君はつかつかと歩いていって、 「ぼく、あやまるよ。」 といいました。 「君ばかりがわるいんじゃないよ」と森川君もやや顔をあからめていいました。それからにこにこしながら、 「もうこんなこといいじゃないか。」 「うん。」 「あのね、ぼくんちこれから君んちで醤油を買うってお母さんいってたよ。」 「そうかい。」 それから次郎君はお父さんのまねをして、 「毎度ありがとうございます」 といってぴょこんと頭をさげました。そしてふたりは、あは、は、はと声いっぱいに笑い出しました。
次郎君と森川君の関係はなぜ変化したのか。
次郎君と森川君は犬の態度を見たことで、自分たちの争いが無意味だと気づいたから。次郎君と森川君の関係は変化した。
JCRRAG_014300
国語
ここで私は巨人の国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。 この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向こうへ越えることはできないのです。 だから、その向こうには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟に乗る人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には大きな船が百隻は浮かんでいて、小さな船は二百隻は浮かんでいます、そして魚類がたくさん生息しています。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、ときどき、鯨が巌にぶつかって死ぬことがあります。これを捕えて、みんな喜んで食べています。 大体月に二体、多い月には四体はぶつかってくるそうです。 巨人の国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と八十の町、百の村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が少ないものを教えてください。
巨人の国にある大都市と町と村落を比較して、もっとも数が少ないものは大都市で五十一あります。