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Category
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Context
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1
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Question
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7
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GroundtruthAnswer
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663
JCRRAG_011101
国語
蟹工船には川崎船を八隻のせていた。船員も漁夫もそれを何千匹の鱶のように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、自分等の命を「安々」と賭けなければならなかった。「貴様等の一人、二人が何なんだ。川崎一艘取られてみろ、たまったもんでないんだ」監督は日本語でハッキリそういった。 カムサツカの海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。ガツ、ガツに飢えている獅子のように、えどなみかかってきた。船はまるで兎より、もっと弱々しかった。空一面の吹雪は、風の工合で、白い大きな旗がなびくように見えた。夜が近くなってきた。しかし時化は止みそうもなかった。 仕事が終ると、皆は「糞壺」の中へ順々に入り込んできた。手や足は大根のように冷えて、感覚なく身体についていた。皆が蚕のように、棚の中に入ってしまうと、誰も一口も口をきくものがいなかった。ゴロリ横になって、鉄の支柱につかまった。船は、背に食いついている虻を追い払う馬のように、身体をヤケに振っている。漁夫はあてのない視線を白ペンキが黄色に煤けた天井にやったり、殆んど海の中に入りッ切りになっている青黒い円窓にやったり……中には、呆けたようにキョトンと口を半開きにしているものもいた。誰も、何も考えていなかった。漠然とした不安な自覚が、皆を不機嫌にだまらせていた。 顔を仰向けにして、グイとウイスキーをラッパ飲みにしている。赤黄く濁った、にぶい電燈のなかでチラッと瓶の角が光ってみえた。ガラ、ガラッと、ウイスキーの空瓶が二、三カ所に稲妻形に当たって、棚から通路に力一杯に投げ出された。皆は頭だけをその方に向けて、眼で瓶を追った。隅の方で誰かが怒った声を出した。時化にとぎれて、それが片言のように聞こえた。
船員も漁夫もそれを何千匹の鱶のように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、何をかけなければならなかったか。
船員も漁夫もそれを何千匹の鱶のように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、自分等の命を「安々」と賭けなければならなかった。
JCRRAG_011102
国語
蟹工船には川崎船を八隻のせていた。船員も漁夫もそれを何千匹の鱶のように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、自分等の命を「安々」と賭けなければならなかった。「貴様等の一人、二人が何なんだ。川崎一艘取られてみろ、たまったもんでないんだ」監督は日本語でハッキリそういった。 カムサツカの海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。ガツ、ガツに飢えている獅子のように、えどなみかかってきた。船はまるで兎より、もっと弱々しかった。空一面の吹雪は、風の工合で、白い大きな旗がなびくように見えた。夜が近くなってきた。しかし時化は止みそうもなかった。 仕事が終ると、皆は「糞壺」の中へ順々に入り込んできた。手や足は大根のように冷えて、感覚なく身体についていた。皆が蚕のように、棚の中に入ってしまうと、誰も一口も口をきくものがいなかった。ゴロリ横になって、鉄の支柱につかまった。船は、背に食いついている虻を追い払う馬のように、身体をヤケに振っている。漁夫はあてのない視線を白ペンキが黄色に煤けた天井にやったり、殆んど海の中に入りッ切りになっている青黒い円窓にやったり……中には、呆けたようにキョトンと口を半開きにしているものもいた。誰も、何も考えていなかった。漠然とした不安な自覚が、皆を不機嫌にだまらせていた。 顔を仰向けにして、グイとウイスキーをラッパ飲みにしている。赤黄く濁った、にぶい電燈のなかでチラッと瓶の角が光ってみえた。ガラ、ガラッと、ウイスキーの空瓶が二、三カ所に稲妻形に当たって、棚から通路に力一杯に投げ出された。皆は頭だけをその方に向けて、眼で瓶を追った。隅の方で誰かが怒った声を出した。時化にとぎれて、それが片言のように聞こえた。
カムサツカの海は、どのように見えたか。
カムサツカの海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。
JCRRAG_011103
国語
蟹工船には川崎船を八隻のせていた。船員も漁夫もそれを何千匹の鱶のように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、自分等の命を「安々」と賭けなければならなかった。「貴様等の一人、二人が何なんだ。川崎一艘取られてみろ、たまったもんでないんだ」監督は日本語でハッキリそういった。 カムサツカの海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。ガツ、ガツに飢えている獅子のように、えどなみかかってきた。船はまるで兎より、もっと弱々しかった。空一面の吹雪は、風の工合で、白い大きな旗がなびくように見えた。夜が近くなってきた。しかし時化は止みそうもなかった。 仕事が終ると、皆は「糞壺」の中へ順々に入り込んできた。手や足は大根のように冷えて、感覚なく身体についていた。皆が蚕のように、棚の中に入ってしまうと、誰も一口も口をきくものがいなかった。ゴロリ横になって、鉄の支柱につかまった。船は、背に食いついている虻を追い払う馬のように、身体をヤケに振っている。漁夫はあてのない視線を白ペンキが黄色に煤けた天井にやったり、殆んど海の中に入りッ切りになっている青黒い円窓にやったり……中には、呆けたようにキョトンと口を半開きにしているものもいた。誰も、何も考えていなかった。漠然とした不安な自覚が、皆を不機嫌にだまらせていた。 顔を仰向けにして、グイとウイスキーをラッパ飲みにしている。赤黄く濁った、にぶい電燈のなかでチラッと瓶の角が光ってみえた。ガラ、ガラッと、ウイスキーの空瓶が二、三カ所に稲妻形に当たって、棚から通路に力一杯に投げ出された。皆は頭だけをその方に向けて、眼で瓶を追った。隅の方で誰かが怒った声を出した。時化にとぎれて、それが片言のように聞こえた。
船はまるで何より弱々しかったか。
船はまるで兎より、もっと弱々しかった。
JCRRAG_011104
国語
「日本を離れるんだど」円窓をひじで拭っている。 「糞壺」のストーブはブスブス燻ってばかりいた。鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ顫えていた。ズックで覆ったハッチの上をザア、ザアと波が大股に乗り越して行った。それが、その度に太鼓の内部みたいな「糞壺」の鉄壁に、物凄い反響を起こした。時々漁夫の寝ているすぐ横が、グイと男の強い肩でつかれたように、ドシンとくる。今では、船は、断末魔の鯨が、荒狂う波濤の間に身体をのたうっている、そのままだった。 「飯だ!」賄がドアーから身体の上半分をつき出して、口で両手を囲んで叫んだ。「時化てるから汁なし」 「何んだって?」 「腐れ塩引!」顔をひっこめた。  思い、思わず身体を起こした。飯を食うことには、皆は囚人のような執念を持っていた。ガツガツだった。  塩引の皿を安坐をかいた股の間に置いて、湯気をふきながら、バラバラした熱い飯を頬ばると、舌の上でせわしく、あちこちへやった。「初めて」熱いものを鼻先にもってきたために、水洟がしきりなしに下がって、ひょいと飯の中に落ちそうになった。
「糞壺」のストーブはどのような状態だったか。
「糞壺」のストーブはブスブス燻ってばかりいた。
JCRRAG_011105
国語
「日本を離れるんだど」円窓をひじで拭っている。 「糞壺」のストーブはブスブス燻ってばかりいた。鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ顫えていた。ズックで覆ったハッチの上をザア、ザアと波が大股に乗り越して行った。それが、その度に太鼓の内部みたいな「糞壺」の鉄壁に、物凄い反響を起こした。時々漁夫の寝ているすぐ横が、グイと男の強い肩でつかれたように、ドシンとくる。今では、船は、断末魔の鯨が、荒狂う波濤の間に身体をのたうっている、そのままだった。 「飯だ!」賄がドアーから身体の上半分をつき出して、口で両手を囲んで叫んだ。「時化てるから汁なし」 「何んだって?」 「腐れ塩引!」顔をひっこめた。  思い、思わず身体を起こした。飯を食うことには、皆は囚人のような執念を持っていた。ガツガツだった。  塩引の皿を安坐をかいた股の間に置いて、湯気をふきながら、バラバラした熱い飯を頬ばると、舌の上でせわしく、あちこちへやった。「初めて」熱いものを鼻先にもってきたために、水洟がしきりなしに下がって、ひょいと飯の中に落ちそうになった。
鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はどのような状態だったか。
鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ顫えていた。
JCRRAG_011106
国語
「日本を離れるんだど」円窓をひじで拭っている。 「糞壺」のストーブはブスブス燻ってばかりいた。鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ顫えていた。ズックで覆ったハッチの上をザア、ザアと波が大股に乗り越して行った。それが、その度に太鼓の内部みたいな「糞壺」の鉄壁に、物凄い反響を起こした。時々漁夫の寝ているすぐ横が、グイと男の強い肩でつかれたように、ドシンとくる。今では、船は、断末魔の鯨が、荒狂う波濤の間に身体をのたうっている、そのままだった。 「飯だ!」賄がドアーから身体の上半分をつき出して、口で両手を囲んで叫んだ。「時化てるから汁なし」 「何んだって?」 「腐れ塩引!」顔をひっこめた。  思い、思わず身体を起こした。飯を食うことには、皆は囚人のような執念を持っていた。ガツガツだった。  塩引の皿を安坐をかいた股の間に置いて、湯気をふきながら、バラバラした熱い飯を頬ばると、舌の上でせわしく、あちこちへやった。「初めて」熱いものを鼻先にもってきたために、水洟がしきりなしに下がって、ひょいと飯の中に落ちそうになった。
ズックで覆ったハッチの上をザア、ザアと波がどのように乗り越していったか。
ズックで覆ったハッチの上をザア、ザアと波が大股に乗り越して行った。
JCRRAG_011107
国語
飯を食っていると、監督が入ってきた。 「いけホイドして、ガツガツまくらうな。仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」 ジロジロと棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺らして出て行った。 「一体あいつにあんなことを言う権利があるのか」船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。 「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かってな」 「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」 別な方から、 「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。 「偉い偉い。そいつを浅の前で言えれば、なお偉い!」 皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。 夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照らし終わると、一寸立ち止まって舌打ちをした。どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、どのような行動をとったか。
船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。
JCRRAG_011108
国語
飯を食っていると、監督が入ってきた。 「いけホイドして、ガツガツまくらうな。仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」 ジロジロと棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺らして出て行った。 「一体あいつにあんなことを言う権利があるのか」船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。 「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かってな」 「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」 別な方から、 「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。 「偉い偉い。そいつを浅の前で言えれば、なお偉い!」 皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。 夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照らし終わると、一寸立ち止まって舌打ちをした。どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
皆は仕方なく、腹を立てたまま、どのような行動をとったか。
皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。
JCRRAG_011109
国語
飯を食っていると、監督が入ってきた。 「いけホイドして、ガツガツまくらうな。仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」 ジロジロと棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺らして出て行った。 「一体あいつにあんなことを言う権利があるのか」船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。 「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かってな」 「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」 別な方から、 「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。 「偉い偉い。そいつを浅の前で言えれば、なお偉い!」 皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。 夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照らし終わると、一寸立ち止まって舌打ちをした。どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、何をしたか。
夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。
JCRRAG_011110
国語
飯を食っていると、監督が入ってきた。 「いけホイドして、ガツガツまくらうな。仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」 ジロジロと棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺らして出て行った。 「一体あいつにあんなことを言う権利があるのか」船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。 「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かってな」 「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」 別な方から、 「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。 「偉い偉い。そいつを浅の前で言えれば、なお偉い!」 皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。 夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照らし終わると、一寸立ち止まって舌打ちをした。どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がどうなったか。
末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。
JCRRAG_011111
国語
飯を食っていると、監督が入ってきた。 「いけホイドして、ガツガツまくらうな。仕事もろくに出来ない日に、飯ば鱈腹食われてたまるもんか」 ジロジロと棚の上下を見ながら、左肩だけを前の方へ揺らして出て行った。 「一体あいつにあんなことを言う権利があるのか」船酔と過労で、ゲッソリやせた学生上りが、ブツブツ言った。 「浅川ッたら蟹工の浅か、浅の蟹工かってな」 「天皇陛下は雲の上にいるから、俺達にャどうでもいいんだけど、浅ってなれば、どっこいそうは行かないからな」 別な方から、 「ケチケチすんねえ、何んだ、飯の一杯、二杯! なぐってしまえ!」唇を尖んがらした声だった。 「偉い偉い。そいつを浅の前で言えれば、なお偉い!」 皆は仕方なく、腹を立てたまま、笑ってしまった。 夜、余程過ぎてから、雨合羽を着た監督が、漁夫の寝ているところへ入ってきた。船の動揺を棚の枠につかまって支えながら、漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜のようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。フンづけられたって、目を覚ます筈がなかった。全部照らし終わると、一寸立ち止まって舌打ちをした。どうしようか、そんな風だった。が、すぐ次の賄部屋の方へ歩き出した。末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
次の朝になって、雑夫の一人がどうなったことが分かったか。
次の朝になって、雑夫の一人が行方不明になったことがわかった。
JCRRAG_011112
国語
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持になった。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。 「こったら冷たい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」 監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。 時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったかのように、船は何処かびっこな音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当たりながら、急角度を切って吹きとんで行った。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がムクれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷い込んで、雨に会うより、もっと不気味だった。 麻のロープが鉄管でも握るように、バリ、バリに凍えている。学生上りが、すべる足下に気を配りながら、それにつかまって、デッキを渡ってゆくと、タラップの段々を一つ置きに片足で跳躍して上ってきた給仕に会った。
四囲にもりもりと何がムクれ上ってきたか。
四囲にもりもりと波がムクれ上ってきた。
JCRRAG_011113
国語
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持になった。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。 「こったら冷たい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」 監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。 時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったかのように、船は何処かびっこな音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当たりながら、急角度を切って吹きとんで行った。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がムクれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷い込んで、雨に会うより、もっと不気味だった。 麻のロープが鉄管でも握るように、バリ、バリに凍えている。学生上りが、すべる足下に気を配りながら、それにつかまって、デッキを渡ってゆくと、タラップの段々を一つ置きに片足で跳躍して上ってきた給仕に会った。
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った時、どんな気持ちになりましたか。
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った時、イヤな気持になりました。
JCRRAG_011114
国語
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持になった。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。 「こったら冷たい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」 監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。 時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったかのように、船は何処かびっこな音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当たりながら、急角度を切って吹きとんで行った。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がムクれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷い込んで、雨に会うより、もっと不気味だった。 麻のロープが鉄管でも握るように、バリ、バリに凍えている。学生上りが、すべる足下に気を配りながら、それにつかまって、デッキを渡ってゆくと、タラップの段々を一つ置きに片足で跳躍して上ってきた給仕に会った。
漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことで何ができなかったか。
漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。
JCRRAG_011115
国語
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持になった。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。 「こったら冷たい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」 監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。 時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったかのように、船は何処かびっこな音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当たりながら、急角度を切って吹きとんで行った。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がムクれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷い込んで、雨に会うより、もっと不気味だった。 麻のロープが鉄管でも握るように、バリ、バリに凍えている。学生上りが、すべる足下に気を配りながら、それにつかまって、デッキを渡ってゆくと、タラップの段々を一つ置きに片足で跳躍して上ってきた給仕に会った。
監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、何をしたか。
監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。
JCRRAG_011116
国語
皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持になった。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互いに話すことが出来なかった。 「こったら冷たい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」 監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。 時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったかのように、船は何処かびっこな音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当たりながら、急角度を切って吹きとんで行った。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がムクれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷い込んで、雨に会うより、もっと不気味だった。 麻のロープが鉄管でも握るように、バリ、バリに凍えている。学生上りが、すべる足下に気を配りながら、それにつかまって、デッキを渡ってゆくと、タラップの段々を一つ置きに片足で跳躍して上ってきた給仕に会った。
船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波はどんな風に乗り越えてきたか。
船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。
JCRRAG_011117
国語
「チョッと」給仕が風の当らない角に引っ張って行った。「面白いことがあるんだよ」と言って話してきかせた。 今朝の二時頃だった。ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、バジャバジャ、ザアッとそれが滝のように流れていた。夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々青白く光ってみえた。時化のために皆寝ずにいた。その時だった。 船長室に無電係が慌ててかけ込んできた。 「船長、大変です。S・O・Sです!」 「S・O・S? ――何船だ?」 「秩父丸です。本船と並んで進んでいたんです」 「ボロ船だ、それア!」浅川が雨合羽を着たまま、隅の方の椅子に大きく股を開いて、腰をかけていた。片方の靴の先だけを、小馬鹿にしたように、カタカタ動かしながら、笑った。「もっとも、どの船だって、ボロ船だがな」 「一刻と言えないようです」 「うん、それア大変だ」 船長は、舵機室に上るために、急いで、身仕度もせずにドアーを開けようとした。然し、まだ開けていないうちだった。いきなり、浅川が船長の右肩をつかんだ。 「余計な寄り道せって、誰が命令したんだ」 誰が命令した?「船長」ではないか。が、咄嗟のことで、船長は棒杭より、もっとキョトンとした。然し、すぐ彼は自分の立場を取り戻した。 「船長としてだ」 「船長としてだア―ア?」船長の前に立ちはだかった監督が、尻上がりの侮辱した調子で抑えつけた。「おい、一体これは誰の船なんだ。会社が傭船してるんだから、金を払って。ものを言えるのは会社代表の須田さんとこの俺だ。お前なんぞ、船長と言ってりゃ大きな顔してるが、糞場の紙位えの価値もねえんだど。分かってるか。あんなものにかかわってみろ、一週間もフイになるんだ。冗談じゃない。一日でも遅れてみろ! それに秩父丸には勿体ない程の保険がつけてあるんだ。ボロ船だ、沈んだら、かえって得するんだ」
船長室に無電係が慌ててかけ込んできた時、一言目に行ったセリフはなんですか。
船長室に無電係が慌ててかけ込んできた時、一言目に行ったセリフは「船長、大変です。S・O・Sです!」でした。
JCRRAG_011118
国語
「チョッと」給仕が風の当らない角に引っ張って行った。「面白いことがあるんだよ」と言って話してきかせた。 今朝の二時頃だった。ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、バジャバジャ、ザアッとそれが滝のように流れていた。夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々青白く光ってみえた。時化のために皆寝ずにいた。その時だった。 船長室に無電係が慌ててかけ込んできた。 「船長、大変です。S・O・Sです!」 「S・O・S? ――何船だ?」 「秩父丸です。本船と並んで進んでいたんです」 「ボロ船だ、それア!」浅川が雨合羽を着たまま、隅の方の椅子に大きく股を開いて、腰をかけていた。片方の靴の先だけを、小馬鹿にしたように、カタカタ動かしながら、笑った。「もっとも、どの船だって、ボロ船だがな」 「一刻と言えないようです」 「うん、それア大変だ」 船長は、舵機室に上るために、急いで、身仕度もせずにドアーを開けようとした。然し、まだ開けていないうちだった。いきなり、浅川が船長の右肩をつかんだ。 「余計な寄り道せって、誰が命令したんだ」 誰が命令した?「船長」ではないか。が、咄嗟のことで、船長は棒杭より、もっとキョトンとした。然し、すぐ彼は自分の立場を取り戻した。 「船長としてだ」 「船長としてだア―ア?」船長の前に立ちはだかった監督が、尻上がりの侮辱した調子で抑えつけた。「おい、一体これは誰の船なんだ。会社が傭船してるんだから、金を払って。ものを言えるのは会社代表の須田さんとこの俺だ。お前なんぞ、船長と言ってりゃ大きな顔してるが、糞場の紙位えの価値もねえんだど。分かってるか。あんなものにかかわってみろ、一週間もフイになるんだ。冗談じゃない。一日でも遅れてみろ! それに秩父丸には勿体ない程の保険がつけてあるんだ。ボロ船だ、沈んだら、かえって得するんだ」
ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、波はどのようになっていたか。
ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、バジャバジャ、ザアッとそれが滝のように流れていた。
JCRRAG_011119
国語
「チョッと」給仕が風の当らない角に引っ張って行った。「面白いことがあるんだよ」と言って話してきかせた。 今朝の二時頃だった。ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、バジャバジャ、ザアッとそれが滝のように流れていた。夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々青白く光ってみえた。時化のために皆寝ずにいた。その時だった。 船長室に無電係が慌ててかけ込んできた。 「船長、大変です。S・O・Sです!」 「S・O・S? ――何船だ?」 「秩父丸です。本船と並んで進んでいたんです」 「ボロ船だ、それア!」浅川が雨合羽を着たまま、隅の方の椅子に大きく股を開いて、腰をかけていた。片方の靴の先だけを、小馬鹿にしたように、カタカタ動かしながら、笑った。「もっとも、どの船だって、ボロ船だがな」 「一刻と言えないようです」 「うん、それア大変だ」 船長は、舵機室に上るために、急いで、身仕度もせずにドアーを開けようとした。然し、まだ開けていないうちだった。いきなり、浅川が船長の右肩をつかんだ。 「余計な寄り道せって、誰が命令したんだ」 誰が命令した?「船長」ではないか。が、咄嗟のことで、船長は棒杭より、もっとキョトンとした。然し、すぐ彼は自分の立場を取り戻した。 「船長としてだ」 「船長としてだア―ア?」船長の前に立ちはだかった監督が、尻上がりの侮辱した調子で抑えつけた。「おい、一体これは誰の船なんだ。会社が傭船してるんだから、金を払って。ものを言えるのは会社代表の須田さんとこの俺だ。お前なんぞ、船長と言ってりゃ大きな顔してるが、糞場の紙位えの価値もねえんだど。分かってるか。あんなものにかかわってみろ、一週間もフイになるんだ。冗談じゃない。一日でも遅れてみろ! それに秩父丸には勿体ない程の保険がつけてあるんだ。ボロ船だ、沈んだら、かえって得するんだ」
夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々どのように見えたか。
夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々青白く光ってみえた。
JCRRAG_011120
国語
「チョッと」給仕が風の当らない角に引っ張って行った。「面白いことがあるんだよ」と言って話してきかせた。 今朝の二時頃だった。ボート・デッキの上まで波が躍り上って、間を置いて、バジャバジャ、ザアッとそれが滝のように流れていた。夜の闇の中で、波が歯をムキ出しにしているのが、時々青白く光ってみえた。時化のために皆寝ずにいた。その時だった。 船長室に無電係が慌ててかけ込んできた。 「船長、大変です。S・O・Sです!」 「S・O・S? ――何船だ?」 「秩父丸です。本船と並んで進んでいたんです」 「ボロ船だ、それア!」浅川が雨合羽を着たまま、隅の方の椅子に大きく股を開いて、腰をかけていた。片方の靴の先だけを、小馬鹿にしたように、カタカタ動かしながら、笑った。「もっとも、どの船だって、ボロ船だがな」 「一刻と言えないようです」 「うん、それア大変だ」 船長は、舵機室に上るために、急いで、身仕度もせずにドアーを開けようとした。然し、まだ開けていないうちだった。いきなり、浅川が船長の右肩をつかんだ。 「余計な寄り道せって、誰が命令したんだ」 誰が命令した?「船長」ではないか。が、咄嗟のことで、船長は棒杭より、もっとキョトンとした。然し、すぐ彼は自分の立場を取り戻した。 「船長としてだ」 「船長としてだア―ア?」船長の前に立ちはだかった監督が、尻上がりの侮辱した調子で抑えつけた。「おい、一体これは誰の船なんだ。会社が傭船してるんだから、金を払って。ものを言えるのは会社代表の須田さんとこの俺だ。お前なんぞ、船長と言ってりゃ大きな顔してるが、糞場の紙位えの価値もねえんだど。分かってるか。あんなものにかかわってみろ、一週間もフイになるんだ。冗談じゃない。一日でも遅れてみろ! それに秩父丸には勿体ない程の保険がつけてあるんだ。ボロ船だ、沈んだら、かえって得するんだ」
時化のために皆は、どうしていたか。
時化のために皆寝ずにいた。
JCRRAG_011121
国語
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が!と思った。それが、それだけで済む筈がない。だが、船長は咽喉へ綿でもつめられたように、立ちすくんでいるではないか。給仕はこんな場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。船長の言ったことが通らない? 馬鹿、そんな事が! だが、それが起こっている。給仕にはどうしても分らなかった。 「人情味なんか柄でもなく持ち出して、国と国との大相撲がとれるか!」唇を思い切りゆがめて唾をはいた。 無電室では受信機が時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。とにかく経過を見るために、皆は無電室に行った。 「ね、こんなに打っているんです。だんだん早くなりますね」 係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。皆は色々な器械のスウィッチやボタンの上を、係の指先があち、こち器用にすべるのを、それに縫いつけられたように眼で追いながら、思わず肩と顎根に力をこめて、じいとしていた。 船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。横腹に思い切り打ち当る波の音や、絶えずならしている不吉な警笛が、風の工合で遠くなったり、すぐ頭の上に近くなったり、鉄の扉を隔てて聞こえていた。 ジイ―、ジイ―イと、長く尾を引いて、スパークルが散った。と、そこで、ピタリと音がとまってしまった。それが、その瞬間、皆の胸へドキリときた。係は周章てて、スウィッチをひねったり、機械をせわしなく動かしたりした。が、それっ切りだった。もう打って来ない。 係は身体をひねって、廻転椅子をぐるりとまわした。 「沈没です!……」 頭から受信器を外しながら、そして低い声で言った。「乗務員四百二十五人。最後なり。救助される見込みなし。S・O・S、S・O・S、これが二、三度続いて、それで切れてしまいました」 それを聞くと、船長は頸とカラアの間に手をつっこんで、息苦しそうに頭をゆすって、頸をのばすようにした。無意味な視線で、落着きなく四囲を見回してから、ドアの方へ身体を向けてしまった。そして、ネクタイの結び目あたりを抑えた。その船長は見ていられなかった。
給仕は「今」何と思ったか。
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が!と思った。
JCRRAG_011122
国語
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が!と思った。それが、それだけで済む筈がない。だが、船長は咽喉へ綿でもつめられたように、立ちすくんでいるではないか。給仕はこんな場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。船長の言ったことが通らない? 馬鹿、そんな事が! だが、それが起こっている。給仕にはどうしても分らなかった。 「人情味なんか柄でもなく持ち出して、国と国との大相撲がとれるか!」唇を思い切りゆがめて唾をはいた。 無電室では受信機が時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。とにかく経過を見るために、皆は無電室に行った。 「ね、こんなに打っているんです。だんだん早くなりますね」 係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。皆は色々な器械のスウィッチやボタンの上を、係の指先があち、こち器用にすべるのを、それに縫いつけられたように眼で追いながら、思わず肩と顎根に力をこめて、じいとしていた。 船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。横腹に思い切り打ち当る波の音や、絶えずならしている不吉な警笛が、風の工合で遠くなったり、すぐ頭の上に近くなったり、鉄の扉を隔てて聞こえていた。 ジイ―、ジイ―イと、長く尾を引いて、スパークルが散った。と、そこで、ピタリと音がとまってしまった。それが、その瞬間、皆の胸へドキリときた。係は周章てて、スウィッチをひねったり、機械をせわしなく動かしたりした。が、それっ切りだった。もう打って来ない。 係は身体をひねって、廻転椅子をぐるりとまわした。 「沈没です!……」 頭から受信器を外しながら、そして低い声で言った。「乗務員四百二十五人。最後なり。救助される見込みなし。S・O・S、S・O・S、これが二、三度続いて、それで切れてしまいました」 それを聞くと、船長は頸とカラアの間に手をつっこんで、息苦しそうに頭をゆすって、頸をのばすようにした。無意味な視線で、落着きなく四囲を見回してから、ドアの方へ身体を向けてしまった。そして、ネクタイの結び目あたりを抑えた。その船長は見ていられなかった。
給仕は喧嘩で立ちすくんでいる場合の船長を見たことがあったか。
給仕は喧嘩で立ちすくんでいる場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。
JCRRAG_011123
国語
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が! と思った。それが、それだけで済む筈がない。だが、船長は咽喉へ綿でもつめられたように、立ちすくんでいるではないか。給仕はこんな場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。船長の言ったことが通らない? 馬鹿、そんな事が! だが、それが起こっている。給仕にはどうしても分らなかった。 「人情味なんか柄でもなく持ち出して、国と国との大相撲がとれるか!」唇を思い切りゆがめて唾をはいた。 無電室では受信機が時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。とにかく経過を見るために、皆は無電室に行った。 「ね、こんなに打っているんです。だんだん早くなりますね」 係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。皆は色々な器械のスウィッチやボタンの上を、係の指先があち、こち器用にすべるのを、それに縫いつけられたように眼で追いながら、思わず肩と顎根に力をこめて、じいとしていた。 船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。横腹に思い切り打ち当る波の音や、絶えずならしている不吉な警笛が、風の工合で遠くなったり、すぐ頭の上に近くなったり、鉄の扉を隔てて聞こえていた。 ジイ―、ジイ―イと、長く尾を引いて、スパークルが散った。と、そこで、ピタリと音がとまってしまった。それが、その瞬間、皆の胸へドキリときた。係は周章てて、スウィッチをひねったり、機械をせわしなく動かしたりした。が、それっ切りだった。もう打って来ない。 係は身体をひねって、廻転椅子をぐるりとまわした。 「沈没です!……」 頭から受信器を外しながら、そして低い声で言った。「乗務員四百二十五人。最後なり。救助される見込みなし。S・O・S、S・O・S、これが二、三度続いて、それで切れてしまいました」 それを聞くと、船長は頸とカラアの間に手をつっこんで、息苦しそうに頭をゆすって、頸をのばすようにした。無意味な視線で、落着きなく四囲を見回してから、ドアの方へ身体を向けてしまった。そして、ネクタイの結び目あたりを抑えた。その船長は見ていられなかった。
受信機は無電室で、どうなっていたか。
受信機は無電室で時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。
JCRRAG_011124
国語
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が! と思った。それが、それだけで済む筈がない。だが、船長は咽喉へ綿でもつめられたように、立ちすくんでいるではないか。給仕はこんな場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。船長の言ったことが通らない? 馬鹿、そんな事が! だが、それが起こっている。給仕にはどうしても分らなかった。 「人情味なんか柄でもなく持ち出して、国と国との大相撲がとれるか!」唇を思い切りゆがめて唾をはいた。 無電室では受信機が時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。とにかく経過を見るために、皆は無電室に行った。 「ね、こんなに打っているんです。だんだん早くなりますね」 係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。皆は色々な器械のスウィッチやボタンの上を、係の指先があち、こち器用にすべるのを、それに縫いつけられたように眼で追いながら、思わず肩と顎根に力をこめて、じいとしていた。 船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。横腹に思い切り打ち当る波の音や、絶えずならしている不吉な警笛が、風の工合で遠くなったり、すぐ頭の上に近くなったり、鉄の扉を隔てて聞こえていた。 ジイ―、ジイ―イと、長く尾を引いて、スパークルが散った。と、そこで、ピタリと音がとまってしまった。それが、その瞬間、皆の胸へドキリときた。係は周章てて、スウィッチをひねったり、機械をせわしなく動かしたりした。が、それっ切りだった。もう打って来ない。 係は身体をひねって、廻転椅子をぐるりとまわした。 「沈没です!……」 頭から受信器を外しながら、そして低い声で言った。「乗務員四百二十五人。最後なり。救助される見込みなし。S・O・S、S・O・S、これが二、三度続いて、それで切れてしまいました」 それを聞くと、船長は頸とカラアの間に手をつっこんで、息苦しそうに頭をゆすって、頸をのばすようにした。無意味な視線で、落着きなく四囲を見回してから、ドアの方へ身体を向けてしまった。そして、ネクタイの結び目あたりを抑えた。その船長は見ていられなかった。
係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に何をしたか。
係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。
JCRRAG_011125
国語
給仕は「今」恐ろしい喧嘩が! と思った。それが、それだけで済む筈がない。だが、船長は咽喉へ綿でもつめられたように、立ちすくんでいるではないか。給仕はこんな場合の船長をかつて一度も見たことがなかった。船長の言ったことが通らない? 馬鹿、そんな事が! だが、それが起こっている。給仕にはどうしても分らなかった。 「人情味なんか柄でもなく持ち出して、国と国との大相撲がとれるか!」唇を思い切りゆがめて唾をはいた。 無電室では受信機が時々小さく、青白い火花を出して、しきりなしになっていた。とにかく経過を見るために、皆は無電室に行った。 「ね、こんなに打っているんです。だんだん早くなりますね」 係は自分の肩越しに覗き込んでいる船長や監督に説明した。皆は色々な器械のスウィッチやボタンの上を、係の指先があち、こち器用にすべるのを、それに縫いつけられたように眼で追いながら、思わず肩と顎根に力をこめて、じいとしていた。 船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。横腹に思い切り打ち当る波の音や、絶えずならしている不吉な警笛が、風の工合で遠くなったり、すぐ頭の上に近くなったり、鉄の扉を隔てて聞こえていた。 ジイ―、ジイ―イと、長く尾を引いて、スパークルが散った。と、そこで、ピタリと音がとまってしまった。それが、その瞬間、皆の胸へドキリときた。係は周章てて、スウィッチをひねったり、機械をせわしなく動かしたりした。が、それっ切りだった。もう打って来ない。 係は身体をひねって、廻転椅子をぐるりとまわした。 「沈没です!……」 頭から受信器を外しながら、そして低い声で言った。「乗務員四百二十五人。最後なり。救助される見込みなし。S・O・S、S・O・S、これが二、三度続いて、それで切れてしまいました」 それを聞くと、船長は頸とカラアの間に手をつっこんで、息苦しそうに頭をゆすって、頸をのばすようにした。無意味な視線で、落着きなく四囲を見回してから、ドアの方へ身体を向けてしまった。そして、ネクタイの結び目あたりを抑えた。その船長は見ていられなかった。
船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、どのようになっていたか。
船の動揺の度に、腫物のように壁に取付けてある電燈が、明るくなったり暗くなったりした。
JCRRAG_011126
国語
学生上りは、「ウム、そうか!」と言った。その話にひきつけられていた。然し暗い気持がして、海に眼をそらした。海はまだ大うねりにうねり返っていた。水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。 「本当に沈没したかな」独言が出る。気になって仕方がなかった。同じように、ボロ船に乗っている自分達のことが頭にくる。 ――蟹工船はどれもボロ船だった。労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいい事だった。資本主義がきまりきった所だけの利潤では行き詰まり、金利が下がって、金がダブついてくると、「文字通り」どんな事でもするし、どんな所へでも、死物狂いで血路を求め出してくる。そこへもってきて、船一艘でマンマと何拾万円が手に入る蟹工船、――彼等の夢中になるのは無理がない。 蟹工船は「工船」(工場船)であって、「航船」ではない。だから航海法は適用されなかった。二十年の間も繋ぎッ放しになって、沈没させることしかどうにもならないヨロヨロな「梅毒患者」のような船が、恥かしげもなく、上べだけの濃化粧をほどこされて、函館へ廻ってきた。日露戦争で、「名誉にも」ビッコにされ、魚のハラワタのように放って置かれた病院船や運送船が、幽霊よりも影のうすい姿を現わした。少し蒸気を強くすると、パイプが破れて、吹いた。露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解ぐれそうだった。中風患者のように身体をふるわした。 然し、それでも全くかまわない。何故なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上がるべき「秋」だったから。それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用ももうけていない。それで、これ位都合のいい、勝手に出来るところはなかった。 利口な重役はこの仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。嘘のような金が、そしてゴッソリ重役の懐に入ってくる。彼は然しそれをモット確実なものにするために「代議士」に出馬することを、自動車をドライブしながら考えている。――が、恐らく、それとカッキリ一分も違わない同じ時に、秩父丸の労働者が、何千哩も離れた北の暗い海で、割れた硝子屑のように鋭い波と風に向って、死の戦いを戦っているのだ!
海はまだどのような状態だったか。
海はまだ大うねりにうねり返っていた。
JCRRAG_011127
国語
学生上りは、「ウム、そうか!」と言った。その話にひきつけられていた。然し暗い気持がして、海に眼をそらした。海はまだ大うねりにうねり返っていた。水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。 「本当に沈没したかな」独言が出る。気になって仕方がなかった。同じように、ボロ船に乗っている自分達のことが頭にくる。 ――蟹工船はどれもボロ船だった。労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいい事だった。資本主義がきまりきった所だけの利潤では行き詰まり、金利が下がって、金がダブついてくると、「文字通り」どんな事でもするし、どんな所へでも、死物狂いで血路を求め出してくる。そこへもってきて、船一艘でマンマと何拾万円が手に入る蟹工船、――彼等の夢中になるのは無理がない。 蟹工船は「工船」(工場船)であって、「航船」ではない。だから航海法は適用されなかった。二十年の間も繋ぎッ放しになって、沈没させることしかどうにもならないヨロヨロな「梅毒患者」のような船が、恥かしげもなく、上べだけの濃化粧をほどこされて、函館へ廻ってきた。日露戦争で、「名誉にも」ビッコにされ、魚のハラワタのように放って置かれた病院船や運送船が、幽霊よりも影のうすい姿を現わした。少し蒸気を強くすると、パイプが破れて、吹いた。露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解ぐれそうだった。中風患者のように身体をふるわした。 然し、それでも全くかまわない。何故なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上がるべき「秋」だったから。それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用ももうけていない。それで、これ位都合のいい、勝手に出来るところはなかった。 利口な重役はこの仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。嘘のような金が、そしてゴッソリ重役の懐に入ってくる。彼は然しそれをモット確実なものにするために「代議士」に出馬することを、自動車をドライブしながら考えている。――が、恐らく、それとカッキリ一分も違わない同じ時に、秩父丸の労働者が、何千哩も離れた北の暗い海で、割れた硝子屑のように鋭い波と風に向って、死の戦いを戦っているのだ!
労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どのようなことだったか。
労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいい事だった。
JCRRAG_011128
国語
学生上りは、「ウム、そうか!」と言った。その話にひきつけられていた。然し暗い気持がして、海に眼をそらした。海はまだ大うねりにうねり返っていた。水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。 「本当に沈没したかな」独言が出る。気になって仕方がなかった。同じように、ボロ船に乗っている自分達のことが頭にくる。 ――蟹工船はどれもボロ船だった。労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいい事だった。資本主義がきまりきった所だけの利潤では行き詰まり、金利が下がって、金がダブついてくると、「文字通り」どんな事でもするし、どんな所へでも、死物狂いで血路を求め出してくる。そこへもってきて、船一艘でマンマと何拾万円が手に入る蟹工船、――彼等の夢中になるのは無理がない。 蟹工船は「工船」(工場船)であって、「航船」ではない。だから航海法は適用されなかった。二十年の間も繋ぎッ放しになって、沈没させることしかどうにもならないヨロヨロな「梅毒患者」のような船が、恥かしげもなく、上べだけの濃化粧をほどこされて、函館へ廻ってきた。日露戦争で、「名誉にも」ビッコにされ、魚のハラワタのように放って置かれた病院船や運送船が、幽霊よりも影のうすい姿を現わした。少し蒸気を強くすると、パイプが破れて、吹いた。露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解ぐれそうだった。中風患者のように身体をふるわした。 然し、それでも全くかまわない。何故なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上がるべき「秋」だったから。それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用ももうけていない。それで、これ位都合のいい、勝手に出来るところはなかった。 利口な重役はこの仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。嘘のような金が、そしてゴッソリ重役の懐に入ってくる。彼は然しそれをモット確実なものにするために「代議士」に出馬することを、自動車をドライブしながら考えている。――が、恐らく、それとカッキリ一分も違わない同じ時に、秩父丸の労働者が、何千哩も離れた北の暗い海で、割れた硝子屑のように鋭い波と風に向って、死の戦いを戦っているのだ!
利口な重役は蟹工船の仕事を何と結び付けたか。
利口な重役は蟹工船の仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。
JCRRAG_011129
国語
"学生上りは、「ウム、そうか!」と言った。その話にひきつけられていた。然し暗い気持がして、海に眼をそらした。海はまだ大うねりにうねり返っていた。水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。 「本当に沈没したかな」独言が出る。気になって仕方がなかった。同じように、ボロ船に乗っている自分達のことが頭にくる。 ――蟹工船はどれもボロ船だった。労働者が北オホツックの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいい事だった。資本主義がきまりきった所だけの利潤では行き詰まり、金利が下がって、金がダブついてくると、「文字通り」どんな事でもするし、どんな所へでも、死物狂いで血路を求め出してくる。そこへもってきて、船一艘でマンマと何拾万円が手に入る蟹工船、――彼等の夢中になるのは無理がない。 蟹工船は「工船」(工場船)であって、「航船」ではない。だから航海法は適用されなかった。二十年の間も繋ぎッ放しになって、沈没させることしかどうにもならないヨロヨロな「梅毒患者」のような船が、恥かしげもなく、上べだけの濃化粧をほどこされて、函館へ廻ってきた。日露戦争で、「名誉にも」ビッコにされ、魚のハラワタのように放って置かれた病院船や運送船が、幽霊よりも影のうすい姿を現わした。少し蒸気を強くすると、パイプが破れて、吹いた。露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解ぐれそうだった。中風患者のように身体をふるわした。 然し、それでも全くかまわない。何故なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上がるべき「秋」だったから。それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用ももうけていない。それで、これ位都合のいい、勝手に出来るところはなかった。 利口な重役はこの仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。嘘のような金が、そしてゴッソリ重役の懐に入ってくる。彼は然しそれをモット確実なものにするために「代議士」に出馬することを、自動車をドライブしながら考えている。――が、恐らく、それとカッキリ一分も違わない同じ時に、秩父丸の労働者が、何千哩も離れた北の暗い海で、割れた硝子屑のように鋭い波と風に向って、死の戦いを戦っているのだ!"
露国の監視船に追われて、スピードをかけると、どのようなことが起きたか。
露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解ぐれそうだった。
JCRRAG_011130
国語
霧雨が何日も上らない。それでボカされたカムサツカの沿線が、するすると八ツ目鰻のように延びて見えた。 沖合四浬のところで、博光丸が錨を下ろした。三浬までロシアの領海なので、それ以内に入ることは出来ない「ことになっていた」。 網さばきが終って、いつからでも蟹漁が出来るように準備が出来た。カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。 周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈がなかった、とブツブツ言っていた。 「独り寝だなんて、ウマイ事言いやがって!」 「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」 学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが初めて分ったとき、貨幣だと思って握っていたのが、枯葉であったから、もっと彼等はキョトンとしてしまった。始め、彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固まっていた。 函館を出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の具合が悪くなってしまった。寝床に入ってから、膝を立てて、お互い脛を指で押していた。何度も繰りかえして、その度に引っこんだとか、引っこまないとか、彼らの気持は瞬間明るくなったり、暗くなったりした。脛をなでてみると、弱い電気に触れるように、しびれる人が二、三人出てきた。棚の端から両足をブラ下げて、膝頭を手刀で打って、足が飛び上るかどうかを試した。それに悪いことには、「通じ」が四日も五日も無くなっていた。学生の一人が医者に薬を貰いに行った。帰ってきた学生は、興奮して青い顔をしていた。「そんなぜいたくな薬なんて無いとよ」 「んだべ。船医なんてんなものよ」側で聞いていた古い漁夫が言った。 「どこの医者も同じだよ。俺のいたところの会社の医者もんだった」坑山の漁夫だった。 皆がゴロゴロ横になっていたとき、監督が入ってきた。
沖合四浬のところで、博光丸が何をしたか。
沖合四浬のところで、博光丸が錨を下ろした。
JCRRAG_011131
国語
霧雨が何日も上らない。それでボカされたカムサツカの沿線が、するすると八ツ目鰻のように延びて見えた。 沖合四浬のところで、博光丸が錨を下ろした。三浬までロシアの領海なので、それ以内に入ることは出来ない「ことになっていた」。 網さばきが終って、いつからでも蟹漁が出来るように準備が出来た。カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。 周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈がなかった、とブツブツ言っていた。 「独り寝だなんて、ウマイ事言いやがって!」 「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」 学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが初めて分ったとき、貨幣だと思って握っていたのが、枯葉であったから、もっと彼等はキョトンとしてしまった。始め、彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固まっていた。 函館を出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の具合が悪くなってしまった。寝床に入ってから、膝を立てて、お互い脛を指で押していた。何度も繰りかえして、その度に引っこんだとか、引っこまないとか、彼らの気持は瞬間明るくなったり、暗くなったりした。脛をなでてみると、弱い電気に触れるように、しびれる人が二、三人出てきた。棚の端から両足をブラ下げて、膝頭を手刀で打って、足が飛び上るかどうかを試した。それに悪いことには、「通じ」が四日も五日も無くなっていた。学生の一人が医者に薬を貰いに行った。帰ってきた学生は、興奮して青い顔をしていた。「そんなぜいたくな薬なんて無いとよ」 「んだべ。船医なんてんなものよ」側で聞いていた古い漁夫が言った。 「どこの医者も同じだよ。俺のいたところの会社の医者もんだった」坑山の漁夫だった。 皆がゴロゴロ横になっていたとき、監督が入ってきた。
ボカされたカムサツカの沿線が、どのように見えたか。
ボカされたカムサツカの沿線が、するすると八ツ目鰻のように延びて見えた。
JCRRAG_011132
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霧雨が何日も上らない。それでボカされたカムサツカの沿線が、するすると八ツ目鰻のように延びて見えた。 沖合四浬のところで、博光丸が錨を下ろした。三浬までロシアの領海なので、それ以内に入ることは出来ない「ことになっていた」。 網さばきが終って、いつからでも蟹漁が出来るように準備が出来た。カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。 周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈がなかった、とブツブツ言っていた。 「独り寝だなんて、ウマイ事言いやがって!」 「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」 学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが初めて分ったとき、貨幣だと思って握っていたのが、枯葉であったから、もっと彼等はキョトンとしてしまった。始め、彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固まっていた。 函館を出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の具合が悪くなってしまった。寝床に入ってから、膝を立てて、お互い脛を指で押していた。何度も繰りかえして、その度に引っこんだとか、引っこまないとか、彼らの気持は瞬間明るくなったり、暗くなったりした。脛をなでてみると、弱い電気に触れるように、しびれる人が二、三人出てきた。棚の端から両足をブラ下げて、膝頭を手刀で打って、足が飛び上るかどうかを試した。それに悪いことには、「通じ」が四日も五日も無くなっていた。学生の一人が医者に薬を貰いに行った。帰ってきた学生は、興奮して青い顔をしていた。「そんなぜいたくな薬なんて無いとよ」 「んだべ。船医なんてんなものよ」側で聞いていた古い漁夫が言った。 「どこの医者も同じだよ。俺のいたところの会社の医者もんだった」坑山の漁夫だった。 皆がゴロゴロ横になっていたとき、監督が入ってきた。
カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、何をしたか。
カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。
JCRRAG_011133
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霧雨が何日も上らない。それでボカされたカムサツカの沿線が、するすると八ツ目鰻のように延びて見えた。 沖合四浬のところで、博光丸が錨を下ろした。三浬までロシアの領海なので、それ以内に入ることは出来ない「ことになっていた」。 網さばきが終って、いつからでも蟹漁が出来るように準備が出来た。カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。 周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈がなかった、とブツブツ言っていた。 「独り寝だなんて、ウマイ事言いやがって!」 「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」 学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが初めて分ったとき、貨幣だと思って握っていたのが、枯葉であったから、もっと彼等はキョトンとしてしまった。始め、彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固まっていた。 函館を出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の具合が悪くなってしまった。寝床に入ってから、膝を立てて、お互い脛を指で押していた。何度も繰りかえして、その度に引っこんだとか、引っこまないとか、彼らの気持は瞬間明るくなったり、暗くなったりした。脛をなでてみると、弱い電気に触れるように、しびれる人が二、三人出てきた。棚の端から両足をブラ下げて、膝頭を手刀で打って、足が飛び上るかどうかを試した。それに悪いことには、「通じ」が四日も五日も無くなっていた。学生の一人が医者に薬を貰いに行った。帰ってきた学生は、興奮して青い顔をしていた。「そんなぜいたくな薬なんて無いとよ」 「んだべ。船医なんてんなものよ」側で聞いていた古い漁夫が言った。 「どこの医者も同じだよ。俺のいたところの会社の医者もんだった」坑山の漁夫だった。 皆がゴロゴロ横になっていたとき、監督が入ってきた。
彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、どうなっていたか。
彼らは青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固まっていた。
JCRRAG_011134
国語
「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」唇をゆがめて、唾をチェッとはいた。癖だった。 学生は給仕からきいたことが、すぐ頭にきた。自分が現に手をかけて殺した四、五百人の労働者の生命のことを、平気な顔で言う、海にタタキ込んでやっても足りない奴だ、と思った。皆はムクムクと頭をあげた。急に、ザワザワお互いに話し出した。浅川はそれだけ言うと、左肩だけを前の方に振って、出て行った。 行衛の分らなかった雑夫が、二日前にボイラーの側から出てきたところをつかまえた。二日隠れていたけれども、腹が減って、腹が減って、どうにも出来ず、出て来たのだった。捕ったのは中年過ぎの漁夫だった。若い漁夫がその漁夫をなぐりつけると言って、怒った。 「うるさい奴だ、煙草のみでもないのに、煙草の味が分るか」バットを二個手に入れた漁夫はうまそうに飲んでいた。 雑夫は監督にシャツ一枚にされると、二つあるうちの一つの方の便所に押し込まれて、表から錠を下ろされた。初め、皆は便所へ行くのを嫌った。隣りで泣きわめく声が、とても聞いていられなかった。二日目にはその声がかすれて、ヒエ、ヒエしていた。そして、そのわめきが間を置くようになった。その日の終り頃に、仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、もうドアを内側から叩きつける音もしていなかった。こっちから合図をしても、それが返って来なかった。その遅く、睾隠しに片手をもたれかけて、便所紙の箱に頭を入れ、うつぶせに倒れていた宮口が、出されてきた。唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。
浅川は「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」と言うと、どうしたか。
浅川は「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」と言うと、左肩だけを前の方に振って、出て行った。
JCRRAG_011135
国語
「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」唇をゆがめて、唾をチェッとはいた。癖だった。 学生は給仕からきいたことが、すぐ頭にきた。自分が現に手をかけて殺した四、五百人の労働者の生命のことを、平気な顔で言う、海にタタキ込んでやっても足りない奴だ、と思った。皆はムクムクと頭をあげた。急に、ザワザワお互いに話し出した。浅川はそれだけ言うと、左肩だけを前の方に振って、出て行った。 行衛の分らなかった雑夫が、二日前にボイラーの側から出てきたところをつかまえた。二日隠れていたけれども、腹が減って、腹が減って、どうにも出来ず、出て来たのだった。捕ったのは中年過ぎの漁夫だった。若い漁夫がその漁夫をなぐりつけると言って、怒った。 「うるさい奴だ、煙草のみでもないのに、煙草の味が分るか」バットを二個手に入れた漁夫はうまそうに飲んでいた。 雑夫は監督にシャツ一枚にされると、二つあるうちの一つの方の便所に押し込まれて、表から錠を下ろされた。初め、皆は便所へ行くのを嫌った。隣りで泣きわめく声が、とても聞いていられなかった。二日目にはその声がかすれて、ヒエ、ヒエしていた。そして、そのわめきが間を置くようになった。その日の終り頃に、仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、もうドアを内側から叩きつける音もしていなかった。こっちから合図をしても、それが返って来なかった。その遅く、睾隠しに片手をもたれかけて、便所紙の箱に頭を入れ、うつぶせに倒れていた宮口が、出されてきた。唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。
若い漁夫がその漁夫を何と言って、怒ったか。
若い漁夫がその漁夫をなぐりつけると言って、怒った。
JCRRAG_011136
国語
「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」唇をゆがめて、唾をチェッとはいた。癖だった。 学生は給仕からきいたことが、すぐ頭にきた。自分が現に手をかけて殺した四、五百人の労働者の生命のことを、平気な顔で言う、海にタタキ込んでやっても足りない奴だ、と思った。皆はムクムクと頭をあげた。急に、ザワザワお互いに話し出した。浅川はそれだけ言うと、左肩だけを前の方に振って、出て行った。 行衛の分らなかった雑夫が、二日前にボイラーの側から出てきたところをつかまえた。二日隠れていたけれども、腹が減って、腹が減って、どうにも出来ず、出て来たのだった。捕ったのは中年過ぎの漁夫だった。若い漁夫がその漁夫をなぐりつけると言って、怒った。 「うるさい奴だ、煙草のみでもないのに、煙草の味が分るか」バットを二個手に入れた漁夫はうまそうに飲んでいた。 雑夫は監督にシャツ一枚にされると、二つあるうちの一つの方の便所に押し込まれて、表から錠を下ろされた。初め、皆は便所へ行くのを嫌った。隣りで泣きわめく声が、とても聞いていられなかった。二日目にはその声がかすれて、ヒエ、ヒエしていた。そして、そのわめきが間を置くようになった。その日の終り頃に、仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、もうドアを内側から叩きつける音もしていなかった。こっちから合図をしても、それが返って来なかった。その遅く、睾隠しに片手をもたれかけて、便所紙の箱に頭を入れ、うつぶせに倒れていた宮口が、出されてきた。唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。
雑夫は監督にシャツ一枚にされると、どのようなことをされたか。
雑夫は監督にシャツ一枚にされると、二つあるうちの一つの方の便所に押し込まれて、表から錠を下ろされた。
JCRRAG_011137
国語
「皆、寝たか一寸聞け。秩父丸が沈没したっていう無電が入ったんだ。生死の詳しいことは分らないそうだ」唇をゆがめて、唾をチェッとはいた。癖だった。 学生は給仕からきいたことが、すぐ頭にきた。自分が現に手をかけて殺した四、五百人の労働者の生命のことを、平気な顔で言う、海にタタキ込んでやっても足りない奴だ、と思った。皆はムクムクと頭をあげた。急に、ザワザワお互いに話し出した。浅川はそれだけ言うと、左肩だけを前の方に振って、出て行った。 行衛の分らなかった雑夫が、二日前にボイラーの側から出てきたところをつかまえた。二日隠れていたけれども、腹が減って、腹が減って、どうにも出来ず、出て来たのだった。捕ったのは中年過ぎの漁夫だった。若い漁夫がその漁夫をなぐりつけると言って、怒った。 「うるさい奴だ、煙草のみでもないのに、煙草の味が分るか」バットを二個手に入れた漁夫はうまそうに飲んでいた。 雑夫は監督にシャツ一枚にされると、二つあるうちの一つの方の便所に押し込まれて、表から錠を下ろされた。初め、皆は便所へ行くのを嫌った。隣りで泣きわめく声が、とても聞いていられなかった。二日目にはその声がかすれて、ヒエ、ヒエしていた。そして、そのわめきが間を置くようになった。その日の終り頃に、仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、もうドアを内側から叩きつける音もしていなかった。こっちから合図をしても、それが返って来なかった。その遅く、睾隠しに片手をもたれかけて、便所紙の箱に頭を入れ、うつぶせに倒れていた宮口が、出されてきた。唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。
仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、何か音は聞こえたか。
仕事を終えた漁夫が、気掛りで直ぐ便所のところへ行ったが、もうドアを内側から叩きつける音もしていなかった。
JCRRAG_011138
国語
朝は寒かった。明るくなってはいたが、まだ三時だった。かじかんだ手を懐につっこみながら、背をまるくして起き上ってきた。監督は雑夫や漁夫、水夫、火夫の部屋まで見て歩いて、風邪をひいているものも、病気のものも、かまわず引きずり出した。 風は無かったが、甲板で仕事をしていると、手と足の先きが擂粉木のように感覚が無くなった。雑夫長が大声で悪態をつきながら、十四、五人の雑夫を工場に追い込んでいた。彼の持っている竹の先きには皮がついていた。それは工場で怠けているものを機械の枠越しに、向う側でもなぐりつけることが出来るように、造られていた。 「昨夜出されたきりで、ものも言えない宮口を今朝からどうしても働かさなけアならないって、さっき足で蹴ってるんだよ」 学生上りになじんでいる弱々しい身体の雑夫が、雑夫長の顔を見、そのことを知らせた。 「どうしても動かないんで、とうとうあきらめたらしいんだけど」 そこへ、監督が身体をワクワクふるわせている雑夫を後からグイ、グイ突きながら、押して来た。寒い雨に濡れながら仕事をさせられたために、その雑夫は風邪をひき、それから肋膜を悪くしていた。寒くないときでも、始終身体をふるわしていた。子供らしくない皺を眉の間に刻んで、血の気のない薄い唇を妙にゆがめて、疳のピリピリしているような眼差しをしていた。彼が寒さに堪えられなくなって、ボイラーの室でウロウロしていたところを、見付けられたのだった。
監督は雑夫や漁夫、水夫、火夫の部屋まで見て歩いて、何をしたか。
監督は雑夫や漁夫、水夫、火夫の部屋まで見て歩いて、風邪をひいているものも、病気のものも、かまわず引きずり出した。
JCRRAG_011139
国語
朝は寒かった。明るくなってはいたが、まだ三時だった。私はかじかんだ手を懐につっこみながら、背をまるくして起き上ってきた。監督は雑夫や漁夫、水夫、火夫の部屋まで見て歩いて、風邪をひいているものも、病気のものも、かまわず引きずり出した。 風は無かったが、甲板で仕事をしていると、手と足の先きが擂粉木のように感覚が無くなった。雑夫長が大声で悪態をつきながら、十四、五人の雑夫を工場に追い込んでいた。彼の持っている竹の先きには皮がついていた。それは工場で怠けているものを機械の枠越しに、向う側でもなぐりつけることが出来るように、造られていた。 「昨夜出されたきりで、ものも言えない宮口を今朝からどうしても働かさなけアならないって、さっき足で蹴ってるんだよ」 学生上りになじんでいる弱々しい身体の雑夫が、雑夫長の顔を見、そのことを知らせた。 「どうしても動かないんで、とうとうあきらめたらしいんだけど」 そこへ、監督が身体をワクワクふるわせている雑夫を後からグイ、グイ突きながら、押して来た。寒い雨に濡れながら仕事をさせられたために、その雑夫は風邪をひき、それから肋膜を悪くしていた。寒くないときでも、始終身体をふるわしていた。子供らしくない皺を眉の間に刻んで、血の気のない薄い唇を妙にゆがめて、疳のピリピリしているような眼差しをしていた。彼が寒さに堪えられなくなって、ボイラーの室でウロウロしていたところを、見付けられたのだった。
風は無かったが、私が甲板で仕事をしていると、手と足の先きがどうなったか。
風は無かったが、私が甲板で仕事をしていると、手と足の先きが擂粉木のように感覚が無くなった。
JCRRAG_011140
国語
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も言えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。 「風邪をひいてもらったり、不貞寝をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」 監督が甲板を棍棒で叩いた。 「監獄だって、これより悪かったら、お目にかからないで!」 「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ」 「んさ。こったら事って第一あるか」 スティムでウインチがガラガラ廻わり出した。川崎船は身体を空にゆすりながら、一斉に降り始めた。水夫や火夫も狩り立てられて、甲板のすべる足元に気を配りながら、走り廻っていた。それらのなかを、監督は鶏冠を立てた牡鶏のように見廻った。 仕事の切れ目が出来たので、学生上りが一寸の間風を避けて、荷物のかげに腰を下していると、炭山から来た漁夫が口のまわりに両手を円く囲んで、ハア、ハア息をかけながら、ひょいと角を曲ってきた。 「生命的だな!」それが、心からフイと出た実感が思わず学生の胸を衝いた。「やっぱし炭山と変わらないで、死ぬ思いをしないと、生きられないなんてな。瓦斯も恐ッかねど、波もおっかねしな」 昼過ぎから、空の模様がどこか変ってきた。薄い海霧が一面に然しそうでないと言われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。荷物にかけてあるズックの覆いの裾がバタバタとデッキをたたいた。 「兎が飛ぶどオ―兎が!」誰かが大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。 もう海一面、三角波の頂きが白いしぶきを飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上っているようだった。それがカムサツカの「突風」の前ブレだった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今まで右舷に見えていたカムサツカが、分らないうちに左舷になっていた。船に居残って仕事をしていた漁夫や水夫は急に慌て出した。 すぐ頭の上で、警笛が鳴り出した。皆は立ち止まったまま、空を仰いだ。すぐ下にいるせいか、斜め後ろに突き出ている、思わない程太い、湯桶のような煙突が、ユキユキと揺れていた。その煙突の腹の独逸帽のようなホイッスルから鳴る警笛が、荒れ狂っている暴風の中で、何か悲壮に聞こえた。遠く本船をはなれて、漁に出ている川崎船が絶え間なく鳴らされているこの警笛を頼りに、時化をおかして帰って来るのだった。
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、どのような行動をとったか。
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も言えず、見送っていた。
JCRRAG_011141
国語
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も言えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。 「風邪をひいてもらったり、不貞寝をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」 監督が甲板を棍棒で叩いた。 「監獄だって、これより悪かったら、お目にかからないで!」 「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ」 「んさ。こったら事って第一あるか」 スティムでウインチがガラガラ廻わり出した。川崎船は身体を空にゆすりながら、一斉に降り始めた。水夫や火夫も狩り立てられて、甲板のすべる足元に気を配りながら、走り廻っていた。それらのなかを、監督は鶏冠を立てた牡鶏のように見廻った。 仕事の切れ目が出来たので、学生上りが一寸の間風を避けて、荷物のかげに腰を下していると、炭山から来た漁夫が口のまわりに両手を円く囲んで、ハア、ハア息をかけながら、ひょいと角を曲ってきた。 「生命的だな!」それが、心からフイと出た実感が思わず学生の胸を衝いた。「やっぱし炭山と変わらないで、死ぬ思いをしないと、生きられないなんてな。瓦斯も恐ッかねど、波もおっかねしな」 昼過ぎから、空の模様がどこか変ってきた。薄い海霧が一面に然しそうでないと言われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。荷物にかけてあるズックの覆いの裾がバタバタとデッキをたたいた。 「兎が飛ぶどオ―兎が!」誰かが大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。 もう海一面、三角波の頂きが白いしぶきを飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上っているようだった。それがカムサツカの「突風」の前ブレだった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今まで右舷に見えていたカムサツカが、分らないうちに左舷になっていた。船に居残って仕事をしていた漁夫や水夫は急に慌て出した。 すぐ頭の上で、警笛が鳴り出した。皆は立ち止まったまま、空を仰いだ。すぐ下にいるせいか、斜め後ろに突き出ている、思わない程太い、湯桶のような煙突が、ユキユキと揺れていた。その煙突の腹の独逸帽のようなホイッスルから鳴る警笛が、荒れ狂っている暴風の中で、何か悲壮に聞こえた。遠く本船をはなれて、漁に出ている川崎船が絶え間なく鳴らされているこの警笛を頼りに、時化をおかして帰って来るのだった。
四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、どのような行動をとったか。
四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。
JCRRAG_011142
国語
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も言えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。 「風邪をひいてもらったり、不貞寝をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」 監督が甲板を棍棒で叩いた。 「監獄だって、これより悪かったら、お目にかからないで!」 「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ」 「んさ。こったら事って第一あるか」 スティムでウインチがガラガラ廻わり出した。川崎船は身体を空にゆすりながら、一斉に降り始めた。水夫や火夫も狩り立てられて、甲板のすべる足元に気を配りながら、走り廻っていた。それらのなかを、監督は鶏冠を立てた牡鶏のように見廻った。 仕事の切れ目が出来たので、学生上りが一寸の間風を避けて、荷物のかげに腰を下していると、炭山から来た漁夫が口のまわりに両手を円く囲んで、ハア、ハア息をかけながら、ひょいと角を曲ってきた。 「生命的だな!」それが、心からフイと出た実感が思わず学生の胸を衝いた。「やっぱし炭山と変わらないで、死ぬ思いをしないと、生きられないなんてな。瓦斯も恐ッかねど、波もおっかねしな」 昼過ぎから、空の模様がどこか変ってきた。薄い海霧が一面に然しそうでないと言われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。荷物にかけてあるズックの覆いの裾がバタバタとデッキをたたいた。 「兎が飛ぶどオ―兎が!」誰かが大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。 もう海一面、三角波の頂きが白いしぶきを飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上っているようだった。それがカムサツカの「突風」の前ブレだった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今まで右舷に見えていたカムサツカが、分らないうちに左舷になっていた。船に居残って仕事をしていた漁夫や水夫は急に慌て出した。 すぐ頭の上で、警笛が鳴り出した。皆は立ち止まったまま、空を仰いだ。すぐ下にいるせいか、斜め後ろに突き出ている、思わない程太い、湯桶のような煙突が、ユキユキと揺れていた。その煙突の腹の独逸帽のようなホイッスルから鳴る警笛が、荒れ狂っている暴風の中で、何か悲壮に聞こえた。遠く本船をはなれて、漁に出ている川崎船が絶え間なく鳴らされているこの警笛を頼りに、時化をおかして帰って来るのだった。
監督が甲板を何で叩いたか。
監督が甲板を棍棒で叩いた。
JCRRAG_011143
国語
出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も言えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。 「風邪をひいてもらったり、不貞寝をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」 監督が甲板を棍棒で叩いた。 「監獄だって、これより悪かったら、お目にかからないで!」 「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ」 「んさ。こったら事って第一あるか」 スティムでウインチがガラガラ廻わり出した。川崎船は身体を空にゆすりながら、一斉に降り始めた。水夫や火夫も狩り立てられて、甲板のすべる足元に気を配りながら、走り廻っていた。それらのなかを、監督は鶏冠を立てた牡鶏のように見廻った。 仕事の切れ目が出来たので、学生上りが一寸の間風を避けて、荷物のかげに腰を下していると、炭山から来た漁夫が口のまわりに両手を円く囲んで、ハア、ハア息をかけながら、ひょいと角を曲ってきた。 「生命的だな!」それが、心からフイと出た実感が思わず学生の胸を衝いた。「やっぱし炭山と変わらないで、死ぬ思いをしないと、生きられないなんてな。瓦斯も恐ッかねど、波もおっかねしな」 昼過ぎから、空の模様がどこか変ってきた。薄い海霧が一面に然しそうでないと言われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。荷物にかけてあるズックの覆いの裾がバタバタとデッキをたたいた。 「兎が飛ぶどオ―兎が!」誰かが大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。 もう海一面、三角波の頂きが白いしぶきを飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上っているようだった。それがカムサツカの「突風」の前ブレだった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今まで右舷に見えていたカムサツカが、分らないうちに左舷になっていた。船に居残って仕事をしていた漁夫や水夫は急に慌て出した。 すぐ頭の上で、警笛が鳴り出した。皆は立ち止まったまま、空を仰いだ。すぐ下にいるせいか、斜め後ろに突き出ている、思わない程太い、湯桶のような煙突が、ユキユキと揺れていた。その煙突の腹の独逸帽のようなホイッスルから鳴る警笛が、荒れ狂っている暴風の中で、何か悲壮に聞こえた。遠く本船をはなれて、漁に出ている川崎船が絶え間なく鳴らされているこの警笛を頼りに、時化をおかして帰って来るのだった。
監督はどのように見廻ったか。
監督は鶏冠を立てた牡鶏のように見廻った。
JCRRAG_011144
国語
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。斜め上から、船の動きの度に、チラチラ薄い光の束が洩れていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。 「どうした?」坑夫がその中に入り込んだ。 「浅川の野郎ば、なぐり殺すんだ!」殺気だっていた。 監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受け取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼び戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」そう浅川の言ったことが、無線係から洩れた。 それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」 「人間の命?」 「そうよ」 「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」 何か言おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真っ赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。 皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なく鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。 夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけて上った。川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻は互いにロープを渡して結び合っていた。
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が何をしていたか。
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。
JCRRAG_011145
国語
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。斜め上から、船の動きの度に、チラチラ薄い光の束が洩れていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。 「どうした?」坑夫がその中に入り込んだ。 「浅川の野郎ば、なぐり殺すんだ!」殺気だっていた。 監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受け取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼び戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」そう浅川の言ったことが、無線係から洩れた。 それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」 「人間の命?」 「そうよ」 「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」 何か言おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真っ赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。 皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なく鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。 夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけて上った。川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻は互いにロープを渡して結び合っていた。
興奮した漁夫の色々な顔が、どのように現れたか。
興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。
JCRRAG_011146
国語
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。斜め上から、船の動きの度に、チラチラ薄い光の束が洩れていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。 「どうした?」坑夫がその中に入り込んだ。 「浅川の野郎ば、なぐり殺すんだ!」殺気だっていた。 監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受け取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼び戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」そう浅川の言ったことが、無線係から洩れた。 それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」 「人間の命?」 「そうよ」 「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」 何か言おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真っ赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。 皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なく鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。 夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけて上った。川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻は互いにロープを渡して結び合っていた。
最初の漁夫は、どのように怒鳴りつけたか。
最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。
JCRRAG_011147
国語
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。斜め上から、船の動きの度に、チラチラ薄い光の束が洩れていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。 「どうした?」坑夫がその中に入り込んだ。 「浅川の野郎ば、なぐり殺すんだ!」殺気だっていた。 監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受け取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼び戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」そう浅川の言ったことが、無線係から洩れた。 それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」 「人間の命?」 「そうよ」 「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」 何か言おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真っ赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。 皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なく鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。 夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけて上った。川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻は互いにロープを渡して結び合っていた。
父親が川崎船で出ている雑夫が、どのような行動をしていたか。
父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。
JCRRAG_011148
国語
薄暗い機関室への降り口で、漁夫と水夫が固まり合って騒いでいた。斜め上から、船の動きの度に、チラチラ薄い光の束が洩れていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬く間に浮き出て、消えた。 「どうした?」坑夫がその中に入り込んだ。 「浅川の野郎ば、なぐり殺すんだ!」殺気だっていた。 監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受け取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼び戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」そう浅川の言ったことが、無線係から洩れた。 それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」 「人間の命?」 「そうよ」 「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」 何か言おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真っ赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。 皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なく鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。 夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけて上った。川崎船が二隻近づいてきたのだった。二隻は互いにロープを渡して結び合っていた。
頭の上でステイが絶え間なく鳴るのを聞いていると、漁夫の心はどうなったか。
頭の上で頭の上でステイが絶え間なく鳴るのを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り裂かれた。
JCRRAG_011149
国語
朝早くから、機関部が急がしかった。錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。サイドの鉄板がボロボロになって、その度にこぼれ落ちた。博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。が、所々その砕けた氷が見る限りの大きな集団をなして、あぶくを出しながら、船を見る見るうちに真中に取囲んでしまう、そんなことがあった。氷は湯気のような水蒸気をたてていた。と、扇風機にでも吹かれるように「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。  川崎船は中々見つからない。  九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第40号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標ヴイがつけられていた。それで見ると×××丸が何処かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。  浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
朝早くから、機関部がどのような状態だったか。
朝早くから、機関部が急がしかった。
JCRRAG_011150
国語
朝早くから、機関部が急がしかった。錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。サイドの鉄板がボロボロになって、その度にこぼれ落ちた。博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。が、所々その砕けた氷が見る限りの大きな集団をなして、あぶくを出しながら、船を見る見るうちに真中に取囲んでしまう、そんなことがあった。氷は湯気のような水蒸気をたてていた。と、扇風機にでも吹かれるように「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。  川崎船は中々見つからない。  九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第40号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標ヴイがつけられていた。それで見ると×××丸が何処かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。  浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫をどのようにハネ飛ばしたか。
錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。
JCRRAG_011151
国語
朝早くから、機関部が急がしかった。錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。サイドの鉄板がボロボロになって、その度にこぼれ落ちた。博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。が、所々その砕けた氷が見る限りの大きな集団をなして、あぶくを出しながら、船を見る見るうちに真中に取囲んでしまう、そんなことがあった。氷は湯気のような水蒸気をたてていた。と、扇風機にでも吹かれるように「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。  川崎船は中々見つからない。  九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第40号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標ヴイがつけられていた。それで見ると×××丸が何処かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。  浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
博光丸は北緯五十一度五分の所まで、何を捜索したか。
博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。
JCRRAG_011152
国語
朝早くから、機関部が急がしかった。錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。サイドの鉄板がボロボロになって、その度にこぼれ落ちた。博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。が、所々その砕けた氷が見る限りの大きな集団をなして、あぶくを出しながら、船を見る見るうちに真中に取囲んでしまう、そんなことがあった。氷は湯気のような水蒸気をたてていた。と、扇風機にでも吹かれるように「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。  川崎船は中々見つからない。  九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第40号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標ヴイがつけられていた。それで見ると×××丸が何処かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。  浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
結氷の砕片がどのように流れていたか。
結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。
JCRRAG_011153
国語
朝早くから、機関部が急がしかった。錨を上げる震動が、錨室と背中合せになっている漁夫を煎豆のようにハネ飛ばした。サイドの鉄板がボロボロになって、その度にこぼれ落ちた。博光丸は北緯五十一度五分の所まで、錨をなげてきた第一号川崎船を捜索した。結氷の砕片が生きもののように、ゆるい波のうねりの間々に、ひょいひょい身体を見せて流れていた。が、所々その砕けた氷が見る限りの大きな集団をなして、あぶくを出しながら、船を見る見るうちに真中に取囲んでしまう、そんなことがあった。氷は湯気のような水蒸気をたてていた。と、扇風機にでも吹かれるように「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。  川崎船は中々見つからない。  九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第40号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標ヴイがつけられていた。それで見ると×××丸が何処かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。  浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が何艘浮かんでいるのを発見したか。
九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。
JCRRAG_011154
国語
行衛不明になった川崎船は帰らない。漁夫達は、そこだけが水溜まりのようにポツンと空いた棚から、残して行った彼等の荷物や、家族のいる住所をしらべたり、それぞれ万一の時に直ぐ処置が出来るように取り纏めた。気持のいいことではなかった。それをしていると、漁夫達は、まるで自分の痛い何処かを、覗きこまれているようなつらさを感じた。中積船が来たら托送しようと、同じ苗字の女名前がその宛先になっている小包や手紙が、彼等の荷物の中から出てきた。そのうちの一人の荷物の中から、片仮名と平仮名の交った、鉛筆をなめり、なめり書いた手紙が出た。それが無骨な漁夫の手から、手へ渡されて行った。彼等は豆粒でも拾うように、ボツリ、ボツリ、然しむさぼるように、それを読んでしまうと、嫌なものを見てしまったという風に頭をふって、次に渡してやった。子供からの手紙だった。  ぐずりと鼻をならして、手紙から顔を上げると、カスカスした低い声で、「浅川のためだ。死んだと分ったら、弔い合戦をやるんだ」と言った。その男は図体の大きい、北海道の奥地で色々なことをやってきたという男だった。もっと低い声で、 「奴、一人位タタキ落せるべよ」若い、肩のもり上った漁夫が言った。 「あ、この手紙いけねえ。すっかり思い出してしまった」 「なア」最初のが言った。「うっかりしていれば、俺達だって奴にやられたんだで。他人でねえんだど」  隅の方で、立膝をして、拇指の爪をかみながら、上眼をつかって、皆の言うのを聞いていた男が、その時、うん、うんと頭をふって、うなずいた。「万事、俺にまかせれ、その時ア! あの野郎一人グイとやってしまうから」  皆はだまった。だまったまま、然し、ホッとした。
行衛不明になった川崎船はどうなるか。
行衛不明になった川崎船は帰らない。
JCRRAG_011155
国語
行衛不明になった川崎船は帰らない。漁夫達は、そこだけが水溜まりのようにポツンと空いた棚から、残して行った彼等の荷物や、家族のいる住所をしらべたり、それぞれ万一の時に直ぐ処置が出来るように取り纏めた。気持のいいことではなかった。それをしていると、漁夫達は、まるで自分の痛い何処かを、覗きこまれているようなつらさを感じた。中積船が来たら托送しようと、同じ苗字の女名前がその宛先になっている小包や手紙が、彼等の荷物の中から出てきた。そのうちの一人の荷物の中から、片仮名と平仮名の交った、鉛筆をなめり、なめり書いた手紙が出た。それが無骨な漁夫の手から、手へ渡されて行った。彼等は豆粒でも拾うように、ボツリ、ボツリ、然しむさぼるように、それを読んでしまうと、嫌なものを見てしまったという風に頭をふって、次に渡してやった。子供からの手紙だった。  ぐずりと鼻をならして、手紙から顔を上げると、カスカスした低い声で、「浅川のためだ。死んだと分ったら、弔い合戦をやるんだ」と言った。その男は図体の大きい、北海道の奥地で色々なことをやってきたという男だった。もっと低い声で、 「奴、一人位タタキ落せるべよ」若い、肩のもり上った漁夫が言った。 「あ、この手紙いけねえ。すっかり思い出してしまった」 「なア」最初のが言った。「うっかりしていれば、俺達だって奴にやられたんだで。他人でねえんだど」  隅の方で、立膝をして、拇指の爪をかみながら、上眼をつかって、皆の言うのを聞いていた男が、その時、うん、うんと頭をふって、うなずいた。「万事、俺にまかせれ、その時ア! あの野郎一人グイとやってしまうから」  皆はだまった。だまったまま、然し、ホッとした。
漁夫達は、そこだけが水溜まりのようにポツンと空いた棚から、何をして、それぞれ万一の時に直ぐ処置が出来るように取り纏めたか。
漁夫達は、そこだけが水溜まりのようにポツンと空いた棚から、残して行った彼等の荷物や、家族のいる住所をしらべたり、それぞれ万一の時に直ぐ処置が出来るように取り纏めた。
JCRRAG_011156
国語
二人は扉をあけて中にはいりました。  扉の裏側には、大きな字でこう書いてありました。 「いろいろ注文が多くてうるさかったですよね。お気の毒でした。  もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」  なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互いにクリームをたくさん塗った顔を見ました。 「どうもおかしいぜ。」 「ぼくもおかしいとおもう。」 「たくさんの注文というのは、向こうがこっちへ注文してるんだよ。」 「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家ということなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。 「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。 「にげ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう少しも動きませんでした。  奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、 「いや、わざわざご苦労です。  大へん結構できました。  さあさあおなかにおはいりください。」 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉がこっちをのぞいています。 「うわあ。」がたがたがたがた。 「うわあ。」がたがたがたがた。  二人は泣き出しました。  すると戸の中では、こそこそこんなことをいっています。 「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」 「あたりまえさ。親分の書き方が良くないんだ。あそこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けなことを書いたもんだ。」 「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けてくれないんだしさ。」 「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」 「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラダはきらいですか。それならこれから火を起こしてフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」  二人はあまりに心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、お互いにその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。  中ではふっふっとわらってまたさけんでいます。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」 「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」  二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。  そのときうしろからいきなり、 「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、あの白熊のような犬が二匹、扉をつきやぶって部屋の中に飛び込んできました。鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはうぅとと唸ってしばらく部屋の中をくるくるまわっていましたが、また一声 「わん。」と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。  その扉の向こうのまっくらやみのなかで、 「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がして、それからがさがさ鳴りました。  部屋はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。  見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。  犬がふうとうなってもどってきました。  そしてうしろからは、 「旦那あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。  二人は少し元気がついて 「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。  簔帽子をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきました。  そこで二人はやっと安心しました。  そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。  しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お風呂にはいっても、もう元通りになおりませんでした。
部屋はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、どこに立っていましたか。
部屋はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。
JCRRAG_011157
国語
二人は扉をあけて中にはいりました。  扉の裏側には、大きな字でこう書いてありました。 「いろいろ注文が多くてうるさかったですよね。お気の毒でした。  もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」  なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互いにクリームをたくさん塗った顔を見ました。 「どうもおかしいぜ。」 「ぼくもおかしいとおもう。」 「たくさんの注文というのは、向こうがこっちへ注文してるんだよ。」 「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家ということなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。 「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。 「にげ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう少しも動きませんでした。  奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、 「いや、わざわざご苦労です。  大へん結構できました。  さあさあおなかにおはいりください。」 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉がこっちをのぞいています。 「うわあ。」がたがたがたがた。 「うわあ。」がたがたがたがた。  二人は泣き出しました。  すると戸の中では、こそこそこんなことをいっています。 「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」 「あたりまえさ。親分の書き方が良くないんだ。あそこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けなことを書いたもんだ。」 「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けてくれないんだしさ。」 「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」 「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラダはきらいですか。それならこれから火を起こしてフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」  二人はあまりに心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、お互いにその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。  中ではふっふっとわらってまたさけんでいます。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」 「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」  二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。  そのときうしろからいきなり、 「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、あの白熊のような犬が二匹、扉をつきやぶって部屋の中に飛び込んできました。鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはうぅとと唸ってしばらく部屋の中をくるくるまわっていましたが、また一声 「わん。」と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。  その扉の向こうのまっくらやみのなかで、 「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がして、それからがさがさ鳴りました。  部屋はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。  見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。  犬がふうとうなってもどってきました。  そしてうしろからは、 「旦那あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。  二人は少し元気がついて 「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。  簔帽子をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきました。  そこで二人はやっと安心しました。  そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。  しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お風呂にはいっても、もう元通りになおりませんでした。
何をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきましたか。
簔帽子をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきました。
JCRRAG_011158
国語
「どうですか。訳はないでしょう。今度は、このランプをごらんなさい。」  ミスラ君はこう言いながら、ちょいとテーブルの上のランプを置き直しましたが、その拍子にどういう訳か、ランプはまるでコマのように、ぐるぐる回り始めました。それもちゃんと一か所に止まったまま、ホヤを心棒のようにして、勢いよく回り始めたのです。はじめの内は私も大層驚いて、万が一にでも火事になっては大変だと、何度もひやひやしましたが、ミスラ君は静かに紅茶を飲みながら、一向に騒ぐようすもありません。そこで私もしまいには、すっかり度胸がすわってしまって、だんだん早くなるランプの運動を、眼も離さず眺めていました。  また実際ランプの蓋が風を起こして回る中に、黄色い焔がたった一つ、またたきもせずに灯っているのは、何とも言えず美しい、不思議な見物だったのです。が、その内にランプの回るのが、いよいよ早くなって行って、とうとう回っているとは見えないほど、澄み渡ったと思うと、いつの間にか、前のようにホヤ一つゆがんだ様子もなく、テーブルの上に据っていました。 「驚きましたか。こんなことはほんの子供だましですよ。それともあなたが御望みなら、もう一つ何かご覧に入れましょう。」  ミスラ君はうしろを振り返って、壁側の書棚を眺めましたが、やがてその方へ手をさし伸ばして、招くように指を動かすと、今度は書棚に並んでいた書物が一冊ずつ動き出して、自然にテーブルの上まで飛んで来ました。そのまた飛び方が両方へ表紙を開いて、夏の夕方に飛び交うコウモリのように、ひらひらと宙へ舞い上るのです。私は葉巻を口にくわえたまま、呆気にとられて見ていましたが、書物はうす暗いランプの光の中に何冊も自由に飛び回って、ひとつひとつ行儀よくテーブルの上へピラミッドの形に積み上がりました。しかも残らずこちらへ移ってしまったと思うと、すぐに最初に来たのから動き出して、もとの書棚へ順々に飛び返って行くじゃありませんか。  が、中でも一番面白かったのは、うすい仮綴じの書物が一冊、やはり翼のように表紙を開いて、ふわりと空へ上がりましたが、しばらくテーブルの上で輪を描いてから、急にページをざわつかせると、逆落としに私の膝へさっと下りて来たことです。どうしたのかと思って手にとって見ると、これは私が一週間ばかり前にミスラ君へ貸した覚えがある、フランスの新しい小説でした。 「ながなが本をありがとう。」  ミスラ君はまだ微笑を含んだ声で、こう私に礼を言いました。もちろんその時はもう多くの書物が、みんなテーブルの上から書棚の中へ舞い戻ってしまっていたのです。
私も大層驚いて、万が一にでも何になっては大変だと、何度もひやひやしましたか。
私も大層驚いて、万が一にでも火事になっては大変だと、何度もひやひやしました。
JCRRAG_011159
国語
「どうですか。訳はないでしょう。今度は、このランプをごらんなさい。」  ミスラ君はこう言いながら、ちょいとテーブルの上のランプを置き直しましたが、その拍子にどういう訳か、ランプはまるでコマのように、ぐるぐる回り始めました。それもちゃんと一か所に止まったまま、ホヤを心棒のようにして、勢いよく回り始めたのです。はじめの内は私も大層驚いて、万が一にでも火事になっては大変だと、何度もひやひやしましたが、ミスラ君は静かに紅茶を飲みながら、一向に騒ぐようすもありません。そこで私もしまいには、すっかり度胸がすわってしまって、だんだん早くなるランプの運動を、眼も離さず眺めていました。  また実際ランプの蓋が風を起こして回る中に、黄色い焔がたった一つ、またたきもせずに灯っているのは、何とも言えず美しい、不思議な見物だったのです。が、その内にランプの回るのが、いよいよ早くなって行って、とうとう回っているとは見えないほど、澄み渡ったと思うと、いつの間にか、前のようにホヤ一つゆがんだ様子もなく、テーブルの上に据っていました。 「驚きましたか。こんなことはほんの子供だましですよ。それともあなたが御望みなら、もう一つ何かご覧に入れましょう。」  ミスラ君はうしろを振り返って、壁側の書棚を眺めましたが、やがてその方へ手をさし伸ばして、招くように指を動かすと、今度は書棚に並んでいた書物が一冊ずつ動き出して、自然にテーブルの上まで飛んで来ました。そのまた飛び方が両方へ表紙を開いて、夏の夕方に飛び交うコウモリのように、ひらひらと宙へ舞い上るのです。私は葉巻を口にくわえたまま、呆気にとられて見ていましたが、書物はうす暗いランプの光の中に何冊も自由に飛び回って、ひとつひとつ行儀よくテーブルの上へピラミッドの形に積み上がりました。しかも残らずこちらへ移ってしまったと思うと、すぐに最初に来たのから動き出して、もとの書棚へ順々に飛び返って行くじゃありませんか。  が、中でも一番面白かったのは、うすい仮綴じの書物が一冊、やはり翼のように表紙を開いて、ふわりと空へ上がりましたが、しばらくテーブルの上で輪を描いてから、急にページをざわつかせると、逆落としに私の膝へさっと下りて来たことです。どうしたのかと思って手にとって見ると、これは私が一週間ばかり前にミスラ君へ貸した覚えがある、フランスの新しい小説でした。 「ながなが本をありがとう。」  ミスラ君はまだ微笑を含んだ声で、こう私に礼を言いました。もちろんその時はもう多くの書物が、みんなテーブルの上から書棚の中へ舞い戻ってしまっていたのです。
私もしまいには、すっかり度胸がすわってしまって、だんだん早くなる何の運動を、眼も離さず眺めていましたか。
私もしまいには、すっかり度胸がすわってしまって、だんだん早くなるランプの運動を、眼も離さず眺めていました。
JCRRAG_011160
国語
その頃の風穂の野原は、ほんとうに立派でした。  青い萱や光る茨やけむりのような穂を出す草で一杯、それにあちこちには栗の木やハンノキの小さな林もありました。  野原は今は練兵場や粟の畑や苗畑などになってそれでも騎兵の馬が光ったり、白いシャツの人が働いたり、汽車で通ってもなかなか奇麗ですけれども、前はまだまだ立派でした。  九月になると私どもは毎日野原に出掛けました。そして私は藤原慶次郎といっしょに出て行きました。町の方の子供らが出て来るのは日曜日に限っていましたから私どもはどんな日でも初蕈や栗をたくさんとりました。ずいぶん遠くまでも行ったのですが日曜には一層遠くまで出掛けました。  ところが、九月の末のある日曜でしたが、朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかけたら、一本の白い立札がみちばたの栗の木の前に出ていました。私どもはもう尋常五年生でしたからすらすら読みました。 「本日は東北長官一行の出遊につきこれより中には入るべからず。東北庁」 と書かれていました。  私はがっかりしてしまいました。慶次郎も顔を赤くして何回も読み直していました。 「困ったねえ、えらい人が来るんだよ。叱られるといけないからもう帰ろうか。」私がいいましたら慶次郎は少し怒って答えました。 「かまうもんか、入ろう、入ろう。ここは天皇の場所でそんな警部や何かの場所じゃないんだい。ずっと奥へ行こうよ。」  私も突然面白くなりました。 「おい、東北長官というものを見たいな。どんな顔だろう。」 「ひげもめがねもあるのさ。この間来た大臣だってそうだ。」 「どこかにかくれて見てようか。」 「見てよう。寺林のとこはどうだい。」  寺林というのは今は練兵場の北のはじになっていますが野原の中でいちばん奇麗な所でした。ハンノキの林がぐるっと輪になっていて中にはみじかいやわらかな草がいちめん生えてまるで一つの公園地のようでした。  私どもはそのハンノキの中にかくれていようと思ったのです。 「そうしよう。早く行かないと見つかるぜ。」 「さあ走ってこう。」  私どもはそこでまるで一目散にその野原の一本道を走りました。あんまり苦しくて息がつけなくなるととまって空を向いてあるきまたうしろを見てはかけ出し、走って走ってとうとう寺林についたのです。そこで道からはなれてハンノキの中にかくれました。けれども虫がしんしん鳴き時々鳥が百匹も一かたまりになってざあと通るばかり、一向に人も来ないようでしたからだんだん私たちは恐くなくなってハンノキの下の萱をがさがさわけて初茸をさがしはじめました。いつものようにたくさん見つかりましたから私はいつしか長官のことも忘れてしきりにとっておりました。  すると突然慶次郎が私のところにやって来てしがみつきました。まるで私の耳のそばでそっといったのです。 「来たよ、来たよ。とうとう来たよ。そらね。」  私は萱の間からすかすようにして私どもの来た方を見ました。むこうから二人の役人が大急ぎで道をやって来るのです。どういうわけか道から外れて私どもの林へやって来るらしいのです。さあ、私どもはもう息もつまるように思いました。ずんずん近づいて来たのです。 「この林だろう。たしかにこれだな。」  一人の顔の赤い体格のいい紺の詰えりを着た方の役人がいいました。 「うん、そうだ。間違いないよ。」もう一人の黒い服の役人が答えました。さあ、もう私たちはきっと殺されるにちがいないと思いました。まさかこんな林には気も付かずに通り過ぎるだろうと思っていたら二人の役人がどこかで番をして見ていたのです。万が一殺されないにしてももう縛られると私どもは覚悟しました。慶次郎の顔を見たらやっぱりまっ青で唇まで乾いて白くなっていました。私は役人に縛られたとき取ったきのこを持たせられて町を歩きたくないと考えました。そこでそっと慶次郎にいいました。 「縛られるよ。きっと縛られる。きのこをすてよう。きのこをさ。」  慶次郎はなんにもいわないでだまってきのこをすてました。私も籠のひもからそっと手をはなしました。ところが二人の役人はべつに私どもをつかまえに来たのでもないようでした。
私どもが毎日野原に出掛けたのは何月ですか。
私どもが毎日野原に出掛けたのは九月です。
JCRRAG_011161
国語
その頃の風穂の野原は、ほんとうに立派でした。  青い萱や光る茨やけむりのような穂を出す草で一杯、それにあちこちには栗の木やハンノキの小さな林もありました。  野原は今は練兵場や粟の畑や苗畑などになってそれでも騎兵の馬が光ったり、白いシャツの人が働いたり、汽車で通ってもなかなか奇麗ですけれども、前はまだまだ立派でした。  九月になると私どもは毎日野原に出掛けました。そして私は藤原慶次郎といっしょに出て行きました。町の方の子供らが出て来るのは日曜日に限っていましたから私どもはどんな日でも初蕈や栗をたくさんとりました。ずいぶん遠くまでも行ったのですが日曜には一層遠くまで出掛けました。  ところが、九月の末のある日曜でしたが、朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかけたら、一本の白い立札がみちばたの栗の木の前に出ていました。私どもはもう尋常五年生でしたからすらすら読みました。 「本日は東北長官一行の出遊につきこれより中には入るべからず。東北庁」 と書かれていました。  私はがっかりしてしまいました。慶次郎も顔を赤くして何回も読み直していました。 「困ったねえ、えらい人が来るんだよ。叱られるといけないからもう帰ろうか。」私がいいましたら慶次郎は少し怒って答えました。 「かまうもんか、入ろう、入ろう。ここは天皇の場所でそんな警部や何かの場所じゃないんだい。ずっと奥へ行こうよ。」  私も突然面白くなりました。 「おい、東北長官というものを見たいな。どんな顔だろう。」 「ひげもめがねもあるのさ。この間来た大臣だってそうだ。」 「どこかにかくれて見てようか。」 「見てよう。寺林のとこはどうだい。」  寺林というのは今は練兵場の北のはじになっていますが野原の中でいちばん奇麗な所でした。ハンノキの林がぐるっと輪になっていて中にはみじかいやわらかな草がいちめん生えてまるで一つの公園地のようでした。  私どもはそのハンノキの中にかくれていようと思ったのです。 「そうしよう。早く行かないと見つかるぜ。」 「さあ走ってこう。」  私どもはそこでまるで一目散にその野原の一本道を走りました。あんまり苦しくて息がつけなくなるととまって空を向いてあるきまたうしろを見てはかけ出し、走って走ってとうとう寺林についたのです。そこで道からはなれてハンノキの中にかくれました。けれども虫がしんしん鳴き時々鳥が百匹も一かたまりになってざあと通るばかり、一向に人も来ないようでしたからだんだん私たちは恐くなくなってハンノキの下の萱をがさがさわけて初茸をさがしはじめました。いつものようにたくさん見つかりましたから私はいつしか長官のことも忘れてしきりにとっておりました。  すると突然慶次郎が私のところにやって来てしがみつきました。まるで私の耳のそばでそっといったのです。 「来たよ、来たよ。とうとう来たよ。そらね。」  私は萱の間からすかすようにして私どもの来た方を見ました。むこうから二人の役人が大急ぎで道をやって来るのです。どういうわけか道から外れて私どもの林へやって来るらしいのです。さあ、私どもはもう息もつまるように思いました。ずんずん近づいて来たのです。 「この林だろう。たしかにこれだな。」  一人の顔の赤い体格のいい紺の詰えりを着た方の役人がいいました。 「うん、そうだ。間違いないよ。」もう一人の黒い服の役人が答えました。さあ、もう私たちはきっと殺されるにちがいないと思いました。まさかこんな林には気も付かずに通り過ぎるだろうと思っていたら二人の役人がどこかで番をして見ていたのです。万が一殺されないにしてももう縛られると私どもは覚悟しました。慶次郎の顔を見たらやっぱりまっ青で唇まで乾いて白くなっていました。私は役人に縛られたとき取ったきのこを持たせられて町を歩きたくないと考えました。そこでそっと慶次郎にいいました。 「縛られるよ。きっと縛られる。きのこをすてよう。きのこをさ。」  慶次郎はなんにもいわないでだまってきのこをすてました。私も籠のひもからそっと手をはなしました。ところが二人の役人はべつに私どもをつかまえに来たのでもないようでした。
朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかけたら、何がみちばたの栗の木の前に出ていましたか。
朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかけたら、一本の白い立札がみちばたの栗の木の前に出ていました。
JCRRAG_011162
国語
【天狗】室生犀星  城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓いたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白い脛に紅い血を走らせた。それはかまいたちに違いないと人々は言っていたが、そのかまいたちという名のことで、赤星重右のことが、どういう屋敷でも、口の上にのぼった。  城下の北はずれの台所町に、いつごろから流れ込んだものか、赤星重右という、名もない剣客が住んでいた。ふしぎなことには、かれが通り合せると、必ず彼の不機嫌なときには、きまって向脛を切られた。というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときはもう額ぎわを切られていた。――それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。大桶口、犀川口を固めている月番詰所の小役人達も、かれが通るとなるべく、彼を怒らせまいとしていた。それほど、女子供はいうまでもなく、中家老、年寄を初め、いったい彼が何故にあれほど剣道に達しているかということを不思議がった。が、誰一人として小脛を払うものさえ、広い城下にはいなかった。  それ故、かまいたちという、薄暗がりの樹の上にかがんでいる鼠のような影が、いかにも赤星重右に似ていたから、人々は、鎌いたちとさえいえば、なりの低い、重右の姿を思い出した。――晩方、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれはいつものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。かまいたちその物が、ひょっとしたら赤星重右ではあるまいかと、人々は、蒼白い晩方の店さきや詰所などで、噂し合って気味わるく感じた。が、べつに赤星重右は不思議な人物ではない。なりのちいさい、骨格の秀でた、どこか陰気な煤皺の寄ったような顔をしていた。  城内では、得体のわからない赤星に盾つく剣客がいなかったので、かれをどうかして他の藩に追い遣るか、召抱えるかしなければならなかった。が、召抱えるということは、性の分らないこの剣客には、家老達も不賛成をした。何かの理由のもとで、どこかへ封じてしまったらという発議が、城内役人の間に起っていた。というのは、どう考えても、彼自身が何かしらつきものがあるような、よく町裏の小暗いところを歩いていたりしている様子が、どこか普通の人間離れしたところをあらわしていた。ことに、高塀や樹の上へよじ上ることが、ほとんど目にとまらないくらいはやかった、たとえば、彼の右の手のかかった土塀では、その手が塀庇さしにつかまると同時に、もう、塀を越えてしまっていたからである。――そういう噂がつたわるほど、大手さき御門から西町や、長町の六番丁までの椎の繁った下屋敷では、かまいたちが夕刻ばかりではなく、明るい白昼の道路にも、ふいに、通行人の脛か腰のあたりをかすめた、と、話すひとびとは必らずそのあたりの通りに、うす汚ない重右の姿を見ないものはなかった。では、この赤星は内弟子でも取っていたかというと、そういうものは一切とらなかった。どうして食っているかさえ分らなかった。台所町の彼の住居は、六畳の仲間部屋しかなかった。昼も晩も寝通しでいる事があるかと思うと夜中にふいに出て行くことがあった。  地震の珍らしいこの城下では、よく赤星が樹の上にのぼり、樹をゆすぶっていたというものさえ居た。そして地震の来るのを恐がりながら、緑葉の間から叫んでいた、と。  ともあれ、城内では、赤星重右を西方の、大乗寺山の奥峰にあたる、黒壁という山頂の小さい社を中心にして九万歩の地所をあたえるという名義で、この赤星を封じることに決議された。なぜというに、この決議からして赤星を憑きもの扱いにしていて重右がそれを承諾するかどうかを試めしたのだった。ところが重右は却って喜んで、この黒壁の権現堂に上った。――が、それきり二年も三年も誰もかれの姿を見たものがなかった。雪の深いこの地方の冬をどうして越すだろうとさえいう者も居なかった。  年に二度あて、村役人はべつに黒壁へ行きもしないで、彼の無事であることを報告するだけで、役人自身も登山しようともしなかった。いつの間にか忘れるともなく、人々は赤星重右のことを口にしなかった。というのは、れいのかまいたちに脛を切られるものが、それと前後して居なくなったのであるから――、が、やはり重右の話が出ると、ひとびとは、憑きものより外に、どうという特別新しい考えを述べなかった。  黒壁権現は、断岩の上にあって、流れを徒歩でわたると、二条の鉄鎖が下りてあった。誰がいうとなく、権現には天狗が住んでいるというものが、次第にその数を殖やしてきた。雪の多い朝、雪を下ろしに屋根へ上った小者が、それきり吹雪のなかに行方知れずなったことや、いまのいままで居た老婆が、ふいに縁側からすべり落ちたように見えなくなったことさえあった。それと同時に、誰がいうとなく黒壁の権現にまいるものが多かった。えやみや足なえ憑きものの類が、ふしぎに願をかけると癒えるということだった。そして供物や供米を権現堂にそなえてゆくばかりでなく、人々は、荒廃した堂宇に、多くの天狗の額を奉納した。それは土人形のような天狗の面を形作った額面だった。が、ふしぎなことに、その額面に金網をかけたものに限って取下ろされてあったから、人々は天狗を、金網に封じることを恐れた。  が、ここに不思議なことは、権現堂で白鼠の姿を見たものは、きまって病気がなおるといわれていたことと、決ってその白鼠がちょろちょろと蝕んだ板の間を這い歩いていることだった。いつのころということもなく、白鼠が堂宇に充ちていたのである。  が、一つ不思議なことは、その人気のない堂宇に、れいの赤星重右がいつも供米や神酒に酔い痴しれて寝ころんでいた。が、滅多につとめて自分の姿をあらわすということがなかっただけ、人々は却って赤星重右を天狗か何かのように敬まっていたのである。なぜというに、かれは決してしゃべるようなことがなかったし、特に起きて働くということがなかった。かれは、ただ、暇さえあればしゃがんで唾を吐きながら居たのである。――ことにもっと不思議なことは、晩、登山したものが、この堂宇の裏から陰気な犬の遠吼えのようなうなりが絶え間なく漏れてくること、それが月夜の晩などには殊に酷くほえたけっているということが村人につたわっていた。実際堂宇である赤星重右がおかしなことには、月夜になると断岩や樹の下へしゃがんで、その蒼白い顔を空に向けて、まるで犬のように吼えているということが、しばしば村人の目にさえ留るようになっていた。それがために、権現の霊顕に対してこれを疑うものはなかった。  その年の秋に、赤星重右が断岩の陰ったところで、蠅のうずまきの中に、死体となっているのを村人は見つけた。お城下の蘭医派の菊坂長政は、それを一種の病毒不明の、しかしながら何等かの犬畜に犯されたらしい診断をしただけ、別に取り立てて噂するものがなかった。が、村人はこれを丁寧にその堂宇のかたわらに碑を立てた。それと前後していつの間にか神の使者であるべき白鼠の姿は次第に影をかくしてしまった。それ故、村人は赤星重右を一種の、何かふしぎな天狗の一種のような、決しておろそかにできないもののような考えを持ち、それを祠のなかに加えたのである。
城下の北はずれの台所町に住んでいた剣客は誰ですか。
城下の北はずれの台所町に住んでいた剣客は、赤星重右でした。
JCRRAG_011163
国語
【天狗】室生犀星  城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓いたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白い脛に紅い血を走らせた。それはかまいたちに違いないと人々は言っていたが、そのかまいたちという名のことで、赤星重右のことが、どういう屋敷でも、口の上にのぼった。  城下の北はずれの台所町に、いつごろから流れ込んだものか、赤星重右という、名もない剣客が住んでいた。ふしぎなことには、かれが通り合せると、必ず彼の不機嫌なときには、きまって向脛を切られた。というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときはもう額ぎわを切られていた。――それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。大桶口、犀川口を固めている月番詰所の小役人達も、かれが通るとなるべく、彼を怒らせまいとしていた。それほど、女子供はいうまでもなく、中家老、年寄を初め、いったい彼が何故にあれほど剣道に達しているかということを不思議がった。が、誰一人として小脛を払うものさえ、広い城下にはいなかった。  それ故、かまいたちという、薄暗がりの樹の上にかがんでいる鼠のような影が、いかにも赤星重右に似ていたから、人々は、鎌いたちとさえいえば、なりの低い、重右の姿を思い出した。――晩方、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれはいつものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。かまいたちその物が、ひょっとしたら赤星重右ではあるまいかと、人々は、蒼白い晩方の店さきや詰所などで、噂し合って気味わるく感じた。が、べつに赤星重右は不思議な人物ではない。なりのちいさい、骨格の秀でた、どこか陰気な煤皺の寄ったような顔をしていた。  城内では、得体のわからない赤星に盾つく剣客がいなかったので、かれをどうかして他の藩に追い遣るか、召抱えるかしなければならなかった。が、召抱えるということは、性の分らないこの剣客には、家老達も不賛成をした。何かの理由のもとで、どこかへ封じてしまったらという発議が、城内役人の間に起っていた。というのは、どう考えても、彼自身が何かしらつきものがあるような、よく町裏の小暗いところを歩いていたりしている様子が、どこか普通の人間離れしたところをあらわしていた。ことに、高塀や樹の上へよじ上ることが、ほとんど目にとまらないくらいはやかった、たとえば、彼の右の手のかかった土塀では、その手が塀庇さしにつかまると同時に、もう、塀を越えてしまっていたからである。――そういう噂がつたわるほど、大手さき御門から西町や、長町の六番丁までの椎の繁った下屋敷では、かまいたちが夕刻ばかりではなく、明るい白昼の道路にも、ふいに、通行人の脛か腰のあたりをかすめた、と、話すひとびとは必らずそのあたりの通りに、うす汚ない重右の姿を見ないものはなかった。では、この赤星は内弟子でも取っていたかというと、そういうものは一切とらなかった。どうして食っているかさえ分らなかった。台所町の彼の住居は、六畳の仲間部屋しかなかった。昼も晩も寝通しでいる事があるかと思うと夜中にふいに出て行くことがあった。  地震の珍らしいこの城下では、よく赤星が樹の上にのぼり、樹をゆすぶっていたというものさえ居た。そして地震の来るのを恐がりながら、緑葉の間から叫んでいた、と。  ともあれ、城内では、赤星重右を西方の、大乗寺山の奥峰にあたる、黒壁という山頂の小さい社を中心にして九万歩の地所をあたえるという名義で、この赤星を封じることに決議された。なぜというに、この決議からして赤星を憑きもの扱いにしていて重右がそれを承諾するかどうかを試めしたのだった。ところが重右は却って喜んで、この黒壁の権現堂に上った。――が、それきり二年も三年も誰もかれの姿を見たものがなかった。雪の深いこの地方の冬をどうして越すだろうとさえいう者も居なかった。  年に二度あて、村役人はべつに黒壁へ行きもしないで、彼の無事であることを報告するだけで、役人自身も登山しようともしなかった。いつの間にか忘れるともなく、人々は赤星重右のことを口にしなかった。というのは、れいのかまいたちに脛を切られるものが、それと前後して居なくなったのであるから――、が、やはり重右の話が出ると、ひとびとは、憑きものより外に、どうという特別新しい考えを述べなかった。  黒壁権現は、断岩の上にあって、流れを徒歩でわたると、二条の鉄鎖が下りてあった。誰がいうとなく、権現には天狗が住んでいるというものが、次第にその数を殖やしてきた。雪の多い朝、雪を下ろしに屋根へ上った小者が、それきり吹雪のなかに行方知れずなったことや、いまのいままで居た老婆が、ふいに縁側からすべり落ちたように見えなくなったことさえあった。それと同時に、誰がいうとなく黒壁の権現にまいるものが多かった。えやみや足なえ憑きものの類が、ふしぎに願をかけると癒えるということだった。そして供物や供米を権現堂にそなえてゆくばかりでなく、人々は、荒廃した堂宇に、多くの天狗の額を奉納した。それは土人形のような天狗の面を形作った額面だった。が、ふしぎなことに、その額面に金網をかけたものに限って取下ろされてあったから、人々は天狗を、金網に封じることを恐れた。  が、ここに不思議なことは、権現堂で白鼠の姿を見たものは、きまって病気がなおるといわれていたことと、決ってその白鼠がちょろちょろと蝕んだ板の間を這い歩いていることだった。いつのころということもなく、白鼠が堂宇に充ちていたのである。  が、一つ不思議なことは、その人気のない堂宇に、れいの赤星重右がいつも供米や神酒に酔い痴しれて寝ころんでいた。が、滅多につとめて自分の姿をあらわすということがなかっただけ、人々は却って赤星重右を天狗か何かのように敬まっていたのである。なぜというに、かれは決してしゃべるようなことがなかったし、特に起きて働くということがなかった。かれは、ただ、暇さえあればしゃがんで唾を吐きながら居たのである。――ことにもっと不思議なことは、晩、登山したものが、この堂宇の裏から陰気な犬の遠吼えのようなうなりが絶え間なく漏れてくること、それが月夜の晩などには殊に酷くほえたけっているということが村人につたわっていた。実際堂宇である赤星重右がおかしなことには、月夜になると断岩や樹の下へしゃがんで、その蒼白い顔を空に向けて、まるで犬のように吼えているということが、しばしば村人の目にさえ留るようになっていた。それがために、権現の霊顕に対してこれを疑うものはなかった。  その年の秋に、赤星重右が断岩の陰ったところで、蠅のうずまきの中に、死体となっているのを村人は見つけた。お城下の蘭医派の菊坂長政は、それを一種の病毒不明の、しかしながら何等かの犬畜に犯されたらしい診断をしただけ、別に取り立てて噂するものがなかった。が、村人はこれを丁寧にその堂宇のかたわらに碑を立てた。それと前後していつの間にか神の使者であるべき白鼠の姿は次第に影をかくしてしまった。それ故、村人は赤星重右を一種の、何かふしぎな天狗の一種のような、決しておろそかにできないもののような考えを持ち、それを祠のなかに加えたのである。
城内では、赤星重右をどのように封じると決議されましたか。
城内では、赤星重右を西方の、大乗寺山の奥峰にあたる、黒壁という山頂の小さい社を中心にして九万歩の地所をあたえるという名義で、赤星を封じることに決議されました。
JCRRAG_011164
国語
【天狗】室生犀星  城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓いたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白い脛に紅い血を走らせた。それはかまいたちに違いないと人々は言っていたが、そのかまいたちという名のことで、赤星重右のことが、どういう屋敷でも、口の上にのぼった。  城下の北はずれの台所町に、いつごろから流れ込んだものか、赤星重右という、名もない剣客が住んでいた。ふしぎなことには、かれが通り合せると、必ず彼の不機嫌なときには、きまって向脛を切られた。というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときはもう額ぎわを切られていた。――それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。大桶口、犀川口を固めている月番詰所の小役人達も、かれが通るとなるべく、彼を怒らせまいとしていた。それほど、女子供はいうまでもなく、中家老、年寄を初め、いったい彼が何故にあれほど剣道に達しているかということを不思議がった。が、誰一人として小脛を払うものさえ、広い城下にはいなかった。  それ故、かまいたちという、薄暗がりの樹の上にかがんでいる鼠のような影が、いかにも赤星重右に似ていたから、人々は、鎌いたちとさえいえば、なりの低い、重右の姿を思い出した。――晩方、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれはいつものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。かまいたちその物が、ひょっとしたら赤星重右ではあるまいかと、人々は、蒼白い晩方の店さきや詰所などで、噂し合って気味わるく感じた。が、べつに赤星重右は不思議な人物ではない。なりのちいさい、骨格の秀でた、どこか陰気な煤皺の寄ったような顔をしていた。  城内では、得体のわからない赤星に盾つく剣客がいなかったので、かれをどうかして他の藩に追い遣るか、召抱えるかしなければならなかった。が、召抱えるということは、性の分らないこの剣客には、家老達も不賛成をした。何かの理由のもとで、どこかへ封じてしまったらという発議が、城内役人の間に起っていた。というのは、どう考えても、彼自身が何かしらつきものがあるような、よく町裏の小暗いところを歩いていたりしている様子が、どこか普通の人間離れしたところをあらわしていた。ことに、高塀や樹の上へよじ上ることが、ほとんど目にとまらないくらいはやかった、たとえば、彼の右の手のかかった土塀では、その手が塀庇さしにつかまると同時に、もう、塀を越えてしまっていたからである。――そういう噂がつたわるほど、大手さき御門から西町や、長町の六番丁までの椎の繁った下屋敷では、かまいたちが夕刻ばかりではなく、明るい白昼の道路にも、ふいに、通行人の脛か腰のあたりをかすめた、と、話すひとびとは必らずそのあたりの通りに、うす汚ない重右の姿を見ないものはなかった。では、この赤星は内弟子でも取っていたかというと、そういうものは一切とらなかった。どうして食っているかさえ分らなかった。台所町の彼の住居は、六畳の仲間部屋しかなかった。昼も晩も寝通しでいる事があるかと思うと夜中にふいに出て行くことがあった。  地震の珍らしいこの城下では、よく赤星が樹の上にのぼり、樹をゆすぶっていたというものさえ居た。そして地震の来るのを恐がりながら、緑葉の間から叫んでいた、と。  ともあれ、城内では、赤星重右を西方の、大乗寺山の奥峰にあたる、黒壁という山頂の小さい社を中心にして九万歩の地所をあたえるという名義で、この赤星を封じることに決議された。なぜというに、この決議からして赤星を憑きもの扱いにしていて重右がそれを承諾するかどうかを試めしたのだった。ところが重右は却って喜んで、この黒壁の権現堂に上った。――が、それきり二年も三年も誰もかれの姿を見たものがなかった。雪の深いこの地方の冬をどうして越すだろうとさえいう者も居なかった。  年に二度あて、村役人はべつに黒壁へ行きもしないで、彼の無事であることを報告するだけで、役人自身も登山しようともしなかった。いつの間にか忘れるともなく、人々は赤星重右のことを口にしなかった。というのは、れいのかまいたちに脛を切られるものが、それと前後して居なくなったのであるから――、が、やはり重右の話が出ると、ひとびとは、憑きものより外に、どうという特別新しい考えを述べなかった。  黒壁権現は、断岩の上にあって、流れを徒歩でわたると、二条の鉄鎖が下りてあった。誰がいうとなく、権現には天狗が住んでいるというものが、次第にその数を殖やしてきた。雪の多い朝、雪を下ろしに屋根へ上った小者が、それきり吹雪のなかに行方知れずなったことや、いまのいままで居た老婆が、ふいに縁側からすべり落ちたように見えなくなったことさえあった。それと同時に、誰がいうとなく黒壁の権現にまいるものが多かった。えやみや足なえ憑きものの類が、ふしぎに願をかけると癒えるということだった。そして供物や供米を権現堂にそなえてゆくばかりでなく、人々は、荒廃した堂宇に、多くの天狗の額を奉納した。それは土人形のような天狗の面を形作った額面だった。が、ふしぎなことに、その額面に金網をかけたものに限って取下ろされてあったから、人々は天狗を、金網に封じることを恐れた。  が、ここに不思議なことは、権現堂で白鼠の姿を見たものは、きまって病気がなおるといわれていたことと、決ってその白鼠がちょろちょろと蝕んだ板の間を這い歩いていることだった。いつのころということもなく、白鼠が堂宇に充ちていたのである。  が、一つ不思議なことは、その人気のない堂宇に、れいの赤星重右がいつも供米や神酒に酔い痴しれて寝ころんでいた。が、滅多につとめて自分の姿をあらわすということがなかっただけ、人々は却って赤星重右を天狗か何かのように敬まっていたのである。なぜというに、かれは決してしゃべるようなことがなかったし、特に起きて働くということがなかった。かれは、ただ、暇さえあればしゃがんで唾を吐きながら居たのである。――ことにもっと不思議なことは、晩、登山したものが、この堂宇の裏から陰気な犬の遠吼えのようなうなりが絶え間なく漏れてくること、それが月夜の晩などには殊に酷くほえたけっているということが村人につたわっていた。実際堂宇である赤星重右がおかしなことには、月夜になると断岩や樹の下へしゃがんで、その蒼白い顔を空に向けて、まるで犬のように吼えているということが、しばしば村人の目にさえ留るようになっていた。それがために、権現の霊顕に対してこれを疑うものはなかった。  その年の秋に、赤星重右が断岩の陰ったところで、蠅のうずまきの中に、死体となっているのを村人は見つけた。お城下の蘭医派の菊坂長政は、それを一種の病毒不明の、しかしながら何等かの犬畜に犯されたらしい診断をしただけ、別に取り立てて噂するものがなかった。が、村人はこれを丁寧にその堂宇のかたわらに碑を立てた。それと前後していつの間にか神の使者であるべき白鼠の姿は次第に影をかくしてしまった。それ故、村人は赤星重右を一種の、何かふしぎな天狗の一種のような、決しておろそかにできないもののような考えを持ち、それを祠のなかに加えたのである。
荒廃した堂宇に、何を奉納しましたか。
荒廃した堂宇に多くの天狗の額を奉納しました。
JCRRAG_011165
国語
【天狗】室生犀星  城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓いたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白い脛に紅い血を走らせた。それはかまいたちに違いないと人々は言っていたが、そのかまいたちという名のことで、赤星重右のことが、どういう屋敷でも、口の上にのぼった。  城下の北はずれの台所町に、いつごろから流れ込んだものか、赤星重右という、名もない剣客が住んでいた。ふしぎなことには、かれが通り合せると、必ず彼の不機嫌なときには、きまって向脛を切られた。というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときはもう額ぎわを切られていた。――それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。大桶口、犀川口を固めている月番詰所の小役人達も、かれが通るとなるべく、彼を怒らせまいとしていた。それほど、女子供はいうまでもなく、中家老、年寄を初め、いったい彼が何故にあれほど剣道に達しているかということを不思議がった。が、誰一人として小脛を払うものさえ、広い城下にはいなかった。  それ故、かまいたちという、薄暗がりの樹の上にかがんでいる鼠のような影が、いかにも赤星重右に似ていたから、人々は、鎌いたちとさえいえば、なりの低い、重右の姿を思い出した。――晩方、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれはいつものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。かまいたちその物が、ひょっとしたら赤星重右ではあるまいかと、人々は、蒼白い晩方の店さきや詰所などで、噂し合って気味わるく感じた。が、べつに赤星重右は不思議な人物ではない。なりのちいさい、骨格の秀でた、どこか陰気な煤皺の寄ったような顔をしていた。  城内では、得体のわからない赤星に盾つく剣客がいなかったので、かれをどうかして他の藩に追い遣るか、召抱えるかしなければならなかった。が、召抱えるということは、性の分らないこの剣客には、家老達も不賛成をした。何かの理由のもとで、どこかへ封じてしまったらという発議が、城内役人の間に起っていた。というのは、どう考えても、彼自身が何かしらつきものがあるような、よく町裏の小暗いところを歩いていたりしている様子が、どこか普通の人間離れしたところをあらわしていた。ことに、高塀や樹の上へよじ上ることが、ほとんど目にとまらないくらいはやかった、たとえば、彼の右の手のかかった土塀では、その手が塀庇さしにつかまると同時に、もう、塀を越えてしまっていたからである。――そういう噂がつたわるほど、大手さき御門から西町や、長町の六番丁までの椎の繁った下屋敷では、かまいたちが夕刻ばかりではなく、明るい白昼の道路にも、ふいに、通行人の脛か腰のあたりをかすめた、と、話すひとびとは必らずそのあたりの通りに、うす汚ない重右の姿を見ないものはなかった。では、この赤星は内弟子でも取っていたかというと、そういうものは一切とらなかった。どうして食っているかさえ分らなかった。台所町の彼の住居は、六畳の仲間部屋しかなかった。昼も晩も寝通しでいる事があるかと思うと夜中にふいに出て行くことがあった。  地震の珍らしいこの城下では、よく赤星が樹の上にのぼり、樹をゆすぶっていたというものさえ居た。そして地震の来るのを恐がりながら、緑葉の間から叫んでいた、と。  ともあれ、城内では、赤星重右を西方の、大乗寺山の奥峰にあたる、黒壁という山頂の小さい社を中心にして九万歩の地所をあたえるという名義で、この赤星を封じることに決議された。なぜというに、この決議からして赤星を憑きもの扱いにしていて重右がそれを承諾するかどうかを試めしたのだった。ところが重右は却って喜んで、この黒壁の権現堂に上った。――が、それきり二年も三年も誰もかれの姿を見たものがなかった。雪の深いこの地方の冬をどうして越すだろうとさえいう者も居なかった。  年に二度あて、村役人はべつに黒壁へ行きもしないで、彼の無事であることを報告するだけで、役人自身も登山しようともしなかった。いつの間にか忘れるともなく、人々は赤星重右のことを口にしなかった。というのは、れいのかまいたちに脛を切られるものが、それと前後して居なくなったのであるから――、が、やはり重右の話が出ると、ひとびとは、憑きものより外に、どうという特別新しい考えを述べなかった。  黒壁権現は、断岩の上にあって、流れを徒歩でわたると、二条の鉄鎖が下りてあった。誰がいうとなく、権現には天狗が住んでいるというものが、次第にその数を殖やしてきた。雪の多い朝、雪を下ろしに屋根へ上った小者が、それきり吹雪のなかに行方知れずなったことや、いまのいままで居た老婆が、ふいに縁側からすべり落ちたように見えなくなったことさえあった。それと同時に、誰がいうとなく黒壁の権現にまいるものが多かった。えやみや足なえ憑きものの類が、ふしぎに願をかけると癒えるということだった。そして供物や供米を権現堂にそなえてゆくばかりでなく、人々は、荒廃した堂宇に、多くの天狗の額を奉納した。それは土人形のような天狗の面を形作った額面だった。が、ふしぎなことに、その額面に金網をかけたものに限って取下ろされてあったから、人々は天狗を、金網に封じることを恐れた。  が、ここに不思議なことは、権現堂で白鼠の姿を見たものは、きまって病気がなおるといわれていたことと、決ってその白鼠がちょろちょろと蝕んだ板の間を這い歩いていることだった。いつのころということもなく、白鼠が堂宇に充ちていたのである。  が、一つ不思議なことは、その人気のない堂宇に、れいの赤星重右がいつも供米や神酒に酔い痴しれて寝ころんでいた。が、滅多につとめて自分の姿をあらわすということがなかっただけ、人々は却って赤星重右を天狗か何かのように敬まっていたのである。なぜというに、かれは決してしゃべるようなことがなかったし、特に起きて働くということがなかった。かれは、ただ、暇さえあればしゃがんで唾を吐きながら居たのである。――ことにもっと不思議なことは、晩、登山したものが、この堂宇の裏から陰気な犬の遠吼えのようなうなりが絶え間なく漏れてくること、それが月夜の晩などには殊に酷くほえたけっているということが村人につたわっていた。実際堂宇である赤星重右がおかしなことには、月夜になると断岩や樹の下へしゃがんで、その蒼白い顔を空に向けて、まるで犬のように吼えているということが、しばしば村人の目にさえ留るようになっていた。それがために、権現の霊顕に対してこれを疑うものはなかった。  その年の秋に、赤星重右が断岩の陰ったところで、蠅のうずまきの中に、死体となっているのを村人は見つけた。お城下の蘭医派の菊坂長政は、それを一種の病毒不明の、しかしながら何等かの犬畜に犯されたらしい診断をしただけ、別に取り立てて噂するものがなかった。が、村人はこれを丁寧にその堂宇のかたわらに碑を立てた。それと前後していつの間にか神の使者であるべき白鼠の姿は次第に影をかくしてしまった。それ故、村人は赤星重右を一種の、何かふしぎな天狗の一種のような、決しておろそかにできないもののような考えを持ち、それを祠のなかに加えたのである。
菊坂長政は、何派でしたか。
菊坂長政は、蘭医派でした。
JCRRAG_011166
社内規定
労働条件の明示 労働契約を締結する際は、従業員に対し、就業の場所に関する事項等を明示することとなっており、就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、従業員に対して、就業の場所として、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。 また、従業員が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。 【労働基準法】 (労働条件の明示) 第15条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この  場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法に  より明示しなければならない。 就業規則とテレワーク勤務規程の関係 テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要となる場合は、テレワークに係る定めを就業規則本体に盛り込むのか、あるいは、新たに「テレワーク勤務規程」を作成することになりますが、どちらにするのかは、個々の会社の判断となります。 分りやすさという観点からは、テレワークに係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成した方が良いと思われます。  テレワーク勤務規程は、就労形態により「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」の3つの規程が考えられます。 〇在宅勤務 所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを 自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができます。 〇サテライトオフィス勤務 (施設利用型勤務)  所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。 例えば、所属するオフィス以外の他のオフィスが従業員の自宅の近くにある場合、そのオフィス内にテレワーク専用の作業スペースを設けることで、職住近接の環境を確保することができ、通勤時間も削減することができます。 また、遊休施設や空き家などを活用して行う遠隔勤務には、組織の活性化や地方創生など、多様な期待が寄せられています。  サテライトオフィスには、そのオフィススペースの契約形態によって専用型と共用型に分類することが一般的です。 ・専用型 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中である場合などに立ち寄って就業できるオフィススペースです。 ・共用型 複数の企業がシェアして利用するオフィススペースです。 〇モバイル勤務 移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方です。営業など頻繁に外出する業務の場合、様々な場所で効率的に業務を行うことにより、生産性向上の効果があります。モバイル勤務が広がれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、無駄な移動時間を削減することができます。 ※上記のほか、テレワーク等を活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができます。
新たにテレワーク勤務を導入する場合は既存の就業規則にテレワーク規則を入れる必要があるのか、もしくは新しくテレワーク就業規程を作る必要があるか。
どちらにするのかは、個々の会社の判断となります。
JCRRAG_011167
社内規定
労働条件の明示 労働契約を締結する際は、従業員に対し、就業の場所に関する事項等を明示することとなっており、就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、従業員に対して、就業の場所として、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。 また、従業員が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。 【労働基準法】 (労働条件の明示) 第15条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この  場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法に  より明示しなければならない。 就業規則とテレワーク勤務規程の関係 テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要となる場合は、テレワークに係る定めを就業規則本体に盛り込むのか、あるいは、新たに「テレワーク勤務規程」を作成することになりますが、どちらにするのかは、個々の会社の判断となります。 分りやすさという観点からは、テレワークに係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成した方が良いと思われます。  テレワーク勤務規程は、就労形態により「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」の3つの規程が考えられます。 〇在宅勤務 所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを 自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができます。 〇サテライトオフィス勤務 (施設利用型勤務)  所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。 例えば、所属するオフィス以外の他のオフィスが従業員の自宅の近くにある場合、そのオフィス内にテレワーク専用の作業スペースを設けることで、職住近接の環境を確保することができ、通勤時間も削減することができます。 また、遊休施設や空き家などを活用して行う遠隔勤務には、組織の活性化や地方創生など、多様な期待が寄せられています。  サテライトオフィスには、そのオフィススペースの契約形態によって専用型と共用型に分類することが一般的です。 ・専用型 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中である場合などに立ち寄って就業できるオフィススペースです。 ・共用型 複数の企業がシェアして利用するオフィススペースです。 〇モバイル勤務 移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方です。営業など頻繁に外出する業務の場合、様々な場所で効率的に業務を行うことにより、生産性向上の効果があります。モバイル勤務が広がれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、無駄な移動時間を削減することができます。 ※上記のほか、テレワーク等を活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができます。
テレワーク勤務の就業規則を作るなら自宅勤務用だけで良いか。
テレワーク勤務規程は、就労形態により「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」の3つの規程が考えられます。
JCRRAG_011168
社内規定
労働条件の明示 労働契約を締結する際は、従業員に対し、就業の場所に関する事項等を明示することとなっており、就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、従業員に対して、就業の場所として、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。 また、従業員が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。 【労働基準法】 (労働条件の明示) 第15条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この  場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法に  より明示しなければならない。 就業規則とテレワーク勤務規程の関係 テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要となる場合は、テレワークに係る定めを就業規則本体に盛り込むのか、あるいは、新たに「テレワーク勤務規程」を作成することになりますが、どちらにするのかは、個々の会社の判断となります。 分りやすさという観点からは、テレワークに係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成した方が良いと思われます。  テレワーク勤務規程は、就労形態により「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」の3つの規程が考えられます。 〇在宅勤務 所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを 自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができます。 〇サテライトオフィス勤務 (施設利用型勤務)  所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。 例えば、所属するオフィス以外の他のオフィスが従業員の自宅の近くにある場合、そのオフィス内にテレワーク専用の作業スペースを設けることで、職住近接の環境を確保することができ、通勤時間も削減することができます。 また、遊休施設や空き家などを活用して行う遠隔勤務には、組織の活性化や地方創生など、多様な期待が寄せられています。  サテライトオフィスには、そのオフィススペースの契約形態によって専用型と共用型に分類することが一般的です。 ・専用型 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中である場合などに立ち寄って就業できるオフィススペースです。 ・共用型 複数の企業がシェアして利用するオフィススペースです。 〇モバイル勤務 移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方です。営業など頻繁に外出する業務の場合、様々な場所で効率的に業務を行うことにより、生産性向上の効果があります。モバイル勤務が広がれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、無駄な移動時間を削減することができます。 ※上記のほか、テレワーク等を活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができます。
ワーケーションはテレワーク勤務に分類できるか。
「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができます。
JCRRAG_011169
社内規定
労働条件の明示 労働契約を締結する際は、従業員に対し、就業の場所に関する事項等を明示することとなっており、就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、従業員に対して、就業の場所として、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。 また、従業員が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。 【労働基準法】 (労働条件の明示) 第15条  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この  場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法に  より明示しなければならない。 就業規則とテレワーク勤務規程の関係 テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要となる場合は、テレワークに係る定めを就業規則本体に盛り込むのか、あるいは、新たに「テレワーク勤務規程」を作成することになりますが、どちらにするのかは、個々の会社の判断となります。 分りやすさという観点からは、テレワークに係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成した方が良いと思われます。  テレワーク勤務規程は、就労形態により「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」の3つの規程が考えられます。 〇在宅勤務 所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを 自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができます。 〇サテライトオフィス勤務 (施設利用型勤務)  所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。 例えば、所属するオフィス以外の他のオフィスが従業員の自宅の近くにある場合、そのオフィス内にテレワーク専用の作業スペースを設けることで、職住近接の環境を確保することができ、通勤時間も削減することができます。 また、遊休施設や空き家などを活用して行う遠隔勤務には、組織の活性化や地方創生など、多様な期待が寄せられています。  サテライトオフィスには、そのオフィススペースの契約形態によって専用型と共用型に分類することが一般的です。 ・専用型 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中である場合などに立ち寄って就業できるオフィススペースです。 ・共用型 複数の企業がシェアして利用するオフィススペースです。 〇モバイル勤務 移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方です。営業など頻繁に外出する業務の場合、様々な場所で効率的に業務を行うことにより、生産性向上の効果があります。モバイル勤務が広がれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、無駄な移動時間を削減することができます。 ※上記のほか、テレワーク等を活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができます。
サテライトオフィス勤務とはなんですか。
所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。
JCRRAG_011170
社内規定
就業規則に委任規定を設ける場合 第○条 この規則は、○○株式会社の従業員に適用する。 2 パートタイム従業員の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。 4 従業員のテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めるところによる。  第4項は、テレワーク勤務について別規程を設ける場合の委任規定例です。 テレワーク勤務の定義 テレワーク勤務規程(在宅勤務の定義) 第2条 在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社の認めた場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。 テレワーク勤務規程(サテライトオフィス勤務の定義) 第2条 サテライトオフィス勤務とは、会社所有の所属事業場以外の会社専用施設(以下「専用型オフィス」という。)、又は、会社が契約(指定)している他会社所有の共用施設(以下「共用型オフィス」という。)において情報通信機器を利用した業務をいう。 テレワーク勤務規程(モバイル勤務の定義) 第2条 モバイル勤務とは、在宅勤務及びサテライトオフィス勤務以外で、かつ、社外で情報通信機器を利用した業務をいう。 〈在宅勤務者の定義〉  在宅勤務者の定義としては、「自宅」のほかに、「その他自宅に準じる場所」を勤務場所としていますが、自宅に準じる場所とは、例えば、従業員が自宅以外の場所で親の介護などを行っている場合は、介護している親の家が考えられます。  なお、在宅勤務の場合は自宅における従業員の経費負担が生じることが考えられますから、テレワーク勤務の中でも、特に、ルールを定める必要性が高いといえます。
在宅勤務の定義を教えてください。
在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社の認めた場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。
JCRRAG_011171
社内規定
就業規則に委任規定を設ける場合 第○条 この規則は、○○株式会社の従業員に適用する。 2 パートタイム従業員の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。 4 従業員のテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めるところによる。  第4項は、テレワーク勤務について別規程を設ける場合の委任規定例です。 テレワーク勤務の定義 テレワーク勤務規程(在宅勤務の定義) 第2条 在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社の認めた場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。 テレワーク勤務規程(サテライトオフィス勤務の定義) 第2条 サテライトオフィス勤務とは、会社所有の所属事業場以外の会社専用施設(以下「専用型オフィス」という。)、又は、会社が契約(指定)している他会社所有の共用施設(以下「共用型オフィス」という。)において情報通信機器を利用した業務をいう。 テレワーク勤務規程(モバイル勤務の定義) 第2条 モバイル勤務とは、在宅勤務及びサテライトオフィス勤務以外で、かつ、社外で情報通信機器を利用した業務をいう。 〈在宅勤務者の定義〉  在宅勤務者の定義としては、「自宅」のほかに、「その他自宅に準じる場所」を勤務場所としていますが、自宅に準じる場所とは、例えば、従業員が自宅以外の場所で親の介護などを行っている場合は、介護している親の家が考えられます。  なお、在宅勤務の場合は自宅における従業員の経費負担が生じることが考えられますから、テレワーク勤務の中でも、特に、ルールを定める必要性が高いといえます。
親の介護先でテレワーク勤務している場合も自宅勤務になるか。
在宅勤務者の定義としては、「自宅」のほかに、「その他自宅に準じる場所」を勤務場所としていますが、自宅に準じる場所とは、例えば、従業員が自宅以外の場所で親の介護などを行っている場合は、介護している親の家が考えられます。
JCRRAG_011172
社内規定
テレワーク勤務の対象者は、規定において明確化することが望ましいです。 なお、テレワークは労働者が私的な生活空間を就労場所として提供する側面があるため、実際にテレワークを実施するに当たっては、従業員本人の納得の上で、実施を図る必要があります。  また、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76 号)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60 年法律第88 号)に基づき、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないこととされています。  テレワークの対象者を選定するに当たって、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することはこれらの法律に違反する可能性があります。 3-1 全員を対象とする規定例 テレワーク勤務規程(在宅勤務の対象者) 第3条 在宅勤務の対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。  (1)在宅勤務を希望する者  (2)自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者 2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。 3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。 4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ実施を届け出ること。 (解説) (1)規定例では在宅勤務の対象者を全従業員としていますが、在宅勤務を適切に導入・実施するに当たっては、本人の意思も尊重することが重要ですので、第1項第1号において、本人の希望を要件としています。ただし、災害等の特段の事情が認められる場合に、会社から在宅勤務を指示することも考えられます。また、適正な執務環境の確保も重要ですので、第1項第2号において、自宅の執務環境及びセキュリティ環境の確保を要件としています。   なお、派遣社員を受け入れている企業については派遣社員向けの規程を作成することも考えられます。 (2)第2項は、事前の許可の期限と誰の許可が必要かを記載したものです。「1週間前」という期間は、あくまでも例示であって、「前日」、「2週間前」、「1か月前」などと会社の実情によって、期間を定めることができます。また、誰が許可を行うかについても、所属長でなく、会社の実情によって、許可を行う者を定めることができます。 (3)第4項では、第2項により在宅勤務の許可を受けた者が、実際に在宅勤務を行う際には、事前に所属長へ届け出ることとしています。規定例の「前日」についても会社の実情によって期間を定めることができますが、その期間を必要以上に長く設定することは在宅勤務の実施を妨げる要因にもなりかねませんので、注意が必要です。   また、申請の方法については特に言及していませんが、「電子メール」、「実施申請書」などを加えることも考えられます。
正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いでテレワーク勤務を決めても良いか。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76 号)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60 年法律第88 号)に基づき、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないこととされています。テレワークの対象者を選定するに当たって、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することはこれらの法律に違反する可能性があります。
JCRRAG_011173
社内規定
テレワーク勤務の対象者は、規定において明確化することが望ましいです。 なお、テレワークは労働者が私的な生活空間を就労場所として提供する側面があるため、実際にテレワークを実施するに当たっては、従業員本人の納得の上で、実施を図る必要があります。  また、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76 号)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60 年法律第88 号)に基づき、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないこととされています。  テレワークの対象者を選定するに当たって、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することはこれらの法律に違反する可能性があります。 3-1 全員を対象とする規定例 テレワーク勤務規程(在宅勤務の対象者) 第3条 在宅勤務の対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。  (1)在宅勤務を希望する者  (2)自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者 2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。 3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。 4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ実施を届け出ること。 (解説) (1)規定例では在宅勤務の対象者を全従業員としていますが、在宅勤務を適切に導入・実施するに当たっては、本人の意思も尊重することが重要ですので、第1項第1号において、本人の希望を要件としています。ただし、災害等の特段の事情が認められる場合に、会社から在宅勤務を指示することも考えられます。また、適正な執務環境の確保も重要ですので、第1項第2号において、自宅の執務環境及びセキュリティ環境の確保を要件としています。   なお、派遣社員を受け入れている企業については派遣社員向けの規程を作成することも考えられます。 (2)第2項は、事前の許可の期限と誰の許可が必要かを記載したものです。「1週間前」という期間は、あくまでも例示であって、「前日」、「2週間前」、「1か月前」などと会社の実情によって、期間を定めることができます。また、誰が許可を行うかについても、所属長でなく、会社の実情によって、許可を行う者を定めることができます。 (3)第4項では、第2項により在宅勤務の許可を受けた者が、実際に在宅勤務を行う際には、事前に所属長へ届け出ることとしています。規定例の「前日」についても会社の実情によって期間を定めることができますが、その期間を必要以上に長く設定することは在宅勤務の実施を妨げる要因にもなりかねませんので、注意が必要です。   また、申請の方法については特に言及していませんが、「電子メール」、「実施申請書」などを加えることも考えられます。
従業員が納得しなくてもテレワーク勤務をさせても良いか。
テレワークは労働者が私的な生活空間を就労場所として提供する側面があるため、実際にテレワークを実施するに当たっては、従業員本人の納得の上で、実施を図る必要があります。
JCRRAG_011174
社内規定
対象者に制限を設ける規定例 テレワーク勤務規程(在宅勤務の対象者) 第3条 在宅勤務の対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。  (1)在宅勤務を希望する者  (2)自宅での業務が円滑に遂行できると認められる者  (3)自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者 2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。 3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。 4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ実施を届け出ること 規定例の第1項第2号において、「対象者の自律性」を要件としています。  なお、会社の実情によって勤続年数を設定することもできますし、対象者の自律性には言及しないで勤続年数だけに限定することもできます。 3-3 育児、介護、傷病等に限定する規定例 テレワーク勤務規程(在宅勤務の対象者) 第3条 在宅勤務の対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。  (1)在宅勤務を希望する者  (2)育児、介護、従業員自身の傷病等により、出勤が困難と認められる者  (3)自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者 2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。 3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。 4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ実施を届け出ること。 5 会社は第1項第2号の事実を確認するための必要最小限の書類の提出を求めることがある。なお、傷病手当金の申請をしている者はその申請の写しを持って代えることができる。 (解説)  規定例の第1項第2号において、対象者をテレワーク導入目的が比較的明確である育児や介護を担う必要がある者などに限定しています。  最初から全従業員を対象とした在宅勤務の導入が難しいと考えている会社にとっては、その導入へのステップになります。
テレワーク勤務希望者の規程に勤続年数を設定することもできるか。
会社の実情によって勤続年数を設定することもできますし、対象者の自律性には言及しないで勤続年数だけに限定することもできます。
JCRRAG_011175
社内規定
職能資格制度とは 職能資格制度とは、職務を遂行する能力を基準に社員を評価し、給与算定の基礎となる等級を定める制度です。ただし、職務遂行力で個人を評価する一方で、経験に比例して等級が上がっていく側面もあり、勤続年数が多いほど高い職能があるとみなされます。したがって、等級が下がることは基本的にありません。 日本で誕生した人事評価制度で、職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度と3種類ある等級制度の中では、最も国内で普及したものといえます。戦後、年功序列や終身雇用制の考え方が広まっていった日本の企業と相性が良く、1970年代頃に定着していきました。 職務等級制度との違い 職能資格制度と似た制度に、職務等級制度があります。職能資格制度が社員の職務遂行力など「人」を基準にしているのに対し、職務等級制度は職務ごとの達成度など「仕事」を基準にしています。職務等級制度では、営業や接客など個別の職務ごとに仕事内容や難易度を明確に規定した「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が用意され、そこで定められた職務が達成できているか否かが判断されます。 職務等級制度は主に欧米で発展を遂げた人事評価制度で、成果主義ともいえる点が特徴です。職能資格制度と違い、年齢や勤続年数は評価に関係ありません。人種差別排除の観点からも、多くの民族が暮らす国ほど人から切り離して仕事の達成度のみ評価するこの制度を採用する傾向があります。 また、職務等級制度を導入することで社員の専門性が高められるため、スペシャリストの育成や生産性を向上させたい場合に有効だといえます。 両者の違いを表にまとめました。 〇職能資格制度 ・評価基準 人の職務遂行力 ・給与 今までに蓄積してきた職務遂行力が反映され、能力伸長の度合いで変動。勤続年数に応じて上がりやすく、基本的に降格はしない ・人材開発 幅広い知識に精通したゼネラリストの育成に向いている ・メリット 給与に影響を与えないため、柔軟な人事異動・職務変更が可能。また、社員にとって安心感がある ・留意点 年功序列の風土になりやすい 〇職務等級制度 ・評価基準 任された仕事の内容とそれらに対する成果 ・給与 現在担っている職務によって変動し、各等級の範囲内で評価に応じて増減 ・人材開発 スペシャリストの育成に向いている ・メリット 職務内容が明確。また、給与と職務内容が連動しており、わかりやすく公正な成果主義 ・留意点 給与に影響を与える可能性が大きいため、組織が硬直化する可能性がある。他の職務と連携が生まれにくい
職能資格制度とは何ですか。
職能資格制度とは、職務を遂行する能力を基準に社員を評価し、給与算定の基礎となる等級を定める制度です。ただし、職務遂行力で個人を評価する一方で、経験に比例して等級が上がっていく側面もあり、勤続年数が多いほど高い職能があるとみなされます。
JCRRAG_011176
社内規定
1 就業規則の意義 労働者が安心して働ける明るい職場を作ることは、事業規模や業種を問わず、すべての事業場にとって重要なことです。そのためには、あらかじめ就業規則で労働時間や賃金をはじめ、人事・服務規律など、労働者の労働条件や待遇の基準をはっきりと定め、労使間でトラブルが生じないようにしておくことが大切です。 2 就業規則の内容 就業規則に記載する事項には、必ず記載しなければならない事項(以下「絶対的必要記載事項」といいます。)と、各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項(以下「相対的必要記載事項」といいます。)があります(労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」といいます。)第89条)。このほか、使用者において任意に記載し得る事項もあります。 絶対的必要記載事項は次のとおりです。 (1) 労働時間関係 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 (2) 賃金関係 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 (3) 退職関係 退職に関する事項(解雇の事由を含みます。)
就業規則はなぜ必要ですか。
労働者が安心して働ける明るい職場を作ることは、事業規模や業種を問わず、すべての事業場にとって重要なことです。そのためには、あらかじめ就業規則で労働時間や賃金をはじめ、人事・服務規律など、労働者の労働条件や待遇の基準をはっきりと定め、労使間でトラブルが生じないようにしておくことが大切です。
JCRRAG_011177
社内規定
1 就業規則の意義 労働者が安心して働ける明るい職場を作ることは、事業規模や業種を問わず、すべての事業場にとって重要なことです。そのためには、あらかじめ就業規則で労働時間や賃金をはじめ、人事・服務規律など、労働者の労働条件や待遇の基準をはっきりと定め、労使間でトラブルが生じないようにしておくことが大切です。 2 就業規則の内容 就業規則に記載する事項には、必ず記載しなければならない事項(以下「絶対的必要記載事項」といいます。)と、各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項(以下「相対的必要記載事項」といいます。)があります(労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」といいます。)第89条)。このほか、使用者において任意に記載し得る事項もあります。 絶対的必要記載事項は次のとおりです。 (1) 労働時間関係 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 (2) 賃金関係 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 (3) 退職関係 退職に関する事項(解雇の事由を含みます。)
絶対的必要記載事項における労働時間関係の事項は何ですか。
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
JCRRAG_011178
社内規定
相対的必要記載事項とは、就業規則において会社で独自に定めているもの(退職手当、賞与等の臨時の賃金、安全及び衛生等)があれば、記載しなければならないこととなっています。 相対的必要記載事項は次のとおりです。 (1) 退職手当関係 適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 (2) 臨時の賃金・最低賃金額関係 臨時の賃金等(退職手当を除きます。)及び最低賃金額に関する事項 (3) 費用負担関係 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項 (4) 安全衛生関係 安全及び衛生に関する事項 (5) 職業訓練関係 職業訓練に関する事項 (6) 災害補償・業務外の傷病扶助関係 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 (7) 表彰・制裁関係 表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項 (8) その他 事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項 なお、就業規則の内容は、法令及び当該事業場において適用される労働協約に反してはなりません。法令又は労働協約に反する就業規則については、所轄労働基準監督署長はその変更を命ずることができます(労基法第92条)。
相対的必要記載事項の記載は、法律上必要でしょうか。
相対的必要記載事項とは、就業規則において会社で独自に定めているもの(退職手当、賞与等の臨時の賃金、安全及び衛生等)があれば、記載しなければならないこととなっています。
JCRRAG_011179
社内規定
3 就業規則の作成及び変更の手続 労基法は、労働者を1人でも使用する事業場に適用されますが、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。 また、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。 例えば、1企業で2以上の営業所、店舗等を有している場合、企業全体の労働者の数を合計するのではなく、それぞれの営業所、店舗等を1つの事業場としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の事業場について就業規則を作成する義務が生じます。なお、複数の営業所、店舗等の事業場を有する企業については、営業所、店舗等の就業規則が変更前、変更後ともに本社の就業規則と同一の内容のものである場合に限り、本社所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して一括して届け出ることも可能です。 就業規則を作成し、又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記し、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付しなければなりません。 この場合の労働者の過半数を代表する者は、 ①労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと、 ②就業規則の作成及び変更の際に、使用者から意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施する投票、挙手等の方法によって選出された者であることのいずれにも該当する者でなければなりません。 就業規則の作成又は変更に当たっては、その内容をよく吟味するとともに上記の手続等を遵守しなければなりません。特に、就業規則を労働者にとって不利益に変更する場合には、労働者の代表の意見を十分に聴くとともに、変更の理由及び内容が合理的なものとなるよう慎重に検討することが必要です。
就業規則は企業単位で作成、届出をする必要がありますか。
就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。
JCRRAG_011180
社内規定
3 就業規則の作成及び変更の手続 労基法は、労働者を1人でも使用する事業場に適用されますが、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。 また、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。 例えば、1企業で2以上の営業所、店舗等を有している場合、企業全体の労働者の数を合計するのではなく、それぞれの営業所、店舗等を1つの事業場としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の事業場について就業規則を作成する義務が生じます。なお、複数の営業所、店舗等の事業場を有する企業については、営業所、店舗等の就業規則が変更前、変更後ともに本社の就業規則と同一の内容のものである場合に限り、本社所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して一括して届け出ることも可能です。 就業規則を作成し、又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記し、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付しなければなりません。 この場合の労働者の過半数を代表する者は、 ①労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと、 ②就業規則の作成及び変更の際に、使用者から意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施する投票、挙手等の方法によって選出された者であることのいずれにも該当する者でなければなりません。 就業規則の作成又は変更に当たっては、その内容をよく吟味するとともに上記の手続等を遵守しなければなりません。特に、就業規則を労働者にとって不利益に変更する場合には、労働者の代表の意見を十分に聴くとともに、変更の理由及び内容が合理的なものとなるよう慎重に検討することが必要です。
法律上、就業規則は企業全体の労働者の数が10人以上の場合に作成が必要でしょうか。
就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。
JCRRAG_011181
社内規定
3 就業規則の作成及び変更の手続 労基法は、労働者を1人でも使用する事業場に適用されますが、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。 また、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。 例えば、1企業で2以上の営業所、店舗等を有している場合、企業全体の労働者の数を合計するのではなく、それぞれの営業所、店舗等を1つの事業場としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の事業場について就業規則を作成する義務が生じます。なお、複数の営業所、店舗等の事業場を有する企業については、営業所、店舗等の就業規則が変更前、変更後ともに本社の就業規則と同一の内容のものである場合に限り、本社所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して一括して届け出ることも可能です。 就業規則を作成し、又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記し、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付しなければなりません。 この場合の労働者の過半数を代表する者は、 ①労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと、 ②就業規則の作成及び変更の際に、使用者から意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施する投票、挙手等の方法によって選出された者であることのいずれにも該当する者でなければなりません。 就業規則の作成又は変更に当たっては、その内容をよく吟味するとともに上記の手続等を遵守しなければなりません。特に、就業規則を労働者にとって不利益に変更する場合には、労働者の代表の意見を十分に聴くとともに、変更の理由及び内容が合理的なものとなるよう慎重に検討することが必要です。
就業規則を作成又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出は、就業規則だけ届け出ればよいのでしょうか。
就業規則を作成し、又は変更する場合の所轄労働基準監督署長への届出については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記し、その者の署名又は記名押印のある書面(意見書)を添付しなければなりません。
JCRRAG_011182
社内規定
作成した就業規則は、各労働者に配布したり、各職場に掲示したりするなどにより労働者に周知させなければなりません。(労働基準法第 106 条) ・ 周知の方法としては、労働者一人ひとりへの配付、労働者がいつでも見られるような職場の見やすい場所への掲示・備え付け、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすること、などが考えられます。 ・ 派遣労働者の場合、通常は派遣先の職場で働いており、派遣元事業者の事業所に立ち寄ることは少ないことから、できるだけ一人ひとりに配付するか、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすることが望まれます。 ・ 派遣労働者に就業規則を周知し内容への理解を促すため、特に重要な事項について抜粋版を作り、本体と合わせて配付したり、さらには、登録時や派遣先での就業前に、派遣労働者と抜粋版等の読み合わせをすることが考えられます。 ・ 周知がなされていない就業規則には、効力が認められません。また、就業規則の変更を知らなかったことによるトラブルも少なくありません。就業規則を変更する場合も、それを周知させることが必要です。(関連条文:労働契約法 7 条) ・ 就業規則のなかには、労働条件に関わる規定や、服務規定・懲戒規定、育児・介護休業や短時間勤務の扱いなど、派遣労働者が登録する派遣元事業者を選択する観点から予め知っておいたほうがよいと思われる内容があります。派遣登録前に、就業規則を配付したり、内容を説明することは、トラブルの防止に役立つと思われます。 <派遣登録時や登録前に知ったほうがよいと思われる就業規則の項目> ・就業規則の遵守の必要性 ・賃金の締切日、支払い日、方法 ・賞与、退職金、定期昇給の有無 ・年次有給休暇の付与(日数) ・欠勤の扱い ・服務規定、懲戒規定 ・産前産後休暇、育児・介護休業、短時間勤務の取扱い /等 ・ 派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知していないために説明が曖昧になり、トラブルになるケースも少なくないことから、派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知しておくことも必要です。
就業規則は労働者に周知させる必要はありますか。
作成した就業規則は、各労働者に配布したり、各職場に掲示したりするなどにより労働者に周知させなければなりません。
JCRRAG_011183
社内規定
作成した就業規則は、各労働者に配布したり、各職場に掲示したりするなどにより労働者に周知させなければなりません。(労働基準法第 106 条) ・ 周知の方法としては、労働者一人ひとりへの配付、労働者がいつでも見られるような職場の見やすい場所への掲示・備え付け、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすること、などが考えられます。 ・ 派遣労働者の場合、通常は派遣先の職場で働いており、派遣元事業者の事業所に立ち寄ることは少ないことから、できるだけ一人ひとりに配付するか、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすることが望まれます。 ・ 派遣労働者に就業規則を周知し内容への理解を促すため、特に重要な事項について抜粋版を作り、本体と合わせて配付したり、さらには、登録時や派遣先での就業前に、派遣労働者と抜粋版等の読み合わせをすることが考えられます。 ・ 周知がなされていない就業規則には、効力が認められません。また、就業規則の変更を知らなかったことによるトラブルも少なくありません。就業規則を変更する場合も、それを周知させることが必要です。(関連条文:労働契約法 7 条) ・ 就業規則のなかには、労働条件に関わる規定や、服務規定・懲戒規定、育児・介護休業や短時間勤務の扱いなど、派遣労働者が登録する派遣元事業者を選択する観点から予め知っておいたほうがよいと思われる内容があります。派遣登録前に、就業規則を配付したり、内容を説明することは、トラブルの防止に役立つと思われます。 <派遣登録時や登録前に知ったほうがよいと思われる就業規則の項目> ・就業規則の遵守の必要性 ・賃金の締切日、支払い日、方法 ・賞与、退職金、定期昇給の有無 ・年次有給休暇の付与(日数) ・欠勤の扱い ・服務規定、懲戒規定 ・産前産後休暇、育児・介護休業、短時間勤務の取扱い /等 ・ 派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知していないために説明が曖昧になり、トラブルになるケースも少なくないことから、派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知しておくことも必要です。
周知がなされていない就業規則には、なにが認められませんか。
周知がなされていない就業規則には、効力が認められません。
JCRRAG_011184
社内規定
作成した就業規則は、各労働者に配布したり、各職場に掲示したりするなどにより労働者に周知させなければなりません。(労働基準法第 106 条) ・ 周知の方法としては、労働者一人ひとりへの配付、労働者がいつでも見られるような職場の見やすい場所への掲示・備え付け、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすること、などが考えられます。 ・ 派遣労働者の場合、通常は派遣先の職場で働いており、派遣元事業者の事業所に立ち寄ることは少ないことから、できるだけ一人ひとりに配付するか、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすることが望まれます。 ・ 派遣労働者に就業規則を周知し内容への理解を促すため、特に重要な事項について抜粋版を作り、本体と合わせて配付したり、さらには、登録時や派遣先での就業前に、派遣労働者と抜粋版等の読み合わせをすることが考えられます。 ・ 周知がなされていない就業規則には、効力が認められません。また、就業規則の変更を知らなかったことによるトラブルも少なくありません。就業規則を変更する場合も、それを周知させることが必要です。(関連条文:労働契約法 7 条) ・ 就業規則のなかには、労働条件に関わる規定や、服務規定・懲戒規定、育児・介護休業や短時間勤務の扱いなど、派遣労働者が登録する派遣元事業者を選択する観点から予め知っておいたほうがよいと思われる内容があります。派遣登録前に、就業規則を配付したり、内容を説明することは、トラブルの防止に役立つと思われます。 <派遣登録時や登録前に知ったほうがよいと思われる就業規則の項目> ・就業規則の遵守の必要性 ・賃金の締切日、支払い日、方法 ・賞与、退職金、定期昇給の有無 ・年次有給休暇の付与(日数) ・欠勤の扱い ・服務規定、懲戒規定 ・産前産後休暇、育児・介護休業、短時間勤務の取扱い /等 ・ 派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知していないために説明が曖昧になり、トラブルになるケースも少なくないことから、派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知しておくことも必要です。
派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知しておく必要はあるか。
派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知していないために説明が曖昧になり、トラブルになるケースも少なくないことから、派遣元事業者の担当者が就業規則を熟知しておくことも必要です。
JCRRAG_011185
社内規定
職能資格制度とは 職能資格制度とは、職務を遂行する能力を基準に社員を評価し、給与算定の基礎となる等級を定める制度です。ただし、職務遂行力で個人を評価する一方で、経験に比例して等級が上がっていく側面もあり、勤続年数が多いほど高い職能があるとみなされます。したがって、等級が下がることは基本的にありません。 日本で誕生した人事評価制度で、職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度と3種類ある等級制度の中では、最も国内で普及したものといえます。戦後、年功序列や終身雇用制の考え方が広まっていった日本の企業と相性が良く、1970年代頃に定着していきました。 職務等級制度との違い 職能資格制度と似た制度に、職務等級制度があります。職能資格制度が社員の職務遂行力など「人」を基準にしているのに対し、職務等級制度は職務ごとの達成度など「仕事」を基準にしています。職務等級制度では、営業や接客など個別の職務ごとに仕事内容や難易度を明確に規定した「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が用意され、そこで定められた職務が達成できているか否かが判断されます。 職務等級制度は主に欧米で発展を遂げた人事評価制度で、成果主義ともいえる点が特徴です。職能資格制度と違い、年齢や勤続年数は評価に関係ありません。人種差別排除の観点からも、多くの民族が暮らす国ほど人から切り離して仕事の達成度のみ評価するこの制度を採用する傾向があります。 また、職務等級制度を導入することで社員の専門性が高められるため、スペシャリストの育成や生産性を向上させたい場合に有効だといえます。 両者の違いを表にまとめました。 〇職能資格制度 ・評価基準 人の職務遂行力 ・給与 今までに蓄積してきた職務遂行力が反映され、能力伸長の度合いで変動。勤続年数に応じて上がりやすく、基本的に降格はしない ・人材開発 幅広い知識に精通したゼネラリストの育成に向いている ・メリット 給与に影響を与えないため、柔軟な人事異動・職務変更が可能。また、社員にとって安心感がある ・留意点 年功序列の風土になりやすい 〇職務等級制度 ・評価基準 任された仕事の内容とそれらに対する成果 ・給与 現在担っている職務によって変動し、各等級の範囲内で評価に応じて増減 ・人材開発 スペシャリストの育成に向いている ・メリット 職務内容が明確。また、給与と職務内容が連動しており、わかりやすく公正な成果主義 ・留意点 給与に影響を与える可能性が大きいため、組織が硬直化する可能性がある。他の職務と連携が生まれにくい
職務等級制度の特徴を教えてください。
職務等級制度は主に欧米で発展を遂げた人事評価制度で、成果主義ともいえる点が特徴です。職能資格制度と違い、年齢や勤続年数は評価に関係ありません。
JCRRAG_011186
社内規定
<就業規則の周知を工夫している事業者の例> ○就業規則の内容についての認知・理解の促進と確認 ・ 就業規則の中に、派遣労働者に対して就業規則を理解し遵守しなくてはならないことを明記している例があります。(例①) ・ 登録時や派遣先での就業前に、派遣労働者と就業規則やその抜粋の読み合わせを行い、内容を理解したことについて派遣労働者に署名を求めている例があります。 ・ 服務規定や懲戒規定の内容を理解し、遵守を誓約することを、登録要件としている例があります。 ○過半数代表の選出方法 ・ 派遣労働者に対し、E メールで候補者を知らせ、E メールで信任投票を行っている例があります。 ・ 派遣元事業者が設置運営し、派遣労働者にアクセス権を与えているウェブサイトやE メールを使って候補者を知らせ、E メールで信任投票を行っている例があります。 ○就業規則の周知の方法 ・ ウェブサイトで、就業規則を公開している派遣元事業者もあります。派遣労働者がいつでも就業規則を見られることに加え、その派遣元事業者への登録・就職を考えている人への情報提供にもなります。また、派遣先の指揮命令者や管理者が見ることで、派遣労働者の就業環境改善につながることが期待されます。 ・ 派遣元事業者が派遣労働者にアクセス権を与えているウェブサイトで、派遣労働者が就業規則を閲覧できるようにしている派遣元事業者もあります。 ・ 派遣労働者だけでなく、登録者全員に、就業規則を配付している派遣元事業者もあります。 就業規則の遵守 第1章 総則 (就業規則の遵守) 第○条 派遣スタッフは、本規則を採用の決まったときや必要なときに必ず読み、内容を熟知しなければならない。なお、本規則について疑問等のあるときは説明を求めなければならない。 2 派遣スタッフは本規則を遵守し、派遣先事業場(以下、「派遣先」という)及び、労働者との信頼関係とルールを大切にしなければならない。"
ウェブサイトで就業規則を公開しているとどういう効果が期待されますか。
ウェブサイトで、就業規則を公開している派遣元事業者もあります。派遣労働者がいつでも就業規則を見られることに加え、その派遣元事業者への登録・就職を考えている人への情報提供にもなります。また、派遣先の指揮命令者や管理者が見ることで、派遣労働者の就業環境改善につながることが期待されます。
JCRRAG_011187
社内規定
総則には、一般的に就業規則の作成の目的や適用範囲等を規定します。 第1条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、〇〇株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである。 2 この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。 【第1条 目的】 1 この就業規則規程例(以下「本規程例」といいます。)では、労働者の就業に関する事項を定めていますが、その前提にある法令上の基準は、労基法等関係法令に定められています。 2 本規程例に労働者の就業に関するすべての事項が定められているわけではありません。本規程例に定めがない事項については、労基法等関係法令の規定によることになります。 3 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となります。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準によることになります(労働契約法(平成19年法律第128号。以下「契約法」といいます。)第12条)。また、就業規則は法令又は事業場に適用される労働協約に反してはなりません(労基法第92条)。
総則には、一般的に何の作成の目的や適用範囲等を規定しますか。
総則には、一般的に就業規則の作成の目的や適用範囲等を規定します。
JCRRAG_011188
社内規定
(適用範囲) 第2条 この規則は、 〇〇株式会社の労働者に適用する。 2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。 【第2条 適用範囲】 1 就業規則は、すべての労働者について作成する必要があります。しかし、就業規則は、必ずしもすべての労働者について同一のものでなければならないわけではありません。 同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なるパートタイム労働者等については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めることができます。 パートタイム労働者等について、規程の一部を適用除外とする場合や全面的に適用除外とする場合には、就業規則本体にその旨明記し、パートタイム労働者等に適用される規定を設けたり、別の就業規則を作成しなければなりません。 2 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正により、2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されます。これらの法律では、賃金だけでなく、福利厚生、休暇などすべての待遇が対象とされています。パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、賃金等について取扱いに違いがある場合、パートタイム・有期雇用労働者から求められたときは、相違の内容及び理由について説明する必要があります。(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。
同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なる何については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めることができますか。
同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なるパートタイム労働者等については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めることができます。
JCRRAG_011189
社内規定
(適用範囲) 第2条 この規則は、 〇〇株式会社の労働者に適用する。 2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。 【第2条 適用範囲】 1 就業規則は、すべての労働者について作成する必要があります。しかし、就業規則は、必ずしもすべての労働者について同一のものでなければならないわけではありません。 同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なるパートタイム労働者等については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めることができます。 パートタイム労働者等について、規程の一部を適用除外とする場合や全面的に適用除外とする場合には、就業規則本体にその旨明記し、パートタイム労働者等に適用される規定を設けたり、別の就業規則を作成しなければなりません。 2 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正により、2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されます。これらの法律では、賃金だけでなく、福利厚生、休暇などすべての待遇が対象とされています。パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、賃金等について取扱いに違いがある場合、パートタイム・有期雇用労働者から求められたときは、相違の内容及び理由について説明する必要があります。(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。
パートタイム労働者への待遇差別はどの範囲までが禁止となっていますか。
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正により、2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されます。
JCRRAG_011190
社内規定
(適用範囲) 第2条 この規則は、 〇〇株式会社の労働者に適用する。 2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。 【第2条 適用範囲】 1 就業規則は、すべての労働者について作成する必要があります。しかし、就業規則は、必ずしもすべての労働者について同一のものでなければならないわけではありません。 同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なるパートタイム労働者等については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めることができます。 パートタイム労働者等について、規程の一部を適用除外とする場合や全面的に適用除外とする場合には、就業規則本体にその旨明記し、パートタイム労働者等に適用される規定を設けたり、別の就業規則を作成しなければなりません。 2 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正により、2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されます。これらの法律では、賃金だけでなく、福利厚生、休暇などすべての待遇が対象とされています。パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、賃金等について取扱いに違いがある場合、パートタイム・有期雇用労働者から求められたときは、相違の内容及び理由について説明する必要があります。(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。
パートタイム労働者への待遇差の違いがある理由をパートタイム労働者に言わないといけないのか。
パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、賃金等について取扱いに違いがある場合、パートタイム・有期雇用労働者から求められたときは、相違の内容及び理由について説明する必要があります。
JCRRAG_011191
社内規定
第2章 採用、異動等 採用、異動等については、一般的に採用に際しての手続に関する事項、試用期間、労働条件の明示、人事異動、休職に関すること等を定めます。 (採用手続) 第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。 【第4条 採用手続】 1 会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりません(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」といいます。)第5条)。 2 合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています(均等法第7条)。 (採用時の提出書類) 第5条 労働者として採用された者は、採用された日から〇週間以内に次の書類を提出しなければならない。 ① 住民票記載事項証明書 ② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。) ③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。) ④ その他会社が指定するもの 2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。 【第5条 採用時の提出書類】 会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です。また、提出させる書類については、その提出目的を労働者に説明し、明らかにしてください。 男女雇用機会均等法の概要 <禁止される差別の例> ●募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:営業職は男性、事務職は女性に限定して募集すること。 社員を採用する際、男性は正社員として、女性はパートとして採用すること。 ●一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:男性は外勤業務に、女性は内勤業務に従事させること。 派遣元事業主が、労働者派遣の対象を男女のいずれかのみとすること。 ●職種の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:職種の変更について、女性のみ婚姻を理由に対象から排除すること。 ●一定の役職への昇進に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性のみ、一定の年齢に達したことを理由に一定の役職までしか昇進できないものとすること。 ●福利厚生の措置の実施に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性についてのみ、婚姻を理由として、社宅の貸与の対象から排除すること。 ●雇用形態の変更について、男女で異なる取扱いをすること。 例えば:経営の合理化に当たり、女性のみ正社員からパートへの変更を強要すること。 ●退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先すること。 例えば:男性よりも優先して女性に対して退職の勧奨をすること。 間接差別について3つのケースが禁止されています。 間接差別とは、「性別以外の事由を要件に、一方の性の構成員に他の性の構成員と比較して相当程度の不利益を与えるものを、合理的理由なく講じること」をいいます。厚生労働省令で定める以下の3つのケースが、合理的な理由のない限り、間接差別として禁止されています。 ①労働者の募集または採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とすること。 ②労働者の募集・採用、昇進、職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする こと。 ③労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
労働者の年齢、現住所を確認するために戸籍謄本や住民表は提出させてもいいのか。
会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です。
JCRRAG_011192
社内規定
第2章 採用、異動等 採用、異動等については、一般的に採用に際しての手続に関する事項、試用期間、労働条件の明示、人事異動、休職に関すること等を定めます。 (採用手続) 第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。 【第4条 採用手続】 1 会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりません(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」といいます。)第5条)。 2 合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています(均等法第7条)。 (採用時の提出書類) 第5条 労働者として採用された者は、採用された日から〇週間以内に次の書類を提出しなければならない。 ① 住民票記載事項証明書 ② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。) ③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。) ④ その他会社が指定するもの 2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。 【第5条 採用時の提出書類】 会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です。また、提出させる書類については、その提出目的を労働者に説明し、明らかにしてください。 男女雇用機会均等法の概要 <禁止される差別の例> ●募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:営業職は男性、事務職は女性に限定して募集すること。 社員を採用する際、男性は正社員として、女性はパートとして採用すること。 ●一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:男性は外勤業務に、女性は内勤業務に従事させること。 派遣元事業主が、労働者派遣の対象を男女のいずれかのみとすること。 ●職種の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:職種の変更について、女性のみ婚姻を理由に対象から排除すること。 ●一定の役職への昇進に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性のみ、一定の年齢に達したことを理由に一定の役職までしか昇進できないものとすること。 ●福利厚生の措置の実施に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性についてのみ、婚姻を理由として、社宅の貸与の対象から排除すること。 ●雇用形態の変更について、男女で異なる取扱いをすること。 例えば:経営の合理化に当たり、女性のみ正社員からパートへの変更を強要すること。 ●退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先すること。 例えば:男性よりも優先して女性に対して退職の勧奨をすること。 間接差別について3つのケースが禁止されています。 間接差別とは、「性別以外の事由を要件に、一方の性の構成員に他の性の構成員と比較して相当程度の不利益を与えるものを、合理的理由なく講じること」をいいます。厚生労働省令で定める以下の3つのケースが、合理的な理由のない限り、間接差別として禁止されています。 ①労働者の募集または採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とすること。 ②労働者の募集・採用、昇進、職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする こと。 ③労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
間接差別とはなんですか。
間接差別とは、「性別以外の事由を要件に、一方の性の構成員に他の性の構成員と比較して相当程度の不利益を与えるものを、合理的理由なく講じること」をいいます。
JCRRAG_011193
社内規定
第2章 採用、異動等 採用、異動等については、一般的に採用に際しての手続に関する事項、試用期間、労働条件の明示、人事異動、休職に関すること等を定めます。 (採用手続) 第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。 【第4条 採用手続】 1 会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりません(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」といいます。)第5条)。 2 合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています(均等法第7条)。 (採用時の提出書類) 第5条 労働者として採用された者は、採用された日から〇週間以内に次の書類を提出しなければならない。 ① 住民票記載事項証明書 ② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。) ③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。) ④ その他会社が指定するもの 2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。 【第5条 採用時の提出書類】 会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です。また、提出させる書類については、その提出目的を労働者に説明し、明らかにしてください。 男女雇用機会均等法の概要 <禁止される差別の例> ●募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:営業職は男性、事務職は女性に限定して募集すること。 社員を採用する際、男性は正社員として、女性はパートとして採用すること。 ●一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:男性は外勤業務に、女性は内勤業務に従事させること。 派遣元事業主が、労働者派遣の対象を男女のいずれかのみとすること。 ●職種の変更に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。 例えば:職種の変更について、女性のみ婚姻を理由に対象から排除すること。 ●一定の役職への昇進に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性のみ、一定の年齢に達したことを理由に一定の役職までしか昇進できないものとすること。 ●福利厚生の措置の実施に当たって、その条件を男女で異なるものとすること。 例えば:女性についてのみ、婚姻を理由として、社宅の貸与の対象から排除すること。 ●雇用形態の変更について、男女で異なる取扱いをすること。 例えば:経営の合理化に当たり、女性のみ正社員からパートへの変更を強要すること。 ●退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先すること。 例えば:男性よりも優先して女性に対して退職の勧奨をすること。 間接差別について3つのケースが禁止されています。 間接差別とは、「性別以外の事由を要件に、一方の性の構成員に他の性の構成員と比較して相当程度の不利益を与えるものを、合理的理由なく講じること」をいいます。厚生労働省令で定める以下の3つのケースが、合理的な理由のない限り、間接差別として禁止されています。 ①労働者の募集または採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とすること。 ②労働者の募集・採用、昇進、職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする こと。 ③労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
理由なく労働者の募集や採用において身長・体重・体力を要件にしてもいいのか。
合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています。
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社内規定
(試用期間) 第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から〇か月間を試用期間とする。 2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。 3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。 4 試用期間は、勤続年数に通算する。 【第6条 試用期間】 1 試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。 2 試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります。 (労働条件の明示) 第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。 【第7条 労働条件の明示】 1 労働者を雇い入れるに際し、労働者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要です。特に、労働条件を明示するに当たり、次の(1)から(6)までの項目(昇給に関する事項を除く)については、原則書面の交付により明示する必要があります。 (1) 労働契約の期間に関する事項 (2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約を更新する場合に限る) (3) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 (4) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制により就業させる場合における就業時転換に関する事項 (5) 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 (6) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
労働者をいつまでも試用期間として採用してもいいのか。
試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。
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社内規定
(試用期間) 第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から〇か月間を試用期間とする。 2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。 3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。 4 試用期間は、勤続年数に通算する。 【第6条 試用期間】 1 試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。 2 試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります。 (労働条件の明示) 第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。 【第7条 労働条件の明示】 1 労働者を雇い入れるに際し、労働者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要です。特に、労働条件を明示するに当たり、次の(1)から(6)までの項目(昇給に関する事項を除く)については、原則書面の交付により明示する必要があります。 (1) 労働契約の期間に関する事項 (2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約を更新する場合に限る) (3) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 (4) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制により就業させる場合における就業時転換に関する事項 (5) 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 (6) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
試用期間中に解雇した場合、手当を払うケースはあるか。
試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります。
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(試用期間) 第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から〇か月間を試用期間とする。 2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。 3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。 4 試用期間は、勤続年数に通算する。 【第6条 試用期間】 1 試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。 2 試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります。 (労働条件の明示) 第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。 【第7条 労働条件の明示】 1 労働者を雇い入れるに際し、労働者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要です。特に、労働条件を明示するに当たり、次の(1)から(6)までの項目(昇給に関する事項を除く)については、原則書面の交付により明示する必要があります。 (1) 労働契約の期間に関する事項 (2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約を更新する場合に限る) (3) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 (4) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制により就業させる場合における就業時転換に関する事項 (5) 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 (6) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
労働者に、書面を交付せず労働条件に関して労働契約の期間に関する事項だけを明示してもいいのか。
労働者を雇い入れるに際し、労働者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要です。
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社内規定
労働者が以下のいずれかの方法を希望した場合には、当該方法により労働条件の明示を行うことができます。 ・ ファクシミリを利用して送信する方法 ・ 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法 ※「電子メール等」には以下が含まれます。 ① E メール、Yahoo!メールや Gmail 等のウェブメールサービス ② +メッセージ等の RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス) ③ LINE や Facebook 等の SNS メッセージ機能 ただし、ブログやホームページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、当該第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないため、この方法により労働条件の明示を行うことはできません。 さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、雇入れに際して、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項)。 また、採用内定により労働契約が成立していると解される場合がありますが、この場合には、採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があります。
パートタイム・有期雇用労働者について、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければならないのは、何に際してですか。
パートタイム・有期雇用労働者について、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければならないのは、雇入れに際してです。
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労働者が以下のいずれかの方法を希望した場合には、当該方法により労働条件の明示を行うことができます。 ・ ファクシミリを利用して送信する方法 ・ 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法 ※「電子メール等」には以下が含まれます。 ① E メール、Yahoo!メールや Gmail 等のウェブメールサービス ② +メッセージ等の RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス) ③ LINE や Facebook 等の SNS メッセージ機能 ただし、ブログやホームページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、当該第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないため、この方法により労働条件の明示を行うことはできません。 さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、雇入れに際して、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項)。 また、採用内定により労働契約が成立していると解される場合がありますが、この場合には、採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があります。
採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があるのは、どのような場合ですか。
採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があるのは、採用内定により労働契約が成立していると解される場合です。
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労働者が以下のいずれかの方法を希望した場合には、当該方法により労働条件の明示を行うことができます。 ・ ファクシミリを利用して送信する方法 ・ 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法 ※「電子メール等」には以下が含まれます。 ① E メール、Yahoo!メールや Gmail 等のウェブメールサービス ② +メッセージ等の RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス) ③ LINE や Facebook 等の SNS メッセージ機能 ただし、ブログやホームページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、当該第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないため、この方法により労働条件の明示を行うことはできません。 さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、雇入れに際して、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項)。 また、採用内定により労働契約が成立していると解される場合がありますが、この場合には、採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があります。
労働条件の明示を行うことはできない例はあるのか。
ブログやホームページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、当該第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないため、この方法により労働条件の明示を行うことはできません。
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(人事異動) 第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。 2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。 3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。 【第8条 人事異動】 1 労働者を採用した後、会社が業務上の理由から就業場所や従事する業務を変更することは、変更がない旨の特別な合意等がない限り可能です。しかしながら、労働者の意に沿わない就業場所等の変更を命じた場合、トラブルが生じる可能性がありますので、就業規則に明記しておくことが望ましい。もちろん、労働者の同意を得るようにすることが大切であることは言うまでもありません。 なお、労働者の就業場所を変更しようとする場合には、労働者の育児や介護の状況に配慮しなければなりません。 2 また、他の会社へ出向させることが想定される場合、出向に関する規定を設けておく必要があります。 労働者の配置に関する配慮 (第26条) ○ 事業主は、労働者を転勤させようとする場合には、その育児又は介護の状況に配慮しなければなりません。 (1) 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴う転勤をさせようとする場合 において、当該労働者の育児や介護の状況に配慮し、労働者が育児や介護を行うことが困難とならないよう意を用いなければなりません。 (2) 配慮することの内容としては、例えば、 ① その労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること。 ② 労働者本人の意向を斟酌すること。 ③ 就業場所の変更を行う場合は、子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うこと。等が考えられます(指針第2の 15)が、これらはあくまでも配慮することの内容の例示であり、他にも様々な配慮が考えられます。 なお、転勤の配慮の対象となる労働者が養育する子には、小学生や中学生も含まれます。
採用した労働者の就業場所や従事する業務を変更するつもりだが就業規則に書かなくてもいいのか。
労働者を採用した後、会社が業務上の理由から就業場所や従事する業務を変更することは、変更がない旨の特別な合意等がない限り可能です。しかしながら、労働者の意に沿わない就業場所等の変更を命じた場合、トラブルが生じる可能性がありますので、就業規則に明記しておくことが望ましい。